G-SEED_ASTRAY01

Last-modified: 2007-11-10 (土) 19:50:34

「あんたの・・・。嫁さんになってやる!!」
 想像の範疇を大きく超えたその言葉に、カナードの思考は一瞬にして
混乱の渦の中に叩きこまれた。
「なんだそれは!?」
 数瞬の後、カナードの思考が渦の中から生還。同時に、裏返った絶叫が
コーカサスの 山々に響き渡った。
「だから、依頼を受けてくれるなら、お前の・・・」
 目の前の少女、コニール・アルメタが顔を赤らめて下を向いた。
 きりりとした眉と気の強そうな意思の宿る瞳が特徴的な少女だ。擦り
切れたような服を着て、髪は乱暴に引っくくっているが、よく見れば端
整な容貌をしてはいる。
 だがいかんせん、色仕掛けで迫るには少女は幼すぎたし、
「生憎と俺は、美乳でナース服の似合う大人な女が好みなんでな。他を
当たれ」
 カナードは、色仕掛けでなびく類の男ではなかった。
 いささか心中の混乱が出てしまった内容ではあったが、カナードは、
きっぱりと拒絶の意を示した。
「こ、これでも、この辺じゃ一番有望株だって言われてるんだ!」
「それは結構だな。最低でも156cm以上になってから来い。10秒ほ
ど考えて断ってやる」
 言い捨てて歩き去ろうとする、カナードの服をコニールが必死の形相
で掴む。カナードはため息をついた。
「何故俺に頼みに来る? 銭ゲバのグラサン野郎はともかく、あの酔狂
なジャンク屋の方が俺より見込みがありそうだろうが」
「だ、だって・・・・。あの二人、結構モテそうだし・・・」
 カナードの眉間に皺が寄った。
(それは俺がモテそうにないということか!? 俺だって女の一人や
二人・・・)
 だが、一人も二人もいないことを思い出し、カナードの頬にスッと汗
が流れた。その様子を見て、『やっぱり』という感情がコニールの瞳に
浮き上がる。
(このガキは・・・)
 カナードは、やにわに少女の 肩を乱暴に掴んだ。
「なっ・・・何を」
 思わず体を硬くするコニール。だがカナードは、コニールの耳元に
顔を近づけ、低く押し殺した声で
「何をビクついている? 嫁さんというものがどういうものか知って
いるだろう?」
 そう囁いた。
 コニールの体が、地面に押し倒したおされ、カナードの長髪がコニールの
顔に向かってなだれ落ち、その頬に触れた。驚愕と恐怖で凍りつくコニールの目に、
冷笑を浮かべたカナードの顔が大写しになる。
 カナードの手がコニールの胸元に伸びた。 その手が衣服に触れた瞬間、
コニールの体がビクリと震えた。だが、コニールはそれ以上抵抗しようとはせず、
目をつぶり、唇を噛ん だ。そのままコニールにとっては永遠とも思える沈黙が満ち――
「・・・理解できん。何故そこまでする?」
 目を開けたコニールの目に映ったのは、呆れと困惑が入り混じった表
情でため息をつくカナードの姿だった。
 そのままカナードは身を起こし、地面に胡坐をかき頬杖をついた。
 呆然としていたコニールは、急に震え出した自分の体を両手でかき抱く。
その様子を見て、カナードはきまり悪そうに長髪を意味も無くもてあそんだ。
「依頼内容話してみろ。一応聞くだけ聞いてやる」
「・・け、契約書に書いてあっただろ?」
 いささか震えてはいたが、コニールの口調には元の気丈さが戻りつつ
あった。少しほっとしつつも、その感情を表にはださず、カナードは冷たく
鼻を鳴らした。
「報酬は現金で支払わない。代わりに契約期間中の衣食の面倒を見る。
ただしMSの維持・管理費は別。こんな報酬で仕事を受ける馬鹿がいた
ら会ってみたいもんだな」
 はっきりいって舐めているとしか思えない条件である。契約書の報酬
の欄を見た瞬間に、仕事の内容など見る気が失せてしまった。
「さっさと話せ! 俺は気の長い方じゃない」
「・・・それはよ~く分かったさ。あんたが紳士と呼ばれる類の男じゃ
ないってことが」
 コニールが皮肉っぽく言い返すと、カナードは少したじろいだように
視線をそらした。その反応にコニールは少し目を丸くする。カナード
の態度が、悪戯が過ぎたことに気づいて悔やむ子供のようだったからだ。
「・・・ふん! 男に隙を見せると危ないという教訓になっただろう」
「大丈夫だ。舐めた真似する男のものなんて噛み千切ってやるから」
 思わず絶句したカナードを見て、今度はコニールの顔に言い過ぎたと
いうような感情がよぎった。
 だが、すぐにコニールは顔を引き締めると依頼の内容を話し始めた。