GUNDAM EXSEED_03

Last-modified: 2015-02-25 (水) 14:09:46

ハルドとリーザが一緒に歩いているのを見て、他の隊員もほっと胸をなでおろした。
ハルドがリーザを食堂に誘うと、ライナス、サマー、ギークのパイロット3人がたむろしていた。
せっかくなので、みんなで食事をしようと誘うと3人も同意した。
「いやー、よかったす。あんなことがあったのに二人が仲直りできて」
「バカ、蒸し返すんじゃないよ」
ギークが言うと直後にサマーがギークの頭を引っぱたいた。
「いやでも、日常に戻って良かったと自分も思いますよ」
そういうのはライナスだ。
実際、ハルドも一通り落ち着いて良かったと思っている。
すると、リーザは思案顔をして、ハルドを含めたパイロットたち4人を改めて見て、こう言った。
「みんなって付き合い長いの?」と

 

そこからはマスクド・ハウンドの昔話である。
「俺は3年ぐらい、ライナスとサマーはサマーが少し先だが、どっちも2年くらいで、ギークが1年ってところか」
そう言うと、がぜん興味が湧いた様子でリーザは尋ねた。
「他にはどんな人が居たの?」
そう言われてハルドも考え込んだ。実際いろんな奴らだった。良い奴もいればクソ野郎も多かった。話すのが憚られるやつもいる。
だがまぁ、良いかとも思い、ハルドは話しても良い奴らだけを話すことにした。気づいたら、ばぁ様も卓に付いている。
「まぁ、とりあえずバレンシアかな」
最初に良い奴を思い出すことにした。
「オレンジ。特にバレンシアオレンジを好んでたからバレンシアって呼ばれてた。いいやつだったよ。
腕もここの3人より遥かに立った。国家に貢献するためって理由で、ハウンドに入隊するような奇特な奴でなぁ」
「その人はどうしたの?」
「良い奴過ぎて行方不明。戦場で、怪我した子どもがいるとかいって、MSから降りて助けに行って以降、行方不明だ」
リーザは何とも言えない表情を浮かべている。
「次はマッド。俺は戦闘狂だぜって触れ回っていたが、実際はヤク中でラリってなきゃMSにも乗れないビビりだった。結局、病院送り」
リーザの顔が曇りだす。
「次はクリスチャン。戦闘中、賛美歌を歌いだすうるさい奴だったよ。いい加減うるさすぎるって医者に見せたら、見事に精神を病んでて病院送り」
さらにリーザの表情が曇る。
「サマーが入って来たのはそのあとだったか?」
「ああ、アタシとミニッツってやつが」
ああ、とハルドは思い出した表情を浮かべる。
「1分で撃墜されて死んだからミニッツって名前がついた奴がいたな。ライナスはその後か」
脇からばぁ様が言う。
「ハルドか頭になって、なんとか落ち着いてきた時期だね」
「そういや、そうか」
表情が曇っていたリーザだったが話しを帰るように明るい声で口を挟む。
「そういえば、ベンジャミン艦長はどれくらいなの」
「俺の直後だから3年くらいかな」
ハルドが言う。
「じゃあ、前の艦長さんってどんな人だったの」
ぶっちゃけクソ野郎なので話題に出したくなかったハルドは、こう言うことにした。
「良くは知らないけど事故で死んだ」
実際は東南アジアでの極秘任務中、勝手に抜け出して売春宿に入り浸り、
幼女に危険なプレイを強要したら嫌がられ突き飛ばされ、その拍子に頭を打って死んだ奴だ。

 
 

「じゃ、じゃあブリッジの人は?」
「カトーとリックが同時に1年とちょっと前」
「前の人は」
「フランスで駆け落ちして行方不明」
ハルドがそう言うとリーザの表情が明るくなった。
「ロマンチックでいいね」
実際のところ艦の金に手を出さなければそうだったろう。ハルドが始末して金を回収。二人は今も仲良くセーヌ川に沈んでいる。
「そう言えば、フォックスってやついたじゃないですか、気づいたら行方不明になってた」
ライナスも思い出して言う。
「さぁなぁ、俺も知らんよ」
ハルドはそう言ったが、実際にはハルドが始末した。
狡猾な奴でパイロットの癖に戦闘に参加してるふりだけしていた奴。他の奴が命をかけているのにと思うと怒りを抑えきれず殺して、海に死体を放り出していた。
「1番印象的だった人って誰かいる?」
リーザが聞いてくるとハルドは考える間もなく名前を挙げた・
「ボンバーってやつ」
その名前をあげると、ライナスもサマーもうんうんと頷く。
「ギークが入る直前の奴だ。すごかったぜ。色々と」
「そうだったねぇ」
ばぁ様も頷きだす。
「まず、アフロ。で、受けたのがヘルメットに頭がはいらねえの。」
「必ず出撃が遅れるんですよね。髪をヘルメットにいれるのに手間取って」
「爆発物のエキスパートだからボンバーって呼んでくれって言ってましたけど。みんな頭が理由でボンバーと呼んでましたね」
最後はどうなったのとリーザが聞くと
「基地と一緒に「「「ボンバー!!」」」と叫んで大爆死」
ボンバーはハルド、ライナス、サマー3人声を合わせていった。
「いろんな人がいたんだねぇ」
感慨深げにいった。
実際のところはクソ野郎が多すぎた。ハルドが始末する必要があった隊員も相当数いた。
それを経て今の安定したマスクド・ハウンドがあるのだ。
「まぁリーザも今は仲間の一員だ。なるべく変な伝説を残してくれよ」
あとはなるべく死ぬような結末が起きないで欲しいと思いながらハルドは言ったのだった。

 

ベルゲミールの出港準備は既に整っていた。後はドックから出て、海へと旅立つだけである。
ブリッジでは一応、ハルドも待機していた。最後にオオハラ中将から何かあるかもしれないかと思ったからだ。しかし、それは無く、最後に挨拶となったのはテヅカ少尉と少尉の乗るグラディアルである。
ブリッジのモニターにテヅカ少尉の顔が出る。
「出港までお見送りしますよ」
爽やかな笑顔で言う。現状ではハルドしか知らないが、中将に調教されている半強化人間の癖にとは思うが、自分も同じようなものなので若干だがテヅカ少尉に対しては、ハルド同情の気持ちはあった。
ふと、モニターの中の少尉が、そう言えばという表情を浮かべて切り出した。
「そちらにグレン少尉はいますか」
「いるよー」
同じ階級なので(正確にはハルドが上だが)軽い調子で答えると、モニターのテヅカ少尉は申し訳ない表情を浮かべた。
「少尉が拘束した虎(フー)という男なのですが、こちらの不手際で逃走を許してしまいました。申し訳ありません」
そりゃあ、逃げるだろ、あの化け物なら。おおかた拘束具を外した瞬間に一撃でのされたのだろう。銃弾を避けるような化け物だ。何をやっても不思議ではない。

 
 

「それはまぁ、お気の毒」
ハルドは形ばかりそう言った。
別にどうでもいいことだ。これから自分たちは太平洋横断だ。
楽しいかは知らんが海の旅。虎は海を泳がないものだし、二度と会うことはないだろう。
だから別にいいのだ。虎のことなど。
「もういいだろう。ハルド」
ベンジャミンが言い、対してハルドは頷く。
「それでは――ベルゲミール、発進」
機関が唸りをあげ、巨体がホバーで浮き、前進を始める。
「平和な旅になるといいが」
艦を先導するテヅカ少尉のグラディアルを見ながらベンジャミン艦長は言う。
対してハルドは、
「毎度、基地を出る度にそのセリフを聞くが、一度も平和な旅をしたことねぇな、俺は」
「ああ、私も一度も経験したことがない」
おそらく、今回もそうだろうとベンジャミン艦長は思うのだった。

 

[クライン公国 航空母艦グラン・バルトフェルド]

 

「ああ、騎士道。ナイトの道。華麗なる世界」
狂人が通路を歩いていた。名前はイオニス・レーレ・ヴィリアス
その後ろには特徴の無い二人が付いていた。
男の方はエルスバッハ。女の方はグリューネルト。双子のようにも見える。それは特徴が無さ過ぎて似すぎているという奇妙な現象によるものだった。
「ぼっちゃん」
「廊下は静かに」
狂人の後ろ二人が言う。
「ああ、すまない。我が華麗なる従騎士(スクワイア)。少し狂喜してしまっていたのだ」
狂人はその場で一回転し、叫ぶ。
「美しき任務!囚われの姫を悪漢から救い出す!」
そして、もう一回転。
「これぞ、騎士の本懐!」
上半身だけ半回転し、腰をねじりながら二人の付き人に熱い視線を送る狂人。
「その通りですね」
「ぼっちゃん」
付き人二人は静かに言う。そして狂人は拳を天に掲げ叫ぶ。
「待っていてください、美しき姫よ! 華麗なる聖騎士、イオニス・レーレ・ヴィリアスが、今、救いに向かいます!」
狂人を白い目で見る人影もあった。アッシュ小隊の面々である。不平を漏らすのはシーエル・ミスティだった。
「なんで私たちじゃなくて、あんな奴らが、あの任務を」
それをたしなめるのは、穏やかな顔をしたリチャード・アマルフィだ。
「いや、でもヴィリアス大尉の腕前は実際すごいよ。俺も模擬戦闘の相手をしてもらったことがあるけど、一瞬で負けちゃったしね」
「それは、あんたが弱いからでしょ!」
今度はリチャードに食ってかかるシーエル。その間に割って入るようにだが、ニコラスも話の輪に加わる。
「いや、実際相当なものだぞ。ヴィリアス大尉の腕は。近接戦闘に限って言えば、クライン騎士団でも五本の指に入るかもしれん」
ニコラスの言葉に隊長のアッシュ・クラインは驚きの表情を浮かべて言う。
「そこまでの腕なのか、ニコラス?」
「ええ、坊ちゃん。ですが大尉にはある悪癖が――」
ニコラスが次の言葉を言おうとした瞬間だった。狂人がアッシュに気づいたのだ。
「おお!おお!おおお!おおおお!」
狂人は神速の速さでアッシュに近づくと、アッシュを抱きしめた。

 
 

「友よ!」
アッシュは初対面だった。
狂人は感動にむせび泣いていた。
「悪漢の卑劣な手にかかったと聞いたが、無事だったか、友よ!私は貴公の身が心配で夜も眠れなかったぞ!」
「最近のぼっちゃんの睡眠時間は8時間でした」
「普段のぼっちゃんの睡眠時間は10時間です」
アッシュは戸惑いながら狂人を引きはがそうとするのだが、想像以上に力強く抱きしめられ振りほどけない。
「いや、分かっていた貴公ほどの騎士。そう、赤の騎士が手傷を、いや待て」
というと狂人は急にアッシュから離れ思案を始める。
訳が分からないアッシュは思わず尋ねる。
「赤の騎士ですか?」
尋ねると狂人はアッシュを指さし言うのだった。
「貴公のことではないか、クライン卿。赤い機体に乗る貴公こそ赤の騎士の名に相応しい!」
確かにイージス・パラディンは赤いが……とアッシュは思う。
「だがなクライン卿、私は思うのだ!むしろ緋の騎士ではないかと!」
色味的にはそうかもしれないが、とアッシュは思うがどうでもよかった。
「しかし、そこで私は悩むのだ!貴公に緋の騎士と名付けた時のこと!」
「はぁ……」
アッシュは生返事を返す。気づくと小隊の面々は消えていた。
「緋の騎士を使うとだな!次に私が烈火のような魂を持った騎士にあった時、火の騎士と呼べなくなってしまうのだ!」
狂人は悶絶していた。
「音が被るではないかっ!」
狂人はこの世の終わりのような表情を浮かべていた。
「ぼっちゃん」
「その場合、烈火の騎士と呼べば、音は被りません」
付き人二人が言う。
「それもそうだな」
狂人は急に冷静に戻った。
「引き留めて申し訳なかった、クライン卿。私はこれから、騎士の宿願を果たしにいかなければいかん。武運を祈っていてくれ、赤の騎士、そしてわが生涯の友よ」
初対面なのに友になってしまった。アッシュは呆然と思うのだった。
「さらばだ!」
そして狂人は去って行った。
残されたアッシュは1人つぶやいた。
「うん、凄い人だな」

 

[海上 ベルゲミール]

 

甲板上ではハルドとリーザが釣りをしていた。竿はじぃ様が昔に作成した強力なパワーアシスト付きの代物である。
ベルゲミールの甲板上から釣りをするとなると巨大な竿を、それを支える腕力が必要になるのだが、
じぃ様特性の竿のおかげで、肘まであるパワーアームを装備すれば釣りが楽しめるのだ。
そこまでしてしたいかというとハルドはしたくなかったがリーザがしたがった。
ぶっちゃけ、ハルドは釣れたところが見たことないし、釣れないという確信があるからだ。
「いやー、海は楽しいねぇ」
まぁリーザが楽しそうなので良いとするかと思うことにした。

 
 

「二人とも楽しそうでいいなぁ」
甲板上で警戒にあたっているのはギーク機である。彼は人生で女子と二人きりで遊んだことは一度もなかった。
横目で羨ましそうに二人を見ていた。
「僕も彼女とかなぁ……」
とぼやいた時だった。ギークの視界の端でハルドが急に立ち上がり、リーザを艦内に連れていく。
なんだ?と思った瞬間だった。
「我が槍で沈めぇい!」
叫び声と同時に槍が飛んできて、ギークの機体に槍が刺さった。
「うわぁぁぁぁぁ!死んだぁぁぁ!」
もう終わりだ。爆発して死ぬのだ。爆発すべき奴らは、この世にごまんといるのに。
「バカ野郎。どてっぱらだ。速く槍を抜け。そこだったら誘爆しねぇ!」
隊長の怒鳴る声がする。大丈夫かと思い、少し冷静になってみると、案外平気そうだった。
自分はついてると思い槍を引っこ抜き、捨てる。そして、自分に槍を刺したクソ野郎を確認する。
敵は空に浮いている騎士団のマーク付きのセクゥド、それも小隊長クラス専用機のゼクゥド・クルセイダ―だ。
両脇に1機ずつ、肩にでかい盾を装備したゼクゥド・パラディンもいる。合計で3機だ。
この野郎、復讐してやると思ったが、機体が立たない。というか立てない。じぃ様の声がする。
「脚部とコックピットの伝達系が物理的に切れてんだろう。おまえ死んだな、機体は有効活用してやるよ」
あ、ハウンド総員、死亡前提で自分を見ているとギークは確信した。
「いやだぁぁぁ!隊長、助けて!ライナス、姐さん」
叫んだ瞬間だった、実体弾のライフル弾が空の敵に向けて発射された。
「うるせぇな。見捨てやしねぇよ」
ハルド・グレンのストライクΔが格納庫のハッチから姿を現していた。
「隊長……」
ギークは泣きそうだった。
「ライナス、ギークの機体を格納庫に突っ込め。何、下半身がちぎれそう!?いっそ、ばらして突っ込め。パイロットはもういいや」
ギークは別の意味で泣きそうになった。
「3機でやるしかないか?」
じぃ様からは、戦闘中に修理できるレベルの損傷じゃないと連絡は入っている。
上空で待機している機体にハルドの機体はライフルを連射しているが反撃の様子は全く無かった。不可思議なことである。
上空の3機の動きはでかい盾持ちが、真ん中の機体を守るようにフォーメーションをとっている。
ハルドのライフルは真ん中の機体を狙っていたが、攻撃は全て盾持ちに防がれている。
リーザからは輝く人ではなく、強い自我を持つ人だとは聞かされている。
さっさと艦内に逃げ込めたのもリーザが気づいたおかげである。ギークには悪いが伝えている時間はなかった。
ハルドに遅れて、ライナス機とサマー機も戦闘に加わる。
「盾持ちが厄介そうですね」
「1人1機が理想だが、お前ら、やれるか?」
作戦を話し合っている間も上空の3機は動かない。
変だが嫌な予感のする敵だ。

 
 

「各機、散開!機動戦闘だ」
「「了解!」」
ライナス機とサマー機が左右に分かれて飛び立つ。2機とも空中戦の用意はしてある。
同時に敵も動き出す。左肩に盾を持ち、背中に大量の剣を持った機体はライナスに、右肩に盾を持ち、大量の槍を背中に背負った機体はサマーに向かい動き出す。
となると、自分の相手は真ん中かと思った瞬間だった。
全周波通信が響いた。
「貴様に決闘を申し込む!」
は?という感想がハルドの頭を埋め尽くした。
「どうした、受けて立つと言え!」
ああ、戦争のやりすぎでイカレた手合いか、沖縄以降イカレた手合いに良く会うぜ。と思い。ストライクΔのライフルを連射する。
ギークを助けるためマトモな装備を出来なかったため、空中戦は無理だ。なので甲板上からライフルを撃つ。
いつもは色々考えがあってビームライフルか実体弾のソリッドライフルを選ぶが、
それも出来なかった。とりあえずソリッドライフルを取って出撃したのだ。
敵のゼクゥド・クルセイダーは想像以上に素早く動き、こちらの狙いを外してくる。
「エースが乗ってんな、けど……」
ハルドはつぶやくと同時に敵の動きはおかしいことに気づく。回避はするが攻撃はしようとしてこないのだ。
「だから、貴様、決闘するのかせんのか、ハッキリせんか!」
通信では相変わらずイカレ野郎が叫んでる。無視だ無視。ハルドは射撃を続けた。
「ぬぁぁぁぁ!もう許さんぞぉ!」
イカレ野郎の機体が急に加速して、ベルゲミールに突っ込んでくる。
ヤバいと思いハルドは集中して狙うが、それでも回避する。相当の腕のパイロットだと確信した。
ストライクΔの攻撃を避け、ゼクゥド・クルセイダーはついに、ベルゲミールに辿り着く。
ゼクゥド・クルセイダーは甲板上に仁王立ちする。
最悪のミスだとハルドは思う。敵を艦にここまで接近させるとは。
俺らしくないと思いながらイカレ野郎に対する戦術を練りながら、ハルドは敵の次の動きを伺う。が、敵の動きはハルドの予想外だった。全周波に向けた通信で叫び声がこだまする。
「きっさまー!人が決闘すると言っておるのに、なぜに攻撃をするー!」
いや、そりゃするだろと思うのだが。
「いいか!1から説明するぞ。まず、私は騎士だ!いいな」
どうする撃つか?頭が可哀想な人間の話しを聞くべきか迷っていた。
「隊長、聞いてあげたほうが」
ライナスが口を挟んでくる。
「俺の相手なんですがね。全く攻撃してこないんですよね。代わりに接触通信で『お願いします』という懇願ばかりで」
「アタシの相手もそうですよ」
サマーもライナスに同調する。じゃあ、聞くべきなのか。
「そして貴様は卑劣な悪漢だ!いいな!」
いや、よくねぇよ。ハルドは射撃した。敵は盾で防いだ。
「やはり卑劣だな!まぁいい、続けるぞ!」
けっこうタフだな。ウゼェ。
「もういい、端的に行くぞ。正直、私も疲れてきた。多分、次に攻撃されたら当たる」
じゃあ、撃つか。ストライクΔは射撃した。
ゼクゥド・クルセイダーは盾で防いだ。
「わかった。私も上から目線だったのは認める。なので攻撃は止めてくれ。頼む」
しょうがねぇなぁ。ハルドは銃を下げることにした。
「よし、ありがとう。感謝する」
話しが長くなりそうな予感がしてきた。
「私は華麗なるイオニス・レーレ・ヴィリアス。この名を覚えておいてくれ。貴様のような卑劣な悪漢を倒す騎士の名だ」
はぁ……とハルドは思った。

 
 

「我が使命は、貴様ら悪漢どもの手から、麗しき淑女リーザ・アインを救い出すこと」
やっぱり、リーザ狙いの手合いかとハルドは思った。
「悪を滅するためには手段を選ばんということも重要。だが、貴様ら悪漢にも矜持や誇りがあるかもしれん。
騎士としては、それを受け止めなければならんのだ。故に決闘である!決闘で貴様の矜持を見せてみるがいい!」
うわぁ、めんどくせぇ……。ハルドは思う。
「ライナス。お前の位置からこのイカレ野郎を狙えるか?」
「無理です。盾持ちの動きが、そのイカレ野郎を守るのに特化されてて、こっちは何も出来ません」
「サマー機、同じく」
ということは一人でこのイカレを相手にしなければならないのか。
「いいよ、決闘受けるよ」
めんどうくさいが、そう言っても問題はないだろう。
「うむ、よくぞ言った。では、グリューネルト、槍」
右肩にシールドを付けた機体が背中に背負った槍をゼクゥド・クルセイダーに投げ渡す。
ああ、そういう役割なのかと槍を背負っている機体の意味をハルドは悟った
「では、参るぞ」
言った瞬間、ゼクゥド・クルセイダーが動き出す。異常な速さであり、回避の手段が無かったハルドは咄嗟にライフルを盾にする。
「うむ。銃を捨てるとは良い心意気だ。自慢をするが私は今まで戦場で銃を使ったことが無い。銃は騎士の武器ではないからだ。貴様のような奴にもこの心意気は伝わったようだな」
自分から捨てたわけじゃねぇんだけど。とハルドは思うが相手に理解できるとは思えなかった。
しかし、強い。今の動きもそうだが、MSの性能がどうとかというレベルじゃない。
世の中にはMSに性能の限界を超えた動きをさせる奴らがいる。そう言うのをエースというのだが、間違いなくこの相手はエースだった。
「じぃ様。剣をくれ。ソリッドブレードがいい。あと小さめの盾だ」
格納庫のハッチが開き、武器が放りだされる。出てきたのは片刃で反りの無い実体剣、大きさはそこまで大きくない。人間の武器で言えばロングソードといったところか。そして盾である。高性能な防御機能は期待できないサイズのコンパクトな盾だった。
「ほう、剣に盾か。いい趣味だな」
「趣味の良さには自信があってね」
ストライクΔが動き出し、同時にゼクゥド・クルセイダーも動く。
ベルゲミールの甲板上ではさながら中世の騎士同士の戦いが再現されようとしていた。

 

ゼクゥド・クルセイダーの武装はビームハルバードであった、先端が実体刃だが斧刃部分はビームという構成の武器である。それを右手で片手扱い、左手には中型から大型に類する盾を持っている。
対してハルドのストライクΔは実体刃の剣を右手に持ち、小型の盾を左手で扱っている。
双方の武装は悪い意味でかみ合っていた。ハルバードの一撃は小型の盾で逸らされる。
大型の盾で受け止めていたら重量で押し通すということができたが小型の盾で逸らされては、それができない。
対してストライクΔの実体剣では相手の盾を崩すほどの威力を出せない。剣撃を打ち込んでも盾で弾かれるだけだった。

 
 

「良い腕だ!」
ヴィリアスは言う。
お互いに刃を交わしたうえでの混じりけのない称賛であった。
「あんたもな!」
ハルドも言う。ここまで近接戦闘の上手いパイロットは久しぶりだった。
そして、ハルバードという長物をここまで上手く扱える相手にはあったことが無い。
「卑劣な悪漢といったのは詫びる!」
ハルバードの薙ぎ払いがストライクΔを襲う。
「気にすんな、騎士様よぉ!」
ストライクΔは屈んで避ける。機体の頭の上をハルバードが掠め、ストライクΔの角が折れる。
「貴公は勇者だ。戦ってわかった」
回避されることを想定済みで、ゼクゥドは盾で殴りつける。
だが、ストライクΔは後ろに回避するのではなく前に出て、相手に組み付くことで腕の可動域を制限し、攻撃できなくする。
「だが、この間合いでは何も出来まい!」
「いいや、出来るさ!」
ストライクΔは両腕の武器を捨て、腰からナイフを抜き、組み付きながら、ゼクゥドを何度も刺す。
「根が卑しいものでねぇ!」
ナイフで刺されながらも、機体を振り回し無理矢理にストライクΔを引きはがすゼクゥド。
再び間合いは離れた。
「ふふ、やはりMS戦は良い!」
ゼクゥド・クルセイダーがおもむろに盾とハルバードを捨てる。
「騎士の道。そして漢気の世界だ」
ゼクゥド・クルセイダーは腰に装備した対艦刀を抜き放つ。対艦刀はビームの刃を形成する芯に実体を持った重量武器だ。
「失われた美!人と人が極限に達しながら刃を交わす気高さ!一度は誰もが忘れ去った美!それが、ここに蘇った!」
対艦刀を両手にゼクゥド・クルセイダーが突っ込んでくる。対してストライクΔはナイフ1本。
ストライクΔが構えを取る。その型はハルドがナイフを使う時と同じものである。
「ふうぅぅぅぅぅ……」
ハルドは呼吸を整える。そして思考を冷静に変換する。
人間相手だったらどうするか。
相手の動きが良すぎたのが幸いした。ハルドにとって人間相手にとる戦法が取れるほど相手のMSの動きは良かった。
相手の体格は大柄でこちらよりも力が強い。武器は両手に角材か鉄パイプ。それを持って突進してくる相手と想定した。
ならば!ハルドは動きを決め、実行する。そして対応し、動くのはストライクΔだ。
突進、そして振り下ろされる刃。両方は防げないならば片方を止める。
ストライクΔの右手のナイフがゼクゥド・クルセイダーの左腕、その手首に突き刺さる。
これで、左腕は動かない。右側の脅威は取り除かれた。なので、ストライクΔは右側にずれる。しかし、左側の対艦刀を回避するほどの距離は取れなかった。ゼクゥドの右腕が持った対艦刀がストライクΔの左腕を切り裂く。
「取ったぞ!勇者よ!」
「いいや、まだ甘いね!」
ナイフを手放したストライクΔの右拳がゼクゥド・クルセイダーの頭に正拳突きとしてクリーンヒットする。
武器が無くともモビルスーツの拳はMSの頭を飛ばす威力があった。
吹っ飛んでいくゼクゥド・クルセイダーの頭。
そして、ストライクΔはバックステップで再び距離を取る。
それはゼクゥド・クルセイダーも同じだった。
「どうよ!」
「見事だ!」

 
 

ハルドは何だか、この敵が好きなってきていた。
とにかく真っ直ぐで美学がある奴を嫌いにはなれなかった。
「こっちは腕一本無しだ。そっちは?」
「ふむ、左手が動かんが鈍器としては使えるな。頭が無いのもまぁいいだろう」
何だか楽しくなってきたぞとハルドは思う。ガチの近接戦闘がこんなに燃えるものだとハルドは初めて知った。
「ハルドよ、盛り上がっているところ悪いが、早めに終わらせてくれ」
ベンジャミン艦長が急に口を挟んできた。
「甲板がボロボロになってきて、整備班が悲鳴を上げ、じぃ様が怒髪天だ」
そんなこと知ったことじゃないとハルドは思う。それよりも目の前を、どう倒すかだ。
「じぃ様!武器だ剣をなんか出してくれ!」
ハルドは叫ぶが何の反応もない。
「クソ整備士どもめ!」
甲板を少しズタズタにした程度で反乱かよ。とハルドは怒りを抱いた。
「武器が無いなら使うと良い」
意外な助けの手はあろうことか敵から来た。ヴィリアスのゼクゥド・クルセイダーは左腕の対艦刀をストライクΔに投げ渡す。
「良いのかよ?」
「手が動かん以上、無用の長物だ」
投げ渡された剣をストライクΔは残った片手で構える。
「後悔するぜ」
「後悔こそが人生よ!」
対艦刀を片手に突進するゼクゥド・クルセイダー
「月並みな言葉で!」
同様に対艦刀を片手に突進するストライクΔ。両者は同じ剣を片手に激突する。
「無理じゃ!関節の強度が違いすぎる!距離を取れ!」
じぃ様の叫び声が聞こえる。だが、ハルドは無視をして近接戦闘を維持する。何度も両者の剣がぶつかり合う。その度、様々な条件で押している方と押されている方が入れ替わる。
「これだ、これでいいのだ!」
「よくはねぇさ!」
両者はほぼ互角だっただが、決着の一瞬はやがて来る。
「うらぁぁぁぁ!」
ストライクΔが相手の剣を大きく弾いた。その瞬間だった。
ストライクΔは対艦刀を捨て、もう一本だけ残っていたナイフを引き抜いた。相手のゼクゥド・クルセイダーはまだ対艦刀を戻せていない。
そして、その隙を狙い、ストライクΔはゼクゥド・クルセイダーの胸元にナイフを突き刺し、そのまま縦に引裂いた。
「悪いな。あんたの剣を捨てて」
「いや、戦いである以上それも王道だ」
コックピットにはダメージを与えていないが、確実に動力部は破壊した。ゼクゥド・クルセイダーは完全に行動不能だ。
直後、2機のゼクゥド・パラディンがクルセイダーの救出に動く。
「隊長、どうしますか!」
ライナスが叫ぶ。
「いいよ、ほっとけ」
正直、決闘野郎の相手は楽しかったが、うんざりだった。2機のゼクゥド・パラディンは主の機体を抱えると、そのまま去って行った。
「なんだったんでしょう?」
サマーが言うが別に大したことではない。
「世の中には奇人変人が多いってこと」
ハルドはズタズタの甲板上で、そう締めくくった。

 
 

「しかし、今回は盛大にぶっ壊したな」
面倒なじぃ様の説教である。
「天下のハルド・グレン様が腕無しとはな」
腕をぶった切られたストライクΔを見て、じぃ様はニヤニヤしながら言いのける。
「まぁ、構わんがな」
そう言うと、じぃ様は言う。
「相手が良かったみたいだな。斬れ痕が綺麗だ。並の男にこの斬れ痕は出せんよ」
じぃ様は言う。
「貴様は気づいとらんかもしれんが、この戦いで得たものは確実にあるはずじゃ。それに気づくんじゃな」
言うとじぃ様はスパナを片手に歩き出す。
「敵は時に教師になることを忘れるんじゃないぞ。どんな些細なことでもだ」

 

[クライン公国 航空母艦グラン・バルトフェルド]

 

「謹慎ですか?この私が!」
狂人イオニス・レーレ・ヴィリアスは総団長室で叫んでいた。
「なぜ、なにゆえに!」
イオニスは総団長のビクトルに詰め寄っていた。
「いや、そのだな。貴官の戦い方に問題があるから少し反省をだな」
「バカな!私の華麗で誠実な戦いに問題など」
イオニスは叫ぶ。室内に響く声で。
「まぁ、決まったことだから。な?しばらく大人しくしていてくれ。期間はそうだな……」
ビクトル総団長は本当に面倒な様子で言った。
「1年かな……1年間大人しくしていなさい」
そうしてイオニス・レーレ・ヴィリアスは騎士団を去ったのだった。

 
 

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