翌日、ハルドは普通の調子だった。レビーやユイ・カトーは昨日の話しが後をひくような気がしていたが、そんなことは全くなかった、 そして意外なことにヒマとは無縁の一日にとなった。とは言っても、それはハルドとアッシュにレビーとマクバレルの技術者コンビくらいである。 姫とヴィクトリオは夜更かしをして寝坊をしたので、罰としてハルドが勉強をやらせていたし、セーレとミシィは二人が、ちゃんとやるか見張りについている。セインはミシィの機嫌を戻すことに必死であり、虎(フー)は鍛錬に出ている。 「とりあえず、MSをなんとかしよう」 アッシュの意見だった。4人しかいないが満場一致で賛成となった。だが、どこに運び込むかという問題がある。 「できれば、ある程度の機械設備が整っているところがいいんですけど」 レビーは控えめに言った。クランマイヤー王国の牧歌的な雰囲気からそんな場所はないと思ったのだろう。だが、あることにはある。使えるかどうかは分からないがとハルド達は思った。 とにもかくにも、レビーらの要望に応えられる施設なのかを確認し行かなければならないのだ。なので、ハルドらはクランマイヤー王国の工業コロニーへと向かった。 工業コロニーは相変わらずの様子で、工場ばかりであり、それらは休まず稼働している。この工業コロニーは川を挟んで半分に区画が分かれており、片方は日用品などを生産する工場で、もう片方は現在停止中だがMS製造工場である。 ハルドらはとりあえず、そのMS製造工場を借りて、そこに機体をしまっておこうと考えたのだった。 しかし、問題は工場の使用の許可が下りるかということである。姫曰く、工業コロニーに関しては大工場長という人物が管理しており、全てがその人物の胸先三寸らしいという話しである。 「最悪、無断で使いましょう」 レビーは平然と言うのだった。ハルドも別にそれでよくないかという感じだった。 アッシュからすると信じがたい奴らである。常識を人生のどこかで捨ててきたのだろうと思い、アッシュは自分がしっかりしなければいけないという思いが強くなってきた。 とにかく、その大工場長という人物を探さなければならない。ハルドらは工業コロニー管理棟という建物を見つけ、そこにいそうだと見当をつけた。 入って受付を済ませると、すぐに大工場長という人物との面会が可能となった。ハルドらが連れていかれたのは、質実剛健を絵にかいたような部屋であり、華美な調度品はなにもないコンクリートの壁の部屋だった。 「いいな、コンクリートは。こう、灰色と硬質さが私の心をくすぐるのだ」 マクバレルが訳の分からないことを言い始める。そういえば、この男も頭のおかしい人物の1人だったとアッシュは思い出す。 そして今のパーティーをマトモな順に挙げれば、自分、レビー、ハルド、マクバレルだとアッシュは思った。 そして、やはり自分がしっかりしなければならないと気持ちを強くするのだった。 #br #br アッシュは現在のパーティーに不安を覚えながら、とりあえず待つことにした。しかし、すぐに待ち人は来ない。次第にマクバレルがイライラしだし、貧乏ゆすりが激しくなってくる。 「それ、やめてくださいよっていつも言っているでしょう」 レビーがマクバレルの頭を見た感じ、思いっきり叩く。すると貧乏ゆすりは止まった。アッシュは不思議に思う。叩かれても文句を言わないのは何故なのだろうかと。 アッシュがそんな疑問を抱いた直後だった。部屋の扉が思いっきり開けられた。 「いやー、すまんな。こっちも忙しいもんでな」 そう言って、50代半ばを過ぎたぐらいの歳のがっしりとした体つきの男が入ってきた。 おそらく、この人物が大工場長だろう。アッシュは立って、挨拶をするが、他の面々は皆、座ったままだ。レビーは仕方ないとして、ハルドとマクバレルは、別にどうでもいいという表情をしている。こいつらは礼儀を知らないのかとアッシュは思う。 「まぁ、構わねぇよ。座ってくんな」 アッシュは好意に感謝する気持ちだった。大工場長は笑顔を浮かべている。どうやら、こちらの第一印象は悪くないぞとアッシュは思った。 「ガーンズ・ゴーバックだ。大工場長なんてよばれちゃいるが、実際は工員全員の監視役だ」 「アッシュ・クラインです。本日はお時間を頂きありがとうございます」 アッシュは形式ばった挨拶をしたが、不意に思う。なぜ自分がこんなことをしているのかと、よくよく考えればクランマイヤー王国に縁もゆかりもないし、そもそも誘拐された身ではないかと、今更ながら思い出した。 「あんまし、硬くなんなくてもいいよ、ニイちゃんよ。さっきも言ったが俺は只の監視役だよ」 言われて、アッシュは我に返る自分の現状を考えるのは後だ。とりあえずは、MSの製造工場を借りる件をまとめなくてはいけない。 「ええと、では、単刀直入に話しをしますが、本日お伺いしたのは川を挟んだ向こう側にある工場を借りる件でして……」 アッシュは、経緯と現状を話し事情を説明した。すると笑顔だったガーンズは若干、困った顔になり、そして言うのだった。 「いや、まぁ、貸すのは別に構わねぇよ。ただなぁ、MSを造るのはちっとな……」 そこまで言って、ガーンズはハルドらの顔を見て尋ねる。 「おたくら、造る気だろ、MS?」 言われて、マクバレルとレビーは素直に頷く。するとやはりガーンズは困った顔になるのだった。 「普通なら別に何を造ろうが俺は構わねぇよ。ただ、MSだと条約が、な……」 言われて、アッシュとハルドは、あ……と口を開けて思い出すのだった。 「アプリリウス条約か……」」 ハルドが思い出して呟いた。アッシュも思い出す。 #br #br “アプリリウス条約” 史上最悪とも言われる国際条約だ。アッシュの血族つまりクライン家。その中でもラクス・クラインが大きく関わる条約である。 MS開発以降の兵器の異常な進歩に関して、懸念を抱いたラクス・クラインが提唱したものであり、MSを含む各種技術の開発に関して様々な制限を設けるという内容の条約だ。 それだけなら、別にたいしたことはないと思われるがとにかく異常に厳しいのだ。最も大きく厄介なのは新技術を用いることに極めて大きな制限がかけられていることであり、それ以外にも細かい条項がいくつもある。 条約の締結当時は世界的な軍縮ムードと平和的な提案だと好意をもって迎えられたが、長期的な視野に立つと世界的に技術の進歩を大きく遅らせるものとなった。なぜなら、技術開発にも制限がかけられていたからである。 平和利用を目的として開発された技術であっても軍事に転用可能であるとなると、その技術の開発は凍結される。 結果的に条約は人類の進歩を大きく遅らせることとなった。技術者たちは条約に違反しないよう細心の注意を持って研究しなければならなかったため、大胆な手法など取ることは出来なかった。 そのため、この数十年、科学に革新的な大発見はほとんどない。 そして軍事的にみると、過去の焼き直しのようなMSを生産せざるをえないのが現状である。革新的な機体など開発すれば条約違反にあたり国際社会から大きな非難を受けるからだ。 そのため70年という時間があってもMS自体に大きな変化はない。ただ基本性能が挙がっているくらいだ。 もっとも、人類がC.E.で滅亡せずに済んだのはこの条約のおかげだという学者もいる。 その学者はC.E.に入ってから人類は理性と自制心を失い無差別に大量破壊兵器を造り続けてきた。この条約はC.E.の人類に理性と自制心を取り戻させたのだと言った。 そうは言っても、この条約が問題だらけなのは確かだ。そして、ハルドらもその条約が大きな壁となっていた。 「そこまで心配はしてないけどよぉ。おたくら大丈夫かい?若いのはすぐ無茶な物をつくるからなぁ……」 困り顔のガーンズに対し、アッシュは堂々と言う。 「大丈夫です。僕たちは常識を心得ていますから」 堂々と言ったが自信はない。なぜなら、隣にいるレビーとマクバレルが非常に小声で「ヤバイヤバイ……」とブツブツ言っているからだ。 とにもかくにも、ガーンズはアッシュの堂々とした物言いに、安心したのか笑顔に戻った。 「そうか、なら安心だ。困った時は言ってくれ。困ったことがあったら手を貸すからよ」 「ありがとうございます」とアッシュは言い、ガーンズと握手をして工場を借り受ける件は上手くいった。 しかし、問題はある。まずはハルドが一言も発していないこと。そして、条約破りの可能性があるということである。前者はまぁいいが、後者はマズイかもしれないとアッシュは思うのだった。 とりあえずハルドらは、一旦クランマイヤー王家邸に戻った。そして戻るとすぐに、アッシュはレビーとマクバレルを問い詰める。 「キミたち条約は憶えていたよな?」 アッシュが聞くと、二人は頷くが目が泳いでいる。ダメだとアッシュは思った。 「条約に抵触してそうな機体は……?」 アッシュは眩暈を感じてもそれを抑えながら尋ねると、レビーからすぐに答えが返って来た。 「ブレイズガンダムは100%アウトです。ネックスは大丈夫ですが」 まぁ、持っているだけでも問題になるかもしれないが、造ったわけでないなら大丈夫かもしれないとアッシュは思った。しかし、次のマクバレルの発言は駄目だった。 #br #br 「実は開発中の機体があるが、おそらく条約に引っかかるだろう」 「なんで、そんなもの造ろうとした!」 アッシュは思わず怒鳴った。瞬間、くらっとしてソファーに倒れこんだ。食事がよくなったおかげで体重は戻ってきたが、体力は完全ではないのだ。 「いや、月で開発していた機体でな、秘密基地みたいなところで造っていたから、思わず調子に乗ってな」 まったく悪びれた様子がないマクバレルの頭をアッシュは殴りたくなったが、そんな体力は無い。 「まぁ、ばれなきゃいいんじゃね」 そう言ったのはハルドだった。ハルドは姫とヴィクトリオの勉強を見ており、基本的に我関せずといった感じだった。 「おまえも、少しは真剣に取り組め!」 アッシュはまた怒鳴ってしまった。その度にくらっとくるというのに。 「あのなぁ、こういうのは技術畑の人間や政治担当が考えることで、俺みたいな戦闘する奴はどうでもいいんだよ」 「いつ僕が政治担当になったんだ!?」 アッシュはまた怒鳴る。怒鳴る度に疲れるというのに、状況がそれを止めさせてくれなかった。 「アッシュさんは防衛大臣ですよ」 聴こえてきた声に、アッシュは、は?と思った。これは姫の声である。アッシュは勉強中の姫を見る。 「アッシュさんは防衛大臣です。アッシュさん以外のみんなで決めました」 アッシュは何がなんだか分からなかった。監禁の身から、誘拐されて、公国は駄目になり、騎士団は駄目になり、そして誘拐された土地で防衛大臣? 訳が分からない。とりあえず夢だと思うことにした。防衛大臣ならそれはそれで良い。大出世だ。とりあえず防衛大臣として命令をした。 「MSを運び入れておいてくれ」 それだけ言うとアッシュは疲れたので寝た。起きたら夢が覚めることを祈って。 #br とりあえず、防衛大臣が言う通りにすることにした。ブレイズガンダムはセインにしか動かせないので、ハルドはセインにミシィのご機嫌取りを中断させて、ブレイズガンダムの運び込みをやらせた。 ハルドはネックスの運び込みである。二機ともパイロットが乗り操縦して、工業コロニーまで機体を運んだ。 その時に発見したが、クランマイヤー王国を形成する4つのコロニーは運搬用のパイプで全て繋がっているということに。 二機は王家邸があるコロニーから運搬用のパイプを通って工業コロニーに到着した。そして、川の半分を占めるMS製造工場内に機体を格納した。格納場所はレビーが既に準備していた。 レビーは足が使えず車椅子になった代わりに人使いが上手くなったようで、的確に指示を出し、MSハンガーを設営していた。 #br #br 「とりあえずですけどハンガーを造ったんで、そこに留めてください」 ハルドは言われた通りにスムーズに機体をハンガーに固定するが、セインのは一回では上手くいかず、3回目でようやくハンガーに機体を収めた。 「根本的に技量に問題があるな」 セインに言ったのはマクバレルである。セインは顔を赤くするしかなかった。レビーはハルドに聞く。 「セイン君て、そんなに下手なんですか?」 言われてハルドも答えに窮する。実際のところハルドは素人が操縦するMSを見たことが無いからだ。 「まぁ、車の駐車だって初めては上手くいかないもんだろ」 ハルド自身、良く分からないが、そう言うしかなかった。 とりあえず、機体から降りるハルドとセイン。すると、レビーやマクバレルなどの技術屋の出番となった。月からここまでついてきた技術者もそれなりの数がいた。 帰る場所が無い者や公国に対する義憤、純粋にMSに関わりたいからという者など理由は様々だったが、ハルドの目には充分な人数に見えた。 「工場の設備が古いな。なんとかならんか?」 マクバレルがハルドに相談を持ち掛けるが、ハルドは首を横に振る。 「それは俺の領分じゃねぇって。俺は戦闘担当だぞ」 ハルドはそう言うが、マクバレルはハルドを見ると、なんとも不思議なことを言う奴だと言った感じで言うのだった。 「貴様は何でもできそうに見えたのだがな」 そう言ってマクバレルは、もう用がないといった感じでハルドの元を離れて持ち場に戻るのだった。 とにかくレビーとマクバレルにはやることがあった。まず、最初にやらないといけないこと、それは、窃盗したと疑われない偽装工作である。 二人が指示したのは、機体の型式番号を弄ること。とりあえずネックスとブレイズガンダムの二機ともクランマイヤー王国製の機体という型番にした。 そして塗装の変更である。最悪、色が違うなら別の機体であるという暴論で済ますための手段である。これはもう、パイロットの要望は聞かなかった。 ネックスは全身灰色に、ブレイズガンダムは赤白青のトリコロールに塗りなおした。これで誤魔化せる。いや、誤魔化すとレビーとマクバレルは決意した。 #br この日、ユイ・カトーは何をしていたかというと。王家邸のあるコロニーの政庁舎にいた。ハルドの推薦で金回りについての能力は高いから任せて良いということで仕事をさせられていた。 別にユイ・カトーは嫌いな仕事ではなかった。金勘定を整え、全体の金回りを良くするために頭を使うのは嫌ではないし、過去に軍の兵站関係の部門にいて補給やら何やらにも詳しく、貿易にも関心があったため、その効率化も興味の範囲内だった。 ある程度、資料を見ると無駄が多いと、ユイ・カトーは思った。無駄の全てが悪いわけではない。良い無駄と悪い無駄である。 良い無駄は贅沢や娯楽であり、人の心を豊かにし金回りが良くなる。しかし、悪い無駄は損であり、人の心を貧しくし金回りが悪くなる。 かといって、悪い無駄がないのも不健全なので、そのさじ加減が難しいのだ。 現状は良い無駄が多いから、このままでいいが、ユイ・カトーの読みだと、技術屋連中が懐具合も考えず、いい設備を要求するだろうという予感があった。 ああいう連中は金稼ぎに有効なので大事に扱わなければいけない。しかし、なんでもホイホイと言うことを聞くわけにはいかない。そう思い、どうやって騙すかユイ・カトーは思考を巡らせるのだった。 気づくとユイ・カトーはたった一日で、クランマイヤー王国の金庫番となっていた。同じ政庁舎に務めるマッケンジーとしてはありがたい限りだった。 #br #br みなが活動している内に気づいたら夜になっていた。とりあえず王国の各場所で活動していた者たちは、みな王家邸に戻っていた。 この日はバーリ大臣も戻っており、食事はバーリ大臣が用意した。なぜかテクス・メクス料理だった。 タコスに噛り付きながらユイ・カトーは手を挙げて発言する。 「申し訳ないですけど、MS工場の設備に投資をする金は無いです。一般の工場、特に自然油系の工場だったら、輸出も出来るので良いですけど」 言われて豆の煮込みを食べる、レビーは反論する。 「MSの開発が遅れるんですよ。いくらユイさんの言うことでも見過ごせません」 そうだそうだ。とマクバレルは小さな声で言う。女同士の戦いになりそうだから、隠れながら言っているのだ。 レビーの反論に対し、ユイ・カトーはというと 「クライン公国がいつ攻めてくるかも分からないのにMS開発にお金は出せませーん。だけど油の輸出は確実にお金になるので、工場への設備投資はその後じゃないと無理」 「じゃあ、お金が出来たらやってくれるんですね!」 レビーの調子は怒った様子だが、決着点がある程度、見えているので、落ち着きが多少は感じられた。 「まぁ、お金が出来たらですけど。ここにいる皆さんには理解しておいてほしいんです。パイロットや技術者が多いですから言っておこうと思います。とにかく稼がないとどうにもなりませんよ!」 ユイ・カトーの強い調子で言う。 「ここにいる人間のほとんど、隊長、アッシュさん、レビー、マクバレルさん、虎(フー)さん、セーレさん。それに姫、セイン、ミシィ。みんな基本、自分以外の人の金で生きていく手段を得ていた人間ばかりじゃないですか!」 ユイ・カトーはハルドを指さす。 「隊長が乗っていたMSいくらすると思います!?」 さぁ、とハルドは何故かあったシュラスコの肉を切り取っていた。シュラスコはブラジルだよなぁと思う余裕がハルドはあった。 「その肉が何万て数じゃすまない額ですよ!」 ユイ・カトーは発狂寸前にハルドには見えた。しかしどうでもいいので、姫とヴィクトリオに切り取った肉を皿に乗せたものを渡した。 「いい加減、あれです。皆さん金が自由に使える立場じゃないってことを理解してください!クランマイヤー王国は経済状況が悪いわけではないですが、クライン公国とか地球連合並の軍備を維持するのは不可能です!」 だから!とレビーは机を叩く。 「皆さん、自分が軍にいた頃のように、物を自由に使えるとは思わないで下さいねってはなしです。以上」 言うだけ言って、ユイ・カトーは座った。いろいろと考えるものもいたが、特に考えないものも何名かいた。そもそもが、マトモな集団ではないので、言っても無駄な部分があるのだ。 「すごいです!」 何故か姫が拍手していた。 「ユイさんは財務大臣決定ですね。お金のことをそんなに考えている人にはぴったりです!」 姫は心から尊敬した様子でユイ・カトーを見ている。ユイ・カトーからしたら、え?という感じだったが、次の日には財務大臣の名刺と名札が用意されていたのだった。 そして、次に手を挙げたのはレビー・シカードである。 「とりあえず、偽装は完成しました。誰が何を言っても誤魔化そうと思えば、誤魔化せます。あと、設備に関しては投資がなくてもこっちで、何とかはします」 レビーが言うと再び姫の拍手である。レビーは嫌な予感がした。 「レビーさんは科学大臣ですね!」 やはり、そう来たかとレビーは思った。そして、やはり次の日には名刺と名札が用意されていた。マクバレルは自分には何かないのかと期待していた。しかし何もなかった。 なので、しばらくマクバレルは元気のない日が続いた。しかし、姫がモビルスーツ設計大臣という名札と名刺を持って行ったら元気になったので、それで済む問題だった。 #br #br 「大臣がいっぱい増えて良かったですね、姫様」 ハルドは適当にそう言った。大臣の役職を貰った者たちからすれば、ハルドだけ何ももってないのは、おかしいような気がした。 「ハルドさんは勇者です」 姫が言うが皆、訳が分からない。 「なんとなく勇者なんです!」 断固として姫はゆずらないので、どうしようもない。というわけでハルドの役職は勇者ということになった。 これでいいのかと思ったが、まぁいいのだろうと皆、思うことにした。 #br そして夕食後、何となく成人組で酒を飲むことになった。 とりあえず、飲みながら今後の話しだ。ということである。そんなことを言いながら気づくと全員が相当に酔っていた。これでは、ダメ人間たちの集まりのようだと、アッシュは感じたが、冷静に考えると自分もそのうちの1人だった。 「とりあえず聞きますけど、なんで、この国のために頑張ってるんですか、隊長は?」 飲みながらユイ・カトーはアッシュには聞きにくい質問を単刀直入に聞いた。 「ぶっちゃけますけど、金貰ってるって言っても、相場よりも安いですよ。隊長なら、どこ行ってもやってけるし、軍に残っても良かったじゃないですか、それが何で、こんなところに?」 ユイ・カトーは率直だった。アッシュには聞けないことを聞いた。 「別に、どうでもいいし、なんとなく。色々ウンザリだったしな、軍も何もかも。幸いここには何も無いんで気楽だ。だからここにいるんだよ」 ハルドはそう言うだけだった。 アッシュとしては釈然としなかった、これほどの男が、世に出れば世界を一変させる可能性を持った男が、ダラダラと酒を飲んでいる。これでいいのかという思いがアッシュにはあった。 「なんか、うそくさいなー」 マクバレルは相当に酔ってハルドに絡む。だが、ハルドはヘラヘラとした表情のまま躱す。 「組織に縛られるのはウンザリなのさー!俺はここでは勇者ハルドだー!」 ハルドは調子よく言うが、嘘くささしか感じなかった。アッシュはハルドの心の奥底にある淀みを少し感じたような気がした。 そうしているうちに話しは自分に変わっていたことにアッシュは気づく。 「ぼーっとしないで。酔っ払ってんですか?なんでずっとここにいるのか聞いているんですよ」 尋ねてきていたのはレビーだった。アッシュとしては考えたこともない。 「ただ、なんとなくかな」 そう答えるしかないのだ。実際になんとなくここにいる、少し酔いがさめてしまった。 「そう、なんとなく、ここにいる。居心地も悪くないしな。亡命しても良いくらいだ」 言ってしまった。アッシュはそう思った。もう祖国に未練もないのだ、今の祖国にだったら未練も何も無い。今のあんな国には。 「そうだなぁ、亡命、亡命しようかなぁ!」 なんとなく、ふざけた調子でアッシュは言った。そうしなければ本気になってしまうからだ。そうやって、ふざけて夜は終わった。 なんとなく全員が寂しいを思いを感じていた。本気の思いをぶちまけるには大人になりすぎたし、かといって全てを飲み下せるほど皆、大人ではないのだ。それが寂しいのだ。 #br 翌日もそれなりに忙しかった。ハルドはセインを徹底的に鍛え上げていた。 とにもかくにも、成り行きでもなんでも、パイロットになってしまった以上は、それなりにするしかないという総意に基づいてハルドが訓練を担当することになったのだ。ハルドとしてはめんどくさい以外のなにものでもなかったが。 アッシュはそれとなくクライン公国が攻めてきた際の防衛のための構想を練っていた。 レビーにマクバレルは機体の整備や設備の改修に忙しかった。 ユイ・カトーはどうすればクランマイヤー王国が儲けられるかの算段を練っていた。 虎(フー)は己の鍛錬だったが、ヴィクトリオと姫がなんとなくその鍛錬の動きを真似をしていると、以外にも虎は丁寧に動きを教えていた。 数日間、のんびりではあったが各自やることをやっていた。そして時間は過ぎる―― #br #br [[GEB第10話>GUNDAM EXSEED_B_10]] [[【戻】>オリジナル主人公]] 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