その後は色々と事件処理だった。クランマイヤー王家邸はハルドと虎先生の大量殺人で酷いありさまだったので、しばらくの間、姫達には第2農業コロニーの森でのキャンプで、その間は、王家邸は業者に頼んで清掃と修理の日々だった。 レビーとマクバレルは必死でネックスを修理していたが、必死の甲斐もなく修理は思うように進んでいなかった。 そこにセインは行っていた。レビーらに聞きたいことがあったからだ。 「戦っている最中に変な声が聞こえた?」 レビーにネックスとの戦闘中にあったことを話すと怪訝な顔をされた。隣いるマクバレルが説明する。 「ブレイズガンダムに関しては、我々も完全に理解していない機体でな。何かしらの極秘のシステムが動いた可能性があるな」 レビーは質問する。 「その声ってのは、コックピットの中全部に聞こえるもの?キミの頭の中にだけ聞こえるもの?」 「頭の中だけです」 そう言うとレビーとマクバレルは互いに渋い顔になる。そしてもう一度レビーが質問するのだった。 「強制力は強かった?声が聞こえたらキミは絶対に、その声に従わないといけなくなるとかはあった?」 「それは無かったです。ただ、声が聞こえるだけでした」 そう答えると二人は更に困った顔になる。 「強制力がないのなら問題はないと思うが、逆に強制力のないシステムを何故載せたかという疑問が起きるな」 「そうですね。セイン君に影響はほとんどないですし、意図が不明なのは怖いですね」 二人は議論に入ろうとしていたがセインが話しを打ち切った。 「あの、それでも僕はブレイズガンダムに乗っていいんでしょうか?」 セインが聞くとレビーが尋ねる。 「乗りたい?乗らなくちゃいけないじゃなくて?」 「乗らないで済むなら乗りませんけど」 セインはレビーの質問の意図が読めずに普通に答えた。すると、やはりレビーとマクバレルの二人は思案顔になるのだ。 「やはり、強制力は低いな。どういう意図のシステムが積まれているやら」 「それは、もうすこし様子見でしょう。セイン君自体、まだ機体に乗って戦闘した経験が少ないですし。 あ、セイン君、話し聞いてたと思うけど、要観察だから。別に普通に生活してていいけどブレイズガンダムに乗った時は、ちゃんとどうだったか教えてね」 セインの疑問はそんな軽い感じで終わった。そしてセインは工業コロニーを去って、姫達がキャンプしているという第2農業コロニーへ向かった。 キャンプ地が分からず、適当に森を歩いているとセインは、木の上から飛び降りてきた謎の集団に身柄を拘束され、キャンプ地まで連行された。 キャンプ地は安全も考えて、第2農業コロニーに住み着いているカルト集団もとい自然主義団体のそばに用意されていた。 「すまんな手荒で、この間事件があったというから里の者もピリピリしているのだ」 リカードというリーダーがセインの縄を解いてくれた。 「いろいろあったろう。疲れたなら少し休むといい」 リカードはそう言うと、ミシィや姫の元に案内してくれた。これで一息つけると思ったらセインは聞いてみたいことが芽生えてきた。 #br #br 「リカードさんはどういう人なんですか?」 本人に直接聞く質問ではないが、リカードは苦笑して答えるのだった。 「ネイティブアメリカンの血筋を引く男。そして元軍人。今はこの森の中で酋長を務める男だ」 はぁ、とセインがなるとリカードは続ける。 「私の時代には、ネイティブアメリカンの文化などほとんど消失していたが、それを伝える人間はいた、私は彼らから教えを乞いその文化を継承したのだ。 しかし、その文化を続けていくには地球は荒廃しすぎていた。だから我らは宇宙を目指し、ついには自然豊かなこの地に根を下ろしたのだ」 セインも地球の自然環境の荒廃は耳にしていたが、このような人々がやってくるまでになっているとは思ってなかった。 「こちらとしては王国に迷惑をかけたくないという思いはある。故にただ、生きるのみの活動だ。だれも勧誘などしない。自然の恵みに感謝し、生きるだけだ」 宗教団体とは違うんだろうなとセインは思った。 「セインと言ったかな、少年。きみは疲れているように見える少しゆっくりとすると良い。夕食はそれなりだぞ」 言うと、リカードは去って行った。セインの目には悪人には見えなかった。 #br 夕食はセインの目からすると独特だった。 猪の肉に鹿の肉、雉の肉に、川魚、木の実や山菜が大量に使われた料理だった。 「姫が来ていらっしゃるのだ、豪勢にいかんとな」 リカードがそう言うと、団体というか里の若者たちが踊り出した。祭りのような雰囲気だとセインは思いながら、料理に手を付ける。 見た目は豪快だったが味は繊細さも感じられた。野性味がある肉の味とブレンドされた香草の風味が絡み合う。男向けの料理だと思い、セインはガツガツと食べた。 「姫がいらっしゃったので、多少派手にやらせてもらっております」 リカードはほろ酔い加減で姫に近づくと、頭をふらふらさせながら、そう言った。 「はい、とっても楽しいです」 姫は心から楽しそうだった。その態度はリカードも満足させたようだった。 セインはその光景をのんびり眺めていると、急に頭を叩かれた。 「よ、やってんな」 叩いたのはハルドである。ハルドはセインの隣に座ると適当に料理を摘まんでいた。 勝手だなぁとセインがハルドを見るとハルドはセインの肩を押す。曲調が変わっていたのだ。 「仲が良い女を誘って踊る踊りだよ、ステップはいいから入ってこい」 ハルドが言うが、セインは困り、しかたがないのでミシィを誘って祭りの踊りようなものに加わって行った。見てみると、姫とヴィクトリオも踊っている。 「マセガキどもめ」 吐き捨てるように言うが、ハルドの顔は穏やかだった。そして酒を飲む。 騒ぎの始末は粗方ついたのでハルドはゆっくりとできるわけだった。工業区画の被害もほとんどなかったが、虎の子の稼働可能なMS3機が全機大破、特にネックスに関しては修理部品の不足があるため部品の製造から始めなければならないという。 だが、まぁあの二人なら何とかするだろうとハルドは信用している。それに量産機の開発が終わりそうだということも聞いた。 ならば、あとはそれを製造ラインに乗せればいいだけだ。3機のMSの喪失など、いずれ大した問題でもなくなる。 #br #br 酒と肴を口に入れながら、ハルドはぼんやりと考えていた。しかし、何故、自分はこんなにも真面目に、この国のことを考えているのだろうか。 自分でも入れ込みすぎな気がしてきているのは確かだ。そろそろ消えても良いかもしれない、漠然とだがそんな思いも芽生えてきた。 ここを去って、その日暮らしの何でも屋に戻るというの別に悪くないのでないかという気がしてくる。責任もなにも投げ捨てるのだ。とハルドは思った。 そして酒をもう一杯飲む。周囲は祭りで騒がしいがハルドは1人で飲んでいた。飲んでいると色々考える。 自分がこの国ために戦う義理がないということにも気づく、所詮は金で雇われているだけで、自分自身には公国に恨みがあるわけでもない。そして改めて考えてみる、他のメンバーの戦う理由を。 姫や大臣などは当事者でクライン公国の侵略から国を守らなければいけない立場だ。 セインとミシィは復讐のため、これは分かりやすい。 アッシュはなんとなく手を貸しているといったが、祖国への失望が原因だろうとハルドは思う。 セーレは姫に命を救ってもらった恩義でクランマイヤー王国側についている レビーとマクバレルは収容所に入れられていた件の復讐もあるが純粋に機体開発がしたくて王国についている面もある。 ユイ・カトーは、まぁ金のためかとハルドは考える。とにかく金稼ぎが好きな女だからだ。 まぁほとんどの人間にクランマイヤー王国に手を貸す理由はあるにはある。 そうすると自分の場合はどうなのかとハルドは考えながら、酒を飲む。 別に居心地が悪いわけではない。むしろ良い。故郷らしいものを持たないハルドにとって、この国のアットホームでなんでも受け入れてくれる雰囲気は好きだった。 「クランマイヤー王国に乾杯!」 酔った勢いで叫ぶと、皆が 「クランマイヤー王国に乾杯!」 そしてハルドは酒を飲む。酔ってきたような気がした。気づくと見知らぬ女がハルドにしなだれかかって来た。忘れられがちだがハルドは美男子である。異性の目を惹かずにはおかないほどの。 「女は間に合ってるよ」 ハルドはそれだけ言うと、女性を遠ざけた。女で思い出すが結局の所、目的が明確ではないのが問題なのだとハルドは思う。昔は女を守ってそいつのために生きられれば、それでよかったが、今はそうではなく、ただ生きることだけが目的になっている。 人生の目標も何も無い。ハルドは、それに今気づいた。 そして酒を飲む。飲み過ぎかどうかはどうでも良かった。ただ、気が楽になってくるのは確かである。余計なことが考えられなくなる。 もういいじゃないかと、何がもういいのか分からないがもういいかとハルドは思った。姫は可哀想だしセインは馬鹿で弱いから面倒をみてやるのも悪くない。そう、悪くないだろう。とりあえず、今しばらくの内は。 そう思って、ハルドは酒を飲んだ。そして、翌日、そこからの記憶はなかった。そしてハルドは気づくと朝であり、野外、それも石の上で寝ていた。猛烈に頭が痛いし、気分が悪かった。間違いなく二日酔いだった。 昨日の記憶が途中から無い。それが異常に不安を煽ってくる。それに気分が悪いのも辛い。二日酔いは最悪であることを初めて知った。これから、酒はほどほどにしておこうとハルドは思った。 #br #br フラフラとハルドが歩くと、里の者皆なんともいえない視線をハルドに向ける。とりあえず、ハルドは自分が何をやったか気になったので、セインをつかまえると尋ねた。 「別に何もしてませんよ」 セインはそう答えるだけだった。なんでも、途中から皆の前に出てひたすら歌っていたらしい。それも男女の恋の歌を延々とだそうだ。そして酒瓶を片手に泣きながら、どこかに消えていったということらしい。 なんとも恥ずかしい話しであるが、その程度で済んだのは良かった。しかし、二日酔いで気分が悪いのはどうにもならない。 「今日は訓練なしで」 ハルドはそう言うと、休めるところを探しにでることにした。正直、第2農業コロニーは二日酔いの思い出でウンザリなので、別の場所に行こうとした。その時であった。木の上から人間が二人、ハルドの目の前に飛び降りてきた。 なんだと思って見てみると若い男、どちらかといえば少年に近い二人である。二人はハルドに用があるようで、かしこまった様子で立っている。 ハルドとしては、面倒は早く片付けて休みたいのだった。 「なにか用か?」 「はい、ハルドさんにお願いがあるんです」 そう言うと二人は頭を下げていうのだった。 「俺たちにも戦い方を教えてください」 急に言われ、ハルドとしては、はぁ?という感じだった。ハルドの戸惑いも気にせず、二人は話しを続ける。 「俺はジェイコブで、こっちは弟のペテロです。親父はリカードです」 ああ、リカードの息子かとハルドは、言われてみるとなんとなく似た雰囲気があると思った。 「俺たちはこの間の事件を聞いて、この国を守れるような戦う力を身に付けようと思ったんです」 へー、とハルドは聞いていた二日酔いで頭は働かないが重要な部分は聞いていた。戦い方を身に着けたいということだけだが。 兵力の確保はクランマイヤー王国の抱える問題の1つなので、自分から戦いたいと言い出してくれる若者は大歓迎だった。 それも、給料を必要としない、有事の際の義勇兵なら特にだ。ハルドとしては歓迎の気持ちがあるが、自分が戦い方を教えるという訳にもいかない。なぜならハルドはセインだけで手一杯だからだ。 だが、こういう時は便利な人材がいる。それは防衛大臣である。 「俺は教えるのは無理だが、王家邸にいるアッシュ・クラインて奴に頼め」 そう言うと、ジェイコブとペテロの二人はハルドに礼を言うと、喜び勇んで、走り去って行った。 #br その夜である。ハルドは王家邸のテラスにいた。二日酔いは回復したが、今日は酒を飲む気にはならなかった。あんな二日酔いが辛いとは思わなかった。人生は勉強だなと思うハルドだった。 「ハルド、おまえなぁ!」 ハルドがテラスで寛いでいると、アッシュがやって来た。アッシュは腹を立てた様子で、ハルドの目の前の席に座る。 「勝手に義勇兵の募集をしたろう!?」 ジェイコブとペテロのことかとハルドは思いだす。 「それが、まずかったか?二人だけだろ?」 「その二人が言いふらして若い奴らが集まってきたんだよ。自分も国のために戦う兵士になりたいって」 ハルドは首を傾げる。 「それがマズイことか?いいじゃないか、人が集まって」 アッシュは机を叩いた。 「訓練する環境が何一つ整ってないのに、何をどうするって言うんだ!」 ハルドはまぁ、落ち着けよと言った感じでアッシュをなだめる。 「とりあえず、教官はお前でいいじゃないか。騎士団とかの時代の訓練を思い出して、それと同じことをやらせとけ、武器に関してはしばらくエアガンとか持たせて、それらしくさせてろ」 #br #br 「随分と無茶を言うな」 「無茶じゃないと思うがな、セーレとか虎先生も動員して訓練でもしてやれ」 ハルドの言葉にアッシュはため息をついた。 「結局、僕か。まぁいいがな。ただ、戦闘に役立つ兵を育成できるかは分からんぞ」 そう言うと、アッシュは言葉を続ける。 「ユイ・カトーからは訓練は週に3回以内にしてくださいとの通達がきてるんだ」 それを聞かされハルドは驚きで目を丸くする。 「基本は民間人で若い奴も多い。つまりは働き手も多いから、訓練の回数が多いと、生産力が落ちるそうだ」 「週3回くらい訓練した程度じゃ、マトモな兵隊は作れねぇぞ」 「それは分かっている。その上でユイ・カトーは更に条件を付けた訓練は3時間までだそうだ」 ハルドはまたも目を丸くする。 「正気の沙汰じゃないな。かろうじて銃が撃てるくらいにしかならないぞ」 「僕もそう言ったが、あの金の亡者は、生産効率が落ちるの一点張りだった。最後は、従わないと義勇軍に金を回さないと脅しをかけてきた」 なんということだとハルドは思う。最悪の敵は身内にいたとは。それも昔の戦友だ。 「まぁ義勇軍を編成し、戦いに臨むにしても、基本は民間人の有志ボランティアの兵隊だ無茶はさせられないが」 ハルドもそれには同意だが、 「現状、戦力になりそうなのがそういう連中しかいないからしょうがないだろう」 常備軍を設けることや傭兵を雇い入れる金の無い国の悲しいところだった。ハルドとアッシュは互いにため息をついて、兵力に関して頭を悩ませることになった。 #br #br 閑話 虎の一日 #br 虎(フー)の朝は早い。5時には目を覚ます。虎(フー)が目を覚ます家は、コロニーの端にある誰も住んでいなかった小屋であり、それを無償で借りたものだ。 虎(フー)は5時に起きると武術の鍛錬を始める。そして6時に一汁一菜の質素な食事を摂り、再び鍛錬である。 7時を超えてくる頃には、すでにクランマイヤー王国の農民たちは労働を始めている。そして熱心な若者たちが虎(フー)に武術の教えを乞いに来る。勤労かつ勤勉な意欲を持つ国民たちであると虎は感心していた。 7時からの鍛錬は型の鍛錬である。若者たちは虎の動きを見よう見まねで模倣する。虎はちゃんと若者たちに目を配っており、型の崩れを指摘する。積極的に教えるということは無かったが、若者たちは虎の教え方に不満を持たなかった。 そして8時くらいになると、老若男女様々な人々がやってきて、虎の真似をして体を動かす。姫やヴィクトリオもその中に含まれている。 多くは健康体操と誤解しているが、武術として真剣に習っている者も多い。姫とヴィクトリオは筋が良い方だった。 やはりこの時も動きに乱れがある者には、虎はちゃんと指摘をし丁寧に指導している。皆からの評判は上々であり、虎先生と呼ばれるようになっていた。 9時を過ぎると人は少なくなり、熱心な若者だけとなる。基本的に疲れたら帰っても良いというか、虎自身が人をわざわざ集めているわけではないので、来るも帰るも自由である。 熱心な若者だけになると、虎は若者相手に組手をすることにしていた。もちろん相当手を抜いてだが、そして10時まで時間を過ごす。 10時からは近隣の農家の手伝いである。その手伝いの対価として野菜や米、麦、パンを分けてもらう。 そして、その労働は12時に一汁一菜の昼食を摂ると16時近くまで行われる。労働も虎にとっては修行の一環である。そして16時からは1日の鍛錬の総仕上げである。その日に何を学んだのか、自分の中で整理を付け、体へと経験を染み込ませる時間である。 そして17時に夕食を取る。夕食もまた一汁一菜の質素な物である。そして食後には軽く禅を行い、精神の安定を得る。 そして18時に入浴。この時間だけが虎の心休まる時間である。 19時には再び禅を行う。より深い感覚で世界を理解するためである。だいたい1時間ほどで禅は終わりとなり、その後、虎は自由に過ごすことにしていた。軽く酒をたしなむこともあれば、書を読むこともあり、夜の散歩に出ることもあった。 しかし、どんなに遅くとも虎は22時には床に入ることにしている。そして眠りにつくのだ。 これが虎の1日である。よほどの大事件やら何かの用事が無い限り、虎はこの生活リズムを崩さない。虎はこの生活に満足しているのだった。 #br #br [[GEB第13話>GUNDAM EXSEED_B_13]] [[【戻】>オリジナル主人公]] [[GEB第15話>GUNDAM EXSEED_B_15]] #br #comment(noname)