GUNDAM EXSEED_B_26

Last-modified: 2015-04-28 (火) 20:18:31

クランマイヤー王国は相も変わらず海賊稼業で儲けていた。最初はクランマイヤー王国の艦だとばれないか心配で夜も眠れなかったアッシュだったが、今は平気な顔で戦利品の分別をしている。そして
「海賊も悪くないな」
と言う始末である。クランマイヤー王国では海賊行為が普通の行為になりつつあった。
しかし、この海賊行為にも裏では色々と問題があった。若者たちのガラが悪くなった。将来は海賊になると言い出す子どもが現れ教育に良くないなどである。
だが、基本的にクランマイヤー王国の人間は善良で素朴な性質のようなので、ちょっと注意をすればすぐに真面目に戻るので大きな問題にはならなかった。しかし、問題となるのはクランマイヤー王国の人間ではなく、外の人間であった。
それは本業の海賊。細々と宇宙海賊をやっている人間もこの時代には、まだいたのである。彼らは大した稼ぎもない、そんな人間たちであり、羽振りの良い、新参者の海賊を嫉妬せずにはいられなかった。
そして、ある日ハルド達がいつものように海賊仕事をしようとしている矢先、事件は起きた。
ハルド達が獲物を待ち伏せしていた宙域に民間船がやって来たのだ。ハルド達は、民間船は襲わない主義であったが、民間船の様子はどうにもおかしかった。
「罠だな」
ハルドは断定する。ハルド達は予めルートについて下調べをしているのだ。これまでのデータから民間船がこの宙域を通ったことは一度としてない。しかし、現に民間船は現れている。しかも、何かの故障をしているように見えた。
「罠だな。撤収」
ハルドに続いてベンジャミンもそう断言し、亡者の箱舟号は撤収を開始しようとしていたのだが、若いパイロットたちは反対した。
「本当に故障してるかもしれませんよ?」
セインが真っ先に言い出し、ハルドはめんどくさそうな表情を浮かべていた。
「じゃ、お前らで見てこい」
ハルドは面倒だったので、勝手にさせることにした。最近はいつもこれである。
年下が何かを言い出したら、どうぞ御勝手にといった具合に勝手にさせている。アッシュなどからは色々と文句を付けられるが、ハルドはいい加減、他人の面倒を見ることにウンザリしていた。
ハルドからの許可が出たので、若いパイロット、セイン、ジェイコブ、ペテロがMSで発進していった。マリアも嫌な予感がするというので艦に残っている。
セインは、今日はブレイズガンダムに乗っていた。ジェイコブとペテロはフレイドだ。3機のMSは順調に民間船に近づいていく。ハルドはそろそろ何かありそうだなと思った。その直後だった。民間船が爆発し、爆発した中から何かが飛び散り、3機のMSに当たった。
「なんだこれ!?」
ジェイコブは機体を動かそうとするが機体が動かない。機体には全くダメージが無いのにも関わらずだ。
「兄さん、こっちも駄目だ!」
ペテロの機体も同様に動けなくなっていた。
「こっちは大丈夫だけど……なんだったんだ?」
セインのブレイズガンダムは無事である。動きに問題ないが、ブレイズガンダムの機体表面を何かが、張り付いていた。セインは機体を操り、ブレイズガンダムが指でそれを摘まんでみると、粘着性のある物体であった。

 
 

「トリモチ弾って奴だな。粘着性の物質で機体の動きを無力化するために使われる鎮圧用の武装だ」
ハルドは海賊船のブリッジでそれだけ伝えると、自分はMSハンガーに向かった。
「どうしたんですか?」
ハルドの突然の行動にマリアが疑問の声をあげる。
「MSの動きを止めたら、艦を制圧。俺らがいつもやってるだろ?」
ハルドにそう答えられ、マリアはあっとなり、自分もMSハンガーへと急いだ。
「ハルドさん。これどうすれば?」
セインが機体の表面に付いたトリモチの扱いに困惑している、その時だった、周囲に船とMSの反応が現れたのは。
「くそ、なんなんだよ」
セインはようやく気づいたが、ブレイズガンダムはバリアのおかげで、トリモチの直撃を受けずに済んだのだった。
「セイン、何とかしてくれ」
ジェイコブからの通信が入り、セインはジェイコブの機体を見るとトリモチは硬質化しており、見た感じではどうしようもなさそうだった。
「とにかく、敵っぽいのが来てるなら、俺たちの機体は艦の方に投げ飛ばしてくれ、これじゃ戦えない」
ジェイコブにそう言われたので、セインは躊躇なくジェイコブとペテロの機体を艦の方に投げ飛ばした。そして自分はこちらに迫ってくる所属不明機の相手だとセインは心に決めた。
「かかってこい、こっちは海賊だぞ!」
脅しになるか分からないが、とりあえずセインはそう言ってみた。すると意外な返事が帰って来た。
「こっちだって海賊だ馬鹿野郎!」
だみ声でそんな返事が帰って来たので、セインとしてはキョトンとするほかなかった。しかし、すぐに冷静に戻る。あ、同業者さんですか、仲良くしましょうという雰囲気が相手の声からは感じられなかった。
ならば相手にするしかない。セインは敵の数を把握しようとする。船が一隻にMSが3機である。ブレイズガンダムに乗っている今なら、楽にやれると思った。
セインは敵を目視で確認すると、ブレイズガンダムが持つビームライフルを撃った。狙いは少し自分でも甘かったとセインは反省し、実際に狙いが甘かったため、3機のMSは散開し回避し、それぞれが別方向からブレイズガンダムに襲い掛かってくる。
敵の機体は地球連合軍の量産型MSグラディアルの改造機であった。
「動きが良いか?けど!」
セインは充分に経験値を積んでいた。複数と戦う時は絶対に包囲されないこと、とにかく動き回って相手に包囲されないように立ち回る。海賊仕事の中で学んだ戦闘技術だった。
パワーもスピードもブレイズガンダムの方が上である以上、一旦逃げに回ると相手の機体はブレイズガンダムを捉えることに苦労する。
「そして隙だ!」
捉えることに苦労すると相手の動きは、こちらを慎重に狙うように切り替わる。その瞬間が隙になることもセインは理解してきていた。
ブレイズガンダムのビームライフルから放たれたビームが、敵の機体の内1機のビームライフルを破壊する。
「次はコックピットに当てるぞ。嫌なら下がれ!」
セインは優勢に立ったら、相手に啖呵を切って見せることも覚えていた。精神的に優位に立つと、実際の動きでも優位に立てるということを感覚で理解してきていたのだった。
一瞬だが明らかに3機のMSの動きに怯えが見えた。なるほど、こうやって戦えばいいのか、セインは何かを掴んだような気がした。
そう思った矢先である、どこからともなくビームが飛来し、ブレイズガンダムに直撃する。

 
 

「ひゅー、硬いねぇ」
若い男の声が聞こえ同時に、新手がセインの視界に入る。新手の機体は深緑色のグラディアルであると辛うじて分かるが異常にカスタマイズされていた。
「4対1で悪いが、相手をしてくれよ、坊ちゃん」
坊ちゃんだと!セインは新手の口ぶりに怒りを覚え、叫んだ。
「セイン・リベルターだ。二度と坊ちゃんなんて呼べないようにしてやる」
セインの叫びもイマイチ相手は気にしてないようで、あり深緑のグラディアルはビームを撃ちながら、セインのブレイズガンダムに突撃しつつ、通信で話しかける。
「熱くなんなよ坊ちゃん。熱くなったら負けだぜ、こういうトークはな」
相手はふざけているとセインは思ったが、相手の言うことにも一理あると冷静になった。ハルドにもよく、簡単に熱くなりすぎだと言われているのだ。
「少し冷めたよ、お兄さん」
セインは軽い調子で言いながら、ブレイズガンダムのビームライフル深緑のグラディアルに撃った。
このテンポだとセインは思った。軽やかに戦う。これが現在の自分のベターだとセインは思った。
深緑のグラディアルはビームを回避しながら撃ち返してくる。その動きを見て、セインはこの深緑色の機体はエースクラスだと確信に至った。
ということは自分はそれなりのパイロットが乗ったグラディアルとエースが乗ったグラディアルを相手にすればいいのかと理解した。
理解すれば行動は簡単だった。弱い奴から潰せ。ハルドからはそう言われている。セインは躊躇わず、ビームライフルを失った機体の下半身、股間の部分をビームライフルで狙った。
海賊仕事で何度かグラディアルと戦った経験からとりあえず股間を撃てば下半身全部が吹き飛び、マトモな戦闘機動は取れなくなる。
狙ったビームは直撃し、グラディアルの下半身が吹き飛んだ。これで一機は動けなくした。残りは三機だ。
「こっちも忘れんなよ。坊ちゃん!」
深緑のグラディアルがビームライフルを撃ってくる。もちろんセインは忘れておらず、そのビームを回避し、そのまま動き続ける。
「脚を止めないのは感心だね、坊ちゃん」
「お褒めに預かり光栄だよ」
ハルドならこう言うだろうと思いセインは真似して言ってみた。なるほど軽口を叩くと余裕ができるな、とセインは思った。そして余裕が出来るということは敵の動きも見えるということだ。
セインは敵の動きを見て、敵は射撃戦をしたがっているように感じた。ならば逆を取る。相手がしたがっていることの反対をする。これもハルドの教えだ。
ブレイズガンダムは敵から逃げるように移動する。背後からは二機のグラディアルそして、その後ろから深緑色のグラディアルが、ブレイズガンダムを追いながらビームを撃ってくる。
敵は完全に射撃戦。そして敵を追う体勢に入っている。ではこの逆を取るなら。そう思い、セインはブレイズガンダムを急速反転させ180度のターンをさせた上で最大加速をさせる。
敵の動きに動揺が見られた。しかしそれも一瞬である。向かってくるなら撃てばいいと敵は考えた。
だが、追う側で撃っていた敵が急に迎え撃つ側になって、狙いを正確にすることは難しく、グラディアルの撃つビームはブレイズガンダムを外れていく、そして、中には当たるのもあったが、それはシールドで防いだ。
バリアには頼るなとハルドからは言われているセインはブレイズガンダムに常にシールドを装備させていた。
「うおおおお!」
右手のビームライフルを腰にマウントし、左腰のビームサーベルを抜き放ち、ブレイズガンダムは一機のグラディアルに突進するとビームサーベルで、上半身と下半身を繋ぐ部分を切り裂き、二つを分かつ。
上半身と下半身が分割されたグラディアルは上半身だけでもがきながらビームライフルを撃とうとするが、ブレイズガンダムは頭部のバルカンを発射し、ビームライフルを破壊し、敵から逃げるように遠ざかった。

 
 

セインは敵が接近戦をしようとしているように感じたから逃げたのである。相手が戦いたがっている土俵では、基本的に戦わない。セインがハルドに何度も何度も言われていることであった。
ブレイズガンダムが逃げると、一機のグラディアルはビームサーベルを抜きかけていたので、慌ててライフルに戻そうとしていた。セインはコックピットのモニターで背後の様子を確認していたので、ブレイズガンダムを振り向かせ、ライフルを撃たせた。
ライフルから発射されたビームはグラディアルの股間に直撃し、グラディアルの下半身が爆発する。上半身は残ったが、残った上半身にもブレイズガンダムはビームライフルを撃つ。
狙いはビームライフルであり、ブレイズガンダムが撃ったビームはライフルに直撃し、グラディアルの戦闘力を無力化させる。
これで残りは深緑のグラディアルだけだとセインは深緑の機体を見据えた。
「駆け引き上手だね、坊ちゃん。その様子だと恋の駆け引きの方も得意かい?」
深緑色の機体から調子のいい声で通信が届く。恋!?セインはドキッとした。恋は……
「恋は分からない!」
セインは真面目に答えた。すると深緑のグラディアルは奇妙な動きをしだし、通信からは笑い声が聞こえた。
「笑うな!」
セインは真面目だった。真面目に答えたのに、笑われたのが許せなかった。
「いやいや、ごめんごめん。真面目に答えるからさ。ついね」
深緑のグラディアルのパイロットは謝罪したが、セインはあまり許す気にはなれなかった。
「んじゃ、この戦いが終わったら、恋の手ほどきでもしてやるよ、坊ちゃん」
深緑のグラディアルのグラディアルが動き出す。ビームライフルを構えながら、突進。だったら、とセインは敵から逃げるような挙動をブレイズガンダムに取らせた。
「やっぱり、そう来るか、坊ちゃん」
深緑の機体は追うということを止め、その場に立ち止り、ブレイズガンダムを狙う。
「止まった、だったら」
ブレイズガンダムは逃げる挙動を止め、深緑の機体を中心に円を描くような機動をしながら、ビームを撃つ。
「相手にあわせてばっかりじゃ駄目だぜ、坊ちゃん」
深緑のグラディアルはそれを回避し、ブレイズガンダムに突進してくる。攻撃のパターンの切り替えが速い!?セインは慌てて、敵から逃げるような挙動をブレイズガンダムに取らせるが、その瞬間、深緑のグラディアルは止まり、精密射撃をブレイズガンダムに浴びせる。
「もう一つ忠告、パターンが一つじゃ女の子は寂しがるよ」
深緑のグラディアルのパイロットは、ふざけた態度であったが冷静だった。
「クソ」
セインは、相手の動きを読むことが難しいと感じ、少し強引に攻めることにした。シールドを構えながら、ビームライフル連射し、突進したのだ。
深緑のグラディアルは当然、避けて、ブレイズガンダムから逃げる。
「忠告、強引なのは悪いこととは限らない。でも強引すぎるのは、良くないね」
突然、深緑のグラディアルは方向転換し、ブレイズガンダムの方に向かって、突進してくる。セインは、あっ!と思った。
自分の機体も加速して、その上で相手の機体も加速しながら突っ込んでくる、この状況で相手の機体の攻撃を回避できるほどの技量をセインはまだ持っていなかった。

 
 

深緑のグラディアルがビームサーベルを抜き放ち、ブレイズガンダムをすれ違いざまに切る。ビームの刃はバリアによって阻まれ、ブレイズガンダムにはダメージはなかった。
「ま、強引に迫るとこういう手痛い反撃を食らう羽目になるから気をつけなよ、坊ちゃん。ま、坊ちゃんは頑丈みたいだから平気そうだけどね」
そういうものかとセインは理解した。なるほど女子は難しいぞ。と戦闘とは関係ないことをセインは考えていた。それというのも深緑のグラディアルには殺意が感じられないからだ。
「ま、若いんだから、色々と考えなさいな」
深緑のグラディアルのパイロットが戦闘中とは思えないノンビリとした調子で言う。色々と考える。その言葉を聞いた瞬間にセインはハルドの言葉を思い出した。
「お前、頭悪いから、考えない方がいいかも」
ショックだったセリフだったので、鮮明に音声付きで憶えている。そして、この言葉を言われた直後にハルドから最後に取るべき戦術を教わったことを思い出した。
「うおおおおおお!」
セインは唐突に雄たけびをあげ、ブレイズガンダムを深緑のグラディアルに突進させた。最大加速、これ以上は出せない加速である。
「だから、強引じゃダメだって」
深緑のグラディアルのパイロットは仕方ないと言った調子で、ブレイズガンダムの突進をひらりと躱す。対して、ブレイズガンダムは最大加速のまま無理やり方向転換し、深緑のグラディアルにビームライフルを連射する。
深緑のグラディアルはそれも軽く躱すが、その次の弾丸のように突進してきたブレイズガンダムは回避できなかった。ブレイズガンダムはタックルで相手に抱き付くように掴まると、機体のパワーに任せて、グラディアルを締め上げる。
「マジ?」
深緑のグラディアルのパイロットは唖然とした声を出した。なぜなら機体がミシミシと悲鳴を上げているのだ。
「いや、押して押して押しまくるってのもあるけど、これは坊ちゃん!?」
セインがハルドから伝えられた最終手段それは単純に機体スペックで圧倒して倒せとそれだけである。セインとしてはそのアドバイスに対して色々と言いたいことがあったが、ブレイズガンダムはセインにしか、動かせない。
つまりブレイズガンダムを動かしている時点で個性を発揮しているので、パイロットの実力を発揮しているといことにもなるという良く分からない等式をハルドに突きつけられ、釈然としないがセインは納得したのだった。
「うおおおおお!」
セインはヤケクソだった。もう勝てば何でもいいという気持ちで機体性能に頼り切った。こう割り切ると案外楽だということに気づいた。
セインはブレイズガンダムのパワーを更に上げる。抱き付いたままパワーを上げたことで、深緑のグラディアルの機体に更なるダメージが入る。
「あ、ムリだコレ」
深緑のグラディアルのパイロットがそう言った瞬間、深緑のグラディアルの両腕の関節が抱き付かれ締め上げられる圧力に負けて、粉砕される。
「これで、なんか文句あるかー!」
セインはヤケクソだった。自分自身に色々と言いたいこともあったが、まずは相手だ。深緑の機体のパイロットからの通信では、拍手が聞こえた。
「いやー、若いっていいね。押せ押せもありだね、若いうちは。セイン・リベルター君」
深緑のパイロットは“坊ちゃん”ではなく、セインの名前を呼んだ。これは、つまりこのエースクラスのパイロットに認められたということかとセインは思い、コックピットの中で小さなガッツポーズをした。
「でも、女の子に押せ押せで行くのは危険だからやめた方が良いよ、セイン君」
深緑のグラディアルのパイロットから最後の忠告があったが、勝利の余韻に浸るセインは聞いていなかったのだった。

 
 

セインがグラディアルの部隊と戦っていた頃、海賊船亡者の箱舟号に危険が迫っていた。
「あ、所属不明のMSが三機こっちにきますよ」
ブリッジクルーをしているクランマイヤー王国の若者がノンビリとした調子で言う。
「敵だな」
ベンジャミンは冷静に答えた。
「敵だったら、何とかしないと!」
焦っているのはコナーズ1人であり、コナーズは船長のベンジャミンに直訴していた。
「逃げられるほど足の速い船でもなければ、武装が無いから、諦めるしかないだろう」
コナーズはベンジャミンの言葉に顔面蒼白になった。そんなやり取りをしている間にも、所属不明のMSは亡者の箱舟号に接近しており、ついには亡者の箱舟号の船体に乗ったのだった。
所属不明のMSは三機ともグラディアルである。その内の一機だけが朱色に塗装されていた。
朱色のグラディアルはリーダーらしく、ゆっくりと亡者の箱舟号のブリッジに近づくと、そのブリッジにビームライフルを突きつけた。
いつも自分たちがやっていることだと、コナーズは思い、そしてなんてひどいことをいつもしていたのだろうと、コナーズは考えた。
「降伏してアタシらの縄張りから出ていきな。そうすりゃ、ちょっとの金でみのがしてやるよ」
女の強気な声が聞こえた。これもいつも自分たちがやっていることだ、やはり自分たちは酷いことをしていたなぁとコナーズは思った。その時だった。
「しけた海賊に払う金なんざねぇな」
ハルドの声がコナーズの耳に聞こえた。いや、海賊仕事をしている時はブラッディ・レイヴンだが。
「誰だい」
朱色のグラディアルが周囲を索敵しようとした瞬間だった。朱色のグラディアルの頭部にビームガンが突きつけられた。
「海賊ブラッディ・レイヴン参上」
ビームガンを突きつけていたのはブラッディ・レイヴンのフレイドであった。
「さて、しけた海賊の相手をして、本命を逃すのはもったいないので、早々にご退場願おうか」
朱色のグラディアルのパイロットは機体を即座に後退させた。ブラッディ・レイヴンのフレイドは撃たない。
「お前たち、コイツをやるよ」
朱色のグラディアルのパイロットが叫んだが、それに応える機体は1つもなかった。全てブラッディ・レイヴンのフレイドが始末していたからだ。
「無駄な殺しはしない主義でな。全員生きてるよ」
ブラッディ・レイヴンは余裕を持った声で言う。朱色のグラディアルに乗るパイロットは驚愕するしかなかった。
いつの間に二機のグラディアルを仕留めたというのか、ブラッディ・レイヴンのパイロットとしての能力は想像を絶するものだと、朱色のグラディアルのパイロットは察した。しかし、引くことはできない。
「アタシらスカルドラゴン海賊団をなめるんじゃないよ!」
そう叫んだ瞬間に、朱色のグラディアルの両腕が吹き飛んだ。ブラッディ・レイヴンの撃ったビームガンの攻撃によってだった。
「まぁ、セインの相手にはちょうどいいくらいの腕だが、俺相手じゃな」
別に朱色のグラディアルのパイロットの腕が悪いわけではない、おそらくエースクラスの腕はあるだろうが、自分には遠く及ばないとブラッディ・レイヴンことハルドは思った。
「しかし、スカルドラゴン海賊団?頭の悪いガキが付けたような名前だな」
「ブラッディ・レイヴンだって似たようなもんじゃないかいっ!」
朱色のグラディアルのパイロットはまだ強気だった。ハルドは自信作のこの名前を馬鹿にされたことには少しイラッとしたので、殺そうかと思い、ビームガンの狙いを朱色のグラディアルのコックピットに定めた。その時だった。

 
 

「もうやめにしてくれんか?」
男の声が通信で、ハルドの耳に届いた。だが、それとこれは関係ないので、朱色のグラディアルのパイロットは殺そうと思った。だが、そういう訳にもいかない言葉が後から、聞こえてきた。
「ワシはスカルドラゴン海賊団、船長のリバーズ・ジャクソンだ。その朱色の機体に乗っているのはワシの娘だ。見逃してくれんか?」
それも関係ないとハルドは思った。だが、ベンジャミンがハルドに言う。
「空気を読んで止めておけ」
空気を読むのは大嫌いだが、空気を読んでおいた方が得な場面はある。ハルドは渋々ながら、自機のフレイドが構えるビームガンをホルスターに納めさせた。
「それで?今更、停戦を願い出るのか?」
ハルドは所属不明の船に向かって通信をする。返って来るのはリバーズの声である。
「ああ、そうだ。そちらの力を侮っていた。謝罪をしたいので、こちらの船まで来てくれんか?」
謝罪をしたいなら、そちらが出向くのが筋だろうとハルドは思った。そして何か狙いがあるだろうということも予想できた。
「罠だと思うぞ」
ベンジャミンもそう言うが、罠に敢えて乗るのも悪くはないとハルドは思った。ロウマ・アンドーではないが、遊びという奴だ。
「構わん。そちらに出向こう。ただし仲間は1人つけさせてもらう」
「ああ、構わない。こちらは謝罪する立場だからな」
こちらが仲間1人連れていくというのが、どれほどの大惨事を生むのか相手は想像もついてないようだ。ハルドはコックピットの中でほくそ笑んだ。
「では、そちらの船に向かうので、少し待ってくれ」
そうハルドが通信で言うと。相手は了承し、朱色のグラディアルと他二機のグラディアルもよろよろと船へと戻って行った。
「んじゃ、セイン君、さいなら」
深緑のグラディアルもボロボロの体で戻り、上半身だけになったグラディアルも必死になって自分たちの船へと戻って行った。セインも帰ろうと思いブレイズガンダムを動かすが、帰る前に持って帰らなければいけない荷物が二つほどあったことを思い出した。
ジェイコブとペテロの乗ったフレイドである。
「おーい」
ジェイコブの呼ぶ声がした。セインはジェイコブのフレイドを探すとジェイコブのフレイドは機体に付着したトリモチが硬化しており、どうにもならない状態だった。ペテロの機体も同様である。
セインはこのままではどうしようもないのでブレイズガンダムで2機を掴んで、船まで戻った。
船に戻ると、ハルド――今はブラッディ・レイヴンが腰に剣を帯び、胸に拳銃を4丁ほどホルスターで吊り下げている所に出くわした。
「相手の船に乗り込むんですか?」
セインは別に心配はしていなかった。通信で聞いていた限りだと、仲間を1人連れていくと言っており、その仲間ときたら、1人しかいない。
「イクカ」
仲間を連れていくとしたら、最強の戦力である虎(フー)しかいない。虎(フー)がハルドのフレイドに乗り込み、その後にハルドも乗り込む。
「じゃ、行ってくっから」
ハルドは軽い調子で言って、フレイドを発進させた。きっと大変なことになるんだろうなぁと思いながら、セインはハルドを見送った。
ハルドの乗るフレイドは真っ直ぐに所属不明の船に向かっていった。
「とりあえず、やられる前にやる方向性でな」
「ワカッタ」
ハルドと虎はコックピットの中で極めて簡単な打ち合わせをした。そしてハルドのフレイドは所属不明の船に近づく。すると、所属不明の船の外観が露わになった。

 
 

露骨な海賊船であるとハルドは思った。それなりに古い巡洋艦に髑髏のマークと髑髏の旗、宇宙では旗は、はためかないので推進器を使ってはためかせている。
「アレ、ヒツヨウカ?」
「海賊だったら必要だろ」
そうこうしている内にハルドの機体は船に近づくすると、船のハッチが開いた。ハルドは躊躇いもなく、船に乗り込む。それと同時に、ハッチが閉まる。入った場所はMSハンガーだった。ハルドは何の警戒もなくコックピットのハッチを開けると、コックピットから降りる。
格好はブラッディ・レイヴンの衣装だ。血のように赤い上着と、血のように赤い包帯を顔面に巻き素顔は全く見えないといういつもの衣装。
ハルドと虎がMSハンガーに降りると同時に、船内放送が始まった。
「がはは、罠にかかったな、馬鹿め!何がブラッディ・レイヴンじゃ、少し痛い目にあわせてやるわい!」
やはり罠だったが、想像がついていただけに、驚きなどあるはずがない。
「虎先生」
ハルドがそういうと、虎が消えたような速さで動き出し、物陰に隠れている男たちをひたすらに殴り倒していく。
「おい、ちょっとは驚くとかせんか!それよりも、ワシがなんか言う前にそっちから攻撃するのは無しじゃろう。空気を読まんか!」
空気を読むのは、ハルドは大嫌いであり、虎は空気を読むという言葉の意味が分からないのでリバーズの言葉は意味をなさなかった。数分も経たずにMSハンガーに隠れていた男たちは全員、虎の手で気絶した。
「では、そちらに出向くとしようか、せっかく素敵なおもてなしをしていただいたのだから、こちらもお返しをしなければな」
ハルドはブラッディ・レイヴンのセリフ回しで、リバーズに伝わるように言った。
「……ちょっと誤解があったようじゃの。一旦、帰ってくれんかの?こちらも、もう一度準備をし直すので……」
「ははははは……心配ご無用。こちらは満足しているので、このままのもてなしをお願いしますよ」
ハルドと虎は、MSハンガーから出て、この船のブリッジを目指す。
「ちょっと待って、勘弁してくれ」
船内放送では船長のリバーズの泣き言が聞こえてきているが、ハルドと虎は無視して進む。道を塞ぐ男たちは粗方、虎がなぎ倒してくれるがハルドが仕事をしていないわけではない。
愛用となってきた片刃剣の刃の無い方で男たちの頭やら腹やらを死なない程度の力で思いっきり殴っていた。
「いや、ちょっと暴力的すぎやせんか、お前たち?」
船長の泣き言は続いている。ハルドは何を言っているのかという感じだった。海賊なら暴力的でいいだろうに、そう思いながらハルドは男の頭を剣で殴っていた。
そうやって、とりあえず目につく人間を倒していくと段々と、かかってくる人間は少なくなってきた。しかし、代わりに1人の女がハルド達の道を塞ぐのだった。
「アタシはアイリーン・ジャクソン!情けない親父に代わってアンタらをぶちのめしてやるよ」
そう女が強気に言った瞬間にハルドは女の顔に蹴りを叩き込んでいた。直撃した蹴りは鼻の骨を折ったようで、女はうずくまり、手で鼻を抑えるが、血が鼻から大量に流れ出していた。
「虎先生、女蹴れないだろ?」
だから代わりに蹴ったという感じでハルドは言う。
「オンナ、カオ、ケル、ヨクナイ」
女の顔を蹴るのは良くないと虎先生は言いたいのだろう。やはり虎先生は紳士だなぁとハルドは思った。
「うう……アンタら、おぼえてなよ……」
女は気丈に言うが、顔は半泣きで鼻からはとめどなく血が溢れている。

 
 

「傷つけた相手のことを一々憶えていたら、記憶容量が持たんよ」
ハルドはそう言って、女の横を通り過ぎていった。虎も横を通りすぎるが女に対してペコリと礼をしてから去る。ブリッジは目前だった。
ハルドは躊躇なくブリッジに踏み込んだ。そして同時に虎が駆け込み、銃を持ってそうな人間を文字通り瞬く間に倒す。
「さて、こういうわけですが、リバーズ船長。どうするのがベストでしょうねぇ」
ハルド――今は赤い包帯に顔を覆われた怪人ブラッディ・レイヴンはリバーズ船長を前に口元だけニヤリと笑って見せた。

 

こんなはずではなかったとリバーズは、赤い包帯の見るからに危なそうな人間を前にして後悔していた。
リバーズ・ジャクソンは小太りの風采の上がらない男である。だが、海賊と言う肩書がつくと、そんな見た目にも貫禄がついた。
リバーズの家は代々、宇宙海賊をやっている。一番いい時期は軍艦なども襲っていたらしいが、リバーズの代では、そんな栄光も過去のもので、小さな民間の商船を襲って生計を立てているケチな海賊だ。
リバーズ自身は時代の流れと思って仕方なく過ごしていたが、娘のアイリーンは色々と思うところがあったらしい、海賊としてもう一度一旗をあげようと考えていたのだ。
そうは言っても、海賊として一旗を上げるにはスカルドラゴン海賊団は、もう弱小である。だから、虎の威を借る。ではなく、おこぼれを頂く。でもなく、それなりの海賊と同盟を結んで、ちょっと世間に名の知れた海賊になろうとしたのだ。
そこで選んだのがブラッディ・レイヴンの海賊団だった。今時、軍艦相手でも見境なく襲い掛かる血に飢えた野獣のような海賊たち。そんな海賊団と同盟を結ぼうと考えたのだ。
もちろんタダで同盟を結んでくれるとは思えなかったので、こちらの実力を少し見せて、できれば仲間にしてほしいぐらいの気持ちでいたが、アイリーンは対等の仲間になるために攻撃をしかけたわけだが、結果としてはこのざまである。
娘のアイリーンは哀れにも鼻の骨を折られ泣いているし、おそらく自分は殺される。そう思ったリバーズは、この経緯を全て、ブラッディ・レイヴンに話したのだった。

 

「本気で攻撃ってわけでもなかったと?」
ブラッディ・レイヴンはリバーズから船長席を奪って座っていた。当のリバーズは正座をさせられている。
「ちょっと、娘がやんちゃでして。少し本気になったというわけです」
ふーん、とハルドは思い。なんだかどうでも良くなってきた。どうでも良くなってきたついでに言っておくことがあった。
「あんた、海賊向いてないよ」
ブラッディ・レイヴンの口調も面倒なのでハルドは包帯を取りながら言った。
「それはもう重々承知で……」
リバーズは、自分が死ぬと確信した。噂ではブラッディ・レイヴンは殺す時、たまに包帯を取るのだ。そして包帯の下の恐ろしい素顔を見せ、相手が恐怖におののくところを殺すのだとリバーズは聞いていた。
噂ではブラッディ・レイヴンの顔面は醜くただれているという。しかし、リバーズが包帯を取られた後に見たのは美男子の顔であった。
「まぁ、あんたは海賊に向いてないって話しだ。娘さんやら他のは違うみたいだし、こっちの条件を飲むなら俺らの仲間にしてやってもいい」
美男子になったブラッディ・レイヴンは一方的に物を言う。だがリバーズには逆らう気力もなかった。

 
 

「あとはこっちが好きにさせてもらうだけで、残りはアンタの返事次第だが、どうする?」
そう言われて、リバーズに何かを考えて反論する余裕などあえう訳がなかった。リバーズは二つ返事でブラッディ・レイヴン――ハルド達の仲間となることを承諾したのだった。

 

アッシュ・クラインは私掠船作戦という無謀極まりない作戦が順調であり軌道にものってきたので、心配事が一つ消えて割と穏やかな日々を過ごしていた。
義勇兵の訓練はイマイチだが、海賊もとい私掠船作戦で実戦経験を積んでいるらしいので、訓練もそんなに真面目に考える必要もなくなり、肩の荷が下りていたのだった。だが、そんな日常が続くと無意識に考えてしまっていたのが、アッシュの失敗だった。
今日も今日とて、アッシュはぼんやりと義勇兵の訓練の面倒を見ていたが、そんなにやる気はなかった。海賊で経験を積むからどうでもいいと思っていたのだ。
そこにユイ・カトーがやって来た。珍しいなとアッシュは思ったが、特に気にしなかった。ユイ・カトーは別段変わった様子もなく、ノンビリと歩いてきていたからだ。
「どうかしたのか?」
アッシュはユイ・カトーに聞いてみる。するとユイ・カトーは急に引きつった表情になりながら、笑みを浮かべている。
「やってしまいました」
その言葉とユイ・カトーの表情だけで、アッシュは何となくわかった。アッシュは義勇兵に訓練の中止を告げると、立ち上がり、歩き出した。
うん、こんなことになる気はしていた。と、アッシュはトラブルが起きたことを理解した。
冷静に考えてハルドに任せていて、ここまで順調に来ていたのがおかしいのだと今更ながらに気づく。よくよく考えてみれば半分くらい頭がおかしい人間なので何をやってもおかしくはない。
アッシュの横をユイ・カトーが一緒に歩き、二人は工業コロニーの宇宙港を目指した。
「どのくらいヤバそうかな?」
「ほどほどです」
なら大丈夫かとアッシュは少し冷静になった。だが、それも工業コロニーに海賊船が二隻並んでいたところまでだった。
「仲間が増えたから」
ハルドはそれしか言わなかった。アッシュは色々と説明を求めたかった。なぜ髑髏のマークがついた船が二つになっているのか、そして見慣れないボロボロの人間たちはなんなのかと。
宇宙港には姫も来ていた。
「わぁ、海賊さんですね」
姫は何だか楽しそうにはしゃいでいるが、アッシュとしてはそんな気分になれなかった。
とりあえず、そいつらは誰なのかとアッシュは聞きたかったが、ハルドに聞いても無駄なのでベンジャミンを見つけて、ベンジャミンに説明を求めようと思い、動き出した。
「貧乏海賊団だ。ハルドが可哀想だからということで、保護をした。このコロニーに住まわせてやれと、ハルドが言っていたぞ」
ブリッジの船長席に座るベンジャミンは話が通じる相手なのでありがたかった。それにハルドとの付き合いも長いので、意図を読み取ることもできるようだった。
アッシュはベンジャミンの存在がありがたかったが、ベンジャミンの口から発せられた言葉には何のありがたみもなかった。

 
 

「ふざけんな!」
アッシュはとりあえず、キレて、ブリッジの蹴っ飛ばしても大丈夫そうなところを探して少し考えてから蹴っ飛ばした。蹴った足は痛かったが、少し冷静になった。
「ハルドの言い分では、海賊連中の何人かは戦力になるし、クランマイヤー王国の兵隊にしようという考えだそうだ。ちなみに海賊連中には住民票を用意して正式にクランマイヤー王国の国民にし、それから私掠船作戦のメンバーに加えるということだ」
本当にベンジャミンがいるとありがたいとアッシュは思う。よくよく考えてみると、ハルドは虎(フー)レベルでコミュニケーションが困難な時があるため、ベンジャミンがいなければ、全くハルドの意図が分からない時がある。
「ハルドなりの甘さを見せたということだろう、クランマイヤー王国の住民になれば、海賊をやめてもここで生きていく手段を見つけることが出来るし、海賊を辞めたがっていた人間にその機会を与えたということもあるだろう。
それに、正式に国民であれば、私掠船作戦が失敗しても、クランマイヤー王国の軍人だと言い張って捕虜になることもできる。今の時代、国籍不明、住所不定、身分証明無しの人間だったら捕まれば間違いなく極刑だからな」
うーむ、本当に頼りになるなベンジャミンはとアッシュは感心した。ハルドの考えをここまで明確に伝えられる人間がいるとは思わなかった。
しかし、ここで問題が生じていることにアッシュは気づいた。
「で、その住民票やらの作成はだれが?」
「それはもちろんキミだろう、ハルドがアッシュの仕事だと言っていたぞ」
いやいや、おかしいとアッシュは思う。自分は防衛大臣で住民票やらなんやらの仕事は自分の担当ではないはず。いや……防衛大臣というのはそういうのも仕事なのか?アッシュは訳が分からなくなっていた。
「ハルドは頭がおかしいのかな?」
ベンジャミンは首を傾げ、答える。
「3年見ない間にだいぶ頭がおかしくなったが、アイツの師匠に比べれば、まだ人間の思考をしている範疇だぞ。そんなにおかしいとも思わんが」
そうか慣れか、とアッシュは諦めた。諦めて住民票作成に必要なものはなんなのか政庁舎に務めるマッケンジーに、その場で連絡を取って尋ねるのだった。

 
 

結果的にスカルドラゴン海賊団の一味は、無事にクランマイヤー王国の国民となった。これを機に海賊を辞める人間も、それなりの数はいたが、多くは残って私掠船作戦に協力してくれるということだった。
ユイ・カトーの持論では働かない奴は働かせるであったので、スカルドラゴン海賊団の面々も平時は定職に就くことになり、私掠船作戦をする時だけ、海賊に戻るという生活になった。就職の斡旋はユイ・カトーが全て取り仕切った。
ユイ・カトーは仕事を紹介したことで、スカルドラゴン海賊団からは大いに感謝されたが、住民票を用意したアッシュには何の感謝もなかった。
スカルドラゴン海賊団の船長リバーズ・ジャクソンは海賊を辞めて、クランマイヤー王家邸のそばで、酒場を経営するようになった。リバーズの娘のアイリーン・ジャクソンは看板娘だが、海賊は辞めず、私掠船作戦にも参加する女海賊となった。
リバーズの店は“人魚と海の男”亭というあまり趣味の良い名前ではなかったが、リバーズは料理の腕が良く、アイリーンも美人の看板娘ということで評判の店となった。店にはベケットという名の男もおり、ギターやらピアノなど店内で音楽を奏でている。
アッシュが聞いた話では、このベケットというのはセインと一戦を交えた深緑のグラディアルのパイロットらしく、見た目は中々の色男であった。この男も海賊を続けるようだった。
この3人以外の海賊たちもクランマイヤー王国で上手くやっているようであるという話しがアッシュの耳には届いていた。一応、海賊たちの身元保証人はアッシュということになっているためである。
スカルドラゴン海賊団の海賊たちも今はクランマイヤー王国の国民で義勇兵にあたるから、アッシュの監督の範囲内でもあった。
アッシュとしては上手くいかないような予感がしていたものの、想像以上に海賊たちはクランマイヤー王国の空気や風土に馴染みやすかったようで、アッシュは一安心だった。
とまぁ、このような形でスカルドラゴン海賊団はクランマイヤー王国の内に組み込まれ、クランマイヤー王国はさらに戦力を増したのだった。

 
 

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