GUNDAM EXSEED_B_29

Last-modified: 2015-04-28 (火) 20:33:53

ハルドはレビーとマクバレルに呼ばれたので、とりあえずMS製造工場まで出向いていた。すると珍しいことにセインもいた。
「あ、どうも」
セインはハルドの姿を見るとぺこりと頭を下げる。ハルドは手で、よう、と挨拶するだけだ。
「で、レビーとマクバレルは?」
2人とも姿を見せない。普段は姿を見せなくてもいいのに顔を出す奴らなのにも関わらずだ。
「……ロウマ・アンドーのことは……」
「なんだ、殺して欲しかったか?」
そう言うとセインはうつむいて言う。
「いえ、自分の手で殺します」
あ、そう。とハルドは流した。深く追求しても楽しい話しにはならなそうだったからだ。
そうして待つこと数分、汗をかきながらレビーがやって来た。そしてそれに遅れてマクバレルが急ぐ様子もなく悠々と歩いてくる。
「いやーすいません。お待たせしちゃって。とりあえず単刀直入に、新型と新装備が完成したのでお披露目です」
そう言うと、レビーとマクバレルはハルド達を先導していく、すると辿り着いた場所にはバックパックだけがあった。
大型の翼を持つバックパックであり翼にスラスターが内蔵されている他、ミサイルポッドらしき物とビームキャノンの存在が伺える。
「ブレイズガンダム専用のバックパック、“ゼピュロスブースター”です」
レビーは自慢げに名前を言ったが、マクバレルは不機嫌そうだった。
「なにがゼピュロスだ。神話から名前を取るなんて気持ち悪い……」
マクバレルは聞こえるようにぶつぶつと言っていた。当然レビーにも聞こえる。
「エアードインパクターとか、何となく音だけで機体名とか装備の名前を決める教授よりはマシだと思うんですけど」
レビーは片手にスパナを握り、笑いながらマクバレルに近づく。よくよく見るとレビーの目は笑っていない。
「だいたい、フレイドの時は名前を決めるのは教授に譲って、その時は私は何一つ文句を言わなかったじゃないですか!それなのに私が装備を決める時は文句ばっかりって、どういう人間性ですか!?」
「ふざけるな、フレイドの時、キミだって文句を言ってたろう。『教授は音だけで決めるからセンスが無い。神話のエッセンスを入れないと駄目だ』って、きみも散々文句を言っただろう」
そう言った瞬間、レビーのスパナがマクバレルの頭を捉えた。
「私は決まってから文句を言いましたー、教授は決める時に文句を言いましたー、そのちがいですー」
レビーは二発目のスパナをマクバレルの頭に叩き付けた。ときどき思うが、事故にならないのが凄いとハルドとセインは素朴に思った。
「あーもう、面倒なんで、セイン君はこれ付けたブレイズガンダムに乗って、宇宙に出てテスト。隊長はそこらへんにある新型機を見つけて、それに乗ってください。運が悪いことにここにいる教授先生が音で何となく名前を決めた“キャリヴァー”って機体です」
こいつらも大概、適当だよな。とハルドは思いながら、言い争っているレビーとマクバレルを放って、新型機を探すことにした。
「じゃ、僕は宇宙に出るんで」
セインはレビーとマクバレルの喧嘩を無視し、ブレイズガンダムに乗り込んでいった。ハルドの方はというと、さして苦労もなく新型機を見つけることが出来た。
「なるほど、これか」
ハルドは1人呟き、機体に目をやる。機体色は全体がグレー、おそらく機体色を決める段階でも揉めているのが想像できた。
とりあえずの機体の特徴は、両肩にスラスターを内蔵した翼が装着されていること、そしてその翼を多少小型にしたものが腰にも装着されている。背中を見ると機首になりそうパーツが見えたので可変型の機体だとハルドは予測した。
後、見て分かるのはモノアイであることライフルとシールドを持っていることぐらいだ。他は乗って見なければ分からない、ハルドは私服のままキャリヴァーという名前らしき機体に乗り込んだ。
乗り込むとフレイドよりもコックピットは狭く、ごちゃごちゃしている気がした。フレイドから機種転換するとパイロットは困りそうだとハルドは思った。
ハルドは適当にコックピットの中を弄り、武装などを確認する。すると可変機であることがハッキリとした。

 
 

「まいったな。俺って可変機とか乗ったことないんだよなぁ」
まぁ今更言ってもしょうがないと思い、ハルドはコックピット内で変形形態について確認する。
基本は寝ただけ変形という奴かとハルドは理解した、両肩と両腰の翼が変形時にきちんと翼として機能し、機首部が展開されて頭部を隠し、戦闘機に近い形態になるとハルドは把握した。
武装に関しては、ビームサーベル、そしてミサイルランチャーがバックパックに付いている。MS時は打ち上げ式だが、可変時は水平方向への発射になるようだった。後、機首部にはビームキャノンが内蔵されている。
機首のビームキャノンは可動域広いようでMS形態でも使用が可能ということがハルドはわかった。
これで機体についての把握は終了である。後は実際に動かすだけだ。
「ハルド・グレン、キャリヴァー、テストに出すぞ」
ハルドは周囲で作業をしている技術者に注意を促すためにマイクで、そう言うと、機体をスラスターで浮かせた。
「思ったより軽いか?」
ハルドはキャリヴァーのスラスターを噴射させた状態、ホバリングの状態で機体を進ませると、宇宙港を目指す。
ハルドは人が少なくなってきたところを見計らって、スラスターの噴射を強め速力を上げる。それと同時に肩の翼も自動で展開された。すると、1G環境下でも安定してスラスターで移動できた。
「なるほど、肩の翼の役割はMS時の安定翼で、1G環境下での飛行可能機体か」
ハルドは少しずつこの機体が掴めてきたような気がした。ハルドはキャリヴァーを飛行させ、宇宙港に辿り着くと、ハルドはマイクで自分の声を聞かせると、何の手続きもなく、ハルドは宇宙に出ることができた。
「顔パスは楽でいいぜっと」
ハルドはセインの機体を探す。するとセインのブレイズガンダムは単純な動きを繰り返してバックパックが装着された機体の挙動を確認していた。
ハルドはからかってやろうとビームキャノンを使うことにした、キャリヴァーは背中に収まっている機首部を肩まで引き出すと、その機首に内蔵されているビームキャノンを、セインのブレイズガンダムに向けて発射した。
ビームは一直線にブレイズガンダムに向かって行き、直撃する。ブレイズガンダムはフルアーマー(仮)を外されているので、バリアがビームを防いだ。
「注意力散漫だな」
ハルドは通信でセインに話しかける。セインとしてはたまったものではない。
「死んだらどうするんですか!?」
「死んでないんだから、どうでも良いだろ。まぁそれは良いとして、慣らしに付き合え」
慣らしに付き合うと聞いてセインは嫌な予感しかしなかった。
「いや、僕は機体のテストがあるんで……」
「機体のテストってのは実戦形式でやるんだぞ?だから2人呼ばれたんだろうが」
もちろん嘘であるが、その辺りの事情に詳しくないセインは簡単に騙せた。
「……わかりました!やればいいんでしょう!?」
お、ヤケクソになったな。これをからかうのが面白いのだとハルドは知っていた。
「そ、やればいいの。俺の方はお前の機体のバリアが切れたら勝ちで、そっちはこの機体の頭か両腕、両足のどこかに弾を当てれば勝ちだ。もちろん胸に当ててコックピットに直撃させて俺を殺してもお前の勝ちだ」
「物騒なこと言わないでくださいよ」
とは言っても、本気で戦えば当てられるかもしれないとセインは思っていた。
このバックパックの性能は極めて良い。さっき何度か試してみたが、機体の機動性が格段に上がり、バリアのエネルギーゲージも上昇している。おそらく追加のパワーパックが内蔵されている。それに武装も増えたやってやれないこともないはずとセインは思っていた。
「んじゃ、行くぞ」
ハルドが開始の合図をした。その瞬間だった。ハルドの機体がビームサーベルを抜いてセインの目の前にいた。
速すぎっ!セインは対応を考えている暇もなく、ビームサーベルに斬られる。そう思ったが、ハルドはビームサーベルの刃を止めていた。
「流石にセインく~んには、今のはズルかったな、ごめんごめん。今のなしで」
そう言うとハルドの機体は背を向けてブレイズガンダムから逃げていく。セインは思った。明らかに、おちょくられていると。

 
 

「待てーっ!」
セインのブレイズガンダムのバックパックから青い炎が噴射され、ハルドのキャリヴァーを追う。
追いながら、セインのブレイズガンダムは追加されたバックパックに内蔵されたミサイルランチャーからミサイルを発射する、複数のミサイルはキャリヴァーに向かって一直線に飛んでいく。
「えーと、チャフは……これか」
追われるキャリヴァーのふくらはぎの部分が開き、チャフがばら撒かれる。チャフの効果により、ミサイルは進むべき方向を狂わされ自滅する。
セインはミサイルがチャフで妨害されたことに一瞬、気を取られた。そして、これが駄目だと思いだした。そしてそれを思い出した時には、チャフの向こう側からビームが飛来し、ブレイズガンダムに直撃する。
「はい、セイン君。今のは何点でしょう?」
「100点です。コックピットに直撃してました」
セインは奥歯をぎりっと噛みしめる。普通の機体なら今ので死んでいたということだ。ハルドはそれを言いたいのだ。
「自分の攻撃が当たると思わないことだな。半端に当たると思ってるから、防がれた時に驚くんだ。ほら、続きだぞ」
ハルドのキャリヴァーはまだ動き続けていた。脚を止めているのはセインのブレイズガンダムだけだ。新しいバックパックを貰ったというのにこのざまでは。
「うおおおおおお!」
セインはブレイズガンダムを最大出力に背中のゼピュロスブースターも最大出力で噴射させる。セインの身体に凄まじいGがかかるがセインはそれに耐え、ハルドのキャリヴァーを追う。
「熱くなりやすすぎだっつーの」
ハルドのキャリヴァーがバックパックからミサイルを発射する真上に打ち上げられたミサイルは一定の位置に達してから降下し、相手を狙う。この場合の相手とは当然ブレイズガンダムだ。
「それなら!」
セインは機転を利かせた、高速で動く今の状態ではミサイルを回避するような高度な戦闘機動は出来ない。ならば、撃ち落とす。
セインはそう判断し、ゼピュロスブースターに内蔵されたミサイルのロック向かってくるミサイルに設定し発射する。ミサイルをミサイルで迎撃する。
「勿体ねー」
ハルドはそう言う回避方法もあるが、ミサイルの無駄になるからやめた方が良いと思った。
「ハルドさん!」
セインの叫びと共に太いビームの線がハルドのキャリヴァーの横を通り過ぎる。ゼピュロスブースターに装備されているビームキャノンのビームである。
セインのブレイズガンダムは両脇の下からビームキャノンを抱えて持ちながら、それを連射しつつ、ハルドのキャリヴァーに向かってくる。
「それ当たったら、俺が死ぬって分かってんのかね、彼は」
ハルドはキャリヴァーを変形させて逃げることにした。高速移動の最中、機体の形態が変わり、キャリヴァーは戦闘機のようなフォルムに変わる。
「さて、追いつくか?」
キャリヴァーは最大の速度でブレイズガンダムから逃げる。対して、ブレイズガンダムはバックパックの力も使いながらそれを追う。
驚くべきことに、両者の距離は明らかに縮まり始めていた。
「可変機に追いつくって、どんだけバケモノ性能のMSだよ」
ハルドはブレイズガンダムの訳の分からないほど高いスペックに戦慄していた。おそらく、機体性能は時代が違うとしかハルドは思えなかった。そしてハルドがそんなことを思っている間にも、キャリヴァーとブレイズガンダムの距離は目と鼻の先になっていた。
追いつく、セインがそう思った瞬間だった。
「鬼ごっこをしてるんじゃないんだぜ」
キャリヴァーが変形し、急制動がかかる。セインのブレイズガンダムはキャリヴァーに追いつくどころか、追い越してしまった。

 
 

「ばーか」
ハルドがそう言うと同時にキャリヴァーはビームライフルを発射する、ブレイズガンダムは高速で移動しすぎていたため、回避機動を取ることもできず背後にビームが着弾する。
「くそっ!」
セインが慌てて機体を立て直し、振り返ると、そこにはキャリヴァーはいない。セインはしまったと気づく。キャリヴァーは変形し、ブレイズガンダムの後ろに回り込み、機首部のビームキャノンを発射する。
セインはそれに対しても反応できず、ブレイズガンダムはビームの直撃を受ける。
「くそ、くそ」
セインは悪態をつくが全く相手になっていないことに歯噛みすることしか出来なかった。次に相手はどう動く、セインの頭はそれでいっぱいになりかけていた時だった。
「セイン、上だ!」
ハルドの声が聞こえてセインは上を向いたが、その直後、横からビームが飛来し、ブレイズガンダムに直撃する。
「くそ、卑怯だ」
セインがそう言った、瞬間、目の前にはハルドのキャリヴァーがいた。最初と同じ状況。セインはこの状況に対してビームサーベルを抜き放つと、目の前のキャリヴァーを薙ぎ払った。
だが、ハルドの操るキャリヴァー踏み込み、薙ぎ払いを潜り抜け、ビームサーベルでブレイズガンダムに斬りかかる。
ブレイズガンダムは回避するすべもなく、ビームサーベルの直撃を受ける。それと同時にバリアが弾けた。
「俺の勝ちだな」
ハルドは余裕の調子で言う。セインとしては言いたいことがあった。
「あの、『上だ!』は卑怯じゃないですか?」
これはセインとしても譲れない点である。それに対してハルドはというと。
「お前は俺の言うこと信用しすぎ、あれか、俺が死ねって言ったら死ぬのか?俺が嘘ついたことより、自分の状況判断能力の低さと対応能力の低さを反省しろ」
なんだか、いつもこんな感じでやり込められている気がするがセインは我慢するほか無かった。
「まぁいいや。テストもいいだろ。さっさと帰ろうぜ」
そう言うとハルドのキャリヴァーはノンビリとした動きで工業コロニーの宇宙港を目指して動きだした。それに続くようにブレイズガンダムも。しかし、セインには少し心配事があった。
「レビーさんとマクバレルさん、喧嘩してましたけど大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だろ。あいつら同棲してるぐらい仲良いし」
は!?セインはハルドの一言に驚愕した。同棲?あの2人が?いや冗談だろうとセインは思ったが、頭が混乱してきた。
セインの混乱はさておき、ハルドのキャリヴァーとセインのブレイズガンダムは無事に宇宙港に到着し、そのままMS製造工場まで戻った。
セインはレビーとマクバレルを見る。2人は別々の場所で仕事をしている。険悪な雰囲気は感じられないが、同棲、この単語がセインの頭を離れなかった。
2機が戻るとレビーとマクバレルは2人並んでパイロットの二人が降りてくるのを出迎える。
「どうだった?」
レビーが聞くがセインの頭はそれどころではなかった。
「反応が過敏すぎるな。もう少しマイルドにした方が乗りやすいか。あとは、防衛用の機体に可変機は向いてないからやめとけってだけ、基本的には良い仕事だったよ。人型での動きもスムーズで可変機にありがちとか言われる、関節の嫌なカクつきとか全くなかった」
ハルドはスムーズに答え、後でレポートにして渡すとレビーたちに言っているが、セインの頭は同棲だけで手一杯だった。
「ブレイズガンダムのほうはどうだ」
セインが答えようとしたが、頭の要領が別のことにさかれているので、考えがまとまらない。

 
 

セインが中々答えないので、相手役のハルドが答えることとなった。
「バックパック自体の性能は問題なしだ。武装も調子が良さそうだし、最大推力時には可変機のキャリヴァーを追い越すくらいの速度が出る。
だが、少し重いかもしれないな。遠距離では問題ないが、中から近距離だとバックパックの重さと推力に機体が振り回される可能性があるが、そこはパイロットの技量しだいってことで、なぁセイン!」
「はい!」
セインは良く分からず返事をしてしまったが大丈夫だろうかと、周囲を見回すが大丈夫そうなので安心した。
しかし同棲か、同棲ということはこの2人は、そういうことをしているわけで、そう思ってレビーとマクバレルを見ると何だかセインは恥ずかしくなってきた。
うーん、きついきついぞ、この場は、セインはなぜかこの場から逃げ出したくなっていた。
「セイン君、何か聞きたいことある?」
レビーがセインに尋ねる。セインの頭は混乱しており、あ、聞いても良いなら一つききたいことがの調子で言ってしまった。
「同棲ってどんな感じなんですか」
セインは思わず言ってしまったことに言って、数秒経ってから気づいた。ハルドはお前って本当に馬鹿なんだなという目でセインを見ており、レビーとマクバレルはキョトンとした表情をしている。
「別に普通だけど。私たち同棲してるって言ってなかったかな?」
レビーは何でもないことのように言うが思春期の男子にとっては普通が一番困ると言いたかった。それに聞いてないぞとセインは思った。
「はいはい、おバカさん。頭を冷やそうねー」
ハルドはセインの後ろ襟を掴むと引きずって行く。
「じゃ、2人ともお疲れさん」
ハルドはレビーとマクバレルに別れの挨拶をするとセインを引き連れて帰っていく、そして帰る途中、人魚と海の男亭に寄ったのだった。

 

「いらっしゃいませー」
店に入ると、ウエイトレス姿のミシィがいた。セインはそれにも驚愕した。
「ミシィ、なんで!?」
セインは驚きながらもミシィの服装を冷静に観察していた、少し胸元の空いた白いブラウスに、フリルの付いたミニスカート。長い黒髪はポニーテールにまとめている。これはこれで大問題だとセインは思った。
「ヒマだから、昼間だけ働かせてもらってるの。アイリーンさんからも接客が良いって褒められるんだから」
接客が良い?接客ってどんな接客なんだ!?セインは頭が爆発しそうだった。
「ミシィ、コーラ2本、ツケで」
「はーい、承りましたー!」
コーラは瓶の物が2本すぐに来た。ハルドは栓抜きで瓶の王冠を外すとコーラに口をつける。対して、セインはボーっとしている。
ハルドはセインを正気に戻すために冷たいコーラの瓶をセインの首筋に押し当てた。すると悲鳴をあげてセインは正気に戻った。
「お前ねぇ、レビーも若いけど大人の女なんだから同棲したり、色々してるっつーの。いちいち驚くなよ。おまえ思春期にしても、ちょっと性欲が変な方に走りすぎ」
そんな説教をハルドから受けていると、ベケットがセインの存在に気づいて同じ卓に付く。
「なに、セイン君。とうとうやっちゃった?」
ベケットが興味津々だったので、ハルドが説明するとベケットは大いにウケた。
「そうかそうか、同棲に反応しちゃったか、若いなぁ、ホント♪」
2人の大人はどちらもセインに対して馬鹿にするような感じだが、セインにも言い分はある。
「だって、同棲ですよ!気になりませんか!?」
そう言われても、2人の大人は平然としている。
「あのなぁ、男と女だぞ。何があったって不思議じゃねぇだろ。もともと大騒ぎするような話しでもねぇの。それに本人たちが大っぴらに話してないんだから、それをこっちが勝手に大騒ぎするのは野暮なの。分かるか、お前は最高に野暮ったい野郎なんだよ」
そう言うと、ハルドはコーラを飲み干し、追加をミシィに頼む。セインはベケットに助け舟を求めるがベケットも肩を竦めながら言う。
「確かにセイン君は野暮だったかなぁ、同棲を隠してないにしても大っぴらにしてないんだから、勝手に騒ぐのは相手に失礼だし、妄想するのもほどほどにしておいた方が良いかなぁ。
後ね、同棲を大っぴらにしないってのは別れた時、気まずくならないようにするためでもあるからね。本人たちじゃなく周囲も破局したと分かると気まずくなるから」

 
 

ああ、くそ、なんで大人は分かってくれないんだとセインはもどかしい思いに駆られていた。同棲、セインにとっては魅力的なキーワードである。
「うーん、でも、同棲ってことは赤ちゃん出来てすぐばれるから、意味ないんじゃ――」
そう言った瞬間、ハルドの手刀がセインの脳天を捉えた。
「そういう詮索や物言いが野暮だってんだよ!」
ハルドはとりあえずこのバカな弟子の脳味噌をスッキリさせ何も考えられなくなるよう、クランマイヤー王国を一周するまで帰って来るなという修行を課したのだった。

 

その夜、レビーはテーブルの上で野菜を切りながら、マクバレルに話しかけていた。
「同棲ばれちゃったかな」
「別にばれても構わんだろう。そもそも隠してもないしな」
「大っぴらにもしてないけどね」
レビーは車椅子のため、野菜を切るのにキッチンでは何かと不便であるため、テーブルを使っていた。レビーは野菜を切り終えると、鍋の中に順番など気にせずに入れる。機械に関しては繊細だったが、料理に関してレビーは大胆だった。
「まぁ、ほとんどが気づいていたのではなかろうか」
「セイン君が気づくのは無理だったみたいだけどね」
家の中では2人の呼び方はレビーとチャールズに変わる。同棲をしているといってもたいした話しではない。ただ相性の良い相手とずっといるだけの話しだ。
思春期男子の妄想を刺激するようなことも当然してはいるが、それについては語ることもない。
レビーが同棲生活で一番楽しいのは夜ベッドに入る時で、この時ばかりはマクバレルが紳士になり、車いすのレビーをベッドに乗せようとするのだが、毎回それが上手く行かずに、いつも言い訳をする。
レビーはマクバレルがする言い訳を聞くのが一日の一番の楽しみだった。同棲と言ってもその程度なのだ。
残念ながら、思春期の少年の燃え上がる心を満たすようなものはなく、レビーは心の中で何となくセインに謝ってしまった。

 

「同棲ねぇ」
アッシュはハルドと酒を飲みながら、何を下らないことをといった表情を浮かべていた。
「同棲の話しもいいが、偵察はどうした?」
アッシュはハルドに頼んだ仕事についてきいてみたが、ハルドは完全に忘れていた。
「明日行くよ、明日、セインと一緒にな」
「絶対だぞ」
アッシュはハルドに念を押すと椅子にもたれかかる、何か思うところがありそうな表情を浮かべる。
「しかし、同棲。同棲かぁ」
「なんだ、アッシュ大先生も思春期のガキ並に妄想か?」
ハルドはからかって言ってみたが、アッシュの思うところは違ったらしく、急にとんでもないことを、ハルドを見て尋ねる。
「きみの女性経験は何人ほどだ?」
アッシュが普段とは違い、とんでもないことを言いだしたのでハルドは目を丸くしながらも、とりあえず答えた。
「1人だけど」
そう言うと、アッシュの表情が一気に暗くなった。
「いや、1人だけど、したのは3年前で、それ以降はしてないぞ」
そうハルドが付け加えてもアッシュの表情は暗いままだった。暗い表情のままアッシュは言う。
「僕は21だが経験無いんだが、どう思う?」
どう思うと言われても、ハルドは困る。
「ああ、童貞なのか、としか思わねえけど」
そうハルドが言った瞬間、アッシュは酒の入ったグラスを机に叩きつけ、言う。
「そうだよ、童貞なんだよ!」
いや、キレられても困るとハルドは思った。
「くそ、3年の監禁がなければ僕だって恋愛して色々いたしてたはずなのに……」
どうしたんだ、コイツはとハルドは思った。
「ムラムラでもしてんの?」
「そりゃするよ!冷静に見えるが、女性を見たのも3年ぶりなんだぞ。色々妄想するだろ普通!」
監禁された経験が無いので、ハルドは分からないが、とりあえずキレるのは止めてほしいと思った。

 
 

「ああ、もう彼女とか欲しいし、恋愛経験とかしたい」
「すればいいじゃん」
ハルドは簡単に言った。別にアッシュの見た目は悪いわけではない。むしろ良い方だ。監禁生活で痩せこけた体も今は元に戻っているわけで、アッシュの顔は精悍で男前と言った感じだ。
「そんな簡単にいくか!」
だからキレるのは止めてほしいとハルドは思った。
「ぶっちゃけると、アレがしたい」
あ、飲み過ぎだコイツとハルドは思ったが放っておくことにした。
「アレがしたいんだよ」
そりゃハルドだってアレがしたい時はあるが……
「自分で処理して一旦、冷静になろうぜ」
ハルドは解決策を提案したつもりだが、いまいち効果はなかった。
「1人でするのと、アレは違うだろ!というか1人でしても何か虚しくなるんだよ、最近」
重症だなぁとハルドは思った。
「ところで、実際、どんな感じなんだアレって、経験者の談を聞かせてくれないか?」
あ、すごい剛速球が来たぞとハルドは思った。答えたくはないが答えないと面倒になるだろうと思ったので、仕方なく答えることにした。
「俺の場合はなんていうか満たされた感じがしたな、お互いの欠けている部分が埋まっていくような充実感と満足感、そして愛しい相手と密着してるってことに幸福感を抱いた」
ハルドは抽象的かつ美化してその時の気持ち言った。
「くそ、いいなぁ、僕もしたいなぁ」
アッシュは酒をひたすらに飲む。
「やっぱり恋愛だよ恋愛。恋がしたいんだ」
じゃあ、すりゃいいだろとハルドは思い、ハルドも酒を飲む。
「ところで、話しは変わるが、レビーとマクバレルは、アレはどうしてるのかな?」
話し変えんなよとハルドは思ったが、アッシュは半ば酔っ払いなので仕方ない。しかしアッシュを酔っ払いと思うハルドも実際は相当に酒が回っていた。
「さぁなぁ」
想像はつくが考えるだけでも人間として最悪な気もハルドはしていた。
「しかし付き合ってたら、アレはするわけで、実際どうするんだろうな。口でするのかな?」
「口じゃね。いや、でも脚が動かないだけって聞いたような気もするし、アソコは普通なんじゃねぇ?」
男2人、最悪の会話をしていた。
「セイン君とミシィさんはどうだろう、してるのかな?僕はしてないと思うが」
「セインは無理だろ。頭悪いから身近な人間の好意に気づかないと思うね」
「あ、やっぱり?かわいい幼馴染なんて最高なのに気づかないなんて勿体ないなぁ。あ、なんか腹立ってきたぞ、セイン君に、これ嫉妬だな」
ハルドも何だか楽しくなってきていた。セインの癖に生意気だぞと思った。
「2人がいたし始めたら録画しようぜ」
「録画して、どうするんだ?」
「お前が1人でいたす時に使え」
そうハルドが言うと、アッシュはゲラゲラと笑った。もう何が何だか分からんとハルドは思った。

 
 

「とりあえず、女を見つけようぜ、おんな」
「名案だな、候補は?」
アッシュが興味津々で聞く。
「ユイ・カトー」
「貧相なスタイルの女は嫌だ」
「セーレ・ディアス」
「運が悪そうな女は嫌だ」
「メイ・リー」
「誰だっけ、それ?」
「アイリーン・ジャクソン」
「気が強そうで嫌だ」
全滅じゃねぇか、とハルドは知っている女の名を挙げてみたが、駄目そうだと分かった。
「僕はあれだな、この屋敷の近くにパン屋があるだろ、あそこのパン屋の子がいいな」
パン屋の娘?とハルドは思い出す。確かにパン屋の娘はいたなぁと記憶を掘り起こすことに成功した。確か素朴な感じの可愛い女だ。栗色の長い髪を編んでお下げにしている。
「なに、ああいうのがタイプなの?」
「悪いか?」
悪くはねぇよ、じゃあ、誰だとハルドは思い当たるタイプの女を挙げる。
「第1農業コロニーで馬の牧場やってる家の娘」
真面目そうに働いている所が印象的な女だ。顔はとびぬけて美人という訳ではないが、普通に綺麗な顔だ。確かくすんだ金髪を肩までのショートカットにしているが派手な感じはなく地味だ。
「うん、その子もタイプだ」
「じゃあ、屋敷近くの小学校教師も好きじゃねえの」
「あ、見たことないが、どんな感じだ?」
「えーと、黒髪ロングで清楚な感じ、ピアノ弾いてるお嬢様っぽい」
「僕の好みにジャストミートだ!」
なるほどとハルドは思った。アッシュは清楚か素朴な感じの女が好み、とハルドは記憶した。
「3人も候補いるんだったら、大変だな」
「ああ、大変だ。これから作戦会議をしなくてはな」
そうアッシュが言い出し、夜中じゅうハルドとアッシュはアッシュの恋愛成就のための作戦を練り始めた。
しかし、結局、この夜に練られた作戦が実行されることはなかった。理由は単純にアッシュにあり、アッシュが女性に奥手でヘタレであることが判明し、作戦は実行できなかったのである。
「まぁそうだろうな」
そうハルドは思い、結局アッシュの恋愛関係の問題は解決を見ずに終わったのだった。

 
 

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