GUNDAM EXSEED_B_40

Last-modified: 2015-09-05 (土) 21:11:45

セインがロウマに捕まってから、すぐにクランマイヤー王国では会議が開かれた。それはどうやってセインを救い出すかである。
「俺はセインがそこまで好きじゃねぇし、いなくても構わねぇけど、ロウマの野郎にしてやられたのがムカつくから、全力を出すぞ」
会議の開始の言葉はハルドのそれだった。クランマイヤー王国としてはほぼ国民同然に加え仲間である少年をさらわれたのが、許せないといことだった。
「では、作戦としては歩兵部隊を投入して、セイン君を捜索、救出ということでいいですか」
クリスが大まかな案を出すと、直後にハルドが否定の声を放つ。
「手ぬるいな。こっちは首都攻撃されてんだ。もっと派手に行こうぜ」
クリスが嫌な予感を感じているのを隠さない表情でハルドに尋ねる。
「MSでの単騎突撃で思い知らせる」
それは作戦じゃないとクリスは言いたかったが、ハルドは言葉を続ける。
「こっちは舐められてんだ。少しは相手に思い知らせてやらねぇとな。幸いこっちには最高の軍師と最高のメカニックがいる。そして、俺っていう最高のパイロットがいる。問題はねぇだろ」
最高の軍師と言われてもクリスは全く嬉しくなかったし、問題があると思った。
「セイン君がどこに捕まっているかも分からないでしょう」
「心配すんな、だいたい見当はついている」
ハルドは恐らくセインはプロメテウス機関の施設に捕えられていると考えていた。ブレイズガンダムも持って行ったということはブレイズガンダムに何らかの細工をするつもりだとも予想していた。そしてそれができそうな施設で怪しいのはというと。
「アレクサンダリアを強襲する」
ハルドはそう断言した。プロメテウス機関の大規模施設がある場所だ。狙ってみる価値はあるとハルドは考えたのだった。
「マジで?」
クリスはハルドの発言に耳を疑ったが、少し考え、これも効果的かもしれないと考え出した。
「作戦のことは良く分からないんですけど。どんな機体が欲しいのか言ってくれないと、こっちとしては対応しようがないです」
レビーが手を挙げて発言する。それはそうだ、機体はどうするのだとクリスは思った。
「とにかく、速度を重視してくれ、アレクサンダリアの防衛網を突破できる機体だ。そして火力もな。コロニーの外壁をぶち抜いて突入するからよ」
ハルドが答えるとレビーとマクバレルは顔を見合わせて頷いた。
「乗ったら死ぬかもしれない機体を用意できますよ」
レビーが真剣な表情でハルドに言うと、ハルドは笑いながら言った。
「上等だ」
クリスは訳も分からず進んでいく状況に困惑していたが、ハルドに声をかけられ、正気に戻った。
「機体が完成したら、最速でアレクサンダリアに到達するルートを出せ」
ハルドはクリスにそれだけ言って、解散!と場を仕切ったのだった。
部屋に残ったのは、ハルドとアッシュだけになった。
「少しは師匠として責任を感じてくれているのか?」
アッシュが尋ねるが、ハルドの表情はキョトンとしたものだった。
「いや、俺はロウマの野郎に思い知らせに行くだけだけど」
ハルドは素でそう答えた。アッシュはため息をつきたくなったが我慢した。
「セイン君を救えるのはきみだけだ。頼むぞ」
アッシュはそう言ってハルドの肩を叩いた。その直後から。クランマイヤー王国ではセイン救出の準備が整えられることとなった。

 
 

メカニック陣は狂喜しながらネックスに無茶な改造を始めていた。というよりは元からつけたくてたまらなかったユニットをネックスにつけている様子だった。
「とりあえず死にますね」
レビーはハルドを呼ぶと単刀直入に言った。
「そうか、死ぬのか」
「ええ、単純にパイロットの身体にかかるGが半端じゃなくなるので」
「直線を最大加速の場合、甘く見積もって20G以上だな。最高速度での旋回時にかかるGは面倒なので計っていない」
レビーとマクバレルの技術者コンビは淡々と言ってのけた。改造後のネックスのスペックについての話しだった。
「俺、ペチャンコにならねぇ?」
ハルドが聞いてみたが、技術者コンビはコンビは首を横に振る。
「予想だが肋骨が全部折れるぐらいだ」
「内蔵が圧迫されて、血は間違いなく吐きますね」
ハルドは急にセインを助けに行きたくなくなってきた。すると、技術者コンビはノーマルスーツを見せてきた。
「これで何とかなります。というか、します」
レビーはそう言って、ハルドにノーマルスーツを着るように言った。ハルドは良く分からなかったが、とりあえずノーマルスーツを着て、レビーらの元に戻ってきた。すると、台車に何やら鎧らしき物を乗せたレビーとマクバレルが待機していた。
「じゃ、装着で」
ハルドは訳も分からず台車の上にあった鎧のパーツらしき物をノーマルスーツの上に装着した。ヘルメット以外の部分は完全に近代的な鎧姿となったハルドは色々とレビーらに聞きたかったがレビーらは無視して、ハルドにヘルメットを被るように言った。
ハルドは色々と疑問はあったがヘルメットを被った。するとレビーが更にヘルメットらしき物をハルドを渡してきた。
「ああ、これも被るのね」
そう言ってハルドは兜をヘルメットの上に被った。その状態では、まだヘルメットの透明部分は見えたままだったが。レビーが指示をした。
「脇のスイッチを押してください」
言われてハルドは兜のスイッチを押した。すると兜のバイザーが降りて、ノーマルスーツの元のヘルメットの透明部分も完全に覆われて隠れた。兜の下、ヘルメットの中のハルドはカメラ映像で外を見ていた。
「これどうなの?」
ハルドはレビーとマクバレルに聞いてみた。今のハルドの姿は人間というよりMSと言う方がしっくりくるような姿であり、兜はハルドの目のある部分だけ赤い光が一本のラインで走っていた。
「かっこいいですよ。悪役怪人みたいで」
「主人公のライバルキャラといった感じに私は思うな」
まぁ見た目はそれなりでいいが、性能の方はどうなのかと気になるところだったが、こればかりは実際に試してみないと分からないだろうとハルドは思った。
「簡単なパワーアシスト機能が内蔵されているから。ノーマルスーツの上に装着しても重量は感じんし、20G以上の負荷がかかった状態でも機体を操作できるはずだ」
“はず”か……とハルドは若干、不安に思ったが、まぁレビーとマクバレルの仕事なら信頼しても良いだろうと思うのだった。
「機体の方は元々、開発していたユニットがあるのでそれを更に過激に改良しています。急ピッチで進めているので、そこまで時間はかからないはずです」
レビーが機体の進捗状況について説明をした。状況からいって、心配する必要は無いようにハルドは思った。ただ、問題はその機体がどんなバケモノで、乗って自分が生きていられるのかだけが心配だった。

 
 

機体の完成に関しては、心配はないと分かったので、ハルドは次にクリスの所に出向いた。クリスはハルドの来訪に怯えを露わにした。
「ビビんなよ、逆にむかつくんだけど」
ハルドはそう言いながら、クリスの部屋の椅子にどっしりと座る。
「進捗状況は?」
ハルドは横柄な態度でクリスに尋ねる。クリスは完全に立場が下の状態で、ハルドの質問に答えるのだった。
「アレクサンダリアまでのルートは出来てます。シルヴァーナで向かうと目立ちすぎるので、コナーズさんに輸送船を操縦してもらって、ある程度までアレクサンダリアに接近し、ハルドさんだけを切り離して、強襲をかけます。これが大まかなプランです」
ハルドは何も言わず頷いた。
「強襲後は全部ハルドさん任せで好きなようにやってもらって結構です。ただしセイン君の救出任務だということを忘れない範囲でお願いします」
作戦と言えるほどのものじゃねぇよなぁ、とハルドはつくづく思いながら、クリスには了解、これでいいとハルドは言うのだった。

 

そして、セイン救出作戦まで時間は進む。
「大将、そろそろ限界です。これ以上進むと公国軍の検問にひっかかります」
コナーズは輸送船を操縦しながら、ハルドに通信を繋ぐ。ハルドの機体は徹底的な改修の結果、輸送艦内に搭載することは出来なくなっており、輸送艦の外にカバーで隠されながら吊られて運ばれていた。
「了解だ。コナーズは予定地点で待ってろ。セインを助けて帰ってくる」
コナーズは、それよりも舐めたマネをされた仕返しに行くんだろうなと思っていたが、そのついででもセインを救い出せれば結果オーライだとも思っていた。
「じゃ、切り離すんで、御武運を」
そう言うとコナーズは輸送船と、ハルドの乗る機体の接続を解いた。その瞬間、カバーによって隠されていた異様な機体の姿が露わになった。
それはブースターのバケモノと言って良いような代物だった。
機体のベース自体はネックスだったが、そのバックパックには機体の全長より巨大なブースターが接続され、脚部も、巨大なブースターと追加装甲が一体になった物が装着されていた。そして肩にも追加装甲に巨大なブースターユニットが接続されている。
そして武装も尋常ではなかった両脚部と両肩部には16連装ミサイルポッド一基ずつ接続され、更にミサイルポッドには広角稼働が可能な高出力ビームキャノンが装着されている。
武装はそれだけではなく、背中のバックパックにはブースターと共に超高出力対艦プラズマキャノンが装備され、両腕は、銃身にビームエッジが仕込まれた近接戦闘も可能なロングライフルが手に持つ形ではなく、機体に直接接続する形で装備されている。
火力で言えば、半端な巡洋艦など相手にならず、MSとしては怪物クラスの火力を持った機体にネックスは改造されていた。
ハルドは例のノーマルスーツの上に装着するアーマーを着用していた。機体の全体像を初めて見た時、嫌な予感がしたが、その嫌な予感はまだ消えなかった。
だが我慢だ、そう思って頭部のアーマーの脇にあるスイッチを押してバイザーを下げる。すると視界がカメラ画像に変わる。
「ハルド・グレン。任務に出る」
そう言って、とりあえず軽く様子見のつもりでスラスターを吹かしてみた。その瞬間、ハルドはコックピットのシートに体を引っ張られた。いや、前からの力によって。シートへと押しつぶされているのだと気づいた。

 
 

「死ぬ、間違いなく、死ぬ!」
ハルドは思わず叫んだが、それがハルドが喋れる限界だった。機体の速度は上がり続け、ハルドは呼吸が出来ないほど、Gに押しつぶされていた。
『パイロットの呼吸機能に問題発生、対処します』
アーマーからそんな音が聞こえ、ハルドは胸に痛みを感じ、口と鼻が無理矢理塞がれるのを感じた。おそらくアーマーが肺に穴を開けて直接、空気を送っているのだろう。呼吸の心配はなくなったが、レビーとマクバレルが事前に説明をしなかったのは許せなかった。
帰ったら、絶対に何か仕返しをする。そう思い、ハルドは着ているアーマーのパワーアシスト機能を最大限に使用し、機体を操縦し、アレクサンダリアに向かうのだった。

 

その日アレクサンダリアの周囲を警戒していたクライン公国軍のMS隊と管制官は奇妙な物を目撃することになった。それは、ミサイル以上の速度でアレクサンダリアに向かってくるMSサイズの物体だった。
管制官は調査を指示し、MS隊にその物体が何かを調査させようとした、だが、近づいた瞬間MS部隊は消滅した。管制官はただならぬ事態と考え、その場の最高司令官に指示を仰いだ。その場の指揮官は冷静で的確だった。
戦艦とMSを発進させ、防備を固めさせたのだ。常識的な相手だったら、問題はない判断だったが、今回は違った。そのためその判断は結果的にミスとなったのだった。

 

ハルドはどこまでも速度を上げる機体の中で、意識が混濁しかけていた。その瞬間、アーマーが『興奮剤を投与』します。といって、ハルドの腕にノーマルスーツすら貫く太さの注射針を突き刺し薬剤を投与する。
その瞬間にハルドの意識がハッキリとして、目の前にMSが迫ってくるのが見えた。数は四基。ハルドは高速で敵機をロックし。両脚と両肩のミサイルポッドに装着されている広角稼働ビームキャノンを四門同時に斉射した。
ビームキャノンの威力はハルドの想像を超えており、四機のMSは一瞬で消し飛んだ。
やりすぎだろ、アイツラとレビーとマクバレルの顔を思い出すハルドだった。そんなことを考えている間に目の前では、戦艦とMSの大部隊が展開され始めていた。
多分、このネックスがアレクサンダリアに到着するまでに防衛準備は整うだろうとハルドは思った。ハルドは仕方ないと思って機体の速度を更に上げた、敵部隊はまだ展開が終わっていない叩くのは今だとハルドは思った。
敵部隊との距離が詰まるのは一瞬だった、その間、ハルドは何度も意識が飛びそうになったが、大量の興奮剤や良く分からない薬を肺など直接注入されることで意識を保っていた。
敵部隊は……とハルドは、吹き飛びそうな意識の中でミサイルを敵部隊のMS隊をメインにロックし、16連装ミサイルポッド×4の合計64発のミサイルを敵MSの集団に撃ち込み、そして背中の対艦プラズマキャノンを戦艦に向けて、発射した。
ハルドは装着しているアーマーのカメラを通して、MS隊を中心に大爆発が起きるのを見届け、そして戦艦がプラズマキャノンによって轟沈するのも確認した。だが、敵はまだいた。
アレクサンダリア周囲を警戒していたパトロール艦、騒ぎを聞きつけ接近してきているのだった。アレクサンダリアに突入するには問題ない距離の敵。
だが、帰る時邪魔になると思い、ハルドは高速機動のまま、右腕のロングライフルを大きく右方向へ向け、パトロール艦のブリッジに狙いをつけ、狙撃した。
プラズマキャノンでも良かったが、プラズマキャノンの場合、射角に問題があり、機体を旋回させなければ当てることは出来なかった。
しかし今の速度で機体を旋回させた場合、間違いなく自分は死ぬと判断したハルドは腕が動くぶん射角を広く取れるロングライフルを選択したのだった。
ロックオンサイトすら出ていないが、ハルドは当たったと確信し、実際にパトロール艦のブリッジにロングライフルのビームは直撃した。ブリッジにビームが直撃したパトロール艦は航行不能に陥っていた。

 
 

ハルドは当座の敵を排除したと感じ、高速接近しながら、アレクサンダリアのコロニー外壁の一箇所に向けて、全ての武装を発射した。
半端な軍艦のそれを上回る火力のを受けたコロニーの外壁は簡単に穴が空き、改造されたネックスは高速機動のままアレクサンダリアの市内に突入した。
コロニーの市民にとって幸いだったのは、穴があけられたのが民間居住区ではない場所であったことだった。民間居住区であれば、市民は宇宙に吸い出されていたし、音速を軽く突破しているネックスの移動時に発する衝撃波。
それによって、間違いなく死んでいたからだ。
ハルドとしては狙ってやったわけではなく、偶然であり、別にアレクサンダリアの市民が何人死のうと関係なかったが、結果的には死者を出すことはなかった。
アレクサンダリア市内へと突入したハルドが真っ先に向かったのは、アレクサンダリアの博物館である。
ここは以前にロウマによって連れて来られプロメテウス機関の拠点だということがハッキリとしているのでハルドに躊躇いはなかった。
確信はなかったが、セインはここだろうとハルドは勘でアレクサンダリアを攻めたのだった。いなかったら、エミル・クラインでもぶち殺して帰る。ハルドはその程度の考えでアレクサンダリア攻めを提案していたのだった。
ハルドは機体を徐々に減速させながら、博物館に狙いを定める。とりあえず民間人は知らんと思ったが、一応、警告は出すことにした。
「博物館、ぶっ壊す!」
何とか声は出せるまで、減速ができたことにハルドは安心した。減速した後は、ぶっ放すだけだ。警告は出したし、もう知らん。吹き飛べとハルドは思って、合計64発のミサイルを博物館に叩き込んだ。
その攻撃で博物館は脆く崩壊し、ミサイルの爆発の衝撃波が周囲を襲う。
「わははははは!」
なんだか楽しくなってきたぞ、とハルドは思ってミサイルポッドの広角稼働ビームキャノンを博物館めがけて叩き込むするとビームが煙を切り裂いて地下の施設を露出させながら、地下の施設に直撃する。
「コイツで終いだ!」
ハルドは機体に装備された対艦プラズマキャノンを博物館の地下にある施設に狙いを定めた。
「ふざけんな!ぼけ!こら!やめろぉっ!」
幻聴でロウマの声まで聞こえてきたような気がするが、ハルドは迷わずプラズマキャノンを発射した。
ちなみにネックスに装備されているプラズマキャノンは着弾というか接触した箇所が漏れなく溶鉱炉のようになり、被害範囲を拡大させるというマクバレル特製のプラズマキャノンである。
「どうだ、この野郎!俺を舐めるとこうなるって思い知ったか!」
ハルドは幻聴で聞こえてきたロウマの声に対して叫びながら、高笑いをした。ハルドにも問題がある部分は多々あるが、改造されたネックスに乗っている際に大量に投与された薬剤の影響も相当にあった。

 

「っざけんな、あのイカレ野郎。マジでやりやがった」
ロウマは瓦礫の中から這い出し、悪態をついた。クソが、思い知らせてやるとロウマも冷静さを保つことは出来ずに叫んだ。
「マリスルージュを出せ。あのイカレ野郎に地獄を見せてやる!」
だが直後にロウマの望んでいない返事が返ってくる。
「マリスルージュはコックピットが埋まってて、どうにもなりません!」
ちくしょう、ふざけんな、とロウマは思った。その時だった、一瞬冷静になって何かを忘れているような気がした。
「あ、クソガキ!」
ロウマはセインの存在を思い出した。攻撃を受ける前までは、確かに掴んでいたはずだが、今はどこにも見当たらない。
「くそ、逃げられたか?」
そう思い、辺りを見回した瞬間だった。セインが信じられない場所にいたのをロウマは見つけたのだった。
「悪いね、ロウマさん。この機体は貰っていくよ」
セインはハルドのような物言いで、オーバーブレイズガンダムのコックピットハッチの上からロウマに呼びかけた。
「クソガキィッ!」
ロウマは普段の飄々とした態度を崩して悠々とオーバーブレイズガンダムのコックピットに乗り込むセインを睨みつけた。機体に乗り込んだセインはコックピット内を確認した。機体の操作関係はブレイズガンダムを同じ、いけるとセインは思い機体を起動させた。
幸い、どこの誰が襲撃したかは分からないが、施設の天井には大きな穴が空いていた。セインは迷わず機体を動かす。
「セイン・リベルター。オーバーブレイズガンダム、行きます!」
新たな炎をまとったガンダムが地下から空へと、飛び立った。

 
 

ロウマは飛び立っていく、オーバーブレイズガンダムを見て歯噛みをするしかなかった。そして、視界からその姿が消えるとロウマは髪をかきむしり、大きくため息をついてから言う。
「……はい、被害報告、よろしく。あと、この拠点はもう使えないから、移動準備を各所に連絡ねー。移動が無理とか、破損が大きいものは徹底破壊でよろしくね。はい、みんな頑張って働きましょう」
うまくいかないものは仕方ないとロウマは思うことにした。いつまでもこだわって他の仕事に支障を出すわけにもいかない。ロウマは切り替えがうまい方だった。しかし、執念深い方でもある。おそらく攻撃してきたのはハルドだろう。
ハルドと自分の手から上手く逃げ出したセインには後々、機会があれば思い知らせてやろうとロウマは思うのだった。

 

「さすがにアレクサンダリアが攻撃されるのは見逃せないよ」
聖クライン騎士団近衛騎士団長ユリアス・ヒビキは、エミル・クラインとのお茶の時間を抜け出して、アレクサンダリアを襲撃してきたMSの対応に動いていた。全ては自分の命より大切なエミルを守るため、と言って彼女とのお茶の時間を抜けてきたのだった。
「全機、所属不明機の撃破にあたれ!」
ユリアスは顔も知らない近衛騎士のMS隊に命令を下した。ユリアスの時間のほとんどはエミル・クラインと過ごすことに費やされているため。他の近衛騎士のことなど、どうでも良かった。
ユリアスの目の前で近衛騎士専用にカスタムされたザイランが、ブースターまみれの機体に突っ込んでいくが、全く相手にならず撃墜されていった。
「強いね」
そう呟きながら、ユリアスは自機を所属不明機へと向かわせる。
ハルドはやって来た近衛騎士団のMSを撃墜しながら、その奥から隊長らしき機体が来るのを見た。
「ガンダムタイプか!?」
ハルドは迫ってくる敵を前にして嫌な予感がしていた。ガンダムタイプは昔は特定のOSが組まれた機体を示す言葉だったが、今では、特定の頭部形状を持った機体をそう呼ぶようになっている。
そして何故かは知らないがガンダムタイプは、だいたい高性能だ。これは代々ガンダムタイプの機体が高性能だったことに由来するらしいが、ハルドも詳しいことは知らない。
「どういうつもりかは知らないが、攻撃はやめてもらう」
パイロットの声が聞こえてハルドは改めて相手の機体を見る。右手にライフル、左手にシールドのスタンダード装備に、青い大きな翼と、両腰に何らかのキャノン砲を持った機体だ。それに大型の手持ちビーム砲を背中の真ん中に吊るしている。
「攻撃はもうしねぇよ。だけど用があってね。少し待ち合わせだ」
ハルドのネックスは両腕のロングライフルを向かってくるガンダムタイプに撃つ。現状、ネックスは棒立ち状態だった。
「悪いけど、待ち合わせは無しにしてくれ」
ガンダムタイプのパイロットはそう言いながらライフルの二連射を軽く躱して、変わらずにネックスに向かってくる。
ハルドは嫌な予感がした。今の二連射はある程度相手の動きを予測して撃った攻撃だ。一発目は避けられるが二発目は当たるという計算でハルドは撃った。実際相手もそのハルドの計算に乗って動いてくれて、二発目も直撃コースだったが、軽く躱した。
「待ち合わせは厳守ってのが信条なんだ」
ハルドのネックスは接近してきたガンダムタイプにロングライフルを振って迎撃する。ライフルの銃身はビームエッジつまりビームの刃を発生させるので充分以上の近接兵器になるが、ガンダムタイプはそれも軽く躱し、よりネックスに接近してくる。
だが、それもハルドの狙いの一つ。両肩両脚のミサイルポッドに装着された広角稼働ビームキャノンを至近距離に踏み込んで来たガンダムタイプに撃つ。
だが、ガンダムタイプは、青い大きな翼を動かすと全身をねじらせ、発射されたビームキャノンを全て回避してみせる。
ハルドとしては不意をついたつもりだったが、効果は無かった。ガンダムタイプはビームサーベルを抜いてネックスに斬りかかろうとしている。このネックスでは接近戦は無理だと思い。ハルドは叫ぶ。

 
 

「両肩ブースターパージ!ブースターロケット発射!」
そう叫んだ瞬間、改造されたネックスの両肩のブースターと、同じように接続されていたミサイルポッドがパージされて射出される。流石にそれには面食らったのか、ガンダムタイプは一時間合いを離しながら回避する。その時だった。
「ネックス?ハルドさんですか!?」
通信から知った声が聞こえてきた。それはセイン・リベルターのものである。ハルドはセインの機体の方を見ると。なんとまぁと少し驚いた。
「随分とお色直ししたもんだな」
胴体以外はブレイズガンダムの面影がないじゃないかとハルドは思った。
「無茶しすぎですよ」
「お前のために無茶をしたんだ。そこは感謝を先にしろ」
本音ではハルドはロウマに一泡ふかせたかっただけだが、セインが自力で逃げ出したという、この分だと二泡ぐらいは吹かせたかと思った。
「もういい、脱出だ」
ハルドがそう言った瞬間、ビームライフルのビームがハルドのネックスとオーバーブレイズガンダムの間を貫いた。
「待ち合わせは上手くいったみたいだけど、それ以上はさせない」
撃ったのはハルドが先ほどから戦っている。ガンダムタイプの機体である。
「いいや、待ち合わせが済んだらすぐに出かける。グズグズしないのが良いデート」
そう言うとハルドのネックスのバックパックからワイヤーが射出され、オーバーブレイズガンダムに巻き付く。
「飛ばすぞセイン!、死ぬなよ!」
マズイとユリアスは直感的に思ったが、現状、コロニーの中では使えない武装が多すぎて、相手を止める手段が無かった。ユリアスは仕方ないと思い、相手の行動を見逃した。
ハルドのネックスは助走無しに一瞬で最高速を出した。その速度は青い翼のガンダムタイプも追いつけないものだった。
ネックスは最高速を維持しながら、プラズマキャノンをコロニーの外壁に発射する。するとコロニーの外壁は簡単に穴が空き、ネックスとそれに引っ張られるオーバーブレイズガンダムは脱出にアレクサンダリア市内からの脱出には成功するのだった。
しかし、運がなかった。外壁から出た瞬間にアレクサンダリア周囲を巡回するパトロール艦に遭遇したのだった。
「もう一隻か!」
ハルドはイラつきながら、両腕のロングライフルと脚部のミサイルポッドを斉射して、パトロール艦を沈めて最高速でアレクサンダリア周辺を離脱した。
少しプランとは違った部分はあったが、おおむね成功であり、セインは救出したうえで、おまけがついてきた。しかし肝心のセインはオーバーブレイズガンダムという新たな機体のコックピットの中でGに耐えきれず死にかけていたのだった。
ハルドはそんなセインのことには思い至らず、別のことを考えていた。
「あのガンダムタイプのパイロット……」
青い翼を持ったガンダムのパイロットのことがハルドの考えることの中心であった。恐ろしく強いパイロットだとハルドは確信していた。その強さは自分やロウマと違って徹底的な鍛錬の上で収めた物ではなく、自然なものではないかとハルドは考えていた。
小細工なしに純粋に強いパイロット。久しぶりに会った本当の強敵だとハルドは内心で歓喜に打ち震えていた。あのパイロットなら自分の望みを叶えてくれるのではないか、ハルドの心の内にそんな思いが芽生えた瞬間だった。

 
 

「逃げられた」
仕方ないとはユリアスは思う。向こうは好きに武装を使えるが、こちらはマトモに武装を使えないのだ。下手に使えばコロニーに被害がでる。
この“フリーダムガンダム・センチネル”の武装を使えば。
しかし、とユリアスは不意に別のことを思った。あの所属不明機のパイロットは凄いなと素朴な感想を抱いた。ユリアスから見ると動きの良し悪しはあれど才能のある者の動きは何となく輝いて見えるが、あの所属不明機のパイロットにはそれが全くなかった。
つまりは無才であるとユリアスは考えた。ユリアスの勘では全く才能がないのにも関わらず、一瞬とはいえ自分と自分が乗ったフリーダムガンダム・センチネルと互角に戦ったのだ。その点に関してユリアスは素直に畏敬の念を抱かずにはいられなかった。
「名前を聞いておけば良かったな」
ユリアスはボンヤリとそんなことを思いながら、機体を帰投させるのだった。

 

「やっちゃったねぇ、ハルド君、俺を軽く怒らせちゃったねぇ。ホントやっちゃったよ」
ロウマは大破した施設の中、残骸の上に座りながら笑みを浮かべながら呟いていた。そばにはディレックスがいた。
イザラたちガルム機兵隊もロウマの前に揃っているが、ロウマが発する異常な殺気の前では誰もがうつむくしかなかった。
「きみらには悪いんだけど、一分待ってね。策を考えるから」
そう言うとロウマは目をつぶり、腕を組んで考える。そして一分後。
「ハルド君に現状手を出すのは下策かな。しばらくは俺とガルム機兵隊は新体制になった聖クライン騎士団からの任務を粛々とこなす。以上」
そう言うと、ロウマは残骸から降りて立ち去ろうとした。だが、その前にイザラに一言言った。
「俺は今、きみの想像を絶するほどキレてるからな。今日だけは、いつもの統率確認をしたら一分以内に全員ぶち殺すからな。いいな、調子に乗るなよ、殺すぞ」
ロウマは穏やかな表情で物騒な言葉を言うと、ディレックスを伴って立ち去って行った。
ガルム機兵隊の面々としてはプロメテウス機関などの色々を聞かされてウンザリしている部分もあったのでストレス解消にしていた恒例の統率確認をしたかったのだが。イザラはやめることにした。
「ガルム機兵隊、がんばるぞ、オー!」
イザラは間の抜けたことを言ったが、何とか全員が手を挙げてオー!と言ってくれた。隊長代理ながら嬉しいことだとイザラは思うのだった。

 

背後でオー!と言うのが聞こえる中、ロウマはブツブツと口を開いていた。
「別にさぁ、ハルド君にやられたってのはそこまでイラつかないのよ。いやまぁムカつくけど、笑って過ごせるって言うかね。そういう不思議があるのね。ただ、あのセインってガキに出し抜かれたのは許せないわけ。こういうの、ディレックス君は分かる?」
「飼い犬に手を噛まれるという感じですか?」
ディレックスに言われて、ロウマはポンと手を叩いた。
「うん、そんな感じだね。久しぶりに役に立ったね。ディレックス君。あのセインとかいう取るに足らないガキが俺に舐めたマネをした。それが許せないってことだね。まぁセイン君は機会があったら、ひどい方法でぶっ殺すとしよう」
そう言いながら、ロウマはニヤニヤとセインを嬲り殺す未来を想像しながら、歩き進んでいくのだった。

 

世界は動いていた。その動きは誰も完全には把握できていなかった。把握できていると思っている者がいてもそれは思いこみであり、世界は誰かの望みを叶えることなく渦を巻き混沌としていくのだった。

 
 

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