GUNDAM EXSEED_B_50

Last-modified: 2015-11-28 (土) 23:05:49

ハルドの声を聞いた瞬間に、クランマイヤー王国側MS隊の戦意が一気に高まる。
戦場、乱戦の中にありながらアッシュは、その声を聞いた瞬間に思わず口元に笑みを浮かべる。たった一機と一人で戦況が変わるわけではないが、あの男となら何でもできるというアッシュはそんな思いを抱いた。
司令部跡地に座り込むクリスはその声を聞いた瞬間に、笑いをこらえられなかった。ひどい目に何度も合わされているが、あの人がいる限り、クリスは負けるというビジョンが全く浮かばなくなり、我ながらおかしいと思い、笑いをこらえられなくなったのだった。
ユイ・カトーは工業コロニーの地下通路で横になりながら、来るのが遅いと文句を言いたくなった。虎(フー)を見ると、その口元には明らかに笑みがあった。まぁ間に合っただけ良しとするかとユイ・カトーは思うのだった。
「ハルドさん……」
姫は、その声を聞いた瞬間に涙がこらえられなくなった。そして心の中でただ一つを願い、呟く。
「助けて……」

 

「はっ、一機だけだろ」
そう言いながらも、戦場に迫ってくる白と黒のツートンのガンダムタイプを見てロウマは危機感を抱かずにはいられなかった。
“ガンダムタイプ”どこの陣営も作るが機体、量産型をガンダムタイプにしているオーブを除いて、その殆どが技術の粋を集めた一機で戦局を変えられるような最高級機であり自軍のトップエースに渡されるような機体だ。
その最高級機にハルドが乗っている。それを考えると少なからず動揺を感じていた。。
格下の機体でもようやく引き分けの雰囲気に持ち込んだ自分が勝てるわけが無いとロウマは思った。
「俺の弟子をいたぶってくれたみたいだな。あとうちのキチガイ一人も」
ハルドから通信が入り、ロウマは僅かに生じていた怯えを消して答えた。
「歯応えの無い連中でね。楽しくなかったから、ハルド君が楽しませてくれると嬉しいねぇ」
「そのご要望にはお応えしますよ、ロウマさん」
応えなくていいとロウマは本気で思った。そう思っている内に、ツートンのガンダムタイプは接近する、そこは既にビームガンの射程内だった。ロウマは躊躇わずに撃った。
だが、ツートンのガンダムタイプは、奇妙な、強いて言えば、柔らかな機動でロウマの機体マリスルージュが撃ったビームガンを回避する。
おかしいだろ、動きがありえないくらい滑らかだ。ロウマは回避の挙動だけで戦慄を覚えた。対して、ツートンのガンダムタイプに乗るハルドは口元をほころばせた。最高の機体だと感じたためである。

 

戦場に到着する少し前、ハルドは元アメノミハシラ、現アマツクニからの出港した高速輸送船スクナの中にいた。
「大変です。クランマイヤー王国で戦闘が!」
アマツクニ代表の息子アルバがわざわざハルドに知らせに来た。ハルドはその知らせを聞いた瞬間に動き出していた。向かうのは、輸送艦スクナの格納ブロックである。
「いけるか?」
ハルドが尋ねると、レビーとマクバレルはオーケーのサインを出した。それに対して真っ先に反応したのはアルバであった。
「いくといっても、テストもしていない機体です!」
アルバは格納ブロックの中に悠然と佇む白と黒のツートンカラーのガンダムタイプを見て言った。
「テストは乗ってかりゃすりゃいいだろ」
ハルドは既にノーマルスーツに着替えていた。そのハルドに対して、レビーとマクバレルが説明を加える。
「徹底的に隊長専用にした機体です。乗れば違いが分かるはずです」
「機体性能自体はスタンダードを極限まで高めたものだ。それに耐久性も現行最高レベル。武装に関しては内蔵武装は排除して、機体の堅牢性を極限まで高めた。代わりに武装マウントを大量に用意したから、武装はいくつでも持っていけるぞ」
ハルドは機体に乗り込みながら尋ねる。 

 
 

「オプションは?」
「現状ではブースターが接続可能です」
「じゃあ、それ付けろ、戦場まで最速で行く。武装は……」
ハルドは必要な武装をコックピット内の端末に打ち込む。すると、レビーら整備担当の技術者たちが即座に機体に武装をマウントする。
「悪くないな、機体名は?」
ハルドは機体に武装がマウントされたことを確認し、マクバレルに尋ねた。
「ヴァリアントガンダムだ。勇猛果敢という名前、貴様が乗るに相応しいだろう」
ヴァリアントガンダムね。ハルドは悪くないと思い、コックピットのハッチを閉める。その直後にレビーが技術者たちに指示を出す。
「ブースターセット用意、全員ノーマルスーツ着て」
ハルドはコックピットのシートに身体を預けてみると、思った以上というか、完璧に自分の身体にフィットするのを感じた。なるほど、ここまで自分仕様かと思い、コックピット内に手を伸ばしてみると、気持ち良いくらいに自分にフィットするのを感じ、思わず笑いがこぼれた。
「ヴァリアントガンダム。出してもいいか!?」
「待ってください。船長の許可は……オーケーです。格納庫のハッチ開きます。ただし出撃は待ってください。ブースターをセットするので」
まぁ何でもいいが早くしてくれとハルドは思う。今頃、アッシュはともかくセインやクリスはヒーヒー泣きそうになっているだろうからだ。
「ブースターセット、オーケー。短距離用ですのですぐに推進剤が切れるので、切り離してください」
それぐらい言われなくてもやると、ハルドは思ったが、まぁ確認は悪くないと思った。そういえばレビーは、昔は自分のことを怖がって、避けていたよなとハルドは思いだした。それに関しては、人は変わるということかと思い、適当に納得することにしたのだった。
ハルドは余計なことを考え過ぎかとも思ったが、仕方ないと思うことにした。戦場はまだ遠いのだと。
ハルドのヴァリアントガンダムはゆっくりと輸送ブロックのハッチの外へと向かい、ついに宇宙へと出る。同時に輸送ブロックのハッチが閉まる。
「隊長、発進どうぞ」
レビーが管制か、まぁいいと思い、ハルドは機体のコントロールを手にし、言う。
「ハルド・グレン。ヴァリアントガンダム、出撃する」
その言葉の直後、白と黒のツートンのガンダムタイプは宇宙へと飛び立った。

 

戦場へと向かうヴァリアントガンダムは途中でブースターを切り離した。推進剤が切れたためだ。だが、ブースターの性能は偉大だった。そのおかげでギリギリの状況に間に合ったのだから。
「やられてんじゃねぇよ」
ハルドはセインに対して言いたかった、言っても仕方ない。それよりも対処だと思い機体を動かす。ヴァリアントガンダムはバックパックの右側面にマウントされた実体弾を装填するスナイパーライフルを手に取ると、それを構え、狙いを定める。
「いいな、これ」
ハルドはコックピットの具合か完全に自分に調整されていることを理解した。操作関係が異常に楽だったためである。コックピットの内のパーツを徹底的に自分の体形に合わせたのだろうとハルドは理解した。
スナイパーライフルを構えた瞬間、コックピットのモニターにスナイパーライフルの高倍率望遠カメラの映像が映る。
そこには、ロウマのマリスルージュとセインのオーバーブレイズガンダムの姿があった。そしてハルドが見た限りではセインはやられそうであった。
「ほんとに成長しねぇなぁ」
ハルドは半ば呆れながらも、スナイパーライフルの照準をマリスルージュに定め、スナイパーライフルを撃つ。相当に遠距離ではあったが、当たった確信があった。しかし、どこに当たるかは想像がつかなかったが。

 
 

「ハルドさぁぁぁぁん!」
通信の音声が漏れているのか、セインの叫びが聞こえてきて、ハルドは呟く。
「うるせぇ」
撃った弾は間違いなく当たるんだから、おとなしくしてろとハルドは思った。ハルドはモニターの望遠映像を見ながら確認をしていると。弾丸は確かに当たったが、マリスルージュの本体ではなく手に持った武器であり、ハルドとしては不満足な結果だった。
だが、それでもロウマの奴にショックを与えられたから良しと思うことにした。そしてそんな事を思っている内に、機体は、戦域内に入った。ハルドは面倒なのと、自分が帰って来たことを頼りにならない奴らに教えてやろうと思い、通信のスイッチを入れた。
「ハルド・グレン。戦闘に参加するっ!」
ハルドはとにかく、ロウマのマリスルージュの対応を最優先に考え、機体を向かわせる。スナイパーライフルは充分だ。近接戦闘でロウマを泣かせてやる。そう思い、ヴァリアントガンダムは右膝横にマウントされているビームショットガンを抜き放ち、右手に持つ。
「俺の弟子をいたぶってくれたみたいだな。あとうちのキチガイ一人も」
ハルドはロウマのマリスルージュに通信する。
「歯応えの無い連中でね。楽しくなかったから、ハルド君が楽しませてくれると嬉しいねぇ」
そうかい、その割には、機体に醜い傷跡が残っていますよ。とハルドは言いたかったが、我慢しておいた。これから、もっと屈辱を味あわせるのだから、別に必要ないと思ってだ。
「そのご要望にはお応えしますよ、ロウマさん」
すでに距離はロウマのマリスルージュのビームガンの間合いに入っているだろうとハルドは思い、回避も頭に入れておくと、ハルドの考えていたビームガンが、ヴァリアントガンダムに向かってくる。
さて、どんなものかとハルドは機体を試すように、無理なく回避運動をしてみた。すると、飛来してきたビームが自分から機体を避けていったのかと思うほど、ハルドは楽な気持ちで操縦ができた。
「レバーやペダルとかの操作系が柔らかいというか、俺の力具合に調節してあるのか。それに、操作系の遊びやゆとりも俺の好きな感じだ。いい仕事だ、レビー、マクバレル」
ハルドはヴァリアントガンダムの操作性の良さを体感し最高の機体だと思った。ロウマのマリスルージュがこちらに向かって尋常ではない速度で向かってくる。
多分、ヴァリアントガンダムより速いだろうが、ハルドはそこは問題と思わなかった。速くとも反応ができ、機体が反応に追従してくれるなら、何も問題はない。それがハルドの考えであった。
「新しい玩具でご機嫌かい、ハルド君?」
「まぁ、それなりにね」
マリスルージュが背後から銀色の液体を放出し、銀色の触手をヴァリアントガンダムへと向かわせる。ハルドは一度見ているため別に驚きもしなかった。ヴァリアントガンダムはショットガンを構えると銀色の触手に向かって撃つ。
ビームの散弾を受けた銀色の触手が弾け飛ぶ。その瞬間に、ヴァリアントガンダムは胸にマウントされた二つのビームピストルのホルスター、その右側のホルスターからビームピストルを左手で抜き放ち、マリスルージュの方を見もせず、早撃ちを行う。
マリスルージュは、ビームを回避しながらバックパックから銀の液体を出すと、今度はそれが刃となって、ヴァリアントガンダムに襲い掛かる。ヴァリアントガンダムは即座にビームピストルをホルスターに収めると、左膝の横にマウントされた武器に手を伸ばす。
それは、リボルバー型の弾倉を持ち、短めの銃身と大口径の銃口を持った銃であった。マクバレル曰く、ビームインパクトガンと言うらしい武器である。ハルドは機体にそれを構えさせ、銀色の刃を狙いトリガーを引く。
すると銃口からビームの球体が発射され、銀色の刃を溶かし折った。その結果と触手が弾け飛んだ結果を考え、ロウマに言う。

 
 

「その銀色の液体だか金属だかわかんねぇの。ビームっつうか、熱にクソ弱いだろ」
ロウマは無言で銀色の槍をヴァリアントガンダムに向けて、飛ばしたが、ヴァリアントガンダムは右手のビームショットガンを撃ち、槍を溶かす。
「ほらまぁ、こんな具合によ。多分、形やら構造次第で多少の誤魔化しは効くように出来てんだろうけど、弱点は明らかだな」
実際にその通りだとロウマは認めざるを得なかった。ビームや熱の放出を得意とするオーバーブレイズガンダムと相性が悪いのもこのためである。オーバーブレイズガンダムに関しては、相手がこちらの弱点を把握してなかったため、罠に嵌めて仕留めたが、
このハルド・グレンをという相手にそれが効くとはロウマは思えなかった。
「まぁ、そうだけど。そんなのはたいした問題じゃないよ」
「嘘ついてんのが、丸わかりだぜ、ロウマさん」
ハルドは、そう言いながら、ヴァリアントガンダムのビームショットガンを背後に向けて撃った。そこには、銀色の刃の折れた先端が形を変える途中の物体があった。
「色々とタネが分かってくると怖くも何ともねぇな。基本はバックパックから出てくる不定形の液体状で自由に動く、必要な時だけ必要な形状と硬さになる。ただし最高の硬度にすると自由には動かせないって感じか。
脳波制御か何かかは興味が無いから置いておくとして、切り離した物体もある程度の操作は可能。ただし、切り離された時点のサイズ以上には大きくなれない。そして」
ヴァリアントガンダムは、弾き飛ばされ散り散りになった銀色の触手の破片にもビームの散弾を撃ち込む。
「切り離された物体には、操作できるサイズの限界と、操作できなくなるタイムリミットもありそうだな。あとは完全に想像になるけど、操作できなくなる距離の限界もありそうだ。あと重要そうなのは、たぶんそれ、自分の見える範囲でしか使えないだろう?」
ロウマはマリスルージュをヴァリアントガンダムに突っ込ませる。
「話が長いよ、ハルド君」
ロウマのマリスルージュはビームガンを連射しながら前進しつつ、バックパックから生じる銀色の液体を硬質化させ、刀を作り、抜き放つとヴァリアントガンダムに斬りかかる。
「ビームが嫌いなのは当たり臭いな」
ヴァリアントガンダムはビームガンの連射をすり抜けるようして回避した。その動きにロウマは僅かに目を丸くするが、今更驚くことでもないだろうと、気を保つ。あのハルド・グレンがガンダムに乗っているのだから、それくらいの動きはすると考えてだ。
ヴァリアントガンダムは両手の銃を膝のマウントに素早く収めると、バックパックに刺さるようにマウントされているビームサーベルを抜き放ち、マリスルージュの銀色の刀を受け止めようとするが、銀色の刀は精妙な軌跡を描き、ビームサーベルをすり抜ける。
「刀術を使ってんのが、その証拠だろ。刀術ならマトモに剣と剣をぶつけ合わないから、ビームサーベルで刃が溶かされるのが防げる」
「言ってなよ」
ロウマは完全にこちらの武装が読まれていることを理解した。だが、それでも、接近戦ならまだ何とかなる。そう思い、刀を振るった。しかし、甘かった。痛感させられることになる。
ロウマはコックピットに僅かな衝撃が走るのを感じ、そしてメインカメラが機能を停止したのを目で見て理解した頭部が斬り飛ばされたことを。そして、刀の軌道もずらされたこと、サブカメラで見ると、マリスルージュの肘関節には実体刃のナイフが突き刺さっていた。
機体の手の動きが速すぎる。そう感じ、ロウマは少なくとも自分では勝てないと判断を下した。おそらく、プロメテウス機関が総力を結集して機体を開発しても自分がパイロットでは、ハルドの乗る、このガンダムには勝てないとロウマは確信した。

 
 

無理だな。ロウマはそう考え、撤退を決めた。マリスルージュの切り離された頭部と胴体を銀色の液体が結び、繋ぎ合わせる。それを見て、ハルドは言う。
「正確には、自分が構造を理解していない物の中には、その銀色を潜り込ませられないって感じかな。どこにでも潜り込ませられるなら、液状化した状態で相手に銀色をぶっかけて液体のままコックピットにまで潜り込ませてパイロットだけを殺せばいいしな」
「その通り」
ロウマは完全に読まれたなぁ、と感心半分と、ウンザリ半分といった気持ちで答えた
「遊びとか、本気とか抜きで、その機体……何て名前?」
「ヴァリアントガンダム」
そうか、よく覚えておく。とロウマは思い、本心を口にする。
「正直、ヴァリアントガンダムに乗ってるハルド君とは、もう戦いたくないなぁ」
「だったら、戦場で会わないように気をつけるんだな」
ヴァリアントガンダムはビームサーベルをバックパックに戻し、実体刃のナイフを左腰のアーマー内に収納した。マリスルージュは既に撤退の姿勢を取りヴァリアントガンダムから離れていく。
「さて……」
一応、色々とやってくれた礼はしておかないとなと思い、ハルドはヴァリアントガンダムにバックパックの右側面にマウントしているスナイパーライフルを装備させる。
スナイパーライフルと銘打っているが、マクバレルに言わせれば人間の武器で言う対物ライフルに近い物らしい。なので威力は相当とのことだった。
ハルドは離れていくマリスルージュに狙いを定める。ヴァリアントガンダムは腰の後ろアーマーから弾丸を一発取り出し、スナイパーライフルに装填する。ハルドが聞いた話ではレビースペシャルというレビー特製の超強力な弾丸らしい。
ハルドは色々と試すために、とりあえず撤退中のマリスルージュを狙う。距離はギリギリかと思ったが、迷わずトリガーを引いた。その瞬間、ヴァリアントガンダム自体が、発射の振動に揺れた。
「アホかっ!」
発射の衝撃でMSが揺れるような弾丸を作るのは頭がイカレてるとしか思えなかった。ハルドはレビーに後でも文句を言おうと思いながら、着弾したかを観測する。すると、撤退中だったはずのマリスルージュの姿が見えなかった。
外したか?そう思い、ハルドは良く観察してみると、マリスルージュの姿は確かにあった。ただしバラバラになってだ。弾丸は腹部に直撃したの分からないが上半身と下半身が、ありえないほど離れた状態であった。
そして、セインらによって傷つけられたと思わしき、胸の銀の傷痕の接着も千切れ飛び、上半身も左と右といった感じに分かれている。そしてそれは頭部も同様で、頭部に関してはハルドも見つけることが出来なかった。
徹底的にばらばらになったなと、ハルドはロウマのマリスルージュを見て思う。意気揚々と戦場に出てたのに、結果的にはボロボロになって帰ったとなったら、ロウマは面白くないだろうなとハルドはこれまでのロウマの言動を思い、考え至った。
基本的には見え張りの男だ。あのざまは相当に屈辱だろう。まぁ、今回はそれで許してやるということにし、ハルドは苦戦しているらしき、クランマイヤー王国の救援のために、ヴァリアントガンダムを走らせる。

 

「クソが、ハルドの野郎」
ロウマはマリスルージュのコックピットの中で、イラついていた。まさか後ろから撃ってくるとは思わなかった。そんなにクランマイヤー王国を攻められたことが気に食わないのかとロウマは思う。
ロウマの考えではハルドはもっとドライだったはずだが、随分とウェット――感傷的になったものだとロウマには僅かな失望があった。コロニー攻め、その意趣返しが、MSでの雑な狙撃というのも、幼稚だ。幼稚だが、ロウマはそれに極限までイラつかされていた。
「格好つけて、司令官が出撃して、司令官は大破で救出待ち?俺に恥をかかせたなハルド」
ロウマは自分の現状を省みて色々と耐えられない思いがあった。何が一番耐えられないというかと格好が悪いことである。
マリスルージュの手足や頭部は、銀色の液体――ヘルメスの水銀球で回収できる距離の限界を過ぎている。つまりはロウマは現状、機体を回復させる術を持たない状態だった。なので仕方なく救助要請をした。
「司令官が、旗艦の外で救助要請?俺は馬鹿か?」
ロウマは口では怒りを抑えながらも、コックピット内を思い切り蹴飛ばしていたのだった。

 
 

「ハルドさん」
セインの安堵した声が聞こえたが、ハルドは一言で切って捨てた。
「お前の相手は後」
ハルドの機体ヴァリアントガンダムはクランマイヤー王国の工業コロニー側の宇宙港へと向かうシャウトペイルの部隊しか見ていなかった。
「ミサイル、行け」
ヴァリアントガンダムは肩にマウントされた6連装ミサイルポッドの全弾を宇宙港に侵入しようとして手間取っているシャウトペイルの部隊に撃ち込んだ。全弾を発射したミサイルポッドをパージし、ヴァリアントガンダムは更に加速する。
ヴァリアントガンダムは接近する中でレビースペシャル弾を装填したスナイパーライフルを一機のシャウトペイルに向けて撃ち、、それが命中するとそのシャウトペイルは文字通り弾け飛んだ。
ハルドはどんな弾丸なんだとレビーが何をやったのか興味は湧いたが知りたくはなかった。ヤバい答えが返ってきそうだと思ったからだ。
それだけ派手にやれば、宇宙港を襲撃しているシャウトペイルの部隊もハルドの機体の存在に気づき、宇宙港よりもヴァリアントガンダムの排除を優先し、ヴァリアントガンダムに向かってくる。
ハルドは向かってくる敵機の数を数えた。七機か。ミサイルで二機でスナイパーライフルで一機か、あまり効率はよくないと思ったが仕方ないとも思い、七機の敵機を迎え撃つ。
ヴァリアントガンダムはスナイパーライフルをバックパック側面にマウントさせると、右手に右腰アーマーにマウントした武器を持ち、左手にバックパックの左側面にマウントされた武器を持つ。
右手にはマクバレル命名のブレイドライフル、短銃身のライフルにオーブ系列の技術の結晶と言える大型実体剣を装着させた武器。そして左手には、グレネードランチャーをオプションとして装備した実体弾ライフル――ソリッドライフルを持っていた。
ブレイドライフルはその名前で良いのかとハルドは思ったが、とりあえず使ってみる。銃自体はビームライフルのそれと変わらない。
発射されたビームがシャウトペイルの頭部を貫き、一瞬メインカメラを停止させた瞬間に懐に潜り込み、ハルドはブレイドライフルの実体剣――銃身下部に装着された銃自体の全長より長い実体剣を振るう。
その直後、ハルドは不思議な感覚に襲われた。機体にかかる抵抗が全くなかったのだ。普通の実体剣ならば、敵機の装甲によって何かしらの抵抗が生じるが、ブレイドライフルの実体剣にはそれは無かった。
それはアブソリュートカッター。元アメノミハシラ、現アマツクニではそう呼ばれる刃であり、斬れないものはないという、実体剣の究極と言える武器の性能によるものだった。。
ハルドは、剣の斬れ味に驚いている場合ではなかった、周囲にはまだ六機のシャウトペイルが陣形を組んで攻撃を仕掛けてきていた。
「めんどくせぇなぁ」
ハルドはそう言いながら、ヴァリアントガンダムの左手のソリッドライフルライフルを敵機に連射する。
マクバレルが初速と弾丸を特別製にするとしたソリッドライフルは実体弾ながらも、容易くMSの装甲を貫いた。ハルドはダメ押しに、左手の前腕にマウントされている小型シールドに内蔵されたサブマシンガンを連射し、敵の残りを5にする。
ハルドはヴァリアントガンダムに乗っていて思った。多数を相手にするのは面倒だと。そう思いつつも、ソリッドライフルのオプションのグレネードでシャウトペイルの数を一機減らし、ブレイドライフルのビームライフルと、シールドのサブマシンガンで更に一機減らす。
敵が直線状に並んだ瞬間に機体を最大加速し、ブレイドライフルの実体剣で二機まとめて斬り捨てた。そうやって圧倒的な戦闘力を見せながらも、大量の敵を相手にするのは不向きな機体だという感が拭えなかった。 

 
 

最後の一機が撤退しようと遠くへ逃げていくので、両手の武装を元のマウント位置に戻し、スナイパーライフルを構え、敵のコックピットに照準にを合わせると、トリガーを引き、最後のシャウトペイルを撃墜した。
これで、こちら側の宇宙港は大丈夫だろうと思い、ハルドはヴァリアントガンダムを宇宙港に入れる。
その瞬間、鬱陶しい声が大量に聞こえてきた。一番最初に聞こえてきたのは戦艦シルヴァーナの操舵手として定着したコナーズのものであった。
「ハルドの大将!」
ほとんど泣き声で聞くに耐えないとハルドは思った。面倒なのでハルドは宇宙港側に一斉通信を出す。
「アマツクニの輸送船が来る、準備しろ。レビーとマクバレルもいるぞ」
その瞬間、MS格納庫の整備士たちが歓声を上げた。
「戦場は混乱しているぞ」
ベンジャミンがハルドに言うが、ハルドは別に問題ないと思い、答える。
「敵は俺が殺す。そうすりゃ、アッシュとかが上手くやるさ」
これまでのそれなりの付き合いによるものなのか、ハルドはアッシュに対して大きな信頼を抱いていた。
「ああ、あとクリスにはこれまでの流れを全部文書にして俺の機体までメールで伝えといてくれ。あのガキ、未登録機から通信はシャットアウトの設定にしてやがる」
了解と、ベンジャミンが言うと、ハルドの乗ったガンダムは宇宙港から宇宙へと飛び立ち戦場へと赴く。

 

「くそ、ハルドさんの手伝いをしないと」
セインはボロボロのオーバーブレイズガンダムのコックピットの中で、何とか機体を動かそうとしたがダメージが深刻なのか、機体のモニターにはセーフティ発動の文字が出るばかりで全く動かなかった。
だが、動かないオーバーブレイズガンダムに対して、文字通り救いの手らしき物が差し伸べられ、オーバーブレイズガンダムはその救いの手に掴まれ攫われた。
「とりあえず、砲台系で行ってみますか?」
「そうだな、パイロットがヘボなのだからそれがいい」
救いの手を操っていたのはレビーであり、救いの手も手ではなくクローといった感じのものであった。レビーはオーバーブレイズガンダムを輸送船スクナに収容すると。整備士たちに指示を出す。
「アマツクニで盗んだ技術で、二時間以内に戦闘可能な状態に持っていく。総員準備!」
そうレビーが叫ぶと、クランマイヤー王国の技術者たちはオー!と叫びオーバーブレイズガンダムに群がった。

 

ハルドは乱戦が嫌いではなかった。
スッと後ろに忍び寄りビームサーベルをコックピットに突き刺すというのが特に好きであり、クランマイヤー王国の防衛線とクライン公国の戦列部隊と突撃部隊が混戦状態で殴り合いをしている混沌としている状況もそこまで嫌いではなかった。
「さて、アッシュさん。手伝うことはあるかな?」
ハルドはアッシュが乗ってると思しきザバッグに敵を蹴散らしながら近づくと尋ねる。
「とりあえず、敵を皆殺しにしてくれ。ついでにキャリヴァーが欲しい」
皆殺しは無理だが、MSのキャリヴァーに関しては、なんとでもなるとハルドは思った。
「レビーとマクバレルが戻ってる、キャリヴァーは出せる。あと敵を皆殺しにするならアマツクニから核弾頭を一発盗んできて持ってる」
アッシュはハルドが戻ってきているなら何とかなるだろうと思ったが、核弾頭まで持ってくるとは思わなかった。
核弾頭は公式には世界中で廃棄されたことになっており、その記念日まで作られている。いまさら撃ったところで世の中の人間は核弾頭とは認めないだろうと、アッシュは思った。
「やっちまえ」
アッシュは肯定の意味で言った。こちらがどれだけ被害を受けたと思っている。敵には思い知らせてやらないといけないとアッシュは思った。
「僕は細かく指示を出して味方を下がらせる。ハルドは好きに核を撃ってくれ。まぁそれまでは適当に掃除をしていてくれ」
ハルドは言われてヴァリアントガンダムを乱戦の最中に突入させ、圧倒的な動きで敵機を蹂躙する。相変わらず強くて助かると、アッシュは思いながら、なるべく敵軍が固まるように自軍を移動させながら後退させた。

 
 

「ハルドさん」
セインの安堵した声が聞こえたが、ハルドは一言で切って捨てた。
「お前の相手は後」
ハルドの機体ヴァリアントガンダムはクランマイヤー王国の工業コロニー側の宇宙港へと向かうシャウトペイルの部隊しか見ていなかった。
「ミサイル、行け」
ヴァリアントガンダムは肩にマウントされた6連装ミサイルポッドの全弾を宇宙港に侵入しようとして手間取っているシャウトペイルの部隊に撃ち込んだ。全弾を発射したミサイルポッドをパージし、ヴァリアントガンダムは更に加速する。
ヴァリアントガンダムは接近する中でレビースペシャル弾を装填したスナイパーライフルを一機のシャウトペイルに向けて撃ち、、それが命中するとそのシャウトペイルは文字通り弾け飛んだ。
ハルドはどんな弾丸なんだとレビーが何をやったのか興味は湧いたが知りたくはなかった。ヤバい答えが返ってきそうだと思ったからだ。
それだけ派手にやれば、宇宙港を襲撃しているシャウトペイルの部隊もハルドの機体の存在に気づき、宇宙港よりもヴァリアントガンダムの排除を優先し、ヴァリアントガンダムに向かってくる。
ハルドは向かってくる敵機の数を数えた。七機か。ミサイルで二機でスナイパーライフルで一機か、あまり効率はよくないと思ったが仕方ないとも思い、七機の敵機を迎え撃つ。
ヴァリアントガンダムはスナイパーライフルをバックパック側面にマウントさせると、右手に右腰アーマーにマウントした武器を持ち、左手にバックパックの左側面にマウントされた武器を持つ。
右手にはマクバレル命名のブレイドライフル、短銃身のライフルにオーブ系列の技術の結晶と言える大型実体剣を装着させた武器。そして左手には、グレネードランチャーをオプションとして装備した実体弾ライフル――ソリッドライフルを持っていた。
ブレイドライフルはその名前で良いのかとハルドは思ったが、とりあえず使ってみる。銃自体はビームライフルのそれと変わらない。
発射されたビームがシャウトペイルの頭部を貫き、一瞬メインカメラを停止させた瞬間に懐に潜り込み、ハルドはブレイドライフルの実体剣――銃身下部に装着された銃自体の全長より長い実体剣を振るう。
その直後、ハルドは不思議な感覚に襲われた。機体にかかる抵抗が全くなかったのだ。普通の実体剣ならば、敵機の装甲によって何かしらの抵抗が生じるが、ブレイドライフルの実体剣にはそれは無かった。
それはアブソリュートカッター。元アメノミハシラ、現アマツクニではそう呼ばれる刃であり、斬れないものはないという、実体剣の究極と言える武器の性能によるものだった。。
ハルドは、剣の斬れ味に驚いている場合ではなかった、周囲にはまだ六機のシャウトペイルが陣形を組んで攻撃を仕掛けてきていた。
「めんどくせぇなぁ」
ハルドはそう言いながら、ヴァリアントガンダムの左手のソリッドライフルライフルを敵機に連射する。
マクバレルが初速と弾丸を特別製にするとしたソリッドライフルは実体弾ながらも、容易くMSの装甲を貫いた。ハルドはダメ押しに、左手の前腕にマウントされている小型シールドに内蔵されたサブマシンガンを連射し、敵の残りを5にする。
ハルドはヴァリアントガンダムに乗っていて思った。多数を相手にするのは面倒だと。そう思いつつも、ソリッドライフルのオプションのグレネードでシャウトペイルの数を一機減らし、ブレイドライフルのビームライフルと、シールドのサブマシンガンで更に一機減らす。
敵が直線状に並んだ瞬間に機体を最大加速し、ブレイドライフルの実体剣で二機まとめて斬り捨てた。そうやって圧倒的な戦闘力を見せながらも、大量の敵を相手にするのは不向きな機体だという感が拭えなかった。  

 
 

「救助が、おせぇんだよ、クソが」
ロウマは旗艦のブリッジに座ると戦場を立体化した図形を見る。その瞬間、敵の動きが気持ち悪いことが即座にわかった。何かしかけてくるのは間違いないと思い。MS隊に指示を出す。
「撤退しろ、撤退しろってんだ!」
ロウマの狼狽した叫びは間に合わなかった、クランマイヤー王国軍は、戦力的な不利を悟って後退した。前線の部隊は皆そう思った。だが違う。ハルドはコックピットの中で微笑んでいた。
「いいね、素直で」
ハルドの乗るヴァリアントガンダムは腰のマウントからバズーカを抜き放ち、構え、弾頭を装填する。それは禁断の武器、核弾頭であった。
ハルドは一切の躊躇いなく核弾頭の引き金を引く、その狙いは敵前衛部隊の中央、発射された核弾頭は、その中心で爆発し、クライン公国軍のMS部隊を飲み込んだ。

 

「あほか、ふざけんな、核を使う?どっから核弾頭なんて持ってきやがった!」
ロウマはブリッジの椅子を蹴飛ばし、指示を出す。
「MS隊は一旦撤退。整備が必要だ。直撃を受けてなくてもな」
一発とは限らない、二発も三発もそれ以上あるかもしれないと考えると、前に出過ぎている現状は危険だとロウマは判断したのだった。
ロウマの指揮が伝わると同時に、クライン公国のMS部隊は後退し帰艦していく。クランマイヤー王国側の兵は勝利したと思い歓声をあげようとしたが、その瞬間にアッシュの厳しい声が全軍に伝わる。
「「敵は一時撤退しただけだ。もう一度攻めてくる。喜ぶのは早い」
そうアッシュが言った瞬間にクランマイヤー王国側は一気に気が引き締まったようにハルドは感じた。やはりアッシュが上に立つ方がいいとつくづく思った瞬間だった。
「とりあえず一旦全機、コロニー内へはどうですかね、アッシュ摂政」
ストームが軽い口調でアッシュにだけ通信する。ストームはストームで色々と考えており、アッシュが全軍の司令官であるということを徹底するために、自分のアドバイスは他の者には聞こえないようにしていた。それはハルドも同じだった。
「そろそろ限界な奴も多いだろ休ませとけ、見張りは俺がしとく」
ストームとハルドの言葉をありがたく思ったアッシュは自軍に指示を出す。
「全機、コロニー内に戻れ、当番制で休憩を取れ」
そう言った瞬間にハルドのヴァリアントガンダムがアッシュの乗るザバッグの尻を蹴る。
「テメーもだろ」
言われて、アッシュはありがたいと思いつつ素直に応じたのだった。その結果、クランマイヤー王国側の防衛線には、ハルドのヴァリアントガンダムと、ストームのザバッグしか残らなかった。
ハルドはストームがこの程度の戦場で疲れるわけが無いを知っていたので無視した。だがストームの方から話しかける。
「けっこう前からアッシュ君を狙ってるような気がするやつがいるんだけど仕留めた方がいいかね?」
ハルドとしては何とも、と言うほかなかった。面倒くさいので取り敢えず、ヴァリアントガンダムのバックパックからスナイパーライフルを外し、ストームのザバッグに渡した。ついでに、後腰のアーマー内に内蔵されていたスナイパーライフルの弾薬も全て渡した。

 
 

最後の一機が撤退しようと遠くへ逃げていくので、両手の武装を元のマウント位置に戻し、スナイパーライフルを構え、敵のコックピットに照準にを合わせると、トリガーを引き、最後のシャウトペイルを撃墜した。
これで、こちら側の宇宙港は大丈夫だろうと思い、ハルドはヴァリアントガンダムを宇宙港に入れる。
その瞬間、鬱陶しい声が大量に聞こえてきた。一番最初に聞こえてきたのは戦艦シルヴァーナの操舵手として定着したコナーズのものであった。
「ハルドの大将!」
ほとんど泣き声で聞くに耐えないとハルドは思った。面倒なのでハルドは宇宙港側に一斉通信を出す。
「アマツクニの輸送船が来る、準備しろ。レビーとマクバレルもいるぞ」
その瞬間、MS格納庫の整備士たちが歓声を上げた。
「戦場は混乱しているぞ」
ベンジャミンがハルドに言うが、ハルドは別に問題ないと思い、答える。
「敵は俺が殺す。そうすりゃ、アッシュとかが上手くやるさ」
これまでのそれなりの付き合いによるものなのか、ハルドはアッシュに対して大きな信頼を抱いていた。
「ああ、あとクリスにはこれまでの流れを全部文書にして俺の機体までメールで伝えといてくれ。あのガキ、未登録機から通信はシャットアウトの設定にしてやがる」
了解と、ベンジャミンが言うと、ハルドの乗ったガンダムは宇宙港から宇宙へと飛び立ち戦場へと赴く。

 

「くそ、ハルドさんの手伝いをしないと」
セインはボロボロのオーバーブレイズガンダムのコックピットの中で、何とか機体を動かそうとしたがダメージが深刻なのか、機体のモニターにはセーフティ発動の文字が出るばかりで全く動かなかった。
だが、動かないオーバーブレイズガンダムに対して、文字通り救いの手らしき物が差し伸べられ、オーバーブレイズガンダムはその救いの手に掴まれ攫われた。
「とりあえず、砲台系で行ってみますか?」
「そうだな、パイロットがヘボなのだからそれがいい」
救いの手を操っていたのはレビーであり、救いの手も手ではなくクローといった感じのものであった。レビーはオーバーブレイズガンダムを輸送船スクナに収容すると。整備士たちに指示を出す。
「アマツクニで盗んだ技術で、二時間以内に戦闘可能な状態に持っていく。総員準備!」
そうレビーが叫ぶと、クランマイヤー王国の技術者たちはオー!と叫びオーバーブレイズガンダムに群がった。

 

ハルドは乱戦が嫌いではなかった。
スッと後ろに忍び寄りビームサーベルをコックピットに突き刺すというのが特に好きであり、クランマイヤー王国の防衛線とクライン公国の戦列部隊と突撃部隊が混戦状態で殴り合いをしている混沌としている状況もそこまで嫌いではなかった。
「さて、アッシュさん。手伝うことはあるかな?」
ハルドはアッシュが乗ってると思しきザバッグに敵を蹴散らしながら近づくと尋ねる。
「とりあえず、敵を皆殺しにしてくれ。ついでにキャリヴァーが欲しい」
皆殺しは無理だが、MSのキャリヴァーに関しては、なんとでもなるとハルドは思った。
「レビーとマクバレルが戻ってる、キャリヴァーは出せる。あと敵を皆殺しにするならアマツクニから核弾頭を一発盗んできて持ってる」
アッシュはハルドが戻ってきているなら何とかなるだろうと思ったが、核弾頭まで持ってくるとは思わなかった。
核弾頭は公式には世界中で廃棄されたことになっており、その記念日まで作られている。いまさら撃ったところで世の中の人間は核弾頭とは認めないだろうと、アッシュは思った。
「やっちまえ」
アッシュは肯定の意味で言った。こちらがどれだけ被害を受けたと思っている。敵には思い知らせてやらないといけないとアッシュは思った。
「僕は細かく指示を出して味方を下がらせる。ハルドは好きに核を撃ってくれ。まぁそれまでは適当に掃除をしていてくれ」
ハルドは言われてヴァリアントガンダムを乱戦の最中に突入させ、圧倒的な動きで敵機を蹂躙する。相変わらず強くて助かると、アッシュは思いながら、なるべく敵軍が固まるように自軍を移動させながら後退させた。

 
 

「どうもね」
ストームのザバッグは全てを受け取って器用に、弾薬をしまう。そういう技術は真似できないんだよなぁとハルドはノーマルスーツのヘルメットを脱ぐ。
「やりたいようにやってくださいよ。ストーム大先生」
「ハっちゃんは休憩しないのか?」
ストームが尋ねてきた。ハルドが答える。
「お前の代わりがきた後でな」
まぁそんなに簡単に来るわけが無いと思った。だが、その代わりは思ったよりも早く来たのだった。
「ハルドさんお待たせしました!」
声はセインの物であり、、機体も基本はオーバーブレイズガンダムだが、バックパックが大幅に変更されていた。炎の翼を放出する大型スラスターの代わりにキャノンらしき物が取り付けられていた。
「じゃ、俺は休憩するから」
ストームの機体が下がって行く。ハルドとしてはこの大型キャノンを装備した機体より、ストームがいた方が安心だった
ハルドはセインに聞いてみたくなった。
「おまえ、これから近接戦闘メインなのにそんなバカでかいキャノン背負ってどうすんの?」
セインを責めるのも間違いだと思ったが言わざるをえなかった。レビーとマクバレルに騙されて装備させられたのだろうが、どういうつもりなのかと。
そもそも、ビームを拡散させる粒子が広範囲に撒かれているから、ビーム系の武器は使えないことも忘れたのかと。
「変えた方がいいですか?」
セインが不安げな声でハルドに尋ねるがハルドとしては判断が難しい問題である。アンチ粒子自体を無効化させる方法はいくらでもあるため、その武装が悪いとも言いきれない。
それに武装を変えるタイミングで敵に来られても面倒だと思いハルドは、無視を決め込んだ。
そう考えている時に、不意にコックピットの表面に僅かな衝撃反応があった。
「ハルドさん、ご飯です」
セインに言われ、ハルドは警戒した自分が馬鹿みたいだと思いながらコックピットのハッチを開いた。
すると、そこにいたのはノーマルスーツの姫とミシィであった。ハルドは姫に関しては何をしているんだとしか思えなかったが、ミシィの暗い表情から、何か嫌な予感を察し、ハルドは無理に笑顔を作った。
姫は笑顔のハルドに抱き付く。対してミシィは痛々しい表情でハルドに食料品の入った袋を渡し、二人は去って行った。ハルドは何か良くないことが起こったとしか察することができなかった。
直後に、クリスからの何が起きていたかの経過の文書の通信を受け取り、全てを理解したのだった。
親代わりが二人も死ねば、心が弱るのは当然かと思いつつ。ハルドはミシィから受け取ったパックを開く。その中にはおにぎりとリンゴが詰まっていた。ハルドはおにぎりを食べ、リンゴをかじり思った。
この国の象徴であるリンゴがあればクランマイヤー王国は不滅だと。
「悪いが、戦おうと思えば永遠に戦えるんでな。そういうふうに生きてきてんだ」
ハルドは果肉を全てかじり終えたリンゴを、コックピットハッチを開けて、思い切り、敵の方へと投げ飛ばした。
泣くなよ、姫様。この国の人間はアンタの泣き顔に釣られてきたわけじゃないんだ。ハルドは、そんなことを思いながらコックピットのシートに身を預けたのだった。

 
 

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