LOWE IF_592_第11話1

Last-modified: 2011-02-23 (水) 16:57:59

男は悲しみの淵へ落ちていった。
空から舞い降りてきたあれは、男から仲間を奪った。
男は絶望した。
空から舞い降りてきたこれが、男から愛する妻と未来の子供を奪い去った。
男は憤怒した。
空から舞い降りてきたそれは、自分と同じ人種と言われる者たちが落とした憎悪の塊だった。

コーディネイター…いやザフトの最終兵器、ニュートロンジャマーは枯渇した化石燃料の代わりの地上のエネルギー源であった原子力発電所を悉く無効化し、地上は混乱の淵へと落とされた。
ニュートロンジャマーがもたらしたのは地球全土での深刻なエネルギー不足。それによってエネルギーはインフラし、国々は貧しくなり、多くの凍死者と餓死者を出した。
その中で、真っ先に犠牲になったのは子供や老人、そして女性という体力が少ない者たちだった。
男の妻もまた、その犠牲者の一人として数えられている。妻は新たな生命を宿していて、二人はその誕生を楽しみにしていた。なのに。
それが簡単に奪われた。何もかも。彼が信頼していた仲間も家族も。何もかもがいなくなった。
男は恨んだ。恨み、恨み続けてきた。何を?あんなものを投下したコーディネイターを?自分達を見放した世界を?家族を守りきれなかった自分を?
いや、今となっては彼が何を恨んでいるかなどわからなくなっていた。彼は、敵と呼ばれるコーディネイターを殺し続けている。任務のために。
一つだけはっきりしているのは、彼が望んでいる事。それは、最高の死に場所を得ること。

彼の名はオディオス。

第11話 Bleive my justice

正直な話、今回の出撃でミネルバを落とせるとは到底思えなかった。ファントムペインの戦力があるとはいえ、基地から借りてきたという兵士は実戦経験の薄い辺境警備兵なのだ。
その上一応連合の最新鋭の量産機ウィンダムを駆っているとはいえ、それはダガーLからの移項という連合の意思であり、彼らの実力が認められて、というわけではない。
どんなものでも慣れている機体でなければ、最大限の実力など出せるわけもなく、ただでさえ低い能力がさらに低くなるのだ。
とはいえ、ウィンダムは中々いい機体だ。癖がないので汎用性に優れているし、パイロット達の慣れも早い。ここは一つ、彼らには生き残ってもらいたいものだ。
そんなことを思いつつ、オディオスは自前のビームライフルを構え、敵との接触を待つ。と、敵の空戦用MSの姿がスコープで確認されたが、そのときオディオスは一つの違和感を感じた。
その違和感を確認するために、オディオスはネオに通信を入れる。

「大佐、一機見慣れないやつがいる」
『こちらでも確認した。どうやら奴さん、また新型を手に入れたらしいな。やれやれ…ザフトも、まるで戦争したがっていたと言わんばかりじゃないか』
「都合がいいですね」
『そうか?』
「ええ」

ああ、またコーディネイターを殺せる。そう考えた瞬間、少しだけオディオスに笑みが出てくる。コンソールの面に映るそれを見た本人は、ああ、醜いなと呟いてみる。
久しく感情を出さないとこういう風になる。オディオスは首を横に曲げて肩をならし、正面を見る。

「まあ、とりあえず、俺は青を」
『そうだな。じゃあ、俺もエースをやるか。スティング!お前はあの見慣れない奴をやってくれ。赤いやつだ』
『OK、任せろ!』

意気揚々としたスティングの返事が聞こえてくる。彼にとってはインパルスとの再戦への執着心も、この見慣れぬ新型への興味心と闘争心のほうが勝っているのだろう。
何ともまあ元気なことだと感心しつつ、ネオは次に左に付けているウィンダム二機へと通信を入れる。

「マックス、ハン!お前はバビを攻撃しろ!」
『Yes Sir!』
「各部隊は予定通り行動しろ!よし、行くぞ!」

ミネルバからの攻撃を合図に、ネオ率いる連合の部隊はそれぞれ散り散りとなり、部隊ごとにそれぞれのターゲットに向かって進撃を開始する。
ミネルバのブリッジではその様子が確認され、タリアに報告が伝わっていった。

「こちらの砲撃に対し、敵損害小!」
「敵機なおも接近!」
「来るわよ!対空砲火!敵を近づかせないで!」

タリアはすぐさま次の指示を与え、クルー達もそれに従い、対空砲火の準備を完了させる。甲板で待機していたレイとルナマリアもそれぞれの機体を戦闘状態にして敵を待つ。
その前方で、セイバー、インパルス、バビらがまず先に敵と接触する。先制攻撃としてバビのミサイルをウィンダムの群れに照準をあわせ撃ち込む。
飛んでくるミサイルを避けるように、ウィンダム達は散らばっていく。その中でロックオンされたものは、追ってくるミサイルを頭部バルカンで迎撃し、一部はシールドを犠牲にして防いだ。
その爆煙を払いのけ、連合軍はネオのウィンダムを先頭に突撃してくる。

「来るぞ!」

アスランはセイバーの変形を解き、迫ってきたウィンダムをビームサーベルで切り裂く。それにひるむことなく、他のウィンダムはセイバーに対し、一斉にビームライフルを撃つ。
セイバーはそれを避けてライフルを構え、確実にウィンダムを一機、二機と打ち落としていた。

「そら!見せてみろ、お前の力を!!」
「くっ…」

と、その爆煙を目くらましに利用して、スティングのカオスがセイバーに突撃してくる。アスランはすぐさまサーベルを構え、突撃し、切りかかってきたカオスのサーベルを避け、反撃しようとする。
だがカオスは兵装ポッドを事前に一基起動させておいて、セイバーの背中を狙った。それに気がついたアスランは一旦距離をとり、ビームライフルをカオスとその兵装ポッドに撃つ。
スティングは兵装ポッドをカオスに帰還させつつ、回避行動に移る。そのスティングを援護するように、周りにいたウィンダムのうち一機がミサイルを発射した。
セイバーはCIWSでそれを撃ち落とし、逆にビームライフルでウィンダムを落としていく。

「ええい、数ばかりごちゃごちゃと!!」

一方シンはインパルスに張り付いてくるウィンダムを振り払うように、ビームサーベルを振るう。それに近づくのを躊躇したウィンダムは僅かに動きを止め、距離をとるように後退する。
シンは後退の際に出た隙を逃さず、ビームライフルを撃ち、ウィンダムを撃墜した。そこへオディオスのダガーLが急速接近してくる。

「さて、いくぞ」
「くぅ!こいつ!」

オディオスは懐に飛び込み、ナイフでインパルスに切りかかる。反応が遅れたシンだったが、インパルスのVPS装甲はエネルギーを消費させる代わりにそれを防いだ。
ダガーLのナイフとインパルスの装甲の間に火花が散り、そのまま刃が滑らせ、一度振り切った後、今度はシールドでインパルスに体当たりを食らわす。

「うわあ!」

後ろへ引っ張られるような衝撃にシンは悲鳴を上げつつ、すぐに体勢を立て直し、ビームライフルをダガーLに向ける。オディオスはすぐさま垂直に飛び上がり、距離をとった。
それと入れ違うように、ネオの紫色のウィンダムが他のMSを率いてきた。

「さて、あんまり調子に乗るなよ、ザフトのエース君!」
「こいつ…!こいつさえ落とせば!」

アーモリーワンと似たような雰囲気を感じる、ひときわ目立つ機体。これは、あのMAのパイロットのものだ。この機体さえ落とせば、指揮系統が混乱を起こし、こちらが優位に立てるはずだ。
そう考えた瞬間、シンは目の色を変えてネオのウィンダムへと突っ込んでいく。その様子に感づいたか、ネオは少し不敵な笑みを浮かべつつ、少しずつ後退しながらインパルスの相手をしていく。
それに加えて、オディオスや他のウィンダムが援護をして思考させる暇を与えず、ミネルバからどんどん離していった。

「さて、追ってきなよ」

シンという男は、良い言い方をすれば、素直な男だ。ここはラクス、いやナタリーと同じで、感情の行くままに行動を走らせる。それが彼の魅力であり、そして今、弱点となっている。
割合似たもの同志であるナタリーとシンの違いは経験による恐怖心。いくつかの死闘を潜り抜けたとはいえ、まだ実戦経験に乏しいシン。それゆえにまだこれが罠でなのだ、という疑いがない。
いや、疑いならあるのだろう。だが、それ以上の勇ましさとが思考をとめている。それに加え、状況が緊迫しているのでなおさらだ。

「シン、出すぎだ!戻れ!」
『煩い、やれる!!』

完全に血が頭に上ってしまっているシンにとって、アスランの自重させる声すらも煩わしいものでしかない。アスランはそのシンの態度に歯を食いしばりながら我慢しつつ、何とか彼を援護させ、落ち着かせようと画策してみる。
自分もカオスの相手をしなければいけない以上、ナタリーに頼るしかない。しかし、彼女もまた敵のいいようにされていた。ウィンダム二機が彼女のバビに取り付き、追い掛け回しているのだ。

「そらそら!」
「行くぞ!」
「この…!」

何とかバビのスピードで相手の攻撃を避けてはいるが、反撃に出る隙を与えてはくれない。彼らの目的はただ一つ、このバビのかく乱にあるのだ。
手が打てず、ラクスは歯痒さで堪らなくなるが、それよりも先にこの状況を抜けなければいけない。連合軍の連係プレーに惑わされてはいけない。ここで打開できるかどうかが決め手なのだ。
ラクスは深呼吸をし、自分を追う二機の様子を伺う。彼らは一度噛み付いたら離れない、猟犬のような雰囲気を出している。ならば、自分が逃げれば追ってくるだろう。
ラクスは一つの賭けに出る。バビの加速力と自分のコーディネイターという体の丈夫さを信じて、MA形態に変形し、ミネルバへと引き返していく。

「ナタリー!?」
「逃げる気か、させるか!追うぞ、マックス!」
『おう!』

突然の行動に戸惑うアスランを尻目に、バビはその場から離れ、そしてそれを追うウィンダム達。カオスからの砲撃に曝されながらも、アスランはラクスに通信を入れた。

「ナタリー、何を考えているんだ!?」
『任せてください!この二機を同時に倒す方法を考え付いたんですの!隊長はシンさんを!』
「…くっ…わかった!」

ラクスの言葉に半ば納得はしていないものの、この状況では彼女に頼るほかない。渋々承諾するアスラン。ラクスはその言葉に満足し、そのままミネルバへと近づいていく。
ミネルバでは、二機のウィンダムを連れてくるバビの様子が伝えられていた。タリアはすぐにラクスの意図を読み取った。恐らく彼女は自分を囮とし、ミネルバとその甲板にいるザクであのウィンダムを撃墜しようというのだ。
だがそれだけでは足りない。あの二機のパイロットもそう馬鹿ではないし、そもそもMSを砲撃でピンポイントに当てる事など難しい。ともなれば。

「…不安ねぇ」

苦笑しながらタリアはあごに手を当てる。あれを撃てるかどうか、パイロットの腕次第となるわけだが。
そのパイロットであるレイとルナマリアはお互いに通信を入れて、確認をしあう。

「ルナ、分かっているだろうが…外すなよ」
『任せてよね!これでも私は赤なのよ?それに…』
「それに?」
『ナタリーだったら、ちゃんとフォローしてくれると思うわ!』

ルナマリアの根拠はないが活気のある言葉に、思わずレイは呆れながらも笑みを浮かべる。何故だろう、と気にしてはみるがまあそんなことはどうでもいい。
今は一瞬の勝負に集中するだけだ。レイのザク・ファントムとルナマリアのガナーザク・ウォーリアは、身を低くしてミネルバの砲塔の陰に隠れつつ、狙撃の準備をした。
通信を入れようとしたラクスだったが、その彼女らの会話を聞いて、安心感を覚え、改めて操縦桿をしっかりと握る。
これはタイミングが大切なのだ。ミネルバに近づきすぎても、遠すぎても駄目だ。効果射程ギリギリでやらなければならない。

「おい、そろそろミネルバの対空砲火射程内だ!」
『流石に二機での特攻は無理だ。さっさとしとめて戻るぞ』

連合のパイロット達も二機でのミネルバの接近はまずいと思ったのだろう。一気に加速をかけ、バビを横に挟むように前に躍り出ようとした。
その瞬間をラクスは待っていた。ラクスはカーペンタリアのとき、ビルとの模擬戦で見せた急激な変形をもう一度やって見せた。その瞬間、ラクスに急激なGが掛かり、意識が飛びそうになった。
そんな彼女を乗せたバビは急ブレーキをして、ウィンダムは勢い余ってバビから離れてしまう。

「な!?」

そのウィンダムもバビの無茶な動きに驚き、一瞬だが動きを止めてしまった。レイとルナマリアはその隙を逃さず、身を乗り出して照準を敵に合わせた。

「撃て!!」
「いっけぇぇ!!」

ザク・ウォーリアのオルトロスとファントムのライフルが同時に火を噴き、ビームがウィンダムに飛んでいく。突然の事に対応し切れなかったウィンダムは何もする事ができず、一機は胴体部を打ち抜かれ、爆発した。
だが、ルナマリアが狙ったほうは、弾がそれたお陰で僅かに逸れて右腕をごっそり持っていかれたのみで終わった。

「マァックス!!くそ!」
「ええ!?なんでぇ?!」

すぐ横で戦友が撃墜され、ハンは大声で叫んだ。それとは別にルナマリアは狙いが逸れた事に悲鳴を上げてしまった。レイは何となく予測はしていたものの、予想通りの展開に呆れてしまう。
いいやとりあえずそんなことは考えてはいられない。とりあえずレイはフォローのための一発を生き残ったウィンダムに撃ちこみ、撃破する。
何ともまあ、情けない結果になってしまった。あんな隙を作ってもらっておいて、それを見事しとめ損なおうという、情けなさ過ぎて泣けてくる。
と、そんなことをイジイジと考え始めそうになったルナマリアだが、何かに気がつき、はっとしてラクスへと通信をいれる。あの無茶な変形で、前は気絶してしまったのだ。
そのときは模擬戦と言う事もあり、ビルの助けがあったが、今気絶すればそれこそ無防備のまま海にたたきつけられる事になる。ルナマリアは彼女の意識を確かめるために、大声で叫んだ。

「ナタリー!?大丈夫、ナタリー!」
『…体調万全…』
「へ?」
『今日は絶好調!と、言いたい所ですが、結構きついですわ…これは。もう二度とやらない…』

嗚咽を吐きながらも、とりあえずは平気そうな返事が戻ってきた。ルナマリアは安堵の息を吐いた。ラクスは苦しかったのか、息を大きく吐きながらパイロットスーツの襟を開けて余裕をだし、
気を取り直してミネルバのブリッジに通信を入れる。

「これより現場復帰します!」

もう一度MA形態に変形し、海面近くを真っ直ぐ、アスラン達が交戦している地点まで、すぐに戻っていく。あの頑丈さに、少しルナマリアは呆れてしまった。
と、そんな彼女の元に通信が入る。どうやらブリッジかららしく、レイにも届いているようだ。

『こちらブリッジ。水中に一機MSの反応を確認!』
「…!アビス!」
『現在、ニーラゴンゴが水中用MSを展開し…今、交戦を開始しました。レイ機、ルナマリア機は水中戦の用意をし、ニーラゴンゴの援護に向かってください』
「水中戦…了解!これより格納庫へ戻ります!」

復唱し、ルナマリアはレイと共に格納庫へと戻っていく。

「よおし、機体調整急げ!!バズーカと魚雷の弾薬もたっぷり出しておけ!!のんびりしてると海に叩き込むぞ!」

それと同時に、マッドの怒声が格納庫中に響き渡り、整備兵達が慌しく武器を取り出してそれをザクに装備させたり、機体のチェックへと移る。
そんな中、ケイはレイのもとに飲み物を持って、コクピットに駆け寄った。

「とりあえずお疲れ。ほれ」
「ああ、すまん。俺達はまだ何もやっていないがな…。しかし、彼女は頑丈だな」
「まあね、それだけが取柄だから。…うらやましいかい?」
「まあな」

ケイの言葉に、素直に答えるレイ。アル・ダ・フラガのクローンとして生まれたレイは、不完全な状態で生まれてきたためにテロメアが短く、
薬で抑えなければいけない体となっている。これはラウ・ル・クルーゼも同じだったといわれている。そしてナチュラルの体でコーディネイターの環境に適しなければいけないのだから、
かなり体に負荷を与えて生きているのだろう。それでも成し遂げたいことがあるから、彼は今こうして生きていけるのだ。
どうやらケイはそういう体に生まれていないのは、スーパーコーディネイターのクローンであるからなのか。とりあえず今はそういう異変は見られない。
だが、自分が彼のような存在だったとすれば。だとすれば、今以上に生み出した主、ラクス・クラインを恨むだろうか。
その答えなどわからない。自分は違うのだから。ただ。

「…お互い、ただの誰かのクローンとしては死にたくはないよなぁ」
「…そうだな」

何となくつぶやいた言葉。だが、それは彼らクローンとして生まれてきた者たちの想いなのかもしれない。ラウ・ル・クルーゼも、何を成し遂げるために生きてきたのだ。

「よおし、ファントムの換装終了だ!」
「ウォーリア換装終了!」
「…あっと。じゃあ頑張って」

と、整備兵が換装を終えたことを告げ、再び出撃の時間となった。ケイは一言激励の言葉を贈り、コクピットを後にした。それを確認した後、レイはコクピットを閉じる。
彼の元に海中に出るための指定の搬出口に行く途中、ルナマリアから通信が入った。

『ケイさんと何話してたの?随分神妙そうだったじゃない』
「機体のことについてちょっとな。調整がすこしおかしかったから、調整しなおしてもらった。それだけさ」
『本当に?』
「ああ」
『ふ~ん…』

何やらわけあり、ということのようだが、ルナマリアは特に気にすることなく通信を切って会話を終えた。もともと多くは喋らない性質のレイだから、
これ以上追求したところで何も喋らないと思ったからだ。
レイは、ヘルメットの位置を整え、ケイから渡されたスポーツドリンクを飲み干し、それをトラッシュケースに投げ捨てる。
なるほど、復讐の相手と思いながらも、どうやら彼に同類意識を持っているらしい。そこで思うことはただ一つ。

「(お前は、別のクローンを目の前にして同じ言葉を言えるか?忌わしき過去に出会って、お前は…正常でいられるか?)」

レイは裏の情報として、オーブの代表、カガリ・ユラ・アスハを攫ったのはフリーダムだという噂を手に入れていた。だとすれば、彼らが動き出したのだ。
そして、恐らくフリーダムの中には、もう一人のキラ・ヤマトが乗っているのだろう。全く忌々しい事だ。
だが、今は忘れよう。ケイのいうとおり、今は生き残る事が先決なのだ。そうレイは思いつつ、彼を乗せたザク・ファントムとガナーザク・ウォーリアは海中へと入っていった。
遠くでは爆散するグーンの姿が見えた。どうやら戦闘は激化していて、アビス一機に苦戦しているようだ。

「ルナ、行くぞ」
『ええ、任せておいてよ!今度こそ良い所みせてあげるんだから!』

ルナマリアの気合の篭った声が通信を通してコクピットの中に響いてくる。とりあえず気合だけはあるようだ。
レイとルナマリアは急ぎアビスの許へと急ぐ。こうしている間にも、ニーラゴンゴに危機が迫っているのだ。唯でさえ火力に優れたアビスなのだから、接近させてはいけない。
残っているグーンは後二機。よく善戦をしているが、それでももうもたない様子だ。どちらかといえば、アビスがわざと生かして、楽しんでいるように見える。
まずは注意をひきつけるためにバズーカを一発撃つ。VPS装甲に傷を付ける事はできないが、とりあえず注意を向けさせる事はできたようだ。

「ああん?…ありゃ、あの新造艦のやつか。ピンクのやつは…いねぇか。」

アビス内に起こった衝撃でアウルは左方向から迫ってくる二機のザクを確認した。そのなかにユニウスセブンやデブリ戦で何かと邪魔したピンク色のMSは見られなかったが、それでも十分だ。
アウルは残ったグーンの内一機を撃破し、もう一機もすぐに撃破し、二機のザクに向かっていく。

「来るぞ!」
「こんのぉ!!」

それに対応して、ルナマリアは装備させておいた魚雷を発射する。魚雷はロックオンしたアビスを忠実に追いかける。これなら射撃の腕に関係なく確実に当てられるはずだ。
だがアビスはMA形態になってすばやく岩場へと身を隠して魚雷をやり過ごし、すぐに連装砲で反撃をする。ルナマリアは回避行動を行ったが、水中では上手く動く事ができず、一発は逸れていったが、
もう一発はシールドを犠牲にして防ぐしかなかった。衝撃で吹き飛ばされ、海底に叩きつけられるルナマリア。

「ぐっ!」
「そらそらどうしたどうした!」

アウルは更にMS形態に変形して攻撃を加え、ルナマリアに追い討ちを仕掛ける。ルナマリアは必死に逃げ惑う。そんな彼女を救うべく、バズーカを撃ち込む。
アビスとザクの間に着弾し、海底の土を巻き上げて煙幕となった。ルナマリアはその隙にアビスから距離を取った。
アウルは煩わしそうにアビスの腕を振って土の煙幕を振り払い、索敵する。と、その瞬間、右側左側と交互に衝撃が走ってきた。
右には白いザク、左には赤いのがいた。

「くそ…流石に硬いな!」
「直撃の癖に…!やっぱりフレームを狙うしかない!」

あの一瞬で立て直してしかも挟撃を行う。なるほど、伊達に新造艦のメンバーに選ばれていないようだ。

「面白くなってきやがった!!」

段々と興奮し始め、アウルは本来の任務を忘れ、彼らとの闘争に意識を集中し始めた。
そんな最中、空中戦ではなおも死闘が繰り広げられていた。無駄に動かされ、エネルギーが少ない状態になってきている。
だが攻撃は尚も止まない。あの包囲の状態から何機ものウィンダムを落としたが、それでもまだ減りはしない。いや、ウィンダム全てがこちらに来ているような気もしてきた。
事実、現在セイバーと戦っているのはカオスのみ。互角の戦いをしているようにも見えているが、どちらかといえばカオスが押しているようにも見えている。

「ちっ!豪そうに言っていたわりには苦戦して…!くそ、ナタリーは何処へいったんだよ!」

今のシンにとっては全ての事が苛立つ。中々打開できない状況に、流石に焦れてきたのだ。だが焦れているのはシンだけではない。敵の指揮官ネオも流石に焦りを感じ始めてきた。
借りてきたウィンダムがどんどんと撃墜され、残りの数が少なくなってきたのだ。これ以上被害が大きくなれば、作戦を続行するのは難しくなる。
このくらいで決着を付けなければいけない。僅かずつではあるが、あの新型のパイロットはこの戦闘で成長してきている。これ以上放置すればどんな障害となるか。

まずは第一手。ネオはオディオスに通信を入れる。

「仕掛けるぞ!援護頼む!」
『了解』

ネオの要望を受けて、オディオスはビームライフルを乱射してインパルスの進路を絞らせていく。そして、一点に絞らせたその瞬間、ネオがインパルスを捉えた。

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