LOWE IF_vKFms9BQYk_第04話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 21:29:16

第4話

 キラはシャトルの窓から地球を眺めていた。
「アークエンジェルはまだ砂漠にいるのだろう?」
 とキラは地球にいる友達を心配した。
 船内アナウンスが流れた。プラントにつくまで後2時間はかかるようだ。
 窓の外では、遠くのほうで光がかすかに見えた。キラはこの時、自分の目がもっと遠くを見えたらと思った。キラはプラントにつくまで眠る事にした。
 キラは体を揺すられて目を覚ました。目の前には客室乗務員が困ったような顔をしていた。
「お客さん……やっと目を覚ましましたか。アプリリウス・ワンにつきました。当シャトルのご利用ありがとうございます」
 と乗務員にそう言われたのでキラはシャトルから出て、プラント―アプリリウス・ワン―に降り立った。どうやらキラ以外には残っていなかったようだ。
「やはり何度見ても、この光景には驚くな」
 宇宙に浮かぶ砂時計……この光景だけでキラは腹を満たされる感じがした。
キラが宇宙港の出入り口に向かうとその先でキラは意外な人物を目にした。
 私服姿のアスランだ。その後に、緑の髪の少年がついてきていた。二人は楽しそうに話をしていた。
 キラは二人がその場からいなくなるまで、近くの喫茶店でコーヒーを飲んでいた。
 二人がその場からいなくなると、会計を済ましタクシー乗り場へと向かった。
「手持ちのお金がコーヒー代に……」
 キラは財布の中を確認すると、うな垂れた。
「あの二人、一時間はその場で話しやがって……」
 キラはタクシーを使うお金が無くなったので、宇宙港にあるコンピュータの端末でザフトの行き方を調べた。そして調べた結果、バスが一番経済的である事を知った。
 キラはバスの停留所へ向かい、バスを待った。
 バスが停留所につくと、キラは財布の残高を確認し、バスに乗り込んだ。
 キラ以外には数人しか乗っていないようだ。キラは空いている席に座ると、持っていたカバンの中を探り始めた。キラは両親からデー手ディスクを渡されていた。それをカバンから取り出した。
「しかし、今渡されていても困るんだよね」
 今のキラは、必要最低限の物しか持ってきていなかった。
 その中にはキラが持っているデータディスクを読み込める端末は入っていなかった。
 困っていると一人の男がキラの側に寄ってきた。
「何か用ですか?」
 キラは寄ってきた男を不信な目で見つめた。
「いや、困っているみたいなんで私のを使うかい」
 男がカバンから取り出したのは、キラが持っているデータディスクが読み込める端末だ。
「どうしてそんなに親切なんですか?」
 キラは率直に聞いた。
「興味が沸いたからと言うべきかな……」
 キラはこの男の事を―おもしろい奴―だと感じた。
 男からキラは端末を借り、データディスクを入れ起動させた。
 データディスクには、どこかの研究室の映像が入ってきた。その映像には声がついていなかった。
「監視カメラの映像か……」
 二人はバスの最後尾で端末が映し出す映像を真剣に見ていた。
 その映像は十分で終わった。キラは他に何か入っていないかとディスクの中を調べ始めた。その中にはある文書データを発見した。キラはその文書を読み終えた。その中にある写真を見つけた。そしてキラは端末から目を離し男の顔を見た。
「ギルバート・デュランダル……」
「何かね、キラ・ヤマト」
 バスの中が気まずい空気へと変化した。
「お姉ちゃん、なんか後ろの二人変だよ」
「メイリン……声が聞こえるわよ」
 バスの最前列で女の子達の声が聞こえた。
「ハイネさん早くバスから降りましょう」
「そうだなシホ」
 と別の所からでも声がした。
 次のバス停でキラとデュランダル以外のバスに乗っていた全ての乗客が降りた。
「誰もいなくなりましたね」
「そのようだな」
 デュランダルは笑みを浮かべた。キラはその笑みを見ると顔を引き攣らせた。
「あなたはどうして僕の名前を……」
 キラはデュランダルに聞いた。
「そのディスクが要因だ」
 デュランダルは端末からデータディスクを取り出した。
「このディスクは……」
「ある所でしか手に入らない代物……ですか」
 キラはデュランダルの言葉を遮った。
「君は一体どこまで知っているんだい?」
 デュランダルがキラに聞いた
「ある程度は……」
 その言葉にデュランダルは何度か頷いた。
「逆に聞きますが、あなたは僕のことをどのくらい知っているんですか?」
 キラは逆にデュランダルに聞いた。
「君以上に君の事を知っているさ」
 デュランダルはもう一度笑みを浮かべた。
「あの計画の事もですか」
 キラの言葉に、デュランダルは―知っている―と頷いた。
「あの計画の事か……私は詳しくは知らないがその概要はある程度は知っているつもりだ。君がその計画の唯一の成功である事も知っている」
 キラはデュランダルの言葉を聞くといきなり笑い出した。
「なにがおかしいのかね……」
「いや何でもありません……」
 これ以上デュランダルとの関係が悪くなると困るのでキラは笑うのを止めた。
「君のいる所はここなのかね?」
 デュランダルの瞳がキラを射抜くように見ていた。
「どういう意味ですか?」
 キラはデュランダルの質問に、質問で返した。
「連合が……いやあの艦が君の居場所ではないのかね?」
「僕がもういなくて問題ありません……」
 キラの言葉にデュランダルは興味を持ったようだ。
「意味がわからないな?あの艦には君の友達も乗っているのだろう?」
(この男、一体そんな情報どこから……)
 キラはデュランダルの言葉を聞いて、この男の見る目が変わった。
「僕はあなたに全てを答えるつもりはありません。しかし、端末を貸してもらえたお礼をしなければいけません。僕が連合にいなくてもいい理由を一つだけ教えましょう」
 デュランダルはキラの言葉を聞き逃さないように身構えた。キラの口が開いた。
「ラウ・ル・クルーゼ、アル・ダ・フラガって知っていますか?」
 デュランダルはその言葉を聞いて、驚きの表情を浮かべた。
「知っているんですね」
 デュランダルは何も答えない。キラはその動作を肯定を取った。
「それと同じようなものです」
「君はなぜその事を知っているんだ……」
 キラはデュランダルの声は震えているような感じがした。
「先程のデータにありました」
「それで君はどちらなのかね……」
「さあ、どちらなんでしょうね」
 キラの口から誤魔化しの言葉がでた。
「だが……しかし……」
 デュランダルは何か考え事を始めた。
「15年です。そんな長い期間があれば、あの時から全ては変化しています」
 キラの言葉にデュランダルは、考える事を諦めた。そして何か納得したようだ。
 そしてキラは端末からディスクを出すと、そのディスクを半分に折った。
「これで、このデータに入っている内容を知っているのは僕だけです」
「君はこれで何をしようとしているのかね?」
「特に何も……あえて言うなら、自分の生存確率を上げるためですかね」
 デュランダルは先程の情報がキラの何に役に立ったのか分らなかった。
「先程の情報の中に、あなたの事もありました。あなたが考えているある計画の事も……」
 デュランダルは心臓の鼓動が一瞬止まったように感じた。
「僕は、あなたの計画をどういうつもりは今の所ありません。もしその計画を実行しようと思ったら、その計画に僕もいれてください」
「どういう意味だね」
 デュランダルがキラに聞いた。
「僕がいれば、計画の成功率が上がると思いますが……」
 デュランダルの何も答えない。
「これであなたは、僕を殺すのも戸惑うはずだ」
「しかし、それは生と同時に死が近づくのではないのかね?」
「その時は、その時ですよ」
 キラは表情が柔らかくなった。
 バスが止まった。どうやらキラの目的地へと着いたようだ。
「僕はこれから用事がありますから」
 キラは席を立った。
「最後に、あなたに出会えて良かったです」
 とキラはデュランダルに言うとバスから降りた。
 そしてキラは道の先にあるザフトへと向かって歩き出した。
 バスはキラを向かう別の方向へと向かい進み始めた。

 キラはザフトに付くと、そこには沢山の少年、少女がいた。
 どうやらザフトへ入隊するために集まっているようだ。
 少年、少女達は目の前のそびえ立つ建物に入っていくようだ。
 キラもその後に続いた。中は人で溢れ返っていた。
 キラは受付嬢へ話しかけた。受付の女性からパンフレットをもらった。パンフレットの中を眺めると、キラは溜息をついた。
「士官学校へ入らないとまずいのか……」
 キラは人ごみから離れ、建物から出ると、近くにあったベンチへと座った。
「普通に入隊しようと思ったら、時間が掛かってしまう……どうするべきか」
 キラはベンチで数分悩んでいると、緑の髪の少年がキラの目に入った。
「あれは、先程アスランといた奴だな」
 キラは思い切ってその少年に声を掛ける事にした。
 いきなり声を掛けられて少年は、少し驚いた。
(誰だろう?僕に何か用なんだろう)
 緑の髪の少年は、不信な目でキラを見つめた。
「アスランの友達だよ……」
「本当ですか?」
 少年はキラを信じていないようだ。
「信じる信じないは君の勝手だよ。君はザフトに入隊しているのかな」
 キラの言葉に少年は何も答えない。
「二コル、そこで何をしているんだい」
 先程キラがいた建物から、白いザフトの服を着た仮面をつけている男が出てきた。
 その男はニコルと呼ばれた少年に近づいた。
「クルーゼ隊長……」
 ニコルはクルーゼと呼ばれた男に敬礼をした。
「君は今、休暇中ではないか……わたしにそんなに気を使わなくていいさ」
 クルーゼにそう言われ、二コルは敬礼を止めた。
「君の横にいる少年は誰なんだい?」
「アスランの友達と言っていますが」
 クルーゼがキラを睨むように見つめた。
 仮面のせいでキラは男の表情が分らなかった。
(この男がラウ・ル・クルーゼなのか……)
 キラは目の前の男を睨んだ。
「僕は今から用事がありますから」
 二コルは逃げ出すようにその場を後にした。

 クルーゼはキラの横へ座った。
「君は本当にアスランの友達なのかい」
「そうですよ。いきなりでなんですがあなたにお願いがあります」
 いきなりキラの声質が変わったので、クルーゼは少し驚いた。
「なにかね」
「僕をザフトへと入れて欲しいんですが……」
「目の前にあるが」
 クルーゼは目の前の建物に視線を移した。
「言い方がおかしかったですね。士官学校に入らずにそのまま兵士として入りたいのですか」
「私の力ではそんな事無理だな」
 クルーゼは首を左右に振った。
「分りました。もし気が変わったら連絡してください。僕はホテルにいますから……」
 と言ってキラはホテルの電話番号をクルーゼに教えた。
「僕の名前は、キラ・ヤマトです。それではまたの機会に、ラウ・ル・クルーゼさん」
 キラはそう言うとベンチから立つと、その場から離れた。
「キラ君と言ったな。ちょっと待ちたまえ」
 クルーゼはキラを呼び止めた。
(餌に食いついたな、クルーゼ!)
「なんですか?」
 キラは表情を変えずに、クルーゼへの方へと体を向けた。
「私の知り合いに、上層部の者がいるからその人物に相談してみよう……」
「ありがとうございます」
「今からその人物と話をしてくる。ちょっとそこで待っていたまえ」
 クルーゼはキラをその場に残し、建物へと入っていた。
 ベンチに座っていると、ラウ・ル・クルーゼに似ている少年をキラは見つけた。
 少年は建物の近くをウロチョロしていた。
「似ている……」
 その少年は黒い服の男が車に乗せて、何処かに連れて行ったようだ。
 キラはベンチに座り辺りの風景を見ていた。数十分たった頃だろうか建物の中からクルーゼが出てきた。
「今日は無理のようだ。明日なら時間があるそうなのでその時に会ってもらう」
 クルーゼの言葉にキラは頷いた。
「今から何か予定はあるかい?」
「特にないです……」
「なら、私に付き合ってもらえないかな……」
 キラはクルーゼの申し出を受けた。
「私に付いて来てもらえるかな」
 クルーゼはそう言うと目の前の建物に入った。
 先程パンフレットをもらった受付嬢を通り過ぎ、さらに建物の奥へと進んでいった。
 警備員がクルーゼを止めた。
「ここから先は民間人を入れられるのは認められていません」
「私の知り合いだ」
 クルーゼはそう言うと、内ポケットから何かを取り出し、警備員に手渡した。
「どうぞお通りください……」
 警備員は急に態度を変え、二人を通した。キラは先程クルーゼから何かを受け取った手の方に視線を移した。警備員は何度の手のひらの中を確認していた。
「人は欲望のままに動くか……」
「たとえどんなに外見をそして器を弄っても、中身はそう変化しない物だよ……」
 クルーゼはキラの呟いた事を聞いていたようだ。
「あなたには何か欲望、願望があるんですか?」
 キラはクルーゼに聞いた。
「私の願いはもう叶ったよ。君はあるのかい?」
 とクルーゼはキラに聞いてきた。
「まだ、叶っていません」
 キラは苦笑した。
「どんな願いなのか知りたいものだよ」
「戦争が終わって欲しい事ですかね。大事な人、家族、友達、全てを失わないために……
 あなたの願いと正反対ですね」
 キラの言葉を聞くとクルーゼは歩みを止めた。
 そして、体を反転させるとキラを壁へと叩き付けた。
「っ」
「冗談にも程があるぞ……」
 とクルーゼが耳元で呟いた。
「そうですね。あなたもザフトの一員ですから、プラントの勝利で早期終結してほしいですよね」
「そんな冗談はもうやめて欲しいものだね」
 クルーゼはそう言うとキラを開放した。

「すいません。僕のために、時間を割いてもらっているのに」
(この男は一体何を考えているんだ?普通、あそこまで言われたら今回の話は無かった事にすると思うのだが……そこまでしてでも、僕をザフトに入れたいのか……考えすぎか……)
 キラは心の中で別の事を考えながらでクルーゼに謝った。
 キラはクルーゼにある部屋に通された。その部屋はロッカー室のようだ。
 クルーゼはロッカーから、ザフト服を取るとキラに向かって放り投げた。
「これを着たまえ」
「なぜですか?」
「今の君の服装では確実に部外者と思われるからな。そのための予防策だよ」
「大きさがあいませんが……」
 キラの言葉を聞くとクルーゼは、ロッカーの中から服を何枚か取り出しキラに渡した。
「やはり先程、警備員に渡したのは賄賂なんですね……」
「君はそんな私を軽蔑するのかね?」
 クルーゼはキラに先程の事を聞いてきたようだ。
「あなたがどうなろうと今は知った事ではありませんね。僕はまだ、あなたの仲間になれるとは分らないので……」
「それはそうだな……」
 クルーゼも特に感情を表に出さなかった。
 キラは自分に体の大きさに合った服を着た。
「赤服か……」
 とキラの姿をみたクルーゼは一言呟いた。
「赤服ですね」
「そうだな」
 クルーゼはそっけなく答えた。
「ザフトの赤服は、士官学校のトップクラスしか着れないのでは」
「君は知っていたのか」
「パンフレットに書いてありましたよ」
 とキラは着替える前のポケットから、パンフレットを取り出し、テーブルの上に置いた。
「パンフレットに……」
 クルーゼは面白そうにキラを見た。
「今、君に丁度いい服はこれしかないのでな」
「わかりました。もうこれでいいです」
 キラは諦めてこの服を着る事にした。
 クルーゼとキラもロッカー室を後にした。

「いまからどこに連れて行こうとしているんですか?」
 キラはクルーゼに聞いた。
「面白い所だよ」
 クルーゼはある部屋で足を止めた。クルーゼはその部屋に入っていった。キラもその後に続いた。部屋の中には四角い鉄の箱が四個置いたあった。その箱は成人がすっぽり収まる大きさだ。その箱の近くには、研究員達がいた。クルーゼは研究員に近づき何かを話し始めた。
「あの箱にケーブルがたくさん繋がっているんだ?」
 キラの言うとおり、鉄の箱に向かって幾本のケーブルが繋がっていた。
 キラがその箱を眺めていると、クルーゼがキラの所に戻ってきた。
「あれが気になるかね?」
 クルーゼの言葉にキラは頷いた。
「あれは、MSのコックピットシミュレータだ」
「あの箱が……」
 キラは視界に映る鉄の箱を見つめた。オーブにある物はあんな箱ではなく、もっと簡素な作りだったなとキラは思い浮かべた。
(父さんにもっとマシな物は無いかって聞いたら、これで充分だって怒られたっけ……父さんがオーブの政府関係者で良かった……そのおかげでシュミレータを使えたんだから……)
 キラは思考の海から抜け出した。
「それで一体これで何をしようとしているんですか?」
「君と一勝負してみたくなってね。それに君が実力が充分ではなかったら、明日の事は無かった事にしてもらおうと思ってね」
「このシミュレータは対戦ができるんですか?」
 クルーゼは頷いた。
「わかりました」
 キラはクルーゼの挑戦を受ける事にした。
「今からこのシミュレータについて説明しますね」
 キラは突然の横からの声に驚いた。横を振り向くと白衣を着た女性がいた。
「このシュミレータは、MSのコックピットで起きうる事を前提に作られた物です」
「それはどういう意味ですか?」
 キラの質問に白衣の女性はキラを睨みつけた。
「ご質問は最後にお聞きします」
 キラは最後まで説明を聞く事にした。

「従来のシミュレータは簡易な物でしたが、これは箱型にしたので、今まで出来なかった事ができます。まずは、実際のザフトのMSのコックピットを模した内部。攻撃の際の振動の再現などもしています。バッテリー切れ等です。基本的にはこんな物ですかね。後これ試作機なのでどこか不具合が生じるかもしれませんので、其処の所はよろしくお願い致します」
「準備はいいかね」
「はい」
 クルーゼはキラの返事を聞くと、四角い箱に入った。キラもクルーゼに続いた。
 キラが入ると、中のモニターが起動した。そして各装置が起動していった。
 モニターには、ザフトが開発しているMSが映っていた。
「シグーを選びたまえ」
 クルーゼの声がコックピットの中に響いた。キラは言われたとおりにシグーを選んだ。
 するとモニターの画面が切り替わった。画面に映ったのは、宇宙をバックに一機のシグーだ。
「では、今から模擬戦を始める……用意はいいか」
「だいじょうぶです」
「これを最後に、基本的に通信は無しだ。では、いくぞ……」
 クルーゼのシグーの姿が画面から消えた。キラはすぐさま機体を素早くクルーゼのシグーが消えた方向へ旋廻させた。キラの体がシートに押し付けられた。
「加速時に掛かるGを再現しているのか」
 キラのモニターにクルーゼのシグーが映った。
「見つけた!」
 キラはシグーを前進させた。キラは加速時掛かる衝撃に苦痛で顔を歪ませた。
「ちっ、このシミュレータ全てが過敏に反応いている!これが不具合か」
 キラはストライクと同じ感覚でシグーを動かすと、ストライクの時とは比べ物にならない程シートに体が押さえつけられた。
 クルーゼのシグーが重斬刀を構え、キラに向かって突っ込んできた。
 キラも重斬刀を構え、クルーゼを待ち構えた。クルーゼの重斬刀を、キラに向かって振り下ろした。キラは持っていた重斬刀で受け止めた。空いた足でクルーゼのジクーを蹴った。
 と同時に突撃銃を構え、クルーゼのシグーに向かって撃った。クルーゼはすぐさま、シグーの態勢を元に戻すと、突撃銃の弾が着弾する瞬間その場から離れた。クルーゼもキラとの距離を取るため、突撃銃を撃ちながら離れていった。クルーゼがどんどんキラと離れて行った。
 キラは見失わないように、クルーゼが飛んでいった方向に進んだ。
「少し提案があるんですが……」
 キラがクルーゼに通信をした。だが何も反応が無かった。
「周波数があっていないのか……」
 キラは外部と通信が無いかコックピットの周りを見回した。
 特に何も見当たらなかった。
「おい、これは外に聞こえているのか?」
 キラの言葉がコックピットの中で木霊する。
「聞こえていますよ」
 数十秒たってから、先程の白衣の着た女性の声が聞こえた。
「何か用でしょうか?」
「相手と通信するための周波数を教えてくれ」
「ザフトの周波数と同じですよ」
 キラはその言葉に非常に困った。キラが砂漠でバクゥに乗った時は、相手が設定等をやっていたのでキラは全く分らなかった。
「すまないが、その周波数分らないんだが……」
 通信の向こうで女性が驚きの声をあげた。
「ザフトレッドなんですよね……」
 キラは今着ている服を思い出した。
(確かにザフトレッドが知らないのは流石にまずいか……)
「今まで、デスクワークをしていたんだ」
「本当ですか?」
「ああ本当だ」
 通信越しに女の溜息が聞こえた。
「わかりました。周波数は八八・六です」
「最初から設定ぐらいやっていて欲しいな。困ったもんだな」
 とキラはあえて相手に聞こえるように言った。
 鉛筆ような物が折れる音がキラのコックピットに響いた。
(なんか、ミリアリアを怒らせた時に何か雰囲気が似ているな……) 
 キラはその音を聞かなかった事にし、周波数をその数字にあわせて、もう一度クルーゼと通信を試みた。
「なにかようかね」
「はい。このまま模擬戦を行っても一対一では中々終わらないと思います。そのためにルールを設けましょう」  
「一体どんなのだい?」
「簡単な事ですよ。五分に一回は必ず、相手に姿を見せる。その時は攻撃を止め、再度攻撃するときは合図するっていうのはどうでしょう」
「わかった」
 クルーゼはその誘いに乗った。
(バッテリーがどのくらい持つか分らないが、三回を目安に考えておくか……)

 キラはクルーゼを追うのを諦めその場に静止した。
 数分たっただろうかモニターに一機のシグーが映った。
「ではいくぞ!」
 クルーゼの声と共にシグーが再度キラに突撃してきた。
 クルーゼのシグーは持っていた銃を、キラのシグーに向けて構えた。
 キラは、クルーゼのシグーが銃を構えた瞬間、銃の照準から外れるように離れた。
 キラもクルーゼに向けて銃を構えると、クルーゼもすぐに照準から外れる為にシグーを動かした。キラは銃の変わりに銃斬刀を構え、操縦桿を動かしクルーゼの所へと向かった。
「もらった!」
 クルーゼはキラの声に反応し、重斬刀を構えた。そしてキラのシグーから振り下ろされた銃斬刀を受け止めた。クルーゼの今いる場所は、キラの攻撃がどこから来るか容易く予測できた。クルーゼの後ろ、そして下にはMS、MAの攻撃では到底壊せないデブリが漂っていた。そのために、キラの攻撃は前方、左右、上からの攻撃しか出来なかった。キラの攻撃はクルーゼの真上からの、高速で接近し重斬刀を振り下ろす物であった。この攻撃を予測してきたクルーゼはキラの攻撃を重斬刀で両手で構え受け止めた後、キラのジクーを蹴り上げようとした。そのときクルーゼのモニターではシグーが片手に重斬刀を振り下ろし、もう片方の手は突撃銃を構え、コックピットを狙っていた。そしてトリガーが引かれた。しかし突撃銃に何も変化が起きなかった。
「弾切れか!」
 キラはコックピットの中で焦っていた。確実に仕留められるのに棒に振ってしまった。
 このチャンスを生かしきれなかった自分に、ピンチが訪れようとしていた。
 クルーゼはすぐさま、思考を切り替えると、目の前のシグーを蹴り上げるた。
 キラがコックピットの中で衝撃に耐えた。モニターにはシグーが突撃銃を構えていた。
(このままでは……!)
 その時、キラは感覚が鋭敏になっていくのを感じた。相手の動きがスローになっているように感じた。
「気持ち悪い」
 キラはその現象に吐き気を覚えた。するとその現象は突然無くなり、キラの吐き気も治まったようだ。クルーゼは、突然止まったキラのシグーをチャンスだと考え、突撃銃でメインカメラを潰し、コックピットに向かって重斬刀を突き刺した。

 キラの目の前のモニターが死んだと同時に、模擬戦終了の合図がコックピット内に響いた。
 キラはシミュレータから出ると、クルーゼがキラの所に近寄ってきた。
「合格だ」
 とクルーゼはキラに言った。
「何がですか?」
「君は私の試験に合格したのだよ」
「試験?」
 とキラは何か自分が試されているようなので不快に思った。
「私は君を自信を持って明日紹介できるよ」
「はぁ……あの一つ聞いていいですか?」
「なにかね」
「明日会う人物は誰なんでしょうか?」
「パトリック・ザラだが」
「そうですか……」
「私は用が済んだので、ここを出るが君はどうする?」
「それなら僕も……」
 とキラがクルーゼと出ようとした瞬間、誰かに腕を捕まれた。
 キラが後ろを向くと、先ほどの白衣の女性がキラの腕を掴んでいた。
「あのこの子とお話がるんですけど……」
「私は外で待っている」
 クルーゼはそう言うと部屋の外に出て行った。
「話って何でしょうか……」
 とキラは女性に聞いた。先ほどキラの腕を掴んでいた人とは違い別の女性がキラの前に現れた。その女性は紫の髪に白衣の下はきわどい服を着ていた。
「へぇ……こいつが……」
 初対面の相手にこいつ呼ばわりされたキラは、さらに不快になった。
「ここは技術部なんだけど……」
と紫の髪の女性が話しかけてきた。
「はぁ……」
「明日、あなたザラ委員長に会うわよね」
「そうみたいですね」
 キラは頷いた。
「そこで、あなたに技術部の予算の事を頼んでほしいのよ」
「どうして僕なんですか……」
「なんとなくよ」
 キラは目の前の女性の顔の表情で何を考えているのか悟った。
(絶対遊んでいるよな……)
「どんな事を研究しているんですか?」
 キラは白衣の女性に研究内容を聞いたみた。
「これを知るって事は貴方はもう戻れないわよ」
 キラは目の前の女性が何を言っているのか分からなかった。
「ニュートロンジャマーキャンセラーの研究。理論は完璧。私って天才ね。自分が恐ろしくなるわ。今のところ、お金がないから何もできないけど」
 キラは心の中で、聞かなければ良かったと思った。
(これでザフトに入れなかったら、捕まるんだよな。たぶん……)
 目の前の女性は、キラの表情を見て笑っていた。
「そのための予算申請ですか」
 とキラは何とか、表情を変えずに聞いた。
 キラの言葉に紫の髪の女性は頷いた。
「そんな事は、あなたが直接予算委員会の掛け合ってください」
 キラが発した言葉に、紫の女性は部屋にいた研究員を部屋から出させた。
 最初にシミュレータを説明してくれた女性も外に出ていった。どうやら目の前の女性がここの一番の権力者のようだ。
「もう一度聞くわ。承諾するのしないの?」
 キラは首を横に振った。
「そう。それならあなたの秘密ばらすわよ」
「どういう意味ですか?」
 キラの言葉が低くなった。
 目の前の女性は机に置いてあった紙にある言葉を書きキラに見せた。
 キラはその内容に目を見開かせた。
「どうして分かったんですか?」
 とキラが紫の髪の女性に聞いた。
「そんなの簡単の事よ。あなたがザフトの通信周波数が分からなかったし、しかも今時、ザフトレッドがこんな所に来る事なんてほぼないわ。あと何個かあるんだけど……」
 キラは反論する箇所がなかった。そしてキラは心が折れた。
「分かりました」
「よろしい」
 キラは渋々、承諾すると部屋から出た。
 キラが部屋から出ると、廊下で待っていた研究員達が部屋へと戻っていった。
 廊下にはクルーゼが最後に残った。
「用は済んだのかい?」
「はい」
 とキラは頷いた。
「明日の事を話すのだが問題ないかい」
「はい」
「あした、君が泊まっているホテルまで私が迎えに行こう」
「いいんですか?」
「ああ、問題はない」
「ありがとうございます」
 とキラ達が明日の事を話していると、キラの目にうさ耳が映った。うさ耳をしている女の子だ。女の子は廊下を曲がりキラの視界から消えた。
「あにょ……」
「なんだね」 
 キラの変な声にクルーゼは至って普通に反応した。
「うさ耳の女の子がいませんでしたか?」
「なにを言っているんだい?ここには私と君しかいなかったではないか」
 クルーゼはおかしな事を言っているキラを見た。キラは、クルーゼに――何を言っているんだこいつ?――って風に思われている感じがしたので、これ以上この話題に触れない事にした。
 二人は建物の出入り口についたようだ。受付を通ったのに、受付嬢は何も言わなかった。
 キラはその事が気になり、受付を見てみると、先程と人が違うようだ。キラは服装について何も言われなかったので安心した。
「あした十時に。それじゃまた」
 とクルーゼはキラに別れの挨拶をすると、また建物へと戻っていった。
 キラは、そのままクルーゼに教えたホテルへと向かうため、まずバス停へと歩き出した。
「そう言えば、ホテルの予約を忘れた」
 バス停にキラの声が響いた。

 翌朝、約束の時間にクルーゼは車でキラを迎えに来た。
 クルーゼはキラが車に乗るのを確認すると、パトリック・ザラがいる評議会議場へと向かった。
 クルーゼとキラはある部屋に通された。
 幾時がまっていると、部屋にパトリック・ザラが入ってきた。
 クルーゼはその場に立つと敬礼をした。
「話とは何だ、クルーゼ……」
「合わせたい人物がいるんですよ」
 ソファーに座っていたキラが立ち上がった。
「久しぶりです」
「君は……ヤマト夫妻の息子のキラ君か……クルーゼ」
 パトリックはクルーゼを呼んだ。
「なんでしょうか……」
「悪いが出て行ってもらおうか」
 クルーゼはパトリックに従い部屋から出て行った。
「いいんですか……」
 キラは今出て行ったクルーゼの事をパトリックに聞いた。
「問題はない」
「はぁ……」
「君が、クルーゼから紹介される相手だったのか」
 パトリックは苦笑した。
「まあ座りたまえ」
 パトリックはキラをソファーに座るように促した。
 キラはソファーに腰掛けた。キラに続いてパトリックに腰掛けた。
「クルーゼから一通り聞いたが、君は本当にいいのか?」
「はい」
「しかし君はオーブの人間だ。それに君は……」
「覚悟はあります」
 キラはパトリックの言葉を遮った。
「それならなぜオーブの軍に入らなかったのだい?」
「あの国はもう駄目です。今の政権が変わらなければ堕落していくでしょう」
「だからどうなんだ?」
「堕落する国の軍に入っても意味がないですからね」
「なら君はいったい誰が向いていると思うのかね」
「それはわかりません」
「若者らしい考え方だな」
「そうですね」
 二人の話は盛り上がっていった。
「それで話の本題に入るが君はザフトに入りたいのか?」
 パトリックの言葉にキラは頷いた。
「真実が知れれば君の身に何が起こるかわからないぞ?」
「ばれなきゃ問題ありません」
 パトリックはキラの言葉を聞いても、キラのザフト入りを中々了承しなかった。
 キラは歯切れの悪いパトリックに、ダコスタからもらった封筒を渡した。
「これな何かね?」
「見てくれれば分かります」
 キラに渡された封筒には、手紙と一枚のデータディスクが入っていた。
 パトリックは机の置いてある端末にデータディスクを差し込むと、中に入ってあるデータを見た。中には、バクゥと、デュエル、バスターが模擬戦が収録されていた。パトリックはそれを見終わると手紙に目を通した。
「君をザフトに迎え入れよう……連合の最新鋭機を、ザフトレッドが乗っているのに、ここまで頑張られては断るにいかんだろう。ザフトは優秀な人材は欲しいのだよ」
 パトリックからその言葉を聞き、キラはお礼を言った。
「君の配属先は、ザフトの試作機のパイロットをやってもらう……」
 とパトリックはキラの配属先をその場で決めた。
「テストパイロットですか?」
「そう考えてもらってもかまわない。来週から仕事をしてもらう」
「どうしてテストパイロットなんですか?」
 キラはパトリックに質問した。
「君の目的は戦争の早期終結だろう?」
「はい」
「私達の目的はもう其処ではないのだよ」
「ナチュラルの殲滅ですか?」
「そうだ」
 パトリックはキラの言葉を否定しなかった。
「しかしそれは建前でしょう?」
「君はすごいな……たしかに私は、ナチュラルの殲滅と議会で言っているが実際は殲滅させる気はないのだよ。ある程度ナチュラルと戦争をし、プラントの独立を認めてもらえばそれで問題はない。私はそう考えているのだよ。私の考えを気づいたのは君で二人目だな」
「もう一人は誰なんですか?」
「君に言っても分からんよ」
 パトリックにこう言われたキラは、一人の人物の特徴を挙げた。
 パトリックはキラの言葉を聞き、肯定の意で首を縦に振った。
「あの人ってナチュラルですよね……」
「なぜそう思うんだね?」
「オーブのモルゲンレーテで昔見ました。たしか独自の理論を持っていて、それを学会で公表したら相手にされなかったと聞きました」
「私もあの人を探すのに苦労したよ。本当にすごいな。君は知らない事はあるのかい?」
 パトリックはキラの情報網に呆れるばかりだった。
「情報は大切ですよ」
「それなら、私に何か一つ情報をくれるかい」
 パトリックは冗談半分で聞いてみた。
「そうですね……それなら、ラウ・ル・クルーゼには気をつける事ですね」
「肝に銘じておくよ」
 パトリックは苦笑しながら、キラの言葉を受け止めた。
「アスランは今どうしていますか?」
「歌姫の所に今いるはずだか?」
「ラクス・クラインですか?」
「君はオーブにいたのに、ラクス・クラインを知っているのか」
「先日宇宙で会いました」
 パトリックはその言葉の意味を理解した。
「君はラクス・クラインに会ってどう思った?アスランと婚約しているんだ。友達から婚約相手の印象を聞いてみようかなと思うんだがな……」
「そんなに息子が気になりますか……」
「ああ」
 パトリックは返事には力が篭っていた。
「親バカですね」
「そうかもな。それで君はラクス・クラインをどう思った?」
「そうですね。どこにでもいる女の子ですね。世界の裏、そして常識が普通の人より知らないのがどうかと思いますが」
 パトリックはキラの言葉を真剣に聞いているようだ。キラはさらに続けた。
「箱入り娘って事ですよ。それでもアスランは彼女に尻を敷かれそうですけど」
「実際、私は息子に好きな相手と結婚して欲しいのだよ」
「それならどうして婚約を?」
「シーゲル・クラインを知っているか?」
 キラは頷いた。
「相手から話を持ちかけてきたのだよ……」
「政略結婚ですか……」
「だろうな……」
「それで返事をしたんですか……」
「妻がシーゲルの娘を気に入ってな……」
 パトリックは妻の話をした瞬間、悲しみの表情に変化した。
「あのお願いがあるんですが」
「なんだね」
「ザフトの技術部の予算を増やして欲しいのですが……」
 パトリックはその言葉を聞くと顔を顰めた。
「なぞそんな事を……」
「昨日、技術部に行きまして……」
「クルーゼが連れて行ったのか?」
 その言葉にキラは頷いた。
 パトリックはこめかみを押さえた。
「そこで何を言われたのだ?」
「全てを聞きました」
 パトリックはそのキラの言葉に聞いて、ため息をついた。
「オーブから引き抜くんじゃなかったか……」
「あの人、頭は良いと思うんですが性格が問題ですからね……」
 技術部の権力者を思い浮かべた。
「そうだな。予算の事はどうにかしよう。何とかしてあれを開発してもらないとな……これで君はもう元の生活には戻れないな。ザフトの機密を知ったのだから」
「覚悟はありますって言いましたが。それはそうとあれが完成すれば戦争は終わるんでしょうか?」
「だといいな。ブルーコスモスの盟主も馬鹿ではないさ。どちらかが滅ぶ戦争なんて愚の骨頂ではないか?いざとなったら君に何とかしてもらおう」
 パトリックの言葉にキラは、顔を引きつらせた。
 キラは仕返しのようにある言葉をパトリックに投げかけた。
「技術部の研究成果を使用した新型MSを開発しているんですよね」
 キラの言葉にパトリックは驚いた。
「本当に君は何でも知っているんだな。君には諜報部にいってもらおうか」
「僕はパイロットでしか生きていけませんから」
「それなら君に、新型MSのテストパイロットのなってもらおうかな」
「命令ですか?」
 キラはパトリックを見た。
「君はまだザフトに入隊していないから冗談だ」
 キラとパトリックが話していると、シーゲル・クラインが部屋に入ってきた。
「シーゲル、今は客人が来ているのだぞ!無断で部屋に入ってくるな」
「今はそんな事はどうでもいい。アンドリュー・バルドフェルドが見つかったぞ」
 パトリックはシーゲルのその言葉に驚いた。
 キラは、パトリック・ザラ、シーゲル・クラインの会話から、砂漠の虎アンドリュー・バルトフェルドがMIAになりそして見つかった事を知った。

第4話完
第5話へ続く

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