Lnamaria-IF_第16話

Last-modified: 2013-10-28 (月) 02:22:25

 ミネルバは,峡谷の中を進む。周りに緑は全くない。まるで砂漠のようだ。
目的地は連合の設置したローエングリンゲート。その途中、一台のジープと一人の少女を回収していた。
回収された少女の名前はコニール・アルメダ。連合に制圧されたガルナハンの街出身だ。
彼女はザフトに協力するために、ここに来た。

「…………」

 カーゴハッチにジープごと回収された彼女は、しばらく格納庫を見渡していた。
多数並んでいるモビルスーツ。……彼女の街には存在しない「力」。

「……あー、そろそろいいかな?」
「?」

 言われた方向を見ると、蒼い髪の青年が立っていた。どうやら、見渡している間に来たらしい。

「わざわざミネルバまで出向いてくれて感謝する。俺はアスラン。君は?」
「……コニール」
「そうか。じゃ、ミス・コニール、ついてきてくれ。データを渡す相手の部屋まで連れていくから」
 
 そう言って、アスランは歩いていく。それを追いながら、コニールは思わず声をかけていた。

「なぁ、赤服を着てるってことはお前、偉いのか? 偉そうには見えないけど」
「一応小隊長やってるが……どうしたんだ、いきなり」
「隊長のお前がやらないってことは、データ渡す奴はお前より本当に上手いのか?」
「え?」
 質問の意図を図りかね、思わず足を止めて振り返ったアスランの視界に入ったのは、コニールの不安げな表情だった。
そして、アスランもすぐに理解した。今回の作戦には、現地住民にとってかなりの決断があっただろうということに。
もともと、ユーラシア連邦はその広大さゆえにあまりまとまっていない。ガルナハンのような中央から離れている地域は半独立状態にあったと言っていい。
そんな地域に重要拠点を無理矢理作成し設置すれば、当然現地住民の反発を受ける。聞く限りでは、連合はその反発を力ずくで押しのけたようだ。
この作戦が失敗に終われば、ザフトに協力した住民は更に厳しい弾圧を受けるだろう。不安げなのも当然だ。
……なら、アスランは言うべきなのはただ一つの言葉。

「安心していい。この役割に適任なパイロットは、他にいない」

 艦内では、ローエングリンゲート攻略に備えて様々な準備が進んでいた。
パイロットはブリーディングも終え、それぞれの準備に入っている。そんな中で、ルナマリアは自室でブリーディングの内容を反芻していた。

「私にしかできない、か……」

 今回の作戦は、前回のカーペンタリアの作戦と似ている。
敵の強力な「盾」であるモビルアーマーを引き付け、その隙に側面からインパルスが突入、ローエングリン砲台を潰す。
違うのは、彼女が一機で側面を突くこと。そして、そこまでの行程が楽な物ではないこと。
インパルスは、分離した状態で連合が知らない、現地住民だけが知っている坑道を通るのだ。それ故に、奇襲として成り立つ。
もっとも、当然のことながらモビルスーツが通れるような坑道なら連合もマークしているだろう。
その坑道は、分離したインパルスでギリギリ通れるような狭さだ。視界も最悪で、データを頼りにして飛ぶことぐらいしかできないとはアスランの言葉だ。
だから、「インパルスしか出来ない」。けれど……

「おい、ルナマリア。いるか?」
「あれ。隊長?」

 突然、扉の向こうからアスランの声がした。もっとも、予想はついていたが。
ブリーディングの際に、後で現地住民からデータを貰うという説明があったのだ。

「鍵は開いてますよ。データ、来たんですか?」
「ああ。ミス・コニール、君も入ってくれ」
「…………」

 扉を開けたアスランの脇にいたのは、現地住民の少女――コニール。
そのままアスランに従う形で部屋に入ったものの、彼女が口を開く様子はない。
ルナマリアとアスランが何か言った方がいいのかと思った始めた瞬間。彼女はとんでもないことを言い放った。

「なぁ、あんまり強そうに見えないぞ」
「……は?」
「ミス・コニール、何を!?」
「だって明らかに未成年だし、女じゃないか!」

 呆れ顔のルナマリアとアスランを無視して、続ける。
先に立ち直って言い返したのは、やはりルナマリアだった。

「いきなり言われても訳分からないし……だいたい、あなたは私よりもっと小さくて、女の子じゃない」

 ルナマリアの指摘は全くもってその通りだ。コニールは明らかにルナマリアより若い……いや、むしろ幼いと表現すべきかもしれない。
しかし、コニールは間髪おかずにこう切り返した。悲しい顔で。

「街の中で、上手く連合の監視をかいくぐって来れそうだったのは私だったんだ。
 ほとんどの大人は監視されてるか、連合にやられて動かないか、それに……
 街にはもう余裕はないんだ、私みたいのが来なきゃいけないくらい! まさかザフトにも、余裕がないっていうのかよ!」
「……え?」

 コニールの語気は強い。思わずルナマリアは言いよどんだが、それでもまだ彼女はいきなりあんな事を言われた理由が分からない。
それに、言われている事も断片的だ。しかし、最初からある程度聞いていたアスランが理解するには充分な言葉だった。

「つまり、ミス・コニール。君はこう言いたい訳か?
 自分のように若い女性に重要な役割を任せるほど、ザフトには余裕もしくはやる気がないのか、と」
「……そうだ」
「…………」

 アスランの言葉に肯くコニール。ルナマリアもやっと理解できたが、だからといって気持ちがいいものではない。
街に既に余裕が無いという言葉からすると、コニールはただちゃんとしたパイロットにやってほしいという想いから言っているのだろうが……。

(とは言っても、言い返せないっていうのがね……)

 自分がアカデミーを出たてであること。何より、周りの自分への評価。
実を言うと、ルナマリアもあまり自信はないのだ。確かに「インパルスにしかできない」けれど、「ルナマリアにしかできない」と言い切れない。
だから、言い返す言葉もなく黙り込むしかない。……ルナマリアは。

「信じてくれ、とは言わないさ。俺達が若くて、外見がエースっぽくないのは事実だからな」

 しかし、アスランは口を開いた。はっきりした口調で。

「それでも、彼女ならきっとやれるさ。エースだからな。俺が保証する」
「…………!」
「…………」

 アスランの言葉に、ルナマリアとコニールは言葉を詰まらせた。
ルナマリアは内容に驚いて、コニールはその口調に滲む自信に圧されて。
アスランは何も言わない。この短い言葉だけで十分だ、とその顔が告げている。
しばらくして、コニールが口を開いた。

「前にザフトが砲台を攻めた後、街は大変だったんだ。それと同時に街でも抵抗運動を起こしたから」

 ぽつりと、呟くような言葉。その表情は暗い。

「地球軍に逆らった人達は滅茶苦茶酷い目に遭わされた。殺された人だって沢山いる。
 今度だって失敗すればどんなことになるか判らない。だから……頼んだぞ!」

 その言葉と同時に、コニールはディスクを押しつけるようにルナマリアへ渡していた。
なんとかルナマリアが受け取ったのと同時に、コニールは後ろを向いて部屋を出ていく。
慌てたのは艦内案内役をしていたアスランだ。

「ああもう……とりあえず、ちゃんとデータを確認しておいてくれ。
 下手に歩き回られて機密を見られると後で始末書書かないといけないし」
「あ、あの!」

 コニールを追う形で部屋を出ようとするアスランを、思わずルナマリアは止めていた。
アスランは振り向かない。ルナマリアが止めた理由を見抜いて、その答えだけを残していった。

「嘘は吐いてないさ。少なくとも、俺はそう評価してる。君がエースだ。任せたぞ」

 山の中の坑道後を流用、改造されて作られた連合基地、通称ローエングリン・ゲート。
そこから何機ものダガーLが飛び立っていく。ある程度ランチャー装備のダガーLが基地周辺で待機しているが、ほとんどはジェットストライカー装備だ。
それに対し、ザフト軍はバクゥやラゴゥ、バクゥハウンドと言った機体で地上を中心に展開していく。空中での戦闘を主にする機体は少数だ。ただし……

「ふん、あの噂の新型艦か? 自分等も陽電子砲で上空と地上から揺さ振ろうという腹か。
 ま、狙いは悪くないがな。だが貴様には盾がない。しかし……」

 ローエングリン・ゲート司令部で、司令官が唸る。彼は決して、自分の基地の能力に依存するだけの無能ではない。
基地の能力を最大限に発揮できるような指示を出す、有能な人物である。だからこそ、すぐに気付いた。

「例の新型……インパルスだったか。あれはどうした?」
「はっ。レーダーには未だ確認されておりません」
「ふむ……」

 この基地周辺の地形は完璧だ。奇襲できるような地形はないはず。
周辺の坑道跡も、今までのレジスタンスとの戦いから全て判明、塞いでいるはずだ。
――しかし。

「通信兵。格納庫に繋げ。今まで隠して置いた『予備の切り札』の発信準備をさせておけ。
 万が一ということもあるからな」

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