Lnamaria-IF_餓月伝第01話

Last-modified: 2009-02-21 (土) 20:55:55

シンプルな室内であった。
装飾品の類が、極端にすくないのである。
射撃訓練の、部屋であった。
そこには均整のとれた体に、絶対領域を装備した女がいた。
ルナマリア・ホークがいた。
彫刻のような女だった。
何もかもが、美形だった。
指が、美形。
髪が、美形、
棟も足も肩も美形。
頭から放たれている、あほ毛までが美形だった。

 

その様子を、黙って見つめる男が居た。
一見、どこにでもいそうな男であった。
美男子ではない。しかし、自分の肉体に、何か独特の気配をまとわり付かせている。
不思議な、男であった。
――アスラン・ザラ。
それが、この男の名前であった。

 
 

「あんたも、どうだい、アスラン――」
ルナマリアが、微笑しながら言った。

 

「聴いてるぜ、色々とな」
「何をだ」

 

「だから色々だよ、クルーゼ隊での事や、ヤキンドゥーエの一件とかさ――」
初対面のアスランに、ルナマリアはざっくばらんな口調でいった。
以前からの顔見知りであったかと、ふとそんな錯覚に陥りそうであった。
「うれしいねえ、あんたみたいな人がいてさ――。俺はよう、久し振りに血が騒いだぜ」
ルナマリアが、にっと笑った。
「戦争が、好きですか」
「おう、好きだよ。派手な戦争も地味な戦争もみな好きだ。強くて強大なMSをぶちのめした時なんざたまらねえな。あんただってそうだろう?」
「好きです」
アスランの口から、ほろりと出ていた。

 
 

「惜しいですね。貴方ほどの戦士が、いまじゃ、頭が、奇麗事が満開のお花畑の、お姫様の護衛とは」
観客に、見事な射撃の腕前を見せたアスランに、あきらかに険がかった声が、投じられた。
アスランは、激発はしなかった。ただ、発言者――まだ彼よりも若い男に冷たい視線を浴びせた。
「よさねぇか、シン。お客人に失礼だろう」
ルナマリアが叱責した。
「すまないねぇ。こいつぁ、オーブ出身なんだが、先の戦争の時に家族を亡くして、な。オーブ指導層関係者にゃ当りがきついんだ。」
「申し訳、ありませんでした」
シンが謝った。だが、あきらかに言葉だけ、であった。
「見てのとおり、なまいきな奴だがよう、あたしの部下ん中じゃ素質はとびきりだぜ。多分、あんたらを倒せるくらいになるかもな」
キラとアスランをニヤニヤ見ながら、いたずらっぽく、ルナマリアは言い、シンに近づいた。
「ぐぅ!」
なんの準備動作もなく、いきなり、シンに、ルナマリアが蹴りを放った。
ひとつ。ふたつ。みっつ。――よっつめは、入らなかった。かろうじて、かわされていた。
「へえ」
キラが、感心したように言った。
「ふひゅっ」
ルナマリアの赤い唇が尖り、そこから鋭い擦過音が漏れた。立て続けに、シンの身体をルナマリアの突きと蹴りが襲う。
疾い。
頭、喉、首、胸、腹、脚。
ところかまわず、ルナマリアの連打がシンの身を打ってくる。
シンは、かろうじてそれをかわした。あるものは受け、流し、外す。いくつかは当たる。だが、かろうじて急所だけは、当たっていない。
しかし、それまでだった。反撃する余裕が、ないのだ。

 

きっかり十秒。そこで、ルナマリアは、動きを止めた。
「ふー、こいつは疲れる、腕をあげたねぇ、シ――」
ルナマリアが不用意に、初めて見せた隙、に見えた。シンは、ルナマリアのその口に向かって、左の拳を叩き込んだ。
その攻撃が、空を切った。ルナマリアが、身を沈めていたのだ。
どんっ!
ルナマリアの足刀で、シンは腹を蹴られていた。ルナマリアの両手が、伸びきったシンの手首をつかむ。
ひょい、と下から、ルナマリアの身体がシンの左腕に絡みつく。ルナマリアの両脚の間にはさまれ、仰向けに倒される。逆十字が、完全に決まっていた。
「まいったかい」
ルナマリアが聞いた。
「いいえ」
シンが答えた――途端に、シンの左腕の内部から、いやな音が響いた。
ルナマリアはシンの左腕を解いて立ち上がると、聞いた。
「まいったかい」
「隊長は、拳を入れられ、倒されたら負けを認めますか?MSなら、腕をを壊されただけで、負けですか?」
「いいや」
「どうなれば、負けるのですか」
「心が折れた時だな。こいつにゃ勝てねぇと思った時さ」
「よかった」
シンが微笑んだ。
「俺は、まだ、ギブアップしていません」
「――こんな奴なんだ。まったく。」
肩をすくめて、困っちまうよ、と言う様に、ルナマリアは周りを見回した。
「いい性格だなぁ。惚れ惚れするよ。――今回はここまでにしといてくださいよ。私と戦う時には万全でいてもらわなければ、もったいない」
キラが笑顔で言った。どこまでも、本気の発言の、ようであった。
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