Lnamaria-IF_523第16話

Last-modified: 2007-11-17 (土) 07:59:12

マラッカ海峡を越えてからは、みんなぴりぴりしていた。
なにしろカーペンタリアが近いのだ。
オーブ政府は相変わらずアークエンジェルの入港を拒否しているらしい。でもいい。身一つでもオーブに辿り着ければ……
『総員、第一戦闘配置! 総員、第一戦闘配置!』
捕まったか! こんなオーブを目の前にして!


「ソナーは? ソナーに感はないの?」
「今回は、ないようです。助かった!」
マラッカ海峡でグーンに散々な目に遭わされた為つい口に出てしまったようだ。
「気を引き締めて!」
今のアークエンジェルは、マラッカ海峡でやられた被害のため、最大速度が出せない。
「艦長!」
「なに!?」
「この反応は、イージス、ブリッツ、デュエル、バスターです!」
「なんですって!?」


「APU起動。カタパルト、接続。ストライカーパックはエールを装備します。エールストライカー、スタンバイ。システム、オールグリーン。ストライク、どうぞ!」
私が発進すると、フラガさんとジョンさんが戦闘に入っていた。
奪われたXナンバーはグゥルに乗っている。
バスターはまた姿が変わっている。元の、砲を両脇に抱え込む射撃方式に戻っている。撃っているのはどうやら大型レールガンらしい。
デュエルはこの前と同じね。
「みんな! グゥルを狙って! 本体を実体弾で狙っても相手はPS装甲よ!」
『おう!』
『了解!』
バスター……実体弾だけなら!
私はエールストライカーを吹かすとハイジャンプした。


「うわぁ!」
ディアッカは悲鳴を上げた。
「なんでお前は、いつも出て来るなり俺に突っ込んで来るんだよ!」
PS装甲に実体弾を撃つ無駄さは彼が一番知っている。
つい、レールガンを撃つ手が緩み、逃げる体勢になる。
だが、彼は間違っていた。実体弾であっても衝撃は与えられる。撃ち続けてストライクの体勢を崩すべきだったのだ。
ストライクには高空飛行能力はないのだから。
「またかよーーー!」
片脚を斬られながら、バスターは海面へと落ちて行った。


「やった!」
見ていたアークエンジェルクルーは歓声を上げる。
「回避!」
「「うわぁ!」」
「バリアント、ウォンバット、てぇ! 気を抜くな! お前達!」


「何をやっているディアッカ! アスラン! さっさと船の足を止めろ!」
「分かっている!」
「くっ!」
「イザーク! 一人で出過ぎるな!」
「五月蠅い!」
「エンジンを狙うんだ。ニコル! 左から回り込め!」
「はい!」
こいつさえ沈めれば! アスランは思った。そうすれば、ルナだって戦うのを止める!


「 はっうっ!」
「イーゲルシュテルン、4番5番、被弾!」
「損害率25%を超えました」
「イージス、ブリッツ、接近!」
「ウォンバット照準! グゥルを狙うんだ!」
「えぇ? グゥル……ですか?」
「モビルスーツが乗って飛んでいるあれだよ!」
「あ! ぁはい!」
「てぇ!」
「うっうぅ……くっそー!こんなところまで追いかけてくるなんて、あいつら!」
「ううー……」




「下がれアスラン! こいつは俺が!」
「イザーク! 迂闊に!」
――! ほら見ろ!
アスランは心の中で叫ぶ。イザークは、グゥルから落とされる。
ルナは強い! 強いんだぞ!
アークエンジェルに取り付こうとしたデュエルは、すぐに飛んで来たストライクによって片腕を切り落とされ、海の中へ蹴り落とされていた。
「ニコル! ストライクの飛行能力はグゥル程高くない! ストライクの届かない所から攻撃するんだ!」
「わかりました! アスラン!」




『皆様、御覧いただいている映像は、今、まさにこの瞬間、我が国の領海から、わずか20kmのの地点で行われている戦闘の模様です。政府は、不測の事態に備え、既に軍の出動を命じ、緊急首長会議を招集しました。また、カーペンタリアのザフト軍本部、及びパナマの地球軍本部へ強く抗議し、早急な事態の収拾、両軍の近海からの退去を求めています……』
「ウズミ様」
「許可なく、領海に近づく武装艦に対する我が軍の措置に、例外はありますまい。ホムラ代表」
「はぁ……しかし……」
どうする気だ兄者。ホムラは思った。サイーブ教授が伝えて来た話だと、あの艦には姪が……カガリが乗っているのだぞ。
「テレビ中継はあまりありがたくないと思いますがな」
そんなホムラの気遣いを無視するようにウズミが言った。




「領海線上に、オーブ艦隊!」
「なに!?」
「あっ!助けに来てくれたの?」
トール達の声が弾む。だが、マリューの言葉がすぐにそれを打ち消した。
「領海に寄り過ぎてるわ! 取り舵15!」
「え!?」
「しかし!」
「これ以上寄ったら、撃たれるわよ」
「そんな……」
ヘリオプリス組に失望が走る。
「オーブは友軍ではないのよ? 平時ならまだしも、この状況では……」
「構うことはない!」
「ぇ?」
カガリが、艦橋に飛び込んで来た。
「このまま領海へ突っ込め! オーブには私が話す! 早く!」
「カガリさん……」
「展開中のオーブ艦隊より、入電!」
『接近中の地球軍艦艇、及び、ザフト軍に通告する。貴官等はオーブ連合首長国の領域に接近中である。速やかに進路を変更されたい。我が国は武装した船舶、及び、航空機、モビルスーツ等の、事前協議なき領域への侵入を一切認めない。速やかに転進せよ!』
「うぅ……」
『繰り返す。速やかに進路を変更せよ!』
「くっ……」
『この警告は最後通達である。本艦隊は転進が認められない場合、貴官等に対して発砲する権限を有している』
「くっ!」
「攻撃って……俺達も? そんなぁ……」
「何が中立だよ。アークエンジェルはオーブ製だぜ?」
「構わん! このまま領海へ向かえ!」
再びカガリが叫ぶ。
「ぁ……」
「マイクを寄越せ! 全周波数帯で発信しろ! 取材のヘリにも聞こえるようにな!」
「カガリの言う通りにしてやってくれ」
「キサカさん……わかったわ。全周波数帯で発信!」
「この状況を見ていて! よくそんなことが言えるな! アークエンジェルは今からオーブの領海に入る! だが攻撃はするな!」
『な!?なんだお前は!』
「お前こそなんだ! お前では判断できんと言うなら行政府へ繋げ! ウズミ・ナラ・アスハを呼べ! この艦には、ヘリオポリスの避難民が乗っているんだぞ! 政府は自国民を見捨てるのか!?」
『そのような言い逃れを! 仮に真実であったとしても、何の確証も無しにそんな言葉に従えるものではないわ!』
「貴様ぁ! うっ!」
「うっ! くっ!」
イージスとブリッツからの攻撃がアークエンジェルを襲う。


「ご心配なく、ってね! 領海になんて入れさせませんよ! その前に決める!」
「ニコル! オーブ艦に当たる! 回り込むんだ!」
「しかたないですね!」


「うわぁ!」
「あっ……うっ!」
「ああ!」
「あ!」
「1番2番エンジン被弾! 48から55ブロックまで隔壁閉鎖!」
「推力が落ちます! 高度、維持できません!」
「これでは、領海に落ちても仕方あるまい」
キサカが落ち着いた声で告げる。
「ぇ?」
「ぁ!」
「心配は要らん。第二護衛艦軍の砲手は優秀だ。上手くやるさ」
「……分かりました。オーブ領海へ突っ込んで!」


「警告に従わない貴官等に対し、我が国は是より自衛権を行使するものとする」
「くっ……どうします? アスラン?」
「一旦引こう、ニコル」
「ディアッカとイザークはどうしますか?」
「ボズゴロフに任せる」


ボズゴロフは海面に顔を出して待っていた。
「手荒くやられたようだな」
「ええ、現状では潜水は、不可能です。ですが、間もなく復旧する予定です」
「そうか、デュエルとバスターの救助をよろしく頼む。」


「さて、とんだ茶番だが、致し方ありますまい。公式発表の文章は……」
ウズミは秘書に促した。
「既に草稿の第二案が」
「いいでしょう。そちらはお任せする。あの船と、モルゲンレーテには私が」
「は!」
「どうにもやっかいなものだ、あの船は」
他の首長から声が上がる。
「今更言っても、仕方ありますまい」
オーブの亀裂を徒にあきらかにする言葉に、ウズミは少しいらついた。




『指示に従い、船をドックに入れよ』
先導艦に従い、アークエンジェルはゆるゆると進んでいった。
「オノゴロは、軍とモルゲンレーテの島だ。衛星からでも、ここを伺うことは出来ない」
「そろそろ貴方も、正体を明かしていただけるのかしら?」
「オーブ陸軍、第21特殊空挺部隊、レドニル・キサカ一佐だ。これでもアスハ家の、カガリ・ユラ・アスハ嬢の護衛でね」
「……そう。彼女が。我々はこの措置を、どう受け取ったらよろしいのでしょうか?」
「それは、これから会われる人物に、直接聞かれる方がよろしかろう。オーブの獅子、ウズミ・ナラ・アスハ様にな」




「こんなふうにオーブに来るなんてなぁ」
「ね、さ。こういう場合どうなんの? やっぱ降りたり、って出来ないのかな?」
カズイは弱気な表情を浮かべて言った。
「降りるって……」
「いや、作戦行動中は除隊できないってのは知ってるよ。けどさぁ、休暇とか……」
「可能性ゼロ。とは言わないがね。どのみち、船を修理する時間も必要だし」
ノイマンが、カズイの言葉を否定した。
「ですよねぇ」
「でもまぁ、ここは難しい国でねぇ。こうして入国させてくれただけでも、けっこう驚きものだからな。オーブ側次第ってところさ。それは、艦長達が戻らないと、分からんよ」
「父さんや母さん……居るんだもんね」
「会いたいか?」
「ぁー……」
「ん……」
「会えるといいな」




「御承知の通り、我がオーブは中立だ」
ウズミはマリュー達に言った。
「はい」
「公式には貴艦は我が軍に追われ、領海から離脱したということになっておる」
「はい」
「助けて下さったのは、まさか、お嬢様が乗っていたから、ではないですよね」
「国の命運と甘ったれたバカ娘一人の命、秤に掛けるとお思いか?」
「失礼、致しました」
「そうであったならいっそ、分かりやすくて良いがな。ヘリオポリスの件、巻き込まれ、志願兵となったというこの国の子供達。戦場での聞き及ぶ、Xナンバーの活躍。人命のみ救い、あの船とモビルスーツは、このまま沈めてしまった方が良いのではないかと、大分迷った。今でもこれで良かったものなのか分からん」
「申し訳ありません。ヘリオポリスや子供達のこと、私などが申し上げる言葉ではありませんが、一個人としては、本当に申し訳なく思っております」
「よい。あれはこちらにも非のあること。国の内部の問題でもあるのでな。我等が中立を保つのは、ナチュラル、コーディネイター、どちらも敵としたくないからだ。ま、力無くば、その意志を押し通すことも出来ず、だからといって力を持てば、それもまた狙われる。軍人である君等には、要らぬ話だろうがな」
「ウズミ様のお言葉も分かります。ですが、我々は……」
「ともあれ、こちらも貴艦を沈めなかった最大の訳のお話せねばならん。ストライクの、これまでの戦闘データと、パイロットであるコーディネイター、ルナマリア・ホークの、モルゲンレーテへの技術協力を我が国は希望している」
「ぁぁ……」
「叶えば、こちらもかなりの便宜を、貴艦に図れることとなろう」
「ウズミ様!それは……」
「……」
「……電話を、お借りできますか?」
「電話だと?」
「ええ。オーブなら、海中ケーブルでアメリカ大陸まで繋がっているはずです。我々からはなんとも」
「表立って交渉するなら、私が最初から地球軍本部と交渉しておるわ!」
「愚直と言われましょうとも、本部に問い合わせできる状況なのですからそうしたい、と私は考えます」
「確かに愚直だな」
ウズミは苦笑するしかなかった。
「……わかった。連絡するがいい。向こうも安心するだろう」
「申し訳ありません。ありがとうございます」




「艦長、アラスカからはなんと?」
マリューがJOSH-Aとの交信を終えて帰ってくると、待ちかねたようにナタルが尋ねた。
「それが……最低限の修理で、高度と速度さえ出せるようになれば出港せよと……。ストライクの戦闘データはオーブに渡してやれとの事です。ルナマリア・ホークに関しても時間が許す限り、協力させてもよいと」
「最低限の修理で出港とは……俺達に沈めって事?」
「フラガ少佐!」
「迎えは、護衛は来るそうです。今日中に編成するとの事です」
「そうか……やれやれだな」
「これで一安心できますね」
ナタルがほっと溜息をつく。
「後は……会わせてあげたいですわね。ルナマリアさん達を、ご両親に」
「そうですね」
ナタルが気遣わしげな表情を見せた。







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