Lnamaria-IF_523第21話

Last-modified: 2007-11-17 (土) 08:11:59

救援要請地点では、ザウートとリニアガンタンクの戦いにバクゥが乱入し、暴れまわっていた。
「これ以上、勝手をさせるもんですか!」
私はエールストライカーを吹かすと突っ込んだ。
「私がかき回すから、その間に各自射撃を!」
「了解」
……ミューディー? 彼女はデュエルダガーのフォルテストラ装備を拒否し、機敏に戦っていた。
「ミューディー! ひとりで突っ込まないで!」
「こっちは任せた! お嬢ちゃん! 好きなようにやれ!」
フラガさんがミューディーの隣りで戦い始める。
「中佐! 航空支援を頼みましょう!」
「こんな混戦の中でか?」
「爆撃してもらおうってわけじゃありません! バクゥが飛べなくなればいいんです!」
「わかった!」
程なくしてスピアヘッドの編隊が来る。そしてバクゥに上空から銃撃を加える。
――! 今! 私はジャンプすると上空からすくんでいるバクゥの背中を撃つ! ミサイルポッドが弾ける。 急降下してリニアガン装備のバクゥをビームサーベルで突き刺す。
メンバーのみんなも、一気にバクゥを駆逐してゆく。
『フラガ教導隊、助かったぜ』
リニアガンタンクから通信が入る。
「あんたは?」
『エドモンド・デュクロ少佐だ。ここの小隊を預かっている』
「覚えとくよ。またいつでも呼んでくれ!」


一旦本部に戻ったものの、すぐに救援要請が来た。
今度は海辺だ。格闘性能がある水陸用モビルスーツに苦戦しているらしい。
……ゾノだ! 私も苦戦した。
救援地点に行って見るとそんな不安も吹き飛んだ。確かに陸上でも機敏に動けるみたいだけど、バクゥに比べればどうと言う事もない! でも数が、多いどころではなかった。これは苦戦する訳だわ。
「航空支援を要請する。皆、一旦下がれ!」
フラガさんから指示が飛ぶ。
スピアヘッドの編隊が来る。爆撃。岸辺を満遍なく叩く。海へ戻ろうとした物も、水中爆発効果で被害が出ている事だろう。
「ようし、ザフトの奴らを海へ追い落とせ!」
グーンは、砲撃にまかせていいよね。
私はゾノを狙う。
「インド洋でのお返しよ!」
こちらを狙うクローごと切払う。
フラガさんと私、スウェンさんとミューディーの攻撃で、ゾノは駆逐された。私達は一旦下がる。
サイ達とリニアガンタンク部隊が残ったグーンに砲撃を浴びせる。
これで、ここも片が着いたかな?


「ちくしょー! なんだこりゃー!」
「聞いてないぞ! 地球軍にモビルスーツがいるなんて!」
そう言っている間にも、地球軍のモビルスーツは統制の取れた動きで射撃して来る。それを切り抜けても、
ビームサーベルの刃がジンを襲う。それはジンの重斬刀の刃も簡単に切り裂き、アンチビームシールドを持たないジンにとっては分の悪い戦いだった。
それでも優勢に立つ局面もあるのだが、しばらくたつと、どうやら手だれを集めたらしい、様々な機体が混在したモビルスーツの小部隊が駆けつけ、押し戻されてしまう……
ザフトの兵士に焦りが広がっていった。


私が行ける! と思ったのは、いつだったろう。
相変わらず救援要請で忙しいけど、手ごたえが違ってきている。このままやっていればしのげる、と言うように。
「お嬢ちゃん!」
「マードックさん!」
補給のためにアークエンジェルに寄った。久しぶりだ。
ここで、生活していたんだよねぇ。懐かしい。
「無事なようで何よりだ。しっかり整備してやっから、休んどきな」
「ありがとう!」


「ふーん、ここが中尉の古巣って訳?」
ミューディーが話しかけてきた。
「ええ、そうよ。いい艦でしょう?」
「艦、配属された事ないから。ずっと地面の上ばかりだったわ。あはは。でも、いい艦ね」
そう言うと、艦のスタッフに話しかけに行った。
ちょっと、エキセントリックな子だ。他のスウェンさんやシャムスさんのように、用が無ければ話しかけられないのも辛いけど。でも、ミューディーの場合は、親しく話しかけてくれるけど、なにか投げやりな、心にぽっかり穴が空いた様な感じを受けるのだ。私に何が出来るだろう……そこまで考えて、首を振った。医者でもないのに、そんな事。


私の勘は当たった。もう何度目の救援要請かなんてわからないけど、敵が、前に進んで来なくなったのだ。いや、ゆっくりとだけど後退している!
「気を引き締めろ!」
フラガさんから叱咤の声が飛ぶ。
「まだ何があるかわからんぞ!」
シャムスさんが突進する。
「ちくしょう! お前ら空の悪魔なんて! 逃がす物か!」
「シャムス少尉、出過ぎです! 戦列を保って!」
「うるさい!」
「命令です!」
撤退するザフト軍。殿軍を志願したのだろう、シグー。おそらく上級者の腕前は、まだモビルスーツに乗って間もないシャムスでなんとかなるものではなかった。たくみにシャムスのビームサーベルを避け、重斬刀を叩き込む。
バスターダガーがよろける!
――! スラスターを吹かし、両者の間に飛び込む! 振り下ろされた重斬刀の衝撃がシールドを伝わってくる。
私は更にエールストライカーのスラスターも吹かし、相手を押し込む! 倒れた相手にビームサーベルを突き刺す。
……それが、アラスカで私が倒した最後の相手だった。


「やれやれ、勝ってしまったよ」
「勝って、嬉しくないのですかな?」
「元々この作戦はザフト軍の大半を誘い込み、一気に片を付ける作戦だった」
「それが、ザフトにそれなりの損害を与えたとは言え、撤退を許してしまった」
「その分、我々の被害も小さいと思いますが」
「まぁまぁ。ともあれ、地球軍製のモビルスーツの有効性は確認されたのだ」
「その通り。アルスター事務次官殿もお喜びだろう」
「ハルバートンの顔を思い浮かべると癪だがな」
「おいおい、ここにもハルバートン派はおるのだぞ。うふふふぅ」
「とにかく、今回の功労者も、ムウ・ラ・フラガ中佐でよいですな」
「ああ。まさか、我らのモビルスーツのお披露目の功労者をコーディネイターの小娘にする訳にもいくまいよ」
「では、フラガ教導隊全体を功労者として称える、でよいですな」
「「異議なし」」


「しかし、二度目の勲功章をもらうとはなぁ」
「ふふ、フラガさん、あちこちまわって作戦立てて、この戦い勝ったのフラガさんのおかげじゃないですか」
「お嬢ちゃんも銀星勲章おめでとさん」
そう、私達フラガ教導隊は全員が叙勲されたのだ。軍が発行している新聞にも出てる。
「へー。ルナの事は、ヘリオポリスからフラガ中佐に付き従い支えた一の部下、だって」
トールが新聞を読む。
私も読むと、ヘリオポリスからストライクを操縦していたのはフラガさんみたいな微妙な書き方をしていた。私の事は、トールが言った程度しか書かれていない。私がコーディネイターな事も触れていない。少し、ほっとした。
サイとトールも、ヘリオポリスからの部下と言うことになっている。気になっていたスウェンさん達の経歴も、あまり書かれていなかった。軍学校で顕著な成績を上げ教導隊に抜擢された……くらいだ。


アラスカの町は、それなりに被害を受けていたけど、早くも飲食娯楽関係は復活しているようだ。
フラガ教導隊のみんなで祝杯を揚げる事になった。
「よお! フラガ教導隊!」
「お? 今日は助かったぜ! ありがとよ!」
基地を歩くと、街を歩くと、そこかしこから、声が掛けられる。
フラガさん、有名だものね。私達も適当に手を上げながらそれに答える。
ミューディーが言う。
「シャムスはねー、ビリヤードが得意なのよー」
「お、いいねー。じゃ、プールバーでも行くか?」
フラガさんの鶴の一声で、シャムスさん馴染みのプールバーへ行った。
「じゃ、私カルアミルク」
「私はブラッディマリーねー」
私とミューディーは早速お酒を頼んだ。
「ソルティドッグを」
スウェンさんも頼む。
「おい、いいのかよ、お酒なんて頼んじゃって」
「サイ、固い事言うなよ! 今日ぐらいはいいんじゃないの?」
トールは飲みたそうだ。
「そうそう、飲んじゃいなよー」
ミューディーが誘う。
「じゃあ、なにか飲みやすい物を」
「はいよ!」
マスターが出してきたのはスクリュードライバーだった。
ビリヤード台ではシャムスさんとフラガさんがゲームをしている。ビリヤードはさっぱりなのでわからないが、どうやらシャムスさんが勝ったようだ。
「シャムスー! ルナがビリヤードまったく知らないみたいよー」
え? ちょっとミューディー!
「しょうがないなぁ」
むっつりした顔でシャムスさんが言う。
「教えてやるから来い」


「いいか? ビリヤードはメンタルスポーツのひとつとされ、個人の体格差・体力差による依存度は比較的小さい。まず落ち着いた気持ちで玉をまっすぐに突けるようになれ」
「はい!」
「チョークを付けるのも忘れるなよ。チョークを全くつけないとキューミスが増える」
「はい!」
言われるままに、玉を突き、ポケットに玉を落とす。
「そうそう、やるじゃないか」
初めて、シャムスさんが私に笑いかけた。ビリヤードを覚えた事より、それが嬉しかった。
「おいおい、スクリュードライバーがいくら飲みやすいからってこんなに飲んじまって!」
え?
フラガさんの声で振り返ると、サイとトールが潰れていた。
スウェンさんはくっくっくと笑っていた。


「料理がたべたーい!」
ミューディーの一言で、河岸を変えることになった。
サイとトールはフラガさんとスウェンさんが担いで行く。
入ったレストランでは、もう人が一杯いて、向こうから声を掛けてきた。
「フラガ教導隊の皆さんで?」
「ああ、そうだが、席は空いてるかい?」
「おーい! お前ら席詰めろ! フラガ教導隊のお出ましだ!」
「「おおー!」」
「……ん、何?」
サイが目を覚ます。
「う、気持ち悪い」
「あんなに酒飲むからだ。さあ、ここに座って水でもたっぷり飲んどけ。じゃないと明日が辛いぞ」
フラガさんがサイとトールを座らせる。
「さあ、お嬢ちゃん達はこっちだ」
「あ、ありがとうございます」
私とミューディーは偉い人らしい人の横に座らされた。
「隊長ずるいっすよー」
「ははは、役得役得。そう言えば、俺の名前しらんだろう」
「あ、ええ」
「エドモンド・デュクロだ。あんたらに救援に来てもらったリニアガンタンク部隊の隊長だ」
「ああ、そう言えば、聞いたような気も……」
「ははは、今日は激戦だったからなぁ。さあ、料理はまだまだ来るぞ。食べて食べて」
「あ、はい、ありがとうございます」
さすがJOSH-A近郊でやってるレストランだ。おいしい! ミューディーもおいしー! と言いながら食べている。
「しかし、君らのような若者を戦争に出さなきゃならんとはなぁ」
デュクロさんは沈痛な面持ちで言う。
「……でも、きっとすぐ終わりますよ。プラントって人口少ないんでしょう?」
「そうだな。……お嬢ちゃんは、戦争が終わったらどうしたい?」
「え?」
デンギル先生にも聞かれた事だ。でも、私はどうしたいんだろう?
「すぐに答えられないのは、思いつかないからかな? だとしたら、不幸な事だ」
「……」
「俺はなぁ、戦争が終わったら、除隊して、DSSDに行こうと思っているんだ」
「DSSD?」
「深宇宙探査開発機構さ」
「どうしてそこに行こうと思ってるんですか」
「とりあえず上を見ておこうかなってさ。ほら 横を見ると誰かに嫉妬して自分も欲しくなるだろ? 下を見ると今の自分で助けてあげられる人がいて、彼らに必要とされてりゃ気持ちはいいけど、もしも自分よりも弱い者がいなかったらって思う。その時自分は何をやるんだろうって。だから、上を向いてる自分を確認しておこうと思ってね」
「私は、下を向いてばかりです。戦争があるから、みんな私を必要としてくれるって。ストライクに……モビルスーツに依存してる……。私、コーディネイターなんです」
「そうか。俺の甥もコーディネイターさ。でも、今地上に残っているコーディネイターな事を幸せに思うべきだな」
「どうして、ですか?」
「プラントの奴らは、周り中同じコーディネイターだらけで、何かくじければ、何かあれば自分達は新人類だ、ナチュラル共とは違うんだって、そっちの方に流れやすい」
「……」
「今地上にいるコーディネイターは、そんな所に逃げれない。そんな考えをすれば、周り中が敵になる。克服するチャンスを与えられたと思うべきだ」
「克服する、チャンス……」
デュクロさんとの会話は、私の心に強い印象を残した。
上を向け、か。
ヘリオポリスから始まって、初めて私は本気に戦後を考え出した。







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