Lyrical DESTINY StS_外伝

Last-modified: 2008-03-30 (日) 18:01:31

俺たちの戦いは終わった。

 

やっと、墓前に・・・花を添えられた。

 

これで、この世界は・・・俺たちは“平和”を享受できた。

 

きっかけは突然だったけど。

 

俺たちはこの世界から出て行く。

 

いや、旅立つんだ。

 

皆で一緒に!

 

俺の“力”を間違えず、使うために!

 

間違えてしまった今をやり直すことはできない。

 

だが、償う事はできるはずだ。

 

俺はいつも危なっかしいと言われ、自分でも自覚していた。

 

そんな俺が償うためにすべきことを、見つけた。

 

ソレを見失わないために。

 

─CE74 エターナル食堂─

 

「魔法!?」
突然、素っ頓狂な声を上げるシンは椅子から立ち上がり、反対側に座るルナマリアを見下ろす。
「そ!何でも、漂流者がいて、その人によると“自分は異世界から来たもので
時空管理局に所属する魔道士だ”って言ったらしいわよ!」
ルナマリアからの情報なので、どうにも信用していいのかが疑われ、シンは困惑する。
「その人の名前は?」
「えっと・・・確か・・・セダン・レクサスって言う男の人だよ」
名前を聞いて、へぇっとシンは相槌を打って椅子にかける。
「何、興味あんの?」
なんとも意地悪な言い方でシンに問いかけるルナマリア。
「ん・・・少し、な」
「!」
予想外の反応に、少し驚くルナマリア。
「?・・・なんだよ?」
「アンタ、少し大人になった?」
ルナマリアがジト目でシンを見る。
「なっ!!」
シンもルナマリアの反応に少し赤面し、ソレを否定し始める。
「違うよ!・・・ただ、否定して事実だったら悔しいだろ!!」
ふん、とそっぽを向くシン。
そんなシンをみていて少しおかしくなったのか、ルナマリアはクスリと笑う。
「大人になったね!シン!」
ソレを心から喜ぶかのように、ルナマリアは笑う。
シンも自然と悪い気はせず、それ以上悪態はつかなかった。

 

「シンも、魔法使いに会いにいこうよ!」

 

食堂を出てから、唐突に提案するルナマリアにシンはまたか、と頭をかく。
「けど、その人どこにいるんだよ?
それに、俺らはプラント防衛任務の最中で、休暇が取れるのはまだ先だろう?」
シンがスケジュールを頭の中で浮かべて、ダメだ・・・と頭を振る。
「ソレがね、ここにも来るんだって!!」
ずっこけた。
シンはおもむろにこけた。
「何、やってんの?」
しかも、ルナマリアは真顔でソレを問いかけてきた。
「・・・お前がなんでもかんでも突然言い出すからだ!!」
姿勢を直し、シンはすたすたと歩を進める。
「あっ待ってよ!!」
ルナマリアもあわててシンの後を追う。
シンとルナマリアが目指すのはブリッジだった。
オーブとプラントが和平協定を結んでからは世界全体が穏やかなものになり
ZAFTも本来の形に戻りつつあるのだった。

 

「よぉお二人さん」
二人が歩いていると、後ろから声をかけてくるものがいた。
「あ、どーも!バルトフェルド隊長!」
その人物は、今はシンとルナマリアの上司にあたる、バルトフェルドだった。
シンとルナマリアは敬礼し、バルトフェルドを先に行かせる。
「ん~なんとも言えない気分だねぇ?魔法使いってのは」
アンタもか!という突っ込みを心の中で入れるシン。
「それで、魔法使いさんはいつ来られるんですか!?」
便乗してルナマリアも魔法使いネタを問いかける。
「ん・・・確か、三日後だ。ラクスと・・・いや
クライン最高評議会議長とともにいらっしゃられるはずさ」
今、バルトフェルドは癖からかラクスを呼び捨てにしようとしたが、シンたちの手前言い直していた。

 

それを聞いたシンは二人がいたことにより、あまり感情を表に出さなかったが、興味津々でもあった。
「それでね、もし魔法を使える資質がある人がいるんなら
一度体験で彼の世界に行ってみないか?という話も持ち上がっているのさ」
「ということは、魔法ってそれほど秘匿義務が高いわけでもないんですか?」
「らしい・・・だが、解せんこともあるさ」
バルトフェルドは何か気になる、といった意味深なセリフを吐くと
そのままブリッジに入って話を切ってしまう。
シンとルナマリアもブリッジに入り、そこから見える地球を見つめた。
ブリッジに入ると、地球のほうに向いているエターナルからは
やはり一番はじめに目に入ってしまうのだ。
「やぁ、シンにルナマリア」

 

そして、ブリッジの艦長席の横に立っている白服の男・・・キラが笑顔で二人を迎える。
「「おはようございます!」」
二人は敬礼し、挨拶をすます。
「おはよう・・・二人とも、ちょっといいかい?」
キラも二人に挨拶をすると、手招きして二人を呼び寄せる。
何かな、と顔を見合わせる二人だったが、上司を待たせるわけにもいかず、すぐにキラのもとに行く。
「なんですか?」
シンが尋ねる。
「うん・・・君たちにはね、お客さんの護衛をしてもらいたいんだ」

 

─数時間前オーブ・代表執務室─
「てなわけで、アスラン!お前には空に上がってもらう」
「・・・は?」
つい数分前まで、カガリとアスランはデスクと向かい合い、仕事をこなしていた。
アスランはカガリの護衛と軍の仕事を掛け持ちしている・・・故に忙しい。
そんな自分にそんなことを突然言ってくるカガリ・・・
たまっているストレスに火をつけまいと、必死に押さえ・・・カガリに問いかける。
「そ、ソレは・・・また急に、なぜだ?」
「お前も聞いているだろう?今プラントに滞在中の魔法使いの護衛を頼みたいんだ」

 

ゆっくりと、アスランのストレスに火がつき始める。
「あのなぁ!!俺だって暇じゃないんだぞ!?ソレなのに、お前は俺に行けと!!!?」
アスランのものすごい声はもはや部屋の外まで響き渡り、カガリもあまりのボリュームに耳をふさいでいた。
「はぁ・・・はぁ・・・だが、こっちには来ないんだろ?」
「ああ。一応、プラントで保護した形になっているからな」
怒りが収まったのかアスランは我に返り、カガリに冷静に質問していた。
「ならなんで俺が行かなきゃならん?」
「そう言うな・・・・・・理想の場所が見つかるかも知れないし、な」
カガリはどこか期待のこもった言葉を漏らす。
アスランは疑問符を浮かべることしか、今はできなかった。
しかし、アスランも変わる。
宇宙に上がって、知る・・・人間が一つの理想を叶えた世界に。

 

「わかった・・・とりあえず、準備もあるから・・・」
「その心配はない!準備はすべて整っている!!」
そう言って、カガリは指を鳴らす。
すると、扉が開き、そこに数人の黒服にサングラスな男たちが
入ってきてアスランをがっしり捕まえ、引きずっていった。

 

「達者でな~」
カガリはアスランにとってもっとも不愉快な笑顔で、さらにはハンカチを振りながらアスランを見送るのだった。
「お、お、お・・・覚えてろよぉおおおおおお!!」
アスランの叫びはオーブ行政府に響き渡るが、さして誰も気に留めなかったという。

 

─プラント アプリリウス市 某ホテル─

 

「初めまして!このたび、護衛を担当するルナマリア・ホークです!」
名乗り、敬礼するルナマリア。
その横には、げっそりしたシンがいた。
「シ、シン・アスカです・・・」
どうにか、敬礼し終えると今にも倒れそうなシンだった。

 

(な、なんで俺が・・・こんなことに)

 

ことの発端は、キラからの護衛依頼。
シンは拒否したのだが、色々と痛いところをつかれ、さらには休暇やその他もろもろ
職権乱用だよ!って言いたくなるほどの言葉をぶつけられ、仕方なく従ったのだ。
(あの人は・・・権力持っちゃダメだろ)
と、心の中で思っているシンだった。

 

「こちらこそ、よろしく!時空管理局・首都航空防衛隊所属セダン・レクサス一等空尉です」
一方、シンたちの護衛対象であるセダンという男も敬礼で返す。
セダンは耳まである金髪に、身長は180行くか行かないか、という感じ。
両耳にピアスをつけており、その先についている黒い宝石はセダンの金髪といい感じにマッチしていた。

 

「じ、じくうかんり・・・きょく?」
やはり、聞きなれない単語ゆえか、シンは聞き返す。
「そう・・・時空管理局、俺が所属する組織で・・・法の守護者さ」
「へぇ。私たちと同じ軍隊ですね!」
ルナマリアがそう解釈すると、似たようなものだねと返すセダン。
「犯罪者を取り締まり、弱い人達を守る・・・ソレが僕たちの仕事さ」
その言葉に少しシンが反応する。
「理想・・・ですね」
「理想という言葉で終わる気はないさ・・・
俺たちは、守るべきものを守り通すために、魔法を使うんだからな!」
セダンの語るものは、シンたちにとって少なくとも理想の枠を超えたものだ。
だが、ソレはシンにとって多少疎むべきものにもなりえた。
「けど!言葉だけじゃ、何もできません・・・」
ぐっと何かをこらえるシン。

 

ルナマリアも心配して、シンを見る。
「・・・その通りだ。言葉じゃどうにもならない。君も辛いんだろう?
この世界は科学が発達した。故に、人を“殺す”ことに特化している」
悲しい現実。
戦争が終わっても、失われた命が帰ってくるわけじゃない。
奪われ、奪う側になったシンはソレをよく知っていた。
「俺の世界でも、確実に10を救える世界じゃない・・・だが、最大限助けられる命を
助け、たとえ悪党でも殺したりしない。ソレが、俺たちのやり方さ」
「・・・ホント、いいですね」
どこか、切なそうな笑みを浮かべるシン。
ここで、その話に反発して否定して、怒鳴っても無意味だ、とわかっているのだ。
「どうだい?君も、時空管理局に入ったら?」
「え!?」
予想していなかった言葉に、シンは驚く。
「・・・いえ、遠慮しておきます」
少し間をおいて、シンは丁重に断りの返事をセダンに言う。
「そうか。まぁ、この管理外世界とも、いい交流ができそうさ」
「管理外世界?」
ふと、ルナマリアが問いかける。
「そう。俺たちは魔法文化のない無交流の世界を管理外世界って呼ぶ。
その世界からたまに、次元をゆがめるほどの状況が出る・・・
ソレを未然に防ぐのが俺たちの仕事ってわけさ」
セダンの語るそれには、ルナマリアも引き込まれそうになるほど壮大で、話題としては一級品だった。

 

「実に、興味深い話ですね」
すると、扉が開き、アスランが部屋に入ってくる。
「アスラン!?」
シンとルナマリアはアスランの登場に意外な目で、セダンは誰?という目でアスランを見る。

 

「はじめまして?私は、オーブ首長国オーブ軍少将アスラン・ザラです」
シンとルナマリアを放っておき、セダンに握手を求めるアスラン。
「はじめまして!セダン・レクサス一等空尉です!」
がしっとアスランの手を握るセダン。
「それで、ザラ少将は一体何用で?」
シンが不機嫌な声でアスランに問いかける。
「ああ・・・ソレが、俺もレクサス一等空尉の護衛に選ばれてしまってな、半ば強制的にだが」
ため息を一つつき、アスランは視線を遠くにやる。
「・・・ご愁傷様」
後ろでルナマリアは合掌していた。

 

「では、少しの間ですが、よろしくお願いします」

 

と、言ったものの・・・今はそれほど危なっかしい世の中でもなく、ただの団欒が始まっていた。

 

「へぇ~!じゃあ、魔法って・・・銃みたいな扱いもできるけど
結果的には殺さず、捕えることができるんですか?」
魔法の話題になり、ルナマリアは興味津々といった感じでセダンに問いかけていた。
「そうだよ。俺たちの魔法は、非殺傷設定システムをデバイス・・・
魔法を使うための機械なんだけどね?ソレにより、犯罪者に対して
魔力ダメージって言うものを与えて昏倒させる。ソレが俺らの常套手段さ」
「だが・・・その魔力も有限ではあるのでしょう?」

 

今度はアスランが質問する。
「まぁね。だが、休めば戻る・・・そういうものだ。俺たちの魔力はリンカーコアと
呼ばれるものから変換されて、魔法を実現させる・・・ソレを実現させるのは
コミカルな話じゃなく、リアルな話。術式と呼ばれるものを構築し、ソレが魔法となる」
漫画に出てくるような理解しがたいものではなく、現実的なもの。ソレが魔法だ。
「実に興味深い・・・」
アスランは頭の中でソレを想像する。
だが、どのような形式で使われるのかがまだ未知のものだったので形にする事はできなかった。
「よろしければ・・・見せていただく事はできませんか?」
アスランは好奇心を押さえきれず、そう口にしてしまった。
「ああ、構わないが・・・どこか、広い場所と的を用意してもらえるとありがたいね」

 

こうして、アスランたちはセダンから魔法というものを見学させてもらえることとなり
ラクスの承認もあってアーモリー1で魔法実戦が行われることとなった。

 

─アーモリー1─

 

さすがに魔法という未知の能力・・・ソレも、自分たちコーディネイターが束に
なっても叶わないというその力には数多くの人が興味を示し、アスランやシン
ルナマリアだけでなく居合わせた大勢が見学することになった。

 

アーモリー1第1演習場の中央にセダンが立っており、その前に三体の訓練用ジンが用意されていた。

 

「本当にいいんですか?」
ジンに乗り込んでいるのは、見学を願い出たアスランたちだ。
ジンの装備には実弾が仕込まれている・・・セダンからの申し出だ。
「ああ・・・構わないさ!一応、名乗りを上げておこうか・・・時空管理局地上本部
首都航空防衛隊及び戦技教官セダン・レクサス一等空尉!!保有魔道士ランクは
空戦AAA!!そして、俺の相棒・・・インテリジェントデバイス・サタン!!」
懐から取り出す一枚の黒一色のプレート。
その中心には緑の結晶が取り付けられている。
「行くぜサタン!!」
(OK!スタンバイレディ・・・セットアップ)
黒い光が広がり、その黒を中心から白い光が塗りつぶしていく。
その光はすぐに縮んでいき、人の形をなすと、そこからバリアジャケットを装備したセダンが現れる。
両袖は黒く、体に纏うものは管理局では定番となったかのような鎧。
両手足にも手甲をつけている。
だが、デバイスは杖ではなく剣型のデバイスだ。
「俺はミッド式だが、サタンのデバイス形態は剣・・・これは、俺のイメージが
しやすいからでね・・・イメージ伝達率が早くなれば、それだけ魔法の展開率も
速くなるってわけさ!」
饒舌に自身の能力を説明するセダン。
セダンからすれば相手が同じ魔道士ならこれは自殺行為だが、相手は質量兵器を装備した一般人に過ぎない。
そんな相手に対してハンディを背負ってもあまり、関係ないと判断したからだ。

 

「うっわ~!ホントに魔法みたいだ・・・って魔法なのか!」
ルナマリアが感激のあまり、テンションをあげる。
「・・・ある意味、非常識だな」
アスランもなんだか納得できないが、凄い、と驚いている。

 

「これが・・・魔法」
シンも目を丸くしていた。

 

セダン・レクサス・・・階級は一等空尉。AAAランクの空戦魔道士であり
戦技教官でもある彼は、次元震の起こっている区間にいる人間の避難誘導を
している間に、次元の裂け目に追い込まれてしまった。
そして、彼は第72管理外世界・・・CEの世界にやってきたのだ。

 

(マスター、久しぶりに全開でやるのか?)
彼のデバイス・サタンがセダンに問いかける。
「いいや、せいぜい俺の魔法を見せる程度さ」
(・・・全開でやるんじゃないか)
サタンが笑うように言った。
すると、セダンも表情を明るくし、足元に魔方陣を展開する。

 

「みて!足元!なんか光ってる!!」
ルナマリアが最初に反応する。
やはり、魔方陣展開の際の発光が気になるのだろう。

 

「これは、俺たち魔道士の術式展開・・・そして、まず“誘導弾魔法”!!」
そういうと、サタンの周りに黒と白の混じる魔力弾が生まれる。
「特に名前はない・・・俺はシューターと呼んでいるがね」

 

そう言って、その誘導弾をアスランのジンに向け放つ。
「何!?」
アスランは反応して、防御体勢に入り、そのままシューターを受ける。
「ぐぁ!」
予想以上の衝撃にアスランもダメージを受ける。
「す、すまない!少し強く撃ち過ぎた!」
セダンはアスランを心配して、ジンの前に浮いていた。

 

その光景を見ていた観客も一度は静まり返っていたが、盛り返すように大きな歓声を上げる。
「おお!すっげぇ!!」
「アレが魔法か!すっげぇ!!」
「おおおおおおおおおおお!!」

 

「次は君たちが攻撃を!俺に向かってな!」
サタンを構えてセダンが言う。
当然、アスランたちは反発するが、セダンに説得され、アスランはセダンを狙う。

 

発砲音が響くと、ジンの銃から薬莢がいくつも飛び出し、弾丸はセダンに向かう。

 

「サタン・・・プロテクションハード!!」
(了解)
刀身の真ん中部分についた緑の宝石が光るとセダンの前に淡く光る障壁が生まれる。
ソレがすべての弾丸からセダンを守り、弾き落とす。

 

「嘘だろ・・・マジかよ」
シンはコクピットで軽く冷や汗を流していた。

 

─これが、守るための力?

 

そして、驚きと同時に、少しの憧れもまたあった。

 

セダンの魔法お披露目は終わった。

 

ソレを見ていたすべての人間にはこれが幻なのか、現実なのか一瞬隣同士で
確認するほど、認めがたいものでもあったが、今自分たちが見たものを
享受するしかないと、そう思うことになった。

 

アスランやシン、ルナマリアも結局魔法を見せ付けられたが、それでもやはり興味は絶えなかった。

 

数日後、セダンを救助に来た時空管理局の次元航行艦が第72管理外世界に駐留し
セダンと別れになるはずだった。
しかし。

 

「レクサス一等空尉・・・俺も、連れて行ってもらえませんか?管理局に!」
唐突な願い出。
アスランは何か決意をしたような目で彼の前に出ていた。

 

「・・・ん」
セダンは何も言わず、ただ笑ってアスランに手を差し出す。
「あ、ありがとうございます!」

 

そして、アスランは第72管理外世界を飛び出した。
もちろん、カガリたちに許可は取ってある。
というより、カガリはこうなると、予見していたのかもしれない。
狭い視野ではなく、広い視野で・・・自分たちの存在なんて薄くなるくらい
広い次元の海に出るアスランの事を。

 

アスランは次元航行艦に乗り込んでから驚きの連続だった。

 

まず第一にブリッジの管理能力。
戦闘より情報操作などに特化しており、まさにサポート専用である。

 

「これから、本局に行くわけだが・・・アスラン、君は魔法をどう思う」
用意された部屋でセダンに質問されるアスラン。
「どう・・・ですか?そうですね。実質は自分たち化学の数式や構築理念と同質の
ものだと考えて、後はソレをどう形にするかの違いですね。
自分たちの世界ではソレをMSのOSなどに使用しますし・・・
まさか、大気中に漂う魔力素を収束させて攻撃するなんて思いもよりませんでしたよ」
「まぁそうだろうね・・・だが、君が飛び込む世界はそれが当たり前の世界だ」
セダンは端末をいじり、時空管理局のパンフレットをアスランに見せる。
アスランはそれにも少し驚いていた。
「これ、どうなってるんですか?勝手に手元に・・・」
元々、機械オタクなアスランなので、話題をずれることも多々。

 

「コホン・・・まぁとにかく、だ。君には一般局員ではなく魔道士を目指してもらうよ?」
咳払いを一つ、そして本題に入るセダン。
「えと、けど・・・自分にはリンカーコアが・・・」
「あるよ」
ないんじゃ?と言いかけるアスランだが、ソレよりも早くセダンが言う。
「実は軽い魔力センサーで君を通してみたんだが、どうやらリンカーコアはある。
よって君にも魔道士になる資格はあるということさ」
「ええええ!!」

 

いつ?どこで?とアスランが混乱し始めるが、セダンは続ける。
「君の思慮深さは、それでも普通の武装局員に留まるものじゃない・・・
どちらかといえば、執務官とかに向いている・・・資料もってきておいたから
読んでおいてくれ。まぁ少ない期間での訓練と勉強!そうすれば、君には
権力が手に入る。そして・・・自分の世界の紹介もな!」
アスランは聞いていたが、どこか考え事の方が勝っており
セダンが話し終わって部屋を出て行ってもしばらく混乱していた。
元に戻って手元の資料に気づいたのは、20分ほどたった後だった。

 

─時空管理局・本局─

 

二日後に、アスランたちを乗せた艦船は本局に入り、とりあえず管理外世界者用の
手続きも取り終わり、アスランはようやく本局を歩き回る権利が与えられた。
「ふぅ・・・疲れた」

 

「おーい!アスラーン!!」
ふと、自分を呼ぶ声がするとアスランは前を向くとすぐそこにテーブルがあり
そこの椅子にセダンが腰掛けている。
「ああ・・・レクサス一等空尉」
とりあえず、呼ばれたほうへ歩くアスラン。
「とりあえず、お疲れ!」
アスランにドリンクを渡し、自分のドリンクに口をつけるセダン。
「はぁ・・・それで、これから自分はどうしたら?」
「とりあえず・・・半年間は魔法について学んでもらい
そこから着実に魔法を自分のものにして欲しい」
「・・・はい」
アスランの返事を聞くと、セダンはアスランに封筒を渡す。
中身はアスランの半年間特別魔法講習訓練の願書だった。

 

セダンはその後すぐにアスランからは離れ、アスランも子供じゃないんだ
と自分に言い聞かせてすぐに願書を書き始めた。

 

その後もセダンの口利きもあって、寮に入り、アスランは半年間自分を高めた。

 

候補生のアスランの能力も優秀だった。
そして、同じ候補生たちとは実力の差を示すように、半年のカリキュラムを
4ヶ月で終わらせてしまい、後はデバイスについても学んでいた。

 

こうして、アスランは半年間の候補生としての機関を終え、今度は執務官候補生として勉強を始める。
これもまた、二ヶ月は執務官に必要な知識をつけることを重視し、4ヶ月を実技にすべてまわす。
この時にはアスランのデバイス・ジャスティス(初代)が完成しており
彼はソレをそのまま扱い、実技もパーフェクトでは?という結果を残した。

 

そして、執務官試験を受け、アスランは見事一発合格を果たす。

 

誰に伝えるべきか、少し迷ったが・・・結局、落ち着いてから伝えようと思い
そのまま帰ろうとするが横の少女がアスランの目に入る。

 

「君も合格したのか?」
突然話しかけられ、少女は驚いていたがすぐに落ち着いていた。
「は、はい」

 

返事を返してもらい、アスランも気を良くしたのか。
「これで、君とも同僚だな」
笑顔で言うアスランに、少女も真っ赤になりながら頷く。
この少女こそ、今では最速を誇る執務官フェイトだった。

 

この後、アスランはフェイトをお茶に誘い、話を聞いたり話したりとしていた。
だが、アスランもフェイトについて気になる事はあった。
管理局は年齢層的に、フェイトの歳でも入局しているものはいるが
やはり自分の世界と重ねてしまう。
「フェイト君はどうして執務官に?」
その質問に、フェイトは少し考えてこう返した。
「守るためには、力と・・・少しの権力みたいなのも要るって聞きました。
それに、私の義兄も執務官なので、追いつきたくて」
はにかんで言うフェイトに、アスランはなぜだが笑みがこぼれた。
こんな幼い少女が戦う事はないのに・・・そう心に思っていたのだが
芯がしっかりしていて、アスランは驚いた。
そして思ったのだろう。
この子なら間違わないで、まっすぐに進めると。

 

それからもアスランとフェイトは付き合いを長くしていた。
所謂、仕事仲間として。

 

「よぉアスラン!」
ふと、いつものようにデータを整理していると、目の前に自分を導いてくれた
恩人でもあるセダンが立っていた。
「レクサス一等空尉!お久しぶりです!」
「残念!もう三等空佐、さ!」
階級章を見せ付けるセダン。
「昇進なされたんですね・・・おめでとうございます」
「いやいや・・・お前に比べたら、さ?」
セダンはからかうような言い回しをし、アスランも気づいて苦笑する。
「それで、だな・・・今回はお前の世界のことだ」
「はい?」
「・・・お前も実力をつけた。今なら信頼も実績もある・・・だから、お前らの
世界の奴らを連れて来いよ?管理局は人手不足で困るときもあるからな。
お前がそうなったんなら、お前の友人たちだって大丈夫だ!」
セダンの提案に、アスランも快く受け入れた。
ソレは、この世界で自分たちがなれてしまっていた“殺し合い”がなかったこと。
アスランは執務官として現場に行ってそれなりに活動したが、それでもやはり人が死ぬ事はなかった。

 

そして、アスランは平和をともに勝ち取った者たちを管理局に連れて行くために、一度戻ることにした。
その手続きは簡単であったが、やはりセダンの口添えもあった。
そうして、巡航任務ついでに艦船を一隻使わせてもらい、再び世界に戻ることにした。

 

─第72管理外世界─

 

アスランは帰ってきた。
自分の出身世界であるCEに。

 

1年以上帰ってなかったので心配だったが、意外と何も変わっておらず
平和を享受できていたようだった。
アスランはまず、プラントによりラクスのもとに行った。
もちろん笑顔で迎えられ、事情を話し・・・シンやキラたち
かつてのメサイア攻防戦で主戦力となった者たちを呼ぶのだった。

 

「アースラーン!」
元気のいい、というか能天気な声が廊下に響いた。
振り返れば、そこにいたのは・・・オーブの国家元首のはずの、カガリだった。
「おま、どうしてここに!?」
ここはプラントで、召集したのはオーブのところでも軍人関係を少しだけ。
カガリが来るはずはなかったのだが。
「まあ、細かい事は気にするな?」
さわやかに笑うカガリだが・・・後ろでキサカさんが暗い顔をしている。

 

こうして、一部例外も含め、かの戦いで奮戦した者たちは集った。

 

結果として、今管理局に入局しているものが移住を選択し、残ったものは
今の世界を守るということとなった。

 

だが、管理局はアスランたちの移住に対して一つの条件を提示していた。
ソレはCEの世界のすべて。
そのすべてのデータ、戦争で優秀だった人間や地球軍のブーステッドマンのデータ。
それらを管理局は求め、不可解さは残ったもののアスランたちもソレを渡した。

 

データは先に送信され、次元を超えて管理局にわたった。
ソレが悪用とも取れる使用をされるとも知らず。

 

その後、アスランたちはCEの世界を後にし、再び次元航行の旅に出た。

 

今思えば、ソレが始まりであり・・・罪だった。

 

これから起こる血にぬれた彼らの道は・・・。

 

だが、やはり忘れてはならない・・・彼らが生きる場所。ソレはどこであっても世界なのだから。

 

管理局は第72管理外世界の人間を魔道士適正があるなしに関わらず優遇した。
そして、それぞれが異例とも言うべき昇進を遂げる。

シンとルナマリアもセダンとの再会を喜んだ。

 

そして、あの悲しき事件も・・・起こってしまった。

 

─1年後─

 

金属音があたりに響き、大地に折れた刀身が突き刺さる。
「ガハッ!」
今はもう正常なのか狂っているのかすらわからないシンは一人の男をその剣で突き刺した。
「さよならだ・・・セダン・レクサス」
そう・・・シンの剣の先で痛みに喘ぐのはシンたちを導いたセダンだった。
シンは笑っている。
だが、同時にその右目からは傷を負ったわけでもないのに、血が涙のように流れていた。
「ぐ・・・シン、おま・・・えは・・・」
「俺は・・・こんなところに来なければ良かったんだ」
笑いを止めて、目の前のセダンを睨むようにシンは言う。

 

「・・・そう、だな・・・ルナマリアの死は、俺がここにお前たちを導いてしまった結果かもしれない」
自身の行いを悔いるように、またこみ上げてくる血が自身の死を直感させるようにセダンは苦しんだ。
「だ・・・が!おま、えも・・・選んだ道だろう?」
最後の最後にセダンは笑った。

 

「だまれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
シンはセダンの放った言葉を拒絶するかのように、彼を剣ごとなぎ払う。
「がぁぁ!!」
セダンはそのまま大地に慈悲なく転がり、血は留まることなく流れ出る。

 

そして、シンの背中に生える赤い翼をセダンは見つめていた。
「俺は・・・俺は・・・俺はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
叫び声が聞こえた。
ソレと同時に意識も深く沈んでいく。

 

そんな中、セダンはもう自分は死ぬ、そう知っているのに
シンのことを思い、聞こえぬ言葉で語りかけていた。

 

─ああ、シン・・・泣いているように喚いて・・・聞いているこっちの方が辛いぞ?

 

─お前はそんな風に戦っちゃいけない。

 

─このまま死んでお前を止められないことが・・・一番の悔いだよ。

 

─どうして、俺は・・・肝心なときに何もできない人間になるんだろう?

 

─辛いよ。

 

セダン・レクサス・・・第72管理外世界の人間を時空管理局
・・・魔法に導き、そしてその命をその世界の人間との戦闘においてピリオドを打つ。

 

誰が悪い?
誰が悪かったんだ?
この世界の結果である彼らが悪い?
違う・・・悪いのは世界?
違う・・・誰も悪くなどないはずなのだ。
だが・・・結果は生まれてしまう。

 

               「君の手で」

 

                      ハジマリの“始まり”・・・完