Lyrical DESTINY StS_第01話

Last-modified: 2008-02-19 (火) 01:22:53

新暦75年9月19日、一人の科学者とその手下によって起こされた事件。
通称JS事件─────またの名はジェイル・スカリエッティ事件と呼ばれている。これはこの事件の中心人物の名をとっており、それは何年も前から確実に組まれた計画犯罪だった。この事件で、時空管理局が得た損害も大きく、地上本部は頭を失った。だが、ある部隊の尽力により最低限と呼ばれるかはわからないが、人的被害をそれほど出さずに終結させることに成功した。

 

このときの功績者は地上本部・管理課の機動六課部隊長らとなっている。
しかし、実際には多くの管理局員が必死に思いで戦ったことは資料に描かれる事はない。

 

機動六課は1年の試用期間というもので動いていた組織なので、設立より1年後に解体ということとなる。この部隊が設立された理由が、この事件にかかわる捜索指定遺失物“レリック”の確保であり、レリックを利用しようとしたスカリエッティを捕えた時点でその任は果たしたも同然となっていた。

 

だが、六課の者たちは、安息の時間が長くないことを“知らなかった”

 

─地上本部ロビー─
JS事件から二ヶ月がたち襲撃された地上本部も
だいぶ建物の復興が進んでいた。
だが以前より活気も溢れている。
そこに、少し青色の入った髪の青年がソファに座って
コーヒーを飲みながら資料に目を通していた。
「ふぅ・・・まったく、事後処理のほかにもやることがあるってのに」
なにやら仕事が多く愚痴をたれる青年。
「お忙しいんですか?」
すると、青年の後ろから声がして、青年が振り向くとそこには
先の事件で大活躍を見せた魔道士の一人フェイト・T・ハラオウン執務官が立っていた。
「あぁフェイト執務官か・・・何、俺も君たちの後始末に尽力しているだけだよ」
嫌味のこもったセリフをフェイトに放つ青年
彼はアスラン・ザラ。フェイトと同じく執務官の道を行く空戦魔道士である。
「いえいえ、感謝してますよ?ザラ執務官?」
フェイトは慣れているのか、笑顔を崩さずにアスランの向かい側のソファに腰掛ける。
「で?何の用だ?」
資料をおき、フェイトに視線を向けぶっきらぼうに問いかける。
彼女がアスランのところに一人で来るときはたいがいが何かの事件がらみだからだ。
「ええ・・・JS事件が終わって間もないけど
・・・レリックと思われる魔力が第14管理世界で確認されたの」
フェイトの顔はいつの間にか深刻なものになっていた。
アスランも真剣にフェイトの話を聞いていた。

 

「なるほど・・・まだレリックはすべてが回収されているわけじゃあない。
アレの蓄積魔力量は大したものだからな。悪用されれば厄介だぞ?」
「ええ。だからあなたのところに来たんですよ?」
フェイトは執務官になってからこのアスランとは仲がいい。
同期の執務官だからだ。彼らが仲良くなったきっかけは執務官試験で番号がただ横だっただけ。
たったそれだけのことであるが、今ではそれなりにうまくやっているのである。
「悪いが俺は動けないぞ?」
頼られていることを承知でアスランはぷいっとそっぽを向く。
「・・・例の“写真”」
その一言にアスランはびくっと反応する。
その反応を見たフェイトの顔はそれはもう・・・悪魔じみた笑顔だった。
「お前、八神に似てきたな?」
「そう?」
嫌味にも笑顔。もはや完全にアスランはフェイトに優位に立たれてしまった。
「大体、六課が動けばいいじゃないか?
 レリックが絡んでるなら、直接申請出して出動許可もらえば・・・」
そういえばそうだ。
レリックが絡むなら六課に動く理由があっても動けない理由はない。アスランはそのことに気づく。
「・・・“赤い翼”がその事件に関わっているんだよ」
赤い翼・・・ソレを聞いたアスランはソファから立ち上がる。
その顔は今までになく厳しいものだった。

 

 赤い翼・・・第一級指名手配を受けている違法魔道士で
その力は他の追随を許さないほどの強者であり
今までに8人の魔道士を殺し、107人の負傷者を出している。
16歳の少年だったはずの彼は管理局に対してひどい憎悪を抱いていた。
ソレが今の形となっているのだ。

 

「・・・そうか。あいつが」
アスランは力が抜けたようにソファに座った。
そして、視線もフェイトではなく天井を向いていた。
「私は赤い翼のことは知らないけど、アスランと何かあったってことは知ってる
 今回のことだって、あなたに伝えようか迷った」
フェイトはやるせない顔をして、自身の前に端末を開く。
「これが局で確認された彼の映像」
映し出された少年。瞳に光はない・・・人を傷つけることに迷いはなく、感情というものが映っていない。
まるで機械のように。
ソレを見たアスランの脳裏にある映像がよぎっていた。

 

青い空の下でソレを塗り替えるような赤い血がぶちまけられた空間。
(アンタたちが奪うんだったら
 俺は・・・アンタたちと同じようにすべてを奪う。
 とめられるのなら、とめてみろよ?)
黒髪の少年が両腕に血をべったりとこびりつけて光のない目で
アスランを射抜いていた。足元に転がる死体がアスランを見ているような錯覚を起こさせる。

 

「アスラン?」
フェイトの呼ぶ声にアスランは現実に戻される。
そして、掌に汗がたまっていることに気づく。
「あ、ああ・・・すまない」
平静さを取り戻すために、手元においていたコーヒーを飲み干し
 アスランは再びフェイトを見る。
「・・・赤い翼に関しては俺もそうだが、キラも関わっている。
 あいつにも話を通しておいてくれないか?」
「キラって・・・キラ・ヤマト特別捜査官?」

 

キラ・ヤマト・・・本局の魔道士で特別捜査官ということになっている。
 アスランと同期であり、優秀な魔道士である。またデバイスマスター資格も有しており、本局ではユーノと並ぶほどの働き者だったりもした。

#brp
「ああ。君はあったことがないだろうけど
 たぶん大丈夫だ・・・あいつは今本局の訓練室にいるはずだ」
「訓練室?」
訓練デモしているのだろうか?とフェイトは思考をめぐらせる。
 その思考の中に強かったら模擬戦したいというある意味邪な念も入っていた。
「あいつはパーフェクト人間だからなぁ・・・訓練用シミュレーションを
 毎日やってる。もちろん任務の時はやらないけど・・・本局にいる間は常にやってる」

 

ソレを聞いたフェイトの顔はこれまでにないほど輝いていた・・・特に目が。
「・・・フェイト?」
アスランもなにやら嫌な予感がして冷や汗を流していたが
 現状逃げられる気配もなく・・・彼はフェイトとともに
 本局に付き合わされる羽目になったとさ。

 

─第15管理世界─
激しい嵐がその世界の街を覆っていた。
「くそっ!一個中隊が全滅!?どうなってんだよ!?」
その嵐の中、息を切らせた管理局魔道士の男が
 壁に背中を預けて愚痴っていた。
「それに・・・あの魔力、完璧に人間の規格超えてる
 ・・・このことを伝えなきゃ!」
そういって転移魔法の術式をくみ上げていく。足元から黄色い魔方陣が展開される。
だが、残酷な音が辺りに響いた。
「・・・え?」
なんと、後ろの壁から殺傷設定の魔力刃が突き出てきて、彼の身体を貫いていたのだ。
「逃げ出せると、思ったのか?」
低い声が男に対して放たれる。
だが、男はすでに身体が痛みを感じ出し、それど頃ではなかった。
「う・・・がぁ・・・ぐぅ・・・イタイ・・・イタ、いい」
倒れ、傷口を押さえながらのた打ち回る。
そして、いつの間にか男を見下すように少年が男の目の前に立っていた。
「もっと苦しんで、お前たちのせいでソレを味わった人たちに詫びろ」
男を見る少年の瞳は光がない・・・だが見えていないわけじゃない。
 ソレがとても少年を残酷に見せた。

 

降り続く雨、強く吹き付ける風
男の悲痛な声はかき消され、男は息絶えた。
少年はもうそこにはいなかった。

 

─時空管理局・本局第三小会議室─
「じゃあ間違いないのかね?」
そこにはレティ提督がスクリーンの前に立って、何かを説明していた。
「はい・・・出動させた部隊は全滅かと。
 通信が通りませんし、管理世界です・・・管理局支部もあれば、ソレに準じたシステムもある。通信妨害の形跡も見られますし、私たちはやはり“赤い翼”の能力を見誤っていました」
レティのスクリーンの後ろには赤い翼と称される少年が映っていた。
「しかし、たった一人に対してこれ以上人員はさけない!」
「そうだな・・・先々月に起きた事件の後始末もまだ終わっていない」
「できるなら、少数精鋭がベストなんじゃがな」
年をとった高官たちはそれぞれに好き勝手な意見を並べる。
レティは顔に出さないが、内心ではかなりイラついていた。

 

しばらくして会議は何の解決策も出せぬまま終わり、レティはなじみのある人物に通信を入れていた。
「どしたの?お疲れかしら?」
その人物とはフェイトの母親であるリンディ・ハラオウンだった。
「ええ・・・ちょっと話があるの」
神妙な顔をする旧友にリンディも顔をしかめた。

 

事の経緯を話し、リンディも少し思い悩む。
「確かに大変ね。このままじゃ犠牲者の上積み
 ・・・少数精鋭って言っても六課の皆もJS事件でかなり消耗しちゃってるし
 特になのはさんはひどかったらしいわ」
「ええ聞いてるわ。何でも魔力出力がかなり下回ったらしいわね
 ・・・彼女の一生懸命さはよくわかっているつもりなんだけど
 なんだか見てて辛いときもあるしね」
レティ提督の当てにする六課も今回はあまり動かせそうになかった。
なんだかんだといっても六課の人たちも人間。
休みなしで強力な犯罪者を相手にさせるのは忍びないのだ。
「ヴォルケンリッターも・・・シグナム以外はケガが少しあるし、心配でもあるわ」
「・・・イヤよね。自分の部下や大切な人が
 自分の知らない間に・・・いなくなるのは」
いつの間にかリンディの表情が曇る。
「まぁとにかく・・・この件で少数精鋭のこと、できたら考えといて?
 知り合いを紹介してくれるだけでもいいから!」
そういってレティは通信をきる。きった後はため息しか出なかった。

 

─時空管理局・本局─
アスランはフェイトに引っ張られて結局本局にきていた。
「まったく・・・どうしてこう押しが強いんだ?」
「さぁ・・・どうしてでしょ?」
いたずらっ子っぽく答えるフェイト。
アスランはソレを見てため息をひとつ漏らした。
「で、キラ捜査官はどこにいるんですか?」
「たぶん第二演習場だ。この時間なら貸しきってるはずだし」
アスランは時計を見ながらそう言うと
またフェイトの顔が輝くのがわかってため息をついた。
彼らが目指すのは第二演習場・・・足取りは、アスランは重く、フェイトは軽かった。
そして二人は第二演習場の入り口に来ていた。
そこの入り口には・・・女性局員がたまっていた。

 

「何の騒ぎかな?」
フェイトは心底不思議そうな顔でアスランを見る。
アスランはいつものことのようにそそくさと進む。
「すいません、ちょっと通してください」
そういって女性陣など気にせず直進し、
アスランとフェイトはようやく演習場の中に入る。
そこには、茶色い髪の青年が広い演習場いっぱいに張り巡らせた
ターゲットのようなものを次々に両腕に持つ銃で撃ち落していった。
「相変わらず凄いな・・・」
アスランはその青年が放つ魔力の弾を目で追いながら、そう呟く。
「・・・すっごい」
フェイトも呆然とソレを見つめていた。
二人の目の前で銃をを撃っている青年がキラ・ヤマトである。空戦SS。
だが、ほぼオールラウンダーの魔道士で、管理局でも彼の上を行くものはそうはいない。
フェイトはキラの訓練に釘付けになっている。
アスランはそのフェイトを見てまた嫌な予感がしていたが
考えることをやめて、キラに声をかけることにした。
「おーい!キラ!」
それに反応してキラはアスランのほうを向く。
「アレ、アスラン?どしたの?」
訓練を止めて銃を下ろし、彼はアスランの元にやってくる。
「ああ、少し話したいことがあるんだが、時間いいか?」
「別に構わないよ?ソレより、そっちの人は?」
キラの視線がフェイトに行く。
視線が来た事に気づいて我に返り、フェイトはあせりだす。
「あ、す、すみません、えと
 私・・・フェイト・T・ハラオウンしつみゅかんです!」
彼女は彼女なりに冷静になろうとしていた・・・
 だが、彼の凄すぎる訓練に当てられて緊張していたのか、最後の最後で、噛んでしまった。
「あ・・・キラ・ヤマト二等空佐です。よろしく」
キラは笑いそうになったが、どうにかこらえて自分も名乗り、右手を差し出していた。
アスランは二人から顔を背けている・・・おそらく、笑っている。
フェイトも失敗にすぐに気づいて顔が真っ赤だった。
とりあえず握手を交わして演習場のベンチに腰掛けた。
「それで、用って何?アスランが僕に会いに来るなんて珍しいし
 面白い人も連れてきたし」
「うっ!」
キラのセリフの後者はフェイトに言葉の矢となって突き刺さった。
「ああ・・・“赤い翼”のことについてだ」
アスランがそういうと、キラの表情が変わる。少し厳しいものとなっていた。
「・・・いまさら僕にその話を振るのかい?」
厳しい顔が少し嫌そうな顔に変わる。
「ああ。確かに今更だ・・・だけど、無関係じゃないんだ・・・俺もお前も、あいつも」
アスランは厳しい表情でキラに言うと、キラはただ俯くだけで何も言わなかった。
「キラ・・・力を貸してくれないか?」
アスランは遠まわしな言い方はせず、ストレートにいった。
言われたキラは俯いたまま、何も答えなかった。
「・・・キラ、さん」
しばらく黙っていたフェイトが口を開いた。
「私はあなたたちが“赤い翼”と関係あるかは知りません・・・ですが!」
「そうだぞ?いつまでもくらい考えはよくない」
フェイトが途中まで言った言葉をさえぎって別の女性が言葉を発した。
つい反応してフェイトはその声のしたほうへ振り向く。
そこには、金髪に襟元くらいまである髪。整った顔立ち。
それは目の前のキラと似ていた。

 

「あなた、は?」
フェイトは思わず問いかけていた。
「ああ、私は」
「カガリ・ユラ・アスハ・・・時空管理局・X級5番艦クサナギの艦長だ」
フェイトの問いにはアスランが答えたが
ソレをしたアスランは頬をつねられていた。
「私のセリフをとるんじゃない!まったく!」
「あ、えと・・・」
フェイトはカガリとアスランのやり取りに口を出せず、縮こまっていた。
「ああ、すまない・・・改めて
 カガリ・ユラ・アスハ!一応提督だ!よろしくな」
そういってカガリは笑顔で右手を差し出してきた。
フェイトもソレに応じ握手を交わす。今日はよく握手を交わす日である。
「フェイト・T・ハラオウン執務官です」
今度はちゃんと言えた!と心の中でガッツポーズをとるフェイト。
「ハラオウン・・・もしかして、クラウディアの艦長の妹?」
カガリの言う人物はおそらくクロノだろう。フェイトは微笑みながら頷いた。
「そっかぁ・・・クロノ提督の妹さんかぁ?
 何を隠そう、そこにいるキラは私の弟なんだ!仲良くしてやってくれよ!」
カガリの発言にフェイトは心底驚かされた。
確かに顔立ちが似ていると思っていたが、まさか姉弟とは思いもよらなかった。
「けど、ファミリーネームが違いますよね?」
「ああ。私たちは小さい頃は別々の家で育てられたんだ。まぁ・・・その関係もあって、話すと長いから省略だ」
「は・・・はぁ」
フェイトはカガリのペースにはまりっぱなしだった。
「カガリ、今大事な話しをしようとしてるんで、そろそろ帰ってくれないか?」
このままでは話が進まない、そう思ってアスランはカガリに制止をかける。
「ん?そうなのか?なら、私は退散するとしよう
 ・・・アスランもちゃんと連絡よこせよ?」
「ああ、じゃあな?」
そういってカガリは演習場を退室した。
なにやら嵐が去った感じがあって三人は深くため息をついた。

#brp
「さて、本題に戻るぞ?」
アスランは咳払いし、キラのほうに視線をやる。
「・・・まぁ構わないけど、いくら強力な犯罪者だからって数は1
 ・・・ソレに対して戦力を集中させるの?」
「ああ。でている被害もたまらないからな。少数精鋭がベストなんだよ」
「ふ~ん。まぁ上を納得させるのは君の仕事だし、僕は戦力の提供だけってことで」
「おいおい・・・言い訳はお前も得意だろ?協力させるから覚悟しとけ?」
そんな言い合いにやはりフェイトは一人弾かれて、呆然としていた。
しばらく続くかと思われた言い合いがフェイトの呼び出し音で止まる。
「はい、フェイトです」
「あぁフェイトちゃん!?すぐに戻ってきて!!」
それははやてからの通信だったが、ただ事じゃない雰囲気だった。
「何があったの!?」
「ごめん、説明する暇ないねん!・・・とりあえず六課に帰ってきて!」
すぐさまはやては通信を切った。ソレがフェイトには不安に思えて仕方がなくて
気がつけばフェイトは転送ポートまで走っていた。

 

時間は20分ほど遡る・・・六課に捜索指定遺失物のレリックが搬送されたのだ。
レリックはまだいくつも存在する。すべてを回収するには時間がかかるだろう。
そしてレリックのケースは部隊長であるはやての元に届けられた。
「いつ見ても、凄い魔力の結晶やなぁ?」
「そうですね・・・こんなものは早く封印するに限るです」
部隊長室にははやてともう一人、彼女のユニゾンデバイス“リインフォースⅡ”がいた。
二人はそれぞれに意見をいい、レリックをケースにしまって書類に目を通していた。
「聖王教会には明日持っていくとして、その間の警備は
 フォワードたちに任せよか?モノがモノやし」
「そうですね。万全を敷くに越した事はないです」
はやての提案にリインも賛成し、警備編成を組んでいた。

 

その頃、六課のフロントでは人で賑わっていたが、その受付に一人の少年が現れた。
「なぁ・・・ここ、どこだ?」
生気のない声で受付の女性に話しかける少年。
「え・・・?ここは、遺失物管理課の機動六課ですが
 ・・・何か御用ですか?」
「ここ、あるよな?大魔力の塊が・・・」
「へっ・・・ぐぅ!」
少年が言葉を発するやすぐに女性の首に手が行き、締め上げていた。
「かっは・・・」
苦しそうなうめき声を上げる女性は抵抗するかのように
自分の首を絞めている腕を力なく掴む。
「どこだ・・・?言え」
だが、腕の力は弱まる事はなく、むしろ徐々に強くなっていく。
すでに女性は意識が途絶しかけていた。
それでも腕の力を緩める気配はない。鋭い瞳で女性を射抜き
ただ自分の質問を通そうとする少年。
(スナイプショット)
その時だった・・・機械音が響く。
そして、蒼い光の弾が少年めがけて飛ぶ。
「!!」
少年は反応し、女性を放して回避する。
「・・・なんだ?」
少年は回避した場所からゆっくりと弾丸が飛んできた方向に対し顔を向ける。
そこには、六課の局員であり、
ヘリパイロットのヴァイス・グランセニックが自身の
スナイパーライフルの形をしたデバイス・ストームレイダーを構えていた。
「動くな!そのまま床に突っ伏せ!従わない場合は撃つぜ!」
ヴァイスは狙いを定めたまま、少年に対し警告する。

 

「・・・」
だが少年はヴァイスの言ったことなど耳に入っていないのか、
ただヴァイスが持つストームレイダーの銃口を見つめていた。
「どうした!さっさとしやがれ!」
ヴァイスのひときわ大きな怒鳴り声が響く。
すでに他の局員がいないため、静まり返ったフロントには余計に響いた。
「お前・・・人を殺したこと、ないだろう?」
「!?」
何一つしゃべらなかった少年がここに来て口を開いた。
そして、いつの間にか少年はヴァイスの目の前まで移動していた。
「!?」
少年はストームレイダーの銃身を掴む。そしてその銃口を
無理やり他のところに向けて、ヴァイスを射抜くように睨む。
「殺し合いに必要なのは・・・“殺意”それ以外にいらないだろぉ?」
“ざしゅっ”という鈍い音が響いた・・・少年はどこからか取り出した
コンバットナイフをヴァイスの右足に突き刺したのだ。
「ぐあぁぁああああああ!!!」
響き渡るヴァイスの悲鳴。だが、少年はその声を聞くや否や、
外見にそぐわない残酷な笑みを浮かべた。
「ハハハハハハハハ!いいね!そうだよ!
 この苦しみに耐える声が聞けるからいいんだよ!!」
今度は少年の笑い声が響いた。
(アクセルシューター)
「!?」
だが、そこにピンクの魔力弾が十数発少年に向かう。
少年はヴァイスを放り投げ、向かってくる魔力弾すべてを迎撃する。
しかもヴァイスの血がついたコンバットナイフで。
ナイフに付着していた血が少年によって振るわれることにより飛ぶ。
地面にとび、少年は地面をけって魔力弾を放った本人のほうに走る。

 

「レイジングハート!」
(了解)
少年の狙う先にいる人物は
 ・・・機動六課スターズ分隊隊長高町なのは一等空尉だった。
「ディバイン・・・」
(ディバイン)
「バスター!!」
(バスター)
彼女のインテリジェントデバイス・レイジングハートは
カートリッジを一発消費し、杖先に魔力を収束し、ソレを少年に放つ。
「ふっ!」
一方の少年はコンバットナイフに僅かな魔力を込めて
ソレをなのはが放ったディバインバスターに投擲した。
「!?」
投擲されたナイフはまっすぐ減速することなくなのはに向かっていった。
「嘘!?」
(プロテクション・パワード)
レイジングハートは主の危機を感じ防壁を張る。
ナイフはディバインバスターを突き抜けてなのはの防壁にあたる。
「くっ!ものすごい魔力が・・・込められてる!?」
今のなのはには一部隊魔力保有制度により、魔道士ランクをAAまで落としている。
だが、そんな彼女でも負けを見ないほど強い
・・・防壁も普段よりも弱冠精度は落ちるが、突破されない自信があった。
───だが、絶望の音は響いた・・・硝子にひびが入る音が聞こえた。
なのはの防壁が壊れ始めたのだ。
「便利だなぁ!アンチ・マギリング・フィールドってのはぁ!
 たいていの魔道士はナイフ一本で殺せるんだぜ!!」

 

少年は狂気の笑みを浮かべて、なのはを見ていた。
少年の物言いから、少年が投擲したナイフにはAMF効果のある術式が織り交ぜてあったのだ。
ソレが、なのはのディバインバスターを貫き、なのはの防壁を貫こうとしているのだ。
「くぅ・・・私は、負けない!」
だが、理屈じゃない・・・魔道は時に“想い”の強さが実力に比例する。
「な、に?」
防壁はひび以上にはならなかった。それどころか、ナイフの方が限界を迎えようとしていた。
「・・・なるほど」
少年は何かに納得を得たように魔力の放出をとめた。
そして、なのはを襲うナイフも突然失速し、地に落ちて消滅した。
「はぁ!はぁ!」
なのはは防壁をとき、片膝を地に息を切らしていた。
だが、いつ攻撃されてもいい様にアクセルシューターを自分のまわりに浮かべている。
「なのはさん!!」
少年の後ろから彼を挟むようにスターズ分隊員の二人スバル・ナカジマと
 ティアナ・ランスターがすでにデバイスを起動させ立っていた。
「二人ともっ・・・けど、あなたたちは下がってて!
 あなたたちじゃ実力が違いすぎるわ!」
なのはは遠まわしに逃げろ、と二人に言う。
「大丈夫です!力を合わせれば・・・個人戦じゃ敵いませんけど、結束すれば!!」
そういったのはティアナ。だが、目の前にいる少年はそれほど甘い存在じゃない。
スバルもティアナもまだ“殺傷設定”でデバイスを振るったことも振るわれたこともない。
そんな彼女たちがいくら力を合わせても勝てる道理がなのはには見つからなかった。

 

「あぁ・・・いいな?純粋に“勝てる”と思う奴の想いってのは
 ・・・限りなく、心に響いてくるよ」
少年は言うと、右腕に大剣が握られていた。
「!?」
刃に当たる部分には研ぎ澄まされた魔力刃があり、一太刀浴びただけで
接続されているすべてが切り裂かれる、と思うほどだった。
「銘を“アロンダイト”」
少年は自らの剣の名を告げ、構える。
「・・・機動六課スターズ隊長・高町なのは一等空尉です。
 これより、あなたを第一級犯罪者に認定し、処置に入ります」
厳しい表情でなのはを見た。なのはは本来、犯罪者を捕える行程において
まず相手の“話”を聞くことから始める。だが、目の前の少年に対してはソレを行わなかった。
ソレは彼女が目の前の少年を許さない、と決めてしまったからだ。
「・・・やってみせろよ!」
狂気を感じさせる瞳から、なのははかすかに震えた。
ソレは人間にとって当たり前の“恐怖”という感情から来る震えだった。
そして、一人の少年と三人の星の部隊は戦闘に入った。

 

「ライトニングは何やってんの!?シグナムや他の二人は!?」
はやても六課に襲撃者がいることを知り、あわてて戦力を手配するが、
時間がかかり、現存のフォワードたちに任せるしかなくなっていた。
「シグナムも現在、こっちに向かっているそうです!ヴィータちゃんは
 別部隊の教導に出張中なので、来られません!
 エリオとキャロもすぐに戻るそうです!!」
「フェイトちゃんは!?」
はやてはあせっていた。はやてのいる
 部隊長室からでもわかるほど、嫌な感覚の魔力が届いていたからだ。

 

「本局にいるそうです!」
「何やってんにゃ!・・・ええわ、直で私が連絡する!!」
そして、はやてはフェイトに通信を入れたのだ。

 

フェイトは転送ポートまで走っていた。六課へ転送すれば
 10分以内には駆けつけられる。そう思って走っていた。
「お願い・・・皆無事でいて!」
フェイトの願いは届くだろうか
 ・・・ソレは、到着した彼女にしかわからない。

 

時間は、止まらない・・・残酷なまでの速さで過ぎていく。
その時間が、始まりの鐘を鳴らし、その鐘は響き渡るだろう。

 

誰かを、助けたいという思いは綺麗だ。
それにあこがれる人もいる。だからこそ・・・守れないことに
絶望する人は後を絶えない。だが、逆の人は?
守られることを望み、その人の背中でおびえることしかできない人は
どうなのだろうか?何を感じて、生きるのだろうか?

 

次回・・・救済者など“いらない”

憎しみは・・・救済など望まなかった。