Lyrical DESTINY StS_第02話

Last-modified: 2008-02-19 (火) 01:25:21

何かを期待していたわけじゃない。
ただ、知っている人ならどうにかできる。
そう信じていた。
だけど、現実は・・・そんなに甘くなかった。

 

連絡が入って、フェイトは走った。
転送ポートも使える状態にあったのですぐに彼女は六課に向かった。
「なのは・・・ヴィヴィオ・・・皆!無事でいて!!」
六課隊舎にはフェイトが後見人になっているヴィヴィオという少女がいる。
だが、フェイトは不安が心から出て行かなかった。
六課に転送されたが、人の気配はなかった・・・襲撃ということもあって
避難したんだろう。だが、通信が入らないことに不可解さを覚え、フェイトは走っていた。
「念話も通らないし・・・皆、無事でいて!」
そして、感じたことのない魔力があるほうにフェイトは走った。
走って、走って、走って。到着した場所は結界がはってあった。
被害を最小限にするためだ。
フェイトは急いでその結界内に入ると・・・すでに惨劇が幕をあげていた。
「あ・・・?」
フェイトが見た光景・・・ソレは、まず一人の少年が目に入った。
そこまでは・・・よかったんだと、思う。
「な・・・のは?」
驚愕の事実がフェイトの目の前に広がっていた。
少年がいる・・・少年が“誰か”の首を絞め、持ち上げている。
持ち上げられている“誰か”はフェイトにとって親友の高町なのはだった。
「フェ・・・イ・・・ト、ちゃん?」
なのはの状態はひどいものだった。
彼女の白いバリアジャケットは彼女自身の血で染まっていた。
各所は破けて、口元から血・・・額からも血・・・瞳は焦点が合っていなかった。

 

周りを見れば、ティアナとスバルが地面に転がっている。
死んではいないようだが、気絶している・・・よく見れば、地面には血が少量流れていた。
そして、そんなボロボロの状態ななのはを見て
フェイトは心の中で何かが切れてしまう音を聞いた。
「バルディッシュ!!」
そして、気がつけば・・・自身のデバイスを怒りのままに起動していた。

 

─部隊長室─
「ですから!援軍をお願いします!!」
はやての怒鳴り声が部隊長室に響いた。だが、響いただけだった。
「我々も対処には応じている!しかし、JS事件の事後がある!
今動ける部隊が限られているのは理解しているだろう!?」
「ソレは理解しています!なら・・・強制リミット解除を!」
「すぐに許諾できるならしている!」
焦燥感からか、はやても通信相手の将官も優秀な部下を
失うことも友を失うことも、したくはないのだ。
「くっ・・・」
はやては心底、今の管理局の脆弱さを憎んだ。
法の守護者とえらそうに言いながら、守れるものは限られる。そんな管理局に。
「はやてちゃん!フェイト執務官が到着して、戦闘に入りました!」
リインからの吉報とも取れる報せにはやては少しだけ表情を明るくした。
「モニターに回して!」
「はいです!」
モニターにフェイトと襲撃者の戦闘シーンが映される。
「・・・嘘やろ?」
フェイトも本来の力はリミット制限されている。
しかし、それでもAAクラスの魔道士だ。
だが、はやての目の前に映る光景は、そんなものを何も浮かばせなかった。
───劣勢・・・少年は剣一本でフェイトを圧倒していた
・・・何か戦術があるわけじゃない。
ただ、フェイトが力負けしている姿がそこにはあった。

 

「どうしたぁ!?アンタ強そうなのに、てんでダメじゃん!!」
少年は相変わらず狂気の笑みを浮かべて、剣を振るう。
「ぐっ!」
フェイトも防御を固めて必死に剣を止めるが、それでも
一撃受けるたびに骨がきしむような痛みにかられていた。
「そらぁあ!!」
だが、少年も攻撃をやめない。
むしろ、苦しみフェイトを見て楽しんでいる感じだった。
「バルディッシュ!!」
(プラズマランサー)
フェイトは数歩間合いを開け、少年に対しプラズマランサーを放つ。
「はっ!」
だが、ソレは少年にとって意味を成さなかった。フェイトの放ったランサーは少年が剣を一振り回すだけでかき消される。
「なっ!?」
ソレに対して驚き、動きを鈍らせてしまう。
「たりゃぁ!!」
フェイトの間合いを速さで完璧に侵略する少年。
「!?」
反応してどうにかバルディッシュを操り、その刃を受ける。
「へぇ・・・いい反応だぁ!だが、パワー不足だ!!」
鍔競り合いにならず、バルディッシュの魔力刃を砕き
アロンダイトの刃がフェイトに襲い掛かる。
「くっ!」
フェイトは最後の最後まで目は閉じず、自身に向かってくる刃を捕えていた。
そして、その刃がフェイトに当たるか否かの瞬間。別の剣がソレを阻む。
「!?」
「何!?」
その剣は少年を弾き、フェイトの前に立った。

 

「・・・シグナム?」
ソレは彼女がよく知る人物・シグナムだった。
「テスタロッサ、無事か?」
「は、はい・・・」
フェイトも少し呆けているのか、あまり言葉を紡がなかった。
「奴が今回の襲撃者か?」
「・・・ええ。何が目的かはわかりませんが」
気を締めなおし、フェイトもシグナムの横に立つ。
「スターズは?」
シグナムが状況確認のためになのはたちのことを気にする。
フェイトはソレを聞かれて少し歯切れが悪い答えしか出せなかった。
「・・・なのはが敗北するほどの相手か?」
「ええ・・・パワー、スピードのどちらもすべてが私たちを上回ってます。
リミッター状態じゃ私たちに勝ち目は・・・ないと思います」
フェイトの見立てに間違いはなかった。
目の前の狂気溢れる少年は、たとえリミッター解除をした状態でも危ういだろう。
「はっ!来ないなら・・・こっちからだぁ!!」
少年は一瞬で間合いを侵略し、アロンダイトを振りかぶる。
「くっ!」
シグナムはギリギリのところでレヴァンティンを盾に使う。
だが・・・希望がどんどん失われていくのが・・・そう思える絶望感があった。
レヴァンティンがひびが入ったと思った瞬間には刀身が砕かれ、シグナムは吹き飛ぶ。
フェイトもシグナムを体全体で受け止めるが、衝撃を殺しきれずに
後ろの壁に吹き飛ぶしかなかった。
「ぐっ!」
痛みに思わず苦痛の声を上げるフェイト。
「どうしたぁ!?援軍が来たのにしり込みかぁ!?
そんなのだから、貴様らは何一つ守れないんだよ!!」
予想していない言葉に二人は少年を見てしまった。
狂気の笑みは相変わらず・・・だが、違うことがひとつあった・・・その瞳から一筋、涙が流れていたのだ。
「そうさ!いても同じ存在ならいないほうがいい!!
期待させるくらいなら、最初から期待などないほうがいいんだ!!」
少年は叫び、憎悪を膨らませ二人に突っ込む。憎悪に比例し、その力は増していった。
そして、一瞬で二人を壁まで吹き飛ばし、とどめの一撃を与えようとしていた。

 

「爆ぜろ・・・ケルベロス」
アロンダイトの刀身に砲撃性の魔力が蓄積・・・短時間で高エネルギーが収束する。
「お前たちに防御する術はない・・・おとなしく、塵になって・・・空に還れ」
一際少年の瞳が揺れ動く。瞳孔は開き、その奥には濁りしかなく輝きはない
そして、魔力を完璧に収束させ、おそらく当たれば塵となるだろう魔力量だった。
「・・・テスタ、ロッサ」
先ほどのダメージを堪えシグナムは覚悟を決めた表情でフェイトに話しかける。
「・・・はい?」
「ありったけの魔力を前面に出せ・・・私とお前の魔力なら
合わせればSオーバーは確実だ・・・ソレを防御に回す」
今考えられる最善の手段をシグナムは論じる。
「賭け、ですね?分が悪い・・・けど、ソレしかなさそう」
術式を組まない純粋な魔力はほとんど無色透明だが、壊れたような術式を
織り交ぜることで防御魔法を上回る高度を一瞬だが作り出すことができる。
だが、あまりの効率の悪さに使われる事はない。
「行くぞ!テスタロッサ!」
「ええ!シグナム!」
二人の決意は固まり、ありったけの魔力を自分たちの前に展開する。
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」
そして、少年も高出力の魔力砲を二人に向け、発射する。
赤黒い魔力が、フェイトとシグナムをただ殺すために放たれる。
威力はSランク以上だろう。対して二人も、その砲撃に対し前方に魔力を展開する。
───二人が展開した魔力は少年の放った魔力とぶつかる。
ぶつかった魔力は二人の予想以上に手元で膨らみ始めていた。
「馬鹿な!?」
「・・・辺りの魔力を吸収しながら・・・しかも凄い勢いで!」
彼が放った魔力砲は二人の手元に到達するまでに辺りの魔力素を吸収し
二人が展開した魔力壁をも侵食しているのだ。
ソレにより、二人の魔力壁は弱くなり始めている。
「く・・・この、まま、じゃ!」
二人も大出力の魔力を放出したため、全身の力が抜け始めていた。
一歩でも引けば目の前の“殺意”に殺されてしまう・・・だから、引けなかった。
その時だった・・・少年の放った魔力砲の横から赤と蒼の閃光が
ぶつかり、魔力砲を弾き飛ばしたのだった。
「何!?」
「今のは!?」
「何!?」
少年もフェイトもシグナムもソレが飛んできた方向を見る。
そこには・・・赤と蒼の魔道士が立っていた。

 

─数十分前─
「・・・行くの?」
フェイトの後を追うために自身のデバイスを確かめるアスランに声をかけるキラ。
「ああ。もし“アイツ”が関わっているなら、俺たちは行くべきだ・・・」
アスランの言葉には何か、後ろめたいものがある。ソレは、キラにも言えることだったが。
「・・・だから、俺は行く・・・もしもの場合は、“使うから”な」
その一言がキラにとっては驚くべきものだった。
「ダメだ!君は“使っちゃ”いけない!・・・わかった、僕も行くよ」
キラも・・・アスランが動く理由を理解し、自分が
動かなければならない理由も理解しなくてはならなかった。
「だが、カガリが心配するぞ?」
キラにはまだ家族と呼べるものがある・・・その尊さを彼らは知っている。
「大丈夫、死ぬつもりないし」
「そうか・・・なら、行こうか?」
そうして、二人はそれぞれに歩を進め、六課に向かった。
そして、フェイトとシグナムの危機に参上し、間一髪で敵の攻撃を弾き飛ばしたのだ。

 

「アスラン・・・キラさんも!」
フェイトは二人の登場に心底驚く。
「すまない、遅くなった・・・大丈夫だな?」
フェイトは頷き差し出されている手をとって立ち上がる。
そして、抑えようのない殺意を持つ者のほうにアスランとキラは振り向く。
「・・・やはり、お前か・・・シン!」
アスランは目の前にいる人物が自分の予想する人物と重なったことを大いに悔やむ。
「アス、ラン・・・?何だ、なんでアンタが出て来るんだよ!?」
少年───シンもアスランの登場に混乱し、手元にナイフを持って、ソレをアスランに投げつける。
だが、ソレをアスランとは違う手・・・キラが受け止めていた。
「!?」
またも驚きを隠せないシン。
「・・・」
厳しい瞳でキラはシンを射抜く・・・その行為にさしたる意味はない。
「・・・そぉかよ!やっぱり生きてたのか!!フリーダム!!!」
シンは叫んだ・・・そして、憎悪が一気に倍増し、その空間を
彼の憎しみという感情が覆いつくす。
「(フリーダム・・・自由?)」
フェイトはシンがキラに対していった言葉が妙に引っかかった。
「生きていたよ・・・君に撃墜されたとき、フリーダムが僕を守ってくれた」
どうやらフリーダムとはデバイスの名称のようだ。おそらくキラが使っていたのだろう。
「いい・・・ぜ!今度こそ、消してやル!お前の存在を!!」
シンはキラのすべてを否定する言葉を放った。
その理由を・・・彼らの間に何があったのかをフェイトたちは知らない。
「シン!お前の相手は俺だ!!」
キラに視線を向けていたシンはアスランのほうを向く。
「ジャスティス!セットアップ!!」
(スタンバイ・レディ・・・セットアップ。モードジャスティスを起動します)

 

アスランのデバイス・ジャスティスはアスランの左腕に盾として装備され、右腕には攻撃武装のライフルが装備される。ライフルはモードチェンジで魔力刃の武器にもなり、攻防バランスの取れたデバイスなのである。

 

「いいぜ!アンタから消してやる!!」
シンも再び狂気の顔となり、アスランにアロンダイトを投擲する。
「なっ!ジャスティス!イージスシールド!」
(了解、イージスシールド)
アスランの防御の要イージスシールド・・・左腕の盾に魔力を展開させ、障壁のようなものを張るのではなく、ラウンドシールドのようにそらすことに特化した防壁を張ることができるのである。
そして、アスランの意図通りアロンダイトをうまくそらすことができ
その勢いを殺さずシンに突進する。
「行くぞ、シン!!」
アスランはライフルの照準を合わせ、引き金を引く。
魔力弾はそれなりの威力が込められ、さすがのシンも回避を選択する。
「くっ!照準があわせ辛い・・・この!」
アスランはシンの早すぎる動きを的確に捉え、ライフルでソレを狙うが
紙一重でシンも回避し、その状況がしばらく続く。
フェイトは始めてみるアスランの戦闘に思わず見入っていた。
「これが・・・アスランの実力」
フェイトはあまりアスランが戦闘するところを見たことがない。
模擬戦を勧めても彼がたくみに断るからだ。
アスラン曰く「戦いは嫌いだ」という理由だ。
だが、彼はその嫌う戦いを“守る”ためにする。
「足りないぞアスラン!!こんなもんじゃないだろぉ!!」
シンはアスランの実力に批判する。
それは、彼が・・・アスランが本気ではないことを理解しているからだ。
「くっ!」
シンは投げた剣とは別の剣を持ち、アスランに切りかかる。
「ジャスティス!モード・セイバー!!」
(ラケルタ・セイバー)
左腕の盾から剣の柄を取り出し、魔力で刀身を作り出すアスラン。
「たぁぁぁぁぁ!!」
そして、シンの剣とアスランの剣はぶつかり、辺りの空間が歪んで見えた。
「くぅぅぅ!!」
アスランは力負けしまいと必死に歯を食いしばって耐える。
「アンタは理解してると思った!」

 

「何!?」
突然、シンが口を開いた。
アスランはその内容が理解できず、シンを弾き飛ばす。
「アンタも失ったことがある・・・だから、管理局には入らないと思っていた!!」
再び激しくぶつかってくるシン。アスランもシンの攻撃を止めることが精一杯だった。
「あぁ・・・入る気はなかったさ!!だけど、何もしないんじゃ
・・・変わらないんだよ!!」
再び薙いでシンを弾く。
だが、シンは体勢を崩さず1アクションで地をけり、再びアスランに突進する。
「ちぃ!」
イージスシールドを展開し、シンの攻撃をそらすが、なんとシンは
剣を捨ててアスランの腕を掴む。
「ぐっ」
自身の腕を掴むものすごい力にアスランは痛みで顔をゆがめる。
「違うさ・・・しようがしまいが、変わらないんだよ!
汚い部分を隠し、キレイな部分をさらすのが奴らの常套手段!!
そんなものはないほうがいい!」
シンは力いっぱいにアスランを壁に投げつける。
「ガハッ!」
アスランもあまりの勢いに衝撃を殺しきれず壁に衝突し、ダメージを負ってしまう。
「昔がどうか・・・知らないが、俺は!
今の管理局は否定する・・・そう、管理局のすべてをだ!!
俺の“力”で消し去ってやる!!」
シンはダメージで動きが鈍っているアスランに追い討ちをかける。
「爆ぜろ、ケルベロス!」
フェイトとシグナムに放った魔力砲を今度はアスランに放つ気なのだ。
「アスラン!!」
フェイトもアスランが今危機的状況にあることは理解できた
・・・だが、彼女には今何もできない。
先ほどの戦闘で魔力はきれ、たっているのがやっとの状態だ。
「ふざ・・・けるな」
「!?」
アスランはシンを睨む・・・そして、震える足で必死に立とうとする。
「消せるわけ・・・ないだろ?ちっぽけな人間に・・・人の“意思”はな!!」

 

──認め合わぬもの同士が争う世界など否定するに限る・・・だけどな?
人が分かり合おうとする世界を守るのが、どの世界でも
私たちの仕事何だよ?アスラン!

 

横切った自身が敬愛する者の言葉・・・アスランもシンと同じような思想を持った
・・・だが、結局はソレを否定した。

 

何が正しく、何が間違いであるかなど、独りよがりで答えが出るはずはない。
出すために生きることが人間としての責務。
アスランはソレを、戦友であり、好意を寄せている
提督カガリ・ユラ・アスハから学んだのだ。

 

「ジャスティス・・・プロテクト“SEED”開放」
(マスター!?それは・・・)
アスランが言った言葉にジャスティスは初めて戸惑う。
「いいんだ・・・キラは怒るだろうけど、使わないとあいつは止められない!」
(・・・何か方法はないのですか!?)
ジャスティスはアスランが言ったことを認めようとしなかった。
おそらく、アスランに多大な害があるのだろう・・・“SEED”とは。
「いいから・・・やってくれ?」
(・・・・・・・プロテクト“SEED”開放)
ジャスティスの中で一気にデータが演算されていき
ジャスティスのデータの中にある文字列が浮かんだ。

 

Superior
Evolutionary
Element
Destined-factor

 

そして、アスランの瞳から、光が消える。

 

キラはアスランとシンの戦いを目をそらさず見ていた
・・・それは彼がここに来ると言ったときに、必ず見なければならないことだったからだ。
アスランが自分の限界地を超えるかも知れないということも、想定に入れていた。
「・・・そう、使うんだ?・・・バカだよ、君は」
キラはアスランを哀れみの表情で見ていた。
ソレがいったい何を意味するかは、誰にもわからない。
突如、アスランの魔力の流れが激変したのだ
それは、ある意味シンに近いものになっていた。
「アスランの魔力が跳ね上がった!?」
アスランの変化は見ていたフェイトも感じていた。

 

そう、アスランが行ったプロテクト“SEED”の開放とはなのはのエクセリオンよりも使用者に害を与えるものだ・・・その真意とは、体中にある神経系を魔力で刺激し、反応速度、運動性、脳抑制解除、リンカーコアの一時的増幅を無理やり行うものであり、言わば諸刃の剣である。発動すれば死に至るわけではないが、死にいたる可能性を大きくすることになる。だが、その見返りは・・・高いものだった。

 

「そうだよ・・・ソレでいいんだ!アンタと俺はこれで同等だ!!」
シンは両手にアロンダイトと先ほどの剣・エクスカリバーを持ってアスランに突進する。
一方のアスランも先ほどとは打って変わった細い剣を二つ持ち、ソレを連結させる。
(ラケルタ・アンビデクストラス・ハルバート)
アスランは無表情でシンの動きを見る。先ほどは捕え切れなかったが、今の彼にはシンの動きが見えていた。
そして、シンと同様に地をけり武器を構えて突進する。
次の瞬間に起こった衝撃・・・均等なエネルギーが衝突し
辺りに衝撃波を巻き起こし、壁や地面にひびを与えていた。
「アスラン!アンタがソレを発動した理由はわかるぜ!
同等の力には同等に力でしかはむかうことができないからだろう!?」
シンの狂気の笑みが先ほどより増している。
まるで、目の前に現れたものの存在を喜ぶように。
「ああそうだ・・・お前を止めるにはこれしかないと思ったからだ!!」
今度はシンをアスランが押し返す。
ここに来て初めてアスランが優勢に立とうとしているのだ。
「はっ!救済者にでもなったつもりかよ!!アンタも俺も・・・破壊者なんだよ!!」
シンははっきりと自分が破壊者であることを肯定する。
しかし、アスランはその言葉を否定するように顔をゆがめ、腕に力を込める。
「救済者はいらないんだ!!この世の中すべてに・・・破壊者以外は存在しないんだよ!!」
だが、アスランがいくら力を込めようが
シンの言葉が直接彼を動かすように、不動のままだった。
「くっ!」
「アスラン・・・間違ってることを否定するのは、人の・・・権利なんだよ」
その一言にアスランは目を見開いて、動きを止めてしまった
それはコンマ2、3秒程度だったが・・・その隙は確実に
アスランに致命的なものを与えた。
鈍い音が・・・小さく響いた。
シンは膝に魔力刃を形成して、ソレをアスランの腹に叩き込んだのだ。
「ぶっ」
血が一気に上り、アスランは吐血した。
その血はシンの顔に数滴付着し、地面にも落ちた。
アスランは力を振り絞ってシンから距離をとる。
「ぐっ・・・ガハ!ゴホッゴホッ!」
今の一撃が致命的で、アスランはたっていることすら困難になり、地に両膝を着く。
「アスラン!!」
フェイトは彼の名を叫ぶ。だが、答えは返ってこない。
ただ、苦しむ彼の姿がにじんで見えるだけだった。
「痛いだろう?その痛みは・・・救われなかった者たちが感じたものだぜ?
痛いだろ?その苦痛を死ぬ間際まで・・・感じていたんだぜ!?」
垣間見る歪んだ優しさ。被害者に対して彼は代弁者なのだ。
救われなかった者たちすべての。救いを求めた者たちすべての。

 

「ぐ・・・痛いさ。痛く、ないなんて、こと、あるわけないだろ」
痛みに耐えながら、途切れ途切れだが言葉を紡ぐアスラン。
「だったら・・・その痛みを、理解しているなら!何で管理局にいる!?」
「また、それ・・・か?」
嫌気がさした、と言わんばかりにアスランは片目だけ開け、シンを見る。
「どうして、お前は・・・過去にこだわる?
捨てられる、もんじゃ・・・ないが、執着、しても、意味・・・ないぞ?」
呼吸がいつまでも整わないアスラン。おそらく、限界なのだろう。
「あるさ!アンタやアイツがどんな過程を経て管理局にいるのかなんて知らない!
だけど、失う辛さを知るアンタたちがそっちにいるのは間違いなんだよ!!
守れないくせに威張った奴なんて、存在する事は許されないんだ!!」
今までにないほど激情をあらわにするシン。
その姿を見て、フェイトとシグナムは目をそらした。
「確かに、今の・・・管理局に、すべての正しさを見せる、力は・・・ないさ。
だけ、どな!その流れを・・・犠牲になる、人を減らすために
戦う人も・・・いるん、だぞ!?」
シンの言葉に対する精一杯の言葉だった。
「ハ・・・ハハハハ!」
だが、シンはそんな精一杯の言葉を笑い飛ばす。
「遅いんだよ!もう何もかも!!」
振りかぶられるアロンダイトと呼ばれる剣・・・それは
振り下ろせば確実にアスランの首をはねるだろう。
「や・・・やめて!」
フェイトの言葉に動きを止めて、シンはフェイトを見た。
「なら、アンタが死ぬか?」
激しい殺意の視線がフェイトを射抜く。
初めて味わう恐怖にフェイトは腰を抜かしてしまう。
「こいつには罪があるんだ・・・一生をかけても償えないほどの!
だが、死を賭せば償いのいっぺんにはなる!!」

 

その時、フェイトはシンの悲しい叫びを聞いて何を思ったのだろうか?
自分たちに救えないものがたくさんあることを知っている。
だから、救う努力をする。
それは、救われなかった人たちにはどう映るのだろう?
闇を背負って、奪いに来たあの少年のように、黒く染まった憎悪を向けるのだろうか?
ありえないとわかっているが、創造する・・・優しく諭す被害者の笑顔。
あり得ないからこそ・・・求めたい。
かざした正義を折らないために、紡いだ誓いを果たすために、美しい世界を守るために、戦うことは、罪だろうか?
罪なら、その身を縮め、何もしないことが正しいのだろうか?
答えなんか、最初から出ていた・・・その答えを後は目指すだけ。

 

フェイトは決意の眼差しで、シンの狂気に染まった顔を見た。

 

夜の静寂のように静かであればよかったのに、彼は動いた。
荒々しく、最初からソレがすべてだったように・・・大切な命を守るために
自由の翼は赤き翼に対をなす。
次回・・・戻れない“道”

 

戻るべき道なんて・・・最初からなかったのかもしれない。