Lyrical DESTINY StS_第04話

Last-modified: 2008-02-25 (月) 18:17:30

戦える者たちが傷を癒す間に、やるべきことがあった。
敵の情報を知ること・・・敵の戦う理由。
それぞれに、知っている者に・・・真実を問いかける。
・・・聞いたときが、後悔のときだった。

 

“赤い翼”による機動六課襲撃から二日後。
フェイトは次元航行中のX級5番艦クサナギに来ていた
そして今・・・艦長であるカガリことアスハ提督の前にいた。
「・・・それで、何が聞きたいんだ?」
カガリはフェイトの顔を見て、大体のことを察していた。
「ええ・・・“赤い翼”・・・シン・アスカとアスランやキラ捜査官の関係について」
ソレを聞くと、カガリは一呼吸入れてテーブルに
用意した自分のコーヒーを一気に飲み干す。
「ふぅ・・・お前さんは、アスランやキラ・・・シンのこと、どれくらい聞いてるんだ?」
二人の名前の後に、遅れてカガリは赤い翼の少年を呼び捨てにした。
ソレが何を意味するか、フェイトは大体察しがついていた。
だが、確証性がないので口にしない。
「・・・アスランがコーディネイターという人種だという事は知っています」
フェイトの答えに、そうか・・・とカガリは両手を額の前で組んで下を見る。
「私はコーディネイターじゃないんだが・・・あいつらとは古い付き合いでな
出身世界が一緒なんだ・・・アスランもキラも・・・シンもだ」
驚きだった。
そして、フェイト自身が頭の中で考えていたものに答えがひとつはまった。
「では、あの“赤い翼”とも?」
「ああ・・・アスランとシンは出身世界で同じ部隊に所属していたんだ
第72管理外世界。その世界で、あいつら・・・私も、戦争をしていたんだ」
カガリの言葉は昔を思い出すように語り始める。
「アスランとシンが所属していたのはZAFT・・・コーディネイターが住まう
プラントと呼ばれるコロニーを守ることが目的で結成された部隊だった」
「それに・・・アスランたちが?」
ああ、と答えるカガリ・・・その瞳には、その世界の戦火が映っている様だった。
「・・・私たちの世界は、遺伝子をいじって生まれるコーディネイターと
自然のままの人間、ナチュラルが戦争をしていたんだ」
そう語るカガリの表情は、後悔の色があった。
いったい何がどうなっているのか、何も知らないフェイトには想像もできない。
「けど、いったいどうして?二つの種族がうまくすれば・・・よりよい発展だって!」
フェイトには不思議でならなかった・・・ソレこそ、この世界では・・・ないことではないからだ。
だが、カガリは首を横に振り、こう言った。
「ナチュラルの言い分はな・・・遺伝子をいじったコーディネイターは、異端だと
存在しちゃいけないと・・・そうして、居場所を奪われたコーディネイターは
宇宙に追いやられたんだ。そこでも、迫害はあった。コーディネイターは
存在するために・・・地球への物資輸出を強制的に行わされた。
けど、それでも・・・やっぱり認めなかったんだ」
カガリの拳に込められる力が強くなり、震えて見えた。
「地球連合・・・その世界の、ナチュラルの軍隊だ。そいつらは・・・
コーディネイターの農業コロニー“ユニウス7”に・・・・・・・核を撃ち込んだんだ」
流れたはずの過去だった・・・それでも、忘れられなかった。

 

フェイトも言葉を閉ざすしかなかった。
その時犠牲になった・・・人間のことを思い、吐き気すら覚えた。
「24万3721人・・・ソレが犠牲になった人の数だ」
「そんな・・・ひどい」
「けどな、犠牲はソレだけですまなかった・・・ソレをきっかけに、プラント防衛を
任務としたZAFTと地球連合との武力衝突が始まったんだ・・・当初、数で
勝る地球連合にプラントは・・・あり得ない劣勢を強いたんだ」
人の憎しみの連鎖はどこにでもある。そう思わせるものだが
それでも、彼女たちがいた世界は特にひどかったんだ、とフェイトは思った。
「・・・どちらが、勝ったんですか?」
そして、カガリやアスランたちが今ここにいて、そのことを語るという事は
少なくともひとつの戦争は終わっているはず。そう思ってフェイトはそう口にした。
「結局、穏健派同士の和解・・・が結果だ。過程で・・・人は死にすぎたけどな」
「・・・けど、どうしてアスハ提督たちはこちらに?」
フェイトはなぜ魔法文化のない彼女たちがこちらに来れたのか・・・ソレが不思議だった。
「ああ・・・殺し合いがイヤになったんだ。事故で迷い込んだ
こっちの人間と接触して・・・理由を聞いて・・・逃げたんだ」
カガリは、本当にイヤだったんだろう。元の世界で延々と止むことのない喧騒。
静まらない小さな争い。人種の壁を越えられない狭い心を持った人間たち。
「まぁ任せられる人間があっちにいたから・・・時にはあっちに帰る事もある。
こっちで上階級についた以上、今はこっちでできることをする」
カガリは逃げたわけじゃないのだ。自分にもできる、自分がしたいと思えた
人が死ぬ確立が限りなく少ない時空管理局の仕事を“選んだ”のだ。
「けど・・・考えたら、ホント・・・申し訳ないよ。私たちは、たった
数年でここまで上り詰めた。それは・・・」

 

───正しかったのだろうか?

 

その言葉は口にしなかった。
ソレを口にすれば、自分の正義を否定してしまうから。

 

フェイトはカガリたちの世界のこと、管理局への入局理由・・・そこはわかったが
二つわからないことがあった。
「キラ捜査官と・・・赤い翼はどうして?」
やはり、フェイトはシンの名前だけは口にできなかった。
どんな理由があるにしても、フェイトにとって大切な人を傷つけた者を
許すことはできなかったからだ。
「キラは・・・戦争に巻き込まれた被害者だよ。中立国のコロニーで
秘密裏に製造されていた、この世界で言う質量兵器・・・
あっちではMSと呼ばれていた。その新型MSが中立のコロニーに
あることを知ったZAFTはソレの奪取を目論んだ。
そして、5機作られた物のうち4機が奪われた・・・
私はな、その時・・・そこにいたんだが、キラにシェルターに無理やり入れられて
アイツとはそこで別れた。アイツはその後、残った最後の一機に乗って戦ったんだ
・・・“守る”ために」
フェイトはそんなキラの姿を鮮明に思い浮かべることができた。
「アイツは・・・年号CE71年の最後の戦いで、ホントに最後まで戦ったんだ」
キラは戦った。守るため、自分が何と戦うべきかを理解したとき
想いと力を持って戦ったのだ・・・自由の翼を広げて。
「けどな、キラたちが切り開いた平和は・・・続かなかったんだ」
曇るカガリの表情。

 

「どう、してですか?」
「同じことが・・・繰り返されたんだ。プラントが開発した新型MSを地球連合が
強奪して・・・それが種火みたいに・・・どんどん、広がった。
悲劇の地“ユニウス7”が地球に落ちて、コーディネイターは敵だって、また同じこと
が繰り返されたんだ!」
その時、カガリには止められなかった。
ソレが彼女の過ちのひとつ。
人間の業を・・・悲劇を理解しきれなかった人間への“罰”

 

それからのことをカガリはある程度、話し・・・最後にシンのことに差し掛かった。
「シンは・・・オーブという中立国に住んでいたコーディネイターだった」
「・・・それで、彼はどういう経緯で?」
フェイトは答えを少し急ぐ。だが、カガリに落ち着け、と示唆されてフェイトは
深呼吸して自分を落ち着かせる。
「前の戦争でオーブは一度、国を焼いた・・・その時、シンは家族を失ったんだ」
「!?」
家族を失った、と聞いたときフェイトは驚きはしたが、なぜか何も思えなかった。
哀れみや、怒り、そんな感情がまったくでなかった。
「そして、アイツは戦うことを選んだ。ZAFTに入って・・・戦ったんだ」
カガリたちの世界はコーディネイターは年端も行かない者たちが多く戦った。
地球連合はコーディネイターに対抗するために薬物に頼った人間兵器を生み出した。
「まぁ・・・それからいろいろあってな、シンは・・・失いすぎた。
管理局に来てからも・・・アイツは候補生から始めた。
アスランの勧めで基礎から完璧にこっちの体系になじむために」
そこまでの話にシンが暴走する要素は少ない。だが、確かにある。
「アイツがああなったのは・・・こっちに来てからだ」
「こっちに来てから?」
フェイトはソレこそ不思議でならなかった。
こちらでの魔道士や民間人の死亡率は10%以下・・・ソレが、どうして
暴走につながったのだろうか、と。
「・・・何があったんですか?」
フェイトの質問に対するカガリの表情は暗い。それほどのことがあったのだろうか?
「秘匿・・・事項、なんだが、他言無用に願えるか?」
「・・・はい」
フェイトの答えに、カガリは安心したかのような顔をして、話を続けた。
「1年半前に、管理世界で行われた候補生の訓練があったんだ。それに、シンは参加していた」
カガリの脳裏にまだ自分に対しても笑顔を向けてくれる少年の姿がよぎる。
「その時に、きっかけが?」
そうとしか思えなかった。だが、秘匿事項になるほどのことだ。
それなりに、ひどい有様になったのだろう。
「・・・そう。アイツはその時に・・・4度目の大切な人を失ったんだ」
四度目という言葉にも、フェイトは気にかかった

 

─1年半前・第21管理世界─
技術があまり発達してなく、ある程度の文化が進んだ場所がその世界だった。
蒼くキレイな空が広がり、夜が近づけば、美しい星空が空に描かれる。
そんな世界だった。
─当時、15歳のシンは候補生の中でも群を抜いて成績もよく
まだ・・・素直に笑えていた。

 

優しい顔に、少し不釣合いな赤い瞳。黒髪は赤を強調するようだった。
「いい場所だ・・・空気が澄んでる」
シンは胸いっぱい空気を吸い込む。味わう空気に心からの喜びを感じていた。
「シィン!早くしてよ!」
この時、シンのパートナーを務めていたのは、同じ世界出身のルナマリア・ホークだった。
「わかってるよ、ルナ!」
不快感のない返事。シンはよほど今の生活、訓練が気に入っているのだろう。
人を殺すためじゃなく、人を・・・たとえ敵であろうと殺す必要のないこの世界を。
「シン!」
ゴンッと鈍くも爽快な音が響いた。
「いったぁぁぁ!!」
シンの後頭部にルナマリアの拳が見事にクリーンヒットしたのだ。
「ちんたらやってないで、さっさとする!!」
シンは振り向いて怒ろうとするが、それ以上の怒りの形相でルナマリアは
シンの前に立っていた。

 

「・・・すぐ行きます」
結局シンはソレにたじろいで、従ったほうがいいと判断し
駆け足で集合場所にルナマリアと向かった。
殴られた箇所である後頭部をシンは痛そうにさすっていた。

 

「お前ら遅いぞ!何やってた!」
集合場所には二人一組のグループが6組、そして男女の教官が二人いた。
「すいません!アスカがとろくて・・・」
ルナマリアはシンを言い訳にし、その言い訳材料にされたシンはジト目で
ルナマリアを見ていた。
「まぁいい!整列!点呼の後、軽くウォーミングアップ!
ソレが終わったらもう一度集合だ!」
「「はい!!」」
点呼を行った後、各班は散らばり、それぞれにウォームアップを始める。
シンとルナマリアもトレーニング服を着こなし、ZAFTでの訓練も活かして
訓練前のアップを効率よくこなす。
二人は体は完璧に作られており、後は魔法技術に慣れていくだけだった。
「シンはホントにデスティニーとインパルスを元に作ったのよねぇ?」
「ああ!今は訓練用だけど・・・その気になれば、AAくらいの魔道士は倒せるよ」
シンとルナマリアは魔力を使って威力強化と体内外の魔力移動訓練を同時に行っていた。
「ルナはどんなタイプのデバイスを?」
「ん~やっぱザクについていたオルトロスを使えて、グフみたいな高機動性を求めるわ!」
シンは右足に魔力を込める。一方のルナマリアは左腕の防御能力を高めソレを受け止める。
「なら、アームドデバイスを基に砲撃と接近戦を切り替えて行えるほうがいいな!」
次はルナマリアがシンと同じ行程を行い、シンは防御に徹する。

 

ソレを傍から見ていた他の組はおろか、教官すら驚きの表情で見ていた。
「あいつら・・・マジで初心者?管理外世界の出身なのか?」
「まったくだ。っく!負けてらんねぇ!!」
「そうだな!」
「やるぞぉ!!」
シンとルナマリアの存在は他の皆に高揚感を抱かせ
より充実した訓練を望むことができた。
ウォームアップが終わると、再び教官の前に集合するシンたち。
それぞれに、息を切らしているが、シンとルナマリアは汗をかく程度だった。
「ふぅ・・・お前らが優秀すぎて、今後が楽しみだ!他の皆も、お前ら二人が
引っ張っていけばエリートにだってなれるぞ!」
教官のほめ言葉に、ある者は喜び、ある者は当然だ、という感想を抱いていたが
そんな空気をシンはぶち壊すのだった。
「教官!ほめるのは、すべての行程が滞りなく進んだときにしてください!
半端なほめ言葉はよくありません」
シンの言葉にルナマリアも同意する。
二人からすれば、ソレが当然のことだった。
ほめられるよりも、うまくいけば次の行程を与えられる。
そして、すべてを失敗なく、もしくは最後までやり遂げたものにこそ
賞賛の言葉を与えるべきだからだ。
「・・・そう、だな。確かに、中途半端な甘えはよくないな」
教官も心を入れ替えた、と言わんばかりに後ろを向き
再びシンたちに振り向くと厳しい表情の教官がいた。
「よし!始めるぞ!」
先ほどまでとはまるで違う教官の声にシンとルナマリアは少しだけ表情を緩ませて
お互いに見合った後、ぐっと厳しい表情になる。

 

教導はうまい具合に続いた。
それぞれが同期には負けまいと、意地になりすべての教導を完璧にこなしていた。
「初動を早く、術式を展開したら常に不動だ!立ち位置を変えずにある程度をこなせ!」
教官もシンに言われて本当に厳しく、鬼のように行程を勧めた。
そして、シンたちもソレに応える様に、自身の力を最大限に発揮して訓練に臨んだ。

 

優秀だった。
シンたちはともかく、他の者たちは平凡なはずだったのに
シンとルナマリアという二人の存在が他の組を引っ張り
充実した訓練を実現させていた。

 

彼らがここまで優秀でなければ、悲劇は起こらなかったのかもしれない。
だが、そうなる事は運命だったのかもしれない。

 

その日の最後の行程、防壁の展開が最後の課題だった。
シンもルナマリアもすぐに終わり、他の者もしばらくしてクリアし始めた。

 

だが、その光景を見ていた者たちがいた。

 

「ありゃあ管理局の奴らか・・・はっ優秀な魔道士を増やす必要はねぇ」
それは、管理局で犯罪者組織に認定されている集団がその訓練を見ていたのだ。
彼らはその光景からすぐに仲間を呼び、すでに彼らは囲まれていた。
「頭!どうするんですか?」
一人の男がリーダーの男に問いかけた。
「・・・皆殺しだ」
ひどく醜悪な顔だった。
「了解でさぁ!」
問いかけた男もその言葉に喜び、同じように醜悪な顔でシンたちを見ていた。
そして、リーダーの男が手を上げ、合図を出す。
「行くぞ!!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」
雄たけびが澄んだ空の下に響いた。
「!?」
「何だ!?」
シンたちは反応する・・・だが、すでに遅かった。
一瞬の出来事だった。
突然、シンたちに襲い掛かった集団。
あまりの事態に誰もが反応しきれず敵に一番近かった3グループが襲われ・・・殺された。
血がぶちまかれ、あまりの光景に他の組も身をすくめていた。
「何やってんだ!逃げろ!!」
「!!」
シンの叫び声にすくんでいた者たちは我に返り、立ち上がろうとするが
飛んできた魔力弾に頭を撃ち抜かれて、地に伏す。
「あ・・・あぁ!」
さすがのシンもその場で硬直してしまう。
「もらったぁ!」
その隙にシンに迫る凶刃。
「しまっ!!」
油断が死を呼ぶ・・・それは、どこの世界でも同じだった。
そして、シンの中に後悔がひとつ生まれる。
「アスカ!」
シンをかばうため、教官の一人がシンの前に背を向けて盾になる。
「ガハッ!」
容赦なく男は教官の体に一閃を入れると、そこから大量の血が噴出す。
「あ・・・きょ、教官!!」
「にげ・・・ろ」
あくまでシンを逃がすために、敵の武器を掴みながらシンのほうを向いて一言呟いた。
「あ・・・く!」
「シン!早く!」
ルナマリアはシンに叫ぶ。一刻も早く逃げるために。
だが、そのルナマリアにも脅威が近寄る。
「ルナ!後ろ!!」
シンにいわれ、後ろに迫る脅威に気づくルナマリア。
「死ねぇぇぇ!!」

 

振り下ろされる剣・・・あと数センチが、ルナマリアの生死をかけた距離だった。
「シン!」
そこには、シンが自身の試作デバイス・デスティニーの剣・・・アロンダイトで
敵の剣を受け止めている姿だった。
「こ、のお!!」
剣を弾き、その者を気絶させる。
「はっ・・・やるじゃねぇか!教官さんは一人は勇敢だったが、一人は逃げちまった。
後はお前らだけだぜ?」
醜悪な笑みを浮かべるリーダーの男。他の者たちは殺され、そこらへんに転がっていた。
「・・・テメェら!!」
シンはその光景に怒りを覚える。
そして、ルナマリアを自分の後ろに・・・デスティニーの未完成なバリアジャケットを
まとって戦闘態勢に入る。
「ほぉ?デバイス持ちか・・・抵抗しなけりゃ苦しまずに死ねるのによぉ」
「死ぬかよぉ!!」
シンはCEにいた頃の感覚でSEEDを開放する。
この時のSEEDはまだ魔力を使っておらず、ただパイロットのときのように
反応速度が上がるだけだった。

 

「だぁぁぁあぁあぁ!!」

 

だが、シンにはそれでも十分だった。
アロンダイトの魔力刃をあくまで非殺傷設定にし、30人近くいる敵に向かう。
「だりゃぁああ!!」
最初の6、7人は打ち倒したが、やはり魔法戦闘になれた敵とまだなれない戦闘技術に
シンの劣勢は当然だった。
魔力弾が狙い済まされるが、シンはソレをことごとく防ぐ。
しかし、その攻防も長くは続かなかった。
「へへ!捕まえた、ぜ!」
二人の男に両腕をつかまれ、拘束されるシン。
「くっ!はな、せ!」
シンも必死に抵抗するが、それは意味を成さず・・・体力を消耗させるだけだった。
「抵抗は・・・意味をないぜ?」
リーダーの男が剣を構え、ソレを振りかぶる。
「今度こそ、死ね!!」
振り下ろされる凶刃・・・シンもさすがに死を覚悟し、一瞬の中
走馬灯のようなものを見ていた。

 

(シン・・・)
(お兄ちゃん・・・)
かつて守れず失った者たちがシンの名を呼ぶ。
(ステ、ラ・・・マ、ユ)
「シン!!」
今度はまだ生きて、自分のパートナーを勤める女性、ルナマリアの声だった。
「ルナ?!」
意識を覚醒させて前を見た・・・そこには、シンが受けるはずだった凶刃を
自分の身を挺して守るルナマリアの姿があった。
「ル、ルナ?」
「シ・・・ン・・・いき、て?」
力なく崩れるルナマリア・・・地に伏したとき、血が・・・留まることなく地面に流れる。
「あ・・・あぁ・・・あぁああ・・・あぁあああああああああああああああ!!!」
大切な人を再び目の前で失ったとき、シンの中で・・・何かが切れた。

 

─数時間後─
逃げた教官は管理局支部に援軍を頼んでいたのだ。
そして、ようやく味方連れてきたのだ・・・すべてが終わった後に。
管理局員が駆けつけたときの状況は死亡者43名・・・生存者1名。
シンだけがこの惨状に生き残ったのだ。
敵の血を浴びたシンの姿は赤く染まっていた・・・そして、ただ大切な人の・・・
ルナマリアの亡骸を抱え、ただ涙していた。
そこに、数人の影がシンの前に立つ。
「アスカ!なぜ殺した!?」
「我々に殺しはご法度!捕えることが最優先だぞ!?」
「そうだ!我々管理局が殺しを肯定しては、何の示しもつかん!!」
さまざまな罵倒がシンに浴びせられる・・・だが、そんな言葉すらもうシンには入っていなかった。

 

彼の中にあるのは、大切な人を救えなかった事実と・・・この世界でも、人を殺した事実。

 

そして、気がつけば彼は・・・アロンダイトを、振るっていた。
「アスカ!?」
「いったい何を!!?」
血しぶきがまう・・・すでにアロンダイトは殺傷設定・・・殺人剣と化していた。
「お前たちが遅いから!お前たちが・・・お前たちがぁぁぁぁぁぁ!!」
行き所のない怒りと悲しみは管理局に向けられ、シンはその場にいた人間斬り殺した。

許せなかったのだろう。自分をかばった教官とは違い、抵抗することもなく逃亡し
自身は生き延びたことを。
「他人に頼ることから始める・・・そんなことで守れるものかぁ!!」
剣を振るうごとに、シンは叫んでいた。
「えらそうに言っても、お前たちも何も守れないじゃないかぁ!!」
片目からは涙・・・もう片方からは血の涙が流れていた。
「奴を抑えろ!どんなことをしても!!」
ついには、総出でシンを取り押さえようという・・・今更な指令が下った。
「どうして!どうしてその命令を俺たちを守ることに使わなかったぁ!!」
だが、シンには・・・今更詮無き事。止まらぬ烈火のごとき怒りは完全に管理局に
向いてしまったのだ。
これは・・・管理局への罰なのかもしれない。
権力にたかり、人を利用し、守るべきものを見失った・・・愚か者たちへの。

 

数十分後には援軍を呼びに言った教官意外はすべて斬り殺されていた。
山積みになった死体を見下ろすシンの顔は・・・その赤い瞳もあいまって
残り一人となった男に恐怖を与えた。
「お前は・・・戦うべきだったんだ」
シンはゆっくりと男に近づく。
「ひっ!」
男も怯えて地面に腰をつく。
「生きようが死のうが・・・残って、教官の責務を全うすべきだったんだ」

 

この状況は誰かが用意したものじゃない。
誰かが望んだわけでもない。
ただ起こってしまった・・・悲劇。

 

「お前が戦っていれば・・・少しは生き残れた奴も出たかもしれない」
──ルナは生き残れたかもしれない。
そんな“IF”を口にするシン。瞳に光はない・・・あるのは殺意。
「わ、悪かった!だ、だから・・・許して!」
情けなく懇願し、生にすがり付こうとする醜い男がつい先ほどまで自分の
教官だったと思うと、ソレだけでシンは怒りを倍増させることができた。
振り上げるアロンダイトには・・・憎しみ、悲しみ、怒り、そういったものが
大量に込められていた。
数秒後に男の断末魔は大地に響き、虚空へ還った。

 

─現代─
「そして、シン・アスカ陸士候補生は・・・半年間姿を消した」
「・・・半年間?」
フェイトはその空白の間、彼が何をしていたかが気になった。
「その半年間ですべてを完成させ、自分を・・・闇に染めたんだろう。
再び私たちの前に現れたあいつは“赤い翼”となって、キラを撃墜したんだ」

 

そう・・・キラと彼のデバイスであった旧フリーダムは1年前に戦闘し
シンはキラを撃墜したのだ。キラはフリーダムに守られて助かったが
その部隊に所属していた管理局員も殺され、そこに駆けつけたアスランは
シンを見逃すことしかできなかったという。

 

「・・・そんなことがあったんですか」
「ああ。キラはそれほど深い傷を負わなかった・・・アスランに関しては
その時あったことをあまり語らなかったからな」
その間に起こった空白・・・キラが撃墜され、その仲間も殺された。
だが、その後にアスランとシンは邂逅しているはず・・・その時間に
彼らは何を話したのか・・・だが、実際に話をしたかは憶測の域をでない。
故に、これ以上は考えられなかった。

 

「まぁ・・・私から見たあいつは、信じられると思った思想に本当に裏切られたんだろう」
カガリの言葉には脈絡がなかったが深い意味があった。
それは、彼女が彼女なりにシン・アスカという人物を理解しているということだ。
「けど、キラを撃墜した後・・・シンは少しの間また消息をたったんだ。
そして、また名前が上がってきた」
ソレが何を意味するか、フェイトは大体察することができた。
「つまり・・・彼は何らかの組織に?」
「そうだ。アイツを手引きしているものがいるのは確実だ」
シンは底知れぬ魔力やスタミナを有しているが、無限ではないはず。
つまり、何かを条件にシンは何者かと利益を交換しているのだ。
結局、シンのことについてはこれ以上予測を立てることもできず、対策のほうを
考えることとした。
「では“赤い翼”の件は・・・アスハ提督たちが?」
「ああ・・・キラとアスランも私の指揮下に置く。話を聞く限りシンも
ダメージは大きいはずだから、しばらくは大丈夫だろう?その間に体勢を整える!」
カガリはぐっ!と拳を握って笑顔を見せる。
「・・・後、八神二等陸佐からの要望のお返事は?」
今の六課にとって死活問題・・・隊舎も大破し、寮の局員たちの住居がないのだ。
「ああ、そのことか・・・実は、私にもどうにもできそうにないんだ。
クサナギも局員は充実してるし、人手は足りてるんだ」
苦笑いで丁寧な断り方をするカガリ。フェイトもそれ以上は何もいうことができなかった。
「すまん!」
フェイトに対し頭を深々と下げるカガリ。ソレに対して慌てるフェイト。
「い、いえ!別に・・・そんな!」
やはり自分より階級が上の者に頭を下げられるなどそういうことには
免疫はできないようである。
「で、では!私はこれで!!」
空気に耐えられなくなったのか、逃げるようにフェイトは立ち上がる。
「・・・フェイト執務官!」
カガリは背を向けるフェイトを呼び止める。
「はい?」
フェイトも振り向く・・・そこには、微笑を浮かべるカガリがいた。
「・・・私はな、ホントはアイツに・・・戦いのない世界で
平和に暮らしてほしかったんだ」
それは・・・彼女の心からの願い。
戦うことしかできなかった少年に対する彼女なりの懺悔の言葉。
「アイツは、優しい奴だった・・・もう、取り返しがつかないこんな時だけど
・・・もし、願えるなら・・・アイツに、救済を与えてやりたい」
俯く彼女の表情は伺えない。だが、どういう顔をしているかは予想がついた。
「大丈夫・・・」
そんな彼女に、少しだが・・・フェイトは救いの言葉を諭した。
「あなたのような人が言うのですから・・・シン・アスカ君も
まだ、戻ることができるはずです」
カガリの包み込むような優しさに、フェイトも誠意を持ち答えた。

 

そして、シンのことを“赤い翼”としてではなく、一人の救うべき人間として戦うと
決めたのだ。

 

フェイトが部屋から出て行くと、カガリは自分の机の前に来て引き出しを開けた。
「・・・私たちは、来るべきではなかったのかな?」
そこにあったのは一枚の写真だった・・・CEの世界で撮った一枚の写真。
キラやアスラン、シンにルナマリアも写っており
ソレが・・・一番幸せだったときの思い出だった。
「シン・・・私は、必ずお前を救ってみせる・・・たとえ、この身が滅びようが」

 

──彼女のまっすぐな瞳は決意に満ちていて、その心は美しくすらあった。
だが、すべてを救う事は人間である以上、できはしない。
「そんな事はわかってる・・・けど、理屈じゃないんだ」
──痛みを知る彼女・・・失う辛さと怖さを知る彼女。
だが、そんな事は何かを行う理由にはならない。
「ソレもわかってる・・・私は、オーブの理念を押し付ける気はない。
だが、失う気もない」
──1人の人間には、その手につかめるモノは限られる。
だが、限られることを嫌うからこそ、人間には業が生まれる。
「受け入れて・・・戦うさ。信念を貫くためにも」
語り手の彼女の言葉を聞くものはいない。
だが、世界にはカガリの言葉を聞く義務があったのかもしれない。
届くことのない、キレイな想いは・・・届くべきだったのかもしれない。

 

カガリの部屋に呼び出し音が鳴る。
「私だ」
すぐに応対するカガリ。
その通信相手はクサナギの艦長補佐、レドニル・キサカ三等陸佐だった。
キサカはカガリと同じ世界出身だが、魔法は使えない。
しかし、軍事的知識が豊富なことにより、僅か2年弱のうちに三等陸佐にまで
上り詰めたのだった。
「艦長・・・ラミアス提督より連絡がありまして、X級6番艦と7番艦は
クサナギの指揮下に入るそうです」
「そうか・・・元々私たちの世界の者が関与している件だし、仲間の事は連帯責任だ!
皆にも、そう伝えてくれるか?」
「了解しました。では」
通信をきるキサカ。やはりカガリはやるせない顔をする。
「・・・皆に、ハウメアの加護があらんことを」
両手を合わせ、深く祈る。これ以上、大切なものを失わないように。

 

真実の重みと誰よりも平和を願う少女のように純粋な思いを持つ女性。
彼女の願いは、届きいれられるのだろうか?
誰もが死なない世界を夢見て、生まれた世界を飛び出し、戦っている。
戦いの意味を知っている彼女は、いつまでも願い続けられる。
その・・・僅かな思い出すら、人には救いとなる。
善に悪に・・・救いがあることを切に願わん。

 

心のきらめきは誰よりもキレイで、何にでも染まる白だった。
たまたま染まった色は・・・血の赤だった。
だが、その色は・・・洗い落とす事はできないのだろうか?
ぬぐえることを信じて進むものの思いは
そんな奇跡を起こすこともできるのだろうか?
それは、結果がでなければ、誰にもわからない。
わからないものは、信じて進む以外ないのだ。

 

次回 敗者の“決意”

 

敗北は・・・恥じゃない。逃げることこそ、恥。