Lyrical DESTINY StS_第06話

Last-modified: 2008-03-01 (土) 17:45:31

“彼の者”を捕えた事が事件の終わりだと思っていた。
確かに“一つ”の任務は終わりを迎えた。
だが、彼が関わった“計画”は生きていた。
ソレは、あってはならない“計画”だった。

 

─第30管理外世界─

 

すでに破棄され、人の気配はない研究施設にフェイトは単身で乗り込んでいた。
「公式データにない研究所なのに、すごい規模・・・いくら管理外世界といっても」
とりあえずおくに進んでみるが、特にめぼしいものは何も見つからなかった。
「きゃっ!」
何かに躓いて、体勢を崩すフェイト。
「もう・・・それにしても、何か手がかりはないのかな?」
愚痴をたれながら、しらみつぶしに探すフェイト。
あまり期待はしていなかった。
そもそもフェイトがこの第30管理外世界に来たのには理由があった。

 

─二時間前─
フェイトは管理局最大の情報源である無限書庫に言ったのだが、頼りのユーノは
なのはのお見舞いで退席していて、他の者たちは手一杯でとても依頼できる
状態ではなかった。
そこで、顔の広い義兄クロノ・ハラオウンの元に行くことにしたのだ。

「本局執務官フェイト・T・ハラオウンです。クロノ提督に謁見願えますか?」
「すいません、クロノ提督はただいま会議中ですので少々お待ちいただけますか」
そんなやり取りを行うフェイトとオペレーター。
結局は待たされる羽目になるフェイトだった。
その待ち時間に、急いできたのでのどが渇いた、となって
近くの自販機で飲み物を買うフェイト。

 

「・・・アレは?」
その時、見たことのある後ろ姿を見つけるフェイト。
独特の緑がかった長髪に局員とは違う服装。
聖王教会騎士カリム・グラシアの義弟ヴェロッサ・アコース査察官だ。
「アコース査察官!」
呼ばれてフェイトに気づくヴェロッサ。
「おや、フェイト執務官?お久しぶりです」
ヴェロッサも笑顔で対応する。
「どうしたんですか?査察官もクロノに用事が?」
ここはクラウディアなので彼がいるということは、たいていがクロノへの用事という
認識をしているフェイト。
「ええ、まぁ・・・ちょっと嫌なニュースがありましてね」
「・・・どんな?」
フェイトも職務上、嫌なニュースと聞けば気になる性分である。

 

「スカリエッティとは別の・・・しかし、規模と技術力が上回るかもしれないものが
管理外世界で発見されたんですよ。まだ調査には踏み入っていませんが
一週間以内に調査に入る予定ですよ」
こういうことが絶えませんね、と肩をすくめて笑うヴェロッサ。
「・・・ソレ、どの管理外世界ですか?」
「え?・・・第30管理外世界ですよ?」
ソレが何か、とヴェロッサが言う前にフェイトは走り出していた。

執務官の勘、と言えばいいのか。
フェイトはソレを聞いたとき何か引っかかるものを感じたのだ。
そうしたら、ヴェロッサのことなどそっちのけで走っていた。
「シャーリー!」
そして、フェイトの執務官補佐を務めるシャリオ・フィニーノに通信を取っていた。
(はい!?どうしたんですか?)
シャーリーも突然の通信に驚いていた。
「今すぐ本局に転送許可と準備の申請!
転送場所は第30管理外世界!急いで!私もすぐに本局に行くから!」
(りょ、了解です!)
フェイトのあまりの気迫にシャーリーは押されるが、とりあえず返事をし通信をきる。
「・・・ひょっとしたら、ひょっとするのかな?」
フェイトはシンの異常な強さ・・・ソレも“赤い翼”としての常識を外れた強さには
疑念を感じていた。確かに感情による“殺意”は人を強くする。
しかし、それだけでは語りきれないものがシンにはあった。
つまり、フェイトの予測は瀕死のシンが何者かに保護され
その肉体を限界まで強化されたのではないか、というものだった。
「・・・ソレが、半年間の空白の真実?」
彼らはレリックという高純度魔力結晶体を奪っていた。
ソレもひとつの不安要素でもある。
もし、今の管理局の消耗した状態で再びナンバーズとガジェットクラスの大群に
地上本部を攻められれば地上本部はあえなく陥落するだろう。
「・・・とにかく、今は!」
フェイトはそんな不安をさえぎり、クラウディアの転送ポートに走った。

 

そして、現在はその研究所で単独調査に乗り切っているわけである。
しかし、未だにめぼしいものは見つかってはいない。
「・・・アレ?アレ・・・は?」
だが、フェイトも手がかりになるのか、赤いファイルを見つけ、ページを開く。

 

「・・・・・・“プロジェクトD”?」

 

初めて聞く名にフェイトは疑問符をあげる。
すると、フェイトは後ろに気配を感じ、振り向く。
「誰!?」
そこには、白いマントをつけた男が一人いた。
「アンタ誰だ?ここの人か?」
どうやら男は敵ではないようだ。
「私は時空管理局執務官兼地上部隊機動六課ライトニング隊長
フェイト・T・ハラオウンです」
とりあえず名乗りを上げるフェイト。
「管理局の者か・・・私はラウル・バウ。この世界出身の科学者だ」
ラウルは見たところ背中にバックしか持っておらず、それ以外は手ぶらだった。
「あなたはここで何を?」
「別に・・・ここがもぬけの殻になってからは、私はここで生活を営んでいるまでさ」
ラウルの発言に心底驚くフェイト。

 

「こんなところで生活を?」
フェイトの質問に、ラウルは彼女に背を向けてついて来いと示唆する。
奥のほうに行くと、確かに生活観が漂っていた。
「・・・汚い」
だが、女のフェイトにとってその空間は醜いものだった。
シャツや下着が散乱し、皿とコップも洗わずそのまま・・・足の踏み場に困る空間だった。
「まぁそう言わないでくれ?それなりに気に入っているんだ」
フェイトの感想に苦笑いのラウルだった。
「コーヒーでいいか?」
別にフェイトが頼んだわけでもなく、彼はカップを二つ・・・
もちろんしっかり洗ってから、コーヒーをいれ、フェイトに差し出す。
「ありがとう」
フェイトも素直に受け取る。
そして、二人は椅子とテーブルを発掘し、そこに腰掛ける。
「・・・」
フェイトは途中からラウルの視線が自分に対して執拗に向いていることに気づく。
「なん、ですか?」
なんともいえない気分になり、コーヒーのカップで顔の前にバリケードにならない
バリケードをつくり、ラウルに問いかける。
「・・・ふ、似ているな・・・どこかしら、プレシアの面影がある」
「!?」
フェイトはその時彼が放った言葉に驚愕する。
ソレは、自身の実の母の名を呼んだから。
懐かしく、寂しい思い出の一つ。
そして、一つのきっかけ。
「どうして・・・母さんのことを?」
いくら高名な魔道士とはいえ、すでにこの世にはいない母。
その存在を知るものも、時間の流れとともに消えつつあるはずなのに、彼はその名を口にした。
「何・・・古い関係だ」
見たところ、ラウルは年齢的に自分より二つか三つくらい年上にしか見えない。
そんな彼が母と知り合いという事はあまり信じられなかった。
「どういう・・・関係ですか?」
「簡単に言えば、研究仲間だ・・・彼女と知り合ったのは
簡易式魔力炉建造のときだったな」
プレシア・テスタロッサは優秀な魔道士であると同時に科学者だった。
彼女はその優秀さゆえに、実の娘を死なせ、フェイトという自身の業を生み出した。
だが、ソレは結果でしかない。
「そう、ですか・・・というか、ラウルさんはおいくつなんですか?」
結局思った疑問を口にするフェイト。
「ん・・・確か、今年で46だな」
時間が止まったような感覚だった。
明らかに20代前半に見えるその男は・・・自身を40代後半だとぬかしたのだ。
「年齢詐欺罪があるなら・・・即刻逮捕ですよ!?」
真剣な突っ込みに・・・フェイトはまるで容赦がなかった。
「い、いや・・・そんなことを言われても、なぁ?」
そんなやり取りがしばらく行われるが、フェイトもだんだんどうでもよくなったのか、話題を変える。

 

「・・・ラウルさんは、母さんのこと・・・どのくらい知っているんですか?」
興味はあった。壊れる前の自身の母親に。
「優しい人だったよ?常に他人の失敗をカバーし
そして、どこまでも成功を前向きに考える。理想の科学者だった」
過去を懐かしむラウルの横顔に、フェイトはどこか親近感に似たものを感じる。
そして、自分が知らぬ母のそんな状況を思い浮かべるフェイト。
「・・・母さん」
プレシアとのさまざまな・・・自身の姉のことも交えて思い出してしまったのか、少し表情が曇るフェイト。
「まぁ、君のお母さんは・・・立派だったと、想う。自身の願いのためになんでもする
・・・アレは、狂っている様に見えて、案外誰にでもできるものじゃない」
プレシアの間違った行動をラウルはほめる。
確かにプレシアの行った行動は正しくはない・・・だが、並の人間ではまねできなかっただろう。
「(・・・なんか、ナカジマ三等陸佐みたいな人)」
その例えはある意味あっているのかもしれない。
実年齢は彼に近いし、性格もどことなく似ているからだ。
「・・・少し、おしゃべりが過ぎたかな・・・」
自分を見るフェイトの視線に気づくと、ラウルは椅子から立ち上がりカップを流しに持っていく。
「あの、ラウルさん!もう一つ・・・聞きたいことが」
「なんだい?」
「・・・“プロジェクトD”ってご存知ですか?」
”赤い翼”に対する手がかりなので、しっかり情報は掴んでおきたいのだろう。
フェイトはラウルに先ほどのファイルを見せる。
「知っているよ。だが・・・教える事はできない」
その答えに少し驚くフェイト。
「なぜ、ですか?」
「答えは自分で見つけるべきだ・・・ヒントだけあげよう。
その計画は神の創造と人の進化の可能性を見る計画だ」
彼の出したヒントにフェイトは思わず、ある者たちを思い浮かべた。
「戦闘・・・機人」
その一言に、ラウルは眉をひそめる。
「アレは第一段階の欠陥品だ。戦闘機人とは、ジェイル・スカリエッティのほんのお遊び。
人形に人間の感情を込めただけの代物だ」
その言葉にフェイトもなにやら嫌そうな顔をする。
「彼女たちは人間として生きていくことができます」
そう・・・でなければ、自分たちと行動をともにしたスバルやギンガも
否定してしまうことになるのだから。
「ソレは難しいな・・・何、そういう意味で否定するわけじゃない
管理局の傘下にいる時点で彼女たちには未来永劫“兵器”という扱いしか受けないよ」
ラウルの言葉はどこか納得のいくものだった。
「たとえ、人間になることを望もうと・・・ソレを見る者の目が
いずれ彼女たちを戦場に導くさ」
彼の物言いはまるで、今の人間という者を否定しているような感じだった。
だが、疑念が絶えないのも確か・・・今の管理局とは、フェイトたちでは
測れないほどの闇があるのだから。

 

「けど、彼女たちが心からソレを望めば・・・私たちが彼女たちをそう思えば!」
無茶苦茶なことをいっていると、フェイトも理解している。
だが、それでは悲しすぎるのだ。望んだわけじゃないのに、それなのに機械と融合した
彼女たちを・・・存在が“兵器”と認めることなど、したくない。

 

ただ、そんな願望だけがあるから。

 

ただ、その気持ちを否定したくないから。

 

だから、彼女たちをそんな風に思いたくない。

 

ソレが、フェイトの気持ちだった。
「・・・君のような人間がすべてなら、いいのだがね?」
悟ったようにいうラウル。その表情はやるせない笑顔が映っていた。
「もう帰りたまえ?君には行くところがあるだろう・・・
そう、答えを知りうるかもしれない人物にあうために、ね?」
ラウルの言葉に、フェイトは小さく頷いた。
彼女が会うべき相手・・・その手で捕え、管理外世界に幽閉している人物。
無限の欲望と称された科学者ジェイル・スカリエッティだ。
「コーヒー、ありがとうございました」
カップをテーブルに置き、彼に背中を向けるフェイト。
「・・・願わくば、再び見える時は“敵”でないことを祈るよ」
小さく呟かれた言葉。
フェイトには聞こえていない・・・彼が、彼女の背中に向けて言った言葉。
ソレは・・・運命に逆らいたい気持ちだったのかもしれない。

 

フェイトが去った後、ラウルは新しいコーヒーをコップに注いでいた。
「・・・“あの子”も生きていたのなら、同い年なのだな」
フェイトの顔を思い出し、そのフェイトとは別の・・・金髪の少女が彼の脳裏に映っていた。
ソレは、フェイトに“似ていた”
その出会いは、残酷だった。
誰よりも、ラウルはこの出会いがなかったことになれば、そう思っていた。
「悲しいよ・・・プレシア」
フェイトの母の名を呼ぶ。
その時、彼の瞳から頬にかけ、涙が流れていた。
「・・・だが、忘れよう。君が管理局の人間だというのなら、私は・・・君の“敵”だ」
悲しい決意。虚しさが残る口上。
そんな時、彼に通信が入る。
「はい・・・君か?」
通信相手はラウルがよく知る人物のようだった。
「博士、忘れ物はありましたか?」
その人物とは、シンやリリウェルの仲間ラウだった。
「あぁ・・・持って行かれてしまったよ、執務官さんにね」
なにやら、余裕な感じで報告するラウル。
「・・・別に私は構いませんが、何ゆえに?執務官程度ならその手で屠れたでしょうに?」
ラウもあきれたように言う。
「ん・・・こんな弱い科学者に負ける執務官なんていないさ」
そう言って彼は煙草を一つ取り出す。
フェイトのときは吸わなかったのだが、彼は元々吸うタイプの人間のようだ。
「ご冗談を・・・賢者と呼ばれたあなたがたかが
執務官程度に負けるなどとは、考えられませんな?」

 

賢者・・・魔道を極め、ロストロギアクラスの魔法を使用することができ、確認されているすべての魔法を使用することのできる存在。

 

「買い被りだ・・・私は、ただの弱い人間だよ?
だから、自身の業を君たちという“存在”を利用して作ろうとしている」
自嘲のこもった笑いをするラウル。
「・・・あなたがソレを業と感じるのは勝手ですが、別に私たちは恨んでなどいない。
むしろ感謝していますよ?“命”の尊さを教えてくれたあなたに」
仮面を外し、素顔を見せるラウ。
美しいウェーブのかかった髪に見合った整っている顔立ち。

 

彼は、キラやアスランたちが知る・・・ラウ・ル・クルーゼだ。
一度はキラに破れ、その身、その魂は失われた・・・はずだった。
しかし、最後の瞬間を迎えず、彼はラウルの前に転移していた。
その時のラウは腹に風穴を開け、全身血まみれだった。
それでも助かったのは、ラウルの天才的な技術力と“救いたい”という
純粋な願いがあったからだ。
「あなたがこの身に力を与えてくれた。そして・・・私に真の人生を与えてくれた」

 

ラウの体にはアル・ダ・フラガの呪いは残っていない。
彼の寿命は彼のものであり、完璧なクローニング。
そして、彼はラウ・ル・クルーゼという一人の人間になれたのだ。
「・・・その言葉が聞ければ、私は救われる・・・ありがとう」
心からの感謝の言葉にラウも照れる・・・ソレを隠すように仮面を再び装着する。
「ソレより、早く戻っていただきたい・・・シン君の左腕も治していただかなくては」
「わかったよ・・・すぐに戻ろう」
そう言って彼は煙草を地面に放り、指を鳴らす。
瞬間、火が燃え上がり、全体に広がっていく。
「灰となれ、我が古巣の一つよ」
冷たい、今まで見せたどの瞳よりも冷たい眼差しが燃え上がる火を見つめている。
「この場の犠牲を糧に、我は目指す・・・“終焉”を」
そして、ラウルはその場から姿を消した。

 

─管理局特別監獄─

 

フェイトはスカリエッティが監視されている監獄に来ていた。
実際、補佐を務めるシャーリーもかなり大変だったといいます。
「ふぅ・・・今日は飛びまくりだ。今日はこれが最後になるかな」
受付を済ませ、フェイトはスカリエッティとの面会まで少しあるので、通信を取っていた。
「あ、はやて?」
通信相手ははやてだった。
「フェイトちゃん?どしたん?」
「いや、経過が気になって・・・六課のこと、どうなるの?」
不安要素はどうなったのか、ソレも知りたい一つのことだった。
「とりあえず、一般局員は休暇、指定局員は“第12艦隊”所属の
X級艦船に乗ってもらうことになったわ」
合同戦線・・・ということになるのだろう、とフェイトは認識する。
「・・・つまり、アスハ提督たちと一緒に“赤い翼”の確保を?」
「そういうこと・・・まぁ対象が“赤い翼”以外にいるかもしれへんから
油断は許されへんからね。まぁ実行期間はまだ少し先。
ソレより、フェイトちゃんは今どこ?」
フェイトはなんとなく言葉に詰まる。
別にやましいことをしているわけではないのだが、犯罪者に会いに来ている、と言うには少し気が引けた。
「管理局施設だよ・・・ちょっと用事があって」
そんな時を見計らったように、フェイトが呼ばれる。
「あ、ごめん!呼ばれたから行くね・・・後で連絡するよ!」
そう言って通信をきるフェイト。なんとなく悪いことをしている気分だった。

 

フェイトの前にはふてぶてしい笑みを浮かべた男
ジェイル・スカリエッティが窓で隔たれた向こう側に座っていた。
お互いににらみ合ったまま口を開かない・・・執務官特権で
別に時間がたとうが関係ないが、このままでは埒が明かなかった。
「私に、何を聞きに来たんだい?」
しかし、先に口を開いたのはスカリエッティのほうだった。
「・・・“プロジェクトD”について・・・聞かせてください」
フェイトは彼が口を開いたことに驚いたが、今はそんなことを気にせず、自身の質問をする。
「懐かしいな・・・だが、私はアレに手は出したくなかった・・・
あの計画の発案、実行を担当しているのは賢者と呼ばれた男
・・・“トウジ・センベル博士”が行っていたものだ」
初めて聞く名前をフェイトはメモする。
「それで・・・どんな計画だったんですか?」
その問いにスカリエッティは少し真面目な顔になる。
「私の娘たちとは違う・・・完璧な質量兵器の作成だよ。
トウジ博士の思想は持たざるもののへの抵抗戦力を持たせる、というものだ。
強いてあげるならレジアスの思想に少し近いだろう」
今は亡き地上本部のトップを務めていたレジアス・ゲイズ中将。
彼もまた、質量兵器を魔法文明に投入しようとしていた人物だった。
「・・・だが、トウジ博士は管理局から追放され、今はどこにいるのかな・・・
だが、プロジェクトを続けているのなら、君たちの敵である事は間違いない」
スカリエッティは手枷をいじりながら、話を進めていく。
「彼は、命を愛するが故に・・・命を奪うものともなる」
「!?」
愛するが故に奪う・・・矛盾したこの言葉をフェイトはどう受け止められるのか。
「現に、“赤い翼”は魔道士を殺しているのだろう?」
その言葉が決めてだった。
つまり、シンはそのトウジ博士の下にいて、ともに行動をともにしている、ということだ。
「・・・もし、彼がレリックを手に入れたとしたら・・・どうなりますか?」
その質問にスカリエッティは多少考え、ある答えにたどり着き・・・ソレを口にした。
「“プロジェクトD”は魔道士強化計画でもある・・・ソレは、戦闘機人という
非人道的な行為を否定するために発案されたものだ。
つまり、レリックとの適合できる生身の人間を君たちに差し向けてくるだろうね?」
ソレを聞いたフェイトは絶望にも似た感情を抱いていた。
レリックは高純度魔力結晶体。秘められたる力は強大。
ソレを、生身の人間に与えることなど、常識では考えられなかった。
「だが、シンクロする人間は稀にいるだろうね・・・まぁ、レリックと
シンクロした時点で、ソレはもう人間の枠を超えた・・・“神”に等しいものになるだろう」
「・・・神?」
「そうだ・・・“プロジェクトD”の最終目的は人間の進化ではなく、完全な質量兵器
・・・機械仕掛けの神、Deus Ex Machinaの創造が目的なのだからね」
フェイトはその名前に聞き覚えがあった。
物語の終盤で・・・すべての出来事を強制的に終了させる。
突然の終焉をもたらすある意味においては悪意とも取れる存在がそうだ。
「つまり・・・その計画は」
あまり想像したくない考えを途中まで口にするフェイト。
「そう。自身の考えを否定した管理局に終焉をもたらす機械仕掛けの神を作る計画さ」
微妙な笑みを浮かべてスカリエッティは興奮し始めているのか、顔に手を当て抑えようともしている。

 

「クックック・・・純粋な人間・・・ソレも賢者だ。君たちに勝ち目などない。
彼はすべてを理解している。私にないものをすべて持っていたからね」
そのセリフはスカリエッティ自身がトウジ博士より劣る・・・という肯定に他ならなかった。
「あなたは・・・」
「もう遅いさ・・・彼が動き出した以上、管理局は終焉を迎える」
フェイトの言葉をさえぎり、スカリエッティは予言のように言う。
「・・・ソレより、あの子たちの話を聞かせてくれないか?ここまで話したんだ。
少しくらい報酬があってもいいだろう?」
そう語るスカリエッティはかすかに、会うことができない子供を持つ親のような顔になっていた。
「・・・ええ」
そして、しばらくスカリエッティにナンバーズたちの話をしていた。
フェイトの話を聞くスカリエッティは心底うれしそうで、話をする側のフェイトも
多少だが、スカリエッティを許せそうな気分になっていた。
彼もまた・・・親なのだ。
たとえ、自身も同じような過程で生まれようと、自分を理解し
自分のために働いてくれた彼女たちのことが・・・大事なのだ。
「では、私はこれで・・・」
話し終えると、フェイトは立ち上がる。
「・・・最後にこれだけは話しておこう」
「?」
立ち上がるフェイトを呼び止め、スカリエッティは口を開く。
「君たちが“プロジェクトD”を相手にするのなら、君たちは苦渋の
選択を迫られるだろう。その時、どの選択をしても、苦しむことになるだろうよ」
不敵な笑みを浮かべるスカリエッティ。
ソレに対し、フェイトの答えは。
「大丈夫・・・私には仲間がいますから」
そう言って、スカリエッティの元を後にするのだった。
「・・・関係ないな、君は・・・本当に苦しむのだから。真実を知ったときにこそ」
フェイトが去った後に彼はいった。
彼女のこの先を予言するかのように。

 

─???─
ラウルはラウたちのいるどこともわからない場所に“帰ってきていた”
「あぁ!おかえりなさい!博士!」
出迎えたのはリリウェルだ。
とてもうれしそうな表情をしていた。
「やぁただいま?リリウェル・・・すまないな、今日はお土産がないんだ」
そう言って手をぶらぶらさせて手ぶらであることを表現するラウル。
「別にいいよ?博士が帰ってきてくれれば!」
ソレを聞くと、ラウルはリリウェルの頭をなでる。
すると、ラウルたちの前にラウが現れる。
「やぁラウ・・・ただいま」
ラウに対しても笑顔でただいまをつげ、ラウもラウルを迎える。
「・・・それで、シン君の具合は?」
「現在、左腕以外の損傷は完治しつつあります・・・しかし、左腕は・・・」
ラウが俯く。
もう治らないだろう、と口にできないのだろう。
「大丈夫。治して見せるよ」
しかし、ラウルはあきらめてはいなかった。

 

「・・・無くした腕を生やすことが?」
「できるさ・・・僕の家族に不自由な想いはさせない」
そう言い切ったラウルの言葉に反応したのか、リリウェルはポケットから何かを取り出す。
「博士・・・これ」
リリウェルが持っていたのは、一つの花だった。
「シン兄、照れ屋だから・・・私が渡そうとしても、受け取ってくれないから」
このステラの面影を持つ少女リリウェルは本当にシンのことが好きなのだ。
兄として思える存在。
大切な家族として。
ソレが・・・人間として一番大事な部分なのだ。
「わかった・・・渡しておくよ」
ラウルは花を受け取り、なんとなくやりきれない、といった表情を浮かべる。
「(・・・そうだ。生きることにこそ理由が要る
・・・私はこの子たちを守る義務があるんだ。そのためにも)」
一度深呼吸し、ラウルは足を動かし始める。
その先には、6つのポッドがあり、その中の一つにシンが眠っていた。
「・・・ごめんな、シン君。君の憎しみを使うような形になってしまって」
ラウルは深々と頭を下げる。
それに反応したのか、シンも目を開け、ラウルの姿を視界に入れる。
(アンタが、俺にくれたんだ・・・気にしてない)
ただ一言念話でラウルにそう告げると、再び目を閉じ眠りにつくシン。
「・・・ありがとう。左腕は治すよ・・・何、君のデータは揃っている。
一月ほどはかかるが、我慢しておくれ?」
そして、ラウルは端末画面を開き、データを整理していく。
ラウルがいる空間にあるポッドのほかに・・・さらに奥には巨大な塊が固定されていた。
─ドクンッ
その物質からは時々鼓動が発せられ、なんとも不気味な空気をかもし出していた。

 

「・・・ん?」
ラウルはシンの修復行程を進める中、一つのポッドに反応が出ていることに気づく。
「アレは、ロートのポッドが。ようやく、適合したんだな?」
何かを確信すると、ラウルはそのポッドの前に行き、開閉スイッチを押す。
すると、ポッド内の液体が急速に排出され、ガラスが開く。
中にいたのは、かつてCEの世界において苦痛と引き換えに戦う力を得た少年
クロト・ブエルの面影を持った青年だった。
「おはよう・・・ロート・ライネンス」
「ああ・・・おはよう、博士?ようやく、体にレリックがなじんだよ」
だが、しゃべり方や背格好、性格がまるで彼とは違っていた。
落ち着いていて、子供っぽくなく、大人っぽかった。
「調子はどうだい?」
「いい感じだよ?他の奴らはまだ起きてないんだな?」
まだあいていないポッドを見て、ロートと呼ばれた青年はそう確信する。
「ああ。それに、シンが傷つけられてしまってね・・・今、治療中なんだ」
ソレを聞いたロートは心底驚いていた。
「嘘だろ!?アイツの実力は・・・」
「彼も人間だよ・・・いくら強かろうと、人間なんだ」
ラウルは“人間”という言葉を強調する。
ソレが何を意味するのかはわからないが、何かこだわりのようなものが感じられた。
「・・・俺のデバイスは?」

 

ロートは何を思ったか、そのようなことをラウルに問いかける。
「“スラッシュ・レイダー”かい?8割が完成しているが、まだ未完成だ
・・・実戦で使うにはお勧めできないな」
ラウルの答えに、ロートはがっかりしてため息を漏らす。
「心配ないさ・・・まだ準備期間だ。それに、他の子たちが
目覚める頃にはすべてのデバイスも完成するし、シン君も治るからさ?」
その言葉に、ロートは笑顔で首を縦に振る。
そして、服を着てリリウェルやラウにあう、といってラウルの元を後にした。
「元気いっぱいだな」
ロートの陽気な後姿に、思わず笑みをこぼすラウル。
そして、彼は気を取り直して、シンのポッドの前に再び立つ。
「またにぎやかになるね」
ロートが目覚めたことで、また一つ活力が生まれたラウルは順調にキーを押していく。

 

「よぉラウさん、リリウェル!」
服を着て、二人の前に姿を現すロート。
「起きたのか、ロート?」
「ああ、おはよ!」
「ロート、おはよう」
ラウとリリウェルも笑顔で彼の目覚めを祝う。
「シンのことは聞いたろう?」
「ああ・・・まぁ博士がなんとかするでしょ?ソレまで、俺たちはのんびりやろうぜ?」
ラウルの元にいる彼らは本当によく笑う。
よどみなく、ただ純粋に笑う。
ラウルにとって、彼らの笑顔は宝なのだろう。

 

人間にとって、笑顔は何よりうれしいものだ。
ソレが、大切な人のものなら、なおさらのこと。

 

雷の子は力を求めた。
求めた先にあったものは何か?
だが、彼は迷わない。
暖かい居場所を知っているから。

 

次回 目覚める“雷光”

 

迷わず、立ち向かう“あなた”は輝いていた。