Lyrical DESTINY StS_第07話

Last-modified: 2008-03-01 (土) 17:42:13

たった一つの思いは、無力という言葉に消えかけた。
だが、忘れてはいけないこともあった。
存在意義、そういう言葉でもいい・・・。
“”にとって、意味がある。
ソレが、願いだから。

 

アスランはエリオのデバイスストラーダを持って、本局に来ていて
親友キラ・ヤマトの元に向かっていた。
その理由は、エリオの特別訓練をするための準備だった。

 

─30分前・地上本部訓練所─
「特別訓練を行う前に、まずデバイスを貸してくれエリオ」
「え・・・はい」
エリオは疑問を持ったが、口にしている暇はない!と自身に一喝し
すばやく待機状態のストラーダを手渡す。
「これから、俺はストラーダの調整をやってもらって来るから、君はその間精神統一だ」
「はい!」
エリオは何の疑問も抱かず返事をし、アスランもその素直さに少し笑みをこぼす。
「じゃあ、行って来るよ」

 

そして、アスランは今ストラーダの調整・改良プランを手に、キラを探していた。
「ったく・・・なんで肝心なときにいないんだよ!あいつは!」
30分探しても見つからないキラにだんだんイラつくアスラン。
その怒声は本局の廊下に少し響いた。

 

その頃のキラは、いつもの訓練所ではなく・・・本局に駐留中のクサナギの艦長室に来ていた。
もちろん、カガリに呼び出されて、だ。
「それで・・・いったい何?」
キラは今忙しかった。
これからの決戦のこと、他にもやるべきことが色々できて今まで以上に多忙だった。
「・・・キラ、今回の戦い・・・もしものときは、私も出る」
「!?」
その時、キラはどんな顔をしていたのだろうか・・・絶望?不安?恐怖?
「ダメだよ!カガリは指揮者じゃないか!?」
キラも思いっきりそれに反対する。
「私は、そんなものに縛られる前に、私もシンのことを真剣に考えて向き合いたいんだ」
ソレはカガリの少しでもシンと話がしたい・・・という願いだった。
「危険は承知だ・・・だが、それだけの価値があるから・・・」
話がしたい・・・ソレは、純粋な彼女の願いだった。
「・・・死なないって、約束してくれるかい?」
キラは静かに聴いた。ソレは、カガリの真意を確かめたいから。
「もちろんだ。私が死んだら誰がお前たちに愚痴を聞かせるんだ!」
ニカッと笑ってカガリは拳をギュっと握る。
「ハハッ!カガリらしいや!」
キラも先ほどまでの厳しい表情を消して、大いに笑っていた。

 

「ヤマト捜査官」
そこに、ウィンドウが開かれ、クサナギのオペレーターが映る。
「はい、どうしたんですか?」
「ザラ執務官が謁見を求めています」
「わかった。すぐに行くから待っててって伝えてよ」
「了解」
簡潔なやり取りが終わると、キラは立ち上がる。
「呼ばれたから行くよ?じゃあ、またね?」
「ああ・・・私も仕事に戻らないとな」
姉弟のやり取りは終わる。
こんな当たり前の日々はいつの日か輝いて懐かしく想うのだろう。
そんな時が“絶対”に来ることが幸せなのだろう。

 

─本局第四技術部─
アスランに呼び出され、用件を聞くとデバイスの改良ということで技術部に来ていた。
「僕も忙しいんだよ?・・・まったく」
やたらと愚痴を言うキラ。アスランも冷や汗ものだった。
「そういうな・・・六課が関わる以上、死なせないために努力するのが俺たちの仕事なんだよ」

 

「・・・君、そんなことばっかり言ってると、禿げるよ?」

 

アスランはキラの一言に固まった。
確かに、仕事のし過ぎで・・・気にならないといえばうそになる。
そういうことも含めて気になるお年頃のアスランに、ソレは禁句かもしれない。
「キィラァ?」
どす黒いオーラを背中にまとい、キラの肩を掴むアスラン。口からはエクトプラズム?と想うようなものまで・・・。
「冗談だよ?何、ホントに気にしてたの?」
小ばかにするようなキラの言葉にアスランはぷつーん、と何かが切れる。
「キラ、おまっ!」
「黙って!・・・とりあえず、こっちの説明を先にしてよ?」
そう言って怒るアスランをよそに、話を進めていくキラ。
モニターにはストラーダの改良プランが詳細に記されていた。
「これを10歳の子供に与えるって言うの?」
キラはどこかあきれたような言い方をする。
「・・・お前は、俺を責めるか?」
「責めるよ。だって、このプランは子供には・・・
 ソレこそ、戦うためだけの人生になる可能性もある」
キラもアスランもそうだった。
“力”に出会ってしまったばかりに、戦うことしかできなくなった自分たち。
「彼はまだ若すぎるんだ・・・それでも?」
キラの真剣な眼差しに、アスランは俯く。
「・・・それでも」
だが、彼は俯きながらも、キラの返答に応えようとする。
「それでも!何もできないって言って、何もしなかったら・・・もっと何もできないだろ!?
 何も変わらないし、何も終わらないだろ!?」
顔を上げ、キラの眼をまっすぐ見てアスランは言った。
ソレはかつて、アスランが目の前のキラに言われたことだった。
キラもそれに気づき、アスランから眼をそらす。
「(・・・何が正しいのか、それは僕たちにはわからない。
けど、縮こまっていても始まるわけがない・・・か)」
キラは悩む・・・それでも、自分たちとは違う。そういう思いが彼の中にはあった。
「キラ、俺はあの子のことを知ってるんだ・・・フェイトに紹介されたことがあってな」
「?」
アスランが突然エリオのことについて語りだす。
ソレが今の問題と何が関係あるのか、と思った。
「お前は、エリオを恵まれていると・・・そう思うか?」
その時、キラの答えはすぐに出される。
「恵まれていると・・・思うよ?」
その答えに、アスランは辛そうな顔をする。
「アイツは・・・エリオはな、クローンなんだ」
「!?」
アスランが発した言葉にキラは驚き、眼を見開く。
「プロジェクトFによって作られた劣化クローンなんだ」
キラもプロジェクトFについては知っていた。
彼も捜査官・・・数多くの事件に立ち会えば、おのずと出会うものの一つだった。
「そっか・・・・・・辛かっただろうね」
理解できる・・・事実を知ったときの、絶望感。
そして、自身は誰かの代わりに用意された代用品であり
誰でもないことを知らなければならない恐怖。
「だけど、ならなおさらじゃないかな?
 それだけの不幸に見合うだけ、彼は幸せにならなきゃならないと思う」
世界に必ずいる不幸を持つ人間。
もし、その者に救済が訪れれば、その後は幸福を得るべきだ。
ソレが、救われた者の義務だと、キラは思っている。
そうならないと、その救われた者は、本当に絶望してしまう。
「その幸せを守るために、戦うんだ」
アスランは引かず、そして・・・エリオが幸せを守るために戦うのだという。
さすがにキラもそれ以上は何もいえなかった。
ソレは、自分もそうだったから・・・人種を問わずに接してくれる仲間を
・・・ソレが幸せだと思える空間を守るために、戦った。
「そう・・・ソレが世界を広げた」
色々な人に出会い、色々なことを体験した。
そこから大切なことを学び、今がある。
「キラ」
アスランの一言にキラは一度眼を閉じ、再び開ける。
「わかった・・・やるよ」
「そうか、ありがとう」

 

アスランのなんとも言えない笑顔に、キラも少し笑みをこぼす。
「じゃあ本題だ・・・ストラーダを見る限り、モードは三つ・・・
 通常のスピーアフォルム、第二形態のデューゼン、第三形態のウンヴェッター
 ・・・使い分けても、接近戦、突撃、小規模広域の攻撃しかできない」
アスランはわかりやすく解析したエリオとストラーダの戦闘データを下に、いくつかの映像を表示する。
「・・・これを見る限り、彼の攻撃パターンは刺突、払い、雷撃の三種。
確かに、パターンは少ないね?」
エリオはまだ10歳・・・この年齢の魔道士にしては多いがなにぶん戦闘に関しては
プロな二人から見れば、あまり年齢を関係なくただ戦えるか、を見ていた。
「だから、さっきのプランだ・・・フォルムフィアー。ドンナーファルム」
アスランの言うドンナーフォルムとはどういったものなのか。
キラは苦い顔しかしていない。

 

─???─
「博士!来て!!」
リリウェルの声が響いた。
何事かと、ラウルも大急ぎで声のほうに向かう。
「フィルのポッド!」
リリウェルがいたのはロートが入っていたポッドと同じもの。
そのポッドが中のものの覚醒を示す光を放っていた。
「次は・・・フィルか」
そう呟くと、ラウルはポッドの開閉を促す。
ゆっくりと開くポッド。
その中にいたのは、CEの住人だったシャニ・アンドラスの面影を持った青年だった。
「おはよう。フィル・ロウゼル」
フィルと呼ばれた青年はゆっくりと眼を開け、ラウルを見た。
「ん・・・おはよ、博士」
やはり彼も人格面においてまったく別人で、面影のみがシャニだった。
「フィル・・・おはよう!」
笑顔でフィルに言うリリウェル。フィルも笑顔で返す。
「で、何があったの?」
ラウルが多少無理していることに気づいたのか、フィルは問いかけた。
「・・・実はね」
そして、フィルに彼が眠っている間のことを話す。
「シンが・・・負けた?」
表情には出さないが、多少語気が荒い。
「管理局に・・・ね」
リリウェルが辛そうに言う。
ソレを聞いたフィルは不愉快そうに天井を仰ぐ。
「・・・博士、俺のデバイスは?」
ロートと同じことを言うフィル。
「君も、ロートと同じ事を言うんだね?」
なんとなく笑いがこみ上げてしまうラウル。
「で、どうなんだ?」
「・・・ウルティマ・フォビドゥンか。アレも完成度は72%で止まっているんだ。
 シン君の治療にかかりっきりでね。戦闘では使わせたくないな」
「・・・ロートが同じことを言って、あきらめたのか・・・だが、俺は黙っていられない。
 家族を傷つけられ黙っているほど、温厚じゃないぜ?」
フィルも、“家族”と呼ぶ存在が傷つけられたことに怒りを感じている。
「落ち着いてくれ、フィル」
ラウルも必死にフィルをなだめる。
「博士!行かせてください!」
「ダメだ」

 

「なぜ!?」
「・・・」
言葉に詰まる・・・感情論で言っているのだ。何が理由かといわれても困る。
「そこまでにしとけよフィル!」
そこに、ロートが現れる。
「ロート・・・だが!!」
「心配すんな・・・準備ができて、すべてが整ったとき。ソレは俺たちの勝利のときだろ?
 俺たち家族が幸せになるためには、今は感情に任せて飛び出しちゃいけないんだ」
「ぐっ!」
ロートの言葉に何も言い返せなくなるフィル。
「しゃあない!お前と博士の顔を立てるよ!」
そう言って、振り上げた拳を下げるフィル。
「・・・ありがとう」
ラウルもまた彼に礼を言う。
「別に・・・俺のわがままだよ」
その言い合いもまた、家族という言葉が似合う。
「さて!ご飯にしよう?フィルの目覚めのお祝いもかねてな!今日は私が腕を振るおう!」
腕まくりをし、自信満々に言うラウル。
「わぁ!楽しみ!私、博士の料理大好き!」
リリウェルは大はしゃぎし、ロートとフィルもどことなく楽しみそうだった。
そして、皆はその場から別の部屋に移動し、食事を楽しんでいた。

 

その頃、ラウは一人設備の整った部屋で管理局の動きなどを探っていた。
「ふむ・・・X級艦船が三隻、か?少々厄介だな。特殊戦技隊、それに機動六課か」
ラウは顎に手を当てどう対処するべきかを考える。
「・・・幸い、ヒロイック・プロヴィデンスは完成している。
私の適合率も安定しているし、博士に持ちかけてみるか?」
ラウは懐からグレーの結晶を取り出し、しばらく見つめていた。

 

「ラウ~!ご飯~!」
すると、リリウェルのどこにいても聞こえる大きな声にラウも反応し椅子から立ち上がる。
「まぁ、食事の後でも悪くないな」
部屋の明かりを消し、ラウはその場を後にしていい匂いに誘われていった。

 

「ラウ遅い~!」
呼ばれてすぐに来たはずなのに文句を言われるラウ。
リリウェルはすでにフォークとナイフを持って椅子に座っていた。
「リリウェル・・・私は意外と早く来たと思うんだがね?」
仮面の下でたらーんと汗を流すラウ。
「まぁまぁ、早く座りなって!」
ロートが速く座れ、と示唆する。両手にはすでにフォークとナイフを装備していた。
フィルはラウルの料理を運ぶ手伝いをしていた。
「お前らなぁ・・・手伝えって!」
青筋を浮かべて口元を引くつかせているフィルだった。
「ふぅ・・・私が手伝おう」
ため息をつき、仕方なくフィルを手伝うことにしたラウ。
フィルもありがとう、とラウにつげ、皿を渡す。
次々に並ぶ料理は上品さが漂い、食欲をわかせていて
待っているリリウェルとロートは我慢の限界が近そうだった。
「よし、これで最後だ・・・並べ終わったらみんな座って」
食事場には広く長いテーブルと椅子が9つ。
おそらく目覚めていない者たちとシンをあわせればちょうどなのだろう。
「それでは!いただきます」
「「「「いただきます(まーす)!!」」」」
一部元気よく、一部はテンションを保ちながら手を合わせて食事がスタートする。
リリウェルとロートはお互いに料理を取り合い、フィルもどことなく多く自分の皿に持っていた。
ラウとラウルはソレを見て楽しみながら手を進めていた。

しばらくすると食事が終わり、リリウェルとロート、フィルの三人は食事部屋から出て行き
そこにはラウとラウルの二人が残っていた。
「さて、博士。少しお話があります」
先ほどの話を切り出そうとするラウ。
「ん~イヤだなぁ?君からのお話は、いつも悪い予感しかしないからねぇ」
ラウルは煙草をふかしながら、その煙が天井に昇るさまを見つめ言った。
「・・・管理局が動くようです。X級艦船が三隻。特殊戦技隊と機動六課
他にも厄介な者たちが動くようです」
「・・・その中に、シン君の腕を奪った奴はいるのかい?」

 

煙草を口から放し、ラウに目線を合わせるラウル。
「ええ。主力メンバーに・・・X級艦船には私たちと同じ世界出身の人間が
 乗っていまして、X級5番艦クサナギ艦長は・・・その世界でも指折りの人物なのですよ」
ラウの説明にラウルは煙草を消して、テーブルに突っ伏し、うなだれる。
「ふぅ~」
ラウルにとって、そんな事はどうでもよかった。
やはり気になるのは、先日放棄した研究所であった執務官フェイトのことだった。
「・・・今更迷うのですか?博士」
ソレを見透かしたようにラウがラウルの肩をたたく。
「お見通しか・・・まぁ、私は君たちといられればそれでいいのだが、彼らは
ソレを許さないからな。いかなる不安要素も断ち切る。ソレが彼らが
常に上に立ち続けてきた大きな要点だ」
ラウルは顔を少し上げ、嫌そうな顔をする。
「・・・私はこれから出ます」
「ん~?艦船三つは厄介だから一つくらい沈めてきます、って?」
ラウの目的を的確に言い当てるラウル。
「ええ」
それに驚いた様子はなく、あっさり肯定して立ち上がる。
「私は今の管理局は嫌いだ。だが、生きられる命は生かせ
 ・・・私たちの中で“資格”を持つのはシン君だけなのだから」
目つきを多少厳しく指せ、ラウにそういうラウル。
「彼らは持たないのですか?」
彼ら、とはロートやフィル、リリウェルのことだろう。
「持ってほしくない・・・私のわがままさ」
その答えに、ラウはふっと笑い、そのままラウルの前を後にした。

 

「・・・私はお前のそういうところが、好きだよ・・・ラウ」
ラウルはそんな言葉を背中に向けてかすかに呟いた。

 

─本局第四技術部─

 

キラとその他のスタッフの尽力により、エリオのストラーダ改良は滞りなく終了する。
「すまなかったな」
アスランがストラーダを持ち、キラたちに頭を深々と下げる。
「別にいいよ。まぁ・・・今度お昼をおごってもらおうかな?ここの人たち全員にね!」
「「「「おおおおおおおおおお!」」」」
キラの発言に、アスランが言葉を発する前にスタッフたちの雄たけびが上がる。
「・・・善処しよう」
そう言ってアスランはエリオの下に戻ろうと、ストラーダをケースに入れて転送ポートに向かう。
するとその道の途中でアスランはフェイトと鉢合わせする。
「・・・アスラン」
「フェイトか・・・本局に用事か?」
その質問にフェイトはなにやら複雑な顔をする。
「執務室でお仕事・・・かな?」
「そうか。まぁお前たちも作戦参加メンバーだからな、休むときは休むんだぞ?」
「うん・・・アスラン、そのケースは何?」
フェイトは下を見たとき、アスランが持つケースが眼に入る。
「ああ・・・エリオのストラーダだよ」
「エリオの?どうしてあの子のストラーダを?訓練を頼んだけど、そこまで・・・」
心底不思議そうな顔をするフェイト。

 

「言っただろう?お前たちは作戦の参加メンバーだ。
 だから、彼の生存率を上げるために、限界までストラーダを強化した」
「そ、そんな!私に何の相談もなく!」
フェイトはエリオの被保護者だ。だから、彼の話が自分に来ないことに少し苛立つ。
「今言っただろう・・・それに、お前の返事をいちいち待っていても
 間に合わないだろ?・・・私情を挟んでいたら、死ぬぞ?」
アスランは彼女にあえて厳しく言った。
ソレは彼女が中途半端な態度をとっていたからだ。
そういう感情が通用しない世界に、今自分たちは乗り切ろうとしている。
だから、今のフェイトには厳しく接したのだ。
「だ・・・だからって!!」
だが、予想以上の反抗に思わずアスランも眼を見開く。
「あの子は・・・まだ、10歳なんだよ?」

 

─後ろで待っててって言ってもいいじゃない?

 

口にはしない・・・その言葉がどれだけ愚かか知っているから。
「・・・すまない」
アスランもフェイトの気持ちを汲んで、最大の誠意を込めた謝罪をする。
そして、彼女の横を通り過ぎる。
その通り過ぎる間に、いったいどれほどのことを考えていたのか・・・だが、フェイトは
そんなものより、アスランとの出会いを思い出していた

 

─7年前─
12歳で三回目の執務官試験を受かったとき、横にいたのが17歳のアスランだった。
最初に会ったときは綺麗な人だ、と思っていた。
そうしたらアスランのほうからフェイトに放しかけてくる。
「君も合格したのか?これで、君とも同僚だな?」
合格者同士の何気ない話だったが、それなりに恥ずかしくフェイトもただ頷くだけだった。
その後、フェイトはアスランにお茶を誘われた。
すぐにでも友達や家族に知らせたかったが
折角の誘いを断るのも忍びなく、付き合うことにした。

 

「俺はアスラン・ザラ・・・管理外・・・世界出身だ」
なにやら言いなれていない、といった感じで言うアスラン。
「フェイト・T・ハラオウンです。アスランさんは何回目なんですか?」
失礼かと思ったが、倍率の高い試験なので、数回目かなとフェイトは思っていたのだ。
「え?初受験だよ?」
その言葉に・・・そのさわやかさに・・・思わず飲みかけていた紅茶でむせてしまう。
「ゴホッゴホッ!ホ、ホントれすか!?私、三回目なのに!?」
予想外だったのか、無意識に声が大きくなり注目を集めるフェイト。
「あ、えと・・・フェイト、ちゃん?」
アスランも苦笑いでフェイトをなだめようとする。
それに気づいたフェイトも顔を真っ赤にして縮こまってしまう。
「あ、えと・・・まぁ、受かればいいんじゃないか?」
アスランの必死のフォローも今はフェイトをへこます材料でしかなかった。

 

そんなことがあって、アスランとは仲良くなった。
本局であえば、よく立ち話・・・時間があれば食堂でお茶をしながら話をした。
ある時、彼が出身世界に帰る、と言い出し・・・理由を問いかけたことがあった。
「こっちの世界に俺の出身世界の奴らを連れてこようと思うんだ」
なぜ、と問いかければ彼は。
「連れてきたいからさ・・・人の死が当たり前じゃないこの世界に!」
ソレを笑顔で言ってのけた。

 

「執務官という役職につけば、色々とやりやすい・・・だから、まず俺が
 それなりの権力を手にして、紹介状をかけるくらいにはなっときたかったんだ」
「ふぅん・・・じゃあすぐ帰ってくるんだ?」
「ああ。お土産も買ってくるよ」
アスランは真剣な眼差しでフェイトにそうつげ、彼女の目の前から姿を消した。
その時のアスランの顔は今でも忘れていない。
彼は一週間くらいで戻る・・・といったが、実際はこの後5年間音信普通になった。
「(どうしたんだろう・・・アスラン)」
最初の数ヶ月はアスランが帰ってこないことを気にしていた。
だが、だんだんと仕事も忙しくなり、自分にも執務官としての信頼が生まれてきて
アスランのことを考える暇がなくなっていた。
そして、5年と少したったとき、彼は何食わぬ顔・・・
しかも、まったく変わらない17歳の彼が目の前に立っていたのだ。
「アスラン!」
当然、フェイトは声をかけた。
その瞳には少し涙をためている。
「・・・フェイト?」
アスランもなぜか、はとが豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「いったい今まで何してたの!?心配したんだよ!?」
ものすごい剣幕で怒るフェイトにアスランはたじたじだったが
フェイトの怒号が治まったところで理由を話し始めた。
「ソレが・・・俺にも何がなんだか・・・なんでお前がこんなにでかくなってる
とか、こんなに設備新しかったかな、とか・・・色々あるんだけどな?」
この後、アスランから聞いた話によると、アスランは出身世界(CE)について
仲間たちと話しをして、管理局に誘い、一週間くらいで出身世界を旅立ち
こっちに戻ってきたのだが、こっちで時間がかなり経過していた、という。
「・・・信じらんない」
フェイトは拗ねたように言う。
「事実だ・・・現に、俺とお前は同い年になってしまっただろう?」
そう・・・背も同じくらいになり、首も痛くなくなった。
それに、言い表せない感情があったが、フェイトはそれに気づけなかった。
そして、アスランが5年間、管理局に戻らなかった事実もあり
彼の執務官資格が危うく剥奪されるところだったが
フェイトの供述により、再講習で再取得にいたる。
そして、現在も同じ執務官としてお互い、自分の仕事をきっちりこなしている。

 

その彼が、今まさにフェイトの横を通り過ぎるアスランが・・・フェイトには凄く遠くに感じた。
限りなく近かったはずなのに、自分とは違う・・・そう思わせてしまう。
「・・・フェイト!」
アスランは何を思ったか、立ち止まってフェイトの名を呼ぶ。
「な、に?」
必死に声を絞り出して返事をした。
「死なせないさ・・・絶対に守る。そして俺も生き残る!
 だから・・・一緒に戦って、また食事を一緒にしよう」
その一言に、フェイトは一筋涙を流す。
そして、気づいた。今までフェイトが感じていたのは疎外感とかそういうものじゃない。
自分自身が抱え込みすぎて、逆に周りを疎遠にしていたのだ。
「・・・うん!」
頭がすっきりしていた。
体も先ほどとは違い、ものすごく軽く感じた。
「アスラン!エリオをお願い!」
少女のような笑顔で、フェイトはアスランにそう告げた。
アスランもその笑顔がうれしかったのか、ああ!と返事をして転送ポートに向かった。

(・・・・・・そうだ。ちゃんと皆いる・・・皆でやればいいんだ。
 一人で越えられない壁なら皆で越えればいい。
 一人の力は皆のために、皆の力は一人のために。昔読んだ本にも書いてあったっけ)

 

今までの暗い感情や煩わしい思いを一つ一つ解決していけばいい・・・皆で。

 

その思いがあればフェイトは救われるだろう。

 

そして、誰をも救う執務官になれるだろう。

 

ソレが彼女の強さになるのだから。

 

「さて!私もがんばろ!」
当初の目的通り、執務室で情報整理、そして“プロジェクトD”についてきっちり調べると決めるフェイト。
だが。
「おい、フェイト」
後ろから聞きなれた声・・・後ろを見ればこめかみに青筋を思いっきり浮かべている
義兄クロノ・ハラオウン提督がいらっしゃいました。
「え、と・・・クロノ?」
「お前なぁ!呼び出しといてほっぽっとくとはどういう了見だ!?
 しかも、受付の局員に“振られましたか?”とか真顔で言われたんだぞ!?
 どういうことだよ!?」
あまりの怒りに普段のキャラなぞ捨てて怒鳴り声を上げる義兄の姿に、ただフェイトはこう思った。
“クロノ・・・たまにアナタがわからないけど、とりあえずごめん”と。
だが、思うだけで実際にはクロノのがみがみとうるさい説教が30分ほど続き
逃げられずに聞かされたとさ。

 

─地上本部訓練所─
エリオは心を空にしてアスランが帰ってくるまで瞑想していた。
アスランが本局に行ってからすでに1時間半以上が経過している。
だが、今瞑想しているエリオには時間の流れがとても速く感じていた。
そこに、ようやくアスランが帰ってくる。
「エリオ!今戻ったよ!」
声に反応し、ゆっくりと眼を開け、アスランの姿を確認するエリオ。
「おかえりなさい、どうでしたか?」
成果を尋ねるエリオ。
ソレに対し、アスランはケースをエリオに差し出す。
「あけても、いいですか?」
エリオは静かにアスランに尋ねる。
「ああ。お前のデバイスだからな」
そして、エリオはケースをあける。
そこには、少しフレームが輝く真新しいストラーダが待機モードでしまってあった。
「うわぁ!綺麗になってる!」
エリオはストラーダが新品同然になっていることに大はしゃぎだった。
「(・・・子供らしいところもちゃんとある、か)」
アスランはそんな光景を見て安心にも似た感情を得ていた。
「それで・・・何か変わったんですか?それともメンテナンスを大急ぎで?」
メンテナンスには相当かかる。しかし、アスランは2時間弱で戻ってきた。
そこからエリオは何かストラーダに訓練用プログラムでも書き込んだのか、と思っているのだ。
「ああ・・・君は、今まで三つの形態を使用してきたな?」
「はい。まっすぐに突撃する第一形態、各部の推進器を利用して限定飛行
 推進利用の攻撃を仕掛けられる第二形態、そして僕自身が持つ
 魔力変換資質“雷”を最大利用するための範囲攻撃を可能とする第三形態です」
エリオはしっかり自分のデバイス能力を把握しており、使いどころも心得ていた。
「そうだ・・・今回は、さらにもう一つ形態を追加したんだ。
大急ぎ、第四技術部の奴らを総動員してな」
あまりのスケールの大きさにエリオは思わず呆けて反応が遅れる。
「と、とりあえず・・・もう一つ、第四形態が使えるっていうわけですね!?」
難しく考えず、簡単に自己解釈するエリオだった。
「そうだ。説明をよく聞けよ・・・このモードは」

 

10分ほど説明と質疑応答が行われ、終わった頃に、アスランがジャスティスを起動させる。
「よし!まずは俺の三重に展開したバリアを破って見せろ!」

 

このとき、アスランはエリオの適応力を甘く見ていた。

 

発せられる光が自身を通り過ぎ、そして張り巡らせたシールドすべてが破られたときには
ただ冷や汗しか流れなかった。

 

「えと、エリオ・・・すごいじゃないか!!」
ようやく我に返り、後ろにいるはずのエリオにほめ言葉を与えようとするアスラン。
「・・・えと、僕何をしたんでしょう、か?」
しかし、当のエリオは自分が何をしたのかさえ理解していなかった。
ソレを聞いたアスランもただ、怖いとさえ感じた。
彼の強さはいずれ、彼の被保護者である執務官にさえ追いつくかもしれない。
そんな日がいつか来るかもしれないことを、アスランは予見した。

 

「・・・ドンナーフォルム。雷の“剣”か」
今ここに、新たなる“雷光”の称号を持つ少年が誕生した事は後の事件後に
静かに語られるだろう。

 

─第18管理世界・上空─

 

第18管理世界・上空にX級7番艦“スサノオ”は駐留していた。
スサノオ艦長はCE出身のマリュー・ラミアス提督である。
思慮深く、また数少ない女性艦長として管理局でもそれなりに有名である。
「この航海が終われば、まぁた戦いになるのね・・・」
マリューは深々とため息をつく。
「仕方がありませんなぁ、艦長殿!
なるのなら、より多くの命を救うために戦えばいいんですよ?」
無理やり敬語を使ってくる金髪にくせっけの男。
「あら、随分と簡単にいいますね?ムウ・ラ・フラガ一等空尉?」
ムウ・ラ・フラガ・・・CEの出身者であり、スサノオ専属の武装局員である。
「いやはや・・・前と違ってこっちでは命を奪う機会が限りなく減ったからね。
うれしいんだよ、俺も」
切ない表情にマリューもそうね、と一言呟く。

 

しかし、その考えも、ある男の前でかき消されてしまうかもしれない・・・危機にあった。
艦外・・・つまり、スサノオの外、次元の海にその男ラウ・ル・クルーゼはいた。
「単独での転移、次元移動が可能とは・・・しかし、ムウよ
 お前もこちらに来ていたのか。生ある限り、やはり惹かれあう運命、か!」
仮面を外すラウ。
そして、その手には自身のデバイス・・・ヒロイック・プロヴィデンスが握られている。
「・・・挨拶と、行こうか?」
素顔のラウはとても穏やかに見えた。
ラウ自身はそう見えるのがイヤで仮面をまだつけているが、今ソレを取ったのだ。
「管理局となった君たちへの、な」

 

新たなる世界、新たなる場所で彼らは出会う。
沈められた憎悪か、忘れられた悲しみか。
消し去られた過去か、新たに生まれる感情か。
それらのどれかが当てはまるのだろうか?
しかし、出会った事により、確実に歯車は回りだろう。

 

次回 壮絶なる“神意”

 

神たる意思も、欠けた優しさを取り戻せば、可能性は広がった。