Lyrical DESTINY StS_第10話

Last-modified: 2008-03-14 (金) 09:31:10

“命”は尊いものだとある者は語った。
だが、実際にソレを思うものは少ない。
科学者は実験だ、と。
後世に残すものだと。
そんな大義名分を掲げて“命”を弄ぶ。
その“命”を弄んだものを“彼”は憎んだ。

 

明かりをつけず、暗い部屋にリリウェルはうずくまっていた。
(私たちがいた場所は、暗い場所だった)
彼女が考えるのは、暗い過去。
(何度か痛い思いもした・・・けど、そこに光をくれた人がいた)
浮かぶのは常に彼女の前で笑う白衣の男。
(ソレが博士・・・博士は、私たちを闇から救い出してくれた。
この時私は、前にも同じようなことがあったような気がした。
けど、そこから出たことがない私にそんな事はあるはずないのに
デジャビューを感じた私はおかしいのかな?)
そんなことを思いながら、考え込んでいた。
あの時、自分が生まれた意味を。

 

─1年半前・管理外世界研究所─
リリウェルは数字で呼ばれ、常に培養ポッドに入れられていた。
不自由はないが、自由もない。
ただそこにいて、時たま苦しい思いをする。
その連続だった。

 

だけど、彼女にはソレが終わる時が来た。
「君、名前は?」
ポッドの中のリリウェルに問いかける白衣の男。
「・・・」
リリウェルも目を開け返事を返そうとしたが、目を開けることしかできなかった。
「あぁそのままじゃ喋れないよね・・・よし!」
そう言って、白衣の男は培養ポッドから液体を抜いていく。
「・・・これでどうだい?」
男は笑顔で、リリウェルに話しかける。
その時、リリウェルは感じたはずがないのに、その男の優しさが誰かと
同じようなものに思えていた。
「あ、・・・はな、せるよ?」
途切れ途切れだが、言葉を紡ぐリリウェル。
「そうか。君の名前は?」
「・・・皆、ナンバー6って呼ぶ」
リリウェルは無表情だが、どこか虚しさを漂わせていた。
「名前は、ほしくないのかい?」
ラウルがその虚しさに気づき、彼女が欲しそうな言葉を言う。
「・・・欲しい」
「なら!私が名前を上げよう!私には昔子供がいてね!
名前をつけるのに妻と言い合ったものがたくさんあるんだ!!
よし!君は今日からリリウェルだ!いいね?リリウェル!」
男は唐突に彼女に名を与える。
「リリ・・・ウェル?」
「そう。優しい女の子にあげたかった名前だよ」
そう言ってリリウェルを抱きしめる男。
彼こそが、今のラウルなのである。
「・・・あり、がとう・・・けど、ここ、寒いね?」
そういわれて初めてラウルは彼女が裸であることに気づき、あわてて白衣をかける。
「あったかい」
リリウェルはぎゅっと服を抱きしめ、その温もりを感じる。
「あった・・・かい」
すると、リリウェルの言葉に嗚咽が混ざる。
「リリウェル?」
「・・・私、うれしいの・・・なんだが、とっても」
「あ・・・」
ラウルはいつの間にか、彼女を抱き寄せていた。
そして、彼女が人間であることを・・・本当に噛み締めていた。

 

「なぁ、リリウェル?」
しばらくして、リリウェルは泣き止み、ラウルは
彼女を星が見える研究所の屋上に連れてきていた。
「なに?」
「君は・・・自分で生きていたいかい?」
ふと、ラウルはそんなことを彼女に問いかけた。
簡単なようで一番難しいのかもしれない、その問いかけ。
「皆、いるなら・・・生きたい」
“皆”とは、他のポッドにいる者たちのことだろう。
彼女のほかにいる5人の少年たち。
「・・・もし」
「博士!そこで何をしているんです!?」
ラウルが言葉を紡ぐ前に、研究員の一人が気づいたのか、後ろに立っていた。
「あ、いや・・・これは」
「大事な研究材料なんですよ?その子は・・・莫大な資金を元に、作り上げた
最強の魔道士計画の一端なんですから・・・勝手をされては困ります」
その時、ラウルは何も言い返せなかった。
何かが憤っていたのは確実だろう。
だが、彼にはその時、何もできなかった。

 

それから、数日後・・・ついに、成功体11人中6人がラウル以下数名の
科学者の管轄で“扱われる”こととなった。
「後の5人は?」
ラウルは興味があったので、研究員に聞いてみる。
「ああ。“5個”は本局で彼らにあったデバイスを作るために、輸送しました。
何せ、レリックと完璧に適合したわけですから」
あくまで、物扱いする研究員。
ラウルは気にすまい、と思っているのだが・・・なかなか納得できなかった。
「・・・あの子たちの融合実験はいつするんだ?」
冷静を保つために話題を振るラウル。
「ああ、一週間後にでも・・・今手元に一つレリックがあるので、後は5つ揃えば」
ソレを途中からは聞き流しながら、ラウルは自身の頭の中で色々と考えていた。
現在は、6人の成功体であるリリウェルたちはレリックと融合することで
今は幼年体でもじきに青年体にまで体が成長する、というわけなのである。
「・・・ん?」
その時、彼はかすかな魔力反応を察知した。
「傷ついている?・・・しかし」
そんなことを思っていると、突然小さな衝撃が膝の下に来る。
「なんだ?」
そこには、無邪気に笑うリリウェルがいた。
「博士~!」
いつの間にか、博士という呼び名で呼ばれるラウル。
「リリウェル・・・言っただろう?私の名前は・・・・・・」
ラウルが名を言おうとすると、大きな爆発音が響く。
「なんだ!?」
ラウルは急いで爆発音があったほうに向かう。
「あっ!博士!」
なぜか、リリウェルもついてきてしまっていた。

 

「博士~!どこ~!」
数分がたつと、やはり大人と子供では脚力が違いすぎてリリウェルは迷子になっていた。

 

「あ・・ぅぅ」
リリウェルがラウルを呼ぶ中、彼女は何かがうめく声を聞いた。
ソレは近かったのか、遠かったのかわからない。
ただ、導かれるがままにリリウェルは歩いていた。

 

そして、その先で彼女が見たものは・・・。
「赤い翼の・・・天使?」
リリウェルの目の前には、背中に壊れかけた翼を持ち、全身血まみれの少年
シンが苦しみに耐えながらも、立とうとしていた。
「ぐ・・・誰、だ?」
シンはかすむ瞳でリリウェルを見る。
ぼけていて、リリウェルの性別すら判別できず、ただ子供だと理解していた。
「か、んり・・・きょく?」
その一言だけ残して、シンは気を失う。
「あ・・・う」
リリウェルはシンに近づき、彼がまったく動かないことが不思議に思えた。
「どう、したの?」
ラウルや研究員以外の人間と初めて接するリリウェルはシンが
今どうなっているのかがわからなかった。
「リリウェル!?」
すると、彼女の後ろからラウルが息を切らせて、走りよって来る。
「あ、博士・・・この人、どうしたの?」
そういわれて、ラウルは視線をシンに落とす。
「ひどいな・・・だが、生きている」
そう言って、ラウルはシンを肩に抱えようとする。
「う・・・だ、誰だ!?」
シンは気を取り戻したのか、ラウルの肩で暴れ始める。
「は、放せ!お前もどうせ!!」
「お、落ち着け!私は敵じゃない!」
ラウルは必死に叫ぶが、シンはまるで声を聞こうとしなかった。
最終的にはラウルもシンを落としてしまう。
「ぐ!!」
ラウル自身もそのまま尻餅をついてしまい、リリウェルが心配して近寄る。
「くっ!お前も奪うんだろ!?俺から・・・大切なもの全部!!」
シンは悲しい瞳で訴えた。
目には涙・・・しかし、瞳孔が開ききり、色はない。
壊れかかった剣をラウルに向けて、その血に染まった切っ先をふるわせる。
「・・・落ち、ついて?」
だが、ラウルが言葉を発するよりも早く、リリウェルはシンにそういった。
「あ・・・ステ、ラ?」
「・・・?」
リリウェルは何を言われたのか理解できず、首をかしげる。
「君は・・・そう、なのか?」
リリウェルとは違い、ラウルは理解してしまった。
シンが何者であるのかを。
「私、リリウェル・・・あなた、は?」
リリウェルは自身の名を告げる。

 

その行為はラウルに習ったものだ。
「嘘だ・・・そんなはず、ない。いやだ・・・いやだぁぁぁあぁあぁ!!」
叫び声が響き、魔力が一気に膨れ上がる。
「いけない!」
ラウルはとっさにシンの展開した魔方陣に自身の魔力を侵食させる。
「うわぁああああああああああああああ!!」
「くっ!!止まりなさい!!」
魔力を力強く流すラウル。
だが、リリウェルはそんなことを気にせず、シンに近づこうとする。
「リリウェル!危ない!!」
ラウルの制止の言葉。
だが、彼女には届いていない。
ラウルの尽力あって、シンの魔力はかき消されてしまい、冷ややかな風だけが残った。
「ぐ、くう・・・」
シンは魔力が切れても持つ剣だけは落とさなかった。
すでに焦点のあっていない目、立てなくなった足腰。見ているだけで辛かった。
「・・・もう、大丈夫・・・だよ?」
「え?」
「あなたの敵は、私たちじゃないよ?」
優しい笑顔でリリウェルはシンにそういった。
その時、シンはなぜか涙が溢れた。
悲しかったわけじゃなく、ただ、リリウェルの言葉がうれしく思えたのだ。
「あり、とう・・・な?」
その時の彼の表情は・・・満ち足りたものだった。
そして、シンは再び意識を失う。

 

「博士、この人・・・助けないと?」
リリウェルは倒れたシンを見たまま、そう呟いた。
「・・・助けたい?」
ラウルは意地悪く、リリウェルに問いかける。
「助けたい・・・うん、助けたい!」
ラウルはこの時、リリウェルが感情的なものを完璧に見せてくれたことに感動を覚えていた。
そして、そのまま黙って、シンを抱きかかえる。
「行こう」
ラウルはシンを落とさぬようにゆっくりと歩き出す。
リリウェルも彼に続き歩き始めた。
これが、最初の出会いであった。

 

数日がたち、シンは見知らぬベッドの上で目を覚ました。
「・・・ここ、は?」
意識がはっきりしないのか、まだぼけているシン。
「私たちのラボだよ」
自身が呟いた言葉に、返答が帰ってきて意識がはっきりするシン。
「誰だ!?」
部屋の入り口にラウルが立っており、片手にはコーヒーカップを持っている。
「やぁ・・・初めまして?」
「アンタ・・・誰?」

 

シンは警戒しているのか、少し眼をつり上げている。
「警戒しなくていいが、許す必要もないよ・・・私は君に説明したら
最悪の科学者なのだから」
その言葉に、シンもなぜか警戒を強めてしまう。
「・・・デスティニーは?」
見渡しても、自身の未完成なデバイスがないことに少し不安になったのか
シンはそのことをラウルに問いかける。
問いかけられたラウルはゆっくりとシンに近づき始める。
「あの未完成品は、私が預かっているよ?
出力調整と、デバイスリミッターなど、人体への影響がありすぎるからね」
近くにあった椅子に腰掛け、コーヒーを口にするラウル。
「・・・アンタは管理局の人間なのか?」
シンはまだ警戒は解いていない。
だが、今すぐラウルをどうにかしようという気もないようだ。
「極論で言えば、関わっている事は事実だよ?私は“プロジェクトD”の開発主任だからね」
「プロジェクト・・・D?」
聞いたことのない名前に、聞き返すシン。
「ああ・・・元は、魔道士じゃない人に対抗戦力を持たせる
というものだったんだけど、返されてしまってね・・・
ソレを、魔道士強化計画にすりかえられてしまったわけさ」
切なく、また歯がゆそうにラウルは言う。
彼の心情を察してか、シンもこれ以上ラウルのことを警戒はしなかった。
「シン君は・・・リリウェルに見覚えがあるのかい?」
ラウルはシンのことを知る手っ取り早い質問を彼に投げつける。
「え?あ、ああ・・・俺が元いた世界の、守れなかった人によく似てるんだ」
その一言でさらにラウルはシンの存在を確信する。
どうしようもなく、悲しいことだ。
ラウルにとって罪悪感とすら取れる感情が渦巻く。

 

「・・・君は」
だから、なのかも知れない。
「もし」
答えを知りたいと思った。
「もし、間違ったことを正したいと思ったら、どうする?」
自分以外に、その思いを持つ者がいるかどうかも。
「・・・戦います。すべてと」

 

シンのまっすぐな赤い瞳はラウルにとって、懺悔の色に近いかもしれない。
それでも、ラウルは・・・思った。

 

「シン君・・・私と、来ないか?」

#brp
そして、ラウルは・・・心に決めたのだ。
大切なものをいかなるものからも、守る。
自己中心的だと、短絡的だと、笑われてもいい。
「私は、リリウェルたちを守りたい・・・この感情がエゴだとしても
彼らに人間らしさを与えてやりたいんだ!」
気づけば彼は、涙を流していた。
「・・・俺は、もう何人もの人を殺してる。あっちでも、こっちでも・・・今更、戻れないさ」
ソレは、シンなりのOKサインだろう。
「あり、がとう」

 

そして、レリックがすべて揃った日にラウルは未だ幼き6人の子供たちを自由にし
シンは研究所にいた科学者たちをすべて、斬り殺した。

 

「すまない、君に汚れ役を・・・」
燃え上がる業火の中、二人は立っていた。
「いいさ・・・俺はもう“守れない”から・・・アンタが守ってやってくれ。
俺は、すべてを壊すだけだ」
その歪んだ決意は結果なのだろう。
シン・アスカは出会うべくしてラウルと出会い、そうして・・・今の感情を力に、戦うのだろう。
ソレが、彼らしか望まない結果であったとしても。

 

─???─

 

「・・・ふむ」
ラウルはなにやら図面のようなものを広げ、にらみ合っている。
そして、その光景をリリウェルはじぃ~っと見つめていた。
「何か用かい?リリウェル?」
ラウルはリリウェルに気づいていたのか、向きを変えず、リリウェルに話しかける。
「・・・博士、何してるの?」
「ああ、ヒロイック・プロヴィデンスの調整だよ。
ラウの反応速度に対応しきれてない部分があるみたいだからね、再調整だよ」
そう言ったラウルにリリウェルはなんとなく、頬を膨らませる。
「私のは?」
ソレに対し、ギクッという擬音を立てて、ラウルは固まる。
「いや、その・・・えと、まぁまた後でだよ!」
振り向きながら、言い訳をするラウル。
その顔には冷や汗がかなり浮かんでいた。
「むぅ~!私のだけどうして~!」
リリウェルはがぉ~!っと言わんばかりに手を振り上げて吼える。
「そこまでにしとけって、リリウェル」
そのリリウェルの手をがしっと掴むフィル。
「フィル~」
自分の腕を掴むフィルにも多少きついまなざしを向けるリリウェル。
「博士はちゃんとしてくれるさ?」
微妙な笑みがリリウェルに向けられ、リリウェルもこれ以上のわがままは言えなかった。
ラウルはフィルに感謝の念を送り、二人は部屋を後にする。
「ふぅ・・・言えないなぁ、リリウェルのは・・・・・・」
ラウルは深々とため息をついていた。

 

─クサナギ会議室─
クサナギでは臨時の会議が行われていた。
そこには、はやて、シグナム、ヴィータ、X級艦船の艦長
そして、リンディとレティが集まっていた。
そして、それらを束ねるのは、クサナギ艦長カガリだった。
だが、全員が集まっていないこともあってバルトフェルドが
コーヒーを来ている者たちに振舞っていた。
「ん~♪いい香りだ!さぁ、皆もご賞味あれ!」
バルトフェルドがとにかくうれしそうに叫ぶが
一人・・・彼の思惑から外れた飲み方をしようとする人物がいた。
「砂糖とミルクをもらえるかしら?」
その一言に、バルトフェルドはニュータイプ?と感じるほどの
電波を放ち、一瞬でリンディの元にダイブする。

 

「あいや待った!ちょっと待った!
僕のコーヒーにミルクと砂糖だなんて、何を言っているんだ!!」
その光景に、カガリとキラはいつぞやのケバブのことを思い出していた。
「え、飲み方は自由でしょ?」
リンディも顔は笑っていたが、なにやら譲らないオーラが出ていた。
「ノンノン!僕のコーヒーはどんな人もミルクオアシュガーがなしで
飲める配合をしているんだ!入れてしまっては味が壊れてしまう!ソレが常識だろう!」
あまりに熱く語るので、リンディと隣にいたレティは多少引いていた。
「いや、常識というよりももっとこう・・・そう!あなたがやろうとしていることは
コーヒーに対する冒涜だよ!!」
目が光った、と誰もが思った。
そして、対する超甘党は・・・いつの間にかミルクと砂糖に手元に召喚していた。
「やっぱ、お茶系にはこれよねぇ~」
と、まさに常人が入れる4倍はありそうなミルクを入れようとしていた。
「あぁ待ちたまえ!」
ガシッとリンディの腕を掴むバルトフェルド。
「何か?」
笑っているが睨んでいる・・・見ている者たちは微妙な悪寒に襲われていた。
「僕のコーヒーに汚物を入れることは許さん!」
「あら?出されたものをどう飲もうが私の自由じゃないかしら?」
二人の上にオーラ的なものが固形化していく。
ソレは・・・虎と竜に見えました。

 

さすがにラチがあかないと思ったリンディは、一瞬で打開策を模索する。
「・・・あっ!はやてさんも砂糖を!」
「何!?」
その一言につられて、バルトフェルドはリンディの手を離してしまう。
もちろん、はやては何もいれずそのままコーヒーを飲んでいた。
その隙にリンディはミルクをたっぷり。
そして砂糖をどっさり入れてコーヒーをかき混ぜ、カップを口元に持っていく。
「な、何という!?」
リンディの行動に、バルトフェルドはこれまでにないほど、落ち込んでしまっていた。
「はぁ~♪おいし」
その一言を発したリンディは今度は横にいるレティにミルクと砂糖を勧めようとする。
「ほら、レティも・・・美味しいわよ?」

 

「い、いや・・・あたしは」
「あぁ、待ちたまえ!彼女まで邪道に落とす気か!?」
復活するバルトフェルド。
今度こそ、ミルクと砂糖を持つリンディの手を掴み抑える。
「ちょっと、邪魔しないでくださる?」
笑顔は崩さないが、目が笑っていないリンディ。
「君こそ、やめたまえ?」
一方はかなり必死のバルトフェルド。
しかし。
「私はいらないから・・・」
そう言って、そのままコーヒーをすすり、その戦いに終止符を打つレティだった。
「ふん!」
バルトフェルドはうれしそうに、リンディはなぜか悔しそうに離れる。

 

「何やってるんですか?」
そうしている間に、最後のメンバーであるアスランが到着する。
「遅いぞアスラン!」
「あ、ああ・・・すまない」
時間にはまだ少し余裕があるのに怒られる理由がわからない・・・。
しかし、ものすごい剣幕で怒ってくるカガリに何も言い返せず素直に謝るアスランだった。
「さて、全員集まったな!よし、皆席についてくれ」
カガリに従い、それぞれが席に座る。

 

「今回、集まってもらったのは・・・皆聞いていると思うが
X級7番艦スサノオが沈み、フラガ一等空尉、フェイト執務官、クロノ提督の
三名がMIAとなった」
それぞれの手元に資料が渡る。
「戦力的には大きな損失だ。それに、敵戦力の一部も垣間見えた」
グレーの魔道士、ラウの戦闘シーンが映される。
「エンジン部大破後は、記録が取られていない・・・
つまり、どうなったかはわからないということだ」
カガリが手元のキーをいじりながら、説明する。
「だが、襲撃者の名前はわかっている・・・私たちにとって信じ難いことだが
この襲撃者の名はラウ・ル・クルーゼ・・・私たちと同じ第72管理外世界の出身者だ」
どよめきが室内に走る。
「では、今回の敵は・・・あなた方の世界から“来た”と?」
リンディの言葉に、キラが苦い顔をする。
「違うんです・・・あの人は、死んだはずなんです」
「え?」
「僕が、この手で・・・殺したんですから」
またもどよめきが走る。
キラ自身が言った言葉は誰もが信じられない、といった感じだった。
優しそうな顔をした彼が、自らの手がすでに血で汚れていることを肯定したのだ。
「キラだけじゃないさ・・・第72管理外世界から来た人間のほとんどは
その手を血で汚しているんだ・・・誰かにとって大切な人の・・・な」
カガリも、辛そうに言う。
アスランもどこか切なげだ。
「皆さんの過去は今は関係ありません!」
しかし、ソレをはやてはあっさり撥ね退けた。

 

今、必要なことを的確に捉える・・・ソレは、はやてが優秀な証である。
「今考えるべきことは、最善策!それ以外は、今は外に流しましょ!」
「ん~やはり君は優秀だね?」
そんなはやてに賞賛の言葉を込めてバルトフェルドはそんな言葉を送ったのだが。
「え、あ・・・その・・・ありがとうございます」
なぜか、語尾に行くほど小さい声になり、顔も赤かった。
「貴様ぁ!!こんな所でくどいてる場合か!」
カガリの怒鳴り声に、バルトフェルドはやれやれと肩をすくめて自分の席に座る。
「ふぅ・・・さて、今度こそ本題だが!六課では確保したレリックを奪われたんだったな?」
「は、はい」
はやてが申し訳なさそうに返事をする。
「然るに、敵はレリックの回収を主眼においているのかもしれない。
よって!今レリックを確保している三つの管理局支部に護衛に向かってもらう!」
「せ、戦力の分散を図るのですか?」
そこに、戦力分散を不安に思ったシグナムが口を挟む。
「ああ。不安か?」
カガリが不敵な笑みを浮かべる。
「い、いえ!」
「そうか・・・一応、三つの管理世界・・・2、5、19の三つにレリックは今ある」
カガリはデータを全員に配る。
「・・・これなら、六課は第2管理世界に行きます」
はやては早速決めるが。
「いや、今回・・・悪いんだが、私の決定に従って欲しい」
「え?・・・はい」
すまないな、とカガリが言うとメンバー表が配られる。
「うわぁ・・・」
思わずヴィータが声を上げる。
その内容は第2管理世界にはヴォルケンリッターとはやて、クサナギ、特殊戦技隊二人。
第5管理世界にはエリオ、キャロ、ティアナ、スバル、アスラン、特殊戦技隊一人。
第19世界にはなのは、キラ、アマテラス、特殊戦技隊二人である。
「また、渋い組み合わせやなぁ~」
その組み合わせに思わず笑ってしまうはやて。
「仕方がないさ、俺たちはできることをするしかないんだ」
アスランが真面目な顔で言う。

 

「せやね、まぁ・・・今回の作戦でアスラン君が怪我したら、あの写真病室にかざったげるよ」
「おい!!」
言うや否や、アスランが怒鳴り声を上げる。
もちろん、他のみんなも反応している。
「と!とりあえず!三日後に全員が任務開始だ!」
そういい、アスランは会議室を後にする。
「相変わらず忙しい奴だな・・・アスランはいなくなったが、最後に聞いて欲しい」
カガリがため息をつき、その後に真面目な顔をする。
「私の父から教わったことだが、そのまま言うよ・・・“力”はただ“力”だ。
多く望むのも愚かなれど、無闇と厭うのもまた愚か。
守るための剣は、今必要ならば取れ。道のまま、自分が定めた
なすべきことをなすためならば、迷わず振るえ、心に宿したその“剣”を」

 

カガリが言った言葉は、はやてたちに響いた。
ソレは、今までの決意に上乗せされたかのように感じられたからだ。
「・・・了解です。絶対に皆で!」
はやてたちも意気込み、会議室を後にする。

 

シグナムとヴィータは先に病院にいき、はやては一人アスランを追いかけていた。
「・・・お?いたいた!」
ようやくアスランの背中を見つけて、少し急ぐ。
「アァスラン君~!」
後ろから飛び掛るはやて。
「うわ!」
アスランも急なことに驚きの声を上げる。
「な、なんだ・・・八神か、何のようだ?」
呆れ顔で振り返るアスラン。
「ん・・・落ち込んでるんかな、って思って」
頬をかきながら、目線をそらして言うはやて。
「何が、だ?」
さすがに、二度同じことを聞かれたのでアスランも余裕がないようだった。
「いや、フェイトちゃんのこと・・・
私もそうやけど、アスラン君はどうなんやろかなぁって思って」
「・・・確かに心配だが・・・お前たちが期待しているような仲じゃないんだよ、俺たちは」
はやてから顔をそらすアスランの顔は確かに、赤くなっていた。
「(素直やないんやなぁ~)」
とはやても少しあきれていた。
「けど、アイツが生きていたなら・・・少しは考えるかな」
「え?」
はやてはアスランの呟きを聞き逃さなかったが、あまりにキャラの違うセリフに聞き返してしまう。
「なんでもない・・・八神、バルトフェルド隊長だけは、やめとけよ?
コーヒー好きにされてしまうからな」
「なっ!?」

 

今度は逆にはやてが顔を真っ赤にしてしまう。
「なんだ・・・本気なのか?」
冗談のつもりだったのに、とアスランが意外そうな顔をしてはやての顔を見やる。
「べ、べ、べ、別に私は、そ、そないなこと~!」
目が完全に泳いでいるはやて。
「・・・別に俺はとやかく言わないが、まぁその・・・頑張れ?」
「なんで疑問系なん!?」
もう隠し事も何もあったものではなかった。
「・・・死ぬなよ、八神」
「君もな、アスラン君・・・この任務が終わったら、そろそろ名前で呼んでもらおかな?」
「考えておくよ」
そういいながら、アスランは手を振り、はやても振り替えす。
アスランがいなくなると、はやては願っていた。
「無事に、皆でまた会えますように」
と。

 

─地上本部・医療機関─

 

スターズの面々はケガも完治していた。
なのはも以前よりはリンカーコアの状態もマシになり、一安心。
「今回の作戦内容は送っといたから目を通しておいてくれ」
ヴィータがそういうと、早速スバルとティアナは端末を開いて目を通す。
「あれ?今回はフォワードチーム、隊長チームが別れるんですね?」
見たままをスバルが口にする。
「ああ、今回は私たちヴォルケンリッターが主はやてにつき
お前たちはザラ執務官と特殊戦技隊のメンバーが一人つく」
シグナムがそう答えるが、なのはもソレを見て少し驚く。
「けど・・・特殊戦技隊の人達は変わり者ばかりだよ?
強さにものを言わせるって感じの・・・仲良く慣れたの一人だけだもん」
なのはも脂汗を浮かべてデータを見る。
「あくまでもレリックの護衛が最優先だ・・・
なのは、お前も今回は持ち前の防御力を活かすことだ」
シグナムが意地の悪い笑みを浮かべて、なのはに言う。
ソレを言われたなのはは微妙な敗北感を味わいつつも、頑張ろうと意気込んでいた。
「そうだ・・・作戦前に、スターズとライトニングは模擬戦をするからな?」
シグナムの言葉にあっけに取られるスターズ三人。
「えと、どうして・・・ですか?」
とりあえず挙手しながら言うスバル。
「なに、フォワードたちの力を確かめるだけだよ・・・お前たちにとっては慣らしだ」
スバルはそうなんですか、と納得し、ティアナも単純に信じていた。
だが、シグナムの真意は別のところにあった。
ソレは、アスランに特別訓練を受けたエリオがどれほど強くなったかを確かめるためだった。

 

そして、翌日・・・地上本部の訓練場でスターズ二人はライトニング二人に大敗を強いられた。

 

「す、凄いよエリオ君!」
あまりの出来事にキャロが感動の声を上げる。
「ははっ・・・けど、やっぱキャロのブーストが無いと辛いや」
エリオは息を切らせながら、膝に手を置いて話す。
「けど!フェイトさんみたいだったよ!」
「う、うん!ありがと!キャロ!」
エリオも素直に喜ぶ。

 

一方のスターズ二人は・・・。
「あんなの反則だよ、エリオ」
息を切らせるスバル。
「ま、まったくよ!非常識よ!!」
ティアナも逆切れしていた。

 

エリオの活躍を見ていたなのは、ヴィータ、シグナムはというと。
「いったい何をどうしたら、エリオがあんなことに?」
なのはは苦笑いが止まらなかった。
「あぁ・・・なんでもザラ執務官に指導してもらったらしいんだが・・・」
ヴィータも顔が引きつっている。
「・・・アレが陸戦Bランク魔道士などと、誰も信じないだろうな」
と、シグナムも微妙に笑みをこぼしながら言う。
「そういえば、昔・・・こんな人がいたって言うのを聞いたことがあるよ」
なのはが思いついたように口にする。
「何だよ?」
「一瞬だけ最強になれる人・・・“瞬間のエース”って言うらしいよ?」
「へぇ・・・かっこいいじゃねぇか?」
そういいながら、エリオの小さくも成長しつつある背中を期待の眼差しで見つめる三人だった。

 

─???─

 

「ふぅ・・・あと少しで、シン君の腕が完璧に元通りだな!
といっても、外装は完璧、後は細かい部分までの神経結合のみなんだがね」
ラウルはシンの入っているポッドの前で満足そうに言う。
「後は、デスティニーの調整のみだな」
穏やかな顔で眠るシン。
ソレをただ見つめるラウル。
「一人で行かせはしないさ・・・私たちは家族なんだから」
そう、切なげに呟いて・・・ラウルは俯いていた。

 

それぞれが、命を思う。
命を取り戻せないものと知りつつも。
打ち砕かれた日常、守り得なかった者達。
それはもう、二度とあってはならないこと。
弱ければ叶わない。
願うのは、これ以上失わないことだった。

 

次回 よみがえる“翼” 前編

 

家族の前に立ちはだかるものを“破壊”するため、彼もまた・・・飛び立つ。