Lyrical DESTINY StS_第11話

Last-modified: 2018-12-19 (水) 19:28:42

一つの想いが何かを導く。
一つの知識が何かを描く。
穏やかな日々が続くことを誰もが願うのは。
その平穏を当たり前と思っているから。
ソレが崩されようとも。

 

─???─

 

「レリックが三箇所に!?」
驚きの声を上げるロート。
「ああ・・・どうやら、誘われているらしいな」
ロートとは別にフィルは落ち着いていた。
「博士はなんて?!」
バン、とテーブルに両手をたたきつけるロート。
「何も・・・けど、いつもよりコーヒー飲む量が多かったな」
そっか、とロートは椅子に深く腰を下ろす。
「・・・俺たちは“プロジェクトD”の一端・・・だけど、それ以前に博士の家族、だよな?」
ロートは天井を見たまま、そう呟いた。
「ああ・・・お前はどうする気だ?」
フィルが不敵な笑みを浮かべて、ロートに問いかけた。
「・・・俺たちは、まっすぐな思いで“家族”を守る」
決意の言葉。
決して曲がることなく、彼らは彼らの道を行く。
「完成度8割らしいけど、行く?」
「・・・ああ!」
そして、二人は立ち・・・“家族”のために飛び立つ。
その時の彼らに不安などなかった。
ソレは、彼らにある絶対の“信頼”
その思いは・・・決してなのはやフェイト、アスランたちとは違わないものだった。

 

「二人とも~ごはん・・・だけど?」
しばらくして、ラウルが二人のいた部屋に来たのだが、誰もいないことに唖然とする。
「どこに行ったんだ?」
「博士~!まぁだ~!?」
そこに、リリウェルの声が聞こえてくる。
「おっと・・・仕方ないなぁ」
頭をかきながら、ラウルは呼ばれたほうに歩いていく。

 

─第5管理世界─

 

「あぁ~管理世界の支部に来たのって初めてかも~」
スバルがあぁ~っと大きく口を開けて呟く。
「そうね。私たちってほとんど地上本部だもんね」
ティアナも広がる風景を見つめながら、そういった。
「見てみてエリオ君!すっごく大きな山が見えるよ!」
そう言ってキャロは遠くにそびえる巨大な山を指差す。
「うわぁ~ホントだね?」
エリオもキャロの指差す山を見つめて賛同する。
「おい・・・お前ら」
そして、彼らの後ろに顔を引きつらせて腕を組んでいるアスランの姿があった。
「あ、ザラ執務官?どうかしたんですかぁ?」
そうやって、能天気に問いかけるスバル。
ソレがきっかけになったかのように、アスランの中で何かが切れる音がする。
「どうした、じゃない!!早く集合しろよ!!もう支部の人達が集まってるんだから!!」
「・・・了解」
あまりの剣幕にそれ以上何も言えず、四人はそのまま支部の中に入っていく。

 

支部にはレリックが三つある。
ソレを護衛運搬するのがアスランたちの任務だ。
「けど、JS事件が終わってまだ3ヶ月くらいですよ?無用心すぎませんか?」
ティアナが言うと、他の三人も考え込むように唸る。
「そうだな・・・まるで、誘ってるようだ」
そんな中、アスランが呟くと。
「そのために、僕たちが配置されたわけですか?」
エリオが答える。
「ああ・・・だから、俺たちに負けは許されない、ってわけだな」
そう言って、エリオの頭に手をやるアスラン。
「負けませんよ!僕たちは!」
エリオは自信満々にぐっと手を握り、笑う
「そぉだよね!」
と、スバルも笑う。

 

そんな光景を見て、アスランはふと自分の元いた世界のことを思い出す。

 

─昔、俺はこんな風に笑えていたのかな?

 

実際、アスランはクルーゼの出現でかなり慌てていた。
ソレは、昔を思い出すからだ。
まだ、自分たちがなぜ戦うのかよく理解できていなくて、仲間同士でケンカしたあの日々を。

 

(イザークたち、元気でやってるかな?)
今は、自分たちの故郷を守ってくれている友たちを思い出す。

 

「うわぁ~なんか浸ってない?」
「え、ええ」
傍から今のアスランを見ている側からすれば、ちょっと近寄りたくなかったりした。

 

「おい、お前ら!さっさと来い!」
すると、前方から高い声で誰かがアスランたちを呼ぶ。
「え?」
アスランたちが同時に前を見ると、そこには仮面をつけた人間が立っていた。
「・・・男?女?」
スバルの第一声がソレだった。
顔全体を仮面で隠し、除いているのは口のみ。
後ろからは緑のウェーブかかった長髪が見える、が・・・性別がいまいちわからなかった。
「そんな事はどうでもいい!早く来ないと、お前ら・・・沈めるぜ?」
仮面のしたからでも伝わる気迫に、フォワードたちはダッシュ。
アスランは一人取り残されていた。
「ほぉ・・・貴様は随分と余裕だな?そんなに、沈められたいのか?」
その迫力にアスランも目を点にしかけるが、何とか我を保ち、早足で進む。
「失礼ですが、あなたのお名前は?」
横に並んで歩くことになり、アスランは横の仮面の人物に問いかける。
「あ?・・・あぁ、俺は同じ挨拶はしたくないんだ。どうせ、後で名乗るからそんときにしてくれ」
なんとも荒々しい人物のようで、アスランはあまり関わりたくない、と思った。

 

大フロアには第5支部長がすでに待っていた。
「おお、待っていたよ」
「遅くなってすまないな、支部長・・・では、今回の任務参加者を紹介しておく」
そう言って仮面の人物は、アスランたちに顎で指示する。
「あ、えと・・・このたび、護衛運搬の任務に就く、アスラン・ザラ執務官です」
「同じく、機動六課スターズ分隊スバル・ナカジマです」
「ティアナ・ランスターです」
「機動六課ライトニング分隊エリオ・モンディアルです」
「キャロ・ル・ルシエであります!」
アスランたちが自己紹介を終えると、再び仮面の人物が前に出る。
「そして、彼らを指揮する、特殊戦技隊03のヴィンター・ヴォルケ一等空佐です」
仮面を外し、支部長と挨拶するヴィンター。
「あの、質問・・・いいですか?」
スバルがおどおどしながら、挙手する。
「なんだ?」
「・・・男の方ですか?」
その言葉に、ティアナたちはよくやった、と心の中でスバルを褒め称えていた。
「ああ、一応男だな?なんだぁ?惚れたか?」
などという口上が進められていた。

 

「あ・・・」
「ん?」
アスランは、ヴィンターの顔を見て、なぜか後ろに引いていた。
「どしたんですか?アスランさん?」
スバルがアスランに問いかけるが、今、アスランにはスバルの声なんて届いていなかった。
「ニコ・・・ル?」
そう・・・ヴィンターの顔は、かつてCEの世界で失われたはずの人物
ニコル・アマルフィに酷似していたのだ。
「あぁ?!ヴィンターだっつってんだろうが!!」
そんなアスランをよそに、彼は思いっきりアスランにドロップキックをかますのだった。
「ぐはぁ!!」

 

気持ちいいくらい宙を舞うアスラン。
滞空時間はおよそ2秒。
だが、周りの人間にはソレがスローモーションのようにも見えたという。
「うわぁ・・・ナイスキック?」
思わずティアナも光景を見て拍手?を送ってしまう。
「な、な、何をする!?いきなり!!」
すぐに体勢を整え、アスランはヴィンターに向き直る。
「やかましい!お前が人の名前、間違えるからだ!」
「なんだと!?」
らしからぬ言動にエリオをはじめ、スバルたちも驚いていた。
「あ、あの!アスランさん・・・もうその辺で・・・」
たまらず、エリオが仲裁に入る。
「・・・いいか、ザラ執務官?」
ヴィンターが仮面を付け直してアスランを指差す。
「何、か?」
一方のアスランは青筋を浮かべて、対応する。
「お前たちは俺の指揮下に入る。気に入らないなら、さっさと帰れ?
・・・とは言わないが、それなりの対応をするからそう思え?」
相変わらず、ものすごい気迫で迫るヴィンター。

 

「・・・了解」
アスランはこれ以上逆らっても無駄だと思い、ため息一つもらして承認する。
だが、内心ではこう思っていた。
「(ニコルに似ているくせに・・・性格が違いすぎるだろ)」
はぁ、と内心でもため息をつくアスランだった。

 

「レリックはこの支部長室に安置している・・・そして、我々はこの部屋の四方向を
守るわけだが・・・お前たちは、それぞれがチームだから、東と西をそれぞれ
スターズ、ライトニングに任せる。そして、南と北をアスランと私が守るというわけだ」
しばらくして、ヴィンターが支部内構造を映し出し、キーをいじって新たなデータを取り出す。
「迎撃パターンはそれぞれの方向からに対しても用意してあるが、追加戦力は望むな?
事実上俺たち以外に戦力はいない・・・ま、お前らは高町の手塩にかかってんだろ?
なら、信頼しておくぜ?」
ふてぶてしい態度だが、それなりに信頼されているとわかり、フォワードたちは明るい顔をする。
「ヴォルケ一等空佐」
「ん?なんだ、ザラ執務官?」
アスランから話しかけられたのだが、どこかお互いに皮肉が混じっている。
「あなたの能力を確認しておきたいのですが?」
「あ・・・そうだったな、さすがに味方には手の内をさらすものか」
少し笑いながら、ヴィンターは首に下げていた結晶をアスランたちに見せ付ける。
「俺のデバイス・・・“ダークネス・ブリッツ”だ」
見せられたその結晶の色は・・・黒と黄色が交じり合った色をしていた。
そして、その名を聞いたアスランは、何か・・・心の奥底で拒絶に似た感情を引き起こしていた。
「(・・・顔が似てて、デバイスの名前も・・・似ている)」
この時、アスランはこれ以上ヴィンターと関わりたくない、一緒にいたくないと思っていた。

 

だが、ソレを言葉に出して望むことは彼にはできなかった。
「さぁ!護衛はここで1日!運搬開始は二日後!ソレまで、皆頑張ろう!」
その時、ヴィンターはこれまでとは大違いの笑顔を見せて、協調性をかもし出す。

 

その頃、ロートとフィルは第5世界の都市に来ていた。
「いや~たまに外に出ると、新しい発見があっていいねぇ?」
ロートは露天で買ったフランクを食べながら、フィルと歩いていた。
「おいロート・・・お前、もう少し緊張感持てって」
フィルが呆れながらロートに指摘する。
「まぁまぁ、お前も一つ食えよ!食わないと、力でないだろ?」
「ったく・・・能天気だな」
この時、フィルは一生彼のことを呆れない日はないだろう、と思った。
「・・・いい空だ」
ロートは空を見上げ、輝く太陽を見つめていた。
そんな彼を見て、なぜかフィルには“別”の彼が映っていた。
ただ小生意気な言葉を発し、突っ込んで、叫ぶ。
今のロートからは想像もできない人物をフィルは想像していた。

 

「誰、なんだよ・・・ちきしょお」
あまりに理解を超えたイメージにフィルは頭を抱える。
「どした?」
「いや・・・なんていうか、その・・・なんでもない」
結局言葉にできず、フィルはごまかし、ロートは疑問符を浮かべる。
「ま、別にいいけど・・・ソレよか、攻め時はいつにする?」
フランクを食べ終わり、真面目な顔をするロート。
「・・・真面目な顔をするのはいいが・・・ソースがついてるぞ?」
「!?」
真面目な顔をしたのにカッコがつかないロートだった。
「と、とにかく!どうするんだ!?」
大慌てでソースをぬぐい、顔を真っ赤にしてフィルに問いかける。
「コホン・・・まぁ、夜だな。明るいうちはあまりいい動きができると思えない。
それに、俺たちのデバイスじゃSランク以上と戦えば、持たないかもしれないからな」
彼ら二人のデバイス完成度は8割程度。
ソレを破壊しうる破壊力を持つ魔道士と戦えば、劣勢は必至。
故に、迅速にことを済まさなければならなかった。

 

─???─

 

「ラウ、ロートとフィルを知らないかい?」
その頃、ラウルはいなくなった二人を探していた。
「いえ・・・私は存じ上げませんが、いないのですか?」
「ああ。どうも気になるな」
そう言って、ラウルは手元に端末を出し、彼らが行きそうな場所の映像を出す。
「・・・いない」
だが、どこにも彼らの姿は映らず、だんだんと嫌な予感がラウルによぎる。
「まさか・・・ね?」
冷や汗がだんだんと出てきて、その嫌な予感を確かめるためにラウルは走り出す。
「博士?」
突然走り出したラウルにラウは何事か、と思いついていく。

 

ラウルが向かったのは、未完成のデバイスがおいてあるデバイスルームだった。
「・・・くっ!あの子たちは!」
ラウルが少し怒りの形相をする。
「ない、のですか?二人のデバイスが」
ラウもラウルが怒っていると思い、口元をひくつかせる。
「やんちゃなのはいいけど・・・これは、お仕置きかな?」
その時のラウルの黒い顔をラウは一生忘れないだろう。

 

「うっ!!」
その頃、ロートとフィルは言いようのない悪寒を感じていたそうな。

 

そうしている間に、時間は夜へと近づく。

 

「くっ・・・少し、働きすぎたか、な?」
北を守るヴィンターが痛みを感じているのか、胸を押さえている。
「どうかしたんですか?」
「!?」
声がして前を向けば、通信モニターのスバルが映っていた。
「どうした?」
「い、いえ・・・その、何も起きませんから、少しお休みになられたほうがいいんじゃ?」
スバルはスバルなりに気を使ったのだろう。
「・・・そうだな、少し任せてもいいか?」
「あ・・・はい!」
そうして通信を切り、ヴィンターはアスランとライトニングの二人に通信をいれ、持ち場を離れる。

 

「何、アンタマジであーいう人が好みなわけ?」
東を守るスバルとティアナ。
ティアナはジト目でスバルを見ていた。
「ん~・・・まぁ、ああいう肩を並べて戦ってくれそうな人は好きだよ!」
スバルは照れくさそうに、だが何の後悔もなくそういった。
「・・・いいわね、そういう人が見つかって」
「うん!」
ティアナは時々、スバルのそういうところがうらやましくなることがある。
ソレは、自分にはないもの。
彼女の持ちえる強さがうらやましいのかもしれない。
「この任務が終わったら、私も探してみようかな?理想の男性、見たいな人を」
「きっといい人にめぐり合えるよ・・・ティアならね!」
そうだといいわ、と返してティアナは雲の隙間からのぞく星を見ていた。

 

「大きな反応が一つレリックから離れた!攻めるなら・・・今しかない!!」
しかし、彼らもこの機を逃したりはしなかった。
「同時に攻めるぞ?一人で最大3人以上は相手にしなくちゃならない」
「・・・いけるか?ウルティマ・フォビドゥン?」
(能力に限定がありますが、あなたはよろしいんですか?)
「構わないが、限定される能力は?」
(ニーズヘグ強度に問題あり、フレスベルグ使用不可)
「そっか、許容範囲だ!」
フィルは不敵な笑みを浮かべて、胸に手を当てる。
「俺らには・・・こいつもあるからな」
そういったフィルを見て、ロートも胸に手を当てる。
「スラッシュ・レイダー・・・お前は?」
(ツォーンが使用不可、それ以外は大丈夫ですが・・・多少出力設定に問題があります)
「そっか・・・けど、やる!」
(・・・はい)
ロートの意向にスラッシュ・レイダーは逆らわない。
そして、二人はアイコンタクトを交わして、その場から消える。

 

「「俺たち“家族”のために!!」」

 

支部の入り口で爆発が起こる。
「なんだ!?」
一般局員からすれば、その爆発は起こって欲しくないものだった。
「襲撃か!?すぐにレリック防衛の者たちに連絡!防衛強化を指示!」
司令室では、支部長が命令を下し、張り巡らせたモニターで敵の姿を確認していた。
「くっ!敵はどこだ!?」
「速すぎて、視界に入りません!!」
「第3モニター、第5モニターが破損!!」

 

次々にモニターが映らなくなっていく中、やはり局員たちは不安が募る。
「支部長!現在、ヴィンター一等空佐が防衛から外れているそうです!」
「なんだと!?くっこんなときに・・・兵器が何をしとるのかぁ?!」
兵器・・・支部長は、確かにそう言った。

 

襲撃者がいることはアスランたちにも伝わり、迎撃体勢を整えていた。
「アスランさん!」
ヴィンターがいない中、アスランをトップとし、ティアナがセンターガード
キャロがフルバック、スバルはフロントアタッカー、エリオがガードウイングにつく。
「敵はまだ未知数だ!数も、能力も!全員油断するな!!」
「「「「はい!!!」」」」
皆、緊張はするものの、やはりだいぶ落ち着いてもいる。

 

「ティア・・・」
「何?」
辺りを警戒する中、スバルはティアナに念話を送っていた。
「全部終わったら、私・・・頑張ってみるよ」
その言葉は、決意を込めて放たれた。
ティアナもその言葉に嘲笑などは覚えず、ただ受け入れた。
「なら、まず終わらせましょ」

 

ソレがきっかけかのように、一つの影がゆっくりと彼女らの前に現れる。
「誰だ!?」
アスランがその人影に声をかける。
「・・・お前らの、敵だよ」
近くの電灯が人影を照らす。
そして、現れたのは・・・バリアジャケットであろう緑と白が織り交ざった
鎧を着ている男フィルだった。
「お前・・・は」
アスランはフィルに見覚えがある。
ソレは、やはり・・・失われたはずの敵だった男。

 

「フォビドゥン!」
(シールドユニット・レフトアーム。ニーズヘグ実装化)
ウルティマ・フォビドゥンが言うと、左腕に巨大なシールドが現れ、右腕には巨大な鎌が現れる。
(ブースト)
そして、その鎌を手にした瞬間、フィルはアスランに向かって突進する。

 

「ジャスティス!」
(バリアジャケット・・・ラケルタ・ソード)
アスランも対抗するため、ジャスティスを起動させる。
そして、ニーズヘグの刃をラケルタ・ソードで受けようとするが
フィルは先にシールドのほうを突き出してくる。
「!?」
勢いで劣るアスランはそのままシールドに向かい、ラケルタ・ソードをぶつける。
そこが、フィルにとってねらい目だった。
(ゲシュマイディッヒ・パンツァー展開)
瞬間、シールドに微弱だが光りが灯り、アスランのラケルタ・ソードの軌道がずらされてしまう。
「何!?」
「はぁぁぁ!!」

 

体勢が崩れるアスラン。
そこを狙って、フィルはニーズヘグをアスランに向け振り下ろす。

 

「アスランさん!!」
しかし、ニーズヘグの刃はエリオとストラーダによって防がれる。
「ちぃ!」
フィルも防がれたことに執着せず、次の攻撃態勢に入る。
(エクツァーン)
フィルの前に4発の魔力弾が精製され、ソレがアスランとエリオに放たれる。

 

「ジャスティス!イージスシールド!!」
(イージスシールド、展開)
アスランはとっさにシールドを展開し、フィルの放ったエクツァーンを弾く。
エリオもたくみにかわした。

 

「ストラーダ!!フォルムツヴァイ!!」
(デューゼンフォルム!)
エリオの一言でストラーダはカートリッジを消費し、ストラーダにジェット推進機が現れる。
「ジェット!ドライバー!!」
さらにカートリッジを消費し、エリオはジェット推進を最大にしてフィルに突進する。

 

「フォビドゥン!」
(ディフェンスモード)
一方のフィルもカートリッジを消費すると、ニーズヘグが消え、シールドが二つ
・・・ソレも手に装備するのではなく、背中から現れたフィルの上半身を覆えるほどの
装甲につながっており、完璧な防御体勢に入る。
「たぁああああああああああ!!」
エリオはそれにひるむことなく、ストラーダを思い切りその装甲にたたきつける。

 

ガキン、という音が響くと、なんとフォビドゥンの装甲はエリオの攻撃を弾いていた。
「硬い!」
手の痺れが走るのを必死にこらえて、一度距離を置くエリオ。

 

「その程度の攻撃じゃ、フォビドゥンの装甲は貫けない!!」
フィルが装甲の奥から言い、エリオも貫く事は難しいと表いた。
「なら・・・ストラーダ!フォルムドライ!!」
(ウンヴェッターフォルム)
推進器が姿を消し、今度はストラーダの噴射口から金色の突起が現れる。
「行くぞ!!」
再びエリオはカートリッジを消費し、フィルに向かって突進する。
「何をしようが!!」
だが、鉄壁のごとく構えたフィルはいくらエリオの勢いでも突破は難しいだろう。
「サンダー・・・レイジ!!!」
電気を纏ったストラーダをフォビドゥンの装甲板にたたきつけるエリオ。
そこから、電気が激しく発生する。
エリオのサンダーレイジは広域と極部を分けて放つことができ、
今回放ったのは一箇所を重点的に攻めている。
「くっ!!」
フィルもさすがに弾ききれないのか、少し後ろに下がる。

 

サンダーレイジを放ち終えると、エリオはフィルから離れて
エリオを中心にフォーメーションを組みなおすアスランたち。

 

「へっ・・・俺に遠距離、中距離からの正攻法は通じないぜ?」
フィルは顔を覆っていた装甲を一度消し、不適な笑みを浮かべていた。
フィルは顔に大量の汗をかいており、体力も多少消耗しているようだった。

 

「その割には、消耗が激しそうだな?」
アスランが余裕を見せるように笑う。
ソレが挑発だと気づいているのか、フィルは特に何も言わない。

 

しばらくにらみ合いが続く。
フィルの頬を流れる汗も、今は誰も気にしない。
ただ、お互いが強敵と向き合っている事実をその場の雰囲気に漂わせている。

 

「・・・こう着状態は好きじゃない、悪いが・・・攻めさせてもらおう!」
痺れを切らしたのは、アスランたちのほうだった。
「アスランさん・・・」
心配したのか、エリオはアスランに声をかける。
「心配するな・・・お前たちは下がっていてくれ」
そう言われ、エリオたちは何も言わず、一歩後ろに下がる。

 

「フィル!もうやめとけ!」
すると、上から声がする。
ソレはロートの声だった。
「ロート!首尾は?」
上空のロートにフィルは声を張り上げて問いかけると、ロートはにっと笑い
3つの結晶・・・レリックを取り出して見せた。
「なっ!?」
アスランも思わず驚きの声を上げる。

 

「うそっ!?厳重封印してたはず、なのに!?」
スバルとティアナ、エリオにキャロも驚きに声を上げている。

 

(エリオ)
「!?」
突然、エリオに送られるアスランからの念話。
(な、なんですか!?)
表情に出さないように、落ち着こうとするエリオ。
(お前に、上の奴を頼む・・・俺は、目の前の奴をたたく!)
(・・・僕だけで、ですか?)
少なからず、任される不安がエリオにはあった。
(お前なら、短時間で敵を倒すことができるはずだ。
お前にしかできない戦い方で、アイツを倒せ)
それ以上、アスランは何も言わずただエリオの返事を待った。
エリオは上の敵を見て、さらに前の敵を見た。
その時、エリオは心臓を締め付けられるような思いすらあった。
ソレは、アスランがここに来る前・・・訓練のときにエリオに語り授けた一つの言葉が原因。

 

─仲間を信じ、仲間を守れ。仲間のために死ぬな。自分のために死ね。

 

エリオはその言葉の深い意味が理解できなかった。
ただ、ソレを実行するしかない。
だが、言葉の矛盾に悩む時もある。

 

ソレが、エリオに決断をさせた。

 

(わかりました・・・上の人は、僕が相手をします)
(・・・任せた!)
エリオの返事にアスランは気をよくし、唱える。

 

「ジャスティス!プロテクト“SEED”開放!!」
(了解、プロテクト“SEED”開放・・・ラケルタ・アンビデクストラス・ハルバート・セイバー)
アスランの瞳から光が消え去る。
そして、二つの柄を合わせ、両端から高出力の魔力刃が噴出すように展開される。

 

「キャロ!僕にブーストを!!」
「え、けど!」
「早く!!」
珍しくエリオが声を張り上げたことにキャロは驚き、そのまま彼に従う。
「天高くそびえる閃光の標!空かける蒼騎士に、歴戦たる汝の力を!!」
ケリュケイオンに光が灯る。
そして、その光がキャロの両腕を包むように広がっていく。
「エクストラ・ブースト!!」
キャロの腕を包んでいた光が一気にエリオに向かう。
エリオはその光に包まれると、その光がエリオの体内に吸収されていく。

 

「行きます!!」
そして、地面をけって、ジャンプするエリオ。
「行くぞぉおおおおおお!」
そのまままっすぐ、エリオは上空のロートに向かっていき、ぶつかる。
ぶつかったまま、エリオは力ずくでロートを彼の仲間であるフィルから引き離す。

 

「ロート!!」
フィルはロートのことを案ずる、が・・・。
「お前の相手は・・・俺だ!」
今までの雰囲気とは違うアスランにフィルも少し危機感を覚え構えなおし、ニーズヘグを取る。

 

─???─

 

「博士!!」
リリウェルが焦っているのか、汗を浮かべてラウルの前に立っていた。
「どうしたんだい、リリウェル?」
「シン兄が!」
「!?」
リリウェルの言葉から察し、ラウルはすぐに走っていた。
彼が向かう場所は、シンが眠るポッドがある場所。

 

「シン君!!」
ラウルがポッドのある部屋に到着すると、そこには破壊されたポッドが一つ。
そして、その横には服を着ているシンが立っていた。
「・・・アンタ、か?」
虚ろな瞳をラウルに向けるシン。
「手の・・・具合はどうだい?」
とりあえず、回復に専念していた部位のことを問いかけるラウル。
「・・・問題ない。デスティニーは?」
「治してある・・・けど、まだ君は戦ってはダメだ」
ラウルはシンをとめる。
ソレは、シンを大切に思っているがための行為。
「・・・あいつらが、無茶してる。少し前に俺の前に来て・・・行ってくると言っていた」
あまり感情らしいものがないシン。
だが、言葉には・・・確かなものが感じられた。
「助けに、行くと?」
「・・・違う、あいつらの前にいる奴らを壊しに行くんだ」
今度は狂気の笑みを浮かべるシン。
「そう、かい」
ラウルは、シンの復活がうれしいはずなのに・・・やはり、悲しい顔をした。

 

ラウルはシンを止めない。
否、止められないのだ。
シンの思いを・・・その深い部分を知っているから。
誰よりも、誰よりも知っている。
シン・アスカの“闇”
そして、強さ。

 

何事をも破壊する彼の狂気。
ソレは、時として・・・すべての善悪を超えるものとなる。
その背中にある“翼”は血に染まって。

 

その血に染まる手は、誰も抱きしめられない。

 

家族は願う・・・その血が、いつか拭えるように、と。

 

─第5支部・玄関─

 

エリオによって吹き飛ばされたロートはここまでこさされていた。

 

ここでは、エリオとロートがにらみ合っていた。

 

「お前、俺よりガキの癖に・・・何頑張ってんだよ!?」
ロートの目に迷いはない。
だが、ソレはエリオにも同じだった。
ロートはソレが気に入らなかったのだ。
管理局に組している人間が、なぜ・・・そんなにまっすぐな瞳ができるのか、と。

 

「僕は・・・あなたを止めます!そして、話をしましょう!!話せば、何かが
変わるかもしれない・・・きっかけ一つですべて変わることもあるんです!!」
エリオはきっかけの一つを知っている。

 

─ダメじゃない?
自身の苦しみを。
─魔法は、傷つけるために使っちゃダメだよ?
そのまま、受け止めてくれた。
─エリオは、優しいからね?
優しい心を持つ、強い・・・金色の魔道士との出会い。

 

「僕は、フェイトさんに恩を返すためにも、強くなる!だから、あなたを止める!!」

 

「そうかよ!なら、やって見せろ!!」
ロートは懐から赤と黒の線が真ん中でクロスしている結晶を取り出し、唱える。
「スラッシュ・レイダー!セット・アップ!!」
(了解・・・バリアジャケット。ミョルニル・・・セット)
黒いボディアーマー、その上にさらに黒い騎士服を纏い、肩に鎧をつけ
両足に膝から足先までに機械的な鎧を装備。

 

両手もひじから下に手甲を装備し、手甲のサイドにはかぎ爪のようなものがついていた。
さらに、左腕には大きなトゲがついたモーニングスターのようなものが握られていた。
(ツォーンは使用不可・・・もし、撃てるとしても一発が限度でしょう)
「上等!」
レイダーの言ったことに、ロートは何の不安もなく、ただミョルニルを構えた。
「ライトシールドガン!セット!」
(シールドダブルガン・セット)
ロートの指示でレイダーはロートの右手甲に盾の機能を持つ二連装式の銃口を出現させる。
「フットブースト!ゴー!!」
さらに、両足に装備してある鎧の踵部分がスラスターに変形し、一気に噴出す。
ソレが爆発的なまでの飛び出しとなって、ロートはエリオに突進する。

 

「ストラーダ・・・フォルム・・・フィアー!」
だが、エリオは落ち着いていた。
まるで氷のように・・・冷たい感情を浮かべていた。
そして、唱えた新たなストラーダの力。
ソレによる兆しか、彼の髪が逆立っていく。
「!?」
ロートも彼の些細だが・・・変化に少し畏怖し一気に決めようと思う。
「撃滅だ!!」
ロートが左に持っていたミョルニルをエリオに投げつける。
ミョルニルはワイヤーでつながっていて
さらにその付け根部分を中心にスラスターがついていて、さらに加速するのだ。

 

(エクスプロージョン・ハンマー)

 

レイダーがカートリッジを一発消費すると、ミョルニルの本体をつないでいるワイヤーに魔力が通り、ハンマーは爆発を起こす。

 

「はっ!粉々か!?」

 

爆煙が少し広がる。
そこからエリオが出てくる気配はない。

 

(魔力反応は・・・増大中)
「何!?」

 

レイダーがロートに告げると、同時に・・・一陣の風が吹き、煙が一気に弾き飛ばされる。
「・・・なっ!?」
煙が去った場所には、エリオが立っていた。

 

だが、エリオの状態には変化があった。

 

髪の毛は完璧に逆立ち、右目のしたにはライトニングのエンブレムが浮かんでいた。
そして、最も驚くべきはフォルム・フィアーの真実。

 

ストラーダのフォルム・フィアー・・・ドンナー・フォルムとは。

 

(サンダーブレード、サンダーシールド・・・完璧に展開完了)

 

今までは攻撃面に使われていたストラーダのスピア部分はなんと、稲妻が走る盾となり
それにつながっていた棒部分はそこから引き抜かれ、雷を纏う剣となっていた。

 

「今度は・・・こっちから行きます!!」

 

エリオは静かに言い放つと、その場から姿を消す。

#brp
「なっ!?」
次の瞬間には、ロートが驚きの声を上げていた。
その理由は、彼の懐の下にエリオが切り込んでいたからだ。
「サンダー・・・フィスト!」
(シールドアタック・・・サンダーフィスト)
盾はエリオの左腕に同化しているか、と思えるほどの形になっており
雷を纏ったその拳はまっすぐロートの腹部に直撃する。
「ガッ!!」
防御することすら叶わず、ロートは吹き飛ばされ、壁を突き破って瓦礫に埋もれてしまう。

 

(うそ、だろ・・・人間の、ソレもあんなガキが目に映らねぇ速さで動けるはず、が・・・)
ロートは今自分の目の前で起こった現実が受け入れられないでいた。
(ありえない・・・あり得ちゃいけない!)
かっと目を開き、瓦礫を一気に吹き飛ばすロート。
「ありえないんだぁぁぁぁぁぁ!!」
咆哮・・・額からは血を流しながらも、視界に入るエリオをしっかりと見据える。
「あなたが全力なら、僕には勝てません!!」
激しい咆哮とは別に、あくまで冷静な言葉を放つエリオ。
そして、立ち上がったロートに対し再び攻撃を仕掛ける。

 

「なめんなぁ!!」
意地になりロートはミョルニルをエリオに投げつける。
だが、ロートにはわかっていた。
彼のスピードが本物ならミョルニルは決してエリオには当たらないことが。
「そこか!?」
ロートは神経を研ぎ澄まし、右側にダブルガンを放つ。
確かに、そこにエリオの影はあった・・・だが、ソレはエリオ自身ではなかった。
「なっ!?」

 

「サンダー・シャドー」
声が聞こえた。
右側にあったエリオの影は電気が分散して何もなくなる。
声がしたほう・・・上を向くロート。
「終わりです!」
そのまま降下し、エリオはロートの後頭部を掴んで、顔面を地面にたたきつける。
「ぶ!」
激しい音が、鈍く響いた。

 

“翼”はよみがえった。
そして、今飛び立とうとしている。
その手には剣と剣・・・血で血を洗う彼は。
救済などなく。
ただ、道に転がる破片。
道に落ちたる雫。
ソレは・・・血だった。

 

次回 よみがえる“翼” 後編

 

“種”を持つ者よ・・・可能性を、血で見失うな。