Lyrical DESTINY StS_第13話

Last-modified: 2008-03-26 (水) 08:38:52

少年は、燃え上がる大地を見た。
少年は、育った国が滅ぶ瞬間を見た。
少年は、家族を失い、一人となった。
少女は、燃え上がる大地を見て涙した。
少女は、父から思いを託された。
少女は、想いと力を心に誓い、少年の“刃”を受け入れる。

 

─第2管理世界・管理局支部─

 

アスランたち第5支部のレリックが奪われた事はカガリたちにも伝わっていた。
「アスランたちがレリックを奪われてらしい」
支部内で防衛開始してから丸一日が過ぎ、カガリたちは食堂でしばしの休憩を取っていた。
「ホンマなんですか!?」
やはり、仲間たちのことが気になるはやては声を張り上げて叫んでいた。
「あ、主・・・落ち着いてください」
「そうだよはやて・・・あいつらなら、たぶん大丈夫さ」
シグナムとヴィータははやてをなだめつつ、コーヒーをすする。
「ま、確かに・・・死人は出ていない。ケガしてるのは・・・
ライトニング03のエリオ・モンディアルだな」
「え!?エリオが!?」
テーブルをばん、とたたきカガリに詰め寄るはやて。
「あ、ああ・・・落ち着いてくれ・・・どうやら、相当無茶したらしいが、大丈夫だよ」
カガリも自分たちが参加する作戦で人が死んでいないことがうれしいのか、微笑んでいる。
「なんや・・・肝が冷える気分やわ」
胃を押さえながらはやてはげんなりしている。
「気持ちはわかるが、今は気にしてもしょうがない・・・願うだけさ」
はやての頭をなでながら、そういうカガリ。
なでられているはやても、あまり悪い気はせず、そのまましばらくしていた。

 

「そういえば、アスハ提督は魔道士もやってはられるんですよね?」
ふと思いついたことを問いかけるはやて。
カガリも唐突に聞かれたので少し面食らっていたが、すぐに口を開く。
「ああ・・・ホントは前線でいたかったんだが、アスランや
キラに止められてな・・・結局、ほとんど後方指揮官だ」
しみじみと語り、コーヒーをすするカガリ。
「へぇ・・・以外に過保護なんですね。アスラン君やヤマト捜査官は」
以外だ、と笑うはやて。
「ま、キラとは姉弟の中だし、アスランとも・・・昔少しあったからなぁ」
「何かあったんですか!」
カガリのいったことに、めちゃくちゃ興味を示すはやて・・・目がものすごく輝いている。
「い、いや・・・そのだな」
カガリもそう聞かれて少し顔を赤くする。
「ま、まさか・・・襲われたり、とか!?」
「いやいやいや!・・・アイツとは、少し恋人やってたことがあるんだよ」
照れくさそうに言うカガリ。
だが、カガリの照れくささとは打って変わって、ソレを聞いたはやては・・・ものすごく目を輝かせ、メモを取っていた。
「それで!?一体どんな!?」
「お、おい!落ち着け!ヴォルケンズ!こいつを何とかしてくれ!!」
「教えてくださいよ~!」

 

カガリが泣きそうな顔ではやての制止をシグナムたちに懇願する。
「はやてちゃん!いい加減にするです!!」
リインもはやての耳を引っ張って無理やりはやてをおとなしくさせる。
「ちょ、痛い!リイン!」
「当然の報いです~!!」
ギリギリ~、とはやての耳を引っ張るリイン。
今度はやては涙目になっていた。

 

一息おいて、ようやくはやてが大人しくなり、カガリも安堵する。
「だが、今回は私も戦う・・・アイツと向き合うためにも」
アイツ、とはシンのことだろう。
カガリはシンのことをずっと心配してきた。
管理局に入局してからも・・・シンが巻き込まれ、起こしてしまった事件からも。
シン・アスカが救われることを祈り、願って・・・今を歩いて来た。
「はやて・・・もし、私が死んだら、代わりに・・・」
「冗談はやめてください!!」
一瞬、場に静寂が訪れる。
「やめてくださいよ・・・私は、もう誰かが傷ついて・・・いなくなるなんていやなんです!」
よぎる赤い瞳に銀髪の女性。
「はやてちゃん・・・」
はやての肩にいたリインははやてのその言葉の意味を理解し
悲しみの混じった瞳ではやてを見つめる。
「いつかは・・・受け入れなければならない感情だ。
お前のソレは・・・確かに、この世界でなら優しいと
褒め称えられることもある・・・だけどな、私たち
第72管理外世界の人間はこう言うんだ・・・
“気持ちだけで、一体何が守れるって言うんだ”ってな」
その言葉は、かつて自分に向けられた言葉。
かつての自分がどれだけ何も知らなかったかを思い知らされた言葉。
子供だった・・・一部の感情にとらわれることしかできなかった・・・そんな過去の自分。
「なぁはやて?お前は立派な部隊長だ・・・自信を持って、自分が信じる道を行けばいいんだ」
ポン、とはやての両肩に手を置き、微笑んでカガリはそういった。
カガリの言葉に、はやての後ろにいたシグナムたちはソレを聞き入っていた。
シグナムたちも思えるところがあるのだろう。
「・・・けど、やっぱり死ぬとか言うのは、いやです」
カガリの言葉も聞いた上で、はやてはそう答えた。
「はやて、人が死ぬのが・・・そんなに珍しいか?」
「!?」
突然のカガリの言葉に、はやては驚く。
「私はそうは思わない・・・嫌なもんだ。慣れてしまっているんだよ」
コーヒーカップを握りながら、俯くカガリ。
「アスハ提督・・・そないなこと」
重い空気が走る。
はやても自分が言い出したこととは言え、後ろめたさを感じている。
「だから、願うんだ・・・お前たちが、理不尽なことで
死なないように、人の死に慣れないように」
その空気を和らげるように、カガリは笑っていった。
はやての言った言葉に責任が残らないように、わだかまりがなくなるように。
「あ、アスハ提督~!」
はやては目尻に涙を浮かべて、カガリの胸に飛び込む。
「あはは・・・大丈夫だ。私は死なないから・・・な?」
カガリは優しくはやての頭をなで、優しく諭す。

 

「おい!お前ら!」
はやてとカガリが色々やっているとき、食堂の入り口に仮面をつけている二人の男が立っていた。
「あぁ特殊戦技の?」
カガリはその二人を知っているのか、反応する。
「あぁアスハ提督・・・ラブってないで、交代の時間ですよ?」
「あ、ああ」
その時、カガリは少し暗い顔をする。
「えと、始めまして・・・八神二等陸佐です」
はやては初対面だったので、軽く敬礼し挨拶する。
「同じく、リインフォースⅡ空曹長でありますです!」
リインもびしっと敬礼してみせる。
「ああ・・・特殊戦技隊バーン・メテオール一等空佐だ。よろしくな?」
バーンと名乗った男は、仮面を外し素顔をはやてたちに見せる。
整った顔立ちに少し癖のある茶髪に穏やかな目つきをしていた。
「同じく、メルクーア・トラバント一等空佐です」
次に名乗ったのはメルクーアという女性・・・赤い髪と釣りあがった目が特徴的で
それ以外にもベストプロポーションという女性では理想のような体型をしていた。
二人が名乗ったあと、シグナムたちも二人に敬礼し、名乗っていた。
だが、その穏やかとも取れる空気の中で、一人だけ苦い顔をしている人物がいた。
カガリだ・・・彼女はなぜか、二人から視線をそらし、あさってのほうを向いている。

 

その理由は、二人の顔だろう・・・似ているのだ。
かつて、第72管理外世界で航海をともにした仲間と呼んだことのある者たちに。
バーンはキラの親友でもあったトール・ケーニヒ。
メルクーアはかつてキラが好意を寄せていた女性フレイ・アルスターとよく似ているのだ。

 

思えば、ヴィンターもそうだ。
顔立ちがニコル・アマルフィの瓜二つ・・・彼ら3人にはある意味共通するものがある。
第72管理外世界出身ということと、不幸の死を遂げたこと。
ソレと、カガリの表情・・・これには何か理由があるのだろうか?

 

二人は再び仮面をつけて、食堂の椅子に座る。
「交代だから・・・俺らは軽く食事を取る」
バーンがそういうと、はやてたちはしょーがない、と軽く伸びをし、食堂を後にしていく。

 

食堂にはバーンとメルクーアの二人だけになり、二人はこんな会話をしていた。
「ヴィンターの奴、再調整だってよ・・・可哀想に」
コップに入れた水を飲みながら、バーンはしかめた表情でそういった。
「どうやら、相手のレリックに少し共鳴反応を起こしたみたいね・・・使ってもいないのに」
コップを持ち上げ、その中身を光に照らしながら言うメルクーア。
「・・・ソレだけ、隠そうとできないんだろ?なら、俺らは全面的に使用する・・・
おそらく、弱反応のものが強反応しているものに引き寄せられる現象が
起こってるんだろ?なら、わざわざはまる必要はないさ」
そう言って、コップの水をすべて飲み干すバーン。
メルクーアは横目でバーンを見て、また視線をコップに戻す。
「最悪の場合は特権使用で“殺害”も許可・・・なんか、物騒じゃない?上は何考えてるんだか?」
「・・・たぶん、消すつもりだよ・・・なかったことにするんだ。“プロジェクトD”のすべてを」
遠くを見つめるように、バーンはそういった。
まるで、当事者かのように。
コップの中の水を見つめるメルクーアもどこか、不安そうな表情をしている。

 

─???─

 

左腕を復元したシンは、同じ轍をふまぬよう、デスティニーの改造をラウルに進言していた。
「やれやれ・・・ようやく左腕が完治したと思ったら、今度はデバイスかい?
私にも少しくらい休みをくれないのかい~?」
煙草をくわえながら、うなだれるラウル。
「俺の用事を済ませれば、好きに休めばいい・・・それに、三箇所のうち後二つにも
レリックが計7つ・・・一気に計画を進められ、俺とアンタの利害は一致するだろう?」
「まぁ、僕は家族が守れて・・・“間違ったプロジェクトD”と腐った
管理局を消滅させられれば、僕は満足だよ」
ラウルの表情が曇り始める・・・やはり、自身が生み出したことがまったく違うことに
使われることに対し罪悪感と恨みのようなものがあるのだろう。
「俺は・・・アンタたちに害なすものを“破壊”する・・・俺の・・・“力”で!」
ひどくくすんでいる・・・この決意すら、誰かにとっては悲しみの引き金となる。
シンは気づいているのだろうか?
自身が進み行く道の先に待っている・・・これまで以上の悲しみと後悔の渦を。

 

「仕方がない・・・久しぶりに、“使うよ”」
煙草を灰皿に押し付けて消し、ラウルは手元に一冊の本を出現させる。
本の表紙は真っ黒で中心部に赤い宝石が一つ。そのまわりに四つの白い宝石が浮かんでいた。
「我が分身たる魔道書・・・“賢者ノ書”よ。私を導け」
ラウルの声に反応し、“賢者の書”はページを開けていく。
パラパラ、とめくられるページが418ページで止まり
その文章が浮き上がってラウルのまわりを動き回り始める。
「これは?」
その現象が不可解すぎ、シンはラウルに現状の説明を求める。
「ああ、これは私のデバイス・・・“賢者の書”・・・・・・数百年前に作られた
最古の魔道書型デバイスで、“夜天の王”が持ちえた“夜天の書”の
元となった魔道書で・・・ページ数は999ページと333ページ上回る
・・・111ページごとに描かれるものが違い、今開いている333ページから
443ページまでの内容には、私ですら見ないと取り出せない知識が埋め込んであるんだ」
「ほぉ・・・つまり、膨大な知識や魔法を埋め込んだ最強の魔道書、というわけか?」
シンは自己解釈するが、ラウルはソレに対し首を横に振る。
「違うよ・・・これは、すべての原点・・・私が“賢者”と
呼ばれた時代から持つ最強のデバイスだからね」
「賢者?」
「おしゃべりが過ぎた・・・作業はすぐ終わる。これがあればね・・・待ってるといいよ」
ごまかすように作業を始めるラウル。
シンもそれ以上追求はしなかったが、やはり気になるようだ。

 

まるで、魔道書と同化したかのように現実に意識がないラウル。
彼は今、魔道書の中でデスティニーに新たな“力”を与えているのだ。
人の手に余る、人の枠を越えたシンのために。

 

─時空管理局本局・第一級秘匿研究所─

 

数人の白衣の男が囲うポッドの中にヴィンターが眠っていた。
「ナンバー9・・・意識レベル正常。レリック出力、34.2%を維持」
「しかし・・・生きていたのですか、ファーストサンプルたち・・・それに、あの賢者が」
賢者、とはラウルのことだろう。
そして、ファーストサンプルもまた・・・リリウェルたちのことなのだろう。
ポッドの中で眠るヴィンターにはいくつものコードがつながっている。
それからデータを計測しているのだろう。
「体温・・・0.3上昇。ナンバー9の深層心理に若干の乱れがあります」
ピピッとヴィンターをあらわすグラフが乱れている。
「精神安定剤注入」
「注入開始」

 

ポッドに安定剤が注入されると、グラフが正常値に戻るが
対して科学者たちは何かを感じたわけでもなく、手に持っているペンでメモをしていく。
「しかし、この“赤い翼”・・・間違いなく、彼の傘下にあると見て間違いないですな?」
一人の科学者がシンの映像を出す。
「ああ・・・彼の技術によって、おそらく“力”を得ている・・・
彼には、さすがにレリック・ウェポンでも単体ではかなわんかも知れん」
「しかし、賢者は自身の描いた“プロジェクトD”の中でしか動いていない・・・
我々の描いている“プロジェクトD”とは似て非なるものだからな・・・
最後に笑うのは私たちだよ」
ほくそ笑む科学者。
それにつられて、他の科学者たちも笑い出す。

 

「何か、朗報があったのかね?」
研究所の扉が開き、そこから明かりが溢れる。
扉の前にいたのはアスランたちに厳しい判断を下したゲーエン少将だった。
「いえ、何もありませんよ・・・少将こそ、何かあったのですか?」
「ああ・・・ティアナ・ランスターという局員を見つけてな」
ゲーエンの言葉を聴いた科学者たちは驚きのあまり
一人の科学者は持っていた紙を落とすほどだった。
「・・・ランスター、ですか?」
「ああ。忌々しい話だよ・・・父母は優秀で、愚かな科学者。
兄は役立たずの魔道士。そして、その最後の子もあまり役に立っていない」
忌々しい、と拳を握りしめながら、ティアナの顔を思い出すゲーエン。
「ふっ・・・少将、管理局で身内を疑って得をすると考えるものは少ない。
心配しなくとも、レジアスがいない今、次の実権を握るあなたが左遷なりすればいい」
「ああ・・・今や管理局に逆らえるものはいないだろう。
正義がものを言う時代は終わっている。これからは権力がすべて、だ!」

 

権力により、蹂躙し、管理局が“管理”という形で支配する・・・
ゲーエンの思想は亡きレジアス中将の歪んでも“守る”事を優先させたこととは違い
まさしく自身の利権のみが絡む最低な思想だ。
「ふっ・・・管理局も人の集まり、ソレを嫌う人など・・・最終的にはいませんよ」
「当たり前だ。利益を嫌う人間などいるものか!
とりあえず、今は“駒”をうまく使い、我らに仇名す俗物を排除せよ・・・犠牲は厭わん」
そう言って、ゲーエンはそこを後にする。
「やれやれ・・・えらく権力に御執心、か」
少将が出て行ってから、一人の科学者が愚痴るように言う。
「仕方がない、我々とて資金は必要・・・こびてでも、な」
一番年長に思える科学者が言う。
他の科学者たちもソレを笑って肯定する。
科学者たちにとって、やはり自分たちが定義した研究の完成が第一なのだろう。
彼らは自分たちの研究の他人による否定は許さず、肯定のみを追い続ける。
認められれば、自身たちが明るい場所に出て賞賛される、とそう思っているのだ。
たとえ・・・非人道的といわれようと、自身に痛みが帰ってくるまで彼らは何も思わないのだろう。
ソレが・・・人間なのだから。

 

─???─

 

ラウルが作業をし始めて1時間がたち、シンもラウルの“すぐ終わる”という言葉に、一体いつ終わるんだ?と苛立ち始めていた。
そんな矢先、ラウルが作業を止め、子供のような声を上げる。
「でっきた!」
ラウルは魔道書を閉じ、手の中にデスティニーの待機状態のものを出す。
「フルドライブは・・・“完璧な状態”でのみ使用可能。代わりに、発動させたとき
・・・君は最強最悪の存在になることができる」
簡潔に追加事項の説明をするラウル。
やはり、どこか辛そうだ。
「ああ、わかった・・・じゃあ行って来る」
デスティニーを受け取り、シンは早々に歩き始める。
「シン君!」
「・・・なんだ?」
ラウルは何を思ったのか、シンを呼び止め・・・シンも振り返る。
「今度は・・・ケガをしないように、慢心を捨てて行きなさい」
「・・・俺は、すべてを“破壊”するだけだ」
シンの瞳から光が消える・・・ソレを見たラウルはやはりやりきれないな、と心の中で呟いていた。
この醜く腐り始めた世界を壊す“運命の翼”・・・ラウルはシンに出会ったとき
自身が甘く、人間を買いかぶりすぎていたことをひどく後悔した。
人々が笑顔で暮らせるように、少しの幸福もありがたく受け止められるようにと願った
一人の人間だったラウルは、今の世界を否定することしかできない・・・
利益にしか興味がなく、治安は自分たちに都合のいいものに書き換えつつある
・・・歪んでも“正義”を貫くことすらしない、自身を高めれば“守る”ことに
つながるのではなく、より出世できるという利権つながりの・・・心なき者たち。
「ああ、“破壊”の後は・・・ゆっくり、休めるように私も頑張るよ」
泣きそうになるのを必死にこらえて、ラウルはシンを見送る。
その後姿にかつて自身が愛した女性を重ねていた。
「・・・プレシア」
気づけば、涙を流していた。
涙を流して、心の中に思い浮かべるのは・・・金髪の少女とフェイトの姿だった。

 

(随分と、勝手な思想を描いたものだ)
突然、声が響く。
だが、ラウルはそれに驚いた表情は見せていない。
「珍しいですね・・・あなたから話し掛けてくるなんて」
声がしたさきにラウルは視線を落とす。
そこにあったものは・・・ラウルが“賢者の書”と呼ぶ魔道書だった。
(何・・・君が辛そうだったので、ついな)
「・・・ありがとうございます」
痛いところを指摘されて苦笑いで返す。
(頑張りたまえ?君のやり方で)
魔道書からの自分を応援する言葉に、ラウルも先ほどまでとは違い笑顔になる。
「ええ。私は頑張りますよ・・・トウジ様」

 

─第2管理世界・管理局支部─

 

ここでは、カガリやはやてたち、クサナギの武装局員がまさに猫一匹見逃さない
といった状態で警護に当たっていた。

 

「アスハ提督!第19管理局支部からの連絡で、明日には移送体勢に入る、とのことです」
敬礼をしながら、一人の局員がカガリにそう告げる。
「了解だ・・・ここも、あと1日の辛抱だから、頑張ってくれ」
「はっ!」
再び敬礼し、局員はカガリの前を後にする。
「ふぅ・・・はやて、そっちはどうだ?」
カガリは通信回線を開き、はやてに定時確認を取る。
はやても特に何もないので、局員と多少の会話をしていた。
「こちらは問題なし・・・です」
そうか、しっかり頼むよ?といいカガリは通信を切る。
「それにしても、八神さんは凄いですよね~」
はやてと会話しながら見張りをしている局員は尊敬しています、という眼差しではやてを見る。

 

「どうしてですか?私は別に・・・」
「僕は、入局4年目になります。けど、未だAランクの魔道士で、陸士です・・・
ですから、オーバーSランクで階級もしっかりしている若いあなたが凄いと思えるんですよ」
それには、はやても少し感激を覚えた。
今まではやては疎ましい、という目で見られた事はあっても
あまり知らぬ者から尊敬や憧れを言葉にされたのは初めてだったからだ。
「アハハ・・・ありがとうございます。けど、Aランク魔道士なら
尉官でもおかしくないんとちゃいます?」
「いえ、自分は一度・・・上官に手を上げてしまったんですよ」
自嘲のこもった言葉がはやてに不意打ちのように飛び掛る。
「そないなこと・・・あったんですか?」
「ええ・・・前に、子供が犯罪を犯した事件があって、自分はそれに参加してました
・・・ですが、その子供は病気の弟を守るために、そして養うために
仕方なくその行為を続けていたらしいんです」
局員は昔を思い出しながら、語っていく。
「その子が逮捕されたとき、自分は傍にいました・・・上官はその子を殴って
痛めつけた・・・そして、従わない場合には、その子の弟も・・・と」
聞いていきたびに、怒りがこみ上げる。
「自分は許せませんでした・・・法の守護者と、大義名分を掲げているのに
やっていることは違法組織となんら変わらない。あんな小さな子どもが
苦しんでいるのに、誰一人として止めなかった。ソレが・・・許せなくて」
その光景が浮かぶ。
上官が子供を痛めつけているのが見ていられず、意見し、そして・・・殴りつけた。
「その時、一応・・・後悔がないようにしっかり言いましたけどね・・・
“アンタたちは人でなしの集団か!!”って」
頭をかきながら、局員は照れくさそうにする。
「笑ってやってください・・・一時の感情で出世街道を台無しにしたんですから」
局員は笑ってくれ、というが・・・はやては彼を笑う事はなかった。
彼がしたことははやても賛同できるからだ。
自身の立場より、人としての感情を優先した彼を誰が笑う?
否、笑うことなど許さない・・・笑ったものにこそ、罰が与えられるべきだ。
「私は・・・あなたみたいな人は立派やと思います。捕らわれず、正しいことをできるあなたは」
褒められるべきだ、そう言おうとしたのだが・・・。
「・・・八神、さん」
突然、かすれた声でしゃべる局員。
「にげ、て」
局員の口から血がたれる。
彼の後ろには、まがまがしい殺意を放つ・・・シンが立っており
局員の腹部からはシンのアロンダイトが背中から貫かれて飛び出ていた。
「あ・・・あぁ?!」
あまりの事態に驚きの声を上げることしかできないはやて。
「爆ぜろ、ケルベロス」
だが、事態は動いている。
シンは局員もろとも、はやてを殺すつもりなのだ。
「ぐぅ・・・あぁぁぁぁ!!」
だが、ソレは局員によって防がれる。
最後の力を振り絞って、はやてを弾き飛ばしたのだ。
「あ・・・あぁ!?」
「かた、き・・・取ってください」
そう言って、局員の男はシンのケルベロスのもとに消滅していった。
彼の最後の血にぬれた表情をはやては忘れることなどできないだろう。
「ああ・・・あぁ・・・ああああああああああああああ!!!」
叫ぶはやて。
瞬時にバリアジャケットを装備し、シュベルトクロイツを構えるはやて。
「許さへん!・・・アンタを逮捕する!!」
「はやてちゃん!」

 

リインははやてとユニゾンし、はやての髪は白く染まる。
涙が頬を伝い、つり上がった目は憎しみを感じずにはいられない。
「いいぜ!?その目!来いよ!殺し合いだ!!」
はやての怒りを肌で感じ、シンは悦に浸るように笑う。
そして、シュベルトクロイツとアロンダイトは互いの心情のままにぶつかる。
「くっ!!」
だが、やはり力差があり、はやては押されてしまう。
「どうした!?その程度か!?」
はやてを弾き、何度も力任せにアロンダイトを振るうシン。
金属音が鳴り響き、いつの間にかはやてはただ受身にまわっていた。
「くっ・・・うぅ」
(マイスター!くっフリジットダガー!)
リインもはやての負担を減らすため、シンに数十の氷のナイフでシンを狙う。
「ちっ!」
いったん後ろにはねて、フリジットダガーをかわし、さらに後ろに跳ぶ。
そして、今度はアロンダイトを後方に向ける。
「爆ぜろ、ケルベロス・・・ブースト!」
アロンダイトより放たれるケルベロスの魔力砲を推進力にし、はやてに突進する。
「砲撃を推進力に!?リイン!」
「はいです!盾!」
動きをシンクロさせ、はやてとリインは目の前に障壁を作り出す。
「甘いんだよ!!」
「!?」
シンは魔力刃の部分を消し、実剣部分ではやての盾に切るつける。
「何を!?」
「お前らの魔法は・・・AMF仕様にもろいだろ?」
「まさか?!」
気づいたときには、はやての盾にひびが入り始めていた。
「お前も他の奴と一緒だ!!」
突然、シンが口を開く。
「大きなことを言って、守れないことを悔やむ!
だが、悔やんだ後はまた状況に甘んじるだけの人間なんだ!!」
はやてはそういわれたとき、頭が真っ白になる感覚を味わいそうになるが、どうにか持ちこたえる。
そして、シンのアロンダイトの刀身を押し返し始めていた。
「何?!」
「アンタは逃げてるだけや・・・自分の悲しみから目をそらすために!!」
まっすぐにシンを見つめる。
だが、シンはそれに対し何の感情も示さなかった。
「悲しみ・・・か」
呟くシン。
「お前・・・悲しみが何か知ってるか?」
「え?」
「人には感じる悲しみが百通りある・・・
自分しか感じたことのない悲しみだけだと思うなぁぁぁぁぁぁ!!」
突然、力が一気に膨れ上がる。
「なっ!」
そのまま押し切られてしまい、はやては吹き飛ばされる。
「きゃああああああ」

 

「死ね」
追い討ちをかけるように、シンはアロンダイトの切っ先をはやてに向ける。
「爆ぜろ・・・」

 

聞こえるシンの声。
吹き飛びながら聞こえてくるそれに、どうにかしなくては・・・と思うのだが
弾き飛ばされた反動で右手に感覚がなかった。
(はやてちゃん!!)
リインがユニゾンした状態ではやての名を叫ぶが、はやてはどうすることもできなかった。

 

だが。

 

突然、はやてが止まる。
後ろから誰かがはやてを抱きとめたのだ。
「だ・・・れ?」
「大丈夫か?」
ソレは、カガリだった。
カガリははやてを地に下ろすと、下がれと示唆してはやての前に立ち、シンに視線を向ける。
「久しぶりだな・・・シン」
何事もなかったかのように、声をかけるカガリ。
「ああ・・・久しぶりで悪いが、死んでくれ」
シンはこれまで以上のスピードでカガリに迫る。
だが、カガリは一歩も動かず、ドンと構えていた。
そして、懐から一つの黄金に輝く結晶体が取り出される。
「オオワシノアカツキ・・・力を貸してくれ」
(了解だカガリ)
「!?」
カガリは黄金の光に包まれて、シンの攻撃すらも遮る。
突破できぬと思い、シンは一度空に舞い上がり、上から観察することにする。

 

しばらくして、カガリはその光の中から飛び出してくる。
そのときの彼女はバリアジャケットを装備しており
そのバリアジャケットはムウのシラヌイノアカツキとまったく同じだった。
違う点は背中にあるのがドラグーンではなく、二枚の黄金のウイングがあるだけ。
それ以外はまったく同じである。

 

「行くぞシン!!」
(アンビデクストラス・ハルバート)
アスランたちと同じように二本の筒を連結させて、両端から魔力刃を精製し
左腕には巨大な盾を構える。

 

「お前も・・・デバイスを解放しろ!剣の一本や二本だけじゃ私は殺せないぞ!!」
カガリの言葉に、シンは一瞬眉をひそめるが、言うとおりにはせず、カガリに突進する。
「お前ごときにデスティニーは使わないさ!」
右にアロンダイト、左にエクスカリバーを持ちカガリに切りかかる。
「ふっ!」
だが、カガリはソレを紙一重で回避し、アカツキの推進力を最大限に発揮してシンの懐にもぐりこむ。
「速い!」
「たぁぁぁぁ!!」
魔力刃を一閃し、シンの横腹に一撃入れる。
「どうだ!?」
「・・・おい?なぜ非殺傷設定なんだ?」
「!?」
カガリの一撃はシンに確かに入った・・・手ごたえも帰ってきている。
だが、シンは微動だにしていない。
「がっかりだ」
風を切る音が一瞬聞こえると、カガリの腹部にシンの左足が直撃する。
「ガッ!」

 

さらに、両手の武器を放して崩れかかるカガリに両手を組んだまま振り下ろす。
「ぐっ!」
地面にたたきつけられてしまうカガリ。
そんなカガリにシンは容赦なく頭を踏みつけて、押さえつける。
「ハハハハ!無様だなアスハ!!どうだ?同じ世界のものに殺される感覚というのは!!」
カガリがしゃべれるように頭から足をのけるシン。
「・・・お前、ホントに捨てたんだな。今までのこと、そりゃそうか?
大切な人をお前はなくしすぎた・・・少なからず私たち・・・私も関わった」
シンは失いすぎた・・・確かに、彼は失いすぎた。
「ああ、だから俺はもう“守らない”・・・“守る”事をやめた俺がやることは一つ!“破壊”だ」
刺さっているアロンダイトに手をかけ、ソレを引き抜く。
「アスハ・・・断罪のときだ。俺の手で、お前に罰を与える」
狂気の笑みが止まず、シンはゆっくりとカガリの首に刀身を持っていく。
「言い残す事は?お前の愛するアスランに伝えてやるよ」
「・・・まだ、死にたくないな!」
にやり、と笑ってみせるカガリ。
ソレがシンを刺激したのか、シンはアロンダイトを思い切り振り上げる。
「やらせるか!!」
シンが振り下ろすより早く体勢を入れ替え、シンの顔面にけりを入れる。
そして、地面を二度はね、シンから距離を置くカガリ。
「・・・ぺっ!いい蹴りもらったぜ」
血反吐を地面に捨て、表情も厳しいものとなるシン。

 

はやてはそんな二人をずっと見つめていた。
自分が介入できないほどの戦いを繰り広げ、瞬く間に金属音や衝撃音が響く。

 

(はやて・・・ちゃん)
思わずリインが話しかけてくる。
「リイン・・・援護行くよ!」
何もできない、何もしないでいることに腹立たしさを覚えたのか、はやてはキッと前を見る。
「お待ちください」
その時、後ろから声がする。
「はやて、あたしらも行くよ」
そこには、自身のことを敬愛してくれる騎士たちがいた。
「みんな・・・」
「今、クサナギにレリックを移しました・・・
支部の人間には申し訳ありませんが、全力を賭して戦いましょう」
結果、この地が更地となろうとも。

 

カガリとシンは幾度剣を交えたかわからないほど、ぶつかり合っていた。
「くっ!」
だが、やはり力差ゆえに、カガリが押されていた。
「どうした!?限界か!?この程度でぇぇぇぇぇ!!」
カガリが受身になったことをいいことに、激しく打ち込むシン。
ソレが続いていると、次には魔力刃を手から弾かれてしまう。
「しまっ!」
「終わりだぁぁぁぁ!!!」
自身の勝利を確信し、シンは狂気の笑みを浮かべて斬りかかる。

 

「させるか!!」
だが、ソレは青い毛並みの狼に防がれる。
「くっ!犬風情が!!」
「犬ではなく、狼だ!そして、主のための誇り高き、守護獣だぁぁぁ!!」
シンの攻撃を気迫で弾き飛ばし、カガリを後ろに下がらせる。
「お、お前!」
「提督・・・忘れてはいけません。
あなたは上に立つ人間・・・ソレがかけたとき、組織の瓦解を示すということを」
そう言われてはっとする。
「・・・すま、ない」
カガリもまた目先に捕らわれすぎて根本的なことを忘れていた。
ソレを深く反省する。
「だが!私は今、アイツを知る一人として戦っているんだ・・・すまないな、こんな上官で」

 

今度はしっかりとソレを刻み、戦う。
「詫びることなどありません・・・あなたがお決めになられたのでしたら
私たちは何も申しません」
シグナムがレヴァンティンを構えてそういうと、後ろからヴィータがアイゼンを持ちながらやれやれ、といっていた。

 

「・・・神に祈ったか?」
シンはアロンダイトとエクスカリバーを構え、今から起こる戦いを楽しもうとしていた。
「シン・・・終わらせてやる。お前の戦いの日々を!!」
カガリは右手に魔力刃、左手には銃のようなものを取り出す。
(ヒャクライ充填率92%・・・サーベル問題なし、いけます)
アカツキがそう言うと、カガリも了承し、構える。

 

「やって見せろ」
そのシンの一言が、きっかけとなりそれぞれが地面をける。

 

「ラケーテン!ハンマー!!」
最初にヴィータが突っ込む。
「はっ!」
だが、ヴィータのラケーテンハンマーはエクスカリバーに弾かれてしまう。
「たぁ!」
今度はシグナムがレヴァンティンを両手で振るう。
さすがにシンははじけず、レヴァンティンをアロンダイトで受け止める。
「レヴァンティン!」
(エクスプロージョン!)
刀身に炎がともり、さらに重圧をかけるシグナム。
「く・・・お前、前より強いな!!」
アロンダイトに軋む音が響く。
「騎士としての誇り・・・そして、敗北を知ればこそ!!」
裂帛の気迫にシンは本能からか、アロンダイトだけでなく
エクスカリバーも使ってシグナムを弾き飛ばそうとする。
「はっ!横ががら空きだぞ!シン!!」
「!?」
シグナムに対抗するあまり、カガリが横からの攻撃に気づかなかった。
(カートリッジロード・・・ヒャクライ・バスターシフト)
カガリの持つヒャクライからカートリッジが3本消費され
ヒャクライの銃身の先に砲撃魔法の術式が展開される。
そして、カガリは引き金を引き、まっすぐにシンめがけて砲撃が飛ぶ。

 

この時、シンはすべてがスローモーションに感じていた。

 

─あれ?どうしたんだ?
何が起こっているのか、シンはここに来てはじめて何かを感じる。
─こんなもん・・・全然気にしないのが、俺じゃないのか?
だんだんと怒りがこみ上げてくる。
─“破壊”だ!全部“壊す”!!俺が“壊さなきゃ”・・・ソレが俺の存在意義だろう!?

 

「ああああああああああ!!」
カガリの砲撃が到達する前に、シンは咆哮する。
「!?」
ソレが影響してかはわからないが、シンの周りに強固なAMFが展開される。
「なっ!?」
砲撃魔法もそのままかき消され、シグナムも弾かれてしまう。
「なんだと!?」
驚きの声も虚しく、シンの追撃をくらい後ろに吹き飛ぶ。

 

「“破壊”は平等なんだ・・・そうだ!!」
突然、ハイスピードでシンは地を蹴る。
「お前から・・・“破壊”してやるぁ!」
シンが最初に標的にしたのは、はやてだった。
猛スピードで迫るシンにどう対処すべきか迷うはやて。
その迷いの間にシンははやての間合いを侵略していた。
「くっ!」
シュベルトクロイツを盾にしようとするが、とっさのことだったのですぐにシンに弾かれてしまう。
「死ねぇ!!」

 

迫り来る凶刃に、はやては悲鳴を上げることも、防御の姿勢をとることも
目を閉じることもできなかった。

 

まさしく、死ぬ間際というものだった。
死ぬ間際に今までのことが流れるというが、はやてはまだ見えず死の実感がわかなかった。

 

ソレもそのはず・・・はやての前に一人、盾になるものが現れたのだから。
そして、その者ははやてにこう言った。

 

「生きて、シンを止めてくれ」

 

同時・・・だった。
ソレがはやてに言い放たれると同時に、その綺麗な金髪に赤い液体が付着した。

 

その人物は・・・カガリだった。

 

シンの凶刃を彼女はその身で受けたのだ。

 

はやての・・・代わりに。

 

「あ、あ・・・アスハ提督!!!!」

 

はやての絶叫が虚しくも悲しく、空に響き渡った。

 

カガリはその身にシンの凶刃を受けた。
ソレが彼女に対する罰だというのか?
シンは“破壊”すると言った。
では、彼は次は何を“破壊”するつもりなのだろうか?
彼が口にする“破壊”とは・・・。

 

次回 夜の天気は“雨”

 

最後の王よ、今は存分に泣け。