Lyrical DESTINY StS_第14話

Last-modified: 2008-04-05 (土) 23:45:23

目の前で人が死んだ。
ソレは、誰の責任なのか?
守られたことが責任なのか?
そんなはずはない。
守った者の意志が尊重されれば・・・ソレは。

 

「生きて、シンを止めてくれ」

 

血が地面にポタポタと落ちる。

 

はやては、今起こっていることから逃避したい気分だった。
どうして、自分のために目の前にいる人が犠牲にならなくてはならないのか。
不思議でたまらなかった。
だから、叫んだ。
「アスハ提督!!!」
はやてのほうに倒れこんでくるカガリ。
抱きとめるはやて・・・その拍子にカガリの血が手に、バリアジャケットに付着する。
「あ・・・」
あまりの出血量に顔を蒼くするはやて。
「・・・アスハ」
だが、シンには動揺は見られず、むしろカガリを斬ったことに喜びのようなものを感じている。
「ふふ・・・」
カガリはまだ意識があるのか、笑みを浮かべる。
「何が・・・おかしい?」
その笑みが気に入らないのか、シンは目を不気味なほど見開く。
「よか、た・・・な?」
カガリは笑った・・・最後の最後というのに、シンに対し笑顔を見せたのだ。

 

「そこまでだ!“赤い翼”!!!」
突然、上空から声がする。
バーンの声だ。

 

シンはゆっくりと上を見ると、そこにはすでに武装したバーンがいた。
両手には巨大な砲撃武器を手にして。

 

「いくぞ、スカイグラスパー」
(了解・・・出力70%。ターゲットインサイト)
どうやらソレは、バーンが持つデバイスのようで、しっかりと返事も返していた。
「メルクーア!」
バーンはメルクーアの名を呼ぶ。
「わかってる!」
すると、いつの間にかメルクーアははやてたちのすぐ横にいた。
「!?」
シンも気づいていなかったのか、メルクーアの存在に驚く。
「アヴェンジャー・・・転移開始、座標・・・固定」
メルクーアの右耳にあるピアスが反応する。
ソレと同時に、三人を一瞬で転移させる。

 

転移が終了したことを確認すると、バーンはシンを狙う。
「行け!アグニ!!」

 

高エネルギーが砲身に一気に圧縮され、ソレが砲口から
あふれ出すように放たれ、上からシンに降り注ぐようにして向かう。

 

バーンの放ったアグニはシンに当たったかに見えた。
だが、ソレは違った・・・よく見れば、アグニのエネルギーが四方に拡散している。
「なんだと!?」
さらによく見れば、その中心部・・・シンがアロンダイトで苦悶の表情一つ
浮かべず、受け止めているのだ。
「馬鹿な!?」
「・・・爆ぜろ、ケルベロス」
さらにシンはエクスカリバーのほうで、ケルベロスの術式を展開し、
撃ち返す様にアグニの光に対してソレをぶつける。
シンのケルベロスはアグニと同等以上の威力を発揮し、少しずつ押し始める。
「スカイグラスパー!対処任せる!」
(了解・・・バスターキャンセラー発動)
「!?」
バーンはなんと、押し返される前にシンの砲撃ごとアグニの光も消し去ってしまう。
「何をした?」
不愉快そうにシンはバーンを睨みながら言う。
「俺のデバイスにはバスターキャンセラーって言うシステムが
搭載されている!これにかかれば、砲撃魔法は俺に通じない!!」
別段興味がなさそうに、シンは視線を目の前にやる。
そこにあるのは・・・カガリの血がついた地面のみ。
「・・・ち、やりにくいな」
バーンはシンを見てそう思った。
ソレが、なぜなのかわからない・・・ただ、自信からかもしれないのだが、
シンは今無防備なのだ。
無防備な状態でただ視線を固定していた。

 

「おい!そこの!!」
数秒たってから、シンが上空にいたバーンに声をかける。
「レリックはどこだ?」
「言うわけ・・・ないだろう!!」
シンの問いかけに勢いをつけて返答し、かつ一気に急降下を始めるバーン。
「スカイグラスパー!ソード!!」
(シュベルトゲベール)
バーンの声に、スカイグラスパーは反応し、形を砲門から剣に返る。
「こっからは俺がやる!レリック発動!エモーションリンク開始!!」
(了解)
スカイグラスパーが了承すると、突然バーンの魔力の奔流が変わる。
そして、バーンの瞳が黒から一気に金へと変わる。
まるで、戦闘機人のように。

 

「レリック・・・ヒューマン」
シンがバーンを見てそう呟く。

 

ソレと同時に、シンもアロンダイトとエクスカリバーを構える。
「来い!殺してやる!!」
再びその顔を狂気の笑みに染めて、シンはバーンと対峙する。

 

その頃、メルクーアによりはやてとカガリは支部内の医療機関に転移していた。
「医療班!すぐにアスハ提督の処置を!!」
呆然としているはやてに変わり、メルクーアが指示を出す。
「了解!全員急げ!命がかかっている!!」
支部といえど医療班の対応は早く、なれているかにも見えた。

 

用意された処置室の電灯に明かりがともり、メルクーアとはやてが扉の前に残された。
「・・・辛いでしょうけど、まだ戦いは終わってないわ?行きましょう?」
戦うことを示唆されるが、はやては・・・まだ、未練のように扉の前に張り付いた。
「はやてちゃん・・・」
リインもユニゾンを解き、はやての前に現れる。
はやては反応しない。
ただ、震えて自身の手についたカガリの血を見つめて、震えるだけだった。
「・・・くっ!」
痺れを切らしたメルクーアははやての頬に平手打ちをする。
パシン、と音が響きはやても殴られた場所を押さえる。
「今!アンタがしなくちゃならないのはそんなことじゃないでしょ!?」
頬の痛みからようやく我に返る。
「あ・・・す、すいません」
「しっかりしなさい!あなたも・・・管理局の人間でしょう?」
メルクーアの言葉にはっとする。
そうだ、はやては・・・失っても、やはり進まなければならない・・・
これが、管理局に身を置くもののなすべきこと。
「・・・わかってます!!」
ようやく搾り出したその言葉に、一体どれほどの妥協があったのだろう。
だが、戦うことに妥協はできない。
はやてはもう、引き返せないのだから。

 

メルクーアの転移魔法により、すぐに二人はシンがいるであろう場所に向かった。
景色が一瞬で変わると、そこでは激戦が繰り広げられていた。

 

「シグナム!」
その激戦を傍観していたヴォルケンリッターたちにはやては駆け寄る。
「あ、主はやて・・・」
シグナムの横に立ち、二つの魔力が激しくぶつかるさまを見つめる。

 

シンはすでにデスティニーを開放し、おおよそ目で捉えきれぬ動きをしていた。
バーンもシンと互角ではないか、と思えるほどの動きでそれについていく。
「だぁ!!」
シンの刃を必死に防ぐバーン。
「ぐっ!・・・のやらぁ!!」
やられっぱなしではなく、バーンもシンに対抗する。

 

ガキンッという音とともに、何かが地面に突き刺さる。
シンのエクスカリバーの刀身がバーンの一撃で砕かれたのだ。

 

「!?」
バーンはしてやったりという顔でシンを見たのだが、その時シンの拳が顔面に迫っていた。
「ガッ!」
よけられず、バーンはシンの拳を顔面に直撃させてしまう。
「どうしたぁ!?武器を一つ壊したから勝ったつもりでいたのか!?」
シンはエクスカリバーが折れたことなどまるで気にせず、アロンダイトを構えていた。

 

「ぺっ!そんなつもりは毛頭ないさ!!」

 

口の中の血反吐を吐き、バーンは再びシンに迫る。
「たぁ!!」
バーンのシュベルトゲベールをアロンダイトで受け止める。
「・・・お前、飽きたよ」
「なら、次行くぜ!!」
シンはバーンに対し、飽きという感情を持ち始めていたが、
バーンもそれに近い感情を抱いていたようだ。
「・・・?」
「フルジャケット!!」
バーンが叫ぶと、突然バーンのバリアジャケットが光を放つ。
光の中で、バーンはバリアジャケットの再構成を行っていた。
両手に手甲をつけ、左腕には手甲の上に、大きな盾。
右腕にはシュベルトゲベールはもちろん、さらにソレを落とさぬよう
固定するかのように、手甲が肥大化し、まるで人体と同化しているようにも見える。
さらに、背中に何かがそのままつながっており、そこから長距離用砲門が顔を出している。
「・・・まるで、機械だな」
シンの評価はその程度だった。
「一応、人間さ!!」
重武装をしているくせに、バーンの動きは今までと変わらず、驚異的なスピードだった。
「だぁぁぁぁぁ!!」
「そのてい・・・なに!?」
シンが驚きの声を上げる。
バーンに対し、行動を起こそうとしたのだが、その腕が動かず、また体に違和感があったのだ。
「これ、は?」
シンの四肢すべてに赤い光の粒子が渦巻いていた。
ソレが彼を束縛しているのだ。

 

「ゴッド・プリズン」
その少し離れた場所で、メルクーアはそう呟いた。
彼女も自身のデバイス・アヴェンジャーを起動させ、足元に魔方陣を展開していた。
「トラバント一等空佐、それは?」
はやては彼女の横にいて、ソレを見て驚いていた。
初めて見る魔法に興味と恐怖を抱いているのだ。
「秘匿事項よ・・・今見ていることは自分自身の中にしまっておきなさい」
そう言ってメルクーアははやての問いかけすら一蹴し、ただシンの動きを封じることに全力を尽くす。
メルクーアのアヴェンジャーは待機モードのピアスの形から
デバイスモードである少し短い目の杖型のデバイスに変化している。
(敵の動きを封じる、または拘束に特化したインテリジェント・デバイス・・・
アヴェンジャー・・・私とこの子の能力なら、敵を100%拘束仕切ることができる!)
そして、シンにまとわりつく赤い粒子と同じようなものを杖先に纏っている。
おそらくは、アヴェンジャーの能力に関係しているのだろう。

 

「もらったぜ!“赤い翼”!!」
動きを止めたシンにバーンは突っ込む。
「デスティニー!!」
仕方なく、デバイスを完璧に起動させようとするシンだが、更なる異変が彼に訪れる。
「・・・ちぃ!デバイスにまで干渉するのか!この光は!!」
完全に反応しないデスティニー・・・今、まさしくシンは絶体絶命のときを迎えているのだ。
「たぁ!」
シンの腕からアロンダイトを弾き飛ばす。
そして、再び振りかぶるバーン。

 

「報いを受けろぉぉおおおおおおおお!!」
シュベルトゲベールの刃がシンの頭上に迫る。
シンにとって、ソレはとてもスローモーションに見えた。

 

なぜなら・・・。

 

「レリック・・・起動」
呟き紡がれるその言葉。
その瞬間、世界から・・・音が消えたような感覚が刹那、感じられた。

 

光が唸り、疾風のように・・・シンはバーンの前から消えた、
と傍観していた者たちはそう思えるだろう。
だが、シンは消えたわけではない・・・移動したのだ。
誰にも感知されず、バーンの横を通り過ぎたのだ。

 

・・・バーンのシュベルトゲベールを持つ右腕を切り落として。

 

バーンは一瞬の出来事だったが、かろうじて反応していた。
だが、頭で理解できていても体がついていかなかった。
「ぐ・・・うぅ・・・馬鹿な!?メルクーアのゴッド・プリズンを、は、跳ね除けただと!?」
激痛が上り、バーンは目尻に涙をためて、これを必死にこらえる。

 

「・・・レリック、見つけたぜ」
そして、シンはレリックの反応を見つけると、バーンから興味をなくし、反応のほうを追う。

 

その先にあるのは・・・X級5番艦クサナギだった。

 

─クサナギ・ブリッジ─

 

「“赤い翼”本艦に急速接近!!」
シンの接近にブリッジのオペレーターたちは少なからず不安を抱く。
「迎撃は間に合わない!各員は白兵戦と最悪の事態の脱出準備!!」
「りょ、了解!」
とは言うものの、クサナギに乗艦しているのは一般局員と少しの武装局員のみ。
それでシンを迎撃するのは事実上不可能なことだった。

 

激しい轟音がクサナギに響く。
「艦長補佐!左舷に“赤い翼”が侵入しました!」
「“赤い翼”は内部にて魔力砲を放った模様!第8ブロック大破!」
「目標がレリック保管室に接近!!」
オペレーターたちから伝えられる事は、信じがたいが、事実。
この絶望的な状況を誰が救えるというのだろうか?

 

レリックの保管室前ではクサナギ武装局員最後の攻防が繰り広げられていた。
「ここを突破されるわけにはいかん!全力でやれ!!」
「やってます!!」
指揮する側も、される側も必死。
もう退路はなかった。

 

無数の魔力弾がゆっくりと歩くシンに向かうが、シンはソレをものともしない。
局員が放つ魔力弾はシンに当たっているが・・・ソレが弾かれるように見える。
「くそっ!化け物めぇ!!」
もはや、何も通じないのかと局員の中にはあきらめ始めるものも出てきている。
「あきらめるな!俺たちは・・・守らなければならないんだ!!」

 

「・・・爆ぜろ、ケルベロス」
虚しく、シンの言葉が響いた。

 

そして、赤い砲撃は一瞬で防戦していた局員たちを灰にし、この世から消し去った。
「断末魔の一つもなく、消え去る気分って言うのはどんなんだろうなぁ?」
狂気の笑みを浮かべ、シンはすたすたと歩く。
舞う灰は先ほどまで人の形を成していたとは思えないほど、跡形もなかった。
シンはその灰の一つ一つを踏みしめるように、進んだ。
帰り道を消すかのように。

 

シンがたどり着いた部屋には、厳重なロックがかかっていて、
一等尉官以上でなければ開かないものだった。
「小賢しい」
にやりと笑ってアロンダイトを振り上げ、思い切り振り下ろすシン。
瞬間、扉は音を立て砕けていく。

 

「・・・あった」
そして、その奥に輝くレリックを見つけたシンはこれ以上ないほど、喜びに顔をゆがめていた。
シンは近づいていく。
シンに呼応するかのように、レリックも光を増していく。
「フフッ・・・反応しているのか?俺に?」
胸に手を当て、目の前のレリックに問いかけるようにシンは言った。
ソレこそ、彼がレリックを体内に宿す証なのだろう。

 

シンがレリックに手を出そうとしているとき、下のほうでは、
バーンとメルクーアが次の手に出ていた。
「大丈夫なの?バーン」
「痛いが・・・今は任務を優先する」
バーンの身を案ずるメルクーアだが、それ以上は何も言わない。
彼らにとって任務が最優先ということなのだろう。
結果として自身が命を落とそうとも。

 

「メルクーア、トリガーは任せる・・・俺は砲身、お前は砲手だ!」
メルクーアにすべてを譲渡し、バーンは魔力精製のみに意識を集中させる。
「待ってください!まだクサナギには局員が!!」
そこに、はやてが意見する。
当然だろう・・・まだ退避しきっていない者たちがいるクサナギにこの距離から
狙い撃てば、クサナギは事実上沈むことにもなりかねない。
「今現状でするべきことはそんな心配じゃない」
だが、はやての制止は彼らに受け入れられなかった。
「優先するべきは“敵”の確保、もしくは殲滅・・・
少しの犠牲で最悪の事態がしのげるのならば、それにこした事はない」
冷たい視線で、はやてに言うバーン。
メルクーアも頷いている。
「けど・・・命はそんなに簡単に失っていいものやないはずです!!」
「・・・あなたは、何を言っているの?八神二等陸佐」
メルクーアが厳しい視線ではやてを射抜く。
「え?」
その視線に背筋が少し凍る感覚が走る。
「戦いにおいて、失わないなんて事はないのよ?」

 

正論だが・・・はやてはやはり納得ができない。
「失わないことを求めるのがいけないことなんですか!?」
声を張り上げ、はやては叫ぶ。
だが、二人は動じない。
「・・・八神二等陸佐、君を一等空佐の権限で拘束命令発令。
本任務からの即時撤退を言い渡す」
冷めたような言葉がはやてに向けられる。
その瞬間、はやては何をいわれたのか理解するのに数秒かかってしまう。
「聞こえなかったのか?ここから逃げ帰れと言っている」
バーンははやてに視線を向ける。
切り落とされた腕の痛みのせいで、息は荒く、尋常ではないほどの汗を浮かべている。
「わ、私は・・・」
「・・・シグナム二等空尉、ヴィータ三等空尉
リインフォースⅡ空曹長、八神二等陸佐を連れて、帰れ」

 

ここは、俺たちでかたをつける・・・そう言って、バーンは視線をクサナギに戻す。

 

「・・・主」
シグナムははやてになんと言葉をかけていいのかわからず
悲しい瞳ではやての後姿を見つめる。
「ちょっと待ってくれよ!あたしらは!」
ヴィータも堪えきれず、バーンたちに意見を始める。

 

「メルクーア、アグニのチャージは終わった・・・後は照準を合わせるだけだ」
だが、バーンは彼女の言うことをまったく耳に入れてない。
もう彼の中ではやてたちは戦場に不要な存在となってしまったのだろう。
しかし、そんな彼にもなぜか・・・脳裏に自身が経験した覚えがない映像が駆け抜けていた。

 

(スカイグラスパーで出ます!このままじゃ危ないですよ!)

 

危険を省みず、走った瞬間。
「・・・ぐ!」
ソレは、バーンに頭痛となって現れる。
「どうしたの、バーン?」
魔力制御にまでソレが現れ、思わず問いかけるメルクーア。
「なんでも・・・ない!」
まるで、自身の中に“いない自分”が今を“否定”しているような感覚。
ソレがバーンの中にはあった。
だが、彼はソレを無理やり押し殺し、魔力を解放する。
「メルクーアァァァ!!」
トリガーをひけ!といわんばかりに、彼女の名を叫び、一気に魔力砲にエネルギーが満たされる。
「了解!!」
メルクーアは少しのためらいを持ちつつも、照準を合わせる。
合わされた照準にはシンの隠し切れないほどの殺意と魔力。
それに向け、アグニの光は発射される。

 

その瞬間は、その場にいた全員が静かに見守るしかなかった。
クサナギに直進するアグニの光。

 

そして、数秒後にアグニの光はクサナギを貫き、上艦板を貫いて空をかけていった。
ソレにより、クサナギは中心部から爆発が始まり、今にも落下してきそうな勢いだった。

 

「・・・避難状況は?」

 

はやてが目の前のことにようやく声を絞り出し、横にいたシグナムに問いかけた。
「白兵戦が内部で行われていた模様・・・おそらく、脱出者は今から行っても数十人がやっとです」
はやての気持ちを汲んで少しでも多くの生存者がいることを願うシグナム。

 

「・・・!?」
そこに、シャマルが何か異変を感じ取る。
「艦内中心部に魔力反応・・・これ、あの人の反応だわ」
それにははやてたちだけでなく、バーンとメルクーアも反応する。
「馬鹿な・・・」
バーンは信じられないといった感じで大破したクサナギを見つめる。
「最大出力で放ったんだぜ?アイツ、マジで人間の枠超えてやがる」
もはや落胆するしかなかった。
自身の最大威力の攻撃を放っても、なお防がれた。
これが何を意味するのか、バーンとメルクーアは理解するしかない。

 

「あれ!!」
すると、ヴィータが何かを発見したのか上を指差す。
そこには、機械的な赤い翼が広がり、輝く光が見えた。
「・・・“赤い翼”?」
その光景に、思わず全員見とれてしまっていた。
輝く赤い翼がただどこまでも美しく、戦火に似合わない色をしていたからだ。

 

燃え上がる炎の中、赤い翼は消えていく。
ソレと同時にシンの反応がその場から消えていった。

 

「目標を・・・ロスト」
シャマルが残念そうにいい、その場にはやはり敗北感がただよった。

 

クサナギは脱出可能人数を脱出させ、パターンCの発動により消滅。
結果として管理局側は大打撃を受ける結果となってしまった。

 

戦死者43名。
重軽傷者100名以上。
X級艦船の撃墜。
どれをとっても、管理局に大打撃となるものだった。

 

今、はやてたちは医務室・・・バーンが運ばれた医務室の前にいる。
「アンタたちの所為よ!!」
高く張り上げられた声が響く。
メルクーアの声だ。
「アンタたちが命令に従わず、個人の感情を優先させた所為でこんな結果になった!」
バンッ、と壁に手をたたきつけ、はやてたちを睨むメルクーア。
「バーンの腕も、すべて!!」

 

メルクーアは目尻に涙をためている。
ソレは、おそらく彼女がバーンをどう思っているのかを示しているのだろう。
「やめろ、メルクーア」
すると、今までベッドに寝ていたバーンが口を開き起き上がる。
「けど!」
「俺のミス・・・そして、敵の力が強大だった。それだけだ」
悔しそうに、右腕があった場所を押さえて言うバーン。
それにはメルクーアはもちろん、はやてたちも辛い。
「それに、俺は“大丈夫”だ」
バーンはメルクーアに視線を合わせ、その言葉に意味をともす。
ソレは彼らにしかわからないやり取り。
今のはやてたちには理解することのできないことだった。
「・・・わかったわ」
メルクーアはしばらくバーンの傷を見ていたが、そう口にしてはやてたちのほうに向き直る。
「八神二等陸佐以下・・・事後処理をして来なさい。
今回の件は状況不安によるものとし、処罰は下しません。以上」
メルクーアの言葉に、はやてたちは恐る恐ると顔を上げ、安堵する。
ソレは、メルクーアとバーンが優しい顔をしていたからだった。

 

そして、八神家一同はその場を後にする。

 

「・・・ごめんな?」
はやてたちが去った後、優しい声がした。
「どうして謝るの?」
バーンの謝罪に笑みをこぼすメルクーア。
「・・・俺たちは戦うためだけに生み出された。
存在理由もひどくあいまいだ・・・だけど“元の”世界の想いがあるから戦える」
バーンの穏やかで優しい表情。
もし、CEの世界の人間たちが見たなら、思うのだろう・・・トール、と。
「そうよね・・・私も、あなたがいたから“自分”がある」

 

もしかしたら、二人の中にはいるのかもしれない・・・
“トール・ケーニヒ”と“フレイ・アルスター”が。

 

その頃、はやては事後報告の後、カガリの容態を確かめに行っていた。
カガリは集中治療室で死んでいるかのように、眠っていた。
「・・・アスハ、提督」
悔しさからか、はやては思いっきり歯を食いしばりその感情をにじませていた。
「主・・・自分を追い詰められても、何も戻ってきません」
後ろにいたシグナムが言うと、ヴィータも視線をそらし俯く。

 

「・・・私は、また守られてしもた」
ふと、はやてが言葉を漏らす。
それには、大量の悔恨がこもっているのだろう。
「どんなに頑張っても・・・まだ、守られる側なんかなぁ?」
振り向かない。
はやては後ろにいる自身を敬愛し、自身が敬愛する騎士にそう尋ねた。
「はやてちゃん・・・」
リインも不安そうに、また心配そうにはやての背中を見る。
「答えて!!」
声を荒げて、涙は頬を伝い、唇を噛み締めて。

 

リインはこの時、考えていた。
どうすれば、この人の心を・・・こんなに悲しんでいる主を助けることができるのだろうか?と。
(お前は、お前ができることを精一杯しているじゃないか?)
「!?」
その時、どこからともなく、声が聞こえた。
ソレはリインのみにしか届いていない。
シグナムとヴィータの顔を見渡しても、二人は悲しい顔をするだけ。
(だ・・・れですか?)
声に問いかけた。
(今はもう・・・空に還った者だ)
悲しい声。
だが、リインはこの声を知っている。
(リイン・・・フォース?)
その名前を口にしたとき、鼓動が走り、意識が遠くなっていった。

 

はやては返答を待った。
自分にはもうわからない、だから彼女たちに答えを求めた。
「守られることが、そんなに悪いのですか?」
「!?」
だがそこに、誰の声かわからない・・・否、わかっている。
忘れたことなど一度もない、懐かしい声が聞こえた気がした。
「リイン・・・フォース?」
振り向く。
そこに、その人の姿はなかった。
だが、代わりに自分の今のパートナーである蒼天をいく祝福の風がいた。
リインは優しく笑っている。
その瞳は、今はもういない・・・彼女と同じ赤い瞳に染まっていた。
「主・・・はやて。守られる事はそんなに悪いことなのですか?」
笑顔が消え、今度は厳しい表情でリインは問いかける。
「え・・・あ・・・」
はやては返答に困った。
「あなたは、守られる存在です・・・そして、守る存在でもある」
迷うはやてにリインは優しく、そして厳しく諭す。
はやてが答えにたどり着き、これからを歩いていくために。
「リイン・・・フォース」
彼女の言葉が、彼女の存在が・・・今のはやてには

 

耐え切れなかったのか、大粒の涙を地面に落とす。
「わた、私は・・・あなたを守れへんかった!
たくさんの幸せを、えぐっ・・・あげたかった!」
次々とあふれ出てくる涙を拭いながら、はやては言葉を紡ぐ。
そんなはやてに一瞬目を見開いて、すぐに優しい顔をし・・・笑う。
「前に言ったはずです・・・私はもう、“世界で一番、幸福な魔道書”だと。
あなたたちといる夢を見ても、叶う事はありませんでしたが、私はそれでも・・・幸せでした」
これまでにないほどの優しい笑顔で彼女はそういった。
そして、目を瞑り、最後の言葉を紡ぐ。
「さようなら、我が主・・・そして、強く生きてください・・・守護騎士たちとともに」
リインの小さな体が浮遊状態から落下し始める。
「っと」
ソレをヴィータが両手で受け止める。
「・・・不甲斐ない我々に、仕方なく言葉をかけたくなったのでしょうね」
シグナムが言う。
はやても、ソレを理解し・・・大きく頷く。

 

夢を見ていた。
かつてと同じ、明るい笑顔の女性の夢。
「リイン・・・フォース」
彼女はそう呟く。
「・・・・・・・・・・」
彼女が何かを自分に呟いている・・・だが、聞こえない。
言い終わると、彼女は優しく笑った。
それにつられてか、自然と彼女も笑った。
「・・・ありがとう」
笑う彼女にお礼の言葉を呟いて、彼女は瞳を閉じた。

 

「・・・ん」
リインはヴィータの掌で目を覚ます。
「起きたか?」
ヴィータもリインがおきたことを感じて、彼女に声をかける。
「はい、です」
リインも笑顔で返事し、つられてヴィータも笑う。

 

その日の夜は、天も涙すると言える“雨”が降った。
それにつられてか、悲しむ者も、喜ぶ者も、ささやかに涙を流していた。
だが、その涙もいつかは・・・笑顔になるのだろう。
ソレが彼女が望むことだから。

 

─???─

 

「シン兄!!」
リリウェルがとても心配そうな声を上げる。
シンは帰ってきた。
その手に二つのレリックを持って。
「うるさい・・・俺に近づくな!」
声を張り上げてリリウェルを自身から遠ざける。
シンは額から血を流していた・・・リリウェルはその血が怖くて、たまらなかったのだ。
「失敗、したのかい?」
シンが歩いていく先に、ラウルが複雑な顔をして立っていた。
「・・・四つあったレリックの二つを敵の魔力砲が直撃して、暴発した」
ガシャン、とレリックを投げて、シンは奥に歩を進め、ラウルの横を通り過ぎていった。
「お疲れ様」
通り過ぎるシンにその言葉を送り、ラウルはシンが持ってきたレリックを拾う。
「博士・・・」
リリウェルがラウルに不安そうに寄りかかる。
「リリウェル、心配は要らないよ」
優しくリリウェルを抱き寄せて、彼女の頭をなでるラウル。

 

(ロートとフィルの戦闘データ、シンのこれまでのデータを使えば
目覚めてくる三人もそれなりに戦える・・・それなりに)

 

今後の算段を立てつつも、ラウルはリリウェルをつれてまだ目覚めていない三人のところに行くのだった。

 

考え事をしていると、ラウルは時間を忘れるくせがある。
すでに彼は目的の場所である部屋についていて、壁に当たっていた。
「いた・・・」
「ドクター、かっこ悪い」
横にいたリリウェルからもそういわれて、少しへこむのだった。

 

「いやはや・・・治りませんね、そのくせ」

 

すると、声が前方からラウルたちに向けて発せられる。
ふと、二人が前を見ればそこには緑色の髪をした青年が一人立っていた。
「やぁ起きたのか・・・おはよう、グラウ・レーゲン」

 

呼ばれてグラウもにっと笑い、おはようと返す。
彼もまた、今は失われた命・・・スティング・オークレーと同じ顔をしていた。
「グラウ、オハヨ~!」
リリウェルはうれしそうにグラウに駆け寄り、グラウもまた
駆け寄ってきたリリウェルを抱き上げる。
「おはようリリウェル。お前はやっぱり小さいまま・・・か」
どこか切なげな笑み・・・だが、それ以上はなく、別に意味を持っているわけでもない。
「リリウェルは戦わなくていいんだ・・・
ただ、私たちの帰りを待っていてくれれば、それでいい・・・そうだろ、グラウ?」
後ろにいたラウルも同意を求めるようにグラウに語りかける。
「そうだな。俺は・・・俺たちは・・・“生きている”んだからな」

 

彼らは“生きる”ことに対して、希望を持っている。
誰よりも“死ぬ”恐怖を抱いている。
他人を犠牲にしても生きている。
ソレは・・・客観的にみれば、間違いだろう。
だが・・・幸せになりたいと、願って何が悪い?
人として・・・命を持って生まれてきたのなら、幸せになりたいと願う心は間違いなのか?

 

そんなはずはない。
それなら、管理局の守るものすら否定することになるのだから。
「俺たちは選んだんだ・・・自分の幸せと・・・“リリウェルの幸せ”をな」
やはり、切なさを感じさせる笑みをするグラウ。
彼もまた、何かを抱えて生きているのだろう。

 

その後、グラウの目覚めを祝い、他の者たちも喜びの声を上げた。
彼らは兄妹のようなもの。
ラウルはそんな彼らの父親、といった感じだ。
見て取れる事は、スカリエッティと似ている・・・と取れる。

 

「さすがに第19管理世界のレリックは本局に回収された。さて、どうするかな」

 

そんなことを考えながら、ラウルはまだ目覚めぬ二人のポッドを見つめていた。

 

それぞれが、結果を考察する。
こうしていれば、と叫ぶものもいる。
だが、ソレに大した意味なんてない。
彼らは戦わなければならないのだから。
たとえ、結果が血にまみれていても。

 

次回 嘆きの“少年と少女”

 

ただひたすら求めた強さ・・・どうすれば、手に入りますか?