Lyrical DESTINY StS_第15話

Last-modified: 2008-04-11 (金) 21:53:05

ねぇ?
僕を助けてくれたあなた。
どうしていないんですか?
そう問いかけても、答えは帰ってこない。
どうすれば、答えは帰ってきますか?
こんなに弱い僕をあなたはしかりますか?

 

─時空管理局本局・医務室─

 

ベッドの上に座っているエリオとそのすぐ傍の椅子に座っているキャロ。
「エリオ君、かなり無茶しちゃったね?」
キャロはりんごの皮をむきながら、エリオにそう言う。
「ハハ、フェイトさんが見たら・・・やっぱり叱られちゃうかな?」
笑いながら、エリオは頭をかく。
「わかんない・・・けど、大丈夫。叱られるときは私も一緒だよ」
そう言って、キャロは切ったリンゴをエリオの口元に持っていく。
「あ、自分で食べられるよ・・・キャロ」
エリオは恥ずかしそうに言う。
「いいの!はい、あーん!」
キャロも引く様子を見せず、エリオの口元にリンゴを固定する。
「・・・あーん」
観念したのか、エリオは口を開き、リンゴを口に入れる。
「どう?美味しい?」
エリオがリンゴを食べたのがうれしかったのか、キャロはエヘヘと笑いながら感想を聞く。
「うん、美味しい・・・よ?」
「良かった!じゃあもう一つ!」
そのやり取りはリンゴがなくなるまで続いた。

 

「・・・ねぇキャロ、あの人達との戦いで・・・もしさ、
命よりも別の何かを選んだ場合、どうする?」
エリオは一息置いて、そんなことを口にした。
ソレは、この先を戦い抜くために彼が必要だと、そう判断したのだろう。
「・・・・・・私は、一緒に行くよ?エリオ君と私、ソレにフリードも!皆、仲間だから!」
キャロの答えに、エリオはまるでわかっていたかのように、笑みを浮かべる。
「ありがとう」
そして、最大の誠意を込めてエリオは感謝の言葉を口にした。
「ソレに、ね・・・ストラーダが教えてくれたんだ。フォルムフィアーの
危険性と・・・その先の、こと」
キャロが視線を外しながら言う。
「できることなら、使わないで欲しい・・・だって、私はエリオ君のこと・・・」
「僕は!・・・戦うよ。キャロのこと、守りたいから」
キャロの言葉を遮って、エリオは言う。
エリオの言葉もキャロの言いかけたこともきっと意味は同じはずだ。
少年と少女はそれほどに心を通わせているのだから。

 

─???─

 

「本局に攻め入る」
ふと、食事中に言うグラウ。
ソレを聞いたラウルたちはリリウェルを除いて全員が噴出す。
「何いってるんだよグラウ!!」
ロートが口元を拭いながら叫ぶ。
「そうだぞグラウ。いくら何でも本局には無理だろう?」
フィルはスープに手をつけたまま、冷静に返す。
「私も反対だな・・・今は、待つべきだ」
ラウもハンカチで口元を拭いながら言う。
そして、視線はそのままラウルにすべて集まる。
「・・・そう思った経緯を聞かせてもらいたいものだよ」
ラウルは一口パンを食べてから、グラウのほうを向き、言う。
「起きてからの出来事を俺なりに整理してみました。
ソレを見る限り、敵戦力は安定を見ていない・・・むしろ不安定な面が多くなっている」
グラウは食事から手を離し、顔の前で手を組む。
「確かに君の言うとおりだろう。君が加われば、攻め込める確率も高い・・・しかし」
ラウルもやはり賛成派ではないようだ。
「たった今管理局の人事データを見てきた」
「え?」
「明日のPM13:00から22:00までの間、緊急でもない限り、AA以上の
魔道士はすべて管理外世界へのレリック調査に向かう。つまり、その時間からは
管理局にいるのは・・・雑魚ばかりだ」
とても残忍な笑顔を浮かべるグラウ。
「なるほど・・・確かにレリックを手に入れるチャンスではある」
ラウルの目は少しぎらついていた。
それにはその場にいた全員が背筋を凍るような想いだった。
「いいだろう。私も出よう・・・グラウと私の二人で本局に出向く」
「ちょっと待ってくれよ!俺らはどうなんだよ!?」
ラウルの提案に、ロートがテーブルをたたき立ち上がる。
フィルやラウも同じような顔をしている。
「今回は私たちに任せてくれ・・・私が出向けば、人はそう死なずに
レリックを手中に収められる」
ラウルは冷静にソレを言うが、やはりロートたちは納得できなかった。
「もうデバイスも完成してるんだろう!?なら!」
「君たちには役目がある!!」
張り上げられた声・・・そして、顔すらも怒りのようなものに染めるラウル。
「博士・・・」
悲しい声でラウが呟く。
「・・・すまない、グラウ、後で私のところに来てくれ」
ラウルはそのまま食事の席を後にしてしまう。
「皆、怖い」
先ほどから一人黙々と食事を口に運んでいたリリウェルが頬を
膨らませて目尻には涙を浮かべている。
「たぶん、怖い事は増えて行くさ・・・ソレに耐えれたら、俺たちは幸せになれるんだ」
グラウは言い聞かせるように、そう呟いた。
ソレほどまでに・・・貪欲に幸せになりたいのだろう。
「いや・・・だ!」
リリウェルは何かを否定するかのように、その場から立ち去る。
「ちょ!リリウェル!」
ロートも彼女を追いかけようと、立ち上がる。
「待てよ!」
二人はそのまま部屋から出て行き、残ったのはフィルとラウ、グラウの三人だ。
「何も、あんな言い方をしなくてもいいだろう?」

 

ラウがグラウをとがめる様に言う。
「事実だろ?彼女も元は戦人・・・そして、ソレを守るのが今の
俺たちの役目、多少の憎まれ役は引き受けるさ」
グラウは緊張の糸を切らんばかりに、軽い口をたたく。
「アンタがそういう奴だって、わかってるさ」
フィルも笑みを浮かべて、水を飲む。
「若いのに、随分と思慮深いものだな・・・君のような者がいれば、私たちは大丈夫さ」
うれしそうに、ラウも水を口につける。

 

「ちょっと待てよリリウェル!」
そんな事は知ったこっちゃないリリウェルとロートは廊下を走っていた。
「いや!私・・・いや!」
ロートの制止も聞かず、リリウェルは走る。
「そっちには転送装置が!・・・お前まさか!!」
リリウェルが向かう先にあるもの。
そして、彼女が何をしようとしているか予想でき、ロートは急いでリリウェルを止めようとする。
「よせ!リリウェル!!」
ロートは手を伸ばす、が・・・。
「いや!」
「!?」
リリウェルの否定の言葉が、ロートの心に響いたのか、その伸ばした手を途中で止めてしまう。
その間にリリウェルは転送装置に入り、ソレを稼動させる。
「・・・ごめんなさい」
リリウェルのその手には、黒い結晶が握られていた。
そして、彼女はその場から光となって消えていった。

 

「何をする気なんだ・・・リリウェル・フラウ」
ロートはリリウェルの言葉が心に残りながらも、その手に握られた者の意味を求めていた。
そして、ソレを知るため、自身も歩を進めた。

 

─時空管理局・本局中央転送ポート─

 

「・・・ん?」
一人の局員が転送ポートに何かの反応を察知する。
「どうした?」
「あ、いえ・・・予定にない転送反応が」
「何?」
その反応はやはり、転移のものであり、そこから出てくるものは・・・。
「来ます!」
局員の言葉と同時に光が放たれる。
「魔力値は?!」
「現在確認されているのは・・・Sオーバーです!」
「なんだと!?」
緑色の魔方陣が展開される・・・そこから現れたのは、緑の髪の青年グラウ・レーゲンだった。

 

「何者だ!」
すでにグラウの元には局員が向かっており、彼に杖先が向けられていた。
「俺は、グラウ・レーゲン・・・・・・お前らの敵だ!!」
グラウはそう叫ぶと、手にある結晶体の名を叫ぶ。
「カオス・ドミネーター!!」

 

(スタンバイ・レディ・・・セットアップ)
白と黒の光が混ざり合い、それがまるでグラウの体に取り込まれるように入っていく。
左腕に大きな盾が出現し、また大きな鎧が体を包む。
グラウの鎧にはほとんどが鉄で布部分はない。
その重さをキャンセルするためかいたるところにスラスターが着いていた。

 

「行くぜ!!」
武装しきったグラウは一気に行動し始める。
自身の杖先を向けていた者たちを腰から抜いた魔力刃で切り裂く。
「ぐあぁぁ!!」
悲鳴が響いた・・・そして、血しぶきが舞う。

 

その血はグラウの顔にも付着したが。
「へへ・・・」
ペロリ、とその血をなめ取って、不適な笑みを浮かべる。

 

「敵襲だぁ!!総員戦闘配備!!魔道士は中央転送ポートに防衛に向かえ!!」
事態を伝えた一人の局員の言葉は、本局に大きな騒動をもたらす。
「嘘だろ!?本局に!?」
「どこの馬鹿だよ!?」
「そんなことより、迎撃に入れ!!!」

 

その騒がしさは本局にいたエリオとキャロにも伝わっていた。
「エリオ君・・・どうしよう?」
キャロは騒ぎを聞いて少なからず、不安になっていた。
ソレは、目の前に戦いが迫っていること。
「・・・キャロ、僕たちも行こう」
「ダメだよ!エリオ君はまだケガが・・・」
「大丈夫。僕は・・・戦える」
エリオは笑って見せた。
ソレはキャロの不安を取り除くための笑顔であると同時に、自分に対して余裕を持たせるため。
自分が挫けず、戦い抜けるための・・・そんな笑顔だった。

 

グラウが攻め込んでから13分・・・本局にいるAAクラス魔道士がこれに対応していた。
「くそっ!狙ってやがったのか!?」
連続射撃でどうにかグラウを押さえ込んでいたが、ソレも長く続きそうにはなかった。
「どう見積もっても、AAA以上の魔道士の援軍が間に合うとは思えない!!」
「・・・進退窮まるって奴か!?」
「前!!」
「!?」
局員たちの目の前に突如、緑の小型ビットが二つ現れ、局員たちを撃ち抜いていった。
(ダブルビット)
炎が燃え盛る。
その炎の中をゆっくりとグラウは歩いている。
その姿はさながら、すべてを蹂躙する悪魔のようだった。
「強さを持たないお前たちは、何のためにいる!?管理という名の支配をするためか!?
リンカーコアを持たぬ者たちより優位だと感じるためか!?何が法の守護者だ!!
お前らは何も守れていないじゃないか!!」
グラウは力持つ自分を止めきれない管理局の弱さを叫ぶ。
「どうだ!理不尽な力に屈服させられる気分は!?」
グラウの盾を持つ左腕に銃が出現する。
ソレは高濃度魔力を収束し、一気に放ち防衛している局員たちをなぎ払う。
「自身が犯した罪は必ず問われなければならない!!
お前たちがしてきたこと、ソレを俺は再現しているんだ!!!」
怒号とも取れる言葉とともに魔力弾が放たれていく。
「何が治安維持!」
彼の動かすビットも変幻自在に動き回り、攻撃する。
「何がロストロギア規制!!」
今度は魔力刃を両手に持ち、魔道士を切り裂く。
「大義名分を掲げてやってることは・・・犯罪者みたいなモンだろうが!!」

 

しばらくそれが続くと、すでに防衛していた者たちはすべて地に伏していた。
「はっ・・・あっけねぇ!」
グラウは地面に転がる局員たちを眺めながら進む。
すると、グラウは足を床に転がる局員に掴まれる。
「放せ・・・」
グラウは力を込めて、その手を振り払おうとするがなかなか離れなかった。
「力はなに、も・・・生まない。おまえ、は・・・何を・・・」
そこまで言うと、その局員は意識を失った。
「そうだよ。何も生まないから・・・・・・!?」
ピンクの魔力弾がグラウにぶつかる。
だが、彼はソレをものともしなかった。
「・・・俺はガキと戦う気分はないんだけど、な?」
視線を向けた先にいたのは、エリオとキャロだった。

 

「キャロ・・・ブーストを」
エリオは静かに言う。
目の前の炎と床に転がる局員たちに心が揺らがなかったわけじゃない。
だが、先ほどキャロに見せた笑顔を守るためにも・・・揺らいではいけないと思ったのだ。
「・・・ケリュケイオン、若き蒼騎士に、すべてを守る戦士の力を!!」
(フルブースト)
キャロの手から放たれたピンクの光はエリオとストラーダに取り込まれていく。

 

(ブーストを受領・・・開放します)
ストラーダはキャロから送られたブースト魔法を演算し、エリオに流し込む。
「フォルムフィアー・・ドンナーフォルム!!」
エリオは魔力の奔流をそのまま一気に解放し、体中に帯電する。

 

「ただのガキじゃない・・・カオス、油断してたら負けるぜ」
(了解・・・ヴァジュラ、ライフル、シールド、アーマー、すべてにヴァリアブルシフトを)
「頼む!」
一方のグラウもエリオの実力を見抜き、カオスの能力を開放する。
それにより、魔力刃、銃、盾、鎧が今までより濃い緑色に染まり、背中にはビットが浮いている。

 

(ハイパーソニックムーブ)
ストラーダの機械音が響くと、一瞬でエリオは動く。
「!?」
さすがのグラウもエリオの姿を見失った・・・。
「・・・そこだ!!」
かに見えていたが、グラウはエリオの攻撃を魔力刃で受け止めていた。
「あぶねぇなぁ!!」
そして、エリオを押し返すが・・・またもエリオを見失ってしまう。
「ちぃ!!こんな速いガキがいるなんて情報は!!」
グラウはエリオのことを調べていなかった。
危険視していなかったのだ。
「!?」
グラウの肩当が吹き飛ぶ。
グラウがソレに目をやった瞬間、次は腰当に傷が入っていた。
「この!カオス!フルレンジバースト!!」
(了解)
歯がゆく思ったグラウは魔力刃をしまいこみ、両腕、両肩、両足、腰部、背中に
砲門を出現させ、さらにはビットにも四方向に砲門を出現させる。

 

「!?」
エリオも移動しながらソレを見て、一瞬考えて再び動き出す。
「ストラーダ・・・カートリッジロード!サンダーアロー!!」
(了解)
二発のカートリッジが消費され、薬莢が空中で停止しているかのようだった。
その瞬間に、エリオ自身に強力な雷が激しく飛び交っている。
それがエリオを雷の矢へと変貌させる。

 

「らぁぁぁぁぁぁ!!」
グラウは引き金を引くかのように・・・全方位に向け、魔力弾を撃ち始める。
魔力弾はエリオにも向かっている。
だが、エリオはソレを速さで弾いた。
そして、一瞬でグラウの懐まで入り込む。
「なっ!?」
「サンダーフィスト・・・紫電一閃」
紫電一閃の光が左の盾にともる。
エリオはすでにグラウの回避不可能距離まで近づいていた。
後1センチ・・・この距離が、遠すぎた。

 

「!?」
高速で動いているはずのエリオが突然停止する。
「なんだ!?」
そのとき、エリオは何が起こっているのかわからなかった。
しかし、エリオに起こっていることは・・・バインドだった。
「もらったぁ!!」
その隙を逃さず、グラウはエリオの腹部の一撃入れる。
「ぐっ!」
たまらずエリオも吹き飛び、床に転がる。
そこにさらにバインドが複数かかる。
「油断しすぎだよ・・・グラウ」

 

声がした。
そこにいたのは、魔道書を開いたラウルだった。
「すいません・・・それが、あなたの能力ですか?博士」
初めて見るラウルの能力に彼は驚きの目を向ける。
「ああ・・・私の魔道書“賢者の書”だ」
そう言って、手元から魔道書の姿を消すと、ラウルは拘束したエリオのほうに近づく。

 

「少年、君はなぜ管理局で戦う?」
何を思ったかラウルはエリオになぜ戦うかを問う。
「・・・・・・守りたいものがあるからです」
ストラーダも手元から離れ、エリオはすでに元に戻っている。
だが、それでも冷静に返事をしていた。
「居場所を守るために?そんな自分のエゴを守るために、君は管理局という存在を受け入れると?」
だんだんとラウルの語気が荒くなる。
やはり、彼は管理局を・・・。
「一部の非道をすべてだと思いません。業は人すべてにあります・・・
その中で、僕たちは生きている。生きていかなくちゃならないんです」
エリオの心がこもった返答にラウルは目を見開く。
そして、言葉にはしなかったが、心の中で思っていた。

 

─君のような新しい風がいれば、古き風はいつしか忘れられるのだろうな。

 

「だが、だからこそ・・・君のような存在を管理局に
置くわけには行かない。少年・・・君の名は?」
最後に、と言わんばかりの口ぶりで言うラウル。
「・・・エリオ・モンディアル」
「そうか・・・さよなら、エリオ君」
同時に手元に黒い槍が出現する。

 

振り下ろされるか、どうかの時・・・ラウルに火球が向かう。
「!!」
ラウルはエリオへの攻撃を止め、槍でソレを弾き飛ばす。
「・・・私はあんまり、女の子に手を上げたくない・・・じっとしていてくれないか?」
彼が向いたほうにいたのはキャロとフリード。
キャロは今にも泣きそうな顔をしていたが、それでも耐えて
フリードにブラストレイを命じたのだろう。
「聞けません・・・私たちは、パートナーですから」
目尻に涙を浮かべながらも、その表情は笑っている。
何かを確信したものじゃない・・・ソレは、その言葉が
当たり前のことだから、キャロは笑っているのだ。

 

「・・・博士、あなたに殺せないのなら・・・俺がやる!!」
横にいたグラウが魔力刃を片手にスタートを切る。
「ま、待てグラウ!!」
ラウルは制止の言葉をかけるが。
「すぐに終わらせる!!」
グラウは聞かず、キャロに迫っていた。
「キャロ!逃げて!!」
パートナーの危機に、そんなことしかいえない悔しさを持ちながら、エリオは必死に叫んだ。
「でぇやああああああああああああ!!」
キャロの反応速度ではグラウの攻撃はよけられなかった。
「キャロォオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
悲痛な叫びが響く。
グラウの刃はキャロの右肩を貫いていた。
「ぐっ・・・ああぁぁあ」
キャロの口から血が出ていた。
右の肺が潰されたのだろう。
「あ・・・あぁ・・・くっ!」
バインドで拘束されながらも、歯を食いしばり、拳を握る・・・血が滲むほど。
そして、大切な人を傷つけられたこと、キャロを守れなかったことは
怒りの引き金を引くには十分な理由だった。
「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
「!?」
怒りを爆発させ、エリオは全身に力を込める。
「ストラーダ!!」
(・・・了解)
エリオの言葉に、意志に答えるように、ストラーダも反応してエリオの手中に舞い戻る。
そして、再びドンナーフォルムを発動させる。
「グラウ!離れるぞ!!」
「なぜで・・・ガハッ!!」
ラウルの言葉に振り向いたグラウだったが、その瞬間に顔面に衝撃が走り吹き飛ぶ。
「・・・まさに、モーメント・エースか」
吹き飛んだグラウがいた場所に立つ帯電したエリオを見て、ラウルはそう呟いた。
「キャロ!大丈夫!?」
エリオはキャロの傷口を押さえながら、キャロに呼びかける。
「だい・・・じょうぶ。だか、ら・・・たた、かって・・・迷わず、たたか・・・て」
キャロは笑う。
そして、気を失ってしまう。
いくらエリオがしっかりしているといっても・・・子供だ。
今の状況を冷静に、怒りを抑えることなどできないだろう。
「・・・」
だから、キャロをフリードに任せ、ゆっくりと立ち上がる。

 

「グラウ、大丈夫か?」
エリオに気をかけながら、吹き飛んだグラウに声をかけるラウル。
「ぐっ・・・ハハ、やられましたよ。右腕がいきました」
吹き飛ばされたグラウは壁に激突し、まだ立ち上がれないでいた。
「回復に専念していてくれ。私は・・・彼の怒りの矛先を甘んじて受けよう」
切なげな表情で手元に“賢者の書”を開き、エリオのほうを向く。

 

「許さない・・・許さない・・・許さない・・・許さない!!!」
エリオの怒号が響き渡る。

 

(ハイパーソニックムーブ)
ストラーダの機械音が響くと、エリオの姿がラウルの視界から消える。
「・・・そこだ」
ラウルは右腕に剣を出現させ、その腕を振り上げる。

 

─ガキンッ

 

そこには、エリオが切りかかってきていた姿が映る。
だが、すぐにエリオは移動する。

 

数回、金属音のようなものが響き渡る。
「くっ!!」

 

攻撃が一度も通らないことに苛立ちながら、エリオは眉をひそめ、もう一度ラウルに攻撃する。

 

「・・・ファイア・ボール」
「!?」
ラウルが呟くと、エリオとの接触の一瞬にエリオに対して火が燃えあがる。
「ぐっ!」
その熱さに苦悶の表情を浮かべ、少し動きを止めてしまうエリオ。
その一瞬にラウルは次の魔法を詠唱していた。
「ファイア・ジャベリン」
エリオの腹部に炎の槍が衝撃と熱を与える。
「ガッ!」
そのままエリオは地面に転がる。
だが、ラウルは攻撃の手を止めない。
「その身、その魂を・・・火の祝福によって、空に返せ・・・ファイア・クリメイション」
エリオのいる場所が炎の箱のようになる。
「・・・燃え尽きろ」
ラウルは勝利を確信したのか、魔道書を閉じ、その炎の箱を見つめる。
「君の冥福を、私は祈ろう・・・」
神に祈るように片手を胸に当て、目を瞑る。

 

だが、炎が一瞬、はじける様な燃え方をする。
「!?」
ソレに反応してラウルは目を見開くが、すでに遅かった。

 

「サンダー・・・スマッシャー!!」
炎の隙間から見えるすさまじいエリオの視線にラウルは驚き、一瞬の反応を遅らせてしまう。
そして、エリオが放ったサンダースマッシャーを直前まで自身に迫らせてしまう。
「くっ!」
一瞬目つきをきつくしたラウルはものすごい速さで右腕を振るい、迫る魔力を弾き飛ばす。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
息を切らし、片目も閉じ、少しやけども目立つエリオ。

 

「もう限界だろう?君はよくやった」
エリオをあきらめさせるためか、賞賛の言葉を送るラウル。
「ダメ・・・ですよ、ここで僕が戦わな・・・かったら、キャロ、が
戦った、意味、ないじゃ・・・ないですか!!」
ぐぐっとストラーダを支えに、どうにか立ち上がるエリオ。

 

(立ち上がるな・・・どうして、立ち上がるんだ・・・君は、どうして管理局のために!)
ラウルは心の中で葛藤していた。
すべての人間が非人道を行くわけではないが、やはり・・・そんな人間が
存在し、その人間も含めて守り、戦うことがラウルは気に入らないのだ。

 

「・・・ふぅ」
ラウルは途中までそんなことを考えて、その考えを切り捨てた。
そして、落ち着くために一息つく。
「君もいつか知るよ・・・裏切られる絶望感と、そして・・・自分が踏みしめてきた
道を振り返ったときに見えてくる犠牲になった者たちの姿をね」

 

すべてを悟っているかのような言い方、ソレを聞いたエリオは静かに
聞いていたが、ソレについて・・・答えはもう出ていた。
「・・・ソレに必死に抗うのも、一つの道ですから」
ふっと笑みを浮かべてエリオはそう言った。
そして、勢いをつけて、一人で両足に力をいれて立つ。

 

「なら・・・」
ラウルもエリオの覚悟を理解し、再び“賢者の書”を開く。

 

だが、そこに新たな気配はやってきた。
「そこまで、です」

 

黄色とも金色とも取れる魔力光。
そして、その光る刃に黒いフォルム。
エリオはその人の姿を見たとき、涙が溢れ、そして喜びが心を満たした。

 

「フェイトさん!」
「・・・ただいま、エリオ」
フェイトは優しく微笑み、ラウルは少し意外そうな目で見つめる。

 

「生きて、いたのかい?」
やはりフェイトの出現が予想外すぎたのか、ラウルは声が少し震えていた。
「・・・犠牲を、生き恥をさらしてまで生き延びました」
キッと目線をきつくし、ラウルに無言の降伏を求めていた。
「ハハ、お義兄さんか、もしくはフラガ一等空尉を犠牲にしたか?」
その言葉に、フェイトの顔は暗くなる。
だが、それで油断したりするわけではない。
ラウルもそんなことでフェイトを揺るがすことができないことぐらい
わかっているのか、大したしぐさはしなかった。
「そうか・・・エリオ君は君の教え子か、どうりで強く、しっかりしているはずだな」
悪意ではなく、単純な関心の言葉をラウルは口にする。
その表情はまるで子どもを持つ親のようだった。
「忘れないで欲しい、プレシアもいい母親だったんだ」
「!?」
フェイトはその言葉に驚き、ライオットの刃をよりラウルに近づける。
だが、ラウルは光を放ち消えてしまう。
「なっ!?」

 

「残念。今の君では・・・私を捉える事はできないよ」
笑ってソレを口にすると、次はグラウのところまで移動する。
「用事は済んだ・・・レリックは頂いていくよ」
ラウルの手にはレリックが三つ握られていた。
ソレはなのはやキラが第19管理世界から護衛運搬をしたレリックだ。
魔方陣が足元に展開する。
おそらくここからの撤退を考えているのだろう。
「させるか!!」
だが、エリオは動いていた。
「ストラーダ!!」
(オールロードカートリッジ。リミットスピードブレイク)
すべての人間がエリオを追えなかった。
エリオの目的は一つだからレリックをどうにかすればいい。
そんな考えが間に合わないほど、エリオは速く動いた。

 

そして、次にエリオが現れた場所は・・・フェイトの横だった。
「ぐ・・・あぁ・・・」
今の移動の反動か、エリオは苦しみの声を上げる。

 

「エリオ!?」
「ぐぅ・・・す、みません。レリック・・・一つ、しか」
ふと見れば、エリオの手にはレリックが一つ輝いていた。

 

「なっ!?」
ラウルも気づいていなかったのか、自身の持つレリックの数が減っていることに驚く。
「博士・・・撤退しましょう」
「・・・ああ」
最後までフェイトとエリオを見続けながら、二人はその場から姿を消した。

 

「エリオ!!」
フェイトは敵がいなくなったことにより、急いでエリオに近寄る。
「だ、い・・・じょう、ぶ・・・僕より、キャロ・・を」
エリオも安心したのか、多少気が緩んでいて、安心はできそうだった。
「すぐに・・・医療班、を・・・」
ここに来て、フェイトも少し意識が揺らぐ。
「フェイ、ト・・・さん?」
エリオはフェイトの様子がおかしいと思い、声をかけるが返事は帰ってこない。
フェイトはそのまま後ろに倒れてしまい、エリオは心配するが、体が動かず、エリオも意識を手放した。
そこには輝くレリックが一つ・・・まるで墓標のように浮かんでいた。

 

─???─

 

「ガハッ!」
ラウルは自分たちの居場所に帰ってきて、すぐに膝をつき血を吐いてしまう。
「博士!!」
突然の事態にあわてるグラウ。
「ゴホッゴホッ・・・ぐぅ・・・だ、いじょう・・・ぶだ」
胸を押さえながら、苦しそうに言うと、少しよろめきながらラウルは立ち上がる。
だが、地面に落ちた血はとても大丈夫だとは思えなかった。
「とりあえず休んでください!」
ラウルに肩を貸し、グラウは率先して彼を引きずる。

 

だがそこに、嫌なニュースを持つラウがやってきた。
「博士!リリウェルとロートが!!」
「!?」
口から血を垂れ流しながらも、ラウルは顔を上げ、ラウの顔を見た。
「リリウェルがどうした!?」
そして、声を張り上げる。
「リリウェルがどうやら、ガイア・シュナイデを持ってどこかに・・・
ロートが追っていますが、まだ帰ってきていないんです!」

 

戦慄が走っていた。
もどかしく、最悪の事態すら予測される。
リリウェルは本局にいなかった。
つまり、どこか管理世界か、管理外世界にいったのだろう。

 

─第97管理外世界・地球・海鳴市─

 

さわやかな風と、木々の匂い・・・動物たちの囀りが響く広い草原。
そこに、リリウェルとロートは立っていた。
「・・・綺麗なところだな」
ロートは辺りを見渡して、澄んだ空気とその広がる戦いのない世界に感慨を覚えていた。
その横にいるリリウェルも何かを感じていたようだが、ロートに言ってしまった
拒絶の言葉が尾を引いているようだ。
「俺は気にしてないよ?リリウェル?」
気まずそうにしている彼女にロートは照れくさそうに言うと、
リリウェルは少し唇を震わせてから、振り返ってロートに抱きつく。
ロートはそのまま優しく彼女の頭をなでていた。
そして、空を見上げて・・・やはり、思うのは戦いのことだった。
「静かな場所なのに、戦いがあることもあるんだろうな・・・そんなことわかってるけど、
納得したら、きっと感情すら無意味になる。だから、俺たちは戦うんだな」
そう呟くと、ロートは肩に降りてきた鳥に視線をやる。
「・・・ぐっ」
そのとき、突然ロートが苦しみの声を上げ、胸を押さえる。
「なっ・・・なんだ・・・呼ばれて、いる?」
嫌な汗をかきながら、ロートは少しうめく。

 

─時空管理局・本局─

 

フェイト・T・ハラオウン執務官、クロノ・ハラオウン提督の生還。
そして、ムウ・ラ・フラガ一等空尉の殉職。
今、管理局ではその話題が騒動を呼んでいた。

 

さらに、本局襲撃の際に負傷したエリオとキャロも集中治療室で
どうにか峠を越え、意識を取り戻し、話を聞くためにモニターを開いていた。

 

無傷であったクロノは経緯を説明するために、全員にそのモニターを開いていたのだ。
「あの時・・・スサノオがパターンCを発動させたとき、
僕たちはもう脱出可能時間を過ぎてしまっていた」

 

フェイトは傷つき、フラガ一等空尉も意識不明・・・僕は魔法が使えなかった。
だが、奇跡かとも思えたよ・・・あの時、パターンCが発動した瞬間
僕たちは謎の光に包まれて・・・虚数空間に落ちた。

 

どよめきが走った。
虚数空間とは重力がどこまでもあり、底があるのかないのかわからず、
魔法が使えない魔力拒絶空間。
魔道士のほとんどはそう思っているのだから。

 

虚数空間に落ちていった僕たちは・・・途中から重力を感じなくなって、
何も感じなくなったとき・・・フラガ一等空尉が言ったんだ。

 

─このまま三人ここにいるより、一の犠牲で次のことをこなしたほうがいいだろ?

 

彼は自分を犠牲にすることを選んだ。
彼のデバイス・シラヌイノアカツキの能力・・・空間歪曲通行能力があった。
ソレを僕とフェイトの二人をそこから出すために使い・・・彼は逝った。

 

「そして、僕たちは本局に帰ってこれたというわけさ」

 

クロノの話を聞き終わり・・・やはり、涙を流すものたちはいた。
特に第72管理外世界の人間は余計にだった。

 

だが、なのはたちはもう一つ、気になることがあった。
ソレは、まだ目を覚まさぬフェイトのこと。

 

「・・・はっきり言うと、フェイトは・・・もう人間として活動していない」
クロノは悔しそうに・・・だが、冷静に言った。
ソレを聞いた者たちは、すぐに反応できなかった。

 

─カレハナニヲイッタンダ?

 

フェイトと特に仲良くしていた者たちは、同時にそう思った。
「ソレはどういうことだ!クロノ提督!!!」
あまりのことに、シグナムは我を忘れクロノの首もとに掴みかかる。
「なぜテスタロッサが・・・そんなことに!?」
目尻に少しの涙が滲んでいる。
クロノはソレを見たとき、自身の中で溜め込み抑えていた感情を爆発させる。
「わからないさ!気づいたときにはフェイトとは念話しかできなくて!
バルディッシュを起動させた状態でしか話したりすることができないんだ!!」
その叫びに、びくっとなり、シグナムはクロノから手を放す。
「・・・僕たちは、無力だ・・・こんなにも!」
ガンッと壁に拳をたたきつけ、歯を食いしばり、クロノは呟いた。
フェイトを知るもの、慕うもの、友というもの、家族というもの。
すべての人々がその事実を否定したかった。
傷ついた身体。
「・・・フェイト」
話しかけても決して目覚めぬフェイト。
悲しみが鼓動を起こし、地面は大勢の涙が伝った。

 

「フェイトはもう・・・日常生活をできず、ただ魔道士として
・・・ソレも、魔力を消費しなければ生きていけないんだ!
つまり・・・魔力が尽きれば、また・・・こうなる。こんな欠陥を
引きずったまま・・・生きるといえるのか!?」

 

そんな存在が命といえるのだろうか?
生きているといえるのだろうか?
彼女はもう・・・デバイスなしでは感情すら表せない。

 

─世界は本当に・・・こんなはずじゃないことばっかりだ!
クロノのかすれたような声が病室に響き渡った。

 

結局、無力と悔やむことしかできない。
その言葉で割り切り、次に進むしかできないのだ。
そんなことしかできないのなら、やめてしまえばいい。
期待などさせなければいい。
かつて、シンはそう言った。
だが、人は・・・期待させてしまう生き物なのだ。
結果、傷ついたとしても。

 

次回 求めた“優しさ”

 

暖かくて優しい世界が・・・広がっていて欲しかった。