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Lyrical DESTINY StS_第16話

Last-modified: 2019-01-05 (土) 17:41:10

きっと悲しいことがあったんだ。
だから、悲しい。
きっと泣きたかったんだ。
だから、泣いている。
きっと生きたかったんだ。
だから、死にたくないと願う。
きっと私は皆といたい。
だから、怖い皆を拒絶した。
私は・・・優しさを貪欲に求めている。

 

─時空管理局・本局─

 

「調査結果・・・第97管理外世界・・・地名海鳴において、レリックの反応が出た」
なのはたちやキラたちをバルトフェルドは呼び寄せ、告げていた。
告げられたなのはたちは驚きを隠せずにいる。
そして、こうも思っていた・・・どうして、こんなときに、と。

 

「それで、私たちに出動命令が?」
はやてが問いかける。
バルトフェルドは頷き、はやてはやはり暗い表情をする。
「今回、高町一等空尉、八神二等陸佐、シグナム二等空尉、ヴィータ三等空尉、
キラ・ヤマト二等空佐、アスラン・ザラ執務官、そして、僕が行く事となった」
バルトフェルドは資料を閉じ、やれやれ~と肩をすくめた。
「言っておくが、知り合いたちを巻き込まない可能性はない・・・レリックは封鎖結界の
発動をゆがめてしまうほど激しいエネルギーを持つからね。もしかすれば、
管理外世界に魔法という文化をさらしてしまう結果になるかも知れない」
ソレを聞いたなのはとはやては目を見開いた・・・そして、一気に心配事が増えた、と思ってしまう。
「持たない人間の業は恐ろしい・・・できれば、僕はレリックを見捨てたい気分だよ」
冗談なのか、本気なのかわからない言葉が飛び交う。
実際ソレには賛同~とはやてもうなだれていた。
「・・・蒼き、正常なる世界のため、か」
ふと、アスランが呟く。
ソレを耳にしたなのはとはやて、ヴォルケンズは何だソレ?という顔をする。
「俺たちの世界での・・・コーディネイターを受け入れない集団がよく言う言葉さ」
そういわれ、ああ・・・とまたも暗くなるなのはたち。

 

─夢を描いて未来を見つめたはずが、いつの間にか随分と道を違えてしまった。
シグナムは彼の騎士の言葉を思い出していた。

 

─本当に守りたいものを守る・・・ただそれだけの、なんと難しいことか。

 

自分たちは望むように生きる権利はあっても、なかなかそうなる事はない。
かなえているように見えるのは、その人が軒並みならぬ努力をしているからだ。
(託された我々は、努力をやめるわけにはいかない、か)
誇りという言葉を今ほど重んじた事はなかった。
誇りに殉じる覚悟があるから、今も愛剣を携え、戦える。
シグナムはそう考えていた・・・今は。

 

「どした?シグナム?」
ふと、ヴィータがシグナムの顔色を伺ってそんなことを言ってくる。
「ああ・・・騎士ゼストの言葉を思い出していた」
その言葉にヴィータは驚いた様子はないが、少し落ち込んだとも取れるような態度になる。
「・・・騎士として、誇りを持って死ぬ。それが、昔は夢だった」
シグナムは遠い目で、しかし表情は笑っている。
「今は・・・どうなんだよ?」
恐る恐ると、ヴィータはシグナムに問いかけると・・・彼女は特別な笑みを浮かべて答えた。

 

「死が怖く、恐ろしい・・・そして、失うことも。
だからこそ、私は戦うんだ・・・お前たちとともに」
不器用な騎士・・・そういった言葉が多く向けられるシグナムに、
ヴィータは決して笑うような事はなかった。
自分たちの将たるものが彼女であったことを誇りにすら思った。
「・・・なら!皆で頑張って任務を完遂させようぜ!今度こそ・・・幸せな未来が得られるんだ」
無垢な子供の表情と言葉でヴィータは言った。
ソレにシグナムも頷き、ヴィータの頭をなでる。
今回はヴィータもソレを拒まず、ただ照れていた。

 

「スターズは動けないのかい?」
ふと、バルトフェルドがなのはに問いかける。
「いえ、たぶんいけると思います・・・連れて行きますか?」
「ああ。彼女たちは救助経験もある。できるなら、そっちでも活躍して欲しいからね」
バルトフェルドがハッハッハ、と笑い、なのはも少し笑う。
「まぁ、あの子たちも戦力としては有能ですから・・・融通も利きますし」
「じゃあ、その自慢の子たちも同行。急いで招集をかけておいてくれ」
珍しく指揮官っぽいことをするバルトフェルドに感心しながら、なのはは了解、と敬礼をする。

 

─???─

 

血を吐いたラウルは結局意識を失ってしまい、寝室に運び込まれていた。
「・・・博士がこんなんなんだ・・・今、動くべきじゃない。
リリウェルにはロートもついている。問題は無いだろう?」
ラウルがベッドで眠る中、周りには三人が集まっていて、なのはたちと同じことを口にしていた。
「第97管理外世界、か」
フィルが言うと、皆少なからず嫌な顔をしていた。
「あんな綺麗な世界で、戦わないといけないのかな?」
弱々しく、どこまでもふんぎりがつかない言葉だった。
確かに、あの世界を外から見れば、戦いたくなどないだろう。
「私もあの世界では戦いたくなどない・・・故郷に似ているあの世界にはな。
だが、目的を果たすために犠牲を払う。私たちはそうすることでしか報われない」
ラウのどこまでも悲しい言葉にフィルもグラウも俯くしかなかった。
確かに、今までの戦いもそうだ。
敵という犠牲を払い、自分たちの目的を達成した。
それなのに、今更・・・そんなことで立ち止まることはできないのだ。

 

「おい、お前ら」

 

すると、後ろからひどくどすの利いた声が響く。
振り向けばそこにはシンが立っていた。

 

「シン、いくつもりか?」
すっとラウが前に出てシンに問いかける。
シンは静かに頷くと、背を向けた。
「・・・迷いは何も生まない。俺の破壊に迷いはない。迷いがないから俺は後ろを見ないんだ」

 

「?」
その言葉には疑問符を浮かべるしかなかった。
「俺は行く」
低い声でそういうと、シンはその部屋を後にした。
その背中を少し悲しげに、そして寂しげに見送ったラウたちはこう呟いた。
「破壊者としての道を行く運命の翼・・・本来のあるべきこととは
まったく逆の道を行き、その命のいっぺんまでをも破壊に費やす、か」

 

シンの破壊は決して理解されるものじゃない。
だが、その理解されない痛みすらシンは背負っているのだ。
表情にも心にも出さない。
だが、必ずその痛みは蓄積している。
いつか、怒りで押さえたその痛みが爆発する日が来るのだろう。

 

いつの日か、必ず。

 

─第97管理外世界・海鳴市─

 

リリウェルとロートはこの街を広く見渡せる高台に来て、その光景を見つめていた。
「綺麗だな・・・リリウェル」
手すりにもたれながら、街並みを見やるロート。
リリウェルもどこかそわそわした感じで街並みを見つめていた。
「私、ここ・・・好き・・・“いつ来ても”あきないから」
そのときの彼女の呟きは、まるでいつも来ているかのような口ぶりだった。
「そうだな。なんたって・・・ここは俺たちにとって・・・・・・・・」
ロートの言葉をかき消すように一陣の風が吹く。
そのときの彼の言葉は二人の間でしか聞き取れなかった。

 

「お茶でも、していくか?」
ロートは笑みを浮かべて、高台から見える喫茶店“翠屋”を指差した。
「うん!あそこのシュークリーム、好き!」
リリウェルもようやく笑顔を見せて、ロートの右手を握る。
それがうれしかったのか、ロートも飛びっきりの笑顔をして、
リリウェルとともに喫茶“翠屋”を目指していった。

 

カラーンとドアの開く音が店内に響く。
「いらっしゃいませ・・・あ、ロート君にリリウェルちゃん!いらっしゃい♪」
二人は常連なのか、慌しい店の中でもしっかり笑顔を見せる高町桃子。
「ええ、すいません。お忙しいのに」
ロートは軽くお辞儀して、カウンターに座る。
「いいのよ?お得意様って感じだもの!」
「ありがとうございます。コーヒーとココア、ソレとシュークリームを」
いつもと違い、落ち着いた感じを見せるロート。
リリウェルはいつものようにはしゃいでいるのだが、どこか一線を引いている感じだ。
「はぁい!いつも、ありがとね!」
桃子は快く了承すると、オーダーを書き込んでいた。

 

しばらくして、注文したものが前に出てきて喜ぶリリウェル。
ロートは運んできた桃子に礼をいう。
「・・・相変わらず、いい街っすね」
ふと、目の前にいる桃子にロートはそんなことを呟いた。
「そうね。けど、いつかは変わってしまうんでしょうね
・・・私たちは望んでここにいるから変わってほしくはないのだけれど」
桃子は寂しそうに言った。
その寂しそうな表情を見て、ロートは心の中で少しの葛藤を始める。
「奪われたくないのなら・・・変えたくないなら、そういう努力をすればいい。
それが俺たちにできるただ一つの方法だから・・・」
思わず口に出してしまった穏やかではない言葉に、ロートははっとなり口を閉ざす。
桃子も一瞬驚いたように目を見開いていたが、すぐにやさしい表情に戻る。
「そうね。けど、変化を嫌っても仕方がないわ
・・・人がおいていずれ死んでしまうのと同じようにね」
やさしく諭すような言い方をする桃子。
その言葉には一切の悪意はない。

 

ただ、あるのは純粋な優しさ。
それを受け取ったロートは管理局の人間すべてが彼女のような
存在であればいいのに、と願ってしまうほどだった。
(わがまま・・・かな)
自嘲のこもった笑みを浮かべ、ロートはコーヒーに口をつける。
横で自分のシュークリームを食べ終わり、ロートの分も狙うリリウェルがいることに
気づくには、まだ数分かかり、気づいたときにはシュークリームはリリウェルの口の中だったという。

 

「ったく、油断するとすぐにとられちゃうなぁ」
ロートは悔しそうにカウンターにうなだれながら、リリウェルを見る。
「えへへ・・・油断大敵だってフィルが言ってたよ♪」
無垢な笑い方で、ロートの頬を人差し指でつつきながら、リリウェルは口元に付いたクリームを拭う。
「ふふ、ホント微笑ましい光景ね」
桃子も口元を押さえながら、微笑している。
この光景も彼らが望む一つのものなのだろう。

 

「?!」
何かがロートの中を駆け抜ける。
「どうしたの?ロート?」
リリウェルも心配し、ロートの顔を覗き込む。
「・・・シンが来ている。この世界にレリックがあるのか?」
ドクンッと鼓動が聞こえるほど、今の自分が高ぶっているのがわかる。
ロートはここが戦場になるという嫌な想像をいち早くしてしまったのだ。
「だけど、シン・・・全然力を出してない?まだ、場所を掴んでないのか?」
シンのことは良くわかっている。
周りに人間がいれば躊躇なく、刃を振り下ろす人間だと、そういう認識をしている。
だから、ロートは不安だったのだ。

 

ロートが感じたとおり、シンは海鳴市に来ていた。
ソレも、レリックの気配を探すために、海鳴市上空300メートルの位置に。
(反応はあります。ソレに、ロート氏とリリウェル嬢も来ているようですね)
今しゃべっているのは、シンのデバイスデスティニーだ。
ソレを聞くと、今までシンは閉じていた目を見開く。
「・・・少し、待機する。
おそらく管理局も察知しているだろうからな・・・ミラージュコロイド生成」
(了解)
シンはそのまま迷彩となって空に溶けていった。

 

海鳴市の街の人々は自分たちの危機に気づいていない。
これから起こることも。
誰も予測なんてできなかった。
隔離された世界においての戦いは、人々から現実と幻想の枠を取り除くのだろう。

 

─時空管理局・本局食堂─

 

ティアナは憂鬱な表情を浮かべながら、ため息をつき、
目の前のコーヒーに映る自分を見つめていた。
「ティ~ア~元気だしなよ~」
その反対側で相席しているスバルはどうにか元気付けようと必死に声をかけていた。
「・・・はぁ」
だが、いつものうるさい!という言葉すら来ないことにスバルは不安になり、うなだれる。

 

「どうしたの、二人とも?」
そんなところにスバルの姉、ギンガがやってくる。
「あ、ギン姉!ってギン姉こそ、どうしてここに?」
ギンガの登場に驚きながらも、やっぱりうなだれるスバル。
「ちょっと用事でね。それにしても、元気ないわね?」

 

スバルよりもティアナを心配するギンガ。
だが、ティアナはギンガの登場にすら気づいていないようだった。
「ティーアナー!」
「うわぁ!!!」
上の空だった状態で急に顔面間近で叫ばれ、ようやくギンガに気づき驚きの声を上げるティアナ。
「ギ、ギンガさん!?ど、どうしてここに!?」
慌てふためいて言うティアナにギンガは笑いがこみあげて思わず噴き出す。
「フフ・・・面白いなぁ」
ギンガは笑みを消さず、ティアナの頭をなでる。
「何か悩んでるみたいだけど、あんまり抱え込んじゃ駄目だよ?」
優しい言葉をティアナにいい、ギンガは微笑む。
ティアナも毒を抜かれたような感覚があったが、やはりその奥のものまでは吐き出すことができなかった。

 

「スバル~!ティアナ~!」
すると、斜めの方向からなのはの呼び声が聞こえる。
「あっなのはさんだ!任務かな?」
空気を変えたいと思っているのか、スバルは立ち上がり、なのはに手を振る。
「・・・スバル!」
スバルたちがなのはのもとに行こうとするのをギンガは呼び止める。
「何?」
たいして気にせず、ただ振り返り問いかける。
「これ・・・持って行きなさい」
「え、これ・・・」
ギンガはポケットに入れていたブリッツキャリバーをスバルに手渡す。
「今のあなたなら使いこなせる・・・リボルバーナックルは両腕一対のデバイスだからね!」
その言葉に、スバルはうれしそうに、そして自信を持って強く頷いた。
二人は隊長であるなのはのもとに歩いて行く。

 

それを見送るギンガは先ほどのスバルの笑みに不安をよぎらせていた。
その背中はまるで、これが最後ではないか?と思えるような・・・そんな感じだったのだ。
だから、安心するためにもう片方のリボルバーナックルを託した。
ギンガは妹の背中、そしてその親友の背中に、ただ無事に帰ってくることを祈る。
その祈りすら自分勝手なものだと、望んでかなわないかもしれないことだということは分かっている。
だが、それでも・・・祈らずにはいられなかった。
死ぬよりも生きて帰ってきてほしい。
誰よりも大切な人だからこそ、何かに縋ってでも
・・・この何物にも代えがたい願いが成就することを祈るのだ。

 

「第97管理外世界・・・ですか?」
「うん。そこにレリックの反応が出た」
少し辛そうにしているなのは。
やはり、出身世界に危機が迫ることに対して焦りにも似たものがあるのだろう。
「・・・なのはさん、私・・・残っちゃダメ、ですか?」
そこに・・・さらに焦りやらストレスが感じられる一言がティアナから飛び出す。
「ティア!何言って!?」
スバルもあせり、とがめようとするが・・・なのはがソレを止める。
「どういうことか、説明してもらえる?」
「・・・ゲーエン・アードリガー少将を調べたいんです」
上がった人物名に、二人は驚く。
「ソレはどうして?」
驚きはするが、理由がわからず、なのはは少し気迫を込めた問いかけをする。
「あの人は知っている・・・私の父や母のこと。兄さんのこと!」

 

少し俯き、表情を前髪で隠しながらも、その声にはなのはと同等とも言える焦りが感じられた。
「・・・・・・・ティアナ・ランスター二等陸士」
冷たい声でなのはは呟くようにティアナの名を呼ぶ。
「公私混同しても意味などありません。今私たちの存在意義が問われる重要な場所。
それに対し、私事で投げ出すなど言語道断です」
それだけ言い終わると、なのはは背を向け歩き始めた。
ソレを聞いたティアナは悔しそうに、歯を食いしばる。
そんな二人をただ、交互に頭を動かして見つめて、あわてることしかできないスバルも、少し辛かった。

 

要求が受け入れられなかったことになのはは少し罪悪感を覚えた。
(・・・私も、わがまま、かな)
なのはも、今ある厳しい状態の中で生きているのだ。
自分の大切な人が住まう故郷。
その故郷を危険にさらすわけにはいかない。
だから彼女はティアナの要求に辛辣な言葉で返した。
それがたとえ、自分に感情の矢となって帰ってこようとも。

 

「ティア・・・早く行こう?」
なるべく刺激しないような口ぶりで言うスバルだったが、ティアナはそんなことをまるで考えていなかった。
「うるさいわよ!アンタなんかに私の気持ちはわかんないわ!!」
「!!」

 

正直、きつかった。
スバルはそう思い、歩を進める。
「行こうよ?今は・・・進まなきゃ!」
目尻に少しの・・・本人さえも気づかないほど少しの涙をため、笑って彼女はそういった。
あいにく、今のティアナにはスバルの強さなんて気づかないだろう。
けど、いつかは気づく。
二人はパートナーなのだから。

 

「あ~今回はX級艦船を使うことはできないし、ほとんど移動手段も限られる。
不便なことこの上ない。そして、魔法文明がない社会に下手をすれば知識を
与えることにもなりかねない・・・そのことを踏まえて我々はレリックの
回収に向かう!ついて来てくれたまえ!」
バルトフェルドの宣言で、第97管理外世界海鳴市におけるレリック回収任務は発動した。
「諸君らの無事を祈る!」
そして、彼らは転移を開始する。
幸い、機動六課協力者であるアリサの提供した場所のおかげで、
第97管理外世界への転移は滞りなく終わり、後は配置を済ますだけだった。

 

「ここ出身の高町一等空尉と八神二等陸佐は率先して前に出てくれ。
今回、君たちには特例により高町一等空尉は二等空佐、八神二等陸佐は
准将へ一時昇進ということとするよ」
なんとも気前のいい話である。
まぁ、なのはとはやてはJS事件の解決により昇進の話が来ていたのを本人らが
辞退したのもあって、これが本来の階級ともいえるのだ。
「「その任、受領させていただきます!」」
しかし、今回は状況が状況なので、二人ともソレを受け入れる。
バルトフェルドの一時的という言葉を素直に聞いているのだろう。

 

「まぁとりあえず作戦開始前に、食事をしに行こう?
高町二等空佐の実家は喫茶店だろう?僕のおごりで行こう!」
空気を和ませたかったのか、バルトフェルドは手をパンパンと叩きながら、そんな提案をする。
その提案が、戦いの引き金とも知らずに。

 

「じゃあ連絡しておきますね♪」
そして、なぜかなのはではなくはやてが返事をしていた。
「どうしてはやてちゃんが」
なのはも後ろで苦笑しながらツッコミを入れていた。
少しの談笑をした後、全員に念話でその旨を伝え、全員が翠屋に行くこととなった。

 

─翠屋─

 

「すいません、ちょっとトイレ借ります」
そんなことを言い出し、ロートは立ち上がる。
「はい、どーぞ」
そのままトイレに入って行き、その間リリウェルはぼーっとしていた。
すると、カラーンと翠屋の扉が開く音がする。

 

「お母さん、ただいま~♪」
「あら、なのはに・・・まぁ団体様だこと♪」
なのはを先頭に、はやてやバルトフェルド、ヴォルケンリッターに
キラ、アスランたちと多人数なのでかなり目立っていた。
桃子も口元を押さえながら、微笑している。
カウンターに座っているリリウェルは黙ったままココアをすすっていた。

 

「今日はお仕事?」
何気なく桃子が問いかける。
「うん!ちょっと、大掛かりなんだけど・・・もしかしたら、
お母さんたちも迷惑かけちゃうかもしれない」
その話題を切り出すと、なのはは少し暗い顔をする。
「何、心配要りませんよ!お母様の事は我々が守って見せますから!」
なのはの後ろからひょこっと出て、桃子の手を取りいい笑顔でバルトフェルドは言った。
「あ~オホン!!!」
すると、ものすごく大きな咳払いが聞こえた。
はやてのものである。
「あら、はやてちゃんも久しぶりね!」
しかし、そんなことは毛頭関係ないといった桃子はいつもの笑顔で言う。
「あ、お久しぶりです・・・この度はすいません」
怒りを抑えて苦笑し、はやては謝罪の言葉を口にする。
「あら、どうして謝るの?まだ、何もしていないし・・・お仕事なんでしょ?」
桃子は対して気にした様子もなく、コーヒーを人数分用意し始める。

 

その会話を真ん中で聞いていたリリウェルはおのずと理解した。
今、桃子と話しているのは、管理局員だと。

 

「ねぇ・・・」
だから、少し興味を抱いたのかもしれない。
リリウェルは振り返り、目の前にいたなのはの目をまっすぐ見つめ問いかけた。
「あなたたちは、どうして戦うの?」
「・・・え?」
目の前の不思議な質問に、なのはは疑問符と冷や汗を浮かべる。
「答えて・・・どうして、戦うの?世界のため?居場所のため?自分のため?」
だが、リリウェルは止まらず・・・椅子から立ち上がって、
なのはに・・・その後ろにいるはやてたちに問いかけた。
誰も思わなかったのだろう。
ただ、カウンターの席に座ってココアを飲む少女がそんなことを言い出すなど。
なのはは少しリリウェルを見つめ、答えを自分の中に探した。
そして・・・一言漏らす。
「・・・きっと、自分のためだよ」

 

なのはは切なそうに・・・だが、正直に答えた。
そして、リリウェルの頬を優しくなでる。
「自分の居場所を守るために、他人の笑顔を見たいために
・・・そういう見返りを求めて、戦ってるんだと思う」
なのはは自嘲を込めていった。
ソレは、なのはが管理局に十年という時の間、身を置いた自分自身が出した答え。
誰も世界すべての人間に力を行使できることなどありえない。
何か大切なもの。
自分が必要とする何か。
自分が安らげる・・・安心できる場所。
ソレを守りたいがために、戦うのだと。
なのははそう理解していた。

 

「・・・それで、君はなぜそんなことを問うのかね?」
バルトフェルドはすでにリリウェルをただの少女と見ていない。
むしろ、自分たちの存在を知っている者だと思っていた。
「あなたたちの存在意義が知りたかったの。
どうして、仲間を犠牲にしてまで戦えるのかなって・・・思ったから」
リリウェルは冷静に答えた。
その冷静さにはバルトフェルドやなのははもちろん、桃子も驚いていた。
「リリウェル・・・ちゃん?」
桃子の少し引いた言葉にリリウェルは桃子を悲しい目で見る。
「・・・ごめんなさい」
リリウェルは椅子に座り、ココアにまた口をつけた。
まるで、何事もなかったかのように。

 

「任意同行を頼めるかな?お嬢さん」
バルトフェルドはリリウェルに向かい、そんなことを言い出す。
「ちょ、ちょっと待ってください!こんな小さな子供に!!」
桃子が反発の言葉を叫ぶ。
「いやです。理由がありません」
だが、リリウェルはソレを気にせず、言う。
とても身体年齢が正解とは思えないほどの冷静ぶりにバルトフェルドは確信にも似たものを思っていた。
「理由ならあるさ・・・君は」
「君は、ステラという子に似ている」
ふと、バルトフェルドを遮り、アスランが前に出る。
その表情はとても厳しいものとなっていた。
「君は、ステラ・ルーシェのデータを基に作られた存在か?」
アスランは少し語気を荒く、しかし脳裏には自分が語った名の少女を救えず、涙したシンの姿を映していた。
「・・・私はリリウェル・フラウ、です」
リリウェルはもう興味がない、といった感じでアスランの言葉に振り向きもしなかった。
そんなリリウェルにいらだったのか、アスランは彼女の肩に手をかけようとする。
すると、横から別の腕がアスランの手を掴む。
「!!」
「やめろ」
そこに立っていたのは、ロートだった。
「お前は!!」

 

アスランも意外な人物の登場に驚きを隠せず、手を無理やり離させる。
「時空管理局は、どうして子どもにすら手を出そうとする?
どうして・・・自由という言葉を与えない!?・・・どうして!
リリウェルに手を出そうとする!!」
ロートの言葉はアスランに向いているようで、おそらく彼に向いていない。
その叫びはアスランたちだけじゃなく、翠屋に入っていたすべての人間に届いていた。
どよめきというか、不思議な目で客や店員もソレを見ていた。

 

「・・・少し、落ち着いて話さない?」
重苦しくにらみ合っていた全員に桃子が口を開く。
優しく、語りかけた彼女に、誰も逆らわなかった。
だが・・・ロートとリリウェルはソレを渋る。
「桃子さん。俺たちは無理だよ・・・こいつらと俺らは敵同士なんだ・・・」
ロートは言いづらそうに、だが、荒々しく言った。
なのはたちを睨むロートの目はとても鋭く、桃子もどこか寂しそうな顔をする。
「桃子さん・・・あなたがどういう説明をされたかわかんないけど、俺らの見解は違う。
俺たちを実験動物として生み出し、人間という名前をつけながら人間として扱わない。
生み出した結果を求め、その過程を薄汚く汚す!それが時空管理局の真の姿だ!!」
ロートの声は翠屋に響き渡った。
その響きは今まで作ってきた色々なものを壊す言葉でもあった。

 

「・・・そうだな」
ふと、アスランが口を開いた。
「確かに、管理局の闇は深いのかもしれない・・・だが、それが管理局のすべてじゃないことも確かだ」
「・・・自分たちはソレに反しているつもりなのか?何もしてないクセに
主張ばっかしやがって、しかもソレで何かをしたつもりでいやがる
・・・勘違いすんなよ。結果が出てないお前たちは何もしてないのと同じなんだ!
そんな奴らに従うことはしない!」

 

きっと誰もそんな事はない。
誰もが言いたかったのだろう。
だが、口には出せなかった。
ロートの言葉は守ってもらえなかった、守ることをしてもらえなかった。
そんな人達の代弁の聞こえてしまうのだから。

 

「ロート君」
そこに、ただ一人口を開くものがいた。
桃子である。
「私はそうは思わないわ。どんな結果でも・・・結果が出なくても、仕方がないものよ。
そう割り切れるものじゃないって言うのもわかるわ。けどね、生きていくうえで、
人間はありとあらゆるものを叶えられるわけじゃないんだから・・・感情の刃を
ただ、突き立てるじゃけじゃダメよ」
空気が少しだが、緩んだような気がした。
そして、桃子の言葉に店中から拍手喝采が巻き起こった。
「あ、あら・・・やだ、もう!」

 

さすがに演技がかったものだと客には取れたのだろう。
桃子は顔を真っ赤にしながら、大慌てする。

 

桃子の言葉を本題的に聴いていたロートはもちろんだが、
さらに感慨深く反応しているリリウェルがいた。

 

(・・・暖かい。どうしてだろ?わかっていたことなのに・・・桃子さんも同じだと、
心の奥底で考えていたのに・・・どうして、この人はこんなに優しい言葉を
言えるんだろう?どうして私たちをひどい目で見ないんだろう?・・・どうして?)
この時、リリウェルは自分が触れたものに気づけなかった。
しかし、彼女が感じたもの、心が触れたものは・・・蔑まれた彼女にとって初めて
家族以外から与えられた“優しさ”だったのだ。

 

だが、その触れた優しさと同時にリリウェルの脳裏には浮かぶものがあった。
ソレは・・・ひたすらに心を傷つけられ、なおも茨の道を行く翼を持つ人。
初めて出会ったはずなのに、その瞳を見た瞬間から、何かがこみ上げていた。

 

「ダメ・・・」
「え?」
「シンが戦っているんだもん・・・私たちがシンを裏切ることなんてできないよ!」
ソレを聞いたロートはニッと笑い、前を向いた。
「よく言ったリリウェル!そうだ、俺たち家族は・・・皆で、道を歩くんだ!!」
リリウェルの手を握り、ロートは走り始める。
「あっ!」
驚きの声を上げるも虚しく、二人はすでに翠屋の外に出ていた。
「逃がすな!!追撃にかかれ!」
バルトフェルドは後ろめたさなんて何も感じていない。
彼は、彼の思ったことのままソレを口にしているのだ。

 

「・・・」
キラとアスラン、はやてたちはすぐに飛び出した。
だが、なのはたちスターズはまだバルトフェルドの後ろに立っているままだ。
「何をしているんだ?早く・・・」
途中まで言ってバルトフェルドは言葉を止める。
「・・・戦いたくないのなら、ソレもいいさ。
ただ・・・今動かなければ、僕たちは本当に彼の言ったとおりになってしまうよ?」
その言葉に、それぞれがはっとする。
そして、思い切って歩を踏み出したのはスターズの二人だった。
「ティアナ!?スバル!?」
なのはが驚きの声を上げるが、二人は振り向かない。
「振り向いていたら!何も守れませんから!!」
ティアナが言う。
「全部、なのはさんたちから教わったことです!!」
スバルもソレに続き、二人は翠屋を後にした。
「二人とも・・・そうだよね!」
なのはは前を向いた。
そして、走り出す。
その背中が桃子はうれしく思えた。
自分の娘はこんなにも立派になったのだ、と。

 

「・・・では、私もこれで失礼します」
バルトフェルドは軽く会釈して翠屋を出る。

 

─???─

 

ラウルは何かを察してか、すばやく目を開き、意識を覚醒させた。
「みんなっ!?・・・ぐ」
さらに起き上がろうとするが、胸の鈍痛が感覚を支配していた。
「博士!」
ラウルの周りには全員が集まっていた。
そして、心配の目をしたラウはラウルにタオルを渡し、フィルは水と薬。
グラウは着替えを持ってきていた。
「・・・ふ、やれやれ・・・君たちは執事かい?」
あまりの光景にラウルは笑ってしまう。
その笑いから、ラウルの状態が少なからず把握でき、三人は安堵の息を漏らす。
「まったく・・・心配したんですよ!?」
「すまない・・・」
グラウの怒鳴り声に素直に謝る。
やはり、彼らにはラウルが必要なのだろう。
少なくとも、純粋に彼らはそう願っていた。

 

ラウルの部屋のドアにいつの間にか二人の青年が立っていた。
「・・・やぁ起きたのかい?
ラウルはそれに気づき、その言葉を彼らに送った。
「なんだ、起きてたのか?」
グラウがそういい、ラウやフィルも笑顔で彼らが起きた事を祝福した。
CEの世界のMSカラミティで戦場をかけたオルガ・サブナックの面影を持つ青年。
名はシュテルン・ガラクスィ。
そして、もう一人の・・・MSアビスで戦場をかけたアウル・ニーダの面影を持つ青年。
彼の名はメーア・ゾンネ。
二人とも、やはり似ていた。
「あぁついさっき起きたんだよ」
とメーアが言うと、シュテルンが続いてうんうん、と頷いていた。

 

「リリウェルとロートは?」
シュテルンが部屋を見渡すしぐさをしてから、ラウルたちに問いかける。
「「「そうだ!」」」
すると、思い出したかのように三人は声を合わせる。
「博士!あいつらいないんだよ!しかも第97管理外世界でレリックの反応があって
シンまで行っちまうし・・・管理局たぶん察知してるはずだ・・・どうする?!」
「・・・」
ソレを聞いたラウルはただ黙って考え込んでいた。

 

─海鳴市・上空─

 

街から多量の魔力反応を感知したとき、シンは閉じていた目を開いた。
(どうやら、ロート氏とリリウェル嬢が追われている模様。
追っている者たちは・・・Sランクオーバー魔道士です)
デスティニーがそう告げる・・・すると、シンは今まで胸の前で組んでいた腕を下ろす。
(行きますか?)
「・・・少し、傍観する」
(・・・了解)
意外な返答に一瞬デスティニーは戸惑いかけるが、もう何も言わなかった。

 

そして、地上ではものすごい速さでリリウェルを抱えながらロートが走っていた。
「リリウェル!来てるか!?」
後ろの追っ手の確認をリリウェルに任せながら、ロートは走っていた。
「・・・来た」
「何人!?」
「3人」
淡々と答えるリリウェル。
そして二人を追っているのははやて、シグナム、ヴィータの三人だ。
まだ、武装はしていないものの、デバイスはいつでも起動できる状態にあった。
「リイン!!予定地点まであとどれくらい!?」
「あと少しです!」
どうやら、はやてたちは計算して二人を追いかけているのか、常にリインがリードしていた。
「よし・・・」

 

ロートとリリウェルは自分たちが追い込まれていることも知らず、走る。
彼らの走る先には何が待つのか?
また、彼らが目指すものと繋がってるのだろうか?
はっきりとだんげんできるわけじゃない
だが、目指すことをやめては意味がない。
そのためにも、彼らは戦わなければならない。
戦うことが幸せに繋がると信じているのだから。

 

第97管理外世界・・・海鳴市で戦いが始まる。
ソレは、誰も予想なんてしなかったことだ。
だが、管理局は管理外世界に魔法を晒す訳には行かない。
それゆえに、管理局上層部が取ろうとする手段。
ソレは・・・その場にいるすべての人間に残酷な選択を迫るものだった。

 

次回 “さよなら”をあなたに

 

考えなかったわけじゃない・・・だけど、現実に起こるなんて思わなかった。