Lyrical DESTINY StS_第20話

Last-modified: 2008-06-14 (土) 17:59:26

誰にでも守りたいものの一つや二つ、あるものだ。
それを奪われたとき、人は獣のように凶暴になる。
その狂暴さは誰にでもあるのだ。
普段はそれを理性というもので抑えている。
リセットできないその想いは、どんなことをしたってぬぐえるものじゃない。
だからこそ、彼女は歩き始める。
憎しみの道を。

 

─???─

 

いつも、元気な声が聞こえるはずだったひとつの部屋は静寂で包まれている。
静寂とともに、幼き少女のすすり泣く声が聞こえていた。
「うぅ・・・ロート、ロート・・・ロートォ!!」
ベッドのシーツを力いっぱい握りしめ、顔を枕にうずめていた。

 

そのすすり泣く声をやりきれない気持ちで聞くラウルたち。
「博士、ロートはもう?」
どうにかならないのか、とシュテルンが問いかける。
ラウルはただ首を横に振るしかなかった。
壊れたもの・・・壊されたものを直すことなど、できない。
自分が天才だ、賢者だと呼ばれる存在であったとしても。
「・・・フィルも消耗が激しくポッドに入った。グラウも以前の傷が癒えていない。
ラウも・・・現段階でまともに戦えるのは俺とメーア、シンの三人だけだ。どうする?」
シュテルンは戦いの場でもそうだが、どこかわざと狂気的な一面を
見せているように見える。普段は冷静沈着が彼の本当の姿なのではないだろうか?
「今回、シンが回収したレリックの純度が軽くレリック三つ分の価値が
あることがわかった・・・“プロジェクトD”の発動は、近い」
背を向け、ただ何かの資料とにらみ合うラウル。
そんなラウルの背中が、ただ儚く思えたシュテルンは、
どう言葉をかけていいか、そんなことを考えていると、シンの横顔が目に入る。
「(・・・そうだ!)なぁ、シン」
「なんだ?」
呼ばれてすぐに振り向いてくるシン。
「剣十字の女・・・覚えてるか?」
はやてのことだ。シュテルンの第一人称ははやてが持つシュベルトクロイツなのだろう。
「ああ・・・バルトフェルドを殺したとき、やたらうるさかった奴だな」
何かが軋んだ。
シンは自分で発した言葉に少しの動揺を感じていたのだが、
ソレが動揺していると気づいてはいなかった。
「決着、つけて来いよ?」
「シュ、シュテルン!?何を!?」
シュテルンの提案に、ラウルが反応する。
「俺は、アイツの目が似てると思った・・・お前に」
「俺に似ている?」
当然のように疑問符を浮かべる。
自分に同類がいるとは思えないからだ・・・
これほどの悲しみを背負う人間がいるものか、そういう執着がシンの中にあった。
「アイツの姿はお前に似ているんだ」
その言葉で会話が止まってしまう。
ラウルも口を閉ざすしかない・・・二人はシンの回答を待っていた。
「・・・・・・わかった」
ただ、一言だけそう呟くと、シンは部屋を後にした。

 

残った二人・・・ラウルはシュテルンの首元に手を伸ばし、掴む。
「なぜあんなことを言ったんだ!?」
「・・・博士、俺はオリジナルの記憶と、シュテルン・ガラクスィの人格を持っている」
「だから、二つの想いで世界を見つめられるというのか?」
シュテルンの回答に、手の力を緩める。
「アイツは、ああいう奴とぶつからなきゃならない・・・俺はそう思う。
たとえ結果が血にまみれてしまったとしても・・・アイツは、背負うべきなんだ」

 

言っている事は理解できる。
確かに、このままシンが・・・ただ、破壊者として生きていくことを望んだりしない。
壊れてしまう世界の事実が生まれてしまう前に・・・“プロジェクトD”の実行の前に。
「君はどうするんだ?正直、“プロジェクトD”の
発動・・・君のような人間には受け入れられるとは思わないんだが?」
先ほどまでに怒りを流し、今度は皮肉とも冗談とも取れる口調で問いかけるラウル。
「博士、家族だろ?」
─家族のためなら、自分のわがままは引っ込めるさ。
そう言って、シュテルンは屈託のない笑顔をラウルに向けた。
「ありがとう」
その気持ちが、今は何よりもありがたいんです、とラウルは心の中で呟いた。

 

メーアは一人、自分のデバイスであるアビス・ナイトメアの整備をしていた。
「ったく、強い奴らと戦うとお前が傷つくからイヤになるぜ」
(すみません・・・お手数をおかけして)
「気にするな。大して手間じゃないから」
(ありがとうございます)
そんな一人と一機の会話は誰も聞いていないが、見ていればどこかほほえましい光景でもあった。
「なぁアビス・・・頑張ろうな?」
(・・・はい)
静かな決意を、彼は言葉にした。

 

─本局・会議室─
会議が終わり、今部屋に残っているのはキール、ミゼット、フィルス、
そしてはやてとヴォルケンリッターだった。
「はやてさん・・・」
ミゼットが心配そうな声を上げる。
「大丈夫、です・・・失われた命に報いるためにも、この事件・・・必ず終結させて見せます」
決意に満ちた・・・だが、やはり聞く側にとっては辛い。
そんな声を発するはやて。
「はやて君、戦いは他人を守り、自分が生きていてこそ意義がある・・・死ぬんじゃないぞ?」
キールの精一杯の応援の言葉だったのだろう。

 

はやてに課せられたことに対する・・・せめてもの。

 

時間は一時間ほど遡る。
シックザールが発言し、その回答がキールの口から発せられようとしていた。

 

「時空管理局武装隊栄誉元帥ラルゴ・キールの名の元に、特殊戦技隊を解散とする」
「「「!?」」」
室内にどよめきが走る。
ソレと同時に一人の男が椅子を後ろに弾き飛ばし、立ち上がる。
「ま、待ってください!!」
ゲーエンだ。
すでに焦りの表情を浮かべて、何を言ってもいいわけにしか聞こえないだろう。
「何かね?ゲーエン・アードリーガー少将」
「彼らは管理局に必要です!現に、彼らの存在が他の魔道士を助け、
時には励みにすらなっています!!ソレを・・・切り捨てるなどとは!!」
必死の供述。
議題になっている特殊戦技の者たちは眉一つ動かさず、目を瞑りただ先にある結果を待ち続けていた。
「・・・何も知らないと、思っているのかね?」

 

「!?」
「ゲーエン君、君はいずれ・・・罰を受けるだろう。
ソレを下すのは我々ではないが・・・覚悟しておくことだ」
下衆な考えを持つ者は最後までソレに気づかない。
権力に座していつしか綻びたその誇りは何も表現できないのだ。
「くっ!」
「特殊戦技隊の全権限を剥奪し、階級を三等佐官まで降格。以後、
この作戦の指揮は遺失物管理課機動六課部隊長八神はやて准将に任せる。異議は認めん」
元帥たちは決めていたのだろう。
この場所で、管理局の闇の一つに終止符を打つことを。
「あぅ・・・あぁ・・・」
崩れるようにゲーエンは椅子に座った。
その後は、何を言っても反応がない・・・ショックが強すぎたのだろう。

 

そうして会議は終わり、今につながった。

 

はやては会議室を後にすると、ヴォルケンリッターとともに、カガリの見舞いに行くことにした。

 

カガリはまだ目覚めておらず、バイタルも安定していない。
予断を許されない状況でもあった。
「アスハ提督・・・私は“死が当たり前の世界”なんてイヤです。
けど、今私の中にある感情があるから、“当たり前”になってしまうんですね?」
ガラスに囲われ、隔離されたような病室にカガリがいる。
遠くからの呟きが聞こえるはずもないのだが、はやては呟きを続ける。
「私は今・・・初めて、感情のままに戦おうとしています。
間違っているかもしれませんが・・・どうか、見守ってください」
首から下がっている剣十字が悲しく光る。
後ろにいるシグナムたちも、やるせない顔をするしかなかった。

 

─無限書庫─

 

「どうしたの、なのは?ヴィヴィオのところより、先に僕のところに来るなんて?」
「・・・」
なのはは黙ったまま、ユーノの背中にもたれかかっていた。
「言いたくない?」
ユーノはパタン、と手に持っていた本を閉じて背中にいるなのはに少し体重をかける。
「そんな・・・わけじゃ」
どこか後ろめたそうな感じをかもし出して、なのはは俯く。
「辛い?」
「・・・うん」
「そっか」
「・・・うん」
短い会話が続く。
ただ、問いかけと返事・・・だが、それでもよかった。
なのはは今、彼に傍にいて欲しかった。
自分を理解してくれて、何をも共有できるユーノと。
「僕も報告は聞いてるよ。海鳴のこと・・・また、こんなことがあるかもしれないね?」
「!?」
考えたくないことを、ユーノが口にするとなのはは少しだが、顔が強張る。
「・・・もしかしたら、僕は約束を守れないかもしれない」
「え?」
ふと、話題が変えられ、ソレも何か不吉な言葉が聞こえた気がしてユーノのほうを振り返る。
「なんでもない・・・そうだ、フェイトの蘇生方法・・・見つかったんだ」
「ホントに!?」
話をごまかされた気がしたが、ユーノが言った後者のほうに反応する。
「うん・・・無限書庫を洗って調べたんだ。きっとどうにかなるよ」
この時、なのはは気づかなかった。
フェイトが目を覚ますという・・・ただそれだけに目が行っていたのだ。
ユーノのソレを話す切ない声に、なのはは気づかなかった。
そして、ユーノも気づいていなかった・・・自分の計算が狂っていることに。

 

はやてはシャマルにシンの魔力波長を探させていた。
つまり、出現したらすぐにでも転移できるように、だ。
ソレは、待たなければならないだろうと思われていたが、その予想は裏切られた。
「はやてちゃん・・・反応ありました」
「どこ!?」
シャマルの報告に、はやてはすばやく反応する。
「・・・ミッドの外れ、ですね?どうしますか?」
「行く」
はやてはすぐに転移魔法を展開した。
ヴォルケンリッターもソレに続き、6人は姿を消した。

 

─ミッドチルダ・辺境地区─

 

雨が降り出しそうな空を、シンは見つめていた。
「もし、雨が罪を洗い流せたなら、どんなにいいだろうな」
シンはそんなことを呟いて、首を振った。
どこか珍しい光景でもあったが、そんな事は今はどうでもよかった。
目の前に五つの魔方陣・・・そこから現れる、激しい怒りを抱いたはやてたちとシンは対面した。

 

「来たか?」
シンは即座にアロンダイトを構える。
「呼んでたとでも?」
怒気がこもったはやての言葉。
シンは静かに首を縦に振る。
「呼んださ・・・名前を教えてくれるか?」
落ち着いた声・・・というより、いつもより静かさが目立った。
「・・・時空管理局」
「階級はいい・・・ただ、名前を」
遮られ、少しむっとするが・・・はやてはどうでもいいと割り切り、名乗りを上げる。
「八神はやて!」
「リインフォースⅡです!」
名乗り終えると、はやては後ろに跳び、リインとユニゾンを開始する。
「リイン!!」
「はいです!」
「「ユニゾン・イン!!」」
ヴォルケンリッターは初めから、見守ることを決めていたのか、後ろに下がる。

 

(確かに・・・似ている)
シンはシュテルンが言った言葉を思い出していた。

 

─アイツの姿はお前に似ているんだ。

 

「光の水面・・・波紋に広がる十字の光・・・」
「!?」
ふと、前を見ればはやてが魔道書を開き、呪文詠唱を行っているのが耳に入る。
「詠唱呪文?初めて見る・・・」
シンはまだ魔法文化に染まって間がない・・・
彼が扱うのはカートリッジを使った砲撃や魔力任せによる攻撃だけだった。
故に、はやての行う彼女に許された特技・・・レアスキル“蒐集行使”
─かつてヴォルケンリッターが魔道書に蓄積した魔法を使うことのできるものだ。
「我が名において放て・・・クロス・ファイア!」
はやての掲げられた手の先に十字の魔方陣が生まれ、そこから勢いよく光が放たれた。
「・・・」

 

シンはソレをアロンダイトで受け止める。
「・・・くっ」
歯を食いしばり、シンは予想以上の勢いを持ったはやての魔法に耐える。
「遠き地にて・・・闇に沈め」
「!?」
はやてはさらに呪文を詠唱していた。
彼女にとって一番得意とする・・・広域魔法を。
「ディアボリック・エミッション!!」
黒い光が広がっていく。
そして、防御の構えから動けず、シンは吹き飛ばされてしまった。
吹き飛ばされたシンはそのまま地面に転がるかと思いきや、
背中の翼で推力を得てそのまま上空に飛び上がる。
「・・・俺を殺したいか?」
飛び上がったシンははやてに問いかけるように呟いた。
「殺したい・・・殺したいほど憎い!けど、殺したらアナタと一緒になってまう!
だから、アナタを裁く!れっきとした場所で!!」
「・・・なら、お前は俺に似ていない」
シンの中で何かがキレた。
期待していたのかもしれない・・・自分と同類の何かを共有できるかもしれないという。
「俺はお前を殺す。そして、進んで・・・」
シンはそこまで言うと、エクスカリバーも構えて、上空からはやてに向かい降下する。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「くっ!」
シュベルトクロイツでどうにか防ぐが、男と女・・・力差は歴然だ。
「吹き飛べ!!」
「くっ・・・きゃああ!」
はやては吹き飛ばされる。
だが、シンは容赦しない・・・そのままエクスカリバーをブーメランのように投げつける。

 

「はやて!!」
ヴィータが叫び、助けに入ろうとするが・・・ソレをシグナムが止める。
「何すんだよシグナム!?」
「・・・見守るんだ」
ギリッとシグナムが歯を食いしばっているのが見えた・・・ヴィータは悟る。
誰よりも飛び出したい気持ちを抑える彼女のことを。

 

はやてはエクスカリバーに対し、バインドをかけ、
そのバインドにチェーンバイドを用いて勢いを完全に奪い失速させる。
「ほの白き雪の王・・・銀の翼を持って、眼下の大地を白銀に染めよ・・・来よ、氷結の息吹!!」
(アーテム・デス・アイセス!!)
白い魔力の光がシンとエクスカリバーに向かい、エクスカリバーは完全に氷結。
シンはソレをすべて回避する。
「くっ・・・はぁ・・・はぁ」
連続魔法行使により、はやてもだいぶ消耗していた。
だが、はやてはまだ魔道書のページをめくる。
「我が請うは、天の裁き!雫降り立つ大地の叫び!咎人に粛清の光を!!」
(楽園よりの罰!)
魔方陣がはやてとシンのいる20メートルほどの枠に区切り、巨大な魔方陣が生まれる。
「なんだ!?」
「これが・・・あたしの最大の魔法行使!対象者の魔力を奪い取り、意識を失くさせる!」
だが、はやても代償を払っていた。
連続魔法行使の代償は・・・己の命を削って。

 

「!?」
そして、その代償を以って、シンにも変化が訪れた。
背中の翼で飛翔していたのだが、その背中からたぎっていた魔力が今消失し、
小さなともし火のように消えかかっていた。
「飛翔魔法がデリートされた?」

 

不可解な顔をするシン。
どうすれば、人間の力でAMF以上の力が出せるのだろう、と思考をめぐらせる。
だが、簡単に種は開かされる・・・はやてによって。
「これは私の全魔力を持って・・・はぁ・・・はぁ・・・
擬似的にこの魔方陣内に虚数空間の効果を発動者である私以外の魔道士に強いる!」
その証拠に、シンのアロンダイトの魔力刃も今は消失していた。
(くっ・・・リンカーコア、負荷増大!)
リインが苦しそうに告げる。
「大丈夫、これさえ終われば・・・」
はやては微笑み、シュベルトクロイツの先をシンに向ける。
「終わりや・・・“赤い翼”!」
魔力が収束していく。
魔方陣内には黒いシャボン玉のようなものが下から上へと上る。
その上ったものが、一定高度に達すると破裂し、霧のようになって消えた。
「終わり?俺はもう終わってるよ。終わったから、始まりの鐘を鳴らしたんだ・・・
そして・・・世界を壊す!約束したんだ」
シンはふと、表情を前髪で隠れるほど俯く。
「そう・・・俺は、大事な人を・・・仲間を、失った。
失ったんだよ・・・なぁ八神。アンタは何を思ってこの世界を生きる?」
「?」
「もし、自分の大切な人、仲間が目の前で・・・自分の無力さの所為で死んだら、
その世界でアンタは何を思う?」
突然の質問。
このような極限の場所だというのに・・・シンははやてにどんな答えをまっているのだろう?
「俺は、戦争になった母国で逃げているとき、目の前で家族を失った」
「・・・それで?」
「悲しくて、無力な自分が・・・理不尽に家族を奪った奴を・・・世界を恨んだ」
「・・・」
恨み筋とも取れるシンのソレは・・・不幸というには足りず、
だが、ほかにいい言葉が見つかるわけでもなかった。
「力を得ても変わらない・・・また、仲間を失った・・・大切な人を失った」
脳裏に浮かぶステラ・ルーシェの最後の姿・・・湖に静かに沈んでいく姿。
「けど、俺の犠牲で・・・世界から悲しみがなくなり、平和を勝ち取れるならそれでもいいと思った」
少しだが、確実に語るたび怒りが蓄積されている・・・シンの怒りには必ず悲しみがついていた。
「そして、こっちに来て・・・今度こそ、確実に守れるって期待した!!」
「・・・」
「だが、世界はまた俺から大切な人を奪った!!こんな世界が正しい分けないじゃないか!?」
言葉の裏に、ルナマリアの笑う姿。
その笑う女性が・・・シンにとってどれだけ救い、支えになったことか。
誰も知らないのだ。
「大切な人を奪う世界が正しいって言えるのかよ?八神はやて!!」
「・・・」

 

ここまで来て、そんなことを言わないで欲しかった。
シンに対する憎しみと哀れみが交差してしまった・・・
彼を救えないかと全身全霊で考えようとしていた。
だが、それではバルトフェルドはどうなる?
なぜ彼が死ななければならない?
そんな黒い気持ちも当然、消えずにはやての中にはある。
その二つの考えがまとまらず、はやてをフリーズさせてしまった。
(はやてちゃん!!)
だが、リインの一声がはやてを現実に戻す。
「答えろ、八神はやて」
はやての答えをシンはまっていた・・・攻撃しようと思えばできたのに、だ。
「・・・」
答えられなかった。

 

少し時間をかけて、シンの光のない瞳を真っ直ぐ見つめて・・・答えは出なかった。
シンもこれ以上時間があっても、はやては答えを出さないと結論し、再びアロンダイトを構える。
「魔法の使えへんこの状況でどうする気や!?」
はやては軋む身体をどうにか持たせ、シュベルトクロイツを握る力を強める。
「・・・だが、魔力で構築されているアロンダイトの魔力刃が消えても、
刀身は消えていない。つまり、この魔方陣ないで、使えないのは魔力でできた
あいまいな存在。形作られたものは形を保てる!」
シンの見立ては当たっていた。
はやてが形成したこの魔方陣内では、魔法・・・魔力刃など、そういう完全な固体として
生み出されていないものは、構築できず、陣内にいる間は魔力結合ができない。
しかし、中に入る前から持っていたアロンダイトの実体部分は残った。
「剣があれば、戦える。俺は・・・お前を殺す」
赤く光のない瞳に殺意を込めて、シンははやてを見る。
今はもう、狂気の笑みなどない・・・ただ、はやてを殺すと言う自身の願望を
アロンダイトの切っ先に乗せるのみだった。
「私は死なへん!アンタを必ず・・・正式な場所で裁く!!」
はやては、“楽園よりの罰”の精製を止める。
このままでは間に合わず、ただ殺されるだけだと判断したからだ。
だが、フィールドはそのまま・・・シュベルトクロイツの先に多大な魔力が集まる。
「響け!終焉の笛!!」
(ラグナロク!)
三つの光がどんどん肥大化していく・・・普通ならこんなに早くチャージは
できないはずなのだが、今いる場所がはやての魔力転換率を上げているのだ。
(高純度収束魔力砲・・・・・・使うか?)
シンは今、はやてのラグナロクを食らえば、確実に自分が意識を手放し、
次に目覚めれば管理局の監獄の中だろうと、理解する。
故に、自身の胸に片手をあて、レリックを使うかを考えていた。
目の前に広がるのは白い三つの光・・・それが異常な速さで収束していく。
ソレを見つめ・・・やはり、使わなければ打破できないと考え、シンはレリックの力を解放する。

 

シンがレリックを使ったとき、彼に降りかかる彼以外の
魔法はすべてキャンセルされる・・・すり抜けるといってもいい。
メルクーアのゴッドプリズンのどの強度でも難なく抜け出したのがいい例だ。
レリックウェポンの力を最高まで引き出すシンのセンス、コーディネイターの順応力がなせる業である。
だが、当然欠点もあり、その能力は最大10秒までしか発動できず、
それ以降は30秒の間隔をあけなければならない。
これは、その能力を使った場合であって、
普段はレリックを使えば、シンの魔力はほぼ無尽蔵といっていい。
「レリック・・・発動」
言葉と同時にシンは、常識から外れた。
ソレとほぼ同時にはやてのラグナロクがシンに向けて、放たれる。
当然シンは背中の翼、アロンダイトに魔力を通し、再び二つを輝かせる。
「終わりだ!!」
そのまま垂直にアロンダイトを構え、はやてに向かい勢いよく突き出す。
だが、切っ先はいつまでたっても気味の悪い音を立てることはなく
・・・それどころか、ただ空気を切り裂いていくだけだった。
「何!?」
「甘いで・・・」
はやての声が冷たく響いた。
ラグナロクを突っ切ったシンは少しだが、視界が悪かった・・・そのため、
照準ははやてがいた場所に絞るしかなかったが、それでも予想外の攻撃で必ず、
命中するとシンはふんでいたのだ。
(シュヴァルツェ・ヴィルクング)
リインが魔道管制をし、はやての両腕に打撃力を挙げる魔力が付加する。
「たぁぁぁぁ!!」
一撃がシンの腹部に直撃し、さらにもう一発・・・鈍い音をたて、
その攻撃はシンの顎めがけて振り上げられていた。

 

「カ、ハ」
そのまま、シンの身体は宙を舞う。

 

─俺・・・は。

 

かすかな光がシンの視界すべてに広がっていく。

 

─???─

 

「シンの強さは、怒りの下にあるしたたかさだ」
ふと、ラウルが呟く。
「誰よりも悲劇に・・・不幸に見舞われたはずなのに、彼は折れなかった。
だから、シンは強敵と戦ったくらいで、心が折れない」
彼の強さを証明するように・・・シンを応援するかのように、ラウルはそんなことを呟いていた。
「たとえ、復讐者という黒き者となったとしても、シンは強い・・・表裏善悪が
ないからこそ、純粋に怒り、純粋に今を捉え、純粋に力を扱え、純粋に人を殺せる」
パタンと広げていた本を閉じる。
「・・・だから、負けない」

 

─ドクンッ!

 

宙を舞い、地面に落ちたシン・・・だが、かすかな拍動が大地に響く。
(・・・マイスター)
「わかっとるよ・・・縛れ、鋼の軛」
ザフィーラが得意とする拘束攻撃魔法を発動させ、シンの四肢を縛る。
「・・・」
はやては倒れたシンに静かに近づいた。
「私は、確かに大切な人を失ったことはない・・・物心ついたときには、
一人やったからなぁ。それで、守ってもらった」
言葉に少し自嘲的なものがこもる。
「けど・・・私は!」
はやてがそこまで言いかけて・・・止まる。
止められたのだ。
「俺と、お前は・・・違う」
「・・・そ、やね」
ポタ、と雫が一滴落ちる。
そして、続くようにまた血が滴り落ちていた。
認めたくないと、そういった叫びのような・・・空気がはじけるような感覚。
はやてはゆっくりと、下を見た。
そこにあった事実は・・・はやての胸部に突き刺さるアロンダイト。
はやての身体を貫き、背中からその刀身がのぞいていた。

 

血が逆流し、口からそれが漏れる・・・ゆっくりと・・・。
体勢が崩れ、はやてはそのままシンのほうに崩れていった。
その光景はヴォルケンリッターにとって驚愕であり、
はやてが倒れる瞬間はスローモーションのように感じていた。
「主!?」
「はやて!?」
「はやてちゃん!?」
「!?」
それぞれが叫び、それぞれのデバイスを起動させ、武装し、走り出す。
「・・・」

 

そんな彼女らを見て、シンは無表情に、はやてからアロンダイトを抜く。
はやての血がドクドクと流れ、付着した血は辺りの暗さから黒く見えていた。
シンはすぐにはやてから離れ、少し離れた位置から、ヴォルケンリッターの動きを伺う。
だが、特に自分に攻めてくる気配がないとわかると、アロンダイトをおろす。
そして、そのままそこから姿を消してしまった・・・おそらくはミラージュコロイドを使ったのだろう。

 

彼女たちにとって、今はそれ所ではないのだろう。
優先順位は、はやての・・・主の生命維持なのだ。
「おいはやて!返事しろよ!はやて!!」
ヴィータが泣きながらはやての名を呼ぶ・・・何度も。
「シャマル、主の容態は!?」
「・・・くっ!」
シャマルはすぐにはやての治療を始めたが、
傷の深さが尋常ではないことが、素人でもわかるほどだった。
加えて出血もひどく、とても助かりそうにないという印象しか受けなかった。
「止まって!止まってよ!」
シャマルはもうどうしようもない、といった感じで
血が溢れる箇所に懇願するように回復魔法を集中してかけていた。
だが、血は止まらない・・・栓が抜かれたように、止まらないのだ。
「死んじゃう・・・はやてが死んじゃうよ!!」
もう呂律が崩壊しつつあるヴィータは、シャマルにただ目で訴えた。
言葉でどうにかなるわけではない・・・だが、言わずにはいられないのだ。
大好きな彼女が、死ぬことが耐えられないのだ。
「どうにかならないのか!?シャマル!?」
シグナムも取り乱し、ただこうして叫ぶことしかできないことにいとましさを感じていた。
「・・・駄目よ、もう・・・」
震えている声。
絶望に打ちひしがれたものが出す声だ・・・シャマルは確信したのだろう。
八神はやての絶命を。
「シャマル!!」
涙声で、表情は涙でぐちゃぐちゃなヴィータがシャマルに寄り添う。
そして、袖を掴み、ただ言葉にもならず、唸っていた。
「・・・・・・シャマル」
ふと、ザフィーラが口を開く。
「守護騎士プログラムの封印、解くわけにはいかないか?」
「!?」
ザフィーラの言葉にシャマルは驚く。
その提案が、どれだけ残酷なものか・・・シグナムとヴィータは知らなかった。
「ザフィーラ!」
シャマルが少しの怒声をあげる。
「私は、主を死なせたくない。
私たちが行うことを良しとも思われないだろう・・・だが、我々は、主を守るための・・・」
「そんなこと、わかってるわよ!」
ぐっとこらえて、シャマルは歯を食いしばる。
「助ける方法があんのかよ!?なぁシャマル!ザフィーラ!!」
ヴィータは二人の話が、はやてを救う手立てだと思い、問いかける。
瞬間、シャマルはただ暗い顔しかできなかった。
言っていいものか・・・いいわけがない。これは残酷すぎる。
どの道、選ぶしかないのだ・・・どちらかを。
少しの決心をし、シャマルはヴィータの目を真っ直ぐ見て、こういった。
「耐えられる?アナタには・・・辛すぎる提案よ?」
「はやてが助かるんならなんでもするよ!だから、早く言ってよ!!」
焦る気持ちが前面に出ているヴィータ。
シグナムも速く言え、と言わんばかりに腕を組み、シャマルを見ていた。
「・・・はやてちゃんを救う方法は一つ。私たち守護騎士と、はやてちゃんの・・・
合体、と言っていいのかしら?欠損した部分を補うために、私たちがプログラムデータ
に戻り、ソレを補修する・・・ソレをすれば、私たちは・・・消える」
シャマルの言葉は冗談ではないか、とヴィータは一瞬逃避しかけた。
救うために、自分たちが消えなければならない。
消えたら、もう、はやてと話したり、ご飯を一緒に食べたりできない。

 

「けど、はやてが死ぬなんて・・・イヤだ!」
些細だが、とても大切な・・・そんな彼女の笑顔が浮かぶ。
ソレを守るために、自分たちは存在している。
存在の証明というわけではない・・・ただ、守りたい。
守護騎士の使命ではない・・・ただ、大切な家族として、暖かいこの手が
ただ冷たくならないように、守りたいという気持ちがそうさせる。そう思わせる。
「それで、どうすればいい?」
今度はシグナムが問いかける。
彼女もすでに決心したようだ。
「・・・一人は残れるわ」
「なら、ヴィータお前が・・・」
シグナムはソレを聞いてすぐに適役をヴィータだと考えた。
だが、ヴィータは首を横に振る。
「あたしじゃ駄目だ・・・シグナム、アンタがはやてを守ってくれよ?」
「しかし!?」
「あたしは・・・はやてを助けたい。けど、守るには力が足りない・・・だから、
アンタに任せるんだ。ヴォルケンリッター・・・烈火の将シグナムに」
これ以上ない言葉だった。
素直じゃないヴィータがここまで言ったのだ。
シグナムはその厚意を、そして、その重さを背負わないわけには行かなかった。
「ならば、我が騎士の誇りにかけて・・・必ず」
レヴァンティンを高々と掲げ、雲がかかる空にソレを誓った。

 

「すぐに儀式に入るわ・・・中のリインちゃんも、このままじゃ危ない」
ユニゾンしていたせいもあって、リインもはやてと
同じダメージを負っていて、念話による返信がなかった。
故に、シャマルは処置を急いだ。
クラールヴィントで場所を作り、ザフィーラとヴィータは静かに心を落ち着けた。
その落ち着いた心で浮かんだ言葉は・・・別れの言葉だった。

 

─???─

 

「シン!?」
シンはラウルたちの元に帰って来た。
だが、予想以上にボロボロに・・・ダメージを受けて、だ。
身体を引きずるように、歩くシンに肩を貸そうと、シュテルンが近づく。
近づいてきたシュテルンに、そのまま体重を預け、シンは全身の力を抜いていった。
その状態で、思いついたように、シュテルンに一言耳打ちする。
「シュテルン・・・アイツは、俺と違う」
「・・・そうか」
その一言で納得したような声を出し、シンは意識を手放した。

 

「・・・だが、アイツはきっと倒れない・・・倒れさせてもらえないんだ。
お前と同じように、止まれないんだと思う」

 

何かをとして戦う姿が重なる。
その姿は美しく・・・そして、儚い。
自分を救ってきた人の数か、自分を悲劇へと導いたものかの差。
はやては救われ、自分を常に幸せの道を歩ませて来てくれた。
シンは、母国で家族を失った。それから・・・ただ、戦いの毎日。
その表裏のような二人は、本人たちが似ていないといっても、似ていると思えるのだ。
独りよがりな想いも、強固な時もある。
再び見えるときが二人にあるならば、また勝者はわからない。
二人の戦いが、悲劇のようなものをもたらしたのならば、次は喜劇かもしれない。
決して幸福が訪れる事はもうないのかもしれない。
だが、あきらめてしまうわけにも行かない。

 

「・・・シンが戦い、一つのケリをつけた。なら、私も決着をつけに行くよ」
ラウルは部屋でただ一人、そんなことを呟き、足元に魔方陣を展開させ、その場から姿を消した。

 

─ゲーエン執務室─
「おのれ!おのれぇぇぇ!!!」
叫び声が響く。
己の思うがままに行かなかったことに対する苛立ちを含み、
ゲーエンは己の机に乗っていたものを弾き飛ばしていた。
「見苦しい、ですね?」
ふと、声がする。
「なんだと・・・・・・貴様は!?」
そこにいたのは、ラウル。彼は悟られることなく、この部屋に転移してきたのだ。
「久しぶりですね?ゲーエン・アードリーガー。
スカリエッティと同じく、管理局に造られた欲望のいったん」
「な、何を!?」
ゲーエン自身、聞き及んだことのない言葉に少しの焦りか、汗を浮かべる。
「アナタは自分の存在を知らないんですよ・・・あなたのコードは、
同じアンリミテッド・デザイア。無限の欲望・・・その欲抑えきれず、
欲で上にのし上がった高慢な人間」
淡々と語る。
その言葉に感情というものは込められてはいない。
ただ、語っているだけだった。
「だが、どんな形にせよ生れ落ちた命・・・私は戸惑っていた。
だが、ようやく決心がついたよ。アナタが生きていては、ランスター博士たちが
浮かばれない・・・アナタは今、ここで罰を受けるべきなんだ」
ラウルは“賢者の書”を開き、その中から一本の剣を取り出す。
「ま、待て!貴様の望みは!?」
「望みを聞くから、助けろ・・・とでも?」
その言葉にゲーエンはコクコクッと頷きまくる。
その姿がただ、滑稽に見えて、ラウルの怒りの導火線を燃やしきるには十分だった。
「この愚物が!!」
「ひぃ!」

 

人の欲望は止まらない。
滴る血が何を意味するのか、何を引き起こすのか?
その痛み、その流れる血は懺悔の代わり。
悲鳴など上げさせない、と思ったが・・・期待はずれにすばやくあげてくれる。
この男が今まで行ってきたことでどれだけの人間が涙したのだろう?
「私は、この流れた血を糧に・・・この世界を壊す・・・そして・・・・・・・」
その先をまだ、口にしない。
ただ、目的のために世界を壊す。
いつからか、間違った方向へ向かい、今、間違っているこの世界を。
「愛おしき家族のために」

 

─本局・第4訓練場─

 

「はっ!ふっ!たぁ!!」
スバルがテンポ良く腕を振るい、頭に巻いた鉢巻の後ろの結び目から
余った部分がひらひらとゆれていた。
「・・・」
ソレを、ただじぃっと見つめるティアナ。やる気のかけらも見受けられなかった。
「もぉ!どうしたのティア!?急に冷めちゃって」
さっきから気になっていたのか、スバルは頬を少し膨らませてティアナの眼前にまで迫っていた。
「いや・・・少し、ね」
歯切れの悪い答えにスバルはウガーッと両手を挙げて、吼えていた。
「うっさい・・・・・・正直、気圧されてたのよ」

 

そのまま小さくうずくまり、ティアナは先日の海鳴での戦闘を思い浮かべていた。
想像を超えたオーバーSランク魔道士の戦い。
ぶつかるごとに大気が揺れる。
「あんな戦い、できるわけ、ないじゃない」
いつの間にか、また心にかすかな闇が入り込んでいた。
「・・・ださい」
だが、スバルのそんな一言が闇どころか、ティアナの中から無理やり怒号を呼び寄せる。
「誰がダサいですってぇぇぇ!?」
思いっきり両頬をつねりあげるティアナ。そこに手加減はなかった。
「いひゃい!いひゃい!いひゃいぃぃ!!」
スバルの悲痛な叫びとぎゅ~っと言う擬音がおもむろにどれほど痛いかを伝えてくる。
数分してようやく開放されたスバルは涙目で両頬をさすり、ティアナはふん、とふんぞり返っていた。
「・・・けど、弱気なティアなんて、あんまり・・・見ていたくないよ?」
いつだって一緒だったから、知っていた。
スバルはティアナが努力で自分を保っていることを知っている。
六課に入ってからも、ソレは変わらない・・・ただ、大事なことがあり、ソレを守って貫きたいから、迷いもする。
「私たちは、なのはさん・・・管理局のエースオブエース!高町なのはの教え子なんだよ!?」
「・・・」
誇らしげに、そして・・・自信を込めて、スバルはそのことを口にする。
「だから、胸を張って戦えるよ。負けるときのことなんて、
考えなくていい・・・私たちは、魔法も使えない人達にとって希望になれるんだから!」
「・・・!」
ティアナは今のスバルが眩しく見えた。
そして、自分にもこんな笑顔ができるのだろうか?
自分もなりたい・・・こういう風に笑いたい・・・そして、兄や父母の存在が、
より良きものだったと証明したい。
死を恐れるより、大事なものが壊れるのを恐れた・・・だから、おびえて死をも恐れた。
自分のやるべきことじゃないと、逃げていた。
だが、自分の相方はそんなことを些細な悩みにしてしまう。
そして・・・思っていた。
出会えて、良かった・・・と。

 

「わかってるわよ!そんなこと!」
「エヘヘ、ティアらしくなった」
少しの雰囲気の変化をスバルは気づいたのか、瞬く間に笑顔に力が増していく。
「大体アンタは・・・」

 

ティアナがいつものように、いつもの言葉を言おうとした時、ソレは起きた。
本局全体に響き渡る第一級警戒音。
「アラート!?」

 

だが、何の前触れもなく鳴った警報だけではわからず、二人は直後の指示を待つしかなかった。

 

「本局内にて、殺人発生!ゲーエン・アードリーガー少将が何者かに殺害されました!」
「!?」
放送を聴いて驚いたのは、ティアナだった。
ティアナの表情の変化にスバルも先ほどの不安がよみがえりつつあった。

 

(ゲーエン少将が・・・死んだ?)
一方のティアナは心の中で一番気になっていたこと・・・ゲーエンの知る自身の家族のこと。
自分が知らない家族のことを知っているかもしれない。
そのことが知りたかったのに、ソレはもう永遠に闇の中だ。
「ティア!」
ふと、スバルの声が耳に入る。
「あ、うん・・・とりあえず、なのはさんたちと合流を」
冷静に振舞おうと、心の中で自分に呼びかけるも・・・やはり、不安は募っていた。

 

かすかに響く管理局での変化。
波紋は広がる・・・ゲーエンの死。
そして、星を纏うスバルとティアナは管理局の誰もいない場所で、ラウルと出会う。
その出会いは破滅へのいざないであると、二人は知らない。
フィナーレは始まりつつある・・・造られた神と賢者。
何かを叶えるのに、力がいるのか?
願いだけでは叶わないのか?
時代は、決して不幸なしには超えられない。
さぁ、賢者によりもたらされる不幸・・・耐え抜けるか、管理局の魔道士?

 

次回 決して後悔なく生きてきた“わけじゃない”

 

それは、誰でもそうだろう。