Lyrical DESTINY StS_第24話

Last-modified: 2019-01-31 (木) 09:41:59

いつか、教え子が無茶をした時、全力で打ちのめした。
その理由は自分がよく知っているから。
墜ちる辛さ、他人への恐怖の植え付け。
自分が精一杯やっても、必ず誰かに心配される。
それは、きっと嬉しいことだけど、きっと、悲しいこと。
だから、私は知っているんだ。

 

─デウス・エクス・マキナ頭頂部─

 

そこに、二人の人影があった。
「シン、この戦い・・・私はきっと己のすべてをかける」
シンとラウルだ。
まったくの無表情で、二人は“D”のそばで巻き起こる爆発やら魔力の暴発やらを見ていた。
「君を救う。君が否定しても、私はそれを果たす」
「・・・なら、俺を頼む」
シンもまたそう答えて、ラウルに背を向けた。
「そうして、君は私を否定するのかい?」
頼む、といったシンの言葉に、ラウルは否定するのか、と返す。
「・・・救われたら、もう誰も壊せないだろう?」
振り向かぬまま、シンはそう言った。
その言葉が何を意味するのか、それを知るのはおそらくシンだけだろう。

 

─Bポイント─

 

「スバル!ティアナ!!」
なのはの二人の安否を気遣う声が響き渡る。
煙はまだ消えない。
なのはもわかっていた。さっきの攻撃が、どれほどのもので、あの二人がよけられぬことくらい。
それは二人も同じだろう。

 

「お願いだから・・・返事してよ!!」
だが、それでも・・・もう、これ以上失いたくないことに変わりはない。

 

(なの、は・・・さん)
そんなとき、希望の声は、なのはに届いた。
「スバル?!」
その声の主の名を呼び、必死に呼びかけるなのは。
(大丈夫、です・・・次に、私たちがモーションを起こした、ら・・・
先に進んでください。ガジェットは私たちが、押さえ、ます)
もう喋るのも辛そうな念話に、なのはは当然それを拒否する。
「何いってるのスバル!ティアナはどうしたの!?二人を置いていけるわけ、ないじゃない!」
(・・・信じて、ください)
「!?」
スバルの少し吐息混じりのそれに、なのはは迷う。
このまま、自分一人で言ったら、二人はユーノと同じ道を辿るのではないか、と。
(なのは、さん・・・お願いです。ティアのチャージも、もう終わります、から)

 

「・・・?」
スバルの言ったティアナのチャージという言葉、それになのはは思考を巡らす。
行き着いた先は、ティアナが収束魔法を使おうとしている、ということだ。
ならば、彼女らがやろうとしている作戦を前向きに考えれば、ダメージを受けていて
自分たちはこれ以上いけず、ならせめてガジェットを最後の一撃で落とす・・・
ということなのではないだろうか、ということだ。
「・・・必ず、あとで合流だよ?」
(はい・・・なのはさんも、頑張って・・・くだ、さい)
そして、念話は切れ、なのははガジェットを見る。
左肩を先ほどの一撃で破壊され、残るは右腕と胸部魔力砲・・・だが、攻撃するそぶりを
見せないことから、ガジェットもダメージが大きいのだろうと、なのはは予測する。

 

立ち上る煙、舞い上がる埃が少しなのはとガジェットの間に
巻き起こっている・・・そして、なのはは“モーション”を待った。

 

時間にしてみれば数秒・・・その瞬間、なのはは祈った。
二人の作戦が成功することを。

 

煙は弾ける。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
そこから、姿を現したのは、スバル。
やはり、相当ダメージを受けていて、額から血を流し、バリアジャケットの白い部分にも血が滲んでいた。
「たぁぁ!!」
意外性にやられたのか、ガジェットは動けず、スバルの回し蹴りを頭部に食らう。
「行ってください!なのはさん!」
「うんっ!」
なのはもその隙に、一気にガジェットとスバルの横を通り過ぎて行った。
「うりゃあ!!」
迎撃されないよう、スバルは“左手”でガジェットをさらに吹き飛ばす。
今のスバルは両の手にリボルバーナックルを装備している。
ギンガに託された左のリボルバーナックルをスバルもしっかりと使いこなしているのだ。

 

「・・・さよなら」

 

横目で飛んでいくなのはに向かい、スバルはそんなことを呟いた。
それは、別れの言葉・・・もう会えない憧れの人に向けての・・・。

 

「・・・ティア、なのはさん、行ったよ?」
パートナーの名をどこか悲しく口にするスバル。
目からは涙が頬を伝っていた。
「そう、ね・・・アリガト。アンタのごまかしもだいぶうまかったわ」
煙の中からするその声。痛みに必死に耐えているその声はティアナのものだ。
次第に煙が晴れていく・・・先ほど二人が陣取っていた場所にかかっていた煙も風に消えていく。
そして、その場所から姿を現したのはティアナ。
彼女もまた、傷を負っていた・・・建物の破片が横腹に突き刺さり、
その顔は尋常ではない汗と痛みで表わされていた。
「まだ、いける・・・とにかく、そいつを倒すわよ!スバル!」
「うん!」

 

痛みに耐えて、前を見据える。
誰もがしていることだ。
生きるために、進むために、変わるために、痛みは必要なのだから。

 

「チャージタイムは?!」
「10分!今のあたしじゃそれくらいなきゃ制御できないわ!」
簡潔に済まされた作戦に、スバルはニッと笑ってガジェットのほうへと滑走する。

 

「・・・頼むわよ」
流れる血を見て、止まらぬ汗をぬぐい、ティアナも自分のことに集中する。

 

スバルのように突撃するタイプは本来なら“ガジェットⅤ型”には通用しない。
胸部の魔力砲で狙い撃たれるのが関の山だろう。
だが、今ガジェットは受けたダメージで不安定になっている。
なら、スバルにもつけいる隙はあるのだ。

 

「ギン姉・・・力を貸して!」
カートリッジを両手それぞれ一発、二発、三発と消費する。
計六発の消費で、両手からはすでに膨大な魔力があふれ始めている。

 

「いけるね、マッハキャリバー?」
(当然です、相棒)
「うん・・・フルドライブ!!」
その言葉が、両手の魔力を一気に弾けさせ、包み込む。
「ギア・エクセリオンセカンド!!」
ぶわっとあふれ出た魔力がスバルの背に、翼を構築していく。
青い彼女の魔力光・・・それと同じ青い翼が。
両足のマッハキャリバーからもギア・エクセリオン時における翼があり、計4枚の翼があることになる。
この形態になれば、彼女は単独での飛行を可能とし、飛行魔道士としての力を手に入れたことになる。

 

一気に大地を蹴り、その浮遊した姿をガジェットに見せつける。
ギギ、と機械的な動きでスバルの姿をとらえたガジェット・・・この機械には
スバルの姿をただの敵としてしか見ていまい。
今の彼女を美しいと思う心は彼にはないのだろう。

 

「行くぞぉ!!!」
咆哮し、スバルはその目を金色にした・・・つまりは、戦闘機人モード。

 

ガジェットはあまりのスピードにスバルを見失う・・・ということはなかった。
ガキン、と機械音が響く。
残った右手ではなく、左足を器用に折り曲げてその攻撃を防いだのだ。
「くっ!まだまだぁ!!」
スバルも引かない、左手を引き、右手を突き出す。
しかし、今度はガジェットが右手でそれを掴んで止める。

 

ティアナは、少しばかりおかしいと思った。
あのガジェットはなぜ、スバルの・・・戦闘機人モードでの攻撃を防げるのだろう?
接触兵器であるIS震動破壊はいかなるものも粉砕するはずだ。
それが、今のガジェットはどうだ?きっちり受け止めている。

 

「なんで・・・壊れないんだぁぁぁぁ!!」
スバルは焦燥感に駆られながらも攻撃を続ける。
だが、その連続攻撃もガジェットは静かに対抗策を処理していた。
あとは動くだけ・・・その動きを、ガジェットは始める。

 

スバルは右手に意識を集中させ、魔力全開でリボルバーナックルを突き出す。
それは、スバルにとって失着だった。
ガジェットは超反応ともいえる動きで、スバルの右手リボルバーナックルを弾き、懐に潜り込む。
「あ・・・!?」
動けるわけがなく、スバルはガジェットの動きを目で追うことしかできない。
ガジェットは単純に右手をスバルのボディに叩き込む。
単純な攻撃ゆえに、その破壊力は壮大なもので、スバルも思わず意識を手放しかけてしまう。
「ぶっ!」
あっけなく吹き飛ぶスバル・・・だが、ガジェットはその無機質さを全開にして、動く。
致死の一撃、一撃をスバルに叩き込んでいき、スバルを上空へと弾き飛ばす。

 

その一瞬の出来事がスバルには痛みとして・・・そして、自分の甘さを痛感することにも
つながっていて、反省点が多いなぁ、とあきれながら思っていた。

 

だが、こんなことで意識を手放すわけにはいかない。
「ま、だ・・・だぁぁぁぁ!!」
顎を下げ、スバルはガジェットを睨む。
そして、足元にウイングロードを展開し、空を滑走する。

 

だが、抜けきれないダメージも気になり、スバルは少し距離を置く。
「はぁ・・・はぁ・・・くそっ、震動破壊が、効かない」
スバルの中に一つの絶望は生まれたが、その絶望がスバルを押しつぶすことはなかった。
「けど!!」
背中の翼をはばたかせ、スバルは再びガジェットに迫る。

 

不安定さから安定を取り戻したのか、ガジェットも先ほどよりはスマートな動きで
胸部を展開し、魔力砲でスバルを狙い打つ。
「くっ!」
放たれる魔力砲を回避、もしくは防御に徹することはせず、
スバルは最小限の動きでガジェットに突っ込む。
「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
弾幕を突破し、スバルはガジェットを自分の間合いに引き込むことに成功した。
だが、その間合いは儚くも、ガジェットの間合いでもあった。
「あっ・・・」
一瞬の攻撃スピード・・・それを制したのは、ガジェットだ。
胸部魔力砲はすでにチャージ完了されており、スバルの眼前で光を放っていた。

 

放たれる魔力砲、貫かれるスバル・・・ガジェットの放った魔力砲は明らかにスバルを撃ち抜いていた。
背中の左側の翼がもげ、落下し魔力素へと還っていく・・・そして、その後を追うように、スバルもまた落下していった。

 

「スバル!!」

 

ティアナの声もむなしく、スバルは落下するだけだ。

 

スバルもまた、自分が落下している自覚はあり、その脳裏には走馬灯のようなものが流れ始めていた。

 

(父さん・・・ギン姉、私、ダメだったみたい
・・・何度も何度も立ち上がりたいけど、もう・・・何も動かないや)
諦めの思いがもうスバルの中であふれていた。
自分にはあの敵は倒せない・・・心を持たない人形ですら、倒せなかった。
(諦めるな!)
(・・・え?)
敗北を悟り、もう諦めていたスバルに・・・ひとつの声が響いた。
(だ・・・れ?)
そう問いかけると、大きな光がスバルを包む。
その光の暖かさに、少しの懐かしさを感じて、スバルは目を開ける。
(諦めるな!)
いつの間にか抱きかかえられていたスバルは、
その人の表情・・・今はもうおぼろげになっていたその人の表情を見て、呟いた。
(おかあ・・・さん?)
優しく、だけど諦めようとしている自分を厳しく、前に進ませようとするその人は
確かに、スバルが母と呼べる人・・・クイントの姿だった。
(父さんの娘で、ギンガの妹で・・・そして・・・母さんの娘でしょ?)

 

そうだ。まだ負けられない。
たくさんの人を守れないこんな私でも・・・こんな私の手でも。
守れなかった結果があったとしても、その過程では全力を尽くしたい。
「そうだよね!!」
意識を覚醒させ、スバルは空中で姿勢制御して足もとにウイングロードを展開し、着地する。
しかし、受けたダメージも半端ではない。
先ほどの攻撃で撃ち抜かれたのは左肩・・・そして、そのせいで左側の翼もちぎれたのだ。
(左はもう動かない・・・けど、私にはまだ・・・右が、ある!)
垂れ下った左腕とは逆に、ギュっと拳を作る右腕。
「私はまだ・・・やれる!」
(スバル!アンタ大丈夫なの!?)
「大丈夫・・・大丈夫だから、ティアはチャージに集中して!」
(わかった・・・けど、無理すんじゃないわよ!?)
ティアナからの念話が途切れると、スバルは深呼吸し、右腕に力を込める。
「・・・マッハキャリバー、いける?」
(ええ、いけますが、撃てるのはおそらく一発限りかと?)
「それでいい・・・一発で決める!」
滴る血に、スバルはめまいを覚えるも、ググ、と自分を見下ろしているガジェットを見つめる。
そして、千切れてなくなっていた左の翼を再構築し、再び浮遊する。
バサリッバサリと羽ばたく翼は時たま魔力の羽を散らせながらも、輝きを失わせない。

 

一気にガジェットと同じ高さまで舞い上がってきたスバルにガジェットはすぐさま胸部魔力砲で迎撃を始める。
「くっ!」

 

だが、止まらない。
スバルは最後の覚悟をきめてウイングロードを滑走する。
加速、加速、加速、加速、加速、加速。
ガジェットの放つ魔力砲すら、スバルの加速はスバル自身が微かな魔力で
構築したプロテクションを極限なほどに強くした。
そのプロテクションはガジェットの魔力砲をいとも簡単に弾く。
だが、そんなことは関係なくガジェットはスバルが墜ちるまで撃ち続ける。
そうしている間に、スバルは完全にガジェットの懐に入った。
「ここぉ!!」
そして、右腕をコンパクトな動きで伸ばし、叫ぶ。
「エクセリオン・・・」
信頼し、憧れた人が授けてくれたこの力を・・・最大限に活かし。
「バスター!!!」
放つ最後の一撃。

 

青い光はスバル流のディバインバスター同様飛距離はないが、
その破壊力はディバインバスターよりも強い・・・それはガジェットを撃ち抜いた。
その、はずだったのだ。
渾身を込めていた・・・スバルは確かに確信に近い手ごたえを感じていたのだが。
ガジェットは爆発してはいなかった・・・残った右腕がはじけ飛んでいただけだったのだ。
「う・・・そ・・・」
もう、魔力はない・・・制御しきれないウイングロードは消え去り、落下を始める。

 

そして、ガジェットは止めと言わんばかりに胸部魔力砲を収束させる。
その時間はおおよそ4秒。
終わった、ともし誰かが傍観していたなら思っただろう。
だが、二人は違った。
落下しながらスバルは・・・落下するスバルを見ているティアナは・・・。

 

─勝った!

 

と心の底から思っていたのだから。
ガジェットの4秒は彼女らの作戦には2秒届かなかったのだ。
後ろから走るオレンジの軌跡・・・それは確かに、ガジェットの胸部を貫いていた。

 

「どう?見よう見まねの、ディバインバスターの・・・味は」
不敵な笑みを浮かべ、ティアナが放った砲撃。
その威力をガジェットは撃墜という言葉で、証明した。
爆発が起こり、空中に弾き飛ばされていたスバルはさらにその反動で飛ばされる。
「ぐぁっ!」
「スバル!!」
ティアナも動こうとするが、傷が痛みすんでのところで動けなかった。
相棒が落ちていく・・・どうにかしたいが、自分の意識もすでに飛びかけている。
「ごめ・・・ん」
飛びかけていた意識はすぐにも手放された。
そのまま倒れるティアナをスバルは少し悲しい目で見つめてから・・・。
「・・・ありがと、ティア」
と、つぶやき、崩れた地面へと落下していった。
落下するスバルは・・・きっとこのまま、死ぬのだろう、と思った。
だが、意外にもそれは起こらなかった。
「え?」
誰かに抱きかかえられている・・・と、スバルは感じた。
最後の力を振り絞って、スバルは目を開ける・・・自分を助けてくれた人を見るために。
「あ・・・ぅ」
そこにいたのは・・・スバルの目に映ったのは、最後に映ったのは・・・赤い翼だった。
そして、彼女は意識を手放した。

 

スバルを抱きかかえているのは・・・“赤い翼”シン・アスカだった。
虚ろな瞳で、彼はスバルを抱きかかえていた。
なぜだろう、とシン自身も理解はしていなかった。
「・・・お前、生きたいか?死にたいか?」
もはや意識のないスバルに、その問いかけは意味をなさないだろう。
ただ、口にしていたのだ。
「お前も、似ているんだ」
シンはスバルを廃墟の陰に安置し、その場を去り、そこには、スバルの安らかな寝顔だけがあった。

 

一方、なのはは二人に示唆されて進んでいたのだが。
やはり、そうそう進ませてくれるほど、敵も甘くはないのだ。
「そんなに急いで、どこへ行く?」
なのはの眼前に、悠然と殺気を放つ男・・・シュテルン・ガラクシィはそこにいた。

 

「どいてください・・・今は!」
「だめだ!俺は、お前と決着をつけたい!」
そう言い、シュテルンはヘブンズ・カラミティを砲撃戦仕様で構えた。
「行くぜぇおい!!」
シュテルンはトーデスブロックをけん制と言わんばかりに放つ。
当然なのはは、プロテクションで防御するが、その防御の体勢から
なのはが動く前にシュテルンはさらに攻め立てる。
(シュラーク、スキュラ・・・バースト)
背中から伸びている二つの砲門、胸部にある大型砲門それらが一気に稼働し、放たれる。
「ぐ・・・ぅ・・・ぅ・・・」
「はっ!どうした!?焦る気持ちがお前を弱くするのか!?あぁ!?高町なのは!!」
まるで焚きつけるかのような言動・・・シュテルンはまだ本気を出していない。
なのはに本気を出させないうちから、本気など出したくないのだ。
「・・・焦るな、今起こる一つを見据えて受け入れ、解決しろ・・・高町なのは」
「!!」
それを聞いた時、なのははハッとした。
(私・・・は・・・)
次の瞬間、バシンとなのははシュテルンの攻撃をはじき返す。
「ぬ!?」
「そう、だよね・・・そうだ!」
キリっとした表情で、なのははレイジングハートを構える。
「ACS、起動!ストライクフレーム」
(オープン)
突撃形態であるストライクフレーム、それを持ってなのははシュテルンに突撃する。
「くっ!」
一瞬のうちにシュテルンもソードモードに切り替え、それを二つの魔力刃で受け止めきる。
「くっ・・・そうだ、その目・・・その目だぁぁぁぁ!!」
それを力任せにさばききるシュテルン。
「まだ!」
通過する一瞬にアクセルシューターを操り、それでシュテルンの第2攻撃を律するなのは。
まさに完璧な攻防だった。

 

「剣は、使わないんじゃなかったんですか?」
不敵に笑いながら言うなのはに、シュテルンもまた不敵な笑みで返した。
「ハッ・・・アンタがそう言うモン持ってるなら話は別だ。
撃ち合いには撃ち合い、どつきあいにはどつきあい、だ」
なのはがストライクフレームをしまうことで、シュテルンもソードを下げる。
とことん、バトルマニアの発想だ。

 

「やっぱ、楽しいわ。アンタと戦うの」
「・・・殺しあいじゃない戦いを楽しいと感じる気持ちはわかります」
「違うね、俺が言うのは殺し合いの戦いだ。
現に今のもそうだろう?俺の魔力はアンタを殺そうとしている」
ギラついた視線で語るそれは、シュテルンが望むものだ。
決してなのはが望むものではない・・・だから、なのはは言った。
「それは、間違いです」
「・・・ああ、俺たちレリック・ヒューマンは間違いの結晶だ。だから、さ。
俺を止めてみせろ?俺の命は命であって命じゃない・・・そして、俺を相手に
するんだから、覚悟もきめてもらう」

 

シュテルンは自分の命を、存在を間違いだという。
きっと、それは世界から見れば、そうなのかもしれない。
そして、なのはもそれをわかっているからこそ、戦っている。

 

「オルガ・サブナック・・・」
「・・・え?」
ふと、シュテルンが口にした言葉に、なのはは疑問符を浮かべる。
「オルガ・サブナックだ。それが、俺の名前・・・レリック・ヒューマンは
・・・俺はな、ベースとなったオルガの記憶と、俺がそれを思い出すまで持っていた
シュテルンの記憶、そして・・・それをあわせた第3の記憶・・・それが、今の俺、オルガ・サブナックだ!」
「つ、つまり・・・あなたは・・・」
「前の世界で、俺は人殺しだった。そう造られた・・・シュテルンの俺は、
家族のぬくもり、生きていける理由、戦える楽しさを知った・・・そして、
それらを合わせる俺はあいつのために・・・」
その時、彼の脳裏に浮かんだのは、一人の・・・赤い瞳の少年。
「さぁ、高町なのは・・・通りたければ俺を殺せ。さもなければ、俺がお前を殺す」
「でもっ!!・・・あなたはそれでいいの?!
そんな真っ直ぐな想いを持っているのに・・・死ぬのが怖くないの!?」
「怖くない・・・なぜなら、1度は死んでいるからな」
「そんな理由で!」
「もう、問答は無用だ!あとは、戦うのみ!!」
シュテルン・・・オルガは、覚悟を決めている。もうなのはの説得には応じないだろう。
なのはが口を開こうとするも、砲撃がなのはを威嚇する。
(マスター!今は戦ってください!)
「けど・・・」
生じた迷いが、なのはに判断力を鈍らせていた。

 

「おらぁ!どうした高町なのは!!」
そこに、容赦なくオルガはスキュラやバズーカを撃ちまくる。

 

なのははひたすらにプロテクションで守るだけだった。
そんななのはに、いらついたのか、さらに強力な攻撃をオルガは放つ。
「きゃあっ!!」
それにはなのはも耐えられず吹き飛び、後ろの廃屋のコンクリートにぶつかり、めり込む。
「あぅ・・・」
そんななのはにオルガはためらいなく彼女の腹部に一撃を入れる。
「あ・・・」
そして、なのはの顔の横に、魔力刃を突き刺す。
「・・・少し、がっかりだ」
至極残念そうな顔で、なのはの顔を見つめ、オルガは目を伏せる。

 

(マスター!)
(・・・殺したく、ないよ)
(なら、あなたは屈するのですか!?教え子たちがここまで導いてくれたのに!
あなたはどこまで迷うのですか!?迷いすぎです!何かのデフォですか!?)
半ばひどいことを言っているレイジングハートに、なのはは少しむっとする。
(強くないくせに弱くないふりをして!!それでも・・・教導官ですか!)

 

「終わりだ!高町なのは!!」
そうこうしている間に、オルガは止めを刺そうと、魔力刃でなのはを突き刺そうとしていた。
「くっ!」
だが、すんでのところでなのはがそれを防ぐ。
アクセルシューターで剣を弾き、さらにオルガのボディに一撃を入れ吹き飛ばす。
「ガハッ!」

 

(・・・マスター?)
「好き勝手言ってくれたね・・・けど、大丈夫。背負うしかないんだね」
(選んだ道でしょう?)
「そうだね。うん・・・行くよレイジングハート!ブラスター1!!」
限界突破のシステム、ブラスターを発動させ、なのはは超魔力を身にまとう。

 

「ようやくやる気になったか・・・ったく、不意打ちでいいのもらっちまったぜ」
ペッと血反吐を吐き捨て、なのはを先ほどとは違う目で見る。
とてもうれしそうな顔をしているのだ。
「いいじゃないですか。戦いは油断しているほうが負けなんですよ?」
なのはも嬉々としてそう語る。
「ハッ・・・じゃあ仕切り直し・・・行くぜ!!」
「はい!」

 

なのははエクセリオンバスターを、オルガはスキュラをそれぞれ放つ。
当然それぞれがぶつかり、その中央部で爆発する。
そして、なのははアクセルフィンをはばたかせ、オルガは全身のスラスターを全開にし、移動する。
同じタイプの魔道士であるなのはとオルガ、二人の勝負はやはり砲撃戦。
オルガもソードモードを持っているとはいえ、なのはに使うときは、本気でやられそうになったときだけだろう。

 

「つっ・・・んだよ、ブラスターってのになってからえらく勢いづいてやがる」
オルガもなのはのブラスターの力に圧倒されているのか、少し手の先が震えていた。
「しゃあねぇから・・・こっちもやるか?」
(エモーションリンクを?)
「ああ、エモーションリンクすれば、お前との連携がなくなり俺個人の戦いになる」
(ふっ・・・戦ってあなたと連携できたためしなどありましたか?)
「ハッ!確かに・・・なら、いいか?」
(止めても、意味などないでしょう?)
あきれたような言葉・・・だが、カラミティは彼を理解しているのだろう。
少なくとも。
「レリック発動・・・エモーションリンク!」
(エモーションリンク、スタート)
そうして、彼らは完全に一つとなる。

 

「動きが止まった・・・でも!!」
なのははオルガの動きの不可解さに対し、迷わずディバインバスターを放つ。
そのまっすぐにオルガに向かう砲撃・・・よけたり防ぐ仕草を一切しないオルガに
なのはは眉を動かすが・・・次の瞬間、それは驚きで染まった。
なんと、オルガは静かに砲撃の方向にノーチャージで胸部にあるスキュラを放ったのだ。
それも、なのはのディバインバスターを弾き飛ばすほどの。
「嘘っ!?」
呆気にとられそうになるが、今度はオルガのほうが砲撃態勢に入ったのですぐに移動を開始する。
なのはの移動を悟ると、直射型砲撃ではなく、誘導性砲撃に切り替える。
「そらぁ!!」
ミサイルともとれるそれらはなのはを追いかけて進んでいく。
なのはも当然、アクセルシューターでそれを撃墜。
埒のあかない砲撃戦の応酬、だが威力自体が全体的に勝るオルガの攻撃は、さすがのなのはも苦しめられていた。
「くっ・・・レイジングハート!ACS!」
(ストライクフレーム・オープン)
またもレイジングハートに展開される6枚のドライブフィン。
それをはばたかせ、なのははオルガの弾幕を突破しながら進む。
「ちぃ!」
オルガも墜ちないな!と判断すると両手に魔力刃を構える。
それを交差させ、なのはの突撃を受け止めるつもりなのだ。
加速したなのははすぐにオルガのもとに到達した。
そして、オルガもその衝撃に押されることなく受け止めている。

 

「どうしたぁ!?この程度か!?」
「いいえ!・・・けど、あなたの負け!」
「何!?」
なのはの不敵な笑みに、オルガは疑問符を浮かべる。
「ブラスター・・・2!!」
そう叫んだ瞬間、レイジングハートのドライブフィンがさらに大きく広がる。
「何っ!?」
パキン・・・オルガの魔力刃二本はなのはの魔力刃によって砕かれていた。
「ブレイク・・・シュート!!」
突破した瞬間、なのはは止めの一撃を放つ。
オルガはそのままなのはの砲撃に包まれ、吹き飛ばされる。

 

なのはのACSによる突撃からの零距離砲撃は相当の威力がある。
それこそ、非殺傷設定、殺傷設定なんて関係なく敵を戦闘不能にできるのだ。
その攻撃に耐えきるには闇の書の意思レベルの耐久力などが求められてくる。
だからこそ、なのはは勝利を確信したのだ。

 

だからこそ、今の現状が信じられない。
砲撃の軌跡に落ちていくのだと、思っていたのも関わらず、
彼はまだ空中に・・・自分から距離を置いた場所にいる。

 

「効いた・・・さすがに効いた」
だが、その威力が通じていないわけじゃない。
相当のダメージをオルガはくらっていた。
「今ので墜ちないなんて・・・いくらなんでも常識外れですね」
「ああ、自分でも驚いている。これが、レリックの力ってところか・・・
しょうがないから、もうスタイルをどうのこうのはやめるぜ?」
「!?」
その言葉を口にした瞬間、オルガから感じられるものが変わったことになのはは気づき、反射で防御の姿勢を取っていた。

 

「行くぜ・・・フルドライブ」

 

フルドライブ・・・それは、術者とデバイスが最高の状態になることを示す言葉。

 

最高状態になった魔力がオルガのバリアジャケットを変化させる。
オレンジ色、青緑色の2色がそれぞれ各場所におり混ざり、さらに武装にも変化があった。
背中から生えた二つの砲門、胸部の砲門、両腕には2連装防盾、腰には魔力刃が
2本さしてあり、両肩にある肩当てにつながるようにバズーカの砲門が二門、
見た目は完全な砲撃戦タイプなのに、どこか身軽さを感じさせるその装備に、
なのははゴクリと息をのむ。
これが、彼のフルドライブ・・・ヘブンズ・カラミティ。
オールレンジに対応する最強の装備である。

 

「けど、私だって!」
なのはの周りにはいつの間にか精製されたブラスタービットが4つ、浮かんでいた。

 

最初に動いたのは、なのはのほうだ。
先手必勝でなのははカートリッジ3発ロードのディバインバスターEXを放つ。

 

「はっ」
だが、オルガはそれを鼻で笑い、腰にある魔力刃を居合抜きし、ディバインバスターを切り裂いた。
「!?」

 

「シュラーク!」
なのはがほんの一瞬驚いた瞬間に、オルガはシュラークをなのはに撃つ。
当然、プロテクションでそれを防御するが・・・それにより発生した爆煙が視覚を奪う。
「スキュラ!」
そして、次の瞬間にはなのはの後ろからオルガの声がした。
反射的に腕を振り上げて、プロテクションを張ると・・・そこに衝撃が走る。
「へぇ・・・いい反応だなっ!」
「く・・・ぅぅ!」
返す言葉を口にするほどの余裕がなく、なのははプロテクションの展開に必死だった。

 

(重い・・・さっきまでと全然違う!)
その威力は幸いすぐに止み、なのはは距離をとる。
「はぁ・・・はぁ・・・くっ!」
ブラスタービット二つで防御を、もう二つを操り、オルガを追う。

 

(ブラスタービット・ディバインバスター)
二つのビットから放たれるバスターをオルガは何の感慨もなく弾く。
「嘘!?」
そして、魔力刃を構え、なのはに突撃するオルガ。
(プロテクションパワード)
レイジングハートもなのはの危機に魔力を高め、防壁を張るが。
「甘いんだよっ!!」
ガツンと二つの斬撃はなのはのプロテクションにひびを入れる。
だが、斬撃だけで防壁を抜かれなかったことに、なのははどこか安心して油断していた。
「甘いっつってんだろうがぁ!!」
今度は胸部のスキュラが容赦なくなのはを襲う。
防壁を突き破り、彼女に直撃したのだ。
「あ・・・あ・・・」
その一撃は彼女から気力を根こそぎ奪う。
半ば放心状態になったなのはにオルガは少し心は痛んだが、彼もまた引くわけにはいかないのだ。
スキュラを・・・殺傷レベルで放つため、チャージを始める。

 

なのははこのとき、本当にもう駄目だと思っていた。
心と体が分断されてしまったような感覚。
だけど、終わりたくないという気持ちもあった。
・・・だから、聞こえたんだ。

 

「!?」
オルガは驚愕した。
もう絶対に動かないと思っていた目の前の敵は、なんと吹き飛ぶ体勢から
手に持っているデバイスの砲身を自分に向けているのだから。
スキュラの発射を急ぐも、なのはのほうが一歩早く、それは叶わなかった。
発射されるなのはのエクセリオンバスター。
オルガによけることなぞ叶わず、吹き飛ばされる。

 

「ぐあぁ!」
なのはとオルガに距離ができ、オルガは体勢を直し次の攻撃に備えるが・・・なのはからの攻撃はない。
「・・・?」
姿勢はすでに戻っているなのはだが・・・それ以外動かない。
なぜ?と疑問符を浮かべるオルガだったが・・・それは、なのはにあることが起きていたからだ。

 

「ありがとう・・・大丈夫!私は、強いから」
自分の肩に手を置く・・・そして微笑み、なのはは前を見た。

 

あの時、なのはが最大の危機に陥っていた時、彼女を救ったのは・・・ユーノだった。
もちろん、物理的なものじゃない。
なのはの心が生んだ幻想かもしれない。
だが、それは・・・ユーノは確かに、吹き飛ぶなのはを支え、なのはに迎撃の砲撃を撃たせたのだ。

 

「おい高町なのは!」
「・・・なんですか?」
オルガの突然の言葉に、なのはは返事を返す。
「なぜ、お前はまだ・・・飛んでいられる?
俺は、さっきの攻撃で確実にお前を殺したと思った・・・手ごたえもあった!」
意識を間違いなく刈り取ったとオルガは思っていたのだ。
そして、最後に放とうとしていたスキュラで彼女を完全に殺せていたはずだった。
それが、彼女には通じなかった。
それどころか、迎撃に砲撃を放ってきた。

 

「・・・大切な人が、力を貸してくれたんです」

 

帰ってきた言葉に、オルガは思考を巡らせる。
そして、わかったのは・・・今ならわかったのは、たった一つ、脳裏に浮かんだ家族の何気ない表情。
「そうか、そりゃ厄介だ・・・」
なんとなく納得できたのか、オルガはまた武器を構える。

 

(・・・マスター、おそらく次がラストチャンスです)
「わかってる・・・だから、決めるよ。ちょっと賭けになっちゃうけど、やるよ!」
(ええ、やりましょう)
なのはの気持ちも決まっている。

 

今、最後の一撃は・・・二人の覚悟は、動く。

 

オルガはなのはを上から攻めることを決めたのか、なのはの真上に移動し、急降下攻撃をしかける。
「終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
魔力刃を交差させ、落下スピードも、推進力もすべて合わせたこの攻撃・・・なのははよけられないだろう。
もう、受けるしかない・・・そんな状況だった。
だが、なのはは守るだけじゃなかった。
「ブラスター・・・3!!!」
ブラスターモードの最高点・・・限界の限界を突破したなのははカートリッジの
すべてを燃焼させ、真上から降下するオルガに最大のディバインバスターを撃つ。

 

そのあまりの威力に、オルガも驚くが、もう回避できる距離でもなく、彼は最大スピードでそれにぶつかる。

 

「づぅああああああああああああああああ!!!」
全開の魔力がオルガの前方に・・・ディバインバスターを破らんとしている。
だが、それはなのはも同じ。
これを破られたら死という結果が待っている。

 

そして、この勝敗は・・・もしかしたら、決まっていたのかもしれない。
「なっ!?」
なんと、オルガの魔力刃が砕け始めていたのだ。
そう・・・ほんの少し、ほんの少しの差だった・・・なのはは一人で戦っていない。
その背中を支えるように、ユーノの影があった。

 

(そう・・・背中があたたかい・・・だから、戦えるんだ)

 

勢いを増したディバインバスター・・・そして、勢いをなくし始めたオルガは・・・
ディバインバスターに魔力刃を砕かれ、その砲撃を全身で浴びた。

 

「ああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

そのダメージに彼の体の中・・・心臓部に埋め込まれていたレリックが砕けた。

 

勝利者は、高町なのは。

 

なのはは、好敵手であったオルガを地面に足をつけて、最後を看取ろうとしていた。

 

「強い、な・・・やっぱ強ぇ・・・いい女は、強いもんだな?」
もはや彼の命を支えていたレリックもなく、あとは静かに眠るだけ。
だが、彼はまだ・・・最後になのはと話がしたくて必死にその意識にしがみついていた。
「あなたも、強かったですよ」
「ああ、ったりめぇ・・・だ。俺、も、守るモン・・・持ってた」
空を見つめ、オルガは脳裏にある家族を思い浮かべ・・・涙を流した。
「なのは、俺・・・言ったよな?死ぬのが・・・怖く、ないって」
「・・・うん」
「ありゃ、嘘だ・・・死ぬの怖ぇ・・・普通に怖ぇ」
「・・・うん」
オルガの頬を伝う涙。
それは、もう自分が生きていられないことへの悲観・・・そして、もう誰にも会えないという寂しさからだ。
「・・・俺も、空が好きだった・・・アンタは?」
「私も、好きだよ?・・・この空が、私に夢をくれたから」
「あぁ・・・俺も、昔は、空なんて・・・興味すら、なかった、のにな」
自分で飛んでみて、その風を体に受けた時、そう・・・変わったのだ。
「だが、空は応えて、くれない・・・あの空は、ちょっと、残酷だな」
「うん・・・私は、知ってる。空の・・・残酷さ」
「けど、まぁ・・・恨み事言って、もな・・・さぁ、行けよなのは」
グッ、と彼女の肩に手を伸ばし、進めと示唆するオルガ。
「勝者は進め・・・空の残酷さを知るのなら、敗者に構ってんじゃねぇよ」
「・・・うん!」
オルガの最後の言葉に、応えるようになのははオルガの体を壁にもたれさせ、
レイジングハートを持ち、その場から飛び去る。

 

「・・・ああ、ったく・・・辛い、ぜ」
なのはが行った後、オルガはもう一度、空を見ていた。
「悔しいが、俺は・・・ここまで、だ」
体が冷たくなっていくのがわかる。
そして、急激な眠気。
目を瞑れば、二度と起き上がれることはない。
「・・・?」
そんなとき、彼の視覚が赤い羽根を見た。
「・・・・・・ありがとよ」
それを見た瞬間、オルガは笑い・・・そして・・・。
安らかな顔で、彼は眠る・・・そんな彼の前には、シンが、立っていた。
「・・・じゃあ、な」
その声が響き渡る前に、シンはその場から姿を消していた。

 

空が残酷であることは誰もが知るわけではない。
空に生きる人間だけが、それを知る権利を持つのだ。
高町なのはの知っている残酷さも、オルガ・サブナックの知らなかった残酷さも。
今思えば、勝敗を分けるきっかけの一つだったのかもしれない。
それでも、勝者となった高町なのはは飛び続けなければならない。
この、勝者という名の呪いが彼女にかけ続けられている限りは。
そう・・・空に生きる、空戦魔道士として生きることを決めているなのはの。
これが、死ぬまで解けることのない呪い。
空の残酷さの極め付けである。
だが、その呪いもまた、彼女を強くしている一つなのだから。

 

Bポイント、高町なのはが突破戦を繰り広げているころ。
Aポイントにてメーアと戦うエリオとキャロ。
大切な人のために戦う二人。
大切な家族、そして相棒とともに戦う一人。
これに違いはあるのだろうか?
あったとしても、そこに差はない。
そして、諦めることはできない。
それはすべての終わりを意味するから。
が、そうして集う想いの強さは同じ。
相反するはずの彼らは・・・戦うしかない悲しみを持つ。
その結果もまた、悲しみに満ちているのだから。

 

次回 深淵を照らす“雷光”

 

大切な人を守るため、それがきっと答えだから。