Macross-Seed_◆VF791dp5AE氏_第04話

Last-modified: 2007-12-25 (火) 19:26:52

「しかし、たった一日離れていただけだってのにえらく懐かしい気がするぜ。」
議長の許可も降りたので、今度は二人ともすんなりと格納庫の中に入れてもらえた。
「バルキリーだっけか?見た目はMSとほとんど変わらないな。」
ハイネのバルキリーを見た感想はシャープな機体だな、だった。
ザフトのMSに、いや、こちらの世界の機動兵器に比べると線が細い。
あくまでも高機動に重点をおいた戦法で敵を撹乱するのにはいいかもしれないが、接近戦にはあまり向かない機体らしい。
(俺のグフなら機動力で懐に入り込めればなんとかなりそうだが、ゲイツやガナーザクじゃきつそうだな。)
バサラは愛機の説明をやってくれている。
「バトロイドなら変わらねえが、コイツは変形できるからな。」
「どう変形するんだ?やっぱ戦闘機か?」
「ああ、ファイターならそんなもんだ。
 あと、ガウォークっつう形態もある。
 こればっかは説明するより実際にみてもらわなきゃわかりにくいな。」
「おいおい、ここじゃ狭すぎないか?」
「こんぐれえのスペースがありゃ十分さ。
 危ねえから下がってな。怪我すんぜ?」

バサラが手慣れた手付きで機体を起動させていく。
その様子を警備の兵が警戒した目でみている。
中には万が一の事態に備えてMSに乗り込もうとしている者までいる。
(ま、しょうかないだろうな。
 いくら議長の許可が降りていても、見知らぬ奴が見慣れない機体を動かすのに警戒しない方が問題だしな。)
ハイネはバサラが急に暴れだすような男ではないとしっているが、他の兵達は知っている訳がない。
明らかに民間人の男が、軍事機密の塊のようなものを動かそうと言うのだから、当然だろう。
そもそもこのバルキリーという紅い機体自体、一般はおろか軍内部にすら公表していない。
知っているのは口の固い一部の高官と実際に機体の調査に当たった者達だけだ。
今格納庫に居る者たちにはセカンドシリーズの後継機、と言う説明がされているはずだ。

低い駆動音とともに、紅い機体のツインアイが光る。
念のために整備の兵達と共にエアロックに避難する。通信機越しにバサラの声が聞こえる。
「準備万端だ、いつでも行けるぜ。」
周りを確認して、ハイネはバサラにGOサインを出す。
「よし、頼むぜ。ハンガー壊すんじゃねえぞ。」
「壊すかってえの。そんじゃいくぜ!」


「ほう、つまり戦闘機から手足が出たままの状態かね?」
「はい、ガウォークと呼ばれる形態らしいですが、かなり速い動きです。
 ホバーで動いているためか、柔軟な動きが出来ていました。」
「バクゥと比べてもかね?」
「恐らく、バクゥではまず相手にならないと思います。
 地上戦しかできない機体と、空も地上も柔軟に動ける機体では結果は見えています。」
「空中戦だけでなく地上戦にも対応できる機体、か。」
議長の家に向かう車の中、ハイネはバルキリーの性能について先ほど見た結果をMS乗りとして感じたことを議長に報告していた。
バサラは見知らぬ世界の景色が気になるのか、窓の外を見ている。

「こちらにも戦闘機に変形できる機体はあるが、流石に変形したまま手足を出すという発想はなかったな。
 まさに逆転の発想といったところか。
 だが、ホバーだとかなり扱いづらくないかな?」
議長がバサラに語りかけたが、外のほうが気になるらしく議長のほうを向かずに答える。
「ガウォークもなれりゃ使いやすいぜ。
 ま、ちぃと見た目はよろしくないけどな。」
「しかし、高機動機だというがかかるGも相当のものなのだろうね。」
「別にたいしたもんじゃねえよ。
 アクロバティックな動きをすりゃ結構くるが、それぐらい普通だろ。」
「それはそうだろうが・・・。
 基本的な武装はどうなっているのかね?」
「固定武装はミサイルが少々にマシンガンボッド、小口径ビーム砲ぐれえだな。」
ではあのスピーカーは追加武装か何かだろうか?
技師の話ではどうしてあんなものが付けられているのか解らない、と言う。
わからねえんなら直接本人に聞きゃあいいな、とハイネが会話に割り込む。
「んじゃ、あの小型のスピーカーは追加装備の一種か?」
「そんなもんだ。」
「スピーカーが武器になるのかね?」
「武器じゃねえ、歌にのせた気持ちを伝えるための道具だ。」
「メカに乗って歌を、か・・・。」

(なるほど、そういう使い方もありかもしれんな。
 パフォーマンスとしては中々面白い効果が期待できそうだ。
 ミーアの慰問コンサートに使わせてみるか。確か、ちょうどプロデューサーの方からそういった話が・・・)

「んじゃ、あの機体は戦場のど真ん中で歌うための機体ってわけか?
 戦場で歌を歌ってどうすんだよ?
 第一、誰に向かって歌うんだ?」
ハイネの質問に、バサラは二人のほうを見て答える。
「んなこたあ決まってる、銀河に向かって歌うんだよ!」
「銀河に?敵でなくって?」
「そうだ!俺はそうやって歌ってきたんだ!」
「あの真紅の機体で敵のど真ん中で歌うってか?
 そいつは面白いが、いくらなんでも無謀だな。
 戦場じゃ歌を聞いてる余裕なんてある奴の方が珍しいぜ。」
「スマンが、私もそう思う。世界は歌のように優しくはない。」
議長とハイネにそろって自分の考えを否定され、バサラは反論する。
「そんなことはねえ!
 俺の世界では戦闘しか知らなかったゼントラーディもメルトランディもリン・ミンメイの歌を聞けば世界観が変わった!
 プロトデビルンのシビルも、ギギルも、ゲペルニッチとも歌うことでわかりあえた!
 銀河クジラとも、歌で互いを理解できた!
 だからこそ俺はここに、クジラと共にこの世界に来ることが出来たんだ!」
「歌で互いを理解しあった、か。」
「この世界だって、ラクス・クラインの歌のお陰で戦争が終わったんだろ?なら・・・」
「バサラ君、君は大きな思い違いをしているようだ。
 確かに、二年前の戦争は彼女のお陰で終わった。
 だが、それは君の思っているように歌で戦争を終わらせたわけではないんだよ。」

「ラクス・クラインは確かに歌姫さ。それは間違っていない。
 ただ、彼女が戦争を終わらせたのは武力にものをいわせて、だ。
 お前のいう通り、歌で戦争が終わったんならよかったんだがな。
 彼女は当時の最新鋭機フリーダムと戦艦エターナルを強奪して連合とプラントを相手に戦い、勝利した。
 歌姫は歌うことを辞めて、マイクの代わりに銃をとったんだ。」
「なんてこった・・・」
車が屋敷の門をくぐったのを確認し、議長が二人に向かっていう。
「ともかく、議論の続きは夕食を食べてからにしようではないか。
為政者としても、この世界で起きた戦争と君の世界で起きた戦争、その違いについて詳しく聞きたい。」


夕食後、サロンにてバサラは自分の世界で起きた戦争について自分の知る限りのことを二人に語った。
プロトカルチャー、ゼントラーディ、メルトランディ、メガロード級移民船団。
マクロス7、プロトデビルン、サウンドエナジー、アニマスピリチア。
どれも信じがたい出来事だが、おそらく彼の言っていることは正しいのだろうと二人とも思った。
「フーム・・・・・・話を聞く限りでは、君はあちらの世界の英雄ということで間違い無いかね?」
「よしてくれ、英雄なんて柄じゃないぜ。
 俺はただ、歌うことの楽しさをあいつらに教えてやっただけさ。」
「けど、英雄扱いが嫌で銀河の外れにいって、クジラと歌ってたらこんなとこまで来た訳だろ?
 元の世界に帰りたいとか思わないか?」
「銀河のどこだろうと、世界が違おうと、俺は熱気バサラだ。
 声が渇れるまで歌い続けるだけさ。
 ま、確かに他のメンバーと一緒に演奏できないのはちょいと寂しいがな。」
「では、こちらの世界でも君は歌手として歌い続けると?」
「ああ、そのつもりだぜ。」
「ふむ、そうかね・・・。」
議長は少し何かを考え込んだしぐさを見せた後、急に立ち上がり二人にこういった。
「すまないが、少し席をはずさせてもらうよ、バサラ君に渡したいものができたのでね。
 二人ともくつろいで待っていてくれたまえ。」
そういうと足早やに部屋を出て行った。


議長が部屋を出て行った後、ハイネがバサラに聞いた。
「で、歌い続けるっつったってどうやって歌うんだ?
 ストリートミュージシャンか、インディーズか、どっかのプロデューサーに売り込みでも掛けるか・・・
 ま、方法は色々あるわな。」
「しばらくはプラントの路上で歌ってみるつもりさ。
 議長のおっさんがバルキリー返してくれたら地球に行ってみるのも面白そうだがな。」
バサラは特に場所にはこだわる様子も無く答える。
「プラントで歌うつもりがあるんなら、知り合いのミュージシャンを紹介してやれるぜ?」
「いや、一人でやってみたいんだ。
 世界が違っても、俺の歌が通用するかどうか実際に確かめたいしな。」
「そうか・・・。」
ハイネは視線を落とし、つぶやく。
「本音を言えば、俺はお前と一緒に歌ってみたい。
 軍の仕事なんざほっぽりだしてな。
 だが、俺はザフトの軍人、しかもフェイスだ。
 プラントを守る仕事にも誇りを持ってるし、責任ある立場の人間だ。」
少し悲しそうにハイネは言う。
「ま、お前がザフトに入ってくれるんなら一緒に歌えるんだろうけどな。」
「そいつは無理な相談って奴だ。
 俺は軍に縛られるのが嫌いだからな。」
さりげなくバサラを軍に誘ってみたが、かえってきた返事は予想通りだった。
「それじゃ、しょうがねぇか。
 ザフトもある程度緩いっつっても色々と規則とかあるしな。
 俺みたくフェイスにでもなりゃ少しは違うんだろうが、流石に無理だろうな。」
「すまねえな。」
「いやなに、いいってことよ。
 代わりといっちゃあ何だが、戦争が終わったら一緒にライブやろうぜ。
 俺も歌にはお前に負けないくらい自信があるんだ。」

ニヒルな笑顔で不適に言い放つハイネ。
その視線に挑戦的なものが含まれていると感じ取ったバサラはひとつの提案をする。
「あぁ?別に戦争なんざ終わって無くても一緒に歌うことくらいできるだろうがよ?
 場所はここ、観客はお互いだけ、BGMは俺のギター。
 これだけありゃ十分だろ?」
バサラの提案に、ハイネは笑って答える。
「へっ、中々いい事いうじゃないか。
 歌を聞く人間が居ないのは寂しいが、お前と歌い合えることに比べりゃ些細なことだぜ。」
「で、何を歌うんだ?」
「んなもん俺とお前が知ってる曲といえば、あれしかねえだろ。突撃ラブハートだ!」
「いっよっしゃあ!いくぜ!!」
バサラのギターが激しいイントロを奏でる。
二人とも楽しそうに笑いあい、互いに挑むような表情に変わった瞬間、歌いだす。

『LET'S GO つきぬけようぜ 夢でみた夜明けへ まだまだ遠いけど―』

議長が廊下を急ぎ足で歩いていると、どこからか歌声が聞こえてきた。
歌声は二つ、どちらもいい声をしている。
競い合うような、それでいて重ね合うような二つの歌声だ。
そして、何よりも楽しそうな歌声だ。

『デスティニー 何億光年の彼方へも』

それは、先ほどまでいたサロンのほうから聞こえてくる。
(という事はバサラ君のハイネの歌声か・・・)

『明日を駆けるラブハート 真っ赤な軌跡を描き』

(なるほど、本当にいい声をしている。
 これ程の歌ならば誰もが心を動かされようというものだ。)

『ときめきと微笑みを バラ撒いてゆけ』

(これならば、彼女と組ませても不平不満はそうそう出まい。)

『すべての心にラブハート 火花が散りそうなテレパシー』

(さて、彼にも働いてもらうとしようか。私の目指す世界のために・・・。)

『溢れる思いは流線型 突撃ハブハート』

歌は終わり、バサラの激しいギターの音だけが聞こえる。
演奏が終わると、議長がゆっくりと扉を開けていく。
その懐には、白く輝くフェイスの証が収められていた。


機動戦士ガンダムSEED DESTINY feat.熱気バサラ
第四話 歌にのせる想い~WISH~