Mercenary’s Memory_プロローグ

Last-modified: 2008-03-13 (木) 01:02:56

プロローグ 回想

 

 紺色のコートを羽織った赤い瞳の青年は、風防ガラスを通してコックピット内に流れ込む日光を満喫していた。しかし、それも長くはできまい。彼が操縦している高速航空機、イクシフォスラーがいくらホバリングできるとはいえ、エネルギーを無駄遣いしてはいけない。
この機体は周囲のエネルギーを少しずつ取り込むことで飛行している。とはいえ、蓄えている分がなくなればおしまいだ。エネルギーが切れてしまえば墜落するのみとなる。
「早いところ戻らないとな。ハロルドが待ってる……。」
 彼の名前はシン・アスカという。正確にはシン・アスカ本人ではなく、この世界に存在した神、フォルトゥナによって生み出された、異世界の人間のコピーである。自らの運命に抗い続けた彼は、ついにささやかな幸せを手に入れることができた。しかし、その道程は決して楽なものではなかった。
当初は自分が異世界の人間のコピーであることすら知らず、元の世界に戻ろうと考えていた。その過程で仲間になったカイル・デュナミスをはじめとするメンバーを殺すことになるかもしれないことを知り、それを見事に覆して見せた。
 自らがコピーであることを知ってからは、カイルたちを助け続けることを自らに誓った。それが自らの目指す、暖かく優しい世界へと向かうだろうと信じた結果だった。その中で、愛する者も得ることができた。
 その名はハロルド・ベルセリオス。この世界では高名な科学者で、一般には男と思われているが、実際は女である。歴史改変阻止の時間旅行の際、カイルたちの時代から1000年前の天地戦争時代に出会い、シンとハロルドは深い絆で結ばれることになった。
 ハロルドは彼にとって、オリジナルの経験を含めて3人目の女性となる。一人目は目の前で殺され、二人目は異世界に放置してきた。今度こそは守らなくてはならないと、シンは誓いを新たにする。
しかし、またも過酷な運命が彼を襲った。自らの理想とする世界を作るために歴史改変を行ってきた神の化身、エルレインによる天体衝突を防ぐために神を殺さなくてはならなくなった。しかし、それを実行するとシン、そして仲間でもあるカイルの想い人のリアラが消滅してしまうことが明らかになった。カイルは悩んだ末に神を殺害することを決意し、結果、シンとリアラ、そしてエルレインによって蘇生されていた仲間のジューダスが、世界より消滅することになった。
 だが、それでもシンは諦めなかった。彼はリアラと共に消滅した存在が行き着く異次元空間、「時の吹き溜まり」から脱出し、この世界に戻ってきた。その際、ジューダスも連れ出そうとしたが、それは本人の拒絶により叶わなかった。
 カイルとリアラの旅は行き着くところに行き着いた。しかし、シンの旅はそれで終わりではなかった。ハロルドはシンが消滅する間際に言った。
「シン! あんた絶対に戻ってきなさい! 別にあたしの時代に戻ってこなくたっていいわ! どの時代にいようとあたしがあんたを見つけ出して捕まえてやるんだから! リアラに便乗してでも戻ってきなさい!」
 彼はその言葉を信じ、ハロルドを探すために時の吹き溜まりから帰還した場所、カイルたちの住むクレスタから旅立ったのだった。
「……今考えると滑稽だよな、全く……。」
 シンは苦笑しながらオートパイロットを起動し、進路をクレスタに向け、回想の世界に入り込んでいった。