R-18_Abe-SeedDestiny-X_安部高和_03

Last-modified: 2007-11-06 (火) 21:39:20

ヴェサリウス、艦内通路。
「へぇ・・・卒業してからずっと病気だったんですか」
「ええ・・・もう通風と腰痛で立つ事もままならなくて・・・」
「なんだか更年期障害みたいですね・・・」
「ははは、よく言われます」
ジュール隊に潜り込んだシャギアは、ニコルにヴェサリウス艦内を案内されていた。
――「私を更年期障害者呼ばわりしたな?いずれその緑色でワカメっぽい髪をストレートにして且つ
黒く染め上げて誰だか分からないようにしてやる。描き分けられるものなら描き分けてみるがいい平井!」
――「兄さん、恨み言まで送ってこないでよ」
――「む。すまんなオルバよ。つい、な」
シャギアとオルバは遠く離れた位置にいるが、テレパシーは距離に関係なく可能だった。
何億光年の彼方でも届くのだ。
――「それで、そちらの首尾はどうだ、オルバ?」
――「順調だよ兄さん」
――「そうか。もうじき第一段階が達成されるな・・・・・・ふっふっふ」
「ふっふっふ・・・・・・」
「突然どうしたんですか、シャギアさん?」
「いや失礼、ちょっと思い出し笑いをしてしまいましてね。それで、鮫の話でしたっけ?」
「違いますよ。更年期障害の話です」
「・・・・・・。そうでしたね・・・」
――「まだ続けるか小僧・・・!貴様の楽譜を全て『世にも奇妙な物語』のテーマ曲に変えてくれる・・・!」
――「兄さん」
――「・・・すまんオルバよ。つい、な」
腹に恨み言を孕みつつ、シャギアはニコルに案内されていった。
――隅々まで把握しておかねば・・・・・・何せ我々の母艦となるのだからな、コレは。

プラント、運送会社『黒猫ヤマト』。
そこでオルバは運送員の格好をして、作業に当たっていた。
「搭載完了しました」
「おおご苦労。それじゃさっそく出発するぞ」
「はい!」
オルバは宇宙トラックの運転席に乗り込み、キーを回した。
宇宙トラック『黒猫壱号』。運送会社黒猫ヤマトが誇る、12000馬力の宇宙用トラックだ。
しかしそのトラック、今日は普段とは違いコンテナの部分がやけに大きかった。
それもそのはず、その中に入っているのは段ボール箱の類ではなく、二機のMS。
加えて言うなら、そのMSは本来この世界には存在しないもの――
NRX-0013 ガンダムヴァサーゴ
NRX-0015 ガンダムアシュタロン
今朝シャギアが売っぱらった、彼らのMSである。
このMSはジャンク屋に売られたのだが、操作系統や装甲の材質があまりに違うという事で軍に接収される事となった。
そしてその運搬に、創業20年の老舗運送会社『黒猫ヤマト』が指名されたのだ。
――ふふ、計画通りだよ兄さん・・・
それを事前に察知したシャギアは、オルバをこの黒猫ヤマトへと送り込んだ。
全ては美しき悪事のため。世界が変わっても、彼らは悪に徹する心を忘れない。
そしてMS二機を搭載した宇宙トラックは、その身を漆黒の宇宙へと泳がせた。
目的地は軍事要塞アルテミス。最初の大戦で某肉色に傘を悉く破壊された要塞だ。
だが傘の修復はされる事はなく、今は要塞としてではなくMSの研究所として使用されているのだが。
そこに向かう途中、不意に宇宙トラックを大きな揺れが襲った。
「な、何事だ!!?」
助手席に座る先輩運送員が声を上げた。
「ど、どうやら何者かに襲撃されているようです!」
彼の声を汲んだのはオルバ・フロスト。いかにも焦った風な口調だったが、内心ではほくそ笑んでいた。
次いで、二度目の衝撃。
「くそっ、一体どこのどいつだ!?」
依然姿を現さない敵機に慌て怯える先輩運送員。
「――!?待ってください!通信です!」
そんな彼を差し置きオルバが回線を開くと、スピーカーから野太い男の声が聴こえた。
『我々は地球連合軍、アルザッヘル基地の者だ。悪いが貴様らには生贄となってもらう!』
まるで『プライバシー保護のため音声を変えております』みたいな声だったが、実際そうだった。
この声の元となっているのはシャギア兄さん。MSを売った後にあらかじめ録音しておいたものだ。
もうお分かりだろう。この襲撃もアルザッヘル云々も、全てフロスト兄弟が仕組んだものだったのだ。
オルバはコンテナにあらかじめ爆薬を仕掛けており、それを爆発させて敵機に襲撃された風に見せかけていた。
「い、生贄だと!?それはどういう事だ!?」
『薄汚いコーディネーター豚め!遺伝子組み替えなど我らが美学に反する!!』
「だからどういう事だって訊いているんだ!!」
『青き清浄なる世界のために、そして我らが美学のために、宇宙に漂う塵芥となるがいい!』
「いや質問に答えろよ」
当然録音なので、相手の質問に答えるという臨機応変さは持ち合わせてなかった。

「先輩、このままじゃまずいです!早く脱出を!!」
『くっくっくっくっく・・・・・・はァっはっはっ――ぬおっ!?・・・おのれカラスめ、この私に糞を投下するなど――』
「やべっ」
慌てて回線を切るオルバ。
――「・・・・・・兄さん、録音ミスってるよ」
――「すまんオルバ。しかしどうしても憎らしかったのだ、あのカラスが」
――「気持ちは分かるよ、兄さん。で、ちゃんと避けたんだよね?」
――「・・・・・・」
――「・・・・・・兄さん?」
――「おっとすまないオルバよ。緊急の用事が出来た」
――「兄さん!?避けたって言ってよ兄さん!!」
「ん?今カラスとかなんとか・・・・・・」
「か、枯らすって言ったんですよ相手は!僕らの生命力を根こそぎ吸うつもりなんです相手は!」
はっと意識を戻し、兄のミスをなんとか取り繕うオルバ。あの服は捨てようと心に誓った。
「な、なんだってー!!」
「ですから早く脱出を!!」
「し、しかし!黒猫ヤマトとして荷物の配送を放り出すわけには――」
「命とどっちが大切なんですか!?あなたにだって恋人がいるでしょう!?」
「あ、ああ。ユキって言ってな、それはもう美人で可愛い奴なんだデレデレ」
――「オルバよ。今すぐそいつを殺すのだ」
――「殺しちゃダメだよ兄さん。彼には役割があるんだから」
――「ちっ」
恋人持ちの男を見るとせつなくてすぐ殺そうとしちゃう兄をなだめ、オルバは先輩に脱出を促した。
「あ、ああ!おまえも早く!」
「いえ、先輩。僕は相手を引きつけます。ですからその隙に逃げてください」
「引きつけるって、相手は見えない敵なんだぞ!?」
「大丈夫です。勘は鋭い方ですから」
「だったら俺がやる!後輩を残して逃げる先輩がどこにいる!?」
「いえ、あなたはこの事をプラントに伝えてください。連合が戦争を仕掛けてきた、って。僕みたいな住所不定者じゃ
信用されませんから」
「わ、分かった!じゃあ俺は行くが、死ぬんじゃあないぞ!?」
そして先輩はコンテナに置いてあった脱出艇に乗り込み、この宙域を離脱した。

「さて、と」
脱出艇が見えなくなったのを確認したオルバは、宇宙トラックをデブリの影に停めた。
「ここからが本番だよ・・・・・・」
そしてコンテナへ。
オルバは『アンノウン2』と書かれた札の貼ってあるシートを剥がし、それに包まれていたMSのコクピットに乗り込んだ。
そしてオルバはアンノウン2――ガンダムアシュタロンを起動させ、コンテナから飛び出した。
向かった先はアルザッヘル基地。地球連合の軍事拠点だ。
「やはり悪者はこうでなくちゃね・・・・・・!」
そう呟くやいなや、基地に大量のビームを浴びせるオルバ。施設が次々と破壊されていった。
『貴様、どこの所属だ!!』
数分後、基地から発進されたMSの一機から通信が届いた。とっても怒っていた。
「戦闘が目的ってわけじゃないけど・・・・・・相手の力量を測るのも大事だよね」
守備隊の通信を無視し、オルバはアシュタロンをMSの群れに突っ込ませた。

「な、なんだあのMSは・・・・・・!」
アルザッヘル基地。謎のMSの襲撃を受けて、基地司令はそう言葉を洩らした。
「し、司令!ストライクダガーが次々と破壊されていきます!」
「馬鹿な!?たった一機のMS相手に、こんな!!」
司令が驚愕するのも無理はない。
突如現れた謎のMSは、まるで先読みするかのようにストライクダガーの攻撃をかわし、
「しかもあんな武装で・・・・・・!!」
両肩に付いた、まるで冗談か何かのような武装――アトミックシザース――でストライクダガーを撃破していった。
蟹バサミの兵器的側面から見た実用度など考えるまでも無く、しかしそのハサミは確実に基地の戦力を奪っていった。
気が付けば基地の上空には、ハサミで両断されたストライクダガーの残骸が大量に浮いていた。
「司令!敵MSからの通信です!」
「繋げ!!」
そしてスピーカーから、『プライバシー保護のためry』な声が響いた。
『こんにちは、ナチュ豚ども。人類の叡智の結晶、コーディネーター様だ』
もちろん喋っているのはオルバだ。更にオルバは続けた。
『今日より我がザフトは、地球にへばりつく蛆虫ことナチュ豚を殲滅する事をここに宣言する』
「う、蛆虫だと!?貴様、言うに事欠いてよくも!!」
『権力にしがみつくしか能の無い無能な司令よ、言葉を慎みたまえ。ナチュ豚如きが我らコーディネーター
と対等だとでも思っているのか?』
「貴様、何様のつもりだ!!」
『コーディネーター様さ。豚と問答する趣味はないので用件だけ伝える。明朝六時、この基地を攻撃させて
もらう。命が惜しくば無様に逃げ出すんだね』
「ふ、ふざけるな!誰が貴様らコーディー豚にケツなど向けるか!!」
『なら抗うがいいさ。もっとも、ナチュ豚如きがザフトに対抗出来るとは思えないけどね、あっはっは!!』
そして謎のMS――アシュタロンは、基地から離れていった。
「・・・・・・司令、どうします?」
「決まっている!基地が破壊されたのだ、相応の報いは受けてもらう!各員、ただちに出撃準備だ!!」

ヴェサリウス、ブリッジ。
「隊長!救難信号をキャッチしました!」
「なんだと!?どこのどいつだ!?」
「黒猫ヤマトの宇宙トラックです!どうやら連合軍に襲撃されたようです!!」
「なんだと!?すぐに回収しろ!!」
イザークが怒鳴り散らす中。
シャギアは誰にも見られないよう、こっそりとほくそ笑んだ。
――「上手くいったよ、兄さん」
――「よくやったオルバ。クク、これで開戦の火種は灯った・・・・・・あとは燃え広がるのを待つだけだ」
――「異世界でもこんな悪い事が出来るなんて・・・・・・やっぱり兄さんはすごいや!!」
――「そう褒めるなオルバよ。ニヤついてしまうではないか・・・・・・」
「・・・・・・ニヤニヤ」
「シャギアさん?何で笑っているんですか?」
「いや、ちょっと思い出し笑いを。それで、鮫の話でしたっけ?」
「いえ、救難信号の話ですけど・・・・・・ボケました?」
「はは、よく言われます・・・・・・」
――例え世界の創造主が許しても私は許さん。冷蔵庫にある貴様のコーラを雑巾の絞り汁に換えてくれる!
そしてシャギアは、ニコルへの憎悪を募らせていった。

機動戦士阿部さんSEED DESTINY X
第三話~宇宙に馬力は要らないだろ・・・・・・常識的に考えて~