R-18_Abe-SeedDestiny-X_安部高和_29

Last-modified: 2007-11-09 (金) 20:46:03

明朝。
(私とした事が・・・・・・!)
ついうっかり寝坊してしまったアビーは早足でブリッジに向かっていた。
いつもならそう慌てるような事ではないのだが、それは昨日までの話。
――あの二人はもう、いつ消えてもおかしくない。
遅刻などというくだらない理由で共に居られる時間を削られるのはとても許せるような事ではなかった。
「・・・・・・」
もしかしたら、もう既に消えているかもしれない――そんな考えがふと頭に過ぎる。
(いや・・・・・・それはあり得ない。まだ私が覚えている・・・・・・)
軽く頭を振ってその考えを否定するアビー。覚えているからといって消えない保障はどこにもない(と言うか
アビーの勝手な思い込み)なのだが、アビーが平静を保つにはそれに縋る他はなかった。
程なくしてブリッジへ続く扉へと着く。
(大丈夫、絶対居るはず・・・・・・)
一呼吸置いてから、アビーは扉を開けた。
「申し訳ありません。遅くなりました」
その声を聞く者は、誰も居なかった。

ガモフ、医務室。
「メイド服が・・・・・・メイド服がアァァァァァァァァァン・・・・・・」
「阿部さん・・・・・・こんなにうなされて」
動かなくなったインモラルを回収し、そして外部からコクピットを開けた四人の目に映ったのは、白目を剥いて
気を失った阿部のヒサンな姿だった。
そして四人はとりあえず阿部を寝かせたのだが、一晩経っても阿部は目を覚まさなかった。
「阿部!いつまで寝ているつもりだ!!」
そんな阿部の姿に堪らず掴みかかるイザーク。
「イザーク、あまり無茶をするな・・・・・・一応病人なんだから」
「病人!?ふざけた事を言うな!ゲイ菌保菌体であるこいつが病気なはずあるものか!!」
イザークの理屈もよく分からないが、とりあえずゲイ菌なんてものは存在しません。
「俺もそう思う。しかしなイザーク・・・・・・こいつを見てくれ。どう思う?」
アスランは阿部の掛け布団を捲り、そして彼のツナギのジッパーを下ろした。
「こ、これは!!?」
そこには、変わり果てた暴君の姿があった。
常時勃起していると言っても過言ではない阿部の暴君が、見るも無惨に頭を垂れてそこに鎮座しておられた。
「馬鹿な!幾人もの(俺含む)アナルを突き穿った雄々しき阿部の暴君が、こんなナサケナイ姿に・・・・・・!」
すごく大きかったキンタマも、まるでしなびたキャベツのよう。極限まで収縮し、精液を生み出すという仕事を
放棄しているかのように見えた。
「阿部がこんな風になるなんて・・・・・・いったい何があったと言うんだ!」
「分からない。ただ分かっている事・・・・・・それは、阿部自身がこれを乗り越えなければならないという事だ」
メイド服だのスク水だののたまっている事から、阿部がなんらかの精神的外傷を受けたという事は明らか。
そしてそれは、自分の力で乗り越えない事にはどうにもならない事だった。

「くそっ!ただ待つしか出来んとは・・・・・・!」
「おい、大変だぜ!!」
と、ブリッジで一人仕事をしていた(させられていた。非グレイトォ)ディアッカが慌てて入ってきた。
「どうしたディアッカ!?」
「正体不明のMSに味方が襲撃を受けてる!場所は最終防衛ラインの近くだ!」
「なんだと!?という事はザフト軍はほぼ壊滅状態という事か!?」
最終防衛ラインに到達するには、それまでの道のりに配置されている部隊を倒さねばならない。もちろんなんらかの
方法で気付かれずにやり過ごすという手もあるが、それはあり得ない。そんな兵器があるなら連合はとっくに
配備しているはず、未だに核で強引にプラントを撃とうとしている事から、そのような兵器は開発されていない
と断言出来る。レクイエムのような大量破壊兵器で一掃したとも考えられるが、だったら今でなくともとっくに
発射しているはずであるし、仮に今撃たれたのならディアッカの報告は「正体不明のMSに襲撃を受けている」ではなく
「連合の超兵器で味方の損害がヤヴァイ」となっているはず。
つまりディアッカの報告が言葉どおりの意味であるならば、それまでの部隊は悉く殲滅されたという事になる。それも、
ヘタな小細工なしの正攻法で。
「いや、襲撃を受けている部隊以外はそれほど被害は出ていない・・・・・・と言うか、MSが2、3機落とされたくらい
らしいぜ」
「どういう事だ、それは!?ならば何故最終防衛ラインに到達される前に救援信号が送られてこない!?」
「分からない・・・・・・ただ襲撃を受けている戦艦から通信があっただけで、他はなんとも」
「敵の数は!?」
「MS二機・・・・・・だけらしい」
「MS二機であそこまで、だと?・・・・・・まったく、ワケの分からない事が立て続けに起こるな・・・・・・」
ヴェサリウスが何者かの手に落ちていた、という事だけで既に究極にワケが分からない。元々頭のよろしくない
イザークは、ノーミソがフットーしそうだった。
「考えるのはヤメだ!とにかくそこに急行するぞ!!」
「「「了解!!」」」
阿部を一人残し、四人はブリッジへと駆け出した。

――「まさかこんなに上手くいくなんて・・・・・・」
――「利用出来るのは物や人だけではないという事だ、オルバよ」
たった二機でこの世界を滅ぼす――
一見無謀とも思える、そして一万見してもやっぱり無謀としか思えない彼らの目的は、しかし手の届く所にまで
落ちてきていた。
彼らの考えた世界滅殺計画・・・・・・その本質は両軍による潰し合いだ。どんな力を持っていようとも、兄弟二人では直接
世界を滅ぼす事など出来ない。真正面から突っ込むにせよ奇襲をかけるにせよ、組織化された力には到底敵わないのだ。
だから彼らは利用する事にした。その“組織化された力”を意のままに操る事により、間接的な世界の破壊を目論んだ。
その考えは今も昔も変わらない。自身の力は自衛、障害の排除以上の意味は持たず、あくまで手を下すのはその世界を
牛耳っている者同士・・・・・・つまりここで言うなら、プラントと地球連合であると最初から決定されていた。
戦意を煽るのはそう難しくなく・・・・・・と言うかぶっちゃけラクショーだった。両陣営は絶望的に仲が悪く、ちょこッと
工作してやったらもう開戦――いくら遺伝子レベルの確執があるとはいえ、何かの冗談ではないかとシャギアは思った。
しかしその第一関門をラクショーにした“遺伝子”が、第二関門を困難なものにさせる事となった。
潰し合うには両陣営の力が拮抗していなければならないのだが、その陣営の人間としての性能差がこの世界ではくっきりと
二分されていた。これでは例え両陣営をぶつけたとしても、性能で勝るプラント側が勝利するのは目に見えていた。
そこでシャギアは考えた。性能で劣る陣営の力をどうやって勝る陣営の力に近づけるか・・・・・・
その答えは逆に考えたら出てきた。
『なにシャギア?連合軍にザフトと同等の力を付けさせたいが上手い考えが浮かばない?シャギア、それは連合を
どうにかしようとするからだよ。逆に考えるんだ。「ザフトを連合並にしてしまおう」そう考えるんだ』
そこで思い至った。連合の力を上げるのではなくザフトの力を下げる・・・・・・そして、それを成す方法を。
古来より戦争において、その勝敗を分けたのは単純な力の差ではない。いくら相手が力に勝る相手だとはいえ、
その相手に戦意――つまりやる気が無ければ勝機は充分にある。
そしてコーディネーターは“やる気”によって力が左右されまくる人種――ラクスの声を聞いただけで戦意が揺らいだ様を
原作で見てきたキミ達なら分かるだろう。
そう――シャギアはザフトの士気を下げる事によって両陣営を拮抗させようと考えたのだ。
そして士気を下げるのに最も手っ取り早い方法はと言うと・・・・・・旗艦の撃沈である。
旗艦が落ちる→みんな混乱して士気が下がる→そうこうしてる間に味方が落とされる→また士気が下がる・・・・・・
この悪循環を発生させるべく、二人は一直線に最終防衛ラインまでやってきたのだ。
さて、ではどうやって二人は並み居るザフト兵をかいくぐってここまで到達する事が出来たのか。
答えは――何もしない。
今の彼らは世界から消えゆく身・・・・・・それ故に彼らに関する記録、記憶は世界によって消去されている。
それをシャギアは逆手に取った。自分達が人々の記憶から消えてゆく――逆に考えれば、彼らは自分達の存在を認識
出来ないという事になる。
もちろん目の前に現れれば気付く。別に彼らは透明化しているわけではない。しかし一度目を離してしまえば、
彼らがそこにいたという事実は世界によって消されてしまう。向かってくる二人に砲撃をかけていても、横を通り去られて
よし転身しようと思った時には、既に二人の存在は頭から消えてしまっているのだ。中には目を離さずに砲撃をかけてくる
者もいたが、それならその辺のMSを落としてやればいい。意識がそのMSに向いた時、もう二人の事は頭から消えている。
そう――シャギアは自分達を阻む強大な組織をやり過ごすために、自分達を消そうとしている世界を“利用”したのだ。
――「さて、さっさと旗艦を落とすぞオルバ。あまり時間は残されていないからな」
シャギアの言う『時間』とは、自分達が消える事ではない。長居すればそれだけ認識される機会が増える事になり、
その者に救援信号でも送られたらあっという間に袋叩きに遭ってしまう。とにかく迅速に行動する必要があるのだ。
――「了解、兄さん」
二人は旗艦――ミネルバの元へと向かった。

ミネルバ、ブリッジ。
「左舷とか右舷とかとにかく迎撃!!」
「は、はいぃ!!」
早速ミネルバは襲撃を受けていた。
「なんなの、あのMSは!?メイリン!何か情報は!?」
「あ、ありません!」
「そう・・・・・・じゃあ適当な艦に救援信号を!なるべく強そうなのにね!」
「了解!!」
『ルナマリア・ホーク!インパルス出るわよ!』
MSデッキからの通信。MSにはMSという事で、タリアはルナマリアとハイネに出撃を命じていた。
「了解!気を付けてね、お姉ちゃん」
『任せといて!』
パチっとウインクを返すルナマリア。彼女の接近戦における実力は皆知っており、この窮地を救ってくれるのだと
誰もが信じていた。
『それじゃ改めて・・・・・・ルナマリア・ホーク、ブラストインパルス出るわよ!!』
「えっ・・・・・・」
光の尾を引いて艦から飛び出した緑色のインパルス。
それを見てブリッジのクルーは思った。
――これはダメかも分からんね。
『ハイネ・ヴェステンフルス、グフイグナイテッド出るぜ!・・・・・・って、どうしたんだみんな?盛り上がっていこうぜ!!』
「・・・・・・」
あまりに空気の読めないハイネに、タリアは屈強を差し向けようか本気で悩んだ。

『こいつ、落ちろ!!』
ブラストインパルスの放ったケルベロスが機体を貫く。
『なにっ!?』
「馬鹿な!?」
その砲撃は正確にして精密。かわす隙などあるはずもなく、一撃で戦闘不能に追いやられた。
『ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
オレンジ色の機体が。
『艦長!グフが落ちました!』
『だろうと思ったわ・・・・・・』
落ちたのはグフ。誤射マリアの名は伊達ではないのだ。
「な、何故ヤツは味方を撃ったのだ・・・・・・?」
『分からない・・・・・・イカれているとしか思えない・・・・・・』
混乱させるために来たはずなのに、逆に混乱させられてしまった兄弟であった。
『隙あり!もらった!!』
その隙を逃がさず砲撃を浴びせるルナマリア。
しかし落ちていくのは味方ばかりで、止まっているはずのヴァサーゴ、アシュタロンには掠りもしなかった。
気がつけば、ここを防衛していた艦はミネルバを残して全滅していた。
『な・・・・・・味方が!?よくもやってくれたわねあんた達!!』
「我々は止まっていただけなのだが・・・・・・」
『兄さん・・・・・・僕あいつが怖いよ・・・・・・』
ますます混乱する兄弟。まぁ敵そっちのけで味方を落としまくる奴を見たら誰だってそうなる。
「いや、奴の思想など問題ではない・・・・・・」
しかしそこはシャギア兄。いち早く冷静さを取り戻し、状況を分析した。
「肝心なのは旗艦を落とすというただ一点。そしてこの状況・・・・・・邪魔をする艦が全滅してくれたのだ。これは好機だ
オルバ。さっさと旗艦を落とすぞ」
『り、了解、兄さん』
二人は再度ミネルバへと向かう。
『あ、待てっ!このっ!』
そうはさせじと二機に砲撃をかけるも、当然の如く当たらない。どう考えても外しようのない位置からの砲撃ですら当ててこない
敵機に、オルバは恐怖した。
『兄さんあいつマジやばいって』
「・・・・・・気にするなオルバよ。あれはおそらく我々の精神を混乱させるためにあのような愚行を犯したのだ。
うむ、そうに違いない。そうでなくてはならない。そうでなくては困る。頼むから」
シャギアも少し怯えていた。
しかしそんな怯えとは無関係に、二機はミネルバに肉薄した。
「この位置この距離・・・・・・もらったぞ!」

「ミサイルとか機銃とか早く!!」
「無理です!速過ぎて照準が!!」
物凄いスピードで距離を詰めてくる敵機に、ブリッジクルーもまた混乱していた。
「アーサー!タンホイザーはまだなの!?」
「え?そんな命令受けましたっけ?」
「状況を見れば分かるでしょう!?空気を読みなさい!!」
無茶な事を言うタリア。てゆーかこいつの指示適当杉だろ・・・・・・
「は、はいぃ!!た、タンホイザー起動!!」
「今から準備しても間に合わないだろ・・・・・・常識的に考えて」
眼前にはヴァサーゴ。ミネルバは既に取り付かれていた。
『この位置この距離・・・・・・もらったぞ!』
ヴァサーゴがクローを振り上げる。
「・・・・・・!?」
それが振り下ろされるまでの一瞬で、ミネルバは破壊される。それを阻止してくれるはずの味方は既にいない。いや一人
いるけど絶対ロクな事にならない。むしろアレも死神だ。
終わった――そんな諦観の念がクルーの胸を支配した。タリアは静かに目を閉じ、メイリンはツナギの王子様の事を想い、
アーサーはオロオロする。
『ぐおぉっ!?』
そして耳に響く叫び声。
しかしそれは、クルーが放ったものではなかった。
「・・・・・・?」
タリアは閉じていた目を開く。
そこには、二機のMSがいた。正体不明などではない、彼女のよく知る二機のMSが。
『こちらシン・アスカ、ただいま戻りました!!』
『こちらキラ・ヤマト、救援に来ました!』
デスティニーガンダムと、ストライクフリーダムガンダム。
「・・・・・・まったく、どこで油売ってたのよ、シン」
二機の手により、ミネルバは命を繋ぎとめた。

機動戦士阿部さんSEED DESTINY X
第二十九話~ルナマリアは軍法会議ものだと思うの~