R-18_Abe-Seed_安部高和_09

Last-modified: 2007-12-27 (木) 10:20:59

「オペレーション・スピットブレイク・・・キミ達は知っているかね?」
ヴェサリウスのブリーフィングルーム。
阿部、イザーク、そして先日回収されたニコルは、例によってクルーゼに
召集をかけられていた。
ちなみにアスランはお休み。イージスが大破したので、アスランはプラント本国に戻って
新しいMS受領の手続きをしていた。
「いえ、知りませんが・・・」
「そのスピットブレイクが本日発令されたのだよ。よって各員、MSデッキで待機。以上、解散」
「いやだから初耳ですって」
相変わらずクルーゼは人知を超えたぞんざいな説明をし、イザークはそれに喰ってかかる。
もはやヴェサリウスでは日常茶飯事となっていた。

 

デッキへと続く通路。
「ニコル!」
イザークはニコルに声をかけた。
「はい?なんですかイザーク?」
「忘れ物だ」
そう言ってイザークは、ニコルに包みを渡した。
「これは?」
「カツサンドだ。カツは縁起が良い・・・もう落とされるんじゃないぞ?」
「イザーク・・・・・・ありがとうございます」
「俺達は必ず生き残るぞ!・・・・・・ディアッカの分までな!」
ディアッカはMIA認定されていた。MIA・・・早い話が戦死扱いである。
「はい!」
「見てろよ足付きめ・・・」
そこには、復讐に燃えるイザークの姿があった。

 

モビルスーツデッキ。
「うわぁ・・・本当に直ってる・・・」
大破したはずのブリッツは、新品同様の姿でそこに立っていた。
「ありがとうございました、阿部さん!」
「いいって事よ。こんなの、自動車修理工にとっちゃ朝飯前なんだぜ?」
「すごいんですね、自動車修理工って・・・」
「イージスと違ってパーツは全部あったし、半日もあればラクショーさ」
「今度僕にも教えてください。やっぱり自分のMSは自分で面倒見たいですから」
「ああいいぜ。手取り足取り教えてやるよ。・・・そう、手取り足取り、な」
「もう、阿部さんったら・・・こんな所で恥ずかしいですよ・・・」
「阿部、貴様!!ニコルを誘惑したら承知せんぞ!!」
「おやおやイザーク。・・・ひょっとして、ジェラシーかい?」
「ば・・・バカモノ!!くだらん事言ってないでさっさとコクピットに上がれ!!」
顔を真っ赤にしながら、ツンデレイザークは阿部に怒鳴った。

 

「ザフト軍、来ます!!」
アークエンジェル、ブリッジ。サイの声と同時に、皆に緊張が走った。
「見えてるわ。すんごい数ね・・・」
「艦長、どうしますか!?」
「艦を360度回頭!敵を迎え撃つ!!」
「艦長・・・360度じゃ元に戻っちゃいます!!」
「ありゃ?そうなの?」
「・・・しっかりしてください艦長!もうバジルール中尉はいないんですよ!」
「そーだったわね。んじゃ、目の前の敵を順々にやっつけてくって方向で」
「了解!」
そして、アークエンジェルは砲撃を開始した。

 
 

「ちっ!ついに連合もMSを持ち出したか!?」
デュエルに向かって、青い色のMSが斬りかかってきた。
GAT-01A1 ダガー
ナチュラル初のMSであり、ストライクの制式量産機だった。
「しかし、そんな動きでは!!」
ずばっと一閃。ダガーは足を斬られ、そのまま身動きが取れなくなった。
「ふん!ナチュラルにしてはよくやった方だが――」
「イザーク後ろです!!」
「にゃにぃ!!?」
いつの間にか背後にもう一機のダガー。至近距離でビームサーベルを振りかぶっていた。
「ちぃっ!!」
慌ててシールドを構えたが、突如ダガーの動きが止まった。
「イザーク、油断し過ぎじゃないの?」
「阿部!」
デュエルを狙ったダガーはインモラルに貫かれ、そのままくずおれた。
「久しぶりのMSプレイ・・・・・・燃えるじゃないの」
「阿部貴様!!遊びではないのだぞ!!?」
「まぁまぁ。ここは俺達に任せてさ、おまえは足付きんトコに行きなよ」
「し、しかし!」
「取りたいんだろ?ディアッカの仇をさ」
「――!?・・・・・・ふん、そこまで言うのなら行ってやる!ここは任せたぞ!!」
そう言って、デュエルはアークエンジェルへ向かった。
「はてさて・・・・・・感動の再会になりゃあいいけどね」

 

「敵MS接近!!」
「下げ角90!回避ィ!!」
「90も下げたら地面に突っ込んじゃいますよ艦長!!」
「ありゃ?そうなの?」
「頭に分度器を思い浮かべてから物を言ってください!!」
大声を張り上げるサイ。ナタルがいなくなった途端にセリフが増えた。
「敵MS、なおも接近!!」
「とにかくよけなさい!!」
「無理です、サー!!」
既に敵MS・・・ジンは眼前にまで迫っていた。いくらノイマンでも、この距離ではかわせない。
「あ、やばっ」
そして銃口がブリッジに向けられる。
あと1秒もしない内に発射される、という時に、
――上空から、光が一閃した。
「・・・え?」
その光はジンのマシンガンを撃ち抜いた。
「なになに?なにが起こったの?」
『こちらキラ・ヤマト!!』
ブリッジに、聞き覚えのある声からの通信。
「・・・・・・キラくん?」
「キラ!生きていたのか!?」
「キラ!!」
「フヒヒヒヒ・・・」
『下がってくださいアークエンジェル!(超不本意だけど)援護します!!』

 

「くそっ!まさかこんな事になってるなんてな!!」
アラスカ基地のMSデッキ。
ムウ・ラ・フラガは、素早くスカイグラスパーに乗り込んだ。
「地球軍もやってくれるぜ!」
ムウは基地に不自然な動きを感じていた。
そしてたまたま通りかかった将校を締め上げる(締め付けられる)と、その男は
驚くべき情報を口にした。
「俺達を囮に使いやがって・・・くそっ!!」
その事を伝えるべく、フラガはアークエンジェルの元へと急いだ。

 

「な、なんだあのMSは・・・」
イザークは驚愕していた。
突如天から飛来した謎の白いMSは、鬼神の如き活躍をしていた。
過剰とも言える数の砲身で、次々と味方のMSを撃ち貫いていく。
しかも、わざわざコクピットを外して。
「ちぃっ!舐めたマネを!!」
グゥルに加速をかけ、一直線にデュエルを向かわせるイザーク。
「貴様ぁ!!どういうつもりだ!!!」
謎のMS・・・フリーダムにライフルを撃ちつつ接近するデュエル。
しかし――
「な、なんだとぉ!!?」
そのMSは常識を超えた動きでそれをかわし、そしてデュエルの足を斬り裂いた。
「くっそぉ~!!」
落ちていくデュエル。元々性能差が圧倒的であり、パイロット能力も相まってまさに瞬殺だった。

 
 

「ふむ・・・・・・匂うな」
ヴェサリウス、ブリッジ。
クルーゼは、何か嫌な感じに纏わりつかれていた。
「匂うと言いますと?」
「ふむ・・・・・・アデス!諜報員からの報告は!?」
「は!それがまだ・・・・・・!?いえ、来ました!諜報員からの連絡です!」
「繋げ!」
「は!・・・・・・は?どういう事だ!?」
「どうしたアデス!報告は明確にしろ!」
「は!それが、その・・・基地内には誰もいないとの事です!!」
「なんだと?・・・・・・ふむ。アデス!基地の見取り図を出させろ!」
「は!」
そしてモニターに映し出される基地の見取り図。
そしてクルーゼは、己の嫌な予感を確信に変えた。
「この空白・・・・・・まさか」
基地の見取り図には、不自然な空白があった。
――まるでそこに、何かが設置されているかのように。
「・・・・・・サイクロプス」
「サイクロプス・・・とは、一体――」
「アデス、全軍に伝えろ!!すぐに退くようにな!!」

 

「なんですって!?」
通信を受け取ったニコルは、驚きを声に出した。
「どうしたんだいニコル?何が・・・・・・って、撤退だって?」
「どういう事でしょうか・・・?」
戦況はザフトの優勢だ。いくら謎の白いMSが奮闘しているとはいえ、たった一機では
戦況は覆せない。基地が落ちるのも時間の問題だった。
「どういうこったいクルーゼ?」
『地下にサイクロプスが埋められているのだよ』
「サイクロプス?それは気持ちの良い事なのかい?」
『真逆だよ阿部。簡単に言うと、巨大な電子レンジだ』
「・・・・・・へぇ」
『サイクロプスが発動すると、ここにいる全員はぷく~ってなってパーンってなる。
だからすぐに退くんだ』
と、不意に地面が揺れた。
『いかん・・・もう発動するか。阿部、ニコル、すぐに引け!もってあと3分だ!』
「し、しかし隊長!イザークが・・・!」
『なに?イザークがどうしたというのだ?』
「さっき落とされたって・・・」
『なんだと・・・!?』
「回収してきます!!」
『ならんニコル!・・・・・・残念だが、もう間に合わん・・・』
「隊長!!」
『退くんだニコル。おまえまで失うわけにはいかんのだ・・・』
「隊長・・・・・・くそっ!!」
ニコルはコンソールを叩いた。彼には珍しい行動だった。
『・・・阿部。ニコルを連れて帰還しろ』
そのクルーゼの言葉に、しかし阿部は動かない。
その代わりに、阿部はクルーゼに問うた。
「クルーゼ・・・あと3分と言ったな?」
『ああ・・・正確にはもう2分しかないがな。だからさっさと退け、阿部』
「そうかい。・・・・・・でもつまり、それってこういう事だろ?
――あと2分でサイクロプスとやらを壊せば、みんな助かるって」

 

「こちらムウ・ラ・フラガ!聞こえるかアークエンジェル!!」
フラガはアークエンジェルの前まで行き、通信を繋いだ。
『ふらが?・・・・・・ああ、フラガ少佐ね。で、なんか用?』
「そんな呑気な事言ってる場合じゃない!!地下にサイクロプスが埋め込まれている!」
『さいくろぷす?なにそれ、食べ物?』
「違う!簡単に言うとだな、巨大な電子レンジだ!発動するとぷく~ってなってパーンってなるぞ!」
『・・・まじ?』
「ああ!だからすぐにここから離脱するんだ!」
『そーね。ほらノイマン!ぼさっとしてないでさっさとトンズラするわよ!!』

 
 

「インモラルパーンチ!!」
アルテミスの傘を壊した『インモラルパンチ』で、インモラルは地面を殴った。
「ひゅう♪いるじゃない、イキのいいのが」
穴はあっさりと空き、阿部は地下にあるサイクロプスを見つけた。
「にしても・・・・・・結構な数じゃないの」
サイクロプスは基地の敷地一杯に広がっていた。一つ一つ破壊したのでは到底間に合わない量だ。
「ま、阿部さんにお任せってね」
阿部は手近な発生装置に当たりを付け、ゲイ・ボルグを展開した。
そして――
「フンッッ!!」
貫いた。要領はいつもと同じく、MSを貫くように。
一見すると無駄な行為に思えるが、それは大きな間違いだ。
インモラルのゲイ・ボルグは、相手のコクピットシートを変形させアナルを貫くというもの。
それを応用すれば、マシンの重要な部分を変形させてオシャカにする事も可能なのだ。
そしてサイクロプスは大量の発生装置が連なって出来ているもの・・・
伝染するように、全てのサイクロプス発生装置は起動のキーとなる部分を変形させていった。
そして程なくして、サイクロプスはその稼動を止めた。
最悪の大量破壊兵器を、阿部はたった一機のMSで止めたのだった。

 

「良い男に不可能はないのさ」