R-18_Abe-Seed_安部高和_16

Last-modified: 2007-12-27 (木) 10:29:58

戦場を駆けるインモラルガンダム。
ラクスの言葉で皆が敵になった今、それでもインモラルの足は止まらなかった。
「フンッッ!!」
『ア ッ ー !』
ガンマ線を吸収したインモラルの速度は凄まじく、もはやデフォルトで『質量を持った残像』
を発生させるに至っていた。
第三者の目から見れば、まるで敵の数の分だけインモラルが増えたように見えるだろう。
男性パイロットにはゲイ・ボルグ、女性パイロットには鉄拳制裁・・・インモラルの過ぎ去った後
には、まともに動ける機体は存在しなかった。
「・・・・・・お、見つけた」
機械の群の最奥に、阿部は三隻の戦艦を見つけた。
アークエンジェル、クサナギ、エターナル。三隻同盟、というやつである。
「メインは最後に取っておくとして、まずは――」
そして阿部は、まずクサナギに向かって機体を疾らせた。

 

「敵MS、来ます!」
クサナギのブリッジ。
インモラルの来襲に、クルーは迎え撃つ用意をした。
「主砲向け!インモラルに一斉発射!!」
艦長であるキサカは、クルーにそう命じた。
『キサカ!私も出るぞ!』
と、そこでMSデッキからの通信。ストライクルージュに乗ったカガリからだった。
「カガリ!!」
『私がやっつけてやる!ハッチを開けろ!!』
「し、しかし!!」
『ならハッチを壊す!!』
「・・・・・・ええい!ハッチを開放しろ!!」
『よし!カガリ・ユラ・アスハ、ストライクルージュ出るぞ!!』

 

常識的に考えて、馬鹿姫様ことカガリ様がMSを操縦できるわけがない。
技術者もその辺の事は重々承知しており、カガリの操縦桿は一般のMSとは
違ったものとなっていた。
どんな感じかというと、
↑・・・前進
↓・・・後退
→・・・右に移動
←・・・左に移動
Aボタン・・・ビームライフル
Bボタン・・・ビームサーベル
といった具合である。どう見ても平面移動しか出来ない仕様だが、カガリ様は3つ以上の
ボタンを扱う事が出来ないので、これも仕方の無い事だった。
「よし!これで私も――」
『ていっ』
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
だがあっという間にインモラルに蹴飛ばされ、ストライクルージュはカタパルトに放り込まれた。

 

「ストライクルージュ、速攻で帰還!!」
「早っ」
「き、キサカ一佐!敵MS、目の前です!!」
「か、回避――ア ッ ー !」
そしてあっという間に、クサナギは陥落した。嬌声を上げ、気を失うクルー達。
「ま、まさ、か・・・」
その中で一人だけ、今の一撃で意識を失わずにいられたキサカは、
「ウズミ様を超える者が・・・現れようとは・・・」
そう呟いて、淫夢に落ちていった。

 

「艦長!!インモラルが来ます!!」
お次はアークエンジェル。クサナギ陥落の様子を目の当たりにした彼らは、少なからずの
恐れを抱いていた。
「ちゃっちゃと回避!ほらノイマン、さっさとしなさい!」
「無理です、サー!」
戦艦のような鈍重な機体では、MS――特にインモラルからは逃れられない。
てんやわんやの中、インモラルは目前にまで迫っていた。
「あ、ダメだこりゃ」
そうマリューが呟いた時、インモラルとアークエンジェルの間に割って入るMSの姿があった。
『やらせん!!!』
「あ、フラガ少佐」
仮病少佐にして変態少佐こと、ムウ・ラ・フラガ。彼は、身を呈してAAを庇ったのだ。
『へへ・・・・・・やっぱ俺って、不可能を可能にア ッ ー !』
彼の乗るストライクは貫かれ、そして放り投げられ、あっという間に状況は元に戻ってしまった。
「うわ役に立たねー」
エンデュミオンの鷹、ムウ・ラ・フラガ。彼は、最後まで不可能を可能にし損ねた。
『フンッッ!!』
そして届いてきた阿部の声。同時に、男性クルーはおなじみの声を上げて気を失った。
「・・・・・・、ありゃ?なんともない?」
自身の体を不思議そうに見るマリュー。彼女は女性であるので、インモラルには貫かれなかったのだ。
「・・・・・・らっきー」
「ラッキーではありません、艦長」
そこで、懐かしのあの人の声がブリッジに入ってきた。
「あ、ナタル。おかえり」
脱出艇に乗ったドミニオンのクルーは、ついさっきAAに到着した。
「・・・・・・どうも。いやしかし、とんでもない機体ですね、あのインモラルは」
「そーね。ま、だけど女はヤらないみたいだし・・・フェミニストなのかしらね?」
「・・・・・・おそらく趣向の問題かと思われます」
「ふぅん」
「何はともあれ・・・アーガイル、ケーニヒ、バスカーク、アーノルド、チャンドラ、ロメロ、トノムラ・・・
彼らは皆、戦闘続行不可能です」
しっかりとした声で、ナタルはマリューにそう報告した。

 

「・・・・・・そんなに人いたんだ、このブリッジ」

 

「どういう事ですの、これは!?」
エターナル、ブリッジ。
これまで優雅な姿勢を崩さなかったラクスは、二隻の艦の撃沈を知るやいなや、
その仮面を剥ぎ取り周囲に怒鳴り散らした。
「どうもこうも・・・僕達の負けのようだよ、ラクス」
「あ、あなたって人は・・・!!」
自分がこうも激昂しているのに至極冷静に状況を述べるアンディの態度は、
ラクスには酷く気に入らなかった。
「キラ!キラはどうしていますの!?」
「キラはアスランと交戦中だ。さっきミーティア渡したろ?」
「すぐに呼び戻しなさい!!」
「・・・いいや、その必要はないようだ」
「――!?」
アンディの視線を辿ると、そこには目前にまで迫ったインモラルの姿があった。
「す、すぐに主砲を発射させなさい!」
「もういいだろうラクス。皆おまえの言うとおりに精一杯やったんだ。これはその結果だよ」
「何を言っているのです!まだ終わってはおりません!いいから主砲の照準を合わせなさい!!」
「いいから座るんだラクス。少し静かにしてもらえないかな?」
「ほら、何をしてますの!?ミサイル装填!あの肉色を粉々にするのです!!」
「ラクス。いい加減黙ってくれないかねぇ」
「あ、あなた・・・!誰に向かって言っているのです!わたくしは――」
「黙れ」
「――!?」
アンディに睨まれ、思わずラクスは言葉を引っ込めた。
そしてアンディは、インモラルのパイロット――阿部に通信を繋いだ。
「久しぶりだねぇ、阿部」
『そうだなアンディ。んで、なんでそこにいるんだい?君は女の指示に従うような男じゃないと
俺は思っていたんだけどね』
「いやなに、思うところあっての事さ」
『へぇ・・・聞かせてもらえるかい?その思うところってのをさ』
「なぁに、単純な話さ。僕はねぇ、好きになった相手の事はなんでも知りたがるタチなんだ。だから僕は
ラクスの誘いに乗って、敵である君を知ろうとしたのさ」
『ひゅう♪嬉しい事言ってくれるじゃないの。で、ご感想は?』
「いやはや全く、これほど敵に回して恐ろしいと思ったのは君が初めてだよ。おそらく僕がノンケだったら、
すぐに逃げ出しているところさ」
『いやいや、照れるじゃないの』
「さて、これで僕の目的は果たした。あとは好きなようにやるといい」
『OKアンディ。それじゃ、ゲイ・ボルグの威力をとくと味わってくれ』
「ああ、頼む。そして終わらせてくれ・・・戦争を」
そして、三隻同盟最後の戦艦エターナルも、インモラルに刺し貫かれた。

 

「いやぁ、最高だった。敵に回ってみて正解だったなぁ、ダコスタ」
「はい。こんな快楽が味わえるなら何度だって敵に回ってもいいって気になれますね」
エターナル、ブリッジ。
貫かれたノンケ達は気を失い、意識を保っているのはゲイであるアンディとダコスタ、そして女性
であるラクスだけたっだ。
「よぅし、さっさと撤収だ。ダコスタ、気絶した兵を運ぶのを手伝ってくれ」
「了解です、隊長」
そして気絶した男たちを担ぎ上げる二人。
その最中、アンディはインモラルのいた場所を睨み続けているラクスに声をかけた。
「ラクス。おまえはどうするんだ?」
「・・・・・・」
アンディの問いかけにラクスは答えない。
「・・・・・・そうか。それじゃあなラクス、世話になった」
ラクスの態度を拒絶と取り、アンディとダコスタはクルーを抱えてブリッジから出て行った。
「・・・・・・っ!!」
皆が出て行った後、ラクスは無言でコンソールを殴った。

 

『あ、あなたは!!』
「ンフフフフフフフフフ」
フリーダムのビームサーベルを受け止めたインモラルは、そのままフリーダムの元へと向かった。
『くっ!こんな重い物背負ってちゃあ――!!』
キラは素早くミーティアをパージし、インモラルにぶつけた。
「そんなモノで、俺のリビドーは止められはしない!!」
それをぶん殴って粉砕し、インモラルは再びフリーダムへと向かった。
『だったら、もっと大きな力で・・・!!』
キラはビームサーベルの出力制限装置を解除した。するとビームサーベルはその限界を超えて、
ミーティアのそれ以上の太さにまでなった。
「ほう・・・だが、このインモラルを捉えられなければ意味はないっ!!」
残像を発生させつつ超スピードでフリーダムに迫るインモラル。しかし、キラには策があった。
『だったら、これで!!』
ハイマットモードによる、フルバースト。
しかしこれはあくまでフェイク。キラの目論見は、フルバーストを避けたインモラルに対して、その隙
を狙ってサーベルを突き刺すというものだった。
残像は多数あるが、ハイマットモードのロック限界数よりは少ない。見える全てのインモラルをロック
すれば、その内の一つは回避行動を取るのは道理・・・そうキラは考えた。
『行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』
そして、斉射。ビームの光は、全てのインモラルに向かっていった。
――どれだ、どれが本物だ!?
隙を見逃さないよう、目を凝らすキラ。
しかし、そこで大きな誤算が生じた。

 

『――えっ!!?』
なんと、全てのインモラルがその身をかわしたのだ。本体は一つだけだから避けるのも一つだけ・・・
そう考えていたキラは、パニックに陥った。
『――しまった!?』
その隙がいけなかった。キラのフリーダムは、横からインモラルに組み付かれてしまった。
『くそっ!!』
慌てて振り解こうとするキラ。
――しかし信じられない事に、インモラルは右に組み付いているはずなのに、今度は左から
組み付かれた。
『え――?』
下、正面、右斜め前と、フリーダムは次々とインモラルに組み付かれて行った。
『ちょ、なんだよこれ!?どうなってんのさ!?』
「実体を持った残像、さ」
『――!?』
背後に組み付いてきたインモラルから、阿部の声が聞こえた。
『じ、実体を持った残像って・・・!?』
「良い男に不可能はないのさ」
もちろんインモラルにそんな機能は・・・ってかこの世にそんな現象はない。
これも良い男の為せる業、である。
「さてキラ・・・・・・覚悟はいいかな?」
『・・・・・・』
キラは何も言わない。己の敗北を悟ったが故、キラは言葉を失っていた。
「それじゃ遠慮なく・・・・・・フンッッ!!」
『ア ッ ー !』
長きに渡る、幾度とない戦闘の末、ついに阿部はキラを貫いた。

 
 

インモラルが去った後。
ミーティアにメタクソにやられたジャスティスは、なんとかフリーダムの元へ辿り着いた。
『キラ!キラ!!返事をしろ!!』
アスランの呼びかけに、やがてキラはこう呟いた。

 

「どうして僕は・・・・・・今まで彼を拒んでいたのだろう・・・?」

 

かくして、戦争は終わった――
パトリック、ムルタの両名は逮捕され、プラントと地球連合は和平を結んだ。
そして、戦場を駆けた戦士達は、各々の居場所に戻っていった――

 

オーブ首長国。
「うーん、っと。やっと終わったわね、ナタル」
「そうですね、艦長。このアークエンジェルも、もう働く事はないでしょう」
「そうね。私達はオーブ軍に属する事になったんだし、もうこの子は必要ないわね」
「ええ・・・少し名残惜しい気もしますが」
「そうなったら、私は艦長じゃなくなるのよね?じゃあナタルは私の事をなんて呼ぶの?」
「そ、それは・・・」
「なんだったら、マリュー姉様と呼んでもいいのよ?」
「・・・・・・それは全力でお断りします」

 

オーブ首長国、アスハ邸。
「お父様!」
「どうしたカガリ。そんなに慌てて」
「私はすごい事を発見しました!!」
「・・・・・・。嫌な予感しかせぬが言ってみろ」
「はい!砂って、要するにちっちゃな石ですよね!?」
「まぁ、そうとも言えるな・・・」
「そして石は同じ形が二つとない貴重品・・・ならばお父様!砂浜はまさに宝の山です!!」
「・・・・・・」
「これでオーブは大金持ちです!ではさっそく砂を集めてきます!!」
「・・・・・・」
「ウズミ様、ハンカチを・・・」
「すまんなキサカ・・・」

 

オーブ首長国、秘密の地下室。
「さてキラ、世界で一番美しい者は誰ですか?」
「・・・・・・・・・・・・。ラクスさんです」
「そう・・・・・・ハロ?」
『ウソ!ウソ!イチバンウツクシイ、アベ!アベタカカズ!!』
「あらあらいけませんわねキラ。ウソを吐いては・・・ぽちっとな♪」
ビリビリビリ~
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ふふっ、キラ・・・・・・わたくしがあなたを正常に戻して差し上げますわ♪」
「誰か・・・・・・ボスケテ・・・」

 

プラント周辺空域、ヴェサリウス。
「諸君、では恒例の哨戒任務だ。各員、気を抜くなよ?」
『了解!アスラン・ザラ、ゲイツ出るっ!』
『イザーク・ジュール、デュエル出るぞ!!』
『ニコル・アマルフィ、ブリッツ行きます!』
『ディアッカ・エルスマン、バスター行くぜ!!』
ちなみに何故アスランがゲイツに乗っているのかというと――
~回想~
「キラ!大丈夫かキラ!!」
『あ、アスラン・・・?』
「阿部に貫かれたんだなキラ・・・・・・ならば俺と――」
バキッ!
「な、何をするんだキラ!?おまえは阿部に貫かれたのだろう!?なら俺と一緒に
来てくれてもいいはずじゃないか!!」
『うるさいっ!ノンケが女だからとはいえピザデブに惚れるものか!おまえはこのキラにとってのピザデブ
なんだよアスランッ!!』
「ちょっ、やめっ、キラ――」
『君が!死ぬまで!殴るのを!やめないッ!!』
こうして、ジャスティスガンダムは大破した。
~回想終わり~
「さて、あの男はどうしているかな――」
ヴェサリウスには、阿部の姿はなかった。
戦争終結と同時に、彼は皆の前から姿を消したのだ。
「まぁ、あの男の事だからやる事は一つだとは思うがね・・・」

 
 
 

東洋に浮かぶ、小さな島国。
トイレを探し歩く青年の姿を、ベンチに座る男は見つめていた。
そして彼と目が合うと、男はつなぎのジッパーを下ろして彼にこう言った。

 

「や ら な い か」

 
 

――fin

 
 

(続編)Destiny