C.E.71 アークエンジェル、クサナギがオーブを離脱した頃。 宇宙ではもうひとつのドラマが動いていた。
それはヘリオポリスで造られたレッド、ブルー、ゴールドの三機の『ASTRAY』に導かれたロウ・ギュール、叢雲劾、ロンド・ギナ・サハクから始まった闘い。
その闘いは王道なのか……『ASTRAY』のように王道を外れているのか……。
ブルーフレームの介入により戦闘能力を削がれたゴールドのセンサーは憎らしげにレッドを見据えていた。ギナの心にはロウと劾の言葉が過ぎる。
バカな……右腕が動かなかった?(オレにはわかる、ゴールドの悲しみがな!!)
メカの悲しみ?(Gのパーツだってそうだ!! 破壊のためなんかじゃねぇ)
……ありえん この私が負けた?(コイツらは平和の為に闘って傷ついたはずだ。それが破壊を望むなんて絶対に無ぇ!!)
下賎なジャンク屋や傭兵ごときに?(世界ってのはそこに生きてる一人一人が頑張って作り上げるもんだ!!そいつら無視して、何が作れるってんだよっ!!)
(俺はロウの様にメカの事は詳しくはない、……だがお前の機体から機体自身の力を感じない)
ギナは左腕がまだ動く事を確認すると、ゆっくりとビームライフルをレッドフレームに向ける。
「ありえんな……ジャンク屋ごときに、傭兵ごときに私が負けるなど!!」
ギナは邪悪に満ちた笑みを浮かべるとビームを放つ。
それに気付いたロウは回避しようとするが遅かった。放たれたビームは振り返ったレッドのコックピットを捉らえていた。
「く、しまった!!」
「ロウ!!」
だが、レッドにビームが直撃する事はなかった。
直撃する寸前に何かが光り輝く。それは折れたガーベラの切っ先がギナの放った一撃を受け止めた光であった。
だがその瞬間、光は消える事なく、大きく溢れ出す。
「な、なんだ!?この光は!おい、8」
コックピット内でロウは8に聞く。だが8に表示されたのは 「わからん!!」の一言だけだった。 次第にその光はブルー、ゴールドをも包み込んでいく。
「なんだ……これは!!」
「この光は--」
三機のMSを包み込んだ光は次第に収束し、離散する。
だが、残った宇宙空間に三機のMSと男達の姿はなかった。
光は何だったのか……。『ASTRAY』と男達は何処に消えたのか……。
それは新たな『ASTRAY』の旅の幕開けを意味していた。
…………
次元空間内
「未確認の魔力光反応を確認、場所は……ブリッジです!」
艦橋に響くサイレン。ここは時空航行艦「アースラ」。
今、この艦のブリッジは騒然としている。 何故なら突如として艦内の艦橋に渦巻く光が出現したのだった。
「何なのこの光……?」
光を前に慣れた手つきで局員に指示を出していた女性はこの船の艦長、リンディ・ハラオウン。
「この反応は……魔力。」
リンディの横でつぶやく少年は執務官でありリンディの息子でもあるクロノ・ハラオウンである。
彼も念の為に自分のデバイスであるS2U3を片手に携えている。
だが、次第にリンディ達の目の前で渦巻いていた光は次第に集束し、離散していく。
光が消えた後に現れたのは黄色いジャケットに動き易そうな服装を着、髪を立てた男が気を失って倒れていた。
予想外の出来事に二人は驚いていたが、リンディは男の手元に落ちていたチェーンのついた手の平サイズのトランクを見遣る。
あれは……、デバイス?
…………
同時刻、高次元空間『時の庭園』。
ここにも『アースラ』と同様に突如として渦巻く光が玉座の前で発生していた。
その光を目の前に黒い長髪と黒い喪服のようなドレスを着た女性が訝しげにそれを見据えていた。その女性の名はプレシア・テスタロッサ。
だが、次第に光は集束して離散する。するとそこには二人の男が気を失い、倒れていた。
一人は深いオレンジ色のサングラスを掛け、白い軍服のような服を纏った男。
もう一人は黒いツヤのある長髪に黒衣を纏った男。
普段なら気にも止めない彼女であったがプレシアはこの二人の男から感じる異様な程の魔力の高さに驚きを見せていた。
何……この魔力の高さは?あの子と同等……いや……。
プレシアは目の前で倒れている二人の男と自ら生み出した娘のクローンを比較する。が、そこで彼女は二人の男の手元にある羽の生えた水色の蛇の形をした物と黒を基調にした金の縁のカードの形をした手の平サイズの二つのキーホルダーのようなものに気付き、拾う。
彼女はそれが何か直ぐに理解した。
これは……デバイス。
それは海鳴市において、白と黒の魔導師が初めて互いを知り、デバイスを交えて闘ったのと同時刻に起きた出来事であった。
そしてこれより『ASTRAY』に導かれた男達は新たな世界で相対し信念をぶつける事となる。