RA_第01話

Last-modified: 2007-11-18 (日) 15:46:00

「ん……あれ?」

 まどろみの中、ロウはベットの上で眼を覚ます。まず彼の眼に映ったのは白い天井だった。

「あら、気が付いた?」

 声をかけられ部屋の入口を見遣ると水色の髪をポニーテールで纏め、大人の気品とどこかあどけなさを残す女性と男の子が立っていた。
何がどうなっているのか整理出来ずにロウは声をかける。

「あ、アンタらはいったい……?」

「私はリンディ・ハラウオン。時空管理局提督でこの巡航艦アースラの艦長をしています。 でこっちが私の息子の--」
「クロノ・ハラウオンだ。同じく時空管理局の執務官をしている。」
ロウにとってそれは初めて聞く組織名であった、時空管理局?制服を見る限り連合やザフトじゃないのは確かだ。
ならオーブか?いやオーブとも違う。

「それで、貴方の名前を聞かせてもらえるかしら?」

 ロウが考え込む中、自分達の自己紹介を済ませたリンディは彼を見遣ってから、にこりと微笑んで尋ねる。
ロウも「ああ、そうだな……」と答えてから自らの名前を名乗る。
「俺はジャンク屋ギルドのロウ・ギュールだ、よろしくな。 ところで聞きたいんだけど今はC.E.何年なんだ?それにアンタらの制服を見る限り、ここは連合やオーブじゃないよな?」
 だが逆にその組織名や年号もリンディとクロノにとっても初めて聞くものであった。C.E.、連合、オーブ。 ただ彼の話から解るのはギルド(組合)という名の意味と彼が別次元から飛ばされてきたんだという事。

「C.E.……それはロウ君が居た世界の年号ね。でも貴方が今居るのは貴方の世界じゃないわ……」

ロウは咄嗟に「嘘だろ……」と考えるがリンディやクロノの真剣な眼差しを見て事実なんだと確信する。
じいちゃん言ってたもんな……本当の事や嘘を言ってる人は眼を見りゃ解るって。

「今から僕達の言う事に驚くと思うけど聞いてくれるかな?」
 クロノのその言葉にロウは神妙な面持ちで「ああ」と答える。
 そこでリンディとクロノがロウに話したのは今ロウや自分達が居るのは次元空間の事、そして自分達は魔法を使う事、失われた世界の危険な技術の遺産であるロストギアの事、そして今このアースラはそのロストギアを捜索している最中の事を話した。

「おいおい、マジかよ……」

無理も無い、ロウからすれば魔法や異次元なんて言葉は樹里がよく自分に聞かせたお伽話やSF映画の中だけだと思ってたからだ。
しかも失われた世界の危険な技術の遺産とか厄介代物を探しているとか。

「嘘の様に聞こえるかもしれないけどこれは事実よ……ね、クロノ?」

リンディがクロノを呼び掛けるとクロノはそれの意を汲み取り、自分のデバイスをロウに見せる。

「これはデバイスと言って僕ら魔導師にとっては大切な相棒なんだ。 見てもらった方が早いかも知れないから、よく見ていてくれ」
なんだ?カード……?
「S2U」『Standby、OK』

とクロノの声に答えた瞬間、カードは一瞬で槍の様な杖に姿を変えた。

「これで解ってくれたかしら?」
 ロウは唖然としながらも「あ、ああ」と答える。

本当にこんなのお伽話の中だけだと思ってたけど……本当に俺、別世界に飛ばされたんだな。 それにあのデバイスって言うの……なかなかイカすデザインしてるな。

 そう思ったロウは勢いよく自分の顔を自分の手でバシっと叩き、気合いを入れる。

「よっしゃあ♪ ここまで見せられちゃ信じないわけにゃいかねーな♪信じるぜ、リンディ艦長さんにクロノ♪」

ビッと親指を立ててそう言うロウの明るさにリンディはくすくすと笑い、クロノは「楽天家だなぁ」と感じながら苦笑いを浮かべてしまう。
そこでリンディはある事を思い出す。

「あとロウ君、ちょっと聞きたいんだけど。貴方がここに現れた時、貴方の手元にデバイスが落ちていたの。見覚えある?」

そう言い、リンディがロウに見せたのはトランク型のデバイスだった。
するとトランクのディスプレイの部分に『生きてたか?私はいたって元気だ』と表示される。

「見覚えはあるぜ。そいつは俺の相棒……なんだけど、お前ってデバイスだったっけ?」『気付いたら縮んでた』

「それにしても貴方のデバイスは珍しいわね……。」

リンディのその言葉に「そうなのか?」と聞き返すとクロノが説明する。

「うん、それほど表情豊かなデバイスは今までに見た事がないからね。」

「へぇ~。お前って珍しい存在だったんだな?」『やっと、私の希少価値に気付いたのかお前は。』

そのやり取りをみたリンディはロウにある提案をする。

「ロウ君、一度貴方のデバイスを起動して見せてくれないかしら?」
「でも俺、起動の仕方解らねぇけど……」

「なら、貴方が知ってる自分自身に関連する言葉を言ってみるといいわ。」

 リンディにそう言われ、ロウはベットから降りると眼をつぶる、そして頭の中にいろんな関連する名を並べていく。

キサト、やかん、リーアム、プロフェッサー、ジョージ、レッド、ジャンク屋ギルド……いや違う。やっぱり……。

ロウの中で一つの言葉が弾き出される。 それは……

「いくぜ、8!!」『ガッテンだ』

その名に反応した8『トランク型デバイス』は光り輝き、ロウを包み込む。

「な、なあ!?後はどうせればいいんだ?」
「自分の想いえがくバリアジャケットを考えてみるんだ、ロウ」

「な、なんだそのバリアって?」

「騎士服の事だ。」

クロノにそう指示されたロウは自分の思考の中に騎士服を想いえがく。 ロウの頭に出たのはレッドフレーム。
すると光は消えていき、そこから現れたロウは白を基調とした服に赤い炎の模様が彩られたものだった。 そしてトランク型デバイスはガーベラストレート(日本刀)に変化し、ロウの腰に携えられている。

「これが……バリアントジャケットか。ガーベラまで付いてやがる……。」

「恐らくその刀が今貴方が持ってたトランク型デバイスが変化したものよ。」

「へぇ。コイツぁすげーな♪ははっ」

「あと、貴方に話しておかなければならない事があるの。」

そしてそこでリンディは真剣な表情を見せる。そこからロウは彼女が言いたい事を理解する。

「多分、俺が居た世界が見つからないって言いたいんだろ?リンディ艦長」

そう言いあてられリンディは一瞬キョトンとするが直ぐに「ええ」と頷く。

「けど見つかり次第、君を送るようにする、約束するよ。」

 クロノのその言葉にロウは「悪ぃな」と答える。と同時にロウの思考にはひとつの選択が残されていた。それは
「なぁ、アンタらの探してるロストギア……だったっけか?俺もそれ探すの手伝わせてくんねぇかな、ただ元いた場所探してもらってのんびりしてるなんて。
それに下手したら関係ないもん全部壊しちまうようなヤバイもんジャンク屋としてほっとけねぇ。頼むよクロノ、リンディ艦長。」

 手を合わせて頭を下げるロウにクロノは即座に却下する。

「駄目だ、民間人である君に手伝わせるなんて--」
「わかりました、許可します。」

リンディの即決に「やったぜ♪」と喜ぶロウ。とは反対にクロノは直ぐに「母さ--艦長!」とリンディを諌める。だがリンディはそれにニコリと微笑み、答える。

「ロストギアと二人の魔導師の捜索は大変だし、今のところ人員は必要でしょ?クロノ。」

「ですが!!……いえ、はい。」

クロノはリンディの笑顔にこれ以上何を言っても駄目だと感じてうなだれるように頷く。
「ではロウ・ギュール。貴方の申し出は一時、臨時局員の扱いとします。条件としては、こちらの指示を必ず守ってもらいます。良くって?」

「おう、ありがとな♪リンディ艦長、それにクロノ。改めてこれからよろしくな」

ニパッと先程よりも華やかな笑顔を見せてロウはリンディとクロノに握手を求める。 どんな状況に陥っても明るさを燈しつづけるロウに少し疑問を持ったクロノは彼に尋ねる。

「帰れないかもしれないのに明るいね君は。」
「まぁ、そうだけどな。でもだからって絶対って確率は誰にも証明できねえ……だから、俺は一度もマイナスに考えた事はねぇ。それに--」

「それに?」

「俺の悪運は最強だからな♪」

そんなロウの台詞を聞き、つい笑い声をこぼしてしまったリンディはロウの握手に答える。

「ふふふ♪ なんだか凄い人ね、ロウ君は。 では改めてよろしくね♪」
「本当に凄い奴だね君は……」

クロノもそんなロウに呆れながらも彼の握手に応じる。

こうして宇宙一のジャンク屋ロウ・ギュールは時空管理局に居座る事になったのであった。

「ところでジャケットってどう脱ぐんだ?」『解除したいって考えろ』