RA_第02話

Last-modified: 2007-11-18 (日) 15:46:48

「信じがたい話だな……」
『アースラ』にてロウ・ギュールが目覚めた翌日。
 高次元空間『時の庭園』において叢雲劾が目覚めていた。そしていま劾は玉座の間にて玉座に座るプレシア・T・テスタロッサから話を聞いたところであった。
 自分はある光とともにこの高次元空間にやってきた事、そして彼女達は魔法を使う事、失われた世界の技術の遺産であるロストギア・ジュエルシードの事、
アルハザードの事、そして今彼女は失った娘を蘇らせるためにジュエルシードが必要な事、娘のクローンにそのジュエルシードを捜索させている最中の事。
しかし、劾にとっては容易に理解できるレベルの話では無かった。
異世界に飛ばされる、魔法を使う、失われた世界の危険な技術の遺産を集めて死んだ娘を助ける。どれもお伽話のようにしか聞こえない

バカげた話だ……、死んだ人間など、生き返りはしない……。

信じていないという表情で自分を見据える劾にプレシアは不敵な笑みを浮かべてある男の名前を呼ぶ。

「この男に見せてあげて頂戴。貴方がこの世界で手にした力を……」

「……?」

するとプレシアの座している玉座の後ろから黒衣を纏った長髪の男が彼女の声に応えて劾の前に姿を見せる。
劾は見覚えがあった。
この男のソキウスと闘った時。
ロウと共に闘った時。

劾の脳裏にはこの男とその機体ゴールドフレームとの闘いが想いだされる。

「お前は……ロンド・ギナ・サハク」

するとギナと呼ばれた長髪の男は忌ま忌ましげな眼で劾を見遣る。

「ふん……生きていたか傭兵。 お前には死んでいてほしかったな……。」

「お前もか……」

「ふん、そういう事だ。 私は彼女にサポートを頼まれていてな。……さて、プレシアの頼みだ……よく見ていろ、傭兵」

そう言い放つとギナはゴールドの縁の黒いカードを取り出す。
黒いカードの真ん中のオーブ軍章が劾の眼に映る。

「アマツ」『御心のままに(田村ゆかり低音ボイス)』

カードから発せられた声とともにギナの身体は黒い光に包まれるが。直ぐにその黒い光は消える。

そして黒い光の後から現れたギナは黒を基調に黄金で彩られた鎧の上からマントを着込む姿であった。
彼の右手にはデバイスが変化したトリケロス改が輝いていた。
それを見た劾の表情は崩してはいなかったが内心は驚いていた。

この女が言っているのは……どうやら、本当の事のようだな。

「解ってくれたかしら……?今貴方とギナが居るのはこういう世界だと。」

そんな劾の心を汲み取るかのようにプレシアは立ち上がり劾に歩みよる。

「……?」
そこでプレシアはある物を劾に手渡す。

なんだ……?これはサーペントテールの……。

「これは貴方が気絶していた時に貴方の手元にあったデバイスよ……。それに貴方自身に関連する名を呼んでみて。」
デバイスとはあの男が持っていたカードか。俺に関連する名……?
劾の脳裏には様々な名が浮かんでくる。

イライジャ、風花、リード、ロレッタ、ロウ……いや違う……なら。

「2ndL」『YES SER,STANDBY OK(中田譲治ボイス)』

劾の声に答えるとデバイスは蒼い光を放ち、劾の身体を包んでいく。
そして光が消えると白を基調とし蒼色の線が入り、それは一陣の風を思わせるバリアジャケットであった。
劾の背中にはデバイスが変化したタクティカルアームズが羽のように折りたたまれていた。

「これが俺のデバイス、魔法か……」

それを見ていたギナは変身を解き、プレシアに「ふん、私は傀儡兵へのサポートへ戻る」と言い残し、その場から立ち去る。
それからプレシアは眼の前の劾にある提案を持ち掛ける。

「さて、信じてくれたかしら叢雲劾?」

「此処まで見れば信じざるをおえないな。」
「そこで貴方に頼みがあるの。 ジュエルシードの回収とフェイトの援護をしてもらいたいの。」

「ほう……だが、そう簡単に受ける訳にはいかないな。」

と劾がプレシアの提案を拒むとプレシアは劾をギロリと睨む。
だが、次に劾の口から出たのは考えもしなかった言葉であった。

「……状況は理解した。が、起きた時に言ったように俺は傭兵だ。報酬の無い依頼は受け付けていない……」

と言うとプレシアはフッと怪しげな笑みを浮かべてそれに答える。

「なら貴方のいた世界の事が解れば貴方を元の世界に戻してあげる……それを報酬とするわ。」

彼女のその言葉に劾は少し考えてから「良いだろう。」と答える。だが

「それと……俺を雇うなら条件がある。」

「条件……?」

繋げて言う劾にプレシアは「まだ言う事があるの?」と訝しげに尋ねる。

「雇った以上は余計な手出しは無用だ、任された以上は俺に託してもらう。良いな?」

「ずいぶん強気なのね? 魔法の使い方も解らないはずよ……?」

だが劾はプレシアにとって思ってもなかった事を言う。

「先程のデバイスでの変身で大方の事は理解した。……恐らくは自分の想いえがく攻撃をデバイスで繰り出せば良いのだろう?」

プレシアは表情を崩さなかったが心の中では劾の態度に脅威を抱く。

何故ここまでこの男は冷静でいられるのか……。

プレシアにはその態度は高い魔力に比例しているようにも感じた。が、すぐにそれを振り払う。

「なら、その自信……見せて貰うわ。」

…………

二人は時の庭園内にある模擬室に場所を変える。
内容はこうだ。
今からプレシアがAクラスの傀儡兵を二十体ほど繰り出す。劾はただそれを撃てば良いというものであった。
そして劾はバリアジャケットのまま模擬室に立つ。

「まず、一体だけ出すわ」
「ああ。」

そう劾が頷くと劾の足元から中世欧州の歩兵を想わせる傀儡兵が右手に剣を左手に盾を掲げて現れる。
そして頭部が朱く光った瞬間、傀儡兵は剣を劾に振りかざす。
だが、劾は避けようともしなかった。

避けないつもり……?

プレシアがそう思った瞬間、傀儡兵は剣を劾に向けたまま、すれ違うように音をたてて倒れ込む。
傀儡兵を見遣ると頭部にはナイフが差し込まれいた。劾は差し込まれていたナイフをゆっくり抜きとる。

 彼は剣が振り下ろされる寸前に背中のタクティカルアームズからアーマーシュナイダーに変化させていたのであった。
そして彼は少し遠くでこちらを見遣るプレシアに眼鏡をクイと上げながら言い放つ。

「兵を出すなら一気に出す方が良いな……。一体ずつだとお前の出す傀儡兵では絶対に俺は倒せない。」

やはり、こういう仕組みか……。

劾は自分の推測した通りに魔法が出せた事に少しながら満足していた。
一方、プレシアは劾の動きを想い出しては頭の中で繰り返していた。

確かに魔力も高い、動きも鈍くないわ……むしろ、あの子と同じくらい速い。けどそれだけじゃ駄目……。
「そう……なら、貴方の望みどうりにしてあげるわ……。」

プレシアがそう言った瞬間、九体の傀儡兵が劾の眼の前に現れる。先程倒した歩兵、双斧を手に持つ大きなもの、羽をはばたかせ空を舞うものなど様々であった。
そして傀儡兵達は一斉に劾に襲い掛かる。

九体か……フルウェポンを使うまでもないな。

次々に飛び掛かる剣、槍、斧等、傀儡兵の攻撃を避けながら、そう考えた劾はアーマーシュナイダーを掲げる。

「2ndL、タクティカルアームズだ」『STANDBY OK』

瞬時にアーマーシュナイダーはタクティカルアームズに展開し。
劾はそのままタクティカルアームズを両手に握り、傀儡兵を縦や横に切り捨てていく。
そして九体全て切り倒した時。劾は背後から異様な気を感じ振り返る。
そこには十体目の傀儡兵が剣を鞘に納めたまま柄に手を添えて構えて赤い光をこちらに向けていた。

その構えから劾はレッドフレームを扱う、ある男の事を思い出す。

最強の悪運を持つ宇宙一のジャンク屋ロウ・ギュール。 それは彼の自称ではあるが劾自身も彼の事は認めている。
そういえば、アイツもあの光に巻き込まれていた。ならロウもこちらの世界に来ているのだろうか……。

いや、考えるのはコイツを倒してからだ……。

そう考えた劾は改めて傀儡兵に向き直る。

こいつは今まで倒した九体の傀儡兵とは違い、隙が無い……だが。
劾が呼吸したその瞬間、傀儡兵は鞘から剣を一気に抜く。が、剣は抜ききられる事はなかった。気付けば傀儡兵は二つに崩れ落ちる。

「確かに隙はない……が、ロウの足元にも及ばない。」

だが、傀儡兵はこれで最後ではない。まだ、十もの赤い光が劾を見据えている。

面倒だな……なら。

そう考えていると傀儡兵達は劾を目掛けて走りだす。
「2ndL、ローエングリンランチャー出力50%」『CHARGE SET,UP』
劾はタクティカルアームズを大型の砲台に変化させ装填完了を待つ。
次第に傀儡兵達は劾の至近距離まで近づいてくる。
そしてチャージが完了する。

『STANDBY OK』「……発射!!」

2ndLからは青白い光が膨れ上がり、一気に放出され。傀儡兵をあっという間に包み込んでいく。
ローエングリンの光が消えた後の模擬室に残っていたのは劾とプレシアだけであった。
そして劾はプレシアに言い放つ。

「これで満足か?」

「……ええ、充分よ。後で貴方に転送魔法を教えるわ。 それで直ぐにフェイトの後を追ってもらうわ。」

「了解した。」

プレシアは改めて劾の魔力に驚いていた。
それは今、彼が放った攻撃魔法にでもあるが、速さに見合った臨機応変の攻撃。それらの行動から彼の経験深さも感じられた。
この男の協力があればアルハザードへより速く行けるかもしれない。
時間の無いプレシアはそう確信した。

だが、その時。それを陰からある人影が二人を見据えていた。

「十体目に私が改良した傀儡兵を交ぜておいたが……あの傭兵め。 やはりソキウスの技術を組み込んだほうが良いかもしれんな……。」

しかし、失われた世界の技術の遺産『ジュエルシード』か、それがあれば私も……。

それは、その男の……。闇の胎動が始まった瞬間であった。