SCA-Seed傭兵 ◆WV8ZgR8.FM 氏_古城の傭兵(仮)_第06話

Last-modified: 2009-06-01 (月) 23:26:09

プラント首都、アプリリウス市周辺宙域。
ジャンク屋組合の進入が禁じられ、プラントに接触する恐れがあるデブリのみが取り除かれるようになり、
それ以外は放置されることによって、大量のデブリが漂うようになった宙域。
デブリの隙間を縫うように航行する小型艇が一隻。
大きさはメビウスほどだろうか。ずいぶんと古い型にも関わらず、
完璧な整備が施されたその小型艇はすいすいと進んでいく。

 

「……とても型落ちとは思えんな……シン、やはり腕は落ちていないな」
「ええ……それが仕事ですから」
絶え間なくコンソールを操作し船体をコンロールするシンが、イザークの言葉に答える。
それに、とシンが再び口を開く。
「これを整備した人たちも、自分達の仕事に誇りをもっていますから」

 

――今のザフトとは違って。

 

そう言葉を締めるシン。
イザークは溜息をつく。
「確かにそうだな……俺達の頃もそんなにあったとは言えないが、今は、な……」
自分の役職に対する理不尽な不満からの怠慢、怠業が頻発する今のザフトを
間近で見てきたイザークにとって、シンの言葉は耳に痛かった。
『俺の実力ならもっと強い機体が来てもいいはずだ』
『弱い奴の下でなんか戦えるか』
などと口汚く喚き、暴れ、サボる他の隊の隊員を見た回数など両手両足の指を使っても足りるかどうか。
思い出したことにより再び襲い掛かってきた神経性の頭痛に、頭を抱えこむイザーク。
仕事仕事で手入れが成されていない銀色の髪が揺れた。

 

「シン、お取り込み中のところ悪いんだけどな……お客さんだ」
シンの横の座席でウィンドウを睨み付けていたディアッカが言う。
その声にシンが目を向けると、睨み付けていたウィンドウに赤い光点が煌いていた。
「グゥレィト……流石に節穴ばかりって訳じゃないみたいだな」
「みたいですね……加速します。ベルトをしっかり締めておいてください」
ディアッカの呟きにシンが淡々と返し、手元のキーボードに備え付けられたスイッチを押し込む。
一拍遅れてスラスター光を派手に散らしながら船体が急加速し、
それまでのに倍以上のGが三人に叩きつけられる。
レーダーの肩代わりを勤めるウィンドウにきらめいていた三つの光点があっと言う間に下降し、
画面上から消え去った。

 

「お、うぉぉぉっ!?」
シートベルトを締めるのが一瞬遅れたイザークが、大きく仰け反る。
「大丈夫かイザーク?……にしても流石だな。もう反応が……ッ!?」
「……追い付いてくるのか」
一時は画面外へと姿を消した光点が先ほどを上回る速度で画面を上昇し、中央の光点――
――この小型艇へと迫る。
ディアッカの表情が驚愕に歪み、シンが苛立ちを込めながらはき捨てる。

 

『そこの所属不明艦! 停止しろ!』
ニュートロンジャマーが機能していない宙域のためか、通信機が明瞭な濁声で喚いた。
更に、船体の真横に回りこんだその機体が、止まれというボディランゲージを示す。
サイドモニターに映ったその機体を見て、ディアッカが息を呑んだ。
「……よりにもよってノミザクか……厄介だな」
「ノミだと?」
呻くように言ったディアッカに、頭上に疑問符を浮かべたイザークが聞く。
イザークの座席からは丁度死角になる位置にモニターがあるため、全く見えないのだ。
シートベルトを外し、身を乗り出すイザーク。

 

「フリーダムウィザードを装備したザクウォーリア……騎士団の機体か」
「ああ、そうだ……フリーザクってな」
「フリーザク……ああ、それでノミか」

 

フリーダムウィザード。
“新世界の英雄(かみ)”“永久の自由の守り手”“寝取り王子”キラ・ヤマトのかつての愛機フリーダムの
実戦データを元に各開発局を取り込んだクライン派の“ファクトリー”が製作した新型のウィザード。
フリーダムを模した灰色の翼とそれに備えられた多数の砲口を持ち、
モノアイでは賄いきれなかった情報収集の為に専用の頭部を持ったザク。
カメラアイが複眼のような外観をしていることや前方に垂らされた動力ケーブル、
名前の響きから地球連合などからは「FLEA(ノミ)ザク」と呼ばれる機体。
圧倒的な火力と劣悪な汎用性、整備性にピーキーな操縦性で
ロールアウトから僅か二週間で地球圏にその名を轟かせた。
因みにメディアなどでの正式名称は

 

「絶対的な自由とともに恒久的な平和をもたらしすべての人々を無限の安息へと導くザク」。

 

命名は現ザフト軍終身最高司令官兼プラント議長補佐官長兼地球圏守護騎士団司令兼ザフト軍特別部隊歌姫の騎士団団長、キラ・ヤマトが行った。

 

それが三機、小型艇を取り囲むように陣形を組んでいた。

 

「厄介だな……フルバーストが直撃すればこの船なんか一たまりも無いぞ……シン?」
「わかってます……でも、まだプラントの領空内です。ボギーワンと接触するまで、
 いや、せめて領空を脱しない限りは……」
よく分からない言葉の乱舞にイザークが混乱しているが、二人は意にも介さず会話を続ける。
この小型艇には武装がついていない。故に反撃もできず逃げ回るしか出来ない。
そんな内容の言葉が飛び交い、聞き耳を立てるイザークの混乱の度合いが加速度的に増していった。

 

『停止しろといっているのが分からねえのか! 停止しろ!
 お前達の船には脱走兵が搭乗している可能性がある! 止まらないと撃つぞ!』
小型艇の登場者――シンとディアッカに無視され続け、
より高圧的になっていくノミザクのパイロットの濁声。
砲口の変形を繰り返し、脅しをかけるが、二人には殆ど無視されている。
『止まれって言ってんだろこの犯罪者が! 止まらんと殺すぞゴラァ!』
怒りに伴って段々と化けの皮が剥れ、口汚く喚きだすノミザクのパイロット。
その耳障りな怒声にいい加減頭に来たのか、イザークが再び前の座席に身を乗り出した。
通信機のマイクを乱暴に鷲摑み、口元へ近づける。
気づいたシンが「あ」と呆けた声を上げ、いやな予感にディアッカが耳を塞いだが、イザークは気にしない。
大きく息を吸い込み、そして、

 

「やかましいッ! 仮にも軍属ならば口を慎め馬鹿者がァッ!
 それとも大口を叩かなければ虚勢もはれぬキョシヌケか貴様らはッ!」

 

60デシベルを超える大声で、一喝した。
マイクの金属部分が激しく振動し、ビリビリという音を上げる。
共振したモニターにひびが入った。
耳を塞ぎ損ねたシンの意識が吹き飛び、コンソールに崩れ落ちる。
ぎょっとして慌ててシンを起こしたディアッカがコンソールを操作するが、
それでも船体の制御が一時的に利かなくなり、船体が大きく揺れた。

 

そしてそれはノミザクのパイロット達も同じだったのだろう。
いや、レシーバーで増幅された音を直に鼓膜に叩き込まれた分だけ酷かったのかもしれない。
酔っ払ったように動き、まともな動きをしていない。
方位陣形はぐしゃぐしゃに崩れていた。

 

「起きろシン! いまなら行ける!」
「……ふえ?……あ、はい!」
崩れた包囲を見逃さなかったディアッカの往復ビンタに意識を取り戻したシンが、
慌ててコンソールを操作する。
コントロールを取り戻した小型艇が、酔っ払った蝿のように動き続けるノミザクの間をすり抜ける。

 

『ま、待てこら! 今の声間違いなくイザーク・ジュールだな!』
かなり遅れて機体のコントロールを取り戻したノミザク三機が喚きながら追跡を再開する。
完全には回復していないのか、よたよたとした動きだったが。

 

「イザーク、なんで叫ぶんだよ! お前が乗ってるって気づかれたぞ!」
「あのまま黙っている等、俺にはできん!」
「……二人とも静かにしてください!」
口論を始めた二人に、機体のコントロールに集中していたシンが怒鳴る。
と、後方のノミザクが放ったレールガンが、小型艇の斜め前にあったデブリに着弾した。
微塵に砕けたデブリの欠片が小型艇の装甲に当たる甲高い音が船内に響き、
イザークとディアッカが口を噤んだ。

 

『止まれ止まれ止まれ! 次は当てるぞ!』
「……当てるだけの実力なんか、無いくせにィッ!」
通信機越しに喚き散らすノミザクのパイロットにシンが吐き捨て、船体を左にローリングさせる。
一直線に迫ってきた緑色の閃光が船体の側面を掠め、ビーム粒子がビシビシと焦げ目を付けた。
舌打ちとともにシンがコンソールを叩き、船体の後部に設置された追加ブースターが青い炎を噴き出し、
速度が更に増す。
「ディアッカさん! あとどれ位で……」
「少し待ってくれ……あと十八だ!」

 

――領空脱出までの時間。
これを耐え切れば、勝ったようなものだ。

 

だが、ノミザク達も加速を繰り返し追い縋る。
後ろの二機がウイングを展開し、ハイマットフルバーストの態勢に入る。
「十七……十六……シン! フルバーストが来るぞ!」
「なんとか躱します! しっかり掴まっててください!」
焦ったディアッカの言葉にシンが返し、コンソールを激しく連打する。
船体の各所からスラスター光が閃き、滑らかに動いた。

 

『落ちろ犯罪者!』
『死ね裏切り者!』

 

怒号とともに二機のノミザクから七色の光線が放たれる。
が、片方はFCSに異常があったのかそれともパイロットの腕が悪かったのかあらぬ方向に飛んで行く。
やがて遥か彼方の輸送船の残骸に直撃し、赤い爆光が輝いた。
遠方とはいえ何かに引火したのか派手に閃いた爆発の光に、ディアッカの側のモニターに焼け付きが起こる。
「シン!」
「……喰らってたまるかぁっ!」
シンの叫びと共に船体が大きく跳ね上がり、後方から迫ってきた七色の光線を回避する。
もしその七色光線がまともな射線で迫ってきたのなら完全に回避が行える軌道。
しかし、それを撃ったパイロットはまともなパイロットではなかった。
九割は直近を通り過ぎたが、偶然にも一つのビームが追加ブースターを貫く。
貫かれたブースターは一瞬火花を上げ、その後に爆発する。
後部で起きた爆発に船体が大きく揺れ、コントロールがシンの手を離れた。
「うぁ!?」
「何だと!?」
シンとイザークの悲鳴が重なる。
衝撃に身を震わせながらも数秒の後にコントロールを取り戻すが、その速度は大きく減退していた。
焼け付きが収まったディアッカの傍のウィンドウに表示されている光点が急速に迫り、
今度こそ追いつかれた。

 

『よし、停止しろ! 変な動きを見せたら……』
『隊長……犯罪者に情けをかける必要なんかないだろ?』
『とっとと殺せよ……ラクス様の放送に間に合わないだろ』
先ほどを繰り返すように小型艇を包囲した三機が、なんとも身勝手な発言を繰り返す。
完全に周りを固められ、身動きが取れなくなった小型艇の中で、シンが歯噛みした。

 

「万事休すか……」
「非グレィトォ……だな」
「ここまで、だと……」
三者三様の呻きを漏らし、沈黙する三人。
正面モニターに、ウイングを展開しハイマットフルバーストの態勢に入ったノミザクの姿が映る。

 

『……あばよ、犯罪者』
正面のノミザクのパイロットが、嘲りを込めトリガーに指を掛ける。
そして、その指に少しずつ力を込め――

 
 

轟音が、デブリだらけの宙域に轟いた。

 
 

「……なんだ?」
死を覚悟し、眼を閉じていたシンが、何も起こらないことに疑問を抱き目を開く。
その顔が驚愕に歪み、一瞬後、口角が吊り上った。

 

正面のモニターに、巨大なデブリに胴体を押し潰されたノミザクが映っていた。

 

「……は?」
「……どういうことだ、あれは」
シンの呟きに気がついたのか、同じく目を閉じていたディアッカとイザークが呆けた声を漏らす。

 

『ちょ、どうなってやが――』
隊長機の惨状に気づいた二機の片割れが、言葉を中途半端に途切れさせる。

 

遥か彼方から飛来したデブリが、そのコクピットに丁度突き刺さっていた。

 

先端が偶然にも鋭利に尖っていたデブリは、コクピット正面の装甲から
背部のウィザードまでを貫通している。
バッテリーを破壊されて誘爆を引き起こし、花火のような光が巻き起こった・

 

『……え、えぇ? なんで、何でこうなるの? ラクスさ――』
三機目も飛来した砲弾のようなデブリの餌食となる。
小さなものに四肢を砕かれ、止めとばかりに大型の金属塊が直撃し、機体の前面をぐしゃりと潰す。

 

全身から火花を散らし、ゆっくりと流れていくその機体を尻目に、シンがコンソールを叩いた。
正面モニターの右下に、通信を示す小さなウィンドウが開く。
『……レッドアイ、大丈夫かね? どうも危ないように見えたのであれを使ってみたが』
そのウィンドウに、連合の士官服を着た初老の男性が映る。
言葉と共に顔に走った古傷が歪んだ。

 

「……ええ、助かりましたケーニヒ中佐……手間をかけてしまい申し訳ありません」
『気にしないでくれ。それも契約には入っている。
 君の戦力が無くなるのは痛いし、君が得た情報が失われるのも痛い』
シンの言葉を受け、それに、と続けるケーニヒ。

 

『君が死ぬと、君のところのお嬢さんたちやあの総帥がどう出るか判らないからね……』

 

「……はあ」
コニールとアマルフィさんのことか?とシンの頭上に疑問符が浮かぶ。
コニールはともかく、アマルフィさんがどうなるかとはどう言う意味か……シンは理解していなかった。

 

『まあ、それはともかくご苦労だったね……あと五百ほどでそちらに付く。待っていたまえ』
「了解しました」
ではな、との言葉を最後にケーニヒの顔が掻き消え、僅かに遅れてウィンドウが閉じる。
ふう、と息を吐いたシンに、イザークが身を乗り出した。

 

「シン……どういう事だ? 何故連合の士官が……」
「ああ、俺のとは別件の依頼主だ」
シンではなくディアッカがイザークの言葉に答える。
お前の救出以外にも任務があった上に、今のシンは基本的に連合の依頼で動いてるからな、
と続けるディアッカ。
「と言うか、むしろ俺の依頼のがおまけで、メインの依頼はあっちだったんだよ……
 内容までは知らないけど」
「機密事項です。情報収集としか言えません」
ディアッカの言葉を引き継ぎいでビジネスライクに締めくくり、正面モニターに向き直るシン。
そのシンが、あ、と呟く。
「どうやら迎えが付いたみたいです。着艦するのでベルトを締めなおしてください」

 

言葉を紡ぐシンの前方、正面モニターに黒と紺で塗装された大型の戦艦――
――かつてのガーティ・ルーと同型の艦が姿を現す。
蜃気楼のようにその姿を歪ませながら、ゆっくりと。

 
 
 

それとほぼ同時刻。
イタリア、ソレンティーナ。
ティレニア海に面したとある森林の奥に、地球連合の基地がある。
とある財閥の協力を受けて新型モビルスーツの開発が行われているその基地の地下、
格納庫で調整中の機体―ブリッツタイプの新型―を眺める女性の姿があった。

 

翠緑の髪を背中で纏め、その豊満な肉体をビジネススーツで覆った美女。

 

その細腕に携えたデバイスに立体表示されたモビルスーツの設計図と、実際の機体を見比べる。
設計図の機体と、実物とでは姿が少々異なっていることに気がついたのだ。

 

「……ねえ主任。 頭部と左腕が設計図とは違う形のようだけど、何故です?」
横に立ち、何事かを朗々と語る白衣の男に怜悧な声でそれを尋ねる。
何故かドリルについて熱く語っていた白衣の男が一瞬凍りつく。

 

「え、ええとですね総帥、実は、その部分がまだ完成に至らず、
 仕方なく他の部所で開発されていた新型の物と汎用機の腕を流用しています。
 あ、でもメインシステムはほぼ完成して」
「言い訳は結構です。要するにその部分だけ未完成で、全く目処が立っていないんですね?」

 

すぐに解凍され、事情を言い始める白衣の男。
その言葉を鋭く遮って、女性――総帥が言いきる。
気圧された白衣の男が「その通りでございます申し訳ありません」と小さくなった。

 

「完成形で無い以上、この機体を送り出すわけにはいきませんね……ああ、また遅れてしまうわね……」
ぶつぶつと呟きだした総帥を尻目に、白衣の男が大量の冷や汗を流す。

 

 まずい、と。

 

もし、開発が始まって早々に破棄されたもう一つの改修プランの設計を続けていた為に遅延したとわかれば、
問答無用の粛清が待っているのは明らかだった。

 

「それで、です。あの頭は? ダガータイプのようですがバイザーがありませんね……
 ツインアイでもモノアイでもありませんし」
「ああ、それはですね、先ほど申し上げたように他の部署……
 正規部隊に配備される新型機の開発を行っている部署ですが、
 そこが開発した近々ロールアウト予定の物を拝借しました。
 ダガータイプの新型で、Image Directive Encode――IDEシステムを用いています。
 起動時や標準時に赤い走査パターンが表れるのが特徴で……」
「ああ、よくわかりました。それで名称は?」
語り続ける白衣の男の言葉を断ち切るように総帥が声を発する。
はっとと我に帰った白衣の男が「し、失礼」と小声で言う。
「まだ、正式に決定した訳では無いらしいですが、設計を担当した技師が
 『百年後も第一線で戦えるように』という意味を込めてハンドレッドダガーと……」
「そうですか……では、この機体はハンドレッドブリッツというべきですね」
またも白衣の男の言葉を遮って、総帥が呟く。
は?と白衣の男が疑問を呈すると、総帥が口を開いた。
「ええ。あの子に渡す機体はネロブリッツⅢ(サード)です。
 未完成のこの機体にその名前を使うわけには行きません」
「はあ……なるほど、確かにッ!?」
納得した表情で白衣の男が頷いた瞬間、ズゥン、という轟音が天井から響いた。
それに伴って天井からパラパラと埃が落ちる。
なんだ!?と白衣の男が叫んだ次の瞬間、甲高い警報が鳴り出す。

 

『所属不明のモビルスーツ部隊が攻撃態勢で接近中です。コンディションレッド発令。
 パイロットは搭乗機にて待機して下さい。繰り返します。所属不明の……』

 

天井の隅に配置されたスピーカーから、この基地のオペレーターの澄んだ声が響く。
「攻撃……まさか、ザフトの……?」
「そのようですね……主任、貴方はシェルターに避難してください」
「了解です……総帥!? 何を!」
総帥の言葉に白衣の男が頷くも、顔を上げるとその総帥がハンドレッドブリッツのすぐ前に設置された
タラップを登っているのを見て、驚いた声を上げた。
総帥はその言葉に答えずタラップを駆け上がり、ハンドレッドブリッツのコクピットハッチを開いて
内部へと乗り込んだ。
プシュ、とエアの音が小さく鳴り、コクピットハッチが閉じる。

 

「総帥! 総帥も避難を! 操縦は……」
『何を言っているのです。この機体の実戦テストにはもってこいでしょう?
 それに貴方は私がネロブリッツⅡのテストに参加していたのも知っているはずです』
既にOSを立ち上げたのか、外部スピーカーを通して総帥の声が響く。
TP装甲の起動音が響き、漆黒のカメラアイに赤い走査パターンが走った。

 

「しかし、武装もほぼ全て施されては……」
『大丈夫です。この機体の右手には“アレ”が付いているでしょう?』
「……そうですが……まだ実戦での使用データは無いんです!』
『問題ありません。データが無いのならばここで収集します。
 それにミラージュコロイドと併用すれば、今のザフトの部隊なら軽くあしらえます』
ハンドレッドブリッツの右腕が曲げられ、刀のような輝きを放つ指先が握りこまれた。
汎用タイプの左腕がタラップを押しのける。

 

「……わかりました。でも、せめてシールドは装備していってください。
 トリケロスⅡはここにありますから」
『ええ、操作をお願いします。バッテリーの充電は完了しているようです』
「了解しました……あ、ランサーダートは一基のみですので注意してください」
白衣の男が作業用アームを操作し、別のハンガーに置かれていたトリケロスⅡを
ハンドレッドブリッツの右腕に取り付ける。
ガゴン、と重厚な音が立った。

 

『外部ハッチを開いて下さい。そこから出ます』
「はい……かなり目立ちますので開放と同時に出てください。
言い忘れてましたがミラージュコロイドの時間制限は百五十分です、気をつけてください』
『ええ、十分もかけません……ハッチの開放を』
殺人ブーツのように尖った爪先をもった足が、その外見とは裏腹の静かな音を立てて移動する。
やがて、ハンドレッドブリッツがハッチの真下に立つ。

 

「ハッチを開放します! ご武運を!」

 

『ありがとう――ロミナ・アマルフィ、ハンドレッドブリッツ! 出るわ!』

 

頭上のハッチが開くと同時にハンドレッドブリッツのスラスターが閃光を吐き出し、
その漆黒の痩躯が空中に躍り出る。

 

『さあ……パーティーの開幕よ……!』

 

既に基地の敷地内に侵入していたザフトの機体―最初の犠牲者を確認し、その眼窩に真紅の光が閃いた。

 
 

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