SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_逆襲のキラ・ヤマト(仮)_第01話

Last-modified: 2009-10-21 (水) 00:29:48

 アプリリウス・ワンの議事堂上空で、翼を持った2機のMSが交錯する。

 

蒼と白で塗装されたストライクフリーダムが両手のビームライフルを1発ずつ撃った後、
連結させて3発目を放つと共に背部のスーパードラグーンを射出した。
重力下でも使えるよう改良された8機の攻撃端末が、機械的な直線軌道で相手を包囲しようと散開する。
 ライフルによる牽制射を難なく避けた赤と黒の翼を持つデスティニーが、
細く青白い光を引いて接近するドラグーンを一瞥し、ウィングユニットを目一杯展開した。
人工の青空を侵食するように生まれたのは、闇色の中に赤、紫、深い蒼の輝きを息づかせる、
ミラージュコロイドの翼。
高い機動性で標的を囲み、光の格子を思わせる十字砲火で敵機を撃墜するはずのドラグーンが、
躊躇するように動きを鈍らせた。

 

 デスティニーのツインアイが輝きを増し、涙のような頬のラインに光が滲む。
両肩のビームブーメラン、実体シールド、ライフルをオミットした事で、
背負った2つの大型武器がより大きく見える。
散発的に撃ちかけられるドラグーンからの射撃を嘲笑うように最小限の動きで回避。
 ストライクフリーダムの両腰部レール砲が先端を光らせ、腹部から高出力ビームが放たれれば、
黒い翼を引きずって大きく左に避け、右腕を持ち上げ手甲部のビームシールドで 防いだ。
正面から止めるのではなく、角度をずらして受け流す。
翼の一端にビームが命中して先端部が千切れ燃えあがったが、直ぐに冷たい闇が炎を飲み込んでしまう。
 たじろいだかの如く、ストライクフリーダムの攻撃が緩む。
補給の為にドラグーンを呼び戻しつつ高度を下げたその瞬間、
機会を待っていたかのようにデスティニーが加速した。
黒い翼が消え、背中の左側にマウントされた長射程砲が展開しつつスライドして左手に握られる。
回避行動を取るストライクフリーダム。しかし、遠隔操作によって動くドラグーンの追従が僅かに遅れた。
 落雷のような轟音と共に、長射程砲から血色の光が迸る。
高すぎる出力を制御しきれず、砲身で電光が弾け、後部が開き冷却板が伸びた。
MS3機を丸呑みできる直径のビームが大気を焼いて、母機へ戻ろうとしたドラグーンを
一瞬で消滅させ大地に突き刺さる。
円状の亀裂からビームと同じ光が噴き上がり、超高熱の熱風が道路に停めてあった車を吹き飛ばし、
人工樹を黒い燃え残りに変えた。
続く大爆発によって周囲の建造物の窓が一斉に割れ、輝く破片を降り注がせる。
何棟かの建物が倒壊した。

 

 一瞬にして地獄と化した議事堂前に、ストライクフリーダムが降り立つ。
先程のビームが僅かに掠めていた左肘が融解し、動かせない。
ドラグーンを全て失い、鳥の骨のようになったウィングを折り畳み、破壊された建物の後ろで身を隠す。
ライトイエローのツインアイが、赤く燃える空から悠然と降りてくるデスティニーを映した。
 赤熱し、舗装路の欠片を泡立たせるクレーターに着地したデスティニーは、
遮蔽物に隠れたストライクフリーダムの方を向く。
そして、スラスターを使わず歩き出した。踏みしめるごとに脆くなった道路が陥没し、
背後で燃え盛る炎が濃い影を生みだしてカメラアイの輝きが際立つ。
 身体全体をデスティニーへ向け、ストライクフリーダムは左のビームライフルを撃った。
デスティニーが右手甲部を突き出し、ビームシールドでそれを止める。歩みは止まらない。
右側も撃つが、同じくシールドに阻まれた。歩みは止まらない。
 デスティニーに対し急に動けば、攻撃が鈍る。攻撃が鈍れば先程のように隙を突かれる。
このまま距離を詰める事を許せば、デスティニーの掌部ビーム砲『パルマ・フィオキーナ』に狙われる。
一歩下がったストライクフリーダムが、遮蔽物目掛けて腹のビーム砲を撃った。
建物が爆発を起こし、破片と炎をデスティニーに浴びせかける。
 機体を急発進させてデスティニーの居た場所へ回り込み、右のビームライフルを撃ち込んだ。
破壊したのは崩れた舗装路のみ。
そしてストライクフリーダムに影が落ちた。右側へ跳び、その脇を青白いビームが抜けた。
ミラージュコロイドの黒翼をはばたかせ、右掌から光る煙を立ち上らせるデスティニーが、
離脱するストライクフリーダムを猛追する。
 議事堂上空へと逃れたストライクフリーダムが、振り向くと同時に右のライフルを撃つ。
デスティニーの左手が破壊された。回避せず、シールドを構える事もしなかった。

 

そしてそれが、勝負の決め手となった。

 

 速度を緩めずストライクフリーダムに肉薄したデスティニーが、
報復の如く光る右掌で相手の右肩を撃ち抜きもぎ取った。
ストライクフリーダムも肘が動かない左手のライフルでデスティニーを狙おうとするが、
旋回が間に合わない。
デスティニーの強烈な蹴りを脇腹に受けて機体が傾ぐ。
体勢を立て直す前に背後に回られ、左のウィングユニットが掌部ビーム砲で破壊された。
スラスターを全開にしたデスティニーが、中破したストライクフリーダムを踏み付け地上へと叩き落とす。
 ダメージを受けたスラスターで落下速度を殺したストライクフリーダムが、
議事堂にもたれかかるようにして着地する。
人工照明の光を背負ったデスティニーが、背部右側の武器を抜き放った。
チェーンソーのように刀身表面で無数のビーム刃がうねり、その大剣を背負うように構えて急降下する。
撃ち上げられる腹部ビーム砲を、螺旋を描く動きで避け、
頭部機銃と狙いをつけられないライフルによる射撃を何発もその身に掠めさせながら、
眼前の全てを覆うようにミラージュコロイドの翼を広げる。
 蒼と白の天使に大剣が食い込み、回転するビームの刃がその腹を易々と斬り裂いた。
崩れ去る議事堂に、胴体を両断されたストライクフリーダムが倒れ込む。
カメラアイの光がゆっくりと失われ、各部をスパークさせながら機能を停止させた。
パワーを切った大剣を深くその場に突き立て、黒翼を消し去ったデスティニーがゆっくりと立ち上がる。

 
 
 

 C.E.77。3年間続いたラクス=クライン政権は終わりを告げた。
地球連合の名代という形で総督を務めた19歳のシン=アスカは、
プラントの議会制と人材選出コンピューターの使用を永久に廃止し、独裁政治を敷いた。
彼は優生種選別原則、資産再分配など手段を問わない暴君であると謗られる一方、
プラントを地球連合理事国の出資による工場だと解釈する識者からは
合理的な管理者であるとも評価されており、賛否が分かれている。

 
 

 灰色の壁の前で人々が膝を跪かされ、両手を頭の後ろで組まされている。
銃声が轟き、全ては速やかに終わった。
ザフトの治安部隊が次の人々を壁へと引き立て、泣き叫ぶ声や嗚咽が混じる。

プラントでの成人年齢が13歳という事もあり、彼らの過半数が少年、少女 だった。
2度目の銃声が上がった時、アプリリウス・ワンの街角に設けられた処刑場の後ろを
俯き加減のキラ=ヤマトが歩いていた。3度目の銃声に肩を強張らせ、目をきつく瞑る。

 

 優生種選別原則。クライン政権を倒して議会制を廃したシン=アスカが
最初に定めたこのルールは極めてシンプルだった。

『プラント領内においてプラント出身者が犯罪を行った場合、極刑に処す』

 

 優れた理知的なコーディネイターならば、法に触れる事がどれほど社会にとって有害な事か
熟知している筈である。にも関わらず犯罪に走る者は、ブルーコスモス主義のテロリストか、
体制を転覆させようとする活動家に違いないというのが根拠だった。
治安部隊の一機関による調査で有罪が確定した後は、全ての法的手続きをスキップして処刑される。

 

 この原則を拡大解釈し、シンは地球連合との開戦を選択した結果、プラントに甚大な被害を与えた
評議員全員の能力に疑問を呈して彼らの資産を没収し、遺伝子調整に十分な費用をかける事が出来ず、
社会的に冷遇されていた人々にそれらを再分配して福祉の充実を図った。
 また、プラントの高い技術と生産能力を確保するためという名目で、
プラント出身者は私的な国外への移動を禁じられていた。
これにより、殆どの住人は生まれてから死ぬまでプラント領内で暮らす事となった。

 

 前時代的な圧政に、抗議が殺到し幾度も蜂起が起きたが、どれも24時間以内に鎮圧された。
反乱が起きる度、デスティニーに乗ったシン=アスカが現場に赴いて全てを灰燼に帰し、
いかなる交渉も行われなかったからである。
誘致した地球連合の企業が元ザフト兵達によって襲撃された時の鎮圧行動は特に苛烈にして残虐だった。
現場に居合わせた治安部隊のMSパイロット達は直後に除隊を希望し、
現在は民間企業の警備を務めている。

 

 敵に対し非情である半面、シンは自分に刃向かう事のない、かつ助けを必要とする人々に対しての
支援を惜しまなかった。
クライン政権時代よりも人々の生活水準は改善されており、連合の手先として動いていることもあってか
軍需から民需への転換も迅速だった。
職や生活援助など大部分の人間が求めるものを積極的に生み出しているため、
シンに敵対する者は蜂起や叛乱の際、要となる人々を味方につける事が出来ないのである。
 非情かつ残忍。公正かつ合理的。無学かつ無私。
歴史上例を見ない、あるいは最も典型的な独裁者として、シン=アスカはプラントに君臨していた。

 
 
 

 インターフォンを鳴らすと、少し足音が聞こえて住居の主が現れた。
黒髪に紅目、日の光を知らないような肌を持った青年がランニングとトランクスのみでドアを開ける。
「シン……今、忙しい?」
「いえ、どうぞ。キラさん」
 プラントにおける最高権力者、シン=アスカが暮らしているのは
アプリリウス・ワンの港湾区にある集合住宅である。
港の端にデスティニー専用のドックが設けられており、彼の独断で出撃可能だ。
社会学も経営学も解らないシンは、まず自分がプラント住民の得られる最低限の環境で生活してみて、
自分の感覚で不自由を補うという手を取っていた。

 

「あいかわらず、議長官邸には移らないんだね」
「はあ、あそこは不便ですし……あんまり必要ないっていうか、
 あんな大きい所だと逆に落ち着かないんですよ。
 人には分相応ってものがある。俺には此処が似合ってます」
 シンが屈託無く笑う。キラも笑い返したが、笑顔を浮かべるのが精一杯だった。

 

インフィニットジャスティスを撃墜した後でアスラン=ザラをコクピットから引きずり出し、
おぞましい報復を果たしたのは……
自分ではなくアスランを選んだルナマリア=ホークに最悪の形で復讐したのは……
そして彼女の機体だったインパルスを自分に与えたのは、このシン=アスカなのだ。
もちろん彼の行いはこれだけではない。

 

「で、今日はどうしたんですか? キラさん」
 殺風景な我が家にキラを招き入れたシンが、自分のラップトップに戻りつつ訊ねる。
警備や哨戒など戦闘に関する事柄以外は効果的な指示が出せない為、
各方面への日常的な命令は殆どメールで済ませていた。
「実は……カガリがまた」
「オーブがなにか?」
 キラの方は見ず、時折腕組みして考え込んだり手元の辞書を引いて単語を調べつつキーを叩くシン。
基本的な教育は14歳で切り上げてしまったので、公的な書類を書くのも簡単ではない。
「カガリがまた、君を名指しで非難してるんだ。非人道的な政治体制を押し付け、民を苦しめているって」
「あの人にも困りますよね。
 俺の任期はあと4年で切れるんだし、もうちょっと待てば良いのに、
 毎週公式声明で俺のこと怒ってる」
 面倒な上司を語るような口調で返しつつ、シンが辞書を閉じた。
「オーブ難民は、全員帰国させた筈ですよね?」
「うん、そうだけど……」
 歯切れ悪く返答するキラに、シンは小さく唸った。換気扇の音がいやに大きく響く。

 

「最近、オーブが邪魔ですよね。援助もしてくれないのに、内政干渉ばっかりで」
 独裁者の言葉に、キラの表情が強張った。そっとシンの顔を見るが変化はない。
「ちょっと静かにしてくれないかなぁ、オーブ。邪魔だなぁ」
 言いつつ大きく伸びをするシン。空調は快適だったが、キラの額と手には汗が浮いていた。

 

理解してしまったのだ。自分がなぜ生かされ、かつザフトで黒服という地位を与えられたのか。

 

もう一度シンを見る。
独裁者は次のメールを読んだ後、また腕を組んで唸った。

 
 

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