SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第11話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:25:00

「それでは、『デスティニー』開発計画の第1次中間報告をさせて頂きます」

 画面越しのアズラエルを前にし、研究員は緊張した面持ちでポインターを握った。プロジェクターを操作する後輩に1つ頷くと、スクリーンに真っ黒な人型が映し出される。

「えーこれが、素体となります。ベイオウルフのボディをほぼそのまま使用している為、やや細身ですが、Nジャマーキャンセラーを使った核エンジンを採用し、VPS装甲の常時展開が可能です。
ボディカラーが真っ黒なのは、耐食コーティングの色です。無論、上から塗装できます」
『頭部パーツはデスティニーの物を使うのですか?』
「はい。比較的損傷が少なかった上に、非常に出来が良いですから」

 CGモデルの人型に、赤と黒で塗り分けられた翼状のユニットが装着された。

「ヴォワチュール・リュミエールを装備します。機体の中核を担うパーツですので、こればかりは小型化を見合わせ、むしろサイズはそのまま、出力強化を、もとい100%性能を引き出せるよう現在調整中です」

 続いて、両肩、両腰に可動式のスラスターが出現した。

「デスティニー最大の特徴は、新型推進機関による高機動戦です。前後上下左右へ素早く振り向き、または回避行動を取らねばならない為、これら4つが別々に動き、機敏な動作を実現させます」
『カメラアイや額のセンサーを赤くしたのは、何故?』
「高機動戦機体にとって最も重要なのは運動性。それと同程度に重要なのがレーダー、センサー性能です。
万一高速機動中にレーダー系をやられると、衝突などで自滅する恐れもあります。そこで新式の強化樹脂を採用。色が違うのはその為です。ミラージュコロイドも、先に述べた理由で排除しました」

 と、此処までは立て板に水の如く喋っていた研究員が、気まずそうに言い澱んだ。

「まあ……高機動性と余剰出力を優先した結果、兵装は大幅に削減されましたが」

 人型に矢印が伸びて行き、武装の名前が表示される。

『頭部機関砲2門、掌部ビーム砲2門……あら、これだけ?』
「現時点ではこれ以上の追加はせず、掌部ビーム砲の改良に努める所存です。X252フォビドゥンに使われたビーム偏向技術や、この通信では申し上げられませんがもう1つの技術によって、パルマ・フィオキーナに単にビームを撃つだけでなく、球面状に展開して防御に使ったり、柱状にビームを伸ばしてサーベルのように使用したりといった、フレキシビリティを持たせられます。主兵装として充分かと」

 突っ込まれたくない部分だったのか、研究員は汗を拭いつつ説明を続ける。

「アロンダイトのようなビームソードや長射程ビーム砲などを持つと、機体の質量が増加してバランスが変わります。ヴォワチュール・リュミエール装備の機体にとって、それだけで致命的なのです。増えた質量を制御する為にスラスターを増設すれば、それによってまた質量が増えますし……」
『けれども、この装備ではビームシールドに対し力不足なのでは?』

 アズラエルの質問に、研究員の発汗量が増えた。

「はい……今の所、それが問題点に挙がっています。装備追加の余地があるとすれば下腕部、足部です。
ベイオウルフはウィンダムの後継機として開発されていますが、ストライカーパックの接続プラグはヴォワチュール・リュミエールが占領しています。ともかく、質量と機体バランスが……」
『難しいのですね。でも、更に検討は続けるのでしょう?』
「勿論です……ベイオウルフのカスタム機という事に拘らなければ、事は容易なのですが」
『というと?』

 何気ないアズラエルの言葉に、研究員の黒縁眼鏡が輝いた。後輩を振り返る。

「よし、プランAを!」
「え、いや、あれはちょっと」
「良いから!」
「知りませんよ……?」

 スクリーンが切り替わり、2機目のシルエットが現れた。黒々とした巨大なオニギリ頭、撫で肩から伸びる一対のカニ鋏、頭頂部銃座から燦然と突き出す長射程ビーム砲、腰の下から伸びたヴォワチュール・リュミエールユニット、羽のように背中に、というより巨大な頭部の直ぐ真下に取り付けられた2本のビーム・ブーメラン。
 そして極め付けはガニ股の間。股間のアームに握り締められ、雄雄しくそそり立つその姿こそは大型ビームソード『アロンダイト』。
 少女の微笑が引きつったのを、プロジェクターを操作する男は見逃さなかった。

「あ、やっぱり」
「お嬢様! 私は強く主張致します。これこそが真のデスティニーであると!」
『これがプランAという事は、先程の機体はプランBという事ですか?』
「はい。しかしプランBは妥協の産物! 御満足頂ける訳が無いと思っておりました!」

 男の口調が白熱する。

「この形状ならば、どのような大型武器を装備しても質量バランスの変動は最小限に抑えられ、更に……」
『解りました。プランBで進めてください』
「えっ? し、しかしプランAならば旧デスティニーの武装を全て使用できますし、あの、ツインアイにV字アンテナも非常に低コストで増設できますし、何よりプランBより高性能で……」
『プラン、B、で』
「はい」

 接続を断たれた通信モニターの前で、研究員は深く項垂れるのであった。

「駄目だったか……確かに、ザフトのグーンに似ていたからな。抗議されると困る」
「いや、問題は其処じゃないと思いますけどね」

 食堂でカレーライスを突付く2人。後輩の方は、意識を半ばニュースへ飛ばしていた。

「まあアズラエルお嬢様もまだ16歳で、しかも兵器の技術者では無い。MSの何たるかなど、御理解を頂けると思った方が間違いだったのかもしれない」
「いや、そういう問題でも無いと……あ、先輩、これシン=アスカじゃないですか?」
「お、確かに写真とそっくりだ。何? 3日前の日付じゃないか。『ニュース』じゃないぞ」

 『HE SHOUTED, SHE WEPT』という大文字のテロップがテレビ画面の下に流れる中、中破したM1アストレイの前に仁王立ちしたシンが、両手で顔を覆って泣いているカガリに何かを叫んでいる。

「いかんな、地球の覇者が『死人』に泣かされては。……音声が出ていないが」
「まあ拙い事を叫んでたんでしょうね。あれ、今度は謝罪だ。へー、こんな声なんだ……」

『この度は公共の場で騒ぎを起こしてしまい……申し訳、ありませんでした』

 俯き加減でカガリと握手するシンに、後輩の方が苦笑いする。

「全然申し訳なさそうにしてないぞ。むしろ疲労困憊って感じで」

『というわけで、今回のような事件が起きてしまったわけですが、如何でしょうか』

 キャスターに話を振られたスーツ姿の太った男の下に、社会心理学者というテロップが表示された。

『そうですね、主席は若年にも関わらず連合の全てを担っておられます。といっても為政者である以上、
今回のように心無い言葉を浴びせられた際にも、毅然とした対応が求められます』

「『心無い』の中身も聞かせず何言ってんだコイツ。大体、何で社会心理学者が?」
「おおかた、オーブから『援助金』が動いたんだろう」

 サービスで付いてくるコーヒーを口に運び、冷めた口調で黒縁眼鏡の男は言った。

「ま、アスハがトップに立ったとはいえ、実際は旧連合の基盤があるから、体制が激変するわけじゃない。
彼女がどんなボンクラでも、連合は彼女を無視してそれなりに機能できる。……平時はな」
「全く、何を勘違いして、連合軍総司令にまでしゃしゃり出たんだか」
「不安、なんじゃなかろうか」
「不安?」

 後輩の言葉に、研究員は頷いた。

「これはクラインにも言えるがな、力で世界を統一した上での形式的な平和とは言え、彼らはやはり現状を、つまり形式的だろうがともかく、平和を保とうとする。で、どうやって保つかといえば、彼らがかつて戦争を終わらせたように武力で、と考える。だから軍事力の掌握に拘るんだろう」
「平和を願う自分達がこの世の軍隊を全て支配すれば、戦争は2度と無くなる、って?」
「実際、その考えを捨てずに世界を征服してしまったんだ。ある意味で偉業と言える」

 肩を竦め、黒縁眼鏡の男はコーヒーを飲み干した。

「今の所、戦争も無いし。彼らや彼らの取巻きが余計な事をしなけりゃ、世界は当分平和なんじゃないか?」

「補佐官は一体何をお考えなのだ!」

 アプリリウス・ワンにある会員制クラブで、ザフトホワイトの集団から声が上がった。

「度重なる議長閣下への言動の数々。あれは最早、諫言などでは無い! 妨害だろう!」
「今日の提案も、5年間の段階的な軍縮と福利厚生の強化だ。しかも地球から部隊を引き上げろだと!?」

 最初の1人に、次々と呼応する。

「戦場に出た事のない補佐官には、秩序の上での福祉という常識が通じないか」
「しかも、中立エリアの治安維持をミハシラ軍に、あの海賊共に任せろという! フン、アスハとの政争に敗れたサハクとやらに何が出来るのだ!」

 ひと通りヒートアップした後、1人が、オクトーベル3でシンに自分のグフを渡したザフトホワイトが、声を落として呟くように言った。

「補佐官は反逆者なのではないだろうか?」
「何……?」
「彼の経歴を調べたが、メサイア戦直前まで、デュランダル議長の腹心だった事が解った」

 その言葉に、身を寄せていたザフトホワイト達からどよめきが上がる。

「では、デュランダルの復讐の為、補佐官は現体制を腐敗させようとしているのか!?」
「いや、たとえかつての敵に仕えていようとも、偏見はまずい。しかし……考えてもみろ」

 彼は前置いた上で、更に声を低めた。

「そもそも、何故ミハシラ軍が中立地帯を統べる必要があるのだ? 我々とて軍を派遣し、海賊共を退散させてきたではないか」
「そうだ……」
「何も非合法の武装組織に任せる必要は無い……」

 これは欺瞞であった。海賊は彼ら同士、通信ネットワークを張り巡らせて、正規軍の行動を逐一監視し、安全な航路を取る事が出来ていたのである。それはこのザフトホワイト達も薄々理解していた。軍縮も、元々国力が脆弱である上に、レクイエムによる攻撃を受けた今、止むを得ない決断だった。
 しかし、人間は信じたいものしか信じる事は無く、見たいものしか見えないのである。

「地球からザフトを撤退させるというのもおかしい話だ。確かにザフトはプラントの防衛軍。だが、安全保障の為には地球の情勢も常に把握し、特に宇宙への玄関口は管理せねばならん」
「そうだ。議長閣下のご友人とはいえ、アスハにそれを一任するのは危険すぎる……!」
「それを理解できない補佐官では無いはず。では、何故撤退などと? 奇妙だ」

 男はそこまで言って立ち上がった。同僚達を見下ろす。

「平和を乱す事は、議長閣下の……ラクス様のお考えに反する。しかし、それに乗じてラクス様を害そうという輩が存在するならば、我々は『歌姫の御手』として行動を起こすべきだ」

 そして、ラウンジのドアから出て行き、会話が再開された。

「あの男も、まあ上手くやったな。シン=アスカとかいう脱走兵にグフを奪われたが、商船救助の手柄を全て自分の物とした。オクトーベル3の警備隊員と揉めた様だが」
「あの警備隊員達は『御手』への加入を拒否した。物の数じゃないさ。そんな事より……」
「ああ。……行動を起こす、か」
「そうだ、ラクス様の為にな」
「ラクス様の、為に……」

 クラブを出た男は、繁華街の路地裏で携帯電話を取り出した。

「……私だ。Dだ。例の書類、3週間後に間に合うようにして欲しい。これは絶対だ」

 その後短い会話を経て、男は携帯電話を仕舞い薄汚い路地を歩き出す。

「シン、貴方は勲章や功績に興味は無いと仰った。だから私が利用させて頂きました」

 路の先に見えるアプリリウス・ワンの議員庁舎に、昏く、だが煮え滾った視線を向けた。

「私には必要なのです。どうしても…………どうしても、ね」

「ディアッカ、1ヵ月後の会議だが、俺は補佐官を支持しようと思う」
「マジで? イザークお前、今日散々補佐官に噛み付いてたじゃない」
「か、噛み付いたつもりは無い! 質問しただけだ!」

 ザフトの兵舎食堂。緑服や赤服に混じって、自分のテーブルに山ほど文献を積み上げた白服のイザークは、黒服のディアッカに言い返した。

「アイツは苦手だし、俺の事を無能だと嫌ってもいる! だが、今日はアイツが正しい」
「ふうん、何でそう思ったの?」
「ザフトは専守防衛が原則である以上、領土をはみ出して地球に居座っていては周囲の反感を集めるだけだ。
積極的自衛権などという特例にしがみつき続けて原則を蔑ろにする組織に未来は無い!」

 合成されたシーフードヌードルを啜るディアッカの前で、イザークが本を広げる。

「それに此処のな、25行目にもあるが……馬鹿! スープが飛ぶ!」
「はいはい。でもそうなるとさ、ザフトも連合も、これまで以上にミハシラ軍に依存する事になるんだぜ。
海賊と馴れ合うのは反対するって言ってたよな?」
「俺が海賊をどうこう言ったのは、訳の解らない連中が武力を持って中立エリアを占拠しているのが気に食わんからだ。つまり、訳が解ればきちんと付き合える。……おもねる事とは違うが」

 イザークが本を閉じて勢い良く山の上に乗せ、ディアッカは思わずヌードルのカップを持ち上げた。

「サハク代表にどんな野心があるか知らんが、少なくともプラントと連合の両軍を相手に叛乱を起こすなどという馬鹿じゃない。でなければとっくに落ちぶれている筈だからな」
「なるほどね。で、1ヶ月後の会議に備えて猛勉強中なわけだ。変わんないねーお前」

 良くも悪くも猪突猛進なイザークに、ディアッカは屈託無く笑いかける。

「ああ。これは地球にも持っていく。今はとにかく時間が惜しい」
「え、地球? 聞いてないよ俺」
「今初めて言った。手続きは終えてある。お前を含めた独立部隊を編成した」
「もっと前に言えよ……どうせ現場指揮取るって言い出すんだろ。全く……ホント変わんないな」

 あっさりしたイザークに、ディアッカは肩を落とす。

「行き先は地球のディオキアだ。はびこっている救世同盟を挫き、その正体を暴く!」
「正体?」
「小規模ながら豊富な物資、人材。ザフト系を中心にしたMS構成。不自然だ」

 断言し、イザークは握り拳を作った。

「プラントの守りにはキラが居る。地球撤退前、最後の仕事として、俺達は『攻める』!

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