「駄目だ! 新しいデスティニーⅡでも、あいつには……!」
エミュレイターをインストールしたエンブレイスは、余りにも強力かつ無慈悲だった。
左の翼、右腕、左脚と右眼を破壊されたデスティニーⅡがアークエンジェルの残骸に叩きつけられ、
機内のシンは歯を食い縛り、自機から離脱していくエンブレイスを睨みつける。
彼女の意のままに動く自動操縦のザフト機が、味方を押し包んでいく。
状況の打開を図ろうとする部隊が、次々とエンブレイスによって無力化されていった。
「くそ、これが……これが俺の限界なのかよ!」
『いいえ、まだ諦めてはいけません! アスカさん!』
「ど、どうしてアンタが!?」
開かれた通信回線から力強く響く研究員の声。
『その機体を捨て、アークエンジェルの貨物搬入口から……! 急いで下さい!』
「な、こ、この機体……」
『それこそが真の切り札、エンブレイスに勝利し得る唯一の機体……』
「なんて性能だ。デスティニーⅡを遥かに超えてる!」
格納庫の隅に押し込められていた機体に乗り込んだシンが、各部のチェックを行い起動させる。
ついさっきまで整備されていたかの如く、機体は素早いレスポンスを返した。
「そっちは大丈夫なんですか!?」
『……既に、避難し終えてあります。そちらは、早く……出撃を! ゴホッ』
先程よりもずっと弱々しい研究員に訝りつつも、シンはコントローラーを押し込んだ。
今は、振り返る事など出来ない。
「シン=アスカ、行きます!」
オニギリ型の頭部が持ち上がる。股間のアロンダイトを握り締めるアームに動力が入り、
ソードが雄々しく勃ち上がった。尻から光翼が膨れ上がり、損傷によって塞がれた発進口へ突撃。
実体部より巨大なビーム刃がハッチを切り裂き、漆黒の宙へ駆け上がっていく。
『頼むぞプランA、我が最高傑作……シン=アスカを……人類の、明日を』
格納庫の奥、吹き飛んだ隔壁で胸から下を押し潰された研究員は、遠ざかる光に微笑を浮かべ、静かに目を閉じた。
艦のエンジンが爆発し、全てが光の中へと消える。
壊滅寸前の『人類』側を見つめていたエンブレイスが、何かに気付いたかのように振り返る。モノアイが瞬いた。
『……なんという』
「行くぞエンブレイス! これが最後! 俺の、全てだああぁっ!!」
巨剣と化したビーム刃の根元両脇に、両腕のクロー先端から球形のビームシールドが展開した。
ガニ股から、太った胴部から、そして尻から極大の光を吐き出し、プランAは白き裁定者へ挑みかかる。
一瞬の交錯。
宇宙に輝きが溢れ、静寂が満ちた。
:GSCI ◆2nhjas48dA :2007/10/04(木)
掲載ミスが発生しました件について、深くお詫び申し上げます。
自身の責任を強く噛み締め、必ずやお叱りと激励に応えてまいります。
重ねて深くお詫び申し上げます。
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