真っ白な雪原に真っ赤な花が咲いている。
白と赤のコントラストは、それが元々なんであったのか忘れさせるほど綺麗だった。
その中心で横たわり、同じように真っ赤に染まった女もまた……
「隊長、ゲリラどもの掃討はほぼ完了しました」
背後から掛けられた声にシン・アスカは振り向いた。
そこには彼の腹心の部下である30代に入ったかという男が1人。
少し離れて彼の搭乗機である黒いザクがシンの愛機の横に膝を折って留まっている。
他の部下達のMSもこちらへと近づいてくるのが見える。
「それが今回のターゲットで?」
男がシンの足元に転がるものを軽く一瞥し、確認するように問いかける。
茶色の髪と少し日に焼けた肌、血に染まっても綺麗だと思える女だった。
とてもここら一帯で暴れまわったゲリラ達のボスだとは思えなかった。
シンはそうだ、とだけ答えまた先ほどまでしていた様に自身が殺した女を見下ろす。
「また隊長が無茶を……もしも隊長の身に何かあったら我々は……
そんな事は陸戦隊に任せておけばいいでしょうに?」
その瞳は薄く濁り、その顔はのっぺりした仮面の様で何もうつさない。
男はそんなシンの様子に軽く小さくため息を付く。
彼とシンとの付き合いも長い、今の部隊発足時からの付き合いでもう8年になる。
こんな表情の時のシンは――
また一段と冷たい風が雪原に佇む2人を吹き荒む。
「寒くてかないませんな、早く宿営地に帰って皆と一杯やって暖まりましょう」
そう言って男は振り向き、自分のザクへと歩きだそうとしたその時
その背中へと向かって今度はシンが声をかけた。
「悪いが確かめたいことが出来た。まだ俺は帰れない」
振り返った男が見たものは、久しく見なかった決意を漲らせたシンの顔。
男は口元が緩むのを抑えられなかった。
それはまさしく男が一番見たかった顔だから。
「もちろん自分もお供してよろしいですね?」
「結果によると俺は……」
「それ以上は言いっこ無しですよ。
自分は自分の意思であなたについて行くと決めている。
部下達も全員。
あなたの命令だったらどんな事にでも従います。
殺せと言われたら親でも殺します。
死ねと言われたら喜んで死にましょう。
あなたはただ命じてくれさえすればいい、遠慮は無しです」
「私達は――戦友――じゃないですか」
それだけ言い残し今度こそ男は自分の愛機へと歩き出した。
シンも自身の機体へと歩き出そうとして立ち止まる。
「ありがとう、あんたのおかげでやっと決心が付いたよ。
久しぶりの再開がこんな結果になって残念だけど、少し待ってくれ。
どうせすぐ会うことになる、その時に謝らせてもらう。
今はそんな事言えた義理じゃないからな、地獄で会おう――――
――――コニール」
当然倒れ付した女、コニールから反応は無い。
死者は答えない。
生者は歩くのみ。
シンの逆襲はここから始まった。