SCA-Seed_588氏_第02話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 18:40:44

CE81。
この時代、世界を主導していたのは8年前の大戦を終結に導いたとされる英雄。
ラクス・クラインをトップとするプラント。
同じく英雄の1人であるカガリ・ユラ・アスハのオーブだった。

エイプリルフール・クライシス、ブレイク・オブ・ワールド事件、そして2度の大戦。
地球上の国家群は大きな痛手を負って最盛期の勢いはすでに無く。
ロゴスの崩壊で屋台骨を抜かれたかのような脆弱な経済と、傷ついた大地が残るだけだった。
当然政治は混乱し、治安は乱れた。
それを見かねたプラント議長に就任していたラクス・クラインはカガリ・ユラ・アスハと共に
直属の遊撃部隊を編成し治安維持に当たらせた。
浮沈艦アークエンジェルと、その守護神たるMSフリーダムを中心としたその部隊の名は『平和の守り手』
彼らは力だけに頼らず、時には話し合いで戦乱の種を抑えていた。

――表向きは。

月軌道、ザフト月艦隊。
同旗艦、空母ゴンドワナ。
ザフトが威信を賭けて建造した巨艦に似合って、他の艦よりも広い通路を1人の女性が歩く。
ルナマリア・ホーク。
かつては戦艦ミネルバでMSを駆り、戦場を駆け抜けたエースパイロットの1人。
肩までかかる赤い髪、ピンと跳ねた癖毛が特徴だ。
ただそのころと大きく違うのは着ている服が白くなり、ズボンを着用している事と
歩くと人が道を開ける歴戦の風格、威圧感だ。
そして何よりも、ひたいから左頬にかけて左目を切り裂く大きな傷。
それが彼女の人を寄せ付けない雰囲気をより強固なものにしている。

「ルナマリア・ホーク、入ります」

ある一室の前で立ち止まり中へ凛とした声をかける。
すぐに入れとの声と共に扉が開く。

「第304MS中隊、中隊長ルナマリア・ホーク出頭しました」

室内に入るとルナマリアはすぐにザフト式の敬礼をする。
そこにはデスクの椅子に座った銀髪の男が待っていた。
この月艦隊は束ねる艦隊司令長官、イザーク・ジュール。
ルナマリアにとって何とも言えない嫌な相手だった。

「休暇中突然の呼び出しすまなかったな、取りあえず座ってくれ」
「はっ」

長官室に相応しい内装、その備え付きのソファーへと腰を下ろす。
イザークはデスクに散らばっていた書類をまとめ、それを持ってルナマリアの前に座った。
ルナマリアはイザークがしゃべりだすのを黙って待つ。

「お前はアメノミハシラを知っているか?」
「はぁ、知っていますが?」

アメノミハシラは元々オーブが進めていた軌道エレベーターの頂上部だったが、計画は諸々の事情により凍結
放置された遺物だ。
今はオーブ5大氏族が1つロンド・ミナ・サハクの居城になりジャンク屋とのパイプも太い
常にいくつかのジャンク屋がそこに詰めていたはずだ。
又プラントとの関係も良好だ。
ルナマリアは自分が想定していたものと全く違う上官の質問に、怪訝な視線をイザークに向ける。
イザークはそんなルナマリアに持っていた書類を手渡した。

「読みながらで良い、聞いてくれ」
「はい」

その視線を手渡された書類へと落とす。
そこには思わず声を洩らしそうに様な報告が書かれていた。

「今から約36時間前、アメノミハシラはその構成員ごと徹底的に破壊された」
「まさか、あそこは腕利きの傭兵や私兵を多く囲っていたはずです。
 海賊共はもちろん並みの正規軍よりよほど……」

そこまでしゃべったところでルナマリアは資料のある記述にその隻眼を見開いた。
彼女の常識ではまずありえない事だったから。

アメノミハシラ戦力
イズモ級戦艦―――――――1隻
アガメムノン級MS母艦――-1隻
ドレイク級護衛艦―――――2隻

ジャンク屋所有と思われる艦艇8隻
MS戦力は少なく見積もっても20機以上の約2個MS中隊規模。
アメノミハシラ生存者なし。

対抗部隊戦力
艦隊戦力不明
MS戦力不明

戦闘領域からミハシラ側以外の破損又は撃破艦艇、MS共に発見できず。
アメノミハシラからの救難信号を受け1時間で哨戒部隊が救援に駆けつけたが
すでに戦闘が終了し、対抗部隊を発見する事が出来なかった。
この事から対抗部隊の損害は軽微だと判断する。

そう資料は結んでいた。

「ミハシラ相手に襲撃側の損害が軽微だなんて……」
「そう正規軍でさえそれなりの戦力を出さなければならない相手だ
 それ相手に完勝してみせる……普通なら不可能だ」
「議長自慢の『守り手』の連中でも無理でしょうね」

ルナマリアは吐き捨てるかのように言う。
イザークは僅かに眉を顰めるがそれをルナマリアに気付かれる前に元の表情に戻す。

「ミハシラを数、錬度共に上回り。
 引き際から見て統率も恐ろしいほど取れている……
 ここまで絞られると逆に簡単だ」

イザークがじろりとルナマリアの顔を覗き込む。
今度はルナマリアが眉を顰める番だった。

「そうだ、奴らだよ。
 5ヶ月前、ガルナハンの任務を最後に姿を消した『首狩り包丁』
 ――あいつらだ。その一員だったお前なら分かるだろ?」

ルナマリアはイザークから目を逸らし、ため息を1つ。思いはやはりそうかの一言だけ。

その部隊には名前が無く、ただクライン議長の命で世界中を渡り歩きただただ死体だけを積み上げた。
いつからか隊長機が持つ対艦刀を象徴とし、敵対者から畏怖と皮肉をこめて
『クラインの首狩り包丁』
そう呼ばれるようになり、それが広まった。

そして知らず知らずの内に左顔の古傷に手を這わしていた。
それはルナマリアにとっても無意識の行動だった。

「司令、確かに私は首狩り包丁の一振りでしたが昔の話です。
 今の彼らとは何のかかわりもありません。
 それに、そろそろ本題に入ってもらいたいのですが?」

そう言うルナマリアの隻眼はゾッとするほど冷たく暗い。
対するイザークの表情もまた硬い。
空調が効いているはずの部屋の気温が下がったかのようだ。
だがイザークが表情を緩めた事で緊張も拡散する。

「そうだな、俺は首狩り包丁だったお前じゃなく『鬼の304MS隊』その隊長に用があるんだ」
「……探索にはすでに他の部隊が付いていたはずですが?」
「話が早くて助かる。その部隊と交代で探索に当たって欲しい。
 奴らはザフト、プラントの暗部をつかさどる者達だ。
 当初は上も見つけ出し、出来るだけ穏便に済ませたかったんだが
 この事態に至って腹を括った。首狩り包丁の殲滅命令が出た」

そこまで言われればルナマリアも馬鹿じゃない、すぐに察する。
アレ相手に一般部隊だけでは荷が重過ぎる。
だから自分の部隊へと話が回ってきたのだ。

「ですが相手は少なくとも大隊規模です。我が隊だけでは」
「当然支援部隊は出す。 それにお前達の任務はあくまで探索だ。
 居場所を突き止めた後は月艦隊全軍を持って殲滅に当たる。
 それにオーブの姫がえらくお怒りのようでな、其方からの支援も当てに出来る」

普通なら過剰すぎる戦力だが、ルナマリアは妥当な戦力だと考える。
それだけアレは危険なのだから。

「状況開始は3日後の1200。詳しい事は直接中隊本部へと届けよう。
 部隊は今休暇中だろう? 短いが最後になるかもしれん、ゆっくり英気を養ってくれ」
「任務、了解しました。 それでは失礼します」

立ち上がり、退出しようとするルナマリアにイザークが声をかける。

「鬼の304MS隊、その主宰『赤鬼』ルナマリア・ホーク。 期待させてもらおう」

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