SCA-Seed_794氏_第01話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 18:39:31

先輩、ザフトを辞めるって聞いたんですが、本当ですか。
「あぁ、耳が早いな。誰から聞いたんだ? ってまだアーサーにしか話してないから、あいつしかいないか。」

先輩が辞めたくなる気持ちもわかります。でも……
「おいおい勘違いするなって。俺が辞めるのは上からの圧力とかじゃないさ。ただ単に、ザフトで出来る事が無くなったからだよ。」

出来る事?
「ま、色々とな。それに一人で何処まで出来るのか試してみたいってのもあるかな。自分勝手な理由で悪いけど。」

ホーク先輩は、どうするんですか。
「ルナは……巻き込みたくない。さっきも言ったけど、あくまで俺の勝手な理由だし、ザフトに居る方が安全だろうからな。
 だから、ルナには話してない。長期任務で出張中ってのは幸いだったかな。後でアーサーに伝えてもらう事にした。」

ホーク先輩、悲しみますよ。
「……もともと傷の舐め合いからだったしな。ルナだったら俺なんかよりもっといい奴すぐ見つけられるだろう。
 大丈夫だよ、ルナはそんなに弱くないさ。」

先輩は……それで良いんですか?
「ああ。」

先輩は、アスカ先輩は知らない。ホーク先輩がどれだけ貴方を慕っているかを。
ザフトがどれだけ貴方に期待しているのかを。
貴方がどれだけの力を持っているのかを。

「そうだ、お前単車欲しがってたよな。置いておく場所もないし、やるよ。鍵渡すからあとで部屋に来な。」

そう言って笑う先輩の顔は、どこか無理をしているように見えた。

中東、ガルナハン。
かつて連合の火力プラントがあったその地は、今もまた戦場であった。
近場の町からやや離れたその場所で、二十メートル近い巨人同士が戦っている。モビルスーツだ。
既に四機のストライクダガーが倒れ、残るMSは三機。
ストライクダガーが一機と、隊長機であろうダガーL一機は明らかに腰が引けている。
そしてそれに対峙するシグーが僅かに一機。周囲の地形に溶け込むよう、茶褐色に塗られたその機体は、
僅か一機で四機のMSを沈め、更に二機を仕留めつつある。
二種のダガーが意を決したように散開しつつ向かってくるのを、シグーはその機動性を活かして飛込み、
相手の二機が自分を挟み直線になるよう動きビームライフルを撃たせない。
そして戸惑ったのか動きが鈍ったストライクダガーに重突撃機銃を集中して叩き込み各坐させると、
素早く近づき重斬刀でビームライフルを叩き折った。
戦闘能力を失ったストライクダガーをそのままに、一直線にダガーLに向かう。
ダガーLもそれに対しビームライフルを向けるが、シグーは狙いを付けられる前に手に持った重斬刀を投げつけ妨害、
相手の懐に入ると盾でコックピットの正面から何度も殴りつける。
衝撃で中のパイロットが失神したのだろう、程なくしてダガーLの動きが止まった。

動かなくなったダガーLの武装を解除しながら、そのシグーのパイロット、シン・アスカは機体の通信機を起動させた。

「こちらアスカ機、敵部隊を無力化した。そちらの戦況は?」
僅かな間の後、その声に応えて男の声がスピーカーから流れる。
『こちらも大丈夫だ。敵機五機を撃破、こっちの損害は無い。町に戻るぞ。』
どうやら別方面で戦っていた友軍も無事だったようだ。ほっと息をつき、応答する。
「いえ、撃破したうち四機は多分パイロット生きてますんで、回収の手配お願いします、俺は見張ってますんで。」
『おいおいまたかよ? その内お前が捕った分だけで捕虜の人数三桁になっちまうぞ。』
「まぁその分機体も鹵獲できるんだし、いいじゃないっすか。ダガーLも有りますよ。」
『ったく、……まぁいい。回収のほうは分かった。町のほうに連絡しとく。…交信終了。』

ガルナハンがある汎ムスリム会議では今「も」、小規模な内紛が頻発していた。
元々民族も宗教も違う(多くはイスラム教徒であるが、それだけでは無い。
そもそも同じイスラム教徒でも、民族単位で教義には大幅な隔たりがある)小国家群が、
形成されつつあった他国に対抗するために纏まったに過ぎない。
元々貧困層が多い土地柄も有り、C.E.初頭からこの地で内紛が起きていない時期など存在しないのだ。
首都メッカの政治家達はこの事態を憂いてはいたが、彼らが強く介入する事は難しい。
政府が特定の民族に味方すれば、それだけで国を割る事に発展しかねないほど、この国の基盤は危うい。
そしてこういう時に力を発揮するはずの宗教指導者たちは、
半分は他の教義を蹴落とす事しか考えず、もう半分は祈る事にしか興味が無かった。

ましてガルナハンは、宗教などの問題を含めずとも、他の民族や有力者達から狙われるだけの理由があった。
現在としては貴重な油田と、豊かな地熱エネルギーである。
原子力によるエネルギーが広く一般化してからは相対的にその価値は下がり、狙われる事も少なくなったが、
ニュートロンジャマーが打ち込まれ、原発が動かなくなるとその価値は急上昇した。
先の戦争のときも、その資源を利用しようとユーラシア連邦により火力プラント基地が建てられたが、
彼らはレジスタンスを組織し、ザフトの協力を得てこの地を奪還している。
そして今では、動くはずも無い政府など当てにせず、自衛軍を組織、防衛戦を続けているのである。
ザフトを辞めて半年、傭兵として各地を転々としていたシンは、これを知って、ガルナハンの自衛軍に雇われていたのだ。

ガルナハンの町に合計七機のMSと、戦利品としてほぼ完動状態に近いMS四機に多数のジャンク部品を満載した輸送車両が帰ってきた。
その光景はもはや恒常化している様で、歓声などは沸くわけではないが、MSに向かい頭を下げる者や手を振る者は其処彼処に見える。
そのまま町の外れ、元々ユーラシアの基地であった場所まで運び込むと、やっと各MSからパイロットが降りてくる。
この場所は軍が撤退した後もその豊富な設備の有用性から解体されず、今では自衛軍の基地兼工舎となっていた。
既にMSの各部に整備員が取り付いている。彼らは殆どが町の技術者--工学技師もいれば只の電気屋もいる--のボランティアだ。
シンは彼らを横目で見ながらヘルメットを脱ぎ、汗まみれの顔を拭うと、そこに髭の濃い、
いかにも中東の男といった容姿の人間がやって来てシンに声をかけた。

「シン、今日も大活躍だったそうじゃないか。」
「いや、俺なんかまだまだっすよ。」
「謙遜する事は無い。実際、君が来てから私達の被害は激減した……感謝するよ、君と君を遣わしてくれた神に。」
「んな大げさな。」

冗談抜きに目を瞑り神に祈ってる男、この自衛軍のリーダーは、異教徒やコーディネーターに対しても
積極的に関わろうとする数少ないガルナハンの住人で、シンが傭兵として雇われる事が出来たのも彼とコニールのお陰だ。
彼はコーディネーターは神の摂理の反する存在だと渋る他のメンバーを説得し、
その後シンが、鹵獲したもののコーディネーターにしか扱えないため工舎の隅で埃を被っていたシグーを与えられ、多大な戦果を叩き出すと、
彼は自衛軍の作戦会議にシンを参加させたり、MS戦闘の教官役を任せるなど、その後も何かと気を使ってくれている。
その頃になると他のメンバーも、傭兵としてだが概ねシンを認めてくれるようになっていた。

「しかし……コーディネーターというのは皆君の様に強いのか? 
 だとすれば、神の教えを破り子をコーディネーターにしようとする者の気持ちも分からんでもないな。」
「多分、強さとかは関係ないと思いますよ。それに俺は第二世代ですし、大した調整受けてるわけじゃありません。
 それに、俺より強いかもしれないナチュラルも知り合いにいましたよ。あいつからすれば、俺は全然大した人間じゃありません。」

先の戦争で死んでいった親友を思い出しながら、自嘲気味に言う。そうだ、彼からすれば自分が背負うものなど無いに等しい。

「ふむ、人の力とは偉大な物だな。……む、時間だ。それではな、シン。」

顎に手を当て、髭をさすりながら笑うその男が去っていくと同時に茶髪の少女が工舎の中に入ってきた。

「おーい、シ~ン。」

パタパタと走ってきた少女、コニールはニヤッと笑うと言う。

「今日こそ絶対一本とるからね!」
「おいおい今日もやるのか?」
「当たり前よ。モビルスーツの操作が上手くなりたければまずは搭乗時間を延ばすことだって言ったのはシンだよ。」

鹵獲機体が増え、機体数に余裕が出てくると、今まではバックアップだった彼女等もMSに乗りたいと言い出した。
結果、シンはコニール含む自分と同年代のパイロット候補十数名を鍛えるはめになった。
というのも、ガルナハンのパイロットの中で正規の訓練を受けた人間はシンだけなので、他に適任がいなかったのだ。
とりあえずはアカデミー時代の記憶を思い出しながら、基本動作やMSでのランニングなどをさせているのだが、
最近は重斬刀と盾での格闘戦を最後に行うのが通例になっていた。
とは言えとりあえず機体操作に慣れさせる事が目的なので、シンは受け流しているだけだ。最も、彼等が大きな隙を晒せば容赦なく攻撃するが。
これは結果的に効果があったようで、候補生達は動作における隙を少なくしつつあり、シンはそろそろ空中機動の基礎でも教えようかとなどと考えている。
本来なら射撃戦から入るのだが、弾薬やビーム用粒子に余裕が無いためあまりそちらの訓練は出来ないのだ。

「まぁ他の連中の訓練もあるから良いけどな。どうせ負けないし。」
「うわムカつくぅ。絶対勝ってやる!」

深夜。

結局コニールは粘ったものの、シンに一撃を入れることは出来ずに終わった。
シンも、実戦後に訓練教官まで行うのは流石にきつかったのか、夕食を終えるとすぐにベットに倒れこんでしまい、寝息を立てている。
既に日付は変わり、自衛軍の基地はひっそりと静まり返っていた。

だが、それも警報が鳴り響くまでだった。急に基地が慌しくなり、シンも飛び起きる。

「くそ、何だってんだ、夜襲か!?」

傍にかけてあった野戦服の上を引っつかみ、靴をつっかける。
それと同時に自室のドアが乱暴に叩かれた。

「シン、起きろ! 敵が来てる!」
「起きてる! 今行くから待ってろ!」

音を立てて飛び出すと、自衛軍の一人が焦った顔で此方にまくし立てる。

「シン、敵襲だ。見張りの連中がMS部隊を見つけた、とりあえず会議室に行け! 俺は町のほうにいる奴に伝えてくる。」

そう言うと走り去る。シンはまだ眠気が残る頭を振りながら、それとは逆のほうにある会議室に向かう。
其処では既に、リーダー他数名が作戦の準備をしていた。

「シン、来たか。」
「どうなってるんすか。敵の規模は?」
「まぁ落ち着け。見張りの方から画像がまわされてきた。」

そう言うと彼は端末のスイッチを入れ、正面のスクリーンに映像を写しす。
映像に移っている影は十機、暗いため機種はよく分からないが、大半はダガータイプのようだ。

「これが5分前、此処から南東45キロの場所だ。谷間での映像だから暗いのは勘弁してくれ。」
「敵機は十、機種は分かりづらいっすね。全部ダガーLだとするとちょっと辛いっすか。」
「まぁそうなんだが……もっと悪い知らせがある。これだ。」

スクリーンが他の映像に切り替わる。そこに写るのは月光を受けその蒼さを映し出す重厚なシルエット。

「こいつは……」
「分かるか? 俺は見たことが無い機体なんだが、君から聞かされた話だとこいつは……」

シンはため息と共に答える。

「……ええ、グフです。」
「やはりそうか。こいつはそのダガー部隊をやや先行するように向かってきている。恐らくコーディネイターの傭兵か何かだろう。」
「そうでしょうね。多分俺対策ですか。」
「どうやら奴さん達も君には相当業を煮やしてるようだからな。」

僅かに苦笑し、言う。

そんなやり取りをしているうちに、主要なメンバーは会議室に集まっていた。
リーダーは彼等を見回して言う。

「さて、今の話を聞いていたな。はっきり言って時間は無い。町に被害を出さないよう出切る限り早く作戦を立て、出撃しなくてはならない。
 整備から連絡が来たが、整備が完了しているのは十三機、シンのシグーを含めてだ。ともかく技量が高い者から順に乗れ。
 シンを先頭に編成し、敵部隊が別れている内にまずグフを撃破、その後残り部隊を倒す。」

殆どの者はそれが妥当な判断だと考えたのか、頷く。だがシンはそれに異を唱えた。

「いえ、それはまずいっす。」
「どう言う事だ。」
「まず、グフとストライクダガーやダガーLでは基本性能が違いすぎます。
 それにグフは格闘戦に主眼を置かれた機体です。当然瞬発力と機動性は相当高いんです。」
「つまり?」
「多分、グフがいったん得意な距離に入ったら、こっちの機体を盾にする様に動きながら戦うと思います。
 夜の暗闇の中で味方と揉み合っている敵のみに攻撃するのは難しいです。俺もそれが出来る自信はありません。
 そして一対一の格闘戦ではまず勝ち目は無い。」
「しかし格闘機なのだろう。近づかれる前に射撃を集中して沈めてしまえば良い。」
「この暗さじゃ遠距離の目標に射撃を集中しても効果はあまり期待出来ません。
 グフの方がセンサーやレーダーの性能も格段に上なんで奇襲も難しいでしょう。
 それにグフはスレイヤーウィップっていう、鞭みたいな武器を持っています。格闘機とは言え、中距離からが奴の距離なんです。」
「ふむ……数の多さは優位になりにくいという事か。ではどうする?」
「もともとグフは俺対策みたいですし、俺が引き付けて町とは別の方向に誘導します。
 そうすれば置いて行かれた残りの部隊は進軍を焦るでしょうから、途中に部隊の半数を隠しておいて、
 其処を通過した時点で挟撃してください。」
「しかしそれで君は大丈夫なのか? 君の腕がいいのは知っているが、グフという機体も相当な物なのだろう。」
「何とかします。別に勝つ必要は無いし、バッテリー切れを狙えるかもしれない。
 ただ、其のままじゃすぐ追いつかれるんで、使い捨ての外付けブースターを付けられるだけ付けて、
 シグーの盾は外してダガーL用の物を持たせてください。シグーの盾じゃグフの攻撃は殆ど防げません。」
「それは構わないが……。皆、それで良いか?」

リーダーが周りを見回すが、誰も異論を挟むものはいない。

「良し、ではその方向で行く。機体を隠すのは街道沿いの岩山にする。あそこなら入り組んでいる分見つかりにくいだろう。
 班分けはパイロットの方でやってくれ。あと町に連絡して整備できる者を叩き起こして来い。シグーの換装をしなければならん。では、解散。」

その言葉と共に皆が立ち上がり、自分の作業を開始するために散って行く。

今回も本隊とは別行動な為、機体の準備が終わるまでする事は特に無い。
シンはとり合えず洗面所に向かい、起きたそのままだった顔を洗い頭をはっきりさせた。

「ふぅ、……グフか。」

正直戦いたい相手ではない。何とかするとは言ったものの、出来るかどうかは微妙なところだ。

「まぁ、ハイネみたいなのが乗ってない事に期待するしかないな。」

かつて一緒に戦った、橙色をこよなく愛する男の事を思い出しながらひとりごちる。

「さて、行くか。」

そして出撃の時が来た。
基地のオペレーターから通信が入る。
『アスカ、既にB班は指定位置についている。他のMSは君の後から出撃するから、上手くグフとか言うのを引き付けてくれ。』
それに対しシンは、大きく息を吸って精神を落ち着ける。
「了解。シン・アスカ、シグー、出る。」

工舎の格納庫からでると、外は意外と明るい。満月に近い月と僅かな雲が舞う星空、天体観測なら絶好の天候だろう。

「ダガー部隊は頼む。」

格納庫から今出ようとする後続の機体にそう通信をいれる。

『おう、しっかり引き付けてくれよ!』
『死ぬんじゃねーぞ』
『此方の事は心配しないでください。何とかやって見せます。』

他のメンバーから返信が帰ってきた。
そういえば、彼等とこんなに親しく話す様になったのは何時ごろからだろうかなどと考えながら、シンはスラスターを吹かす。
同時に大気が震え、轟音と共にシグーが発進した。

中東の、茶と灰色の大地をシグーが疾走する。
やがてガルナハン渓谷をぬけると、オーブでもプラントでも見ることは無い、遠い地平線。
あぁ単車で走りてぇ、などと思いつつ、五分ほど走り続ける。程なくして味方の挟撃部隊が隠れている岩山の傍を通過した。

そしてその影を抜け、再び月光で照らされた平野に出ると同時。

「いた!」

二百メートルほど先にグフを見つける。更にその先に何機かの影。
タイミングは丁度良かったらしい。岩山の影から急に出てきたため、結果として奇襲となったようだ。
速度を落としつつ、グフに向かい重突撃機銃を乱射。同時に使い切ったブースターの一つを切り離す。
残りのブースターは三つ。十分グフを引き離したところで全てが空になっているのが望ましい。

相手が飛行を開始、ドラウプニルを乱射してくるのを確認した所でシグーは反転、再び岩山の影へと入る。
ドラウプニルはビーム兵器としては低威力だが、それでも何発か当たればシグーは撃破されてしまう。
必死に相手の射線から機体をずらし、逃げに入る。
そのまま味方部隊が隠れている地点を抜け、西へ向かう。相手は方向をずらしたのを知ってか知らずか、シグーを追ってくる。

「よし……そのままついて来い……」

どうやら相手は射撃はあまり得意ではないようで、ギリギリの至近弾は出ているがまだ直撃はしていない。
これがハイネだったら既にシグーは落とされていたかもしれない。その幸運に感謝しつつ、更に空になったブースターを廃棄、残りは二つ。
できればこの先にある森林地帯で戦いたい、今いる平野では奇襲も隠れる事も出来ず、機体性能がもろに出るからだ。
その森林地帯がようやく見えた時だった。
いきなりの爆発、場所はシグーの背後。

「ブースターにあたった!?」

背後に背負ったブースターユニットがドラウプニルをうけ爆発したのだ。
凄まじい衝撃がシグーを襲い、地面に叩きつけられそうになる。

「くそ…負けるかぁ!」

どうにか受身を取り、機体の損傷を抑えるが、持っていた重突撃銃はどこかにいってしまった。
更に受身を取った際に無理な負荷がかかったらしい、左手に異常。
シールドは腕に固定されているから使えるが、武器を扱うのは無理そうだ。
どうにか腰部に装着した最後のブースターは無事だったが、もうすぐそこにグフが迫っている。

「く……これ以上は無理か。」

覚悟を決め、重斬刀を抜いて構える。
相手も格闘戦は望むところなのだろう、その大型ビームソード、テンペストを抜いてくる。
そして加速はそのままに、振りかぶったテンペストによる斬撃。
シンはギリギリでそれを回避、グフ懐に入ろうとシグーを動かすが、グフは素早くバックステップし、更にスレイヤーウィップで薙ぎ払ってきた。
それを機体を沈め回避。しかし完全には避け切れず、頭部の通信装備がもぎ取られる。かろうじてメインカメラは無事だ。
グフは僅かに浮き上がると、加速しつつ素早い袈裟懸け、体捌きでそれを避けたシグーに、更に振り下ろした体勢のまま肩の角で体当たりしてくる。
シンはかろうじてシールドでそれを防ぎ、後ろに飛び距離をとった。

「強いな……隙が無い。ハイネより上かもしれない。」

射撃はお粗末なものだったが、格闘戦は相当なレベルのようだ。
だがシンにも、格闘戦なら同期でも最強だったという意地がある。

「だけど、なめるなよ……これでも元ザフトレッドだ!」

そう言って気を奮い立たせると、シールドを正面、重斬刀を横に構えなおし、
身を守りつつグフに向け突進、兎も角距離を詰めなければ、こちらには攻撃手段が無い。
グフの方も鞭は決め手にかけると考えたのか、テンペストを上段に構えている。

「だぁぁぁっ!」

コックピットにシンの声が響く。そして次の瞬間、重斬刀はグフの盾に、テンペストはシグーの盾に受け止められていた。

「まずい……!」

ビームサーベルなら兎も角、テンペストを長時間受け止められるほどダガー系の盾の強度は高くない。
既に受け止めている部分が赤熱化し、機体が警告を伝えてくる。
シンはシールドを傾けて力を逸らそうとするが、マニュピレーターで持っているわけではないので、微妙な動きは難しい。
グフの方もそれを許そうとはせず、余計な力を入れずにシールド溶断を狙っているようだ。
シンはこのままにして置くよりはと、僅かにスラスターを吹かし中に浮き、グフのシールドを蹴って離脱。
しかしグフは器用にも、蹴られる瞬間に盾の角度を変えた。結果シグーは空中で大きく体勢を崩し、着地でよろけてしまう。

そしてグフは再び浮き上がり、よろけたシグーに、大上段に構えたテンペストを疾風の速さで振り下ろす。

そして、轟音と共にテンペストが地に叩きつけられた。

それは避けられないはずの一撃だった。
しかしシンにはなぜかその振り下ろす軌道が直感的に分かり、機体を捻り紙一重で避けきった。
その斬撃は、自分のものに良く似ていた。
いや、正確に言うなら、自分と同じ教官に学び、後に自分の機体に乗った赤毛の少女の。

「ルナ…なのか……?」

テンペストを構えたグフが、エクスカリバーを構えたインパルスと重なって見えた。

                                        第一話 End

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