SCA-Seed_MOR◆wN/D/TuNEY 氏_第18話

Last-modified: 2009-08-04 (火) 01:06:04

「クソッ! 拙い、拙いぞ! よりによって……いや、このタイミングだからこそか!」
少々の思案の後、局長はせわしなく辺りをうろつき始める。
「インターセプターが出るんでしょうからそんなに慌てなくても……」
「迎撃機は出れても、艦隊が出られないから問題なんだ」
おちつかせようとするシンに対して厳しい顔つきのコートニーは首を振った。
「どういう事です?」
コートニーへと振り向くとシンは聞き返す。
「今、港は援軍の連合軍艦隊で埋め尽くされてる……
 キャパ以上の艦隊を受け入れた為にザフトの艦隊さえも発艦できない状態だ」
「…………RB、戦闘データの最適化と機体のマッチングは終了しているか?」
苦虫を噛み潰したような表情でコートニーが答えると、何かを考え込んでいた局長は
インパルスエクシードの接続された大型コンピューターへと問いかけた。
『いえ、もう少し、後五分弱かかります』
遠い記憶の中の何処かで聞き覚えのある声、RBが淡々と答える。
「アスカ……エクシードのマニュアルだ。 それに念の為にパイロットスーツを渡しておく、
 最悪の場合に備えて着替えて内容を頭の中に叩き込め」
局長が投げてよこしたPDAに、シンは何も言わずに頷く。

 

その胸中には間違いなく自分が出撃ることになるという確信めいた予感があった。
それは戦士としての本能か、或いは別の第六感か。

 
 

ミネルバII格納庫
現在ミネルバIIは混乱の真っ只中にあった。
艦内を慌ただしく駆け回る音、艦内から漏れ聞こえる怒鳴り声が現在のザフト全体の状況そのものだった。
司令部からの三分おきに変わる命令、指揮系統以外から下される命令、
どこからかもたらされる真偽不明の情報。
ただ確かなのは、ミネルバが出撃しなければ、かなり危険な状況にある事。
港の端、緊急用のハッチ近くにミネルバは停泊しており、それはミネルバIIの立場も示していた。

 

「急げ! もたもたしてたら戦闘が始まっちまうぞ!」
スパナを片手に、ヴィーノが部下の整備員に向け怒鳴りつける。
「班長、α、β1は整備完了……β2は照準の微調整がまだです」
年若い、アカデミーを出たばかりの整備員が敬礼と共に、ヴィーノへの報告をする。
「分かった。 β2は俺が面倒見るからシルエットとウィザードの方に回ってくれ」
「了解です」
「……プルデンシオが頭やった所為で、早く整備し始めて助かったな」
報告を受け、次の指示を出すとヴィーノはプルデンシオのガルバルディβ二号機を見上げ溜め息をつく。
自分でさえこれほど忙しいなら、あの激戦の中、整備班の指揮を取った前班長、
マッド・エイプスはどれほどだったと言うのか。
そんな状況でさえマッドは黙々と己の責務を果たしていた。 
それを考えると自分の未熟さがはっきりと分かり。少々自信が無くなっていくのだった。

 

「ヴィーノ!」
ふと考え込んでいたヴィーノの耳に、聞き慣れ過ぎた女性の声が響く。
「我らがエースのご登場だ ……なんだその格好!」
「ん? 何か変? それよりガルバルディの整備は!?」
着替え途中で着たのか、赤いパイロットスーツの胸元を大胆に開き、
4年前より大きくなった胸を盛大に揺らしながらミネルバ艦載機隊隊長ルナマリアが駆け寄る。

 

 ってか閉めて来いよ、このアマ。 何かあっても責任とらねえぞ。 
 と思うが、余計なことを言って蹴り飛ばされるのはごめんだ。
 間違っても欲情なんてしない。 出来ない。   

 

「β2以外は終わってる。 三号機は照準調整がまだだ」
余計な考えは一切顔に出さず、ヴィーノは淡々と答える。
「班長、細かい所は現場でやりますんで、いつも通りでお願いします」
「分かった、任せろ」
β2の操者、デュークの答えにヴィーノは頷きβ2へと向かう。
『ルナマリア、いますか?』
その時、格納庫の通信モニターに通信が入り、副長、アビーの顔が映る。
「アビー? いるけど、何かあった?」
『艦長の手が離せないので私が代わりにミーティングをします』
アビーの言葉にその場にいた全員の顔が引き締まった。

 

「今から5分程前、アーモリー1周辺に配置していた無人偵察機の連絡が途絶しました
 ……確認の為向かった哨戒中の艦も、敵艦隊の情報を送ってきたのと共にロスト。
 これを受け司令部は第一級警戒態勢を発令
 ミネルバIIは迎撃機と共に出撃、敵艦隊を迎え撃ちます……何か質問は?」
「アビー、敵艦隊の種別は分かってるの?」
「哨戒艦からの情報では、アガメムノン、ネルソンクラス。 艦載機はダークダガー改、ウィンダムIII
 ……未確認ですがボギー1、ガーティ・ルー級やNダガーNもおそらくは。
 ただ司令部から下ってきた情報です。 現場での食い違いは考慮してください」
ルナマリアの問いに、アビーは明瞭に答える。
「了解。 ミネルバII艦載機隊は別命あるまで第一級警戒態勢のまま待機します」
ルナマリアは姿勢と服装を正し、敬礼をする。
『お願いします。 ……連中は私の憩いの時間(ティータイム)を奪った。 只では済ませません!』

 

(((((やる気の理由はそれか! )))))

 

敬礼を返し、綺麗に整えられた眉を吊り上げ、怒りに拳を振るわせるアビーに
その場の全員が心の中で叫んだ。
全て台無し……というのはこういう事を言うのだろうな。
とヴィーノはガルバルディβの光学機器を調整しながら心中で思った。

 
 

ミネルバIIブリッジ
「全兵装火器管制、巡航推進機関異常なし」
「全乗組員は持ち場に付け」
「艦載機隊、いつでも出れます」
出撃準備が整い、確認の為のブリッジオペレーターの声がブリッジに響く。
「艦長、御指示を」
艦長席の傍らに立つアビーがアーサーへ指示を求める。

 

(グラディス艦長。 僕に貴女の力を貸してください)
少しの沈黙の後、アーサーは軍帽を深く被り直し、口を開く。
「ミネルバII発進。 機関始動、微速前進。 速度はアーモリー1の外に出るまで維持」
アーサーの言葉と共に灰色の艦がゆっくりと浮き上がり、非常用のハッチから外周部へ、
そこから更に漆黒の宇宙へと進んでいく。
「ミネルバ、外に出ます」
「艦長アーサー・トラインから全乗組員へ。
 これより本艦はアーモリー外部に出た迎撃機と合流し敵艦隊の出鼻を挫く!
 全乗組員の奮闘を期待する」
オペレーターからの報告に、アーサーは通信機を取ると全乗組員に向け口を開いた。
「艦長、迎撃機より通信です。
 『アーモリー1駐留MS戦隊第三中隊シェダー隊。これより貴艦の指揮下に入る 指示を下されたし』
 以上です」
「了解した。 艦載機隊発進……アビー君、シェーダ隊と艦載機の管制は頼むよ」
シェーダ隊からの通信を受けたバートに頷くと傍らにいるアビーに指示を下す。
「了解しました……ではホーク隊は準備が整い次第、各自発進」
アビーは管制指揮官用の席に着くと、格納庫へと通信を繋いだ。

 

ミネルバII格納庫
「ルナマリア、装備はどうする?」
「いつも通りでライフルは二丁、腰にバズーカでよろしく!」
ヴィーノからの問いにルナマリアはコックピットから顔を出し、大声で叫ぶ。
「分かった! ああ、後な接地圧も直しといたぞ」
ハッチを閉じかけていたルナマリアはガルバルディの手を動かすことでヴィーノへの返答とした。
「班長、俺はブレイズウィザードじゃなくてスラッシュウィザードでお願いします」
「自分は狙い打ってる暇もなさそーなんでノーマルのブラストシルエットで!」
続いてプルデンシオ、デュークのガルバルディβがカタパルトへと進んでいく。
カタパルト前で円周状のカーゴ、自動兵装装備システムが起動し各装備を積めたコンテナが回転して行く。
元々はAAに搭載されていたストライクの換装システムをベースとした物で、
シルエットフライヤーの廃止に伴いミネルバII、アーテナー級に装備された。
カーゴ上部よりトライフォースシルエットが降下し、バックパックに接続。
左右からアームが伸び、サイドアーマーのジョイントにショートバレルタイプのビームライフル、
足元から上がって来たM68 キャットゥス500mm無反動砲が後ろ腰のラッチに取り付けられる。
最後に左のコンテナから、菱形で肘から先を覆うくらいのシールドを取り出し装備したガルバルディが
カタパルトへの接続を果たす。
『……カタパルト準備ヨシ、いつでも行けます』
(よし、落ち着いているわね。 アドバイスが効いたかしら?)
先の出撃の時も聞いた新人オペレーターの声に、ルナマリアは少し安心したような表情を見せた。
声から察すると先の時のような気負いも緊張も無いようだ。
ルナマリアもまた目を瞑り、深呼吸をし肺の中を新鮮な空気で満たすと、目を見開きペダルを蹴り上げる。

 

「トライフォースガルバルディα、ルナマリア・ホーク出るわよ」
「スラッシュガルバルディβ、プルデンシオ・アイマン発進します」
「ブラストガルバルディβ、デューク・インドゥライン行くぜ!」

 

銃口から撃ち出される弾丸の様に、カタパルトから飛び出して行く三機。
速度、位置の調整を行いルナマリアのトライαを先頭に、右にプルデンシオ、左にデュークが位置する。

 

「あ、シェダー隊ですね」
プルデンシオが横を見るとザクを先頭とし、ドワッジ11機で構成された
菱形を描く隊形を取った部隊が見えた。
「こちらシェダー隊、これより貴隊と同行する」
通信と共にルナマリア機に眼鏡を掛けたうさぎのパーソナルマークを付けたザクファントム
(ただし頭部ブレードアンテナが大型で、山のように火器を搭載している事を除けば、だが)が接近する。

 

一見大量に武装を搭載した旧型化したザクに見えるが、
実際はガルバルディやドライセンと同じく次期主力機コンペに提出された内の一機であった。
この機体、ザクRapid Redesign型通称R2は前大戦時主力量産機として活躍した
ザクをべースに高機動空間戦用機として再設計を行った機体である。
変更された点としてはサブスラスターを搭載された為大型化した膝から下、
膝から上も推進剤搭載スペース確保のために原型機よりも太くなり、
背部はウィザードシステムを廃止し、大型スラスターユニットを背負っていた。
外観こそ、背部・脚部を除くとそれまでのザクと大差がないが、
フレームまで全面的に改修されるなど内部構造は大きく変化しており、事実上別のMSになっている。
性能面も向上し、新規設計の機体とも肩を並べるほどであった。 
だが、元ハインライン設計局の主任設計者と協力したMMIは何をトチ狂ったのか、
推進系の制御や機体動作を熟練者でなければ扱えないほどピーキーにしてしまい、
操縦性が良く、熟練者向けのα、そうでない者向けのβと操縦性に幅を持たせた
ガルバルディに敗れ去ったのだった。
リーカの機体はテスト用に少数生産された機体の内の一機で、
MMIによって特別なカスタマイズがされた機体である。
左腕に装着型大型3連装ビームキャノン、両肩のシールド内に2連高速破砕砲、右腕に3連ミサイルポッド、
胸部にビームガトリング、左右腰部に銃身を切り詰め、取り回しをよくしたレールガン クフィアス3。
頭部ブレードアンテナにはビーム発生器が仕込まれ最後の武器になる。 
『火力こそが勝利をもたらす』をコンセプトに、ヤバイクスリでもキメながら開発したとしか思えない
この機体はザクR2FW(フルウェポン)と呼称されており。
もう一機のカスタマイズ機、ヤバイ(ry 超高速機動特別仕様機と併せ、
『ザクの皮を被った化け物』とコンペ関係者から呼ばれていた。

ちなみに、現在のリーカ機は上記の装備に加え、腰にM68 キャットゥス500mm無反動砲、
右手にドワッジ改の大型ビームランチャー、左手にM66 キャニス短距離誘導弾発射筒、
脚部にM68 パルデュス3連装短距離誘導弾発射筒を無理やり装備している。
所謂マジキチ装備である。

 

「あなた達との共同任務は久しぶりだけど、腕は鈍って無いでしょうね?」
ルナマリア機に接触すると、リーカは冗談めいた口調で言う。
「まさか、鈍らせる暇もありませんでしたよ」
「違いないわね」
リーカの冗談に軽い口調で切り返すルナマリア。
「隊長、そろそろ目視可能距離に入ります」
「ん、分かったわ。 ……お互いの武運を祈るわ」
部下からの通信に頷くと、リーカはルナマリア機から距離を取った。
「敵艦載機来ます……機種はウィンダム、ユークリッドを始めとするMA各種」
「間違いなくMAに搭載された陽電子リフクターを盾として、後方からの砲撃で攻める気でしょうね」
オペレーターの声が判別した敵機種を告げ、アビーが艦載機とブリッジ両方に聞こえる様に言う。
「鉄板だね」
「芸が無いわね」
アーサーとルナマリアは同時に違う感想を呟く。
だが言い方は違えど、言いたい事は同じだ。 つまりは定番で手堅い戦術と言うことである。
「芸扱いはどーかと思いますが、一芸特化型は相手しづらいですよ」
「確かにね。 でもこのままじゃ埒が開かないわね」
デュークの言葉にリーカを始めとしたその場の全員が頷く。

 

陽電子リフクター装備の重防御MAを盾にして火力で押し切ると言う戦術は
4年前から連合軍の基本戦術の一つとなっている。
それこそ旧ミネルバ隊の様な飛び抜けた戦力を持つ部隊以外にはかなり有効である事、
完成度の高さから大した改良も加えられずに4年間使い続けられていた。
完成された手を加える必要の無い戦術。 
だが4年前に作られさほどの改良もないと言うことは逆に言うと研究し尽くされていると言うことである。

 

「プルデンシオ、デューク、楔を撃ち込む。 付いてきなさい」
「了解」
「了解っす」
ルナマリアは二人に通信を入れると増速し、三角形を保ったままで後に続く。
「シェダーさん、埒を開けます」
「了解。 援護と始末は任せなさい」
ルナマリアの言葉にリーカは頷き、部隊をホーク隊の後方に扇状に展開させる。
「ホーク隊の露払いをするわよ。  全機一斉射撃……撃てッ!
リーカの号令とともにR2FWの、11機のドワッジの全火器が火を噴く。
陽電子リフレクターによってビームキャノンを弾いたユークリッドの何機かがが
対艦ミサイルに吹き飛ばされ、機銃の雨に蜂の巣となる。
光の盾の恩恵を受け損ねた一機のウィンダムはビームキャノンの直撃を受け無残にも足だけを残し消滅した。
「全機突撃! 仕掛ける!」
射撃が終わった瞬間、三機のガルバルディが敵陣へと切り込む。
「ここは通さん!」
立ちはだかった一機のユークリッドがトライαの放った無反動砲の榴弾によって吹き飛び、
体勢が崩れた所をスラッシュβのビームアックスによって両断、随伴機のウィンダムごと
ブラストβのケルベロスで消し炭へと変わる。
一番機ルナマリアが切り開き、二番機プルデンシオが広げ、三番機デュークが消し飛ばす。
だが、息つく間も無く、後方から接近した別のユークリッドがトライαに襲い掛かる。
「残念だが敵は隊長だけじゃないぜ」
距離を取るトライαを追撃しようとしたユークリッドに、
側面からスラッシュβがハイドラビームバルカンを浴びせ、動きを止める。
その隙にブラストβがデリュージーとファイアフライで打撃を与え、
ライフルから持ち替えたルナマリア機のサーベルがユークリッドを両断した。

 

これこそがルナマリアが師匠であるドム三人組から受け継いだジェットストリームアタックを
独自に発展させた小隊連携フォーメーション『トライアングラー』
従来のジェットストリームアタックでは固定されていた隊形を一直線から三角形へと変えたことで
それぞれの役割…牽制、打撃、トドメの三役を状況により切り替える
フレキシブルな運用を可能とした小隊連携である。

 

「流石ね。 私達も続くわよ!」
敵前線の一角が崩れた事を確認したリーカはミネルバの直援として一小隊を残し部隊に突撃命令を出す。
「敵戦力5%減。 これより艦砲射撃による援護を行います。 MS隊は射線上より退避」
「対MS、艦隊戦用意……正面砲雷撃!」
アビーのMS隊への伝達が終わるのを見計らい、アーサーはブリッジに戦闘用意を告げる。
「全兵装使用可、照準ヨシ」
「艦首開け、ホーク隊が開けたから穴からタンホイザーで戦線を切り裂く!
 各砲門はその後、各自の判断にて個別に射撃」
「艦長、撃てます」
「よし、タンホイザー撃て!」
アーサーの叫びとともに艦首から迫り出した砲口からの光の奔流が、
盾の恩恵を受け損ねたMSと艦隊を襲う。
近場にいたネルソン級が真っ二つに叩き折られ、後方にいたアガメノン級の動力部を直撃、爆散させる。

 

「スゲェ威力……戦艦ぶち抜いて、後続艦まで撃沈しちまった……」
「ミネルバII最大にして最強の砲。 核兵器を除けば、戦艦に搭載可能な最大威力の武器だからな」
初めて目の前で見たタンホイザーの威力に、プルデンシオとデュークは溜め息を漏らす。
「……何だか妙ね」
「ええ、手応えが無さ過ぎます」
一方、ルナマリアとリーカは余りに抵抗の薄い敵に疑問を抱いていた。
「アビー、周囲に何か反応はない?」
ルナマリアは通信機を取ると管制官アビーに確認を取る。
「待って下さい……現状何も」
「待て! ミラージュコロイドデテクターに反応……数10、いや、更に増大。 拙い!」
レーダーを覗き込み返答しようとしたアビーをバートが遮った。
「艦長後方にいえ、全周囲に新手です!」
「なんだって!?……ミネルバII急速反転! とにかく退路の確保だ!」
チェンの報告にアーサーは今にも艦長席からずり落ちんばかりの勢いで驚き、指示を出す。

 

漆黒の宇宙から姿を現したのはガーティ・ルー級戦艦、ダークダガーL改、NダガーNなどの
ステルス性に優れた部隊だ。
どうやら黒色ガスを展開し、ギリギリまで熱量とミラージュコロイドを抑えた状態で接近した為、
センサーに掛からなかったらしい。

 

「まずったなぁ。 完全に包囲される前に網を食い破るしかないか」
握り拳を作ったルナマリアはコツンと軽く頭を叩く。
「隊長、何か来ます。……こいつ、速い!」
プルデンシオからの通信に、ルナマリアを始めとした面々は周囲を見渡す。
ルナマリア達を包囲しようとする敵艦載機の一角にそれはいた。
超高速で接近する中隊規模のMS、その中で更に突出する2機のMS。
他の機体がダークブルーに統一されているのに対し、
エールストライカーを装備し、白一色で塗装された二機の105ダガー。
後続する7機は旧式のダークダガーL。

 

「風の噂に聞くフレスベルク、相手をして貰おうか。 ラプター1交戦」
「ラプター2続くわ。 悪いけど、死んで頂戴」
全周囲通信なのか、男女二人の声が通信機から漏れ聞こえた。

 

「あのカラー、パーソナルマーク、男女二人。 番いの猛禽……連合のエースチームかよ!」
白い105ダガー、その右肩に描かれた二羽の鳥にデュークは驚きの声を上げる。
「知ってるのかよ、デューク」
「太西洋連邦軍所属の白いMSを操るエースコンビ、通称番いの猛禽。
 確か、ダイタロス攻防戦でMIA認定受けてた筈だ」
プルデンシオの問いに、淡々と答えるデューク。
「それが、生きていてこちらに襲い掛かってくると。 嫌になるわね」
「リーカさん、あいつらはうちで引き受けます。 シェーダ隊はミネルバと退路の確保を」
半ば呆れ顔で溜め息を付くリーカにルナマリアは何かを決意し、通信を繋ぐ。
「……ここで何か言うのは野暮ね。あなた達、死ぬんじゃないわよ。帰ったら皆で一緒に飲みましょう」
ルナマリアの覚悟を感じ取ったのか、リーカは言おうとした言葉を飲み込み、
機体を反転させると敬礼をする。
「ええ、楽しみにしておきます」
「悪いわね。 貴方達まで貧乏くじ引かせて」
リーカに敬礼を返すと、ルナマリアは部下二人に通信で侘びを入れる。
「なーに、言ってんすか。 今更ですよ」
「貧乏籤なら隊長に拾われた時、既に大凶引いてます」
ルナマリアの意に反して、デュークとプルデンシオは不敵な笑みを浮かべた。
「……全く、あんた達は。 まぁ、取り敢えずお礼は言っとくわ」
「お礼は目に見える物が良いですね」
「なら今日の晩飯は隊長の奢りってことで……」
「調子に乗るんじゃない。 いい? 速攻で片付けるから遅れずに付いてきなさい!」
「了ー解っす」
「了解!」
ルナマリアの号令と共に、三機のガルバルディが戦場を駆ける。

 

「退かずに攻めるか。 悪くない判断だ」
ルナマリアの判断に白い105ダガーの一番機、ラプター1は感心したような声を上げる。
「けれど正直すぎるわ」
ラプター2の声と同時に105ダガー二機のビームライフル、
後続のダークダガーLのドッペルホルンが一斉に火を噴いた。
すぐさま反撃を返す三機。 瞬く間に交差し通り過ぎる閃光は、
兵器だとは信じられないほど美しく人の心を奪う光跡を描く。
だが、その光跡が心はおろか命さえも奪うモノである事は言うまでも無い。
薄氷を踏むような動きで弾幕を潜り抜けたガルバルディは105ダガーと刃を交わす事無く
後方のダークダガーLへと銃口を向ける。
ブラストβのケルベロスのビームが固まっていた4機のダークダガーLを一瞬で蒸発させ、
スラッシュβがハイドラを乱射し、残る3機を仕留める。
「先に後続を断ちに来たか。 やってくれる」
ルナマリアの意図に気付いたラプター1はすぐさま機体を反転、サーベルを引き抜く。
「流石に気付いたか、でも遅い」
素早くライフルをサイドアーマーに引っ掛けると、両腕をクロスさせ、
袖口に当たる部分からサーベルを引き抜き、脚部を狙い斬り付ける。
「残念。 相手は一機じゃないのよ」
確実に105ダガーの脚部を切断できる筈だった斬撃は
もう一機の105ダガーのサーベルにより辛くも防がれる。
「やるな、だが詰めが甘い」
その一時の隙に距離を離したラプター1はサーベルをしまい、シールドに仕込まれた信号弾を撃ちだした。
真紅の光が戦場に輝きその瞬間、闇から染みだす様に複数機のMSが
ルナマリア機とプルデンシオ、デューク機の間にその姿を現す。
その機体はGAT系列でも異端とされ、少数生産しかされていない筈のNダガーNが3機。
「やばい、分断された! 隊長!」
「しかも核動力、ステルスのニンジャダガーじゃねーかよ!」
前方に105ダガーが2機、後方にNダガーNが3機。
残存するザフトの士気を挫く為、現ザフト最強級のエース、
死を喰らう魔鳥ルナマリアを抹殺する目的で仕込まれた絶対の布陣。
更にレーダーに映る多数の敵機。
「これは……一寸拙いかな。 デューク、指揮権をわたす。
 プルデンシオと、シェダーさんの指揮下に入りなさい」
周囲を見渡し、抜ける隙が無いのを改めて確認すると通信を繋ぎ淡々と告げた。
「そんな、隊「プルデンシオ!」 っ!」
「……了解。 デューク・インドゥラインホーク隊の指揮権を“一時お預かりします”」
何か言おうとしたプルデンシオを一喝し、デュークは機体を反転、急速離脱し、
プルデンシオもそれに渋々続く。
「へぇ、部下を先に逃がして全滅を回避したの」
「無駄な事を、どうせ皆死ぬ」
白い105ダガー2機から嘲る様な笑いに、ルナマリアは鼻を鳴らす。
「悪いけど、そう簡単にやれると思わないことね。 意地があるのよ! 私にも!」
サイドアーマーのライフルを右手に、左手にキャトゥスを持つと、ルナマリアは敵機と相対した。

 
 
 

ミネルバが苦戦している頃、アーモリー地下でも動きがあった。
「シン聞こえているか?」
「ええ、聞こえてます」
インパルスエクシードのコックピット。 起動前で非常待機灯のみが点いている闇の中、
局長の声にシンは答えた。
「先程臨時総司令部及び評議会議長代理より出撃命令があった……
 ミネルバ迎撃隊に加わり敵を迎え撃て 何か質問はあるか?」
「……パイロットスーツ。 他のないですか?」
シンは多少不機嫌そうに言葉少なく口にする
シンが着ているスーツは通常のパイロットスーツではなくノーマルスーツや前世紀の飛行機乗りが着た
フライトスーツ予圧服のような動きが阻害される野暮ったい物だった。
「我慢してくれ。 ここには宇宙空間対応で高G環境下に耐えられるのがそれしかないんだ。」
宥めるようにコートニーは言う
「もしかしてずっとこれなんて事無いでしょうね?」
「ふん、安心しろ、特注品を頼んである。 それはこれっきりだ」
多少の皮肉の込められた言葉に癇に触るとでも言いたげな様子で鼻を鳴らす局長
「だったら良いですけど。
お互いに大人気ないなと心の中で呟くとシンは苦笑する

 

「…………すまんなアスカ」
「なんです? また急に」
局長の急な謝罪の言葉にシンは文字通り目を丸くする
「インパルスエクシードの事だ。 まだ一回も実戦投入されていない、
 試乗すらしていない機体に乗せられて実戦に放り込まれる部外者であるお前はさぞ迷惑だろう
 俺達技術者はいつもそうだ。 安全な場所にいて手前勝手な理屈で現場を巻き込む……」
「気にしないでください。 慣れてますから」
局長の血を吐くような独白を遮ると、シンは言ってみせる。
「慣れているか。 スマンな。 柄でもない事を言った」
「シン、RB聞こえるか? 機体回りの調整が終わった。 コンデンサーも電池も満タンだ」
「シルエットはアシュラソード、アームユニットの調整が不十分だがスラスターとしては十分使える」
『確認した。 電源を入れる』
局長が自嘲した時、コートニーからの通信を聞いたRBの手でインパルスエクシードに電源が入る。
VPS装甲が白と青をベースとしたトリコロールカラーへと変わりコックピットに明かりが点る。 
「何か聞きたい事は有るか?」
「あー、色変わらないんですか? 赤が良いんですけど……」
気を取り直した局長に、シンは機体を見渡すと言い辛そうに言った。

 

「何……だと……?」
『嘘……だろ……?」

 

「えっと、機体色は赤が……」
絶句する局長とRBに、シンはもう一度勇気を振り絞り、口を開く。
シンにも赤鬼を名乗っている以上拘りってモンがあるのである。
「ああ? 聞こえんな?」
「色、赤……」
「ああ!?」
「だから! 赤くしてくれっていってるだろ!」
三回目にしてシンはキレて声を荒げる。
仏の顔を三度までと言うし、短気なシンにしては耐えた方であろう。

 

「てめぇ舐めてんのか!?
 試作機及びフラッグシップマシンはトリコロールカラーって全世界技術者の中で決まってんだ!
 第一、どれだけ苦労して俺がコードネームを『アスラーダ』って名前にしたと思っていやがる!
 全てはこの色の為だ!」
「あんたは一体ッ! なんなんだッ!
 パイロットが赤が良いって言ってんだから赤にすればいいじゃないか!」

 

訳の分からない理屈を通そうとする局長に、シンもまた負けずに言い返す。 
ちなみにコートニーは頑固な二人には言っても無駄だと分かりきっているのか、
呆れて他の事をしに通信機から離れている。

 

「うるせえ! そんなに赤に拘ってばかりいると、4つの偽名を持つ、女癖の悪い神公認で最強設定の癖に迷ってばかりなヘタレシスコンロリコンマザコンペドホモグラサン金ピカノースリーブオールバック大佐と間違えられる大尉の三倍仮面になっちまうぞ!」
「うっ!……何だか分からないけど、そんな訳の分からない生物にだけはなっちゃいけない気がする……」
「分かったか!?」
「まぁまぁ、局長そのくらいで。 エレベーターの準備が出来た、カタパルトに直結してるから乗ってくれ、
 頼んだぞシン」
馬鹿な言い合いが終ったのを見図り、コートニーは仲裁に入る。
「了解です。 改めてよろしく頼むなRB」
『こちらこそだ、ドライバー。 システム正常起動。 動けるぞ」
通信を終了したシンはコンソールを軽く叩き、RBはそれに答える。

 

シンは手袋を深く嵌め直し、深呼吸をすると操縦桿を握った。
その瞬間、シンの体に電流が走るような感覚が襲う。

 

「これ……は、こいつは!」
操縦桿を握った瞬間にシンは分かってしまった。 感じてしまった。
コイツが、インパルスエクシードが自分の為の機体だと。
まるで自分の体の一部であるかのように動く機体であると。
それは一目惚れの恋のようにシンの体と心に深く刻まれた。 
今まで愛機としたインパルス、デスティニー、グフクラッシャーさえも遠く届かぬそれは、
シンに運命を感じさせるのに相応しいかも知れなかった。

 

「気に入ったか? 結構。 パイロットが機体に一目惚れする。 開発者冥利に尽きるってモンだ」
ニンマリと笑みを浮かべ局長は言う。
局長の言う、パイロットが機体に一目惚れすると言うのは
サーペントテールの叢雲劾がプロトアストレイBFに始めて搭乗した際、自身との相性の良さに驚き、
以後使い続けている事例からも無い話ではなかった。
だが、シンにとっては今まで乗ってきた機体とはまるで違う操縦感覚のように感じる
インパルスエクシードに驚きを隠せなかったのだ。
『ドライバー、行くなら行こう。 敵はすぐ側まできているぞ』
「あ、ああ」
RBの叱責に、シンはゆっくりと機体を歩ませ、機材搬出用エレベーターへと固定する。
白と青の二色を基調とした機体色に、未完成のバックパックを背負い、
サイドアーマーに対艦刀を、腰背面にビームロッドを、肩にアンカーと銃口を装備した
ショルダーアーマーを装着した近接仕様。
アシュラソード・インパルスエクシードがエレベーターによりゆっくりと持ち上げられて行った。

 

「なぁ、RB頼みがあるんだが」
エレベーターでの移動中、やけにおとなしくシンはRBへと話し掛けた。
『私には出来ることならば何でも聞こう』
むげに扱う理由も無いのでRBは一応聞いてみる。
「実はな……」
ニヤリと頬を吊り上げシンが笑う。
碌な事考えてない笑みだなとRBは何でも聞くと言った事を後悔していた。

 

「それにしても、あれだけやってまだ戦争がしたいのか、あいつらは」
気に入らない、何もかもが気にいらない。
不愉快そうな顔を隠そうともせずにシンは奥歯を噛み締める。
『それが彼らの正義、なのだろうさ……救い様が無いがな』
「正義……ね。 ふん、都合の良い言葉だよ」
RBの言葉に鼻を鳴らすと、吐き捨てるように呟く。
『気にするな、私は気にしない』
「ああ」
かつてどこかで聞いた言葉にシンは静かに頷く。
エレベーターが止まり、目の前の隔壁が開き、カタパルトへの通路が見えた。
「こちらアーモリー1管制室オペレーターです。 アスラーダのパイロットの方聞こえますか?」
「ああ、聞こえている」
通信機から聞こえた若い女性管制官の声に、シンは言葉少なく答える。
「状況は局長より伺っています。 そのまま進んでください」
「了解した。 現場の管制は君が行うのか?」 
「いえ、ミネルバIIのアビー・ウィンザー副長が行っています。 コールネームはどうしますか?」
「そうか、そうだな……赤鬼で頼む」
懐かしい名前に感慨深げに頷くと、シンはにやりとした笑みを浮かべた」
「アカオニですか?……了解しました」
女性管制官は聞き慣れない言葉に、一瞬不思議そうな声を上げるが直ぐに声の調子を戻す。
『やれやれ、私も赤鬼と呼んだ方が良いのかな、ドライバー?』
RBは呆れたような声を上げると、皮肉げな声で問いかけた。
「お喋りAIめ……シンで良い」
機体を進めながら、RBの皮肉に僅かに顔を歪ませるとシンは少々の思案の後答える。
「アスラーダ、カタパルトセット確認。 発進どうぞ!」
カタパルトへの接続を確認したオペレーターが発進許可を出す。

 

「行くぞ、インパルスエクシード。 ……俺のインパルス!」
シンは操縦桿を一度放し、再び握り締めると一人呟く。
それはRBに聞かせるために為でも、自身にでも無く、インパルスエクシードに言い聞かせるようだった。
『こちらも良いぞ。 ドライバーシン』
「シン・アスカ、インパルスエクシード。 行きます!」
RBの声を聞いたシンの叫びと共に、リニアカタパルトが起動しインパルスエクシードが宇宙へ飛び出す。

 

「シン・アスカ? 何処かで聞いたような……」
段々と小さくなる白と赤、ツートーンカラーの機体の背を見ながら女性管制官は、
アカオニと名乗った男の名を思い出しかけていた。
「シン……アスカ?…………えっ? えっ!? 嘘っ!」
通信機から漏れてくる女性管制官の慌てる声に、シンは回線を閉じる。
『……意地が悪くなったものだな。 シン』 
「ま、傭兵だからな」
昔から友人のようなRBの嫌味にシンは、友人であるかのように答えた。

 

カタパルトの推進力とバックパックの推力を合わせ、全速力で進むインパルスエクシードのカメラに
光の瞬き、戦闘による発光が映る。
『敵機確認、距離五千。 間も無く交戦距離に入るぞ』
「戦争狂共め、そんなに戦争がしたいなら俺が相手になってやる」
はき捨てる様に言うと、シンは深く深呼吸をする。
『シン、目視可能になるぞ』
インパルスエクシードはサイドアーマーのロンゴミアントを引き抜き、両手に持つ。

 

「ラプター1、何か来るわ」
「何だあれは……GタイプMSか?」
ルナマリアのガルバルディと交戦していた105ダガーの二機は、高速で接近する機影に視線を奔らせる。
白をベースに胴体部を“赤く染め”両手に対艦刀を、
肩にアンカーとショットガンつけたショルダーアーマーを装備したGタイプMS。

 

「インパルス、アスラーダが出たの!?」 
リーカはその姿に目を丸くする。 あれは未だ試験も終わっていない機体のはずだ。

 

「副長! 急速接近する機影があります。 識別信号は味方です」
「アーモリーからの通信にあったアカオニですね……ん、この機影は!艦長、先頭はインパルスです!」
「なんだって!」
新人オペレーターの声に、アビーはセンサーを覗き込み、歓喜と驚愕の入り混じった声で叫ぶ。
インパルスの名はミネルバクルーにとって特別な物であったからだ。
なぜなら、それに乗っているのは

 

「赤い近接仕様のザフト製Gタイプ……まさかインパルスか?」
「インパルスだって!? じゃあ、まさか!」
シェーダ隊に合流しようと手近な敵機を片付けていたデュークが、プルデンシオが驚きの声を上げる。

 

そしてインパルスエクシードの出現は敵にも大きな影響を与えていた。

 

ミネルバの鬼神。
デストロイキラー。
フリーダム墜とし。
中隊潰しのシン・アスカ!

 

元連合軍所属で合った者を中心に動揺が広がり、一時的に行動が遅滞する。

 

「ミネルバの真のエースの帰還だ。 待ってたよシン」
アーサーが
「最高のタイミングです。 シン」
アビーが
「ようやく、ようやく帰ってきたのかよ、シン!」
ヴィーノが
「あれは、まさか……シン!」
ルナマリアがその名を口にする。

 

旧ミネルバ最強の切り札にして、ザフト最高のエース。  シン・アスカの名を!

 

『戦争と言う名の悪意よ、世界を己のままにしようとする者たちよ。
 お前達の天敵が帰ってきたぞ。
 姿も心も成長して、名は変わってもその本質は何も変わらずに』
「まだ、まだ戦争がし足りないのか!! 貴様等は!!」

 

両手のロンゴミアントを下段に構え、シンは叫ぶ。 
それはまるで己の敵全てへの宣戦布告のようだった。

 
 
 

後に世界同時クーデター事件と呼ばれるこの事件の最終局面、
プラント、地球連合、オーブの歴史的に特筆すべき初の共同戦線アプリリウス戦役。
その前哨戦ともいえるこの戦闘、アーモリー1攻防戦を多くの研究者はこう表現している。

 

 鬼神再誕 と。