SCA-Seed_MOR◆wN/D/TuNEY 氏_EX11

Last-modified: 2012-01-06 (金) 01:28:29
 

「ふぁ……」

 

コニールは窓から差し込む朝日と僅かな寒気に目を覚ました。
「うぅ、何か頭痛い……」
昨日の夜は年明けだと騒ぎすぎた。と今更ながら反省すると頭を抑え、ベッドから立ち上がる。 
見渡すと自室だ。
よくよく思い出すと立てなくなるまで飲んだ後、シンが運んでくれた覚えがある……確かお姫様抱っこで。
そこまで思い出したコニールは頬を紅に染める。
両手で頬を押さえると何故か慌ててドアを開け、外に出た。
「あ!」
自室よりも強い寒気に晒されたコニールはそこで落ち着きを取り戻し、深呼吸する。
「落ち着こう……べ、別に変な事したり、されたりした訳じゃないんだから」
ふぅ、と溜め息を付いて顔を上げると向かいの、シンの部屋のドアが開いている事に気付いた。

 

余談だが、シンとコニールは別々の部屋で寝ている。
コニールは一緒の部屋で構わないと言ったのだが、
シンは年頃の乙女が倫理感や常識、恥じらいが無いのかと断固反対し、
かつての物置部屋を自室としていた。
「変な所真面目っていうか堅物だよね」
コニールはシンにここに居てくれと言った時からそういう覚悟と言うか、何があっても良いと思っている
(無論恥ずかしさはあるが)のだが、シンにはそう言う意図は無いらしい。
まぁ、そんな男だからこそコニールは信頼しているし、
ガルナハンで一定以上の信用を得ることができたのだが。

 

「……あれ?」
部屋の中を覗いたコニールは首を傾げた。
真正面のベッドにシンの姿はない。
右側の衣装タンスに左側のガンケース、その横にある机と
機械工学や軍事関係の専門書や雑多な雑誌がごちゃ混ぜに納められた本棚の前にもいない。
「トレーニングにでもいったのかな?」
廊下の窓から外のガレージとガラクタ置き場を見ても
シンの愛機グフクラッシャーは悠然と鎮座しており、シンの姿はない。
おそらく日課のトレーニング、ガルナハン一周にでも行ったのだろう。
シン曰く、「1日の怠けで鈍った体を戻すには3日の修練が必要」だそうだ。
「新年早々落ち着きがないっていうかお疲れ様というか……朝ご飯でも作ろうかな」
シンの愚直さに呆れたように溜め息を付くとコニールは腹を減らして帰って来るであろうシンの為、
食事の支度をしようと階下の食堂へと向かった。

 

「さて、何にしようかな」
冷蔵庫の中身を見ながらメニューを考えていると、扉が開く音がした。
「シン、もう帰ってきたのか?」

 

振り向いたコニールが見たのは赤いショートヘア、赤いツリ目の赤いコート、赤いブーツを履き、
全身を赤く染め上げた中性的な女性だった。

 

「あの、どちら様ですか」
見覚えのない女性にコニールはおずおずと声をかける。
「ああ、すまない。 シン、シン・アスカの知り合いなんだが」
コニールに気付いた女性はぺこりと頭を下げると左右を見る。
「すみません、今留守なんです」
仕事関係の人かなと思いながらコニールも頭を下げた。
「やれやれ、相変わらずどうにも落ち着きがないね」
鼻を鳴らすと女性は肩を竦めて見せる。
「お客さんが来るなら言っといてくれれば良いのに……あの、私で良ければご用件をお聞きしますが」
本日何度目かの溜め息を付くとコニールは申し訳なさそうに聞いた。
「ああ、気にしないでくれ大した用じゃないんだ。 近くに寄ったから新年の挨拶に来ただけさ」
爽やかな笑みを浮かべた女性は、ふと思い付いたようにずいっとコニールに近づくと
フフンと勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「な、なんですか!」
「なんでもないさ(なるほど、良い子だねぇ)」
一歩たじろいだコニールに女性は今度は優しけな笑みを見せ、離れた。
「私はまだ所用があるのでこれで失礼するが、シンに新年おめでとうと伝えておいてくれ。
 ……それとシンをこれからもよろしく頼むよ。 あれで案外繊細で寂しがり屋だったりするのでね」
笑みを絶やさないまま女性はコニールに言葉を伝えると、出口に向かい歩き出した。
「あの! 貴女のお名前は?」
女性はコニールの問いに答えず、ただ手をヒラヒラと振っただけだった。

 

「行っちゃった……」
「ただいまーっと。 おっコニール、もう起きてたのか」
唖然としていたコニールに裏口から声がかけられる。
声の主、シンは紺色のトレーニングウェアに身を包み額に僅かな汗を浮かべていた。
「あ、シン! 今お客さんが来てたんだよ」
「客? あータイミング悪いな、入れ違いか」
正面出口を指さすコニールにシンが額を抑える。
「で、誰だったんだ?」
シンは聞きながらコニールの側まで歩くと冷蔵庫を開け缶コーヒーを取り出す。
「分かんない」
「ん? 名前聞かなかったのか?」
首を傾げる姿に結構気の利くコニールにしては珍しいとシンは思う。
「教えてくれなかった」
「ふーん、容姿は?」
不思議そうな顔のコニールに、内心名前を聞かれたくない知り合い
(エドやジェーンはその筆頭である)も少なくないので納得しつつ、容姿を尋ねる。

 

「髪が赤いショートヘアで……」
「赤髪ショート?」
缶コーヒーを口にしていたシンの眉が引き攣る。
頭に浮かんだのはプラントにいる筈のかつての恋人とついでにその妹。
「赤いつり目で、赤いコート着てて、ぺターンとしてて、赤いブーツを履いてる女の人で
 新年おめでとうって伝えてくれって言ってた」
「つり目のスレンダーで全身真っ赤な20代から30代の女性か」
心の中で安堵の溜息をつくと、コニールの曖昧な表現から人相を想像する。
「……知らないな。 仕事の依頼ならそう言うだろうしなぁ……まぁ、良いか。
 なんか別に用があるなら向こうから来るだろう」
分からないものは分からないと割り切ったシンは飲み終わった缶をゴミ箱に投げ入れた。
「シンが良いならいいけどさ。 そうだ、朝ごはん作るからシャワー浴びてきなよ」
何処か納得の行かない顔のコニールは冷蔵庫を見るとシンに言った。
「じゃあ、そうさせて貰うかな。……一緒に入るか?」
コニールの言葉に頷き、風呂場に足を向けたシンは、
ふと思い付いたのか意地の悪い笑みを浮かべ、コニールに言った。
「は、入るわけ無いだろ! いいから早く行け!」
「ははっ、冗談に決まってんだろ? そんなに怒るなよ」
顔を赤くして大声を上げたコニールを見てケタケタと満足そうに笑うとシンは風呂場へと歩いていった。

 

「全く! 堅物のくせにそういう冗談は言うんだから!」
憤慨しているコニールは冷蔵庫から卵やハムを取り出すとふと裏口近くの窓を見た。
「シンは気にしてないけど、あの人誰だったんだろ?」
コニールは首を傾げるも、そこにはいつも通りグフクラッシャーが悠然と立っているだけだった。