SDガンダム大外伝 伝説の再臨・第二章_02話

Last-modified: 2014-03-10 (月) 15:49:49
 

SDガンダム大外伝 伝説の再臨
第二章 ~ラクロア城防衛戦~

 

2.

 

 ラクロアの王城、鐘楼となっている見張り塔より、ムウ王子は眼下の城下町を見下ろした。既に避難を完了させたため、そこに人影は無い。
 視線を町の向こうに広がる平原へと向けると、展開するザフト帝国の軍勢が目に入った。
 国王暗殺後のザフト帝国の戦いでラクロア王国の軍は敗走を続け、ここまで後退せざるをえなかった。

 

「数の上じゃ互角って所だが……」

 

 篭城し、守りに徹して戦うなら条件は有利だ。だが、士気の差が如何ともし難い。

 

「それに、篭城の有利性はジオン族相手じゃ低いんだよなぁ」

 

 視線をさらに上げ、空を見上げる。ジオンモンスターには空を飛ぶ者も数多くいる。それらには城壁も城門も関係無い。
 だから各見張り塔には眼下の敵軍の様子を観察するだけではなく、空も警戒しなければならない。
 ムウは弓矢の扱いはそれほど得意ではないので、城壁に張り付いての応戦は苦手な部類だ。
 だが、目の良さには自信があるので、ここで見張りを引き受けていた。
 王子であり、軍の大将でもあるという立場を考えると玉座の間で構えているべきなのだが、そんな気分にはなれなかった。
 負けがこんでて居ても立ってもいられない状態というのもあるが、父王アルダが玉座の奥の間で殺された点が気になっていた。
 あの後、奥の間を調べて部屋の床に転送魔法のための仕掛けがあることに気付いた。何故、そんな仕掛けがあるのかは気になったものの、急いで床石ごと仕掛けを砕いた。
 しかし、それでも不安を感じた。玉座に居る時、いきなり後ろから魔法が飛んできてはかなわない。

 

(まあ、城のどこに居たって安全ってわけにゃあいかないだろうけどな)

 

 安全じゃないからこそ、あえてこの場所に立っている。
 見上げる空には今の所、空を飛ぶモンスターの姿は見えない。それどころか、戦前の空気を感じ取ったか、普通の鳥の姿も見当たらなかった。
 再び視線をザフトの軍に向ける。攻撃の準備は整っているようで、今にも攻めてきそうな雰囲気だ。

 

(あの軍はいつでも攻撃する準備ができていて、それ以外に敵の姿は見えない……。いや、見せてないんだ)

 

 敵が攻撃を開始する合図、おおよその察しはつく。

 

(そう、そいつは……)

 

 わずかながらに空気が動く。視覚だけでなく、全ての感覚を研ぎ澄ませてそれを待っていたムウは、そのわずかな変化を感じ取った。

 

「こういう事だろッ!!」

 

 剣を抜くと、背後を振り向きながら一閃させる。
 すると、何も無いはずの空間に裂け目が生じた。裂けた部分にはMS族の鎧が覗き見えた。
 裂け目が後ろに下がったかと思うと、その部分から外側へと向けて淡い光が広がっていく。
 光が通った後には黒い布地が現われ、マントで全身を覆ったMS族の姿がそこに現われた。空中に現われた裂け目は、そのマントがムウの剣で切り裂かれた部分だ。

 

「気配は断っていたつもりでしたが、流石はムウ王子。あなたにとっては隠れているうちに入りませんか」
「勘の良さだけが取り柄なんでね。お前さんも寝返った疑いがあった以上、警戒を怠るわけにはいかなんだよ、ブリッツ!」

 

 MS族が、姿を隠すための魔力を失ったマントを脱ぎ捨てる。その下から現われたのは、ラクロアから行方不明になったとされていた隠密剣士ブリッツであった。

 

「なるほど。自らに暗殺者を差し向けられる可能性を考え、あえてこちらからも目が届く位置に居たわけですか……」
「どうせ暗殺者に怯えるんなら、解決は早い方がいいと思ったんでね。特にお前は俺以外じゃ対処は不可能に近いだろうからな。ここでなんとかさせてもらうぜ!」

 

 ムウは再び剣で斬りかかる。が、ブリッツは大胆にも見張り塔の縁から外へと飛び出した。

 

「隠れるだけが僕の技じゃありませんよ!」

 

 ブリッツは垂直に聳え立つ塔の外壁に手を当てながら、まるで坂道を滑り降りるかのように下っていった。その最中、ムウめがけて何か玉を投げつける。

 

「ちぃッ!!」

 

 慌てて階段を下りる。頭上の出口から閃光と、煙が漏れ出してくる。
 だが、大きな音はしなかった。

 

「爆弾じゃないのか!?」

 

 慌てて引き返し、見張り台へと出る。辺りは煙が充満して何も見えなかったが、遠くから鬨の声が響いてきた。
 煙が薄れてきた所でザフト帝国の軍の方を見ると、たしかに動き出していた。
 ブリッツが成功しようと失敗しようと、攻撃を開始する手はずになっていて、今の光と煙が合図になっていたわけだ。
 そのブリッツ自身は既にどこかへと隠れてしまっている。暗殺に失敗しようとも、その存在はこれからの戦いで十分なプレッシャーとなる。
 だが、それ以上に、まずはラクロア城へ迫る軍勢を優先させねばならない。

 

「敵の軍が動いたぞぉーッ!!」

 

 叫びながら、激しく鐘を打ち鳴らす。
 鐘楼で突如起こった閃光と煙に驚いて注目していたラクロア上の人々は、急ぎザフトの軍へと注意を戻し、迎撃の準備のために動き出した。
 ラクロア城での攻防戦が、ここに開始された。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 進軍するザフトの軍の後方より、飛行能力を持つモンスターが飛び上がった。
 地上を進軍する部隊の遥か頭上を超え、先行して城壁に取りつかんとする。

 

「来るぞーッ! 弓兵隊、術士隊、放て!」

 

 号令の元、ラクロアの兵士達は城壁の上から弓矢や魔法を放ち、これを迎撃する。
 矢を受け地に落ちる者もいたが、矢傷をものともせずに進む、素早い動きでかわす、ブレスを吐いて吹き散らすなど、進行を止められらない者も多くいた。

 

「う、うわぁ!」

 

 何匹かが城壁に取り付き、前に出ていた弓兵に襲いかかり、槍を持っていた兵が慌てて接近戦に入る。
 城壁の上はすぐに混戦へと陥った。城壁を超え、城への直接攻撃を試みるモンスターもいる。
 ムウが城内を駆け抜け中庭へ出ると、そんなモンスターであるハーピーディンがちょうど目の前に現れた。

 

「ちぃッ!!」

 

 一刀の元にディンを斬って捨てる。頭上を仰ぎ見ると、同じようなモンスターがまだ何匹かいる。

 

「調子の乗るなよ!」

 

 剣を足元に突き立て、籠手の中に隠してあった投擲用の短剣を取り出す。左右それぞれの手で二本ずつ、一斉に投げつけた。
 短剣はそれぞれバラバラに、あらぬ方向に飛んだかに見えた。だが、ムウが両手を振るように動かすと、まるで生き物のようにその軌道を変えて四本全てが一匹のアジャイーグルに様々な方向から突き刺さった。

 

「一丁上がりだぜ」

 

 ムウが動かしていた手を真下に振り下ろすと、アジャイーグルは引きずり落とされるように地面に落ちた。
 更に腕を回るように動かすと、短剣は独りでにモンスターの体から抜け、ムウの手元へと戻った。
 短剣とムウの籠手は頑丈な金属でできた糸によって繋がれている。この糸を巧みに操り、短剣を自由自在に動かす技術を彼はマスターしていた。四本も同時に操るのは才能なくばできないと言われる最高ランクの技だ。
 離れているものはこの短剣で落とし、近づいて来るものは素早く剣を拾って斬る。攻撃の届く範囲にいた数匹のモンスターをたちまちに全滅させた。

 

「飛行型モンスターはもう槍や剣を持つ奴だけで相手しろ! 飛び道具は上じゃなくて下を狙え! ザフトの地上部隊がもう近くまで来ている筈だ!」

 

 城壁の方へと走りながら叫ぶ。声の届いた所から各部隊の間で伝播され、同様の命令を発する声があちこちで響いた。
 命令を聞いた者が地上の方へと目を移すと、確かに地上のザフト軍は既に城下町の大通りに入っており、城めがけてまっしぐらに進んでいた。
 弓兵隊は地上の方へと弓を向け直し、射程内に入った所で矢を放つ。高い所にいる分相手より遠くまで攻撃可能だ。
 ザフトは盾を持った者を前面に出し、凌ぎながら接近を続ける。そして、此方からも矢が届く位置に入るとザフト側の弓兵が撃ち返しを始める。
 そうやって距離が縮んできた所で、今度は魔法の応酬も開始される。目の前まで迫られた所でラクロア側からは投石攻撃まで行わるようになった。
 攻撃が飛び交う中で城壁にまで達したザフトの兵士たちは攻城を開始する。
 城門を破ろうとする者。城壁の方を崩して穴をあけようとする者。城壁を直接登って行く者など、様々だ。
 飛び道具の狙いがほぼ地上に向けられた所で、その時を待っていた飛行部隊の後続が動き始めた。背に兵士を乗せたモンスター・グゥルフォンの部隊だ。
 グゥルフォンから兵士達が城壁の内側へと降り立つ。城全体で混乱が更に増していく。

 

「くそ、この状況で一番守るべきなのは……」

 

 ムウは思考をめぐらせる。こういう時最優先すべきは王であり、城の奥への侵入までは許す事は出来ない。だが、今その立場にいるのは自分で、外で戦っている。

 

「ここにいたか、ラクロアのムウ王子! 覚悟!!」

 

 そう叫びながらザフトの騎士シグーがグゥルフォンの背から飛び降りてきた。
 ムウは足を止め、ふと思った事を問いかけた。

 

「俺を探してたのか? ブリッツを暗殺者として差し向けてるのに、俺が死んでないって事は分かってたのか?」

 

 空中にいたなら、ブリッツから暗殺失敗の情報が伝えられたとは考えにくい。

 

「放たれた煙幕が暗殺失敗を意味する色だった。それだけの事だ!」
「あ、なるほどね。あの手の道具を二種類用意してたとは周到な事で……」

 

 聞いてみれば実に単純な事だった。

 

「敵としてその強さは重々承知してはいるが、元ラクロアのガンダムなんぞに頼るつもりは元よりない。俺がこの手で仕留めてやる!」

 

 息を巻くシグー。

 

「王子をお守りしろ!!」

 

 両者の様子に気づいた何人かの兵士がこちらに駆け寄って来る。が、シグーと同じように飛び降りてきた兵士ジン達によって行く手を阻まれた。

 

「これで一対一だな!」

 

 振り下ろされた剣をムウは身を捻って避ける。シグーはそのまま立て続けに突きを連続で放つ。ムウはしばらくかわし続けたものの、流石に避けきれなくなり剣で弾く。
 反撃しようかと思ったが、剣を弾かれた地点で向こうは一度距離をとった。

 

「流石、ラクロアでも一、二を争う腕前と言われるだけの事はある……」
「お前さんも、結構やるじゃないか」

 

 二人とも、どこか余裕のある態度で言い合う。

 

「だが、貴様がこのラクロアで最も強いのだとしたら、拍子抜けだな」
「何だと?」

 

 聞き捨てならない言葉だった。

 

「この俺と天帝陛下の強さには天と地ほどの差がある。陛下に太刀打ちできるものはこのラクロアにはいないだろう」
「言ってくれるねぇ……今は無理でも、こうやって戦いを重ねていれば、いつか追いつくかも知れないぜ?」
「それも無理だな。貴様は、ここで死ぬからだ!」

 

 再び剣を打ち合う。
 袈裟掛けの一撃をムウは受け流すが、シグーは剣を翻して払いに移行する。一歩下がった所で、伸びるような突きが繰り出される。もう一歩下がってこれも避ける。
 敵の反撃を許さない連続攻撃を得意とするようだ。

 

(だが、それ故に一撃一撃に後の事を考えないような本気さが無い……)

 

 先ほどの突きは思い切りよく踏み込めば、もう一歩で下がった所で避けられなかったはずだ。その場合はムウも別の防ぎ方を考えてはいただろうが。
 実力が伯仲する相手だと、隙を見せない事ばかり考えていては、相手に隙を作る事もなかなかできない。

 

(何か決め手になるものを持っている可能性があるな……)

 

 ムウは大きく下がると、左手で短剣を投げつけた。踏み込もうとしていたシグーは、接近をあきらめて盾でこれを弾く。
 左手を操作し、短剣を操る。地に落ちる前に向きを変え、再び襲いかかって来たこれをシグーは避ける。

 

「そういう仕掛けか!」

 

 そう言うと、宙で剣を振り回す。短剣とムウの籠手を結ぶ金属糸が絡め取られた。
 糸を介しての引き合いとなる。腕力では流石にMS族に敵わないのか、ムウは少しずつ相手側に引き寄せられる。
(けど、向こうが引っ張るのに使ってるのは自分の剣だ。引き寄せた所で剣が空いてる俺の方が有利だぞ……?)

 

 そう考えた時、シグーが盾の先端をこちらに向けた。盾の内側に、何かが見えた。

 

「……ッ!!」

 

 仕込みボウガンからムウめがけて矢が放たれた。引き合いで満足に動けない。ムウは剣で矢を打ち落としてみせる。
 だが、そうして態勢が変わった瞬間を見逃さず、シグーは引くのをやめて前へと出た。かかっていた力が抜け、ムウは完全に態勢を崩す。

 

「もらった!!」

 

 今こそ必勝の一撃を繰り出さんと踏み込んでくるシグー。

 

「くっそぉッ!」

 

 崩れた態勢のまま剣を滅茶苦茶に振るうが、さすがにそんなものを受けるほど攻撃に集中してはいないようで、悠々とかわされた。
 更に隙だらけとなったムウをトドメを刺さんとする。だが、シグーの足に突如鋭い痛みが走った。

 

「な、何!?」

 

 足にいつの間にかムウの短剣が突き刺さっていた。

 

「い、いつの間に放ったのだ!?」
「投げたら気付かれるだろうからな。こっそりと地面に落としておいたんだよ」

 

 後は糸を操ってその状態から相手に刺す。先の剣を滅茶苦茶に振り回したかのように見えたのは、糸の操作だったのだ。
 ムウが右手を引くと、短剣の部分から引っ張られシグーは転倒した。

 

「こんな姿勢でトドメってのも悪いが、今は後がないんでね!」

 

 ムウは剣を振り下ろした。

 
 

「た、隊長がやられた!」
「くそッ、一旦後退だ!」

 

 ラクロア兵と戦っていたジン達がその場から逃げ去った。
 ラクロア兵達は無理に追うような事はせず、ムウの元へ集まった。

 

「ご無事ですか、王子!」
「俺を誰だと思ってるんだよ? 自分の身はちゃんと自分で守れるさ」

 

 心配する兵士達に笑いかける。

 

(そう、俺は自分で自分を守ってりゃいい。となると次に優先して守んなきゃいけないのは……?)

 

 シグーと戦う前の思考を再び巡らせる。

 

「……城門に行くぞ! 門を内側から開けられたら終わりだ!」
「わ、分かりました!」

 

 兵士を引き連れ、城門の方へと走り出した。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「あ、あわわわわわ……」

 

 城門の開閉装置を守る兵士達は完全に及び腰になっていた。
 彼らへと迫るは、薄い赤色の鎧を身に纏い、両の腕より鋭い刃を伸ばすガンダム族の騎士――元ラクロアの騎士イージスであった。
 裏切ったと分かってはいても元々は仲間であり、そしてその強さはよく知っている相手だ。太刀打ちできる自信が無い。

 

「死にたくなくればそこを退くんだ」

 

 イージスはそう宣告する。
 思わずそうしたくはなるものの、さすがそんな事は出来るはずもなく兵士達は踏みとどまる。
 イージスが刃を閃かせる。たちまちの内に数名の兵士が倒れた。が――

 

(ちッ……私にまだ葛藤があるというのか……)

 

 できる限り致命傷を避けている自分がいる事にイージスは気付いていた。

 

(ラクロアなんて……遥かな過去の、自分達がやったわけじゃない勝利に酔いしれ、ジオン族を玩具のように扱っている奴らだろうに)

 

 母に対する父が特にそうだった。

 

(そのような事がもう二度と許されないようにするために!)

 

 決意を改め、開閉装置へと迫る。

 

「!? お前は……イージス!! 待て!」

 

 兵士達を伴いムウがこちらに向かって走って来る。

 

「王子か! こんな時に厄介な!」

 

 ムウに加え、あの数の兵士を相手にしては流石に勝てないだろう。
 と、ムウ達めがけて数本の短剣が飛んで来た。何人かは反応できずに刺さる。

 

「イージス、急いで下さい!」

 

 物陰からブリッツが現れる。
 彼が合図を飛ばすと、上空にいた何匹かのモンスターが降りてきた。門を開けるための時間稼ぎをするつもりだ。

 

「すまない、ブリッツ!」

 

 イージスは改めて開閉装置と、その前に立つ兵士達の方を向くが、そのすぐ背後に何かが落ちた。
 振り返って見やると、ハーピーディンが倒れ伏していた。
 空から落ちてきたはずだが、矢は受けておらず、剣で斬りつけられたと思しき傷がついている。
 一体何者の仕業か、と思った時――

 
 

「待った待った待ったあぁぁぁッ!!」

 
 

 上空から声と共に何者かがが降りて来た。
 イージスが上向く前に、その声の主はディンを挟んで向こう側に降り立つ。白と赤、2色の軽鎧を身に纏い、手には美しい反りを持つ刀を持っている。

 

「某(それがし)は武芸者レッドアストレイ! 義によってラクロアに助太刀いたすッ!!」

 

 遠き東の国に伝わるとされるサムライソードを手に、堂々と名乗りを上げる。

 

「義、だと? お前は一体……それに何処から現れたんだ?」

 

 しばし離れていたとはいえ、ラクロアにこのMS族が関わっていた事は無かったはずだ。

 

「共に武者修行をしていた仲間の付き添いでやって来たのでござる。ほれ、あそこに」

 

 レッドアストレイはそう答えながら、上を指す。その先を追って上を向くと、一匹の飛行型モンスターとその背に跨るMS族が、他のモンスターに襲いかかっているのが見えた。

 

「あれは……ファトゥムグリフ! と言う事は、まさか!?」

 

 上空での戦いはもう充分だと判断したのか、ファトゥムグリフの背に乗っていたMS族が飛び降りて来た。
 地面に着地したその剣士らしきMS族は、イージスとよく似ていた。

 

飛獣剣士ジャスティス、修行の旅よりただ今帰還しました」

 

 状況に周囲が呆然とする中、その剣士――ジャスティスはムウ王子に向かって礼をとった。

 

「ジャスティス、ジオン族との戦争を拒否して国を出奔したお前さんがどうしてまた……」
「修行先で故郷の危急の噂を聞きつけたら、流石に居ても立ってもいられなくなったもので。それに――」

 

 言いながら、イージスの方へと振り返る。

 

「兄が大変な事をしでかしたって話も一緒に聞いたんで」

 

 彼とイージスは、腹違いの兄弟であった。

 

「俺が止めなきゃならないでしょう!」

 

 二本の剣を引き抜き、柄同士を組み合わせて一本の両刃剣をして構える。

 

「修行の成果をこんな形で試す事にあるとは思わなかったけどな……行くぞ、兄上!」
「……例えお前が相手でも、もはや止まる事は出来ない! 来い!」

 
 

 ラクロアの存亡をかけた戦いが激しさを増していく中、兄弟が正面から対峙した。

 
 

 <続く>

 
 

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