SEED戦記_外伝1

Last-modified: 2009-06-09 (火) 13:25:18

※注意書き:人が一切の情け容赦なく死にますんで苦手な方はスルー推奨で

 

「ふ……使って見せるさ。あの男にできて、私にできないはずがない。
 ラウ・ル・クルーゼだ!プロヴィデンス、出るぞ!!」
ヤキン・ドゥーエから、ザフトの新型機が勢いよく飛び出した。
“神意”を飾るそれは、世界を滅びに導く使者だったのは、この時誰も気付かなかった。

 

C.E.71 第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦

 

「競い、妬み、憎んで、その身を喰い合う!!」
「貴様の理屈だ!思い通りになど!!」
ストライクとプロヴィデンスが激しい攻防を行っていた。
ビームがあらゆる方位から飛んでくる。常人には反応すらできない。
初期型のドラグーンが開発されて間もない。その兵器の存在はあまり知られていない。
元の機体はガンバレル。連合の兵器で有線式のインターフェイスによって操るそれは、非常に操縦が困難だ。
コートニー・ヒエロニムスによって無線式が開発された兵器、それがドラグーンだ。
ただ、まだ初期段階で、これに対するセンサーシステムが全くなく、対処するには適合者しかいない。
閑話休題。
ドラグーンが全方位から火を吹く。常人には有り得ない反射神経を見せてムウは回避した。
接近してビームサーベルで斬りかかるがあっさり避けられる。
「既に遅いさムウ!私は結果だよ!だから知る!!」
ラウが勝ち誇る声で叫んだ。同時にドラグーンが背後のパックから射出された。
「自ら育てた闇に食われて、人は滅ぶとなァ!!」
ドラグーンが雨のようにビームを打ち出した。
超絶的な反応を見せたムウにも回避しきれず、一撃当たり、それに続くように足や腕がもぎ取られる。
「ク、クルーゼェ……!!」
「これで終わりだな!ムウ・ラ・フラガ!!」
接近してきたプロヴィデンスがビーム刃を煌めかせ、ストライクのコクピットを貫いた。
確かな手応えを確信したラウは口元を歪ませ、そのまま上に斬り裂いた。
ストライクは爆散した。パイロットは即死だ。ハッキリわかった。
永遠の宿敵は討った。だがまだだ。まだ自分の仕事は終わりではない。
ふと激戦の宙域を見やる。ザフトが連合に足止めされ、核を喰いとめているのはほとんど第三勢力だ。
(全く、邪魔をしてくれる……!)
ラウは密かに苛立った。
次の獲物はあれらだ。特に大火力のミーティアを持つジャスティス。
あれが堕ちれば核は食い止められないだろう。火力が足りなくなるからだ。
(フン。無駄なあがきを……)
ラウはプロヴィデンスを駆り、宙域を目指した。

 

(くそ……手が足りない……!!)
アスランは焦っていた。他の仲間も同様だろう。
ジェネシスの二射目によって連合の大半の戦力は削られたものの、こうして見ると全く減っているようには見えない。
しかもジェネシスの威力を見せられた後だ、連合も必死だろう。
核ミサイルの数が、前より確実に多い。
ザフトは連合機との交戦で手が離せない。自分達でどうにかするしかない。
――が
こうして見ると、ジャスティスのミーティアの圧倒的火力のみが頼りだ。
核ミサイルは速度は恐ろしく速いので、並のパイロットでは撃ち落とすのも難しい。
自分以外では、カガリかディアッカがせいぜい、と言ったところか。
その上、連合の新型とも相手しなければならないのだ。もはやアスランもギリギリの状態なのだ。
(だが……ここで止められなければまた……!!)
ここで諦めればかつてアスランの母を奪った“血のバレンタイン”、あれの再来だ。
それだけは避けねばならない。
――こんな時に、■■がいてくれれば……!!……?
アスランは奇妙な感覚に戸惑った。
こんな時にいてくれる、■■とは誰だ?誰のことを言っている?
姿が思い起こされる。細い体躯に、亜麻色の髪、アメジストの瞳、優しそうな顔、とても戦いをするような……
しかしそれがアスランには誰か分からなかった。だが、そいつの存在が今、この状況を打破する唯一の手だと思えた。
だが、そもそもこいつは誰だ?何故名も知らない奴の事を俺は欲している?
アスランは、ミーティアに掠ったビームに、現実に戻された。
「な……どこからだ!?」
ビームの放たれた方向を見やったが、そこにMSは何もいない。
そんな馬鹿な!確かに被弾した……!なのに何故砲撃してきた機体がいない!?
アスランの疑問もそこまでだった。
四方八方からビームが飛来し、ミーティアを呑み込む。
ほとんど回避らしい回避もできずに、アスランはたまらずミーティアをパージした。直後、ミーティアは爆散した。
周囲を見やってみても、どこにもジャスティスに攻撃を加えた機体が見当たらない。
しかし、今のは一機では絶対に不可能な攻撃だ。
アスランは知らなかった。ドラグーン・システムの事を。
まだ初期段階のそれは、多くの兵が知らない。アスランもその一人だ。
故に、対処法など分かるわけがない。
ミーティアという最後の防壁が崩れた今、核ミサイルは我先にプラントに向けて飛んで行く。
「しま―――」
アスランの声は、途中で途切れた。いや、発せられなかったのだ。
眩い光が、プラントに直撃したのだ。光に包まれたプラントは亀裂を生み、空気が漏れ、人々が真空に吐き出された。
それは、間違いなくあの“血のバレンタイン”の復活だった。
その圧倒的な死の光に、全軍がストップした。
だが、それだけでは終わらなかった。まだ核ミサイルは腐るほどある。
アスランも必死で食い止めるが、如何せん火力が足りない。
「クソォォォォォォォォ!!」
食い止められない。防ぎきれない。絶望とはまさにこういうことだ。
次々に放たれる光は、漆黒の宇宙を照らし続けた。プラントという蝋燭の元に。

 

プラント―――
「お姉ちゃ~ん。待ってよ~」
「ちょっとメイリン、早く着替えなさいよ」
赤い頭髪に、頭のてっぺんにちょこんと髪の毛が飛び出している勝気な少女、ルナマリアはわずかに苛立った声をだす。
未だに準備を終わらせていない妹、メイリンを待っているのだ。
姉と同じ赤い髪を二つに分けて、ツインテールが印象的な少女、メイリンがようやく出てきた。
「ゴメンゴメンお姉ちゃん。お待たせ~」
「お待たせ~、じゃないわよ。何十分待たせんのよアンタは」
「だって~バッグどれにしようか迷っていたんだもの~」
「そんなの昨日に決めておきなさいよ」
「そんな事言われても~」
今日はショッピングの約束がある日で、その為に友人と待ち合わせしていたのだが、妹の準備が遅れてもうギリギリだ。
走っていけば間に合うが、ショッピングの日に走りながら行くってどーよ?とか思うルナマリアだった。
「はいはい。じゃあ財布持った?ハンカチは?」
「もう、私だってそこまでじゃない……あ」
「“あ”……何?」
ルナマリアは不自然なまでにニッコリした。メイリンが曖昧に顔を反らす。
「机に財布……置いてきちゃった……」
妹のドジっぷりに大いにため息をつき、
「……さっさと取りに行きなさい。待っててあげるから」
「うぅ……ゴメンなさい」
ルナマリアの冷めた目にメイリンは渋々家の中に戻っていった。
――外では、ていうかすぐそこでは戦争があってるのに、ここはこんなに平和よねぇ……
ルナマリアには戦争中だという自覚がほとんどなかった。TVで映るどっか遠い出来事のような認識しかない。
すぐに戻ってきたメイリンは、申し訳なさそうに姉を見上げた。
ルナマリアはそんなドジな妹を一瞥し、冷めた声で聞いた。
「……で?もう忘れ物はないわよね?」
「……ハイ」
「じゃ、行くわよ」
家の扉を開けたルナマリアは、突然の地響きに思わずよろめいた。メイリンも思わずつんのめっている。
「な、何!?何の衝撃!?」
一瞬地震かと思ったが、ここはプラント、宇宙のコロニーに地震など起こるわけがない。
周りを見渡すルナマリアは、その異常な光景に思わず息を呑んだ。
「地面が……割れてる!?」
まるでパズルのピースのように次々と外れていくその人口の大地から真空の入り口をいくつも作り出した。
そこにいた人たちは――ルナマリア達も例外ではなく――その裂け口に吸い込まれていった。
いきなり真空の闇に食われた人間はなす術もなくその命を散らした。
ルナマリアも、メイリンも、何が起こったか分からぬままその短い人生を潰えてしまった。
声を上げる間もない、一瞬の出来事だった。そしてその一瞬は永遠となった。

 

「まだですよォ……!まだ宇宙の化け物は全滅していません!まだ追撃しなさい!!」
ムルタ・アズラエルは喝采にも似た声を上げた。
最初の一撃に、身の打ち震えるような歓喜に襲われたが、続く直撃にはますますその興奮が増す。
あの光に飲み込まれていく宇宙の化け物共を思うと、これ以上の快感はない。
その痛快感を感じているアズラエルに、ドミニオンの艦長、ナタル・バジルールが口を挟んだ。
「アズラエル理事!これ以上の犠牲は無意味です!」
ナタルは進言してきたが、アズラエルは鼻で笑って切り捨てる。
「この期に及んで、何を寝ぼけたことを言っているんですかァ?今、この混乱の元凶を絶っているのではないですか。
 奴らは根絶やしにしなければ、またこんな戦争が起こるではないですか?」
質問のようだが、それは確認だった。
だが、ナタルはしかしと反論する。
「戦争にも、ルールがあります!今我らがやっていることはただの虐殺……それも民間人に対してです!!
 我々軍人は、民間人を殺し尽す為の存在ではないはずです!」
アズラエルはやれやれといったように肩を解した。そして天井に向けて拳銃を撃った。
絶句するクルーに、粘と付くような口調でハッキリと言い放つ。
「民間人?どこにいるんです?あそこにいるのは死なねばならない化け物、そしてあれはそいつ等が巣食う巣。
 害虫駆除と同じですよ。僕だってね、民間人を虐殺するのは反対ですヨ?
 あそこにいるのは民間人ではない、いや、それどころか人間ですらない。世界に混乱を生み出す化け物なんですヨ?」
今度こそナタルは完全に言葉を失い、アズラエルを凝視した。
ブルーコスモスとは、そこまでイってしまっている程の狂信者達の集まりなのか!?
だが、コーディネイターを人間扱いしていないからこそ、こんな暴挙が為せるのだ。
そうでなければ、いや良識を持った人間ならこんな馬鹿な真似などできるわけがない!!
そんなナタルの思考を知ってか知らずか、アズラエルは気持ち良さそうな声を出す。
「さァ……後二十と言ったところですか。皆さんも頑張ってくださいネ」
ナタルはもう不快感しか感じられず、コンソールにおく拳を強く握りしめた。
途端、国際チャンネルが開かれ、見たことのない仮面の男が映った。
『ありがとう、アズラエル。君はいい道化だったよ』
そのすぐ後、何かの発射光がブリッジを照らす熱量を感じられた。
ドミニオンのクルーは誰一人として、それに逃れることはできなかった。

 

ドミニオンを容易く撃沈させたラウは、せせら笑った。
もう、あの男には用はない。ここまで無自覚に踊ってくれた見事なまでの駒だった。
あの男がいなくとも、勝手に連合はプラントを攻撃する。あとはジェネシスだ。
「……おや?」
白い戦艦、“足付き”がいた。ラウはそちらに興味を移した。
因縁の艦だ。獲物を取り逃がしたことのなかった自分から初めて逃げ切れた獲物だった。
――ならば、今ここでその因縁を断ち切らせてもらおう!!
ラウは薄ら笑いを浮かべた。期待をそちらに向かわせた。

 

「MS、接近!!」
「!?対MS戦闘!」
「無理です!今の状態では……!」
ムウを失った悲しみに暮れるマリューは、ミリアリアの報告に再び顔を引き締めた。
ドミニオンとの激戦で、火器のほとんどが使用不能。MSに対抗するのは難しい。
『何!?』
『友軍機!?あんな機体……』
ディアッカとイザークも顔をしかめた。
ザフト機には間違いないが、見たことのないMSだ。知らないうちに開発されたのか?
多分そうだろう。恐らくジャスティスと同系統の機体だ。頭部の形で判断できた。
『クソ!こんな所でェ!!』
ディアッカは即座に超高インパルス砲狙撃ライフルを撃った。白銀のMSは悠々とかわす。
それと同時に白銀の機体が何かを背中から射出した。
『何ィ!?』
ミサイルポッドを開いて応戦するバスターが、何もない空間からの砲撃を食らい、被弾する。
『ディアッカ!!』
デュエルが駆け寄る。しかし白銀の機体は攻撃の手を緩めない。
デュエルにも砲撃が次々と直撃した。全く反応することもできなかった。
ライフルを乱射するが、白銀の機体はただかわすだけだった。
アークエンジェルのクルーには、なにが何だか分からなかった。
――どういうことだ!?奴は何もしていない。それなのに……!?
二機が忽ち爆散し、白銀の機体がこちらに向いた。クルーは皆、恐怖の表情になった。
アークエンジェルの砲撃を物ともせず、白銀の機体は肉迫し、ブリッジに銃口を向けた。
時間が永遠に止まった。
クルーは例外なく、放たれた光に蒸発した。

 

ヤキン・ドゥーエ内部では――
「おのれェ!!ナチュラル共ォ!!」
パトリック・ザラは激しく憤慨した。
次々と堕ちてゆく愛すべき故郷、プラント。それがナチュラルの汚らわしい手によって。
中にいる人間は全員血走った眼をしていた。目の前の惨劇に血が煮えくり返っていたのだ。
「目標、地球!!首都、ワシントン!!」
パトリックは怒りと憎しみに狂った声を震わせた。誰も反論しなかった。
――貴様らが奪うというのなら、こちらも奪う尽くすのみだ!!
「あと何分だ!!」
「残り三分です!!」
勢いよく返すオペレーターの返答にもにこりともせず、パトリックはそばのキーボードを荒々しく叩きだした。
自爆装置の解放だった。
元より自分だけのうのうと生きようとは思わない。多くの同胞、そして天に召された我が妻の元に逝く。
――その前に、あの傲慢なるナチュラル共を全滅させなければ気が済まない!!
もはや今のパトリックには、ナチュラルを全て全滅させることしか頭になかった。

 

『ザフト軍!ジェネシスを停止させなさい!!』
ラクスの必死の呼びかけにも、ザフトは答えようとはしない。
ザフトは既に、ナチュラルへの憎しみに取りつかされていた。もはやどうしようもない。
アスランは歯軋りした。
これはもう戦争ではない。殲滅戦だ。しかも全人類を巻き込んだ非常に規模の大きな。
だが、地球まで滅ぼさせるわけには……!!
「ヤキンに突入して、コントロールを潰す!!時間がない!行くぞ!」
『うん!!』
勢いよく頷くカガリを一瞥し、アスランはヤキンに向けてジャスティスを走らせた。
ついさっき、アークエンジェルが堕ちた、と聞いた時には絶望したが、すぐに頭から弾きだした。
今は優先させることがある。
『アスラン!カガリさん!!』
ラクスが心配そうな声を上げる。
『大丈夫!まかせろ!!』
カガリが笑い、通信を切った。

 

赤と黒の連合機がこちらに接近してきた。
そのMSは、もはや照準すらしていないらしく、めちゃくちゃに砲口から吐き出されている。
(確か、アズラエルの生体CPUが乗っていたMSだったな)
コーディネイターを凌駕する戦闘能力を持つそれは、確か一定時間内に薬物を摂取しなければ身体機能を維持できない。
ためしに、こちらから撃ってみると全く避けず、かするが全く動きを変えない。
恐らくあのパイロットはすでに壊れているのだろう。
哀れなものだ。
そう思いながら、ラウは銃口をそのMSのコクピットの向けて、発砲した。
ビームが貫かれ、そのMSが爆散した。その快感にしばらく愉悦を身に委ねた。
「……ん?」
ラウは偶然二つの紅い機体が目に入った。
ヤキン・ドゥーエに突入するつもりだろうか。確かにもはやそれしかジェネシスを止める方法はない。
ラウは思わず舌打ちした。
「チィ……!無駄な足掻きを……!!」
ラウはプロヴィデンスを奔らせる。野望の障害に向けて。
――邪魔をするな。人類の終着点を!

 

オレンジ色のゲイツを撃ち落としたアスランは、突然爆散した隣のM1に目が入った。
何かと思ったら、白銀の機体が立ちはだかった。
相手から通信が入った。そしてアスランを驚愕させた。
『ジャスティス……やはりパイロットはアスランか』
「な……!!クルーゼ隊長!?」
何故、こんな所にかつての上官が!?
いや、存在そのものはおかしくない。ザフトならこの要塞を防衛していてもおかしいことではないからだ。
問題は――
(何故、この人はこんなにも冷静なんだ!?)
プラントの惨劇を、この人も見たはずだ。なのになぜいつも通りに振舞っていられる!?
『君には、ここで消えてもらおう!!』
白銀の機体は何かを背中から射出した。それは宇宙空間を自由に飛び回っていた。
「これは……!?」
次々と堕ちるM1。その圧倒的な攻撃に反応できず、アスランも次第に被弾してゆく。
これは、さっきの攻撃だ。アスランは確信した。では、さっきのはこの人が……!?
ミーティアを破壊すれば、火力は低下してプラントへの核への防御は低下する。それを知った上で……!?
『アスラン!!』
ストライクルージュにタックルを食らい、ジャスティスは吹き飛んだ。
アスランはその光景を呆然と見た。ストライクルージュが白銀の機体のビーム刃をまともに食らっていた。
『ア……スラ……』
ストライクルージュは爆散した。アスランは思わず叫んだ。
「カガリ!!」
すると、ラウが揶揄するかのようにアスランをあざ笑う。
『戦場で動きを止めるとは……愚かさが極まったなアスラン』
「何だって……!?」
かつての上官だということも忘れ、アスランはラウを睨みつけた。
『フン、イザークもディアッカも、君と同じくらい愚かだった』
「な……!?二人は!?」
『殺した』
とてもかつての部下に対する態度とは思えないほどあっけらかんと答えたラウに、アスランは怒りが増すのを感じた。
ラケルタ・アンビデクストラス・ハルバードを持ち、白銀の機体に躍りかかった。
ラウもビーム刃を放ち、立ち向かう。両者の鍔迫り合いが始まる。
『ほう……腕を上げたようではないか、アスラン』
その動きに、ラウは感嘆の声を上げた。かつての上官としての語調そのままだった。
「何を……!?」
『だが、その程度では私には勝てないがな!』
白銀の機体がジャスティスを蹴り飛ばした。
「アゥ……!」
アスランが呻く。そこで勝敗が決した。
四方八方から飛んでくるビームの豪雨。反応が遅れたアスランは最初は避けられたが、次第に被弾する。
凄まじい猛射にアスランは反応が追い付かず、両腕、両足、メインカメラがもぎとられた。
ラウが肉迫してくるのみの気付かず、ビーム刃に貫かれて初めてアスランはそのことに気付いた。
アスランは、改めてかつての上官の技量を見せつけられて愕然とした。
あれだけのものを動かしながら、接近戦を挑んでくるなど、常識では考えられない。
これを行うには超絶的な技能が必要だ。
ジャスティスが爆散し、アスランの身体は魂までも蒸発した。
最後に見たものは、ヤキン・ドゥーエの自爆する所と、ジェネシスが赤い光を蒼い惑星にむけて放出する所だった。

 

オーブ――
「では、プラント行きのチケットだ。今は情勢が混乱しているからシャトルが出せないが我慢してくれ」
「はい、ありがとうございます。トダカさん」
赤い瞳の少年は、トダカという軍人に一礼をした。
少年の名はシン・アスカ。オノゴロで家族を皆失ったのだ。
「しかし、君が良ければ私の養子になることもいいのだがね」
「いえ、もう決めたことですから」
シンはそっけなく答えた。
そのシンの言葉に、トダカは心配そうな顔を見せた。
トダカに言わせれば、まだ幼い子だ。ザフトにはいるなど……と考えたくなるものだ。
大人としては、子供にそんな危険な所に行かせたくはない、そんな時代にはなって欲しくない、そう思うのだ。
とは言っても、現に今の時代の流れはそうなっていってしまっているのだが……
しかしシンはそれ以上口を開かずに、外に出て行った。
外はもう薄暗かった。遠くの海では日が沈もうとしていた。
それでも、不安に駆られている人々の姿が目に映る。
シンはそれに対して、敢えて目を逸らした。そのまま遙か宇宙に浮かぶ砂時計がある方を見た。
この国にはもう何もない。家族も家もない。トダカには感謝しているが、いつまでもここに留まっているつもりはない。
力が欲しい。全てを守れる力が。
そのためにザフトに入る。MSのパイロットになる。そうシンは決めた。
戦争中で、地球からプラント行きのシャトルが全て運行拒否の状態だ。
プラントに行くのが待ち遠しかった。しかし戦争が終わらなければ行くことはできない。危険だからだ。
遙か彼方の空に浮かぶ巨大な砂時計がある方を見る。
「……ん?なんだあれ」
空から赤くて膨大な光がこちらに――正確には地球に向かってくるのを見た。
隕石か?しかしそこには光だけで、物理的なものがないような……
それが地上に突き刺さった時、瞬くうちにそれが持ってきた熱量が地球全土を焼き尽くした。
その全てを焼き尽くす熱量に、シンの身体は上半身が溶け出し、下半身も蒸発し、あっという間に血煙りと化した。
周りにいる人間も――いや地球そのものが同じくその熱量を味わっていたことにシンは気づく事はできなかった。
シンは、ナチュラルには故郷を焼かれ家族を失い、同胞のコーディネイターには身を焼き尽くされた。
彼には何が起こったのか、最期の瞬間まで分かることはなかった。

 

「ククク……ハハハハハ!!!」
盛大に笑い声を上げるその男は、ラウ・ル・クルーゼ。
プロヴィデンスも、そんな彼に同調するかのように肩を揺らした。
死の光が突き刺さった蒼い惑星は、その蒼と緑を次第に赤に変えて行った。
戦域にいた全ての兵たちは完全に浮足立っていた。当然のことではあるが。
「フッ」
後はその哀れな生き残り共を徹底的に葬り去る。云わばこれはアフターサービスだ。
目に映る者を殺し尽した。このMSと自分に敵うものなど、初めからいやしなかったのだ。
嘲笑いながら周囲を見渡したラウは、残っている唯一の大物――エターナルを見つけた。
そう言えば、あれも追撃命令が出ていたが、取り逃がしてしまった艦だ。戦意を完全に失っているようだ。
迷わずそちらに向かった。反撃など全くしなかった。忽ちブリッジに肉迫した。
そこでラウが見たものは、立ち上がって凛とした目付きでこちらを睨みつける桃色の長髪の少女の姿があった。
ラクス・クラインだった。
その、何物にも屈することのない瞳を見せつけられたラウは、感じたことのない不快感が込み上がった。
苛立ちながら舌打ちし、ビーム刃を抜き放ち、ブリッジ目掛けて突きを放った。
ラクスの――ブリッジクルーの身体が瞬時に蒸発する間にドラグーンでありったけの火力でエターナルを落とした。
エターナルの長い図体がへし折れ、火の中に包まれた。
屈服させられなかった。たかが小娘を。その事実がラウを苛ただせた。
――まぁいい。
ラウは即座にそのことを頭から締め出した。
あの蒼い惑星は血の濃霧によってもう見る影もないほど赤く染まり切っていた。
とてももう人類が住めそうにない全ての人類の故郷をラウは満足そうに眺めた。
「ヒトが数多待つ予言の日だ」
ぼそりと呟いた。
もうこの身体には用がない。この、人より早く老化し、寿命を終えるこの鬱陶しい身体を脱ぎ捨てる時だ。
プロヴィデンスの自爆コードの暗証番号を入力し、画面に自爆までの時間が表示される。
後、十五秒。これで我が人生も終わりだ。人生の総括を締めくくったその時――

 

――あなたは……!あなただけは……!!!
(――何だ?)
誰の声だ?
ラウは、類い希なる能力で何者か分からない声を聞いた。
それは、間違いなく自分に敵意を見せつけ、自分と対峙した。
それは、最強の敵だった。それは、自分と唯一互角に戦える最高の敵だった。
それは――――白く、蒼い翼を持った、自由という名の最強の存在だった。
ああ、戦いたい。そいつと本能のままに、思うさま、力の限り戦いたい。
自分の全ての力を引き出してくれる、最強の敵と、戦い尽くしたい。それまで死にたくない――!
ラウ・ル・クルーゼは、自爆の瞬間生まれて初めて、奇妙な形で生を欲した。
その瞬間、プロヴィデンスは自爆した。それは世界を滅びに導いた男を乗せて、宇宙に鮮やかな花を咲かした。
それは―――本当に、美しい花だった。

 

新暦0075年―――

 

「目が覚めたかね?」
ラウ・ル・クルーゼは目を覚ました。目の前には知らない男が立っていた。
――死後の世界か?にしてはリアルすぎるな。
「ここはどこだ?」
「ここは私のラボさ。それより君は何も覚えていないのかね?」
覚えていない、とかいう問題ではない。確かに自分は死んだのだ。
目の前の男は状況説明をしてくれた。
このラボの近くで倒れていたらしい。重傷だったが、どうにか助かったようだ。
この男の名前はジェイル・スカリエッティ。何かの科学者らしい。
ついでに魔法の事も説明してくれた。最初は半信半疑だったが、色々見せられ、納得した。
「君のデバイスは調整中だ」
「ほう?私にもデバイスがあるのかね?」
「本当に何も覚えていないのだな。君のポケットに入っていたのだが」
ラウは訝しげに自分を見た。
「聞くが、そのデバイスの名は?」
「本人が言うには、プロヴィデンス、というそうだ」
ラウは口元を吊り上げた。やはりそうか。
「それと、これからが本題だ。君の力、私に貸してくれないか?」
「何だと?」
「私は今、重大な野望がある。それを実現するためにはどうにも人手が欲しくてね」
「フム……」
ラウは考えた。もう自分は死んだ身だ。それに復讐も済んだ。すでにこの世に未練などない。
ならば、一応助けてくれた恩人のために動いてやるのも一興ではないだろうか。
残り少ない命を自由に使わせてもらおう。
それに、この男は何かと面白そうだ。
「いいだろう。私の力でよければ、な」
「感謝するよ」
スカリエッティは、薄く陰険に笑った。