それは……雨がぽつぽつ降り出した6月のある日の出来事でした。
マユはエルと一諸に下校していたのですが……
「にゃ~……にゃ~……」
マユ 「あれ?猫の鳴き声がする。どこから聞こえてきたのかな……?」
エル 「あ、あれじゃないのかな? あの大きいダンボール」
2人がそのダンボールを覗き込むと、子猫がひいふうみい……12匹。
身を寄せ合って震えていました。
エル 「か、かわいそう……!雨に濡れてみんなぐったりしてるよ?
マユちゃん、この子たちをうちに連れて帰ろうよ!」
マユ 「う、うん。そうだね!よいしょ……と。じゃあとりあえず、ここから1番近いしんちゃんちに行こう!」
エル 「うん!」
こうして……誰かに捨てられたと思われるその子猫たちは、マユちゃん達の手によってひとまず野原家に運ばれたのでした。
※ ※ ※
みさえ「ふ~ん……捨て猫、か。今でもあるのね、そういうの……」
しん 「おおう。ものすごい勢いでミルクを舐めてるゾ? よほどお腹がすいてたんだねぇ~」
シン 「まるで戦後の欠食児童みたいなヤツ等だなあ……でもまあ可愛い、かな?
どうせだから頭でも撫でてやろうか。いい子、いい……(ガリッ!)いてェ!」
猫しん「フーーーーーッ!」
シン 「な、なんだよコイツ!」
マユ 「ダメだよお兄ちゃん! しん君は妹のまゆちゃんに手を出されるとものすごく怒るんだから!」
シン 「な、なんだよその名前は!それ猫の名前なのか?!」
マユ 「そうだよ~♪エルちゃんと一諸に名前を考えたの!
この茶色いのがきら君でしょ、頭がちょっとウスィ~のがあすらん君、
女の子の中で一番元気いっぱいなかがりちゃん。
どことなく血筋がよさそうな、ちょっとぼんやりさんのらくすちゃん。それに……」
エル 「がんばり屋さんなお兄ちゃんのしん君、その妹のまゆちゃん、あと他にも……
るなまりあちゃん、すてらちゃん、れい君、いざーく君にめいりんちゃん、でぃあっか君……」
ルナ 「あの。なんでこの子たち私達と同じ名前なの?」
マユ 「だって、この子達見てたらイメージぴったりなんだもん。ねー♪」
エル 「ねー♪」
シン 「ま、まあ……名前くらい別にいいけどさ……しかし」
猫しん「シャーーーッ!」
シン 「いい加減、俺を威嚇すんのやめろよおい」
むさえ「で?これからこの子達、どうする気?マユちゃん達が飼うの?」
マユ 「う、う~ん……うちはその、フレイお姉ちゃんがどーぶつ嫌いでして……」
エル 「エルのとこは病院やってるから……出来れば野原さんちに置いてくれればいいかな~って思ったんだけど……」
みさえ「そんな事言われてもねぇ……うちのはもうシロがいるし……」
しん 「子猫たちにもみくちゃにされるシロが目に浮かぶゾ」
ルナ 「アスランは……無理に決まってるか。あんなに同居人がいるようじゃあねえ?」
シン 「そうだよな……他のみんなだって、多かれ少なかれ似たようなもんだろうしな。12匹全部はとても……
そうだ! いっそ1匹ずつとか2匹ずつみんなに引き取ってもらえば……」
猫しん「フーーーーッ!」
シン 「……わ、分かったよ。みんな一諸がいいってんだろ?だからいちいち威嚇すんなって」
みさえ「でもねえ。子猫12匹も引き取ってくれるような猫好きなんかこの辺には……」
しん 「いや……いるゾ!たった1人だけ!」
むさえ「ほうほう。しかしてその心は?」
しん 「ジブリのおじさん!」
一同 「おお~~~!」
※ ※ ※
そんな訳で……みんなでまたずれ荘のジブリールを訪ねてみたのですが。
ジブリール「じ、冗談じゃない!
ただでさえ『落ちぶれてすまん!』な私が、何でこんな大勢の子猫を引き取らなければならんのだッ」
マユ 「お願いします!部屋に置いてくれるだけでいいんです!餌代とかはマユ達でなんとかしますから!」
エル 「おねがいします……」
ジブリール「む……うう、む……」
シン 「俺たちからもお願いしますよー。ジブリールさん、猫好きなんでしょ?」
しん 「おら達も出来る限りおたすけするから~~」
ジブリール「だが、なあ。経済的な事情もさることながら、ジジがなんと言うか……」
ルナ 「じ、ジジ?」
むさえ 「あれ……部屋から黒猫が出てきたわよ?あれがジジ?」
ジブリール「ま、まあな。私がここに来る前からの付き合いでな。さて、どうなるか……」
しん 「?」
ジジ 「……にゃあ!」
きら 「に、にゃ……」
かがり 「に、にゃん!」
ジジ 「……にゃ?にゃんにゃ!」
猫しん 「にゃ!にゃー……にゃんにゃん!」
ジジ 「……」
猫しん 「……」
ルナ 「な、なんかジジとしん、見詰め合ったまま動かないんだけど」
ジブリール「静かに!……だまって見ているんだ」
ジジ 「…………にゃ(ぺろぺろ)」
猫しん 「うにゃ~~」
しん 「おお? ジジがしんのお顔をぺろぺろ舐めたゾ?」
ジブリール「おお……これは珍しい。ジジがこの子達を自分の子供……いやもしかしたら弟、妹かもしれんが……
ともかく一諸に暮らす者として、認めたようだ!」
マユ 「そ、それじゃあこの子達は……」
ジブリール「ああ。私とジジが責任をもって預かろう」
エル 「あ、ありがとうございます!おじさん、だーい好きですぅ!」
ジブリール「む、むうそのおじさんってのはやめてくれないか? 私はまだ31だ」
しん 「ねえねえ……ジブリのおじさん。なんであの黒猫のお名前が「ジジ」っていうの?」
ジブリール「私の飼い猫だからな。ジブリールの頭文字だけを取ってジジだ……それがどうかしたのか?」
ルナ 「い、いえ……てっきりあの猫、宅急便やってる魔女の相棒かと思いまして」
ジブリール「はあ?」
こうして……子猫達はジブリールとジジに引き取られました。
ちなみにこれ以降しんのすけやマユ達が、暇さえあれば猫のエサをお土産にジブリールの部屋を訪れるようになったため、ジブリールの部屋が急に賑やかになったとか。
※ ※ ※
そして……ジブリールが子猫を引き取ってから、その数日後。
しん 「お?カガリおねいさんだゾ。やっほ~!」
エル 「こんにちは!これからジブリールさんのとこへ行くんですか?」
カガリ 「む?ああ、しんのすけにエルか……
ああ。なんでもロード・ジブリールの部屋に、可愛い子猫がたくさん居るって聞いたんでな。
差し入れを持って見にきたんだ♪」
エル 「そうなんですか!私達もなんですよー。どうせだから一諸に行きませんか?」
カガリ 「別にかまわんさ。それじゃ行こうか?はやく猫が見たい♪」
しん 「ほっほ~い。出発おしんこ~~!」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
カガリ 「ここがジブリールの部屋か。考えてみれば会うのは初めてだな。さて……」
アスラン 「こ、こら!待て『きら』!」
ルナ 「痛!や、やめなさい『めいりん』!ツメでひっかかないでよう!」
シン 「ほら『まゆ』。お風呂入れてやるからこっちへ……だ、だから威嚇するなよ!
別に変なことしないって!」
しん 「……なんか騒がしいね?」
エル 「ジブリールさんの部屋でみんなでバタバタ、なにやってるのかな?」
キラ 「ア、アスラン!『かがり』がそっちに行った! 捕まえて……!」
アスラン 「ほ~らかがり、おとなしく俺のところへ……こ、こら柱にツメを立てるな!いててててッ!」
シン 「くッ……!なんて凶暴なヤツなんだ!さすがかがり、一筋縄じゃいかねえぜ!」
ジブリール「うむ。かがり、か……女の身でありながらまさかここまで凶暴なヤツだとは思わなかったぞ」
カガリ 「あ、あいつら~! 私のことを好き勝っ手言いやがって!(バタン!)こら!お前等……うわ?」
かがり 「にゃーーー!」
エル 「あ。カガリさんの顔にかがりが張り付いた。」
カガリ 「……(かがりを顔から剥がした)……こいつが……かがり?噂の子猫の一匹、か?」
キラ 「カガリ!あー良かった……その子、一番手のかかる子でさ。やっと大人しくなったみたい」
アスラン 「ふう……どういうことなんだろうな。名前が同じ人間が相手だと安心するのかな?」
カガリ 「……ん、よしよし。なあおまえ……あんまりみんなに迷惑かけるのはよせ。な?」
かがり 「………にゃ♪」
カガリ 「よし♪ 私とかがりとの約束、だぞ?」
かがり 「にゃ~~♪」
しん 「よ!ジブリのおじさん、元気してた~~?」
ジブリール「しんのすけか。正直……元気がいいやつばかりで苦戦している」
シン 「まったくだぜ。子猫の世話って結講、手のかかるもんなんだな……なあジジ?」
ジジ 「うにゃあ~」