ふしぎ魔女っ子マユーちゃんだゾ《誕生編》
「ひゃあ! ちこくちこく~~!」
私の名前はマユ。かすかべ小学校に通う元気な小学4年生!
今日はフレイお姉ちゃんが目覚ましかけわすれちゃって朝から大変。ベッドから飛び起きるなり急いで着替えて顔洗って、歯を磨いて、家飛び出して。現在トースト口にくわえながら学校に向かって全力疾走中!
えーん、あと15分以内に教室に着かないと遅刻になっちゃうよ~!
あのタバコ屋の角を曲がれば小学校まで一直線!走りつつ全力で角を曲がったマユの前に……
ブッブ~~~!
うひゃあ! 20tくらいはありそうな大型トラックがつっこんできた~!?
………これもしかして超ピンチ!?
「危ない! 届け……乙女の祈り!」
ドガゴォォォォンッッ!
なんか一瞬なにか光って凄い音がして、マユの意識は遠くに消えていった……
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「……み……君、大丈夫? ちょ……う、う~ん……加減まちがえたかしら……?」
「う、う~ん……? はッ!」
「あ、気がついた」
『死んでなくてよかったね、姉さん』
マユが目を開けると、そこには妙にひらひらの可愛い服を着たお姉さんと………何故かラッコがいた。
えーと、私いったいどうなったんだろ……?
「大丈夫? あなたはトラックに轢かれそうだったんだけど、私が魔法で助けたの!」
「助けたって……どうやってですか?」
「魔法ビームでトラック大爆発よ♪ 運転手は重傷で病院に担ぎ込まれたらしいけど、まあ自業自得だからしょうがないわよね!」
「…………はあ」
な、なんか危ない人だなあ……ここは関わりあいにならない方がいいのかも……
「怪我はだいじょうぶね? じゃあ私はこれで……うッ!」
『ね、姉さん?』
「あ……肩から血が!」
「そういえば…トラックが爆発したとき、飛んで来た破片が肩に当たったような、当たらなかったような……ううッ!」
「し、しっかりしてください! ラッコさん!救急車をはやく!」
『は、はい~!』
もう学校どころじゃなくなっちゃった。マユはお姉さんを病院に運ぶとそのまま治療が終わるまで付き添うことにしたの。
……しょうがないじゃない、ほっとけないわよ……応命の恩人なんだし、ね。
※ ※ ※
結局お姉さん……師走マリーさんは肩を脱臼して、ちょっと血が出た程度で済んだみたい。
それ以外たいした怪我なくて、マユもついでに見てもらったけど体に怪我とか異常はないって。
ふう、よかったよかった……
「…………はあ…」
「なんで暗ーい顔してるんですかマリーさん?」
「だってこのケガじゃしばらく魔女っ子として活躍できないもの……どうしよう、このままじゃ落第決定だわ……」
「あの、さっきから魔法とかなんとか何の話なんですか?」
「実はね……これほんとは秘密なんだけど、わたし魔法の国から人間界に来た魔女っ子なの」
秘密ならマユに話しちゃいけないんじゃあ……という野暮なつっこみはしないマユちゃんでありました。
「で、ね。魔法高校の進級試験に落ちて……落第を免れるためには人間界で良い行いをする必要があるの」
「ふ~ん、大変なんですね」
「……マユちゃんは魔法の国のこと聞いても驚かないのね」
「ま、まあマユも似たようなものですから」
「?」
『ところで姉さん。これからどうする?』
「あ、このラッコは弟のセインね。呪いでなぜかこんな姿になってるけど元は人間だから」
「そうなんですか?よろしくですセインさん」
『どうも。まあ、僕は魔女っ子にはかかせないマスコットキャラなだけなんでおかまいなく』
「む~ほんとにどうしようかなこれから………」
マリーさんはしばらく暗い顔で考えこんでいると、急になにか閃いたような顔をしてマユのほうをを見ました。
なんとなくマユはいやーな予感がしました……
「そうだ! マユちゃん、あなた魔女っ子になってみない?」
「……は?」
「そうよ! 要は良い行いをする魔女っ子が引き続き活躍してくれればそれでいいわけなんだし。私の傷が完治するまで誰かが代役してくれればいいのよ!」
な、なんか話が変な方向にこじれてキタ―――!?
「あ、あのでもその、ずるっこみたいなのはマユどうかと思うんですけど!」
「大丈夫よ~ほら、人間界でも替え玉受験とか替え玉追試とか普通にあるじゃない? あれと同じ要領よ♪」
「か、替え……で、でもそのマユ魔女っ子の替え玉なんて聞いたことないんですけど! それにマユに魔女っ子なんてできるかどうか……」
「お願い! ケガが完治するまで1ヶ月、いえ半月でもいいから!」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
………決局。マリーさんの必死の頼みを断りきれなくてマユは魔女っ子をやることになりました。
命の恩人?だし、無下に断るわけにもいかなくて……
これからどうなっちゃんだろう。お兄ちゃんやフレイお姉さんにはどう言えば……あ、正体秘密だから言えないのか。とほほ……
※ ※ ※
その日はお兄ちゃんとフレイお姉ちゃんに午前の学校サボったことを叱られました。
そして翌日。
マユは今度こそいつもどおりに遅刻せず小学校に。
午後のアンニュイな時間を、マユは授業を受けながら今後の人生について本気で悩むのでした……
(だいたいマユが魔女っ子なんてものになったって、事件が起きなければ良い行いもなにもできないじゃない……それとも自分で迷子の子犬でも探して飼い主を探したりすればいいのかしら? あ~憂鬱……)
「おい……あれはなんだ?」
「なんだろう……校庭でなにか大きなものが……あれって」
「え?」
コニ―ルちゃんとエルちゃんが窓の外を指差し、クラスのみんなが何か騒いでるのにふと我に帰りました。
釣られて教室の窓から校庭を見ると………なぜか大きいウナギが暴れていました。
あ、授業してるはずの体育の先生や下級生たちが巨大ウナギに巻きつかれてる。
「な、なにあれ……?」
「ウナギだと思うが。ただ、あんなでかいのは初めて見た」
「いや、それもただの鰻ではない」
「あ、戦車先生」
「日本最後の清流、四万十川で獲れた本物の天然ウナギだ」
「と、いうことは?」
「……中国産とはモノが違う!」
コニちゃんとエルちゃんが戦車先生ことエドモンド・デュクロ先生とコントしてる隙に、マユは教室を抜け出しました。
ラッコのセイン君と屋上に向かいます。
『さあマユちゃん! 魔女っ子マユーに変身だ!』
「ちょ……本気であんなのと戦わなきゃいけないの? そんなの出来るわけないよ~~!」
『大丈夫! マリー姉さんは巨大イカやタコに銅像とも戦って勝ってるんだ! その力の全てを一時譲渡された君なら楽勝さ!』
「う、うう~~~! こ、こうなったら………もうやけくそだあ~~~!」
《ミラクルミラクルくるくるりん! 純情変身マユー!》
その瞬間! マユは魔法の光に包まれて空に舞い上がったの!
魔法の力に呼応してマユのもとに集まってくる3色の光たち……
空から海から宇宙から!その正体はマユのバトルコスチューム!
変身ヒロインもののお約束とはいえ、一時的に裸になるのは恥ずかしいけど……そんなことも言ってられない!
「座標軸OK……軸あわせよし! へんっしん!」
ガシャァ!
まずドレスとドッキング!
ジャキン!ジャキンッ!
袖を通して!
ジャキィィィンッ!
靴と合体!
ピキィーン……!
最後に魔女っ子の証、青いリボンを頭につけて……完成ッ!
※ ※ ※
「うわあああああぁっ! ぬるぬるが! ぬるぬるがあああああっ!」
体育の先生や校庭で授業受けてた児童たちを苦しめる巨大ウナギ!
もはや絶対絶命かと思われたそのとき……!
「まてーい!」
「ッ!?」
「あッ!校舎の屋上に……」
「なんだ? あの妙ちくりんな格好をした女は」
なんかコニちゃんに酷いこと言われてるような気がするけど気にしない。
「私はふしぎ魔女っ子マユーちゃん!」
ドカ―――ン!
なぜか後ろで特撮っぽいピンクの爆発が起こったようだけど気にしない。
「もう恥ずかしいから一気にいくよ! 届け乙女の祈り……! たあ!」
魔法の玉を巨大ウナギにぶつける!
次の瞬間……巨大ウナギは突如現われた巨大などんぶりに閉じ込められ!
蓋があいたときには巨大な鰻丼になってました……
「乙女の大勝利! さらば~!」
マユーちゃんは逃げるように(というか実際逃げてるんだけど)そそくさと空に飛んでどこかにいっちゃいます。
そして……その様子を校庭の片隅で見ている不気味な影が……
「ふふ……あの子がマリーの代理魔女っ子? この程度であたふたするなんていかがなものかしら……?」
マリーさんがあらかじめかけておいてくれた魔法のおかげでマユーちゃんの正体がバレることはないそうです。
まあ変身するたびにいちいち転校するわけにはいかないし、そこだけは素直に感謝かな?
でも巨大ウナギがなぜ現われたのかは未だに謎……魔女っ子を引き受けたマユはこれからどうなっちゃうんだろう?
※ ※ ※
翌日。
新聞の片隅にのったマユーちゃんの記事を見たアスランに風間君は……
「『春日部にふしぎ魔女っ子現る!』? こ、これは……萌えるッ!」
「マリーちゃんの再来でしょうか!? ああ~萌え~~♪」